新型コロナウイルス感染症(COVID-1
9)
パンデミックと就業者の状態
柴田弘捷
The reality of working under the COVID-19 pandemic
安倍政権は、第二次安倍内閣発足時の施政方針演説 (2013年1月第183回国会)で「世界で一番企業が活躍し やすい国を目指す」とし、「聖域なき規制改革を進め」 「企業活動を妨げる障害を一つ一つ解消」するとして、 法人税減税、労働関連法制の規制緩和を行うとした。 そして、少子高齢化の進展・人口減少傾向の中での「労 働力不足」を背景に「希望を生み出す強い経済」、「夢を つむぐ子育て支援」、「安心につながる社会保障」、「新・ 三本の矢」(大胆な金融改革、機動的な財政政策、民間 投資を喚起する成長戦略)の実現を目的とする「一億総 活躍社会」の実現を主張した(2015.10.16)。 安倍政権の「一億総活躍社会」実現のためのキー政策 が「働き方改革」(働かせ方改革)である。そして「働 き方改革」の目玉の一つは「多様で柔軟な働き方の実 現」である。それは、就業形態の多様化を図ろうとする もので、「変形労働時間制」の拡大や「高度プロフェッ ショナル制度」の導入による就業時間管理の柔軟化、そ して雇用形態の多様化(非正規雇用の拡大)と、外国人 労働者、特に技能実習生、特定技能者、留学生アルバイ トの拡大、「雇用類似の働き方」(≒フリーランス)の拡 大等々で働き手を増加させようとするものである。ま た、「兼業・副業」も促進させようとしている(2019.6.2 閣議決定された「成長戦略実行計画」)。 しかし、降ってわいたように突然の COVID-19パンデ ミックにより、「働き方改革」は頓挫したが、皮肉にも コロナ不況のおかげで実現したものもある。それは、本 論では触れられなかったが、就業形態の多様化の一部で ある、兼業・副業、フリーランス、ギグワーカーの増加 である。また、まさに働き方の多様化の象徴のような 「テレワーク」の拡大である。しかし、テレワークの導 入・拡大は必ずしも企業、労働者が積極的に望んで生じ たものではなかった。コロナ感染対策として推奨された 「3密」を避けるための緊急避難的就業様式の一つで あった。もちろん、これを機に積極的に導入・拡大を図 ろうとする企業もあった。 しかし、本論では触れなかったが、フリーランスに近 い雇用者なしの自営業主は2月から6月に増加したがそ の後減少している。その背景には仕事を失った人が止む を得ずフリーランスになったという事情があったと思わ れる。しかし、コロナ禍の影響で、収入が減少した人が 65.1%(10万円以上減少16%)いるように(クラウドワー クス 4月6日、インターネット調査 n=1,400人)フリー ランスが豊かな生活を保障してくれているわけではな い。むしろ不安定性が増大している。またギグワーカー が100万人増加したとの報道もあるが(日経新聞電子版 20/6/26)、それもコロナ不況で、就業日数や就業時間の 減少で減少した収入を補填するためであって、その労働 実態は決して楽なものではない。 以上述べてきたような現象がコロナ不況下での一時的 なもので、安倍・菅政権が期待する自己責任による新し い働き方として定着するのかは疑問である。特にテレ ワークの拡大・定着には、コロナ感染症の拡大がいつ終 結するのかいまだ不分明である中で、今後注目する必要 がある。 注 *1 感染を避けるために他者と身体的に物理的距離を取る ことを意味する用語としてはソーシャル・ディスタンシン グ(social distancing)が正しいが、一般的に social distance =社会的距離が使われるようになっているので、社会学的 には全く意味が異なるが、本稿でも以下ではソーシャル ディスタンスを使用する。 *2 !東京商工リサーチ「新型コロナウイルスに関するア ンケート調査」(第1回∼第10回) *3 厚生労働省職業安定局「新型コロナウイルス感染症に 起因する雇用への影響に関する情報について」。本情報 は、都道府県労働局や公共職業安定所に寄せられた相談・ 報告等基にまとめたものであり、6月2日発表(5月29日 現在集計分)から毎週報告されている。ただし、非正規労 働者については5月25日からものである。なお、都道府県 労働局等が把握できた範囲のもので、「必ずしも網羅性の あるものではない」と注記されている。 *4 リクルートワークス研究所「新型コロナウイルス流行 下での就労者の生活・業務環境と心理・行動―4月調査と 7月調査の比較を中心に―」 *5 JILPT・連合総研共同研究「新型コロナウイルス感染 拡大の仕事や生活への影響に関する調査(一次集計)結 果」(2020.6.10) *6 野村総合研究所「コロナによる休業者の実態と今後の 移行に関する調査」。調査対象者:雇用先の雇用調整によ り、休業中の労働者。回答者数2,163人(正社員 男性618 人、女性618人、契約 社 員・派 遣 し 社 員 女 性309人、パ ー ト・アルバイト女性618人)。インターネットアンケート。 調査期間 :10.20―10.21 *7 JILPT「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活へ の影響等に関する調査」(4月、5月、8月の3回の連続 パ ネ ル 個 人 調 査)(連 合 総 研 と の 共 同 研 究)。調 査 日: 2020.5.1∼7、8.1∼7