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構法分析に基づくグルーベンマン木橋の構造機能の 推定

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(1)

構法分析に基づくグルーベンマン木橋の構造機能の 推定

著者 高木 俊太

出版者 法政大学大学院デザイン工学研究科

雑誌名 法政大学大学院紀要. デザイン工学研究科編

巻 7

ページ 1‑5

発行年 2018‑03‑24

URL http://doi.org/10.15002/00014729

(2)

1.はじめに

(1)研究背景

 現代の建築物は CAD ソフトや環境シミュレーター、構 造解析ソフトなどの数値解析を行い、設計している。し かし、数値解析手法が確立される以前は正確に計測する 道具なしに建築物を設計し建設していた。そのような時 代では経験的に構法・構造を把握し施工していた棟梁が その役割を担っていた。本論文では確立された数値解析 手法の存在しない時代に建設された木造橋について構法 分析を行い、現代の数値解析手法から得られた結果と比 較することで当時の設計手法が合理的であったかについ て推定する。

(2)研究対象

 本論文にて構法分析及び構造解析の対象とする建造物 は、18 世紀末のスイスにて著名な木造棟梁であったハン ス・ウルリッヒ・グルーベンマンが設計・施工した木造橋、

クーベル橋である。クーベル橋の特徴は、当時普及し始 めた偏平アーチ構造を木造で設計されたことである。こ の橋は H. グルーベンマン最後の木橋作品であるため、同 氏の技術と経験が最も反映されたものと考えられる。こ のクーベル橋を分析することで、当時の知見から施工さ れた木造橋がどこまで正確に設計されていたかについて 分析していく。

法政大学大学院デザイン工学研究科紀要 Vol.7(2018 年 3 月 ) 法政大学

構法分析に基づくグルーベンマン木橋の構造機能の推定

STUDY ON GRUBENMANN BRIDGE'S STRUCTUAL FUNCTION BASED ON THE ANALYSIS ON THE CONSTRUCTION METHOD

高木俊太 Shunta TAKAGI

主査 網野禎昭   副査 浜田英明

This thesis follows construction and structural analysis of 18th century's wooden flat arch bridge. The structural analysis is carried out on the basis of constructive model obtained from the results of site and biblographic survey. By comparing the results of structural analysis and construction method, we study the logicality of the wooden flat arch structural design.

Key Words : Structural Analysis, Construction Method

2.分析方法

 クーベル橋の構造機能を推定するにあたり、実測と文 献調査から各部詳細を明らかにし、それを基に図面及び 軸組み模型を作成した。そこから各部材の組み合わせや 勝ち負け、施工方法について分析し、クーベル橋の構法 を推定する。そこから主要構造体のみを抽出し、構造解 析を行う。その結果とクーベル橋の各部詳細を比較し、

構法からなる構造の合理性について分析する。

3.構法分析

 構法分析は各部詳細を基にクーベル橋の模型製作を行 うことで施工手順について推定していく。各部材がどの 段階で施工されるかについて推測していき、それらを段 階別に分類する。

法政大学大学院デザイン工学研究科建築学専攻修士課程

図 1 クーベル橋

(3)

 模型作成等の構法分析を基に考察したクーベル橋の施 工手順を以下ように分類する。①橋桁②基礎、土台、支 柱③床梁④床ブレース⑤柱⑥軒桁⑦アーチ⑧斜材⑨小屋 梁、外装材用部材⑩重ね陸梁、単一陸梁、水平ブレース

⑪腕木⑫母屋桁、足場用板材⑬合掌材、棟木、火打ち梁

⑭垂木、頬杖、帯梁、吊り束⑮出入口屋根の 15 段階である。

本項では主要構造体となる①、②、⑤、⑥、⑦、⑧にて 組み合わされる部材に注目し、接合詳細を明らかにする。

①橋桁

 橋桁は鋸歯状に加工された 3 つの上弦材と 2 つの下弦 材から構成され、引きボルトによって垂直方向に固定す る。また、鋸歯状加工の噛み合わさる箇所は円滑に組み 合わせるためにあそびが設けられており、その箇所には 角栓が打ち込まれる。角栓は圧縮力を働かせることによ り橋桁の構成部材を水平方向に固定する。また、鋸歯の 方向は両端の上弦材と橋桁中央の位置で反転している。

②基礎、土台、支柱

 橋桁には渡腮が施され、2 つの支柱材で挟み込むこと で固定する。支柱同士は上下 2 箇所で引きボルトによっ て固定する。また、支柱と組み合わさる床梁は支柱を貫 通して固定される。

⑤柱⑥軒桁

 柱は橋桁に空けられた穴に挿入され、楔を打ち込み固 定する。柱の挿入部分は上端が狭まった台形の形に加工 され、橋桁の穴もその形に合わせられているため、楔を 打ち込んだ時にその加工が鎌の役割を果たし、長期変形 によって柱が抜けてしまうことを防止している。また、

軒桁も柱上部の凸加工に挿し込むことで組み合わされ、

楔が打ち込み固定する。軒桁は橋桁同様鋸歯状の噛み合

⑦アーチ

 クーベル橋のアーチは直線部材によって構成される多 角形偏平アーチであるため、アーチ部材は柱を媒介して 力を伝達させる。アーチ部材は柱間に 2 本ずつ入り、柱 及び橋桁に加工された欠き込みにはめ込まれ、組み合わ される。アーチ部材と柱がみ合わさる部分には厚さ約3

㎜の鉄板が挿入されており、部材の減り込み変形を防止 している。

⑧斜材

 斜材は軒桁、アーチ、柱、橋桁と渡腮加工によって組 み合わされる。斜材端部は軒桁と橋桁にて引きボルトに よって接合され、それ以外の部材と組み合わさる箇所は ダボを打ち込まれて接合される。この斜材を組み合わせ ることによってクーベル橋の主要構造体が完成する。

図 2 橋桁の組み合わせと鋸歯の反転位置、反転方向

図 3 支柱と橋桁の組み合わせ

図 4 柱とアーチ、橋桁の組み合わせ ( 参考文献 1)

図 5 橋桁と斜材の組み合わせ

 それぞれの部材は主に欠き込みによる組み合わせとボ ルト、ダボによって接合されている。また、木材の減り 込み等の変形から接合部を完全に固定できないため、構 造解析では全ての接合をピン接合とする。

 以上のように、主要構造体の接合詳細を推定し、構造 解析にて反映させる。

(4)

4.橋桁の性能分析

 クーベル橋の橋桁は鋸歯状に加工された 5 つの部材に よって構成されている。構造解析ソフトそのため構造解 析を行うにあたり複雑な計算式が必要になる。そこでま ずは橋桁の構造的な性能特定を行う。

(1)橋桁の分析方法

 鋸歯状加工による複雑な接合様式からなる橋桁の曲げ 剛性を求めるために継ぎ手の剛性を算出し、同等の剛性 を持つトラス置換モデルを作成する。

(2)トラス置換モデルの計算式

 橋桁の上下弦材間に剪断力が働いたとき、角栓が完全 に潰れるものと仮定し、角栓の潰れた大きさと同じ分だ けトラスモデルの斜材が伸びるものとする。その時の水 平力を P、水平方向変位をδ、軸剛性をKとする。また、

トラスモデルの各斜材がそれぞれ水平方向に同じくδだ け変形するものとし、斜材の長さをL、断面積をA、斜 材と水平部材がなす角度をθとする。なお、変形は微小 とし、変形後のθとLは変わらないものとする。

 この結果を基にトラス置換モデルと同等の性能を持つ 単一材の断面積を求め、主要構造体の構造解析に用いる 橋桁に反映させる。

 以上の計算式から求めた断面積を基にフレーム解析ソ フト RSTAB を使用する。トラス置換モデルの自重による 最大たわみは 232.8㎜、同一断面単一桁の自重による最 大たわみは 203.8㎜という結果を得られた。このことか ら、クーベル橋の合成桁は単一材の約 0.88 倍の曲げ剛性 であることが推定された。

T A =E

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EA ・δcosθ ℓ P=( EA ℓ

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3 1

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式 (3) から (5) より、

置換式

図 6 の変形前後から式を立てると、

T A =E

P=Tcosθ

・cos θ)・δ 2 Δℓ

σ=Eε ℓ

T= EA ・Δℓ ℓ Δℓ=δcosθ

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σ=Eε ℓ

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・cos θ 2 K= EA ℓ

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P=Tcosθ

・cos θ)・δ 2 Δℓ

σ=Eε ℓ

T= EA ・Δℓ ℓ Δℓ=δcosθ

cosθ P =

EA ・δcosθ ℓ P=( EA ℓ

・cos θ 2 K= EA ℓ

Kʼ = K

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k

0

: 繊維方向の見かけの面圧剛性 (N/㎣ )

n : 繊維方向置換係数 ( ただし、この場合樹種に関わらず   n=5 とする。)

E

0

: 材の繊維方向ヤング率 (N/㎟ ) E

0f

: 角栓の繊維直交方向ヤング率 (N/㎟ )

T A =E

P=Tcosθ

・cos θ)・δ 2 Δℓ

σ=Eε ℓ

T= EA ・Δℓ ℓ Δℓ=δcosθ

cosθ P = EA ・δcosθ ℓ P=( EA ℓ

・cos θ 2 K= EA ℓ

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Kʼ = 1 1 ・k  ・e・H 2 0 Kʼ = 2 E  ・e・H 0f

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 式 (8) で求めた K と橋桁の角栓が潰れる時のめり込み 剛性 K' が等しければ、角栓が潰れた時の長さとトラスの 変形が等しくなる。また K' は、噛み合わせ部分の角栓を 考慮しない初期剛性 K'

1

、角栓の初期剛性 K'

2

から、以下 の式で求められる。e、g はそれぞれ角栓の鉛直方向、水 平方向の寸法である(単位㎜)。

図 6 トラス置換モデル

図 7 トラス置換モデルと単一材の変形図

(2)

(3) (4) (5)

(6) (7) (8)

(9) (10) (11) (12)

(13)

(5)

5.主要構造体の解析結果

 主要構造体はアーチ機構と斜材機構の 2 つを組み合わ せた複合機構であるため、それぞれ単体の場合と複合機 構にした場合の構造的な性能を比較してそれぞれの構造 的な性能について特定する。構造解析は①アーチ機構② 斜材機構③複合機構の 3 種類で行い、それぞれ変形図、

軸力図、剪断力図、モーメント図を求めて比較分析する。

(1)変形図

 それぞれの最大変形量は① 18.9㎜② 20.5㎜③ 13.4㎜

となり、複合機構が最も変形が小さいことが分かる。

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9.79

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2.55 1.90 1.23

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0.98 0.98

1.10 0.95

3.61 1.16

4.12 0.01

0.74

3.78

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Hosei University Professor Yoshiaki Amino

G R A P H I C S

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RSTAB 7.04.5900  Spatial Framed Structures www.dlubal.com

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8.53 1.02

39.05

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Z

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0.78

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(2)軸力図

 アーチ機構はアーチと橋桁がほとんどの軸力を負担し ており、反対に斜材機構は斜材が引張力を働かせ軒桁が 多くの軸力を負担している。複合機構は 2 つの結果を反 映した結果となる。また、それぞれの柱に働く軸力に着 目すると、アーチ機構では引張力が働き、斜材機構と複 合機構では圧縮力が働いている。

 柱に働く軸力に注目すると、アーチ機構では引張力で あるのに対し斜材機構と複合機構では圧縮力となってい る。このことから、斜材機構はアーチ機構の柱に働く引 張力を圧縮力に変換していることが判明した。また、施 工順序から斜材よりも先にアーチが組み合わされるので、

柱と橋桁の接合が引張力に対応するよう設計されている ことが分かる。

(3)剪断力図

 アーチ機構では剪断力が主に橋桁端部と支柱が組み合 わされる箇所で大きく働き、反対に斜材機構では斜材上 端と軒桁が組み合わさる箇所で大きく働く。

 それぞれの剪断力が大きく働く箇所に注目し、構法と 比較する。アーチは支柱ではなく橋桁と接合されており、

支柱には直接剪断力が働かないように設計されているこ とがわかる。また斜材上端と軒桁の組み合わさる部分で は、軒桁が橋桁同様の構成となっており、大きく働く剪 断力を対処できるよう設計されている。

(4)モーメント図

 アーチ機構の最大曲げモーメントは橋桁中央で 9.79kN となり、斜材機構の最大曲げモーメントは軒桁端部で 13.44kN となった。これらを基に複合機構の曲げモーメ ント図に注目すると、形状は斜材機構と類似しており、

最大曲げモーメントの位置も軒桁端部となっている。し かし数値について注目すると、軒桁端部に働く曲げモー メントは約半分となっている。このことから、アーチ機 構と斜材機構はそれぞれの短所を補完しあうような関係 性を持つことがわかり、複合機構が構造的に合理的であ ることが判明した。

 複合機構における橋桁で曲げモーメントが小さい位置 に注目すると、構成部材の継ぎ手の位置と重なる。この ことから、橋桁の継ぎ手に曲げモーメントが働かないよ うに設計されていることが分かる。

図8 変形図

図9 軸力図

図 10 剪断力図

図 11 モーメント図

(6)

6.結論

 本論文ではクーベル橋の構法分析と構造解析を行い、

それぞれの結果を比較することで設計の合理性について 考察した。その結果、構造解析結果と構法の一致が見られ、

H. グルーベンマンが構造的にクーベル橋を設計していた ことが推定できた。

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RSTAB 7.04.5900  Spatial Framed Structures www.dlubal.com

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RSTAB 7.04.5900  Spatial Framed Structures www.dlubal.com

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5.14

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14.72

0.99 0.72 1.16

1.00 5.04

3.88 0.09

0.95

0.99

3.31 2.15

0.02

4.02

Z

X

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(5)偏心荷重を与えた場合

 アーチ機構ではモーメントの対称性が崩れ、不安定な 変形となるが、斜材機構ではモーメントの対称性が保た れている。同様に複合機構もモーメントの対称性が保た れている。このことから、斜材機構が偏心荷重に対する モーメントの対称性を保たせ、構造が不安定な変形を防 止していることが判明した。

参考文献

1)Killer, Joseph : Die Werke der Baumeister        Grubenmanneine baugeschichtliche und bautechnische  Forschungsarbeit, 1942

2) 日本建築学会 : 木質構造接合部設計マニュアル , 2009 3) 日本建築学会 : 木質構造基礎理論 , 2012

4)Werner Minder : SWISS TIMBER BRIDGES Wooden    bridges of Switzerland

5)Yves Weinand : Projekt Grubenmann / Grubenmann    Project, 2016

6)Eugen Steinmann : Hans Ulrich Grubenmann, 1984 7)Klaus Zwerger : Wood and Wood Joints : Building     Traditions of Europe and Japan, 1997

図 12 偏心荷重を加えた変形図とモーメント図

謝辞

 本論文を作成するにあたり、協力して下さったグルー ベンマン・コレクションの職員、博物館の学芸員、スイ ス国内で接して下さった多くの人々、私たちに熱心に指 導して下さった網野教授、浜田准教授、また本研究を共 に完成させた仲間である高橋志元と永松宏輝に深いお礼 を申し上げます。

図 12 偏心荷重を加えた変形図とモーメント図 謝辞  本論文を作成するにあたり、協力して下さったグルーベンマン・コレクションの職員、博物館の学芸員、スイス国内で接して下さった多くの人々、私たちに熱心に指導して下さった網野教授、浜田准教授、また本研究を共に完成させた仲間である高橋志元と永松宏輝に深いお礼を申し上げます。

参照

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