― 40 ― 日をトーシャンでの勤務にあてている。奥地集落の住民が通勤可能な口の集落との二箇所居住 によって離村せず居住を続けられる仕組みがありうるのではないか。現在、山村内部における 通勤条件や諸施設への近接性の違いによる集落間の人口減少の差ひいては廃村化の危機が各地 で確認できる。それだけに緊急性を要する。 上記のいずれの場合も、長期的な時間軸でより好ましい居住となるには、教育・保健衛生の 水準、および技術・情報を用いた行動機会が保障された生活空間であるか否か、換言すれば、 生活を安全・安心に送れるか、知識・技術を修得しかつ使える社会であるか否かの条件が重要 度を増していく。これらの条件整備が進めば、知識社会における居住地選択は、今日の物理的 制約とは異なる展開をみせる可能性がある。 第 4 に、土地管理政策の重要性である。農地・林野が、ともにそれらの土地利用を生活・生産 の基軸に据える居住者にとって有用な存在であることをいかに担保していくのかということで ある。農地については、土地持ち非農家や離村住民やその子孫の土地所有は、充填した生活空 間の形成を阻害する重大な地域問題になっている。他方、林野については、個別私有林野、部 落有林野、国有林野等の別なく、明治期以後の私的排他的所有権の仕組みが利用を促進するの に適合的でない基本的問題点を解決できていない。 最後に、地域を支える重要な条件として、アイデンティティを指摘しておきたい。みずから の居住に指針を与えてくれる集団表象としての意義、および全体地域の中で個々の地域を特定 しかつ地域が果たす役割を明確にするために、アイデンティティは重要である。従来、アイデ ンティティは、歴史的に培われた文化的遺産を指すことが多い。そのようなアイデンティティ の重要性は論を俟たないが、今日の過疎化・人口減少の中で、かつての存在価値が十分意義を 示せない今日、積極的に創出していく能動的なアイデンティティ構築の重要性を念頭に置くべ きであろう。この点に関しては、アマルティア・センの議論が参考になる(注 22)。 小稿では、具体的な実態を踏まえた議論が未熟な状態にとどまっている。いずれ他日を期し たい。 注 1) カウンターアーバナイゼーションの定義や現象については、次の文献が管見の限り適切で ある。Tony (Anthony) Champion, in Migration into Rural Areas, Wiley eds. by P. Boyle and K. Halfacree (1998)
2) 大友篤が明らかにしている。
18)1981 年当時に死亡や離村していた 6 軒については、死亡や離村以前の職業を計上した。 19)子供世帯に現世帯主が移った事例も計上している。本来、現世帯主が子供世帯に移った世 帯については孫世帯の同居の有無により判断すべきであるが、子供世帯への世帯主の移行 が比較的最近で、孫が若年や未婚で村外居住している場合などは、2世代の同居の判断が 困難になるので、ここでは、それらの事例はすべて「子が同居または天川村内で就業」とみ なした。
20)Paul J. Cloke (1979) Key settlements in rural areas, Methuen, London
松尾容孝(2003)「先進国の農村問題と Pual J. Cloke の研究の意義」石原潤編『農村空間 の研究(上)』、大明堂、pp.66-85
21)Pushukar K. Pradhan(2004)Rural Urban Relations with particular reference to Nepal, Rural Urban Partnership Programme, MLD/UNDP (ISBN: 99933-763-1-0)