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共謀共同正犯における「共謀」概念 : 最近の最高裁判例を批判して

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139

共謀 共 同正犯 にお け る 「

共 謀 」概念

最近の最高裁判例を批判 して

立 石 二 六

1 は じめ に ]1 判 例 にお け る 「共 謀」 概 念 皿 特 に代 表 的 事 件 に お ける 「共 謀 」 概 念 を め ぐって IV お わ りに 1 は じめ に 1 共 謀 共 同 正 犯 とは 、二 人以 上 の者 が 犯 罪 の 実行 を共 謀 し、 共 謀 者 中 の あ る者 が そ の 共 謀 に基 づ い て こ れ を実 行 した場合 には 、現 実 に実 行 行 為 を行 わ なか った 他 の 共 謀者 も共 同正 犯 と して の責 任 を負 う とす る共 同正 犯 形 態 で あ る。 この 理 論 は 、 実務 よ り生 じた もので 、 わ が 国 の判 例 上 はす で に確 立 した もの とな って い る。 こ れ に対 して、 学 説 上 は、 以前 は、 圧 倒 的 に共 謀 共 同正 犯 論 否 定説 が優 勢 で あ っ たが 、 最 近 で は 、肯 定説 が支 配 的 とな っ て い る。 しか し、 そ の理 由づ け は多 彩 で あ って 、本 稿 で は 、 そ の 問の 検 討 を展 開す るい と まは な い が、 私 見 は、 共 同意 思 主体 説 の立 場 か らこ の理 論 を支 持 す る もの で あ る(1)。 2 共 謀 共 同 正 犯 にお い て は、 「共 謀 」 の概 念 内容 が 極 め て重 要 と な る。 け だ し、 共 謀 が存 在 す れ ば 、共 謀 に参 画 した者 の 誰 か が 実行 行 為 に 出れ ば実 行 行 為 を行 わ なか っ た者 も共 同正 犯 と して処 罰 さ為 る こ と とな るか らで あ る。 そ れ 故、 共 謀概 念 につ い て は慎 重 な検 討 を要 す る 。本 稿 にお い て は、 そ の よ うな視 点 の 下 に、「共謀 」概 念 につ い ての 考 察 を展 開 した い。 そ の際 、

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140 京 女法 学 第1号 最 近 の 最 高 裁 判例 に現 れ た共 謀 概 念 につ い て は見 過 す こ との で きない 重 大 な疑 問 点 が あ る の で 、 そ の点 につ い ての 批 判 的検 討 を展 開 し、 最 高 裁 の 近 時 の共 謀 概 念 に対 す る異論 を提 起 して、 そ の 変 更 を促 す もの で あ る。

皿 判例 にお け る 「

共 謀」概 念

1 判 例 に 現 れ た 「共 謀 」 の 意 義 お よ び 内 容 判例 に現 れ た 「共 謀 」 を説 明 す る用 語 は多彩 で あ る。 以 下 に そ れ らを列 挙 して そ の 内容 を明 らか に して お こ う。 ① 「共 同犯 行 の 認 識 」 とい う用 語 に よ る もの 。 「共謀 とは数 人 相 互 の 間 に共 同犯 行 の 認 識 が あ る こ とを云 うの で あ って 単 に他 人 の犯 行 を認 識 してい る だ け で そ の 者 が 共 謀 者 で あ る と云 う こ と は で きな い 」(最 判 昭和24・2・ 8刑 集3巻2号113頁)。 ② 「意 思 の連 絡 」 とい う用 語 に よる もの。 「刑 法 第六 〇 条 に 『二 人 以 上 共 同 して犯 罪 を実 行 した もの』 とあ る 『共 同』 又 は同法 第二 〇 七 条 に い わ ゆ る 『共 同 者』 とあ るの は、 す べ て 二 人 以 上 の 者 の 間 に意 思 の 連 絡 の あ る場 合 を さす もの で あ る」(最 判 昭和24・1・27裁 判 集[刑 事]7号109頁)。 ③ 「謀 議 」 とい う用 語 に よる もの 。 「運 動 報 酬 ノ供 与 投 票 買 収 ノ謀 議 二 参 与 シ タル以 上 ハ 仮 令 直接 其 ノ供 与 買 収 ノ行 為 ヲ為 サ サ ル者 卜錐 共 同正 犯 トシ テ其 ノ責 二 任 ス ペ キ モ ノナ レハ本 件 二 於 テ直 接投 票 ノ買 収 運 動 報 酬 ノ供 与 ヲ為 シ タ ルモ ノハ 被 告 人XYナ リ トス ルモ 其 ノ謀 議 二参 与 シ タル被 告 人Z 二於 テモ 均 シ ク共 犯 トシテ其 ノ責 二任 セサ ルヘ カ ラス而 シ テ本 件 ノ如 キ選 挙 二 於 ケル 謀 議 ノ際 金銭 ヲ供 与 セ ラルペ キモ ノハ 必 シ モ特 定 ス ル コ トヲ要 セ ス不 特 定 人 二 対 シ金 銭 ヲ供 与 ス ペ キ コ トヲ謀 議 シ タル場 合 二於 テ モ後 二 之 ヲ特 定 シ金 銭 ヲ供 与 ス レハ 謀 議 者 モ 亦 其 ノ責 二 任 スヘ キ コ ト勿 論 ナ リ」 (大判 昭和8・5・29刑 集12巻623頁)。 ④ 「通 謀 」 とい う用 語 に よ る もの 。 「数 人共 同 シ人 ヲ欺 網 シ テ財 物 ヲ騙 取 セ

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共 謀共 同 正犯 にお け る 「共謀 」概 念(立 石) 141 ン トス ル ニ 際 シ其 ノー 部 ノ者 ノ 問 二 於 テハ 各 自其 ノ者 ト共 二 之 ヲ犯 ス ノ意 思 連 絡 ナ キ モ荷 モ其 ノ各 自ハ他 ノー 部 ノ者 ト該 犯 罪 ノ実行 ヲ共謀 シ タル以 上 ハ 其 ノ者 ヲ介 シ テ通 謀 ノ意 思 ア リ ト謂 フ コ トヲ得 ヘ キ ヲ以 テ縦 令 其 ノ各 自力 単 独 二 施 シ タ ル詐 欺 ノ手段 二付 認 識 ナ キ場 合 二 於 テ モ 共 同 ノ 目的 タル 財 物 編 取 に対 シ詐 欺 罪 ノ共 犯者 トシテ其 ノ責 二 任 セ サ ル ヲ得 サ ル モ ノ トス 故 二 原 判 決 ハ 被 告Xカ 所 論 ノ如 ク相被 告Yノ 為 シ タ ル欺 網行 為 ヲ認識 シ タ ル 旨判 示 セ サ リシ トス ルモ 詐欺 罪 ヲ以 テ 問擬 ス ルニ 毫 モ 妨 ケ ナ キ モ ノ ト謂 ハ サ ルペ カ ラス論 旨理 由ナ シ」(大 判 大12・6・5刑 集2巻490頁)。 ⑤ 「凝 議 」 とい う用 語 に よ る もの 。 「原 院 認 定 ノ事 実 二 依 レハ 本件 犯 罪 ハ 被 告 等 両 名 は被 告Y二 於 テ手 ヲ下 シ被 告X二 於 テ助 勢 ヲ為 シ以 テ殺 害 ノ実行 ヲ為 サ ン コ トヲ凝 議 シ タ ル結 果 二 係 ル ヲ以 テ被 告Xハ 自 ラ殺 害 ノ実行 行 為 二 関与 セ サ リシ トス ルモ 正 犯 トシテ ノ罪 責 ヲ免 ル ル コ トヲ得 サ ル ハ 当然 ナ リ」(大 判 大2・2・18刑 録19輯217頁)。 ⑥ 「相 談 」 とい う用 語 に よ る もの 。 「共 同者 の或 る者 が 暴 行 脅 迫 を も って財 物 を奪 取 す る こ と ・し、 他 の 者 が そ の 家屋 外 で見 張 りをす る こ と を相 談 し た上 そ の とお り実行 した場 合 に は、 共 同 者 は互 に他 人 の行 為 を利 用 して犯 罪 の 実行 を遂 げ た もの で あ るか ら、 い ず れ も刑 法 第六 〇 条 の 共 同 正 犯 に当 る もの と言 うべ きで あ る。 本 件 につ い て 原 審 は被 告 人XがY等 と共 謀 の上 A方 で被 告 人X等 は屋 外 で見 張 りを な し、Y等 は屋 内 でAの 長 女B等 を脅 迫 して 金 品 を強奪 し よ う と した が 家 人 に騒 が れ て そ の 目的 を遂 げ なか った 事 実 を認 定 した 上刑 法 第二 四三 条 第 二 三 六 条 第 一項 第六 〇 条 を適 用 した の で あ るか ら、 前段 説 示 の理 由 に よ っ て原 判 決 には所 論 の よ うな擬 律 齪 酷 の 違 法 はな い 」(最 判 昭和23・10・19裁 判 集[刑 事]4号463頁)。 こ の よ う に、 判 例 は、 さ ま ざ まな 言 葉 を用 い て い る が、 「共 謀 」 と は、 判 例 上 、 「共 同犯 行 の 認 識 」 を意 味 して きた と解 して よ いで あ ろ う と下村 博 士 は述 べ られ た(2)。判 例 上 は、確 か にそ う もい え よ うが 、理 論 上 は、後 述 の如 く、 私 見 は 共 同 意 思 主 体 説 を貫 徹 す る立 場 か ら、 「共 謀 」 と 「共 同犯 行 の認 識 」

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142 京女 法学 第1号 とは概 念 上 厳 格 に これ を区 別 す べ き もの と考 え る。 2 暗 黙 の 共 謀 暗 黙 の 共 謀 も判 例 上 認 め られ て き た 。 例 え ば 、 ① 行 使 の 目 的 を も っ て 株 券 を 偽 造 す る も の で あ る こ と を 知 り な が ら 、 他 人 の 依 頼 に応 じ て そ の 株 券 を 印 刷 す る も の は 、 偽 造 行 使 の 謀 議 を し な くて も、 有 価 証 券 偽 造 罪 の 正 犯 で あ る (大 判 大15・12・23刑 集5巻584頁)。 ② ま た 、 「数 名 の 強 盗 犯 人 が 、 事 前 に 明 示 的 に 強 盗 を す る こ と を 謀 議 して い た 場 合 ば か りで な く、 予 め 暗 黙 の う ち に 強 盗 を す る こ と を 互 に 了 解 し て い た 場 合 で あ っ て も、 又 出 来 る こ と な ら窃 盗 だ け に と ど め 、 止 む を 得 な い と き は 強 盗 を す る 旨 打 合 わ せ て い た 場 合 で あ っ て も、 な お 共 謀 の 上 強 盗 を な し た も の と い い 得 る の で あ る 」(最 判 昭 和24・ 11・10裁 判 集[刑 事]14号503頁)。 ③ さ ら に 、 乙 の た め 傷 害 さ れ た 甲 が 乙 方 の 二 階 で 強 談 中 、 甲 の 輩 下 で あ る 被 告 人 ら七 、八 名 が 乙 方 に 集 合 し、 も し 甲 、 乙 間 で 話 が つ か な い 場 合 に は 当 然 喧 嘩 と な り殺 傷 沙 汰 の 起 こ る こ と を 予 期 し、 そ の 場 合 に は 甲 に 加 勢 し 乙 と 闘 争 す る こ と を 暗 に 共 謀 して 待 機 中 、 突 如 二 階 で 物 音 が し た の で 、一 同 は 喧 嘩 が 始 ま っ た も の と即 断 し て 二 階 に押 寄 せ 、 被 告 人 らの 一 人 が 乙 に 傷 害 を 加 え 死 に 致 した 場 合 に は 、 ま だ 喧 嘩 が 始 ま ら ず 対 談 中 で あ っ た と し て も、 被 告 人 ら は 、 傷 害 致 死 罪 の 共 同 正 犯 た る の 責 を免 れ な い(最 判 昭 和25・6・27刑 集4巻6号1096頁)。 「暗 黙 の 共 謀 」(黙 示 的 意 思 連 絡)は 、 こ の よ う に 、 判 例 上 、 無 造 作 ・無 配 慮 に 用 い ら れ て き た が 、 こ の こ と は 極 め て 問 題 で あ っ た と い え る 。 詳 細 は 、 以 下 の ス ワ ッ ト事 件 等 に お い て 論 じ た い 。

皿 特 に代表 的 事件 にお ける 「

共 謀」概念 をめ ぐって

1 共 謀 共 同 正犯 に お け る 「共 謀 」 概 念 をめ ぐっ て は、 特 に、 注 目す べ き最 高 裁 の判例 が あ る。 以下 で は、 そ れ らを抽 出 し、 問題 点 を検 討 す る こ と と

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共謀共 同正 犯 にお け る 「共謀 」概 念(立 石) 143 す る 。 そ の 諸 判 例 を 掲 記 す れ ば 次 の 如 くで あ る 。 す な わ ち 、 ① 最 大 判 昭 和 33・5・28刑 集12巻8号1718頁(練 馬 事 件)、 ② 最 決 平 成15・5・1刑 集 57巻5号507頁(ス ワ ッ ト事 件)、 ③ 最 決 平 成17・11・29裁 判 集[刑 事] 288号543頁(拳 銃 等 不 法 所 持 ・S事 件 と本 稿 で は 称 す)、 ④ 最 決 平 成19・ 11・14刑 集61巻8号757頁(廃 棄 物 不 法 投 棄 事 件)、 ⑤ 最 判 平 成21・10・19 裁 判 集[刑 事]297号489頁(拳 銃 等 不 法 所 持 ・X事 件 と 本 稿 で は 称 す)。 2 練 馬 事 件(最 大 判 昭 和33・5・28刑 集12巻8号1718頁) ① 【事 実 の 概 要 】 労 働 争 議 事 件 に お い て 、 被 告 人A、B、 D、 E、 F、 G、 H、1、 K、 L等 が 印 藤 巡 査 へ の 暴 行 を 順 次 共 謀 し 、 被 告 人D、E、 F、 G、1、 K、 Lほ か 数 名 が 印 藤 巡 査 を 駐 在 所 よ り誘 い 出 し、 古 鉄 管 、 丸 棒 等 を 揮 っ て 同 巡 査 を乱 打 し 同 巡 査 を し て 脳 損 傷 に よ り現 場 で 死 に 致 し た と い う も の で 、 原 審 は 、 現 場 で 襲 撃 に 参 加 し な か っ たA、B両 名 を含 め 被 告 人 全 員 に 傷 害 致 死 の 共 同 正 犯 と し て 有 罪 を 認 め た 。 【判 旨 】 最 高 裁 大 法 廷 は 、 「共 謀 共 同 正 犯 が 成 立 す る に は 、 二 人 以 上 の 者 が 、 特 定 の 犯 罪 を 行 う た め 、 共 同 意 思 の 下 に 一 体 と な っ て 互 に他 人 の 行 為 を 利 用 し、 各 自 の 意 思 を 実 行 に 移 す こ と を 内 容 とす る 謀 議 を な し 、 よ っ て 犯 罪 を 実 行 し た 事 実 が 認 め られ な け れ ば な ら な い 。 し た が っ て 右 の よ う な 関 係 に お い て 共 謀 に 参 加 し た 事 実 が 認 め ら れ る 以 上 、 直 接 実 行 行 為 に 関 与 し な い 者 で も、 他 人 の 行 為 を い わ ば 自 己 の 手 段 と して 犯 罪 を行 っ た と い う 意 味 に お い て 、 そ の 間 刑 責 の 成 立 に 差 異 を 生 ず る と解 す べ き 理 由 は な い 。 さ れ ば こ の 関 係 に お い て 実 行 行 為 に 直 接 関 与 し た か ど う か 、 そ の 分 担 ま た は 役 割 の い か ん は 右 共 犯 の 刑 責 じた い の 成 立 を 左 右 す る も の で は な い と解 す る を 相 当 と す る 」 と判 示 し た 。 さ ら に 、 「数 人 の 共 謀 共 同 正 犯 が 成 立 す る た め に は 、 そ の 数 人 が 同 一 場 所 に 会 し 、 か つ そ の 数 人 間 に 一 個 の 共 謀 が 成 立 す る こ と を 必 要 とす る も の で な く、 同 一 の 犯 罪 に つ い て 、 甲 と 乙 が 共 謀 し 、

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144 京女法 学 第1号 次 で 乙 と丙 が 共 謀 す る とい う よ うに して、 数 人 の 間 に順 次 共 謀 が 行 わ れ た 場合 は、 これ らの 者 の すべ て の 間 に 当該 犯 行 の 共 謀 が行 わ れ た と解 す る を 相 当 とす る」 と して 順 次共 謀 を認 め て い る(3)。 ② 練 馬事 件 判 決 は共 謀 共 同正 犯 の リー デ ィ ン グケ ー ス とさ れ て きた 。 そ の 共 謀 概 念 は、 「二 人 以 上 の者 が、 特 定 の 犯 罪 を行 う ため 、 共 同意 思 の 下 に 一体 とな っ て互 に他 人 の行 為 を利 用 し、 各 自の 意 思 を実 行 に移 す こ と を内 容 とす る謀 議 を な」 す こ とで あ っ た 。 この共 謀概 念 は客 観 的謀 議説 に組 み 入 れ られ た。 本 件 調 査 官解 説 も、 「謀 議 」 は、 「意 思 の連 絡 」 や 「共 同 犯 行 の 認 識 」 とい っ た主 観 的要 件 に限 定 さ れ る もの で は な く、 「実行 共 同 正 犯 にお け る客 観 的 要 件 で あ る 『二 人 以 上 の者 の実 行 行為 の分 担 』 に も比 す べ き もの で、 共 謀 共 同正 犯 の 客観 的 要件 で もあ る」(4)と述 べ て い る。 また 、 西 原 博 士 は、 「謀 議 とい う表 現 が 会 議 の よ う な協 議 形 式 を意 味 す る よ うに解 され るの で 、 そ の よ う な謀議 を要 件 とす る こ とに対 して は 当時 か ら疑 問 もあ り、 私 も元 来 『共 同犯 行 の意 思 の 形 成』 と 『実行 に準 ず る重 要 な役 割』 を演 ず る こ とを客 観 的 要 件 と して い たか ら、 そ の よ うに狭 く解 す る謀 議 の存 在 を常 に必 要 とす る こ と には 問題 が あ る と考 え て い た。 共 謀 共 同正犯 に もさ ま ざ ま な態 様 が あ り、 謀議 参 加 が な くて も上述 の よ うな客 観 的 要件 に あ た る外 部 的 行 為 が あ って 、 そ れが 一 方 にお い て共 同犯 行 の意 思 の 形 成 を意 味 し、 他 方 にお い て構 成 要件 の一 部 実 現 に勝 る と も劣 らな い 意 義 を持 っ て お れ ば、 共 同正 犯 の 成 立 を認 め る こ とは可 能 と考 え た か らで あ る。 …私 見 に よれ ば、 謀 議 の 存 在 しない共 謀 共 同正 犯 を認 め る こ とそ れ 自体 に問題 は な い と考 え るの で あ る。」 と論 じ られ た(5)。 しか し、 この西 原 説 に は問 題 が あ る。 そ もそ も 「共 謀 」 と は、語 源 的 に み れ ば、「二 人 以上 の者 が 共 同で た く らむ こ と」(新 村 出 編 『広辞 苑 第六 版 』 岩 波 書 店)、あ る い は、「二 人 以 上 の 者 が 共 同 で悪 事 をた くらむ 」(藤 堂 明保 ・ 加 納 喜 光 編 『学研 新 漢和 大辞 典』(学 習研 究 社)と い う意 味 で あ り、 そ れ は、 本 来 、 主観 的 因子 で あ る。 そ こ に客 観 的要 素 を持 ち込 む こ とは妥 当 で

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共 謀共 同正 犯 にお ける 「共 謀 」概念(立 石) 145 な い。 下 村 博 士 は、 共 謀 につ い て 、 「『共 同 犯 行 の 認 識 』、 す な わ ち 、相 互 に犯 罪 の 実行 に重 要 な役 割 を 一体 とな って 行 お う とい う、行 為 者 間の 対 等 関 係 にお け る意 思連 絡 を い うの で あ っ て、単 なる相 互 の存 在 認 識 で は ない 」 と論 じ られ た(6)。こ れ は 主 観 的謀 議 説 に分 類 され る見 解 で あ る と思 うが 、 私 見 は これ まで この見 解 に従 っ て きた。 しか し、 共 同意 思 主 体 説 にお い て は、 厳 密 に い え ば、 「共 同 犯 行 の認 識 」 とい うの は 共 同正 犯 の主 観 的要 素 で あ って 共謀 の要 素 で は な い か らこれ を共 謀概 念 か ら区分 し、 また 、 共謀 共 同 正犯 に お い て は対 等 関係 のみ で な く上 下 関係 に よる犯 罪 形 態 もあ るか らそ の 点 を斜 酌 し、 さ らに、 犯 罪 共 同 説 に立 つ こ とを 明確 化 して(共 同 意 思 主体 説 は最 も固 い犯 罪 共 同説 で あ る)、 「共 謀 とは、 二 人 以 上 の 者 が、 特 定 の犯 罪 を行 うた め、 相 互 に犯 罪 の 実行 に重 要 な役 割 を一 体 とな って行 お う とい う、 行 為 者 間の 意 思 連 絡 をい う」 と定 義 した い と考 え る。 そ の 限 り に お い て、従 来 の私 見 を改 め る。 この 立場 に立 て ば、「行 為 者 間の 意思 連 絡 」 を必要 とす るが 故 に、 主 観 的 謀 議 説 を とる こ とに な るが 、 行為 者 問 の意 思 連 絡 を得 る た め に は謀 議 は不 可 欠 で あ る。 謀 議 の ない 共 謀 共 同正犯 を認 め るべ きで は な い。 また 、 謀 議 とい う要件 を必 要 とす れ ば客 観 的 謀議 説 に な る とい う思 考 も適 切 で ない 。 謀 議 とい う要 件 の介 在 に よ って 得 られ た 「共 謀 」 とい う主 観 的 因 子 が 、 共 謀 共 同 正犯 拡 大 認 定 の 歯 止 め の役 割 を果 たす の で あ る。 3 ス ワ ッ ト事 件(最 決 平 成15・5・1刑 集57巻5号507頁) ① 【事 実 の概 要 】 被 告 人 は配 下 に3100名 余 りの組 員 を抱 えて い る 関西 の暴 力 団組 長 で あ る が 、 ス ワ ッ トと呼 ば れ るボ デ ィガ ー ドに常 時 警 護 され て い た 。 平成9年12 月26日 早 朝 、 東 京 の 六本 木 で 五 台 の車 に分 乗 して 移 動 中 、 警 察 官 らに停 止 を も とめ られ 、 捜索 差 押 許可 状 に よる捜 索 差 押 え を受 け 、 ス ワ ッ トが 乗 っ た 車 か ら、け ん銃 三 丁 等 が発 見 、押 収 され 、被 告 人 らは現 行 犯 逮 捕 さ れた 。 ま た、 そ の 頃 、 先乗 り車 で ホ テ ル に一 足 先 に到 着 して い た 二 人 の ス ワ ッ ト

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146 京 女法学 第1号 も、 所 持 して い た け ん銃 を一 度 は投 棄 した が警 察 官 に発 見 され た 。 ス ワ ッ トらは、 い ず れ も、 被 告 人 を警 護 す る 目的 で実 包 の装 て ん され た け ん銃 を 所 持 して い た もの で あ り、 被 告 人 も、 ス ワ ッ トらに よ る警 護 態様 、被 告 人 自身の 過 去 にお け る ボデ ィ ガー ドと し ての経 験 等 か ら、 ス ワ ッ トらが被 告 人 を警 護 す るた め け ん銃 等 を携 行 して い る こ とを概 括 的 とは い え確 定 的 に 認 識 して い た 。 また、 被 告 人 は、 ス ワ ッ トらに け ん銃 を持 た ない よ う に指 示 命 令 す る こ と もで きる地 位 、 立 場 に い なが ら、 そ の よ う な警 護 をむ し ろ 当然 の こ と と して受 け入 れ 、 これ を認 容 し、 ス ワ ッ トら も、被 告 人 の この よう な意 思 を察 して い た。 【判 旨】 「被 告 人 は、 ス ワ ッ トら に対 して け ん銃 等 を携 行 して 警 護 す る よ う に直 接 指 示 を下 さな くて も、 ス ワ ッ トらが 自発 的 に被 告 人 を警 護 す るた め に本 件 け ん銃 等 を所 持 してい る こ と を確 定 的 に認識 しなが ら、 そ れ を当然 の こ と と して 受 け入 れ て認 容 してい た もの で あ り、 そ の こ とをス ワ ッ トら も承 知 して い た 」 の で あ り、 「前 記 の事 実 関係 に よれ ば 、被 告 人 とス ワ ッ トら との 間 にけ ん銃 等 の所 持 につ き黙 示 的 に意 思 の 連絡 が あ った とい え る。 そ して、 ス ワ ッ トらは被 告 人 の警 護 の た め に本件 け ん銃 等 を所 持 しなが ら終 始 被 告 人 の 近 辺 に い て被 告 人 と行 動 を共 に して い た もの で あ り、 彼 らを指 揮 命 令 す る権 限 を有 す る被 告 人 の 地 位 と彼 ら に よっ て警 護 を受 け る とい う 被 告 人 の立 場 を併 せ 考 え れ ば、 実 質 的 に は、 正 に被 告 人 が ス ワ ッ トらに本 件 け ん銃 等 を所 持 させ て い た と評 し得 るの で あ る。 したが っ て、 被 告 人 に は本 件 けん銃 等 の所 持 につ い て …共 謀 共 同正 犯 が成 立 す る と した第1審 判 決 を維 持 した 原判 決 の判 断 は、 正 当 で あ る」。 ② 本 決 定 は、 最近 の最 高 裁 判 例 にお け る共 謀 共 同正 犯 論 肯 否 の論 争 の 口火 を切 る もの で あ っ た。本 決 定 につ い て は非 常 に多 くの評 釈 が 出 され て い る。 文 献 の 詳 細 に つ い て は松 原 教 授 の 摘 示 が有 益 で あ る の で そ れ を参 照 され た い(7)。

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共 謀共 同正 犯 におけ る 「共 謀」 概念(立 石) 147 西 原 博 士 は、本 件 決 定 の結 論 を支 持 す る と説 か れ た(8)。西 原 博 士 に よ る と、 本 件 の場 合 、 「組織 の なか に お け る ス ワ ッ トの役 割 そ の もの も、 また 拳 銃 等所 持 を含 む 活動 実 態 も非 常 に は っ き りしてお り、 しか もそ れ が 恒常 的 な状 態 に な って い て、 被 告 人 が そ れ を知 らな か っ た とは到 底 い え ない ほ どで あ る こ とが 明確 に認 定 され たの で 、 た とえ被 告 人 は 自 ら拳銃 を所 持 し て い な くて も、 拳銃 の不 法 所 持 を禁 止 す る法律 の保 護 法益 の 侵 害 また は危 害(こ れ は 法益 を どの よう に解 す るか に よ り異 な る)を 、現 実 に所 持 して い た者 と一体 とな っ て実 現 した と判 断 す る こ とが で きる。 この よ うな 実態 が あ る か ら こそ 、部 下 の 拳 銃 等所 持 に対 す る単 な る概 括 的 な 認識 や認 容 が あ る だ け で 、共 同犯 行 の 意 思 とい う主観 的要 件 も一種 の行 為 支 配 とい う客 観 的要 件 も充 足 され た とみ て よい の で あ っ て、 多 数 意見 も補 足 意 見 も表 現 は異 な るが 、 この趣 旨 を表 して い る と考 え る」(9)。 しか し、 ス ワ ッ トらが 自発 的 に被 告 人 を警 護 す るた め に け ん銃 を所 持 し て い る こ とを確 定 的 に認 識 認容 して い た こ とと、 被 告 人 とス ワ ッ トら との 問 に け ん銃 を所 持 して 警 護 す る とい う共 謀 が 存在 して い た こ と とは、 本 質 的 に異 な る。 そ こ に は、 二 人以 上 の者 が 、 特 定 の犯 罪 を行 うた め、 相 互 に 犯 罪 の実 行 に重 要 な役 割 を一体 とな っ て行 お う とい う行 為 者 間 の意 思 連 絡 は存 在 しな い。 被 告 人 は 単 に そ の よ うな警 護 を黙 認 して い た だ け で、 そ れ だ けで 「共 謀 」 が あ った とみ る こ とは で きない 。 西原 博 士 が 、 被 告 人 とス ワ ッ トら との実 態 とい う客 観 的要 因の 存 在 に よ って本 件 に 「共 謀 」 を認 め られ るの で あれ ば、 そ して、 そ れが 西 原 説 にお け る 「共 謀 」 概 念 の内 容 で あ る な ら ば、 そ れ は共 謀共 同正 犯 成 立 拡 大 へ 向 け て の思 考 で あ っ て、 到 底 容 認 で き ない 。 また 、西 原 博 士 は言 及 され なか っ たが 、 本 件 決 定 が 共 謀 を 黙 示 的 意 思 連 絡 で足 りる とす るの は問 題 で あ る 。前 述 の如 く、 共 謀 共 同正 犯 にお い て は 、 「共 謀 」 が 認 め られ れ ば 実行 行為 を行 わ な か っ た もの も実 行 行為 者 と同 様 に処罰 され るの で あ るか ら、刑 法 の謙 抑 性 ・罪 刑 法 定 主 義 に基 づ く明確 性 にて ら して、 共 謀 に は明 示 の 意思 連 絡 を要 す る と解 す べ き

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148 京 女 法学 第1号 で あ る。 この よ うに して、 本 件 決 定 の結 論 は失 当 で あ り、 練 馬 事 件 判 決 に 対 す る判 例 違 反 と して取 り扱 わ れ るべ き もの で あ っ た。 なお 、 本 件 調査 官 解 説 に よれ ば、練 馬事 件 判 決 以 降 に は、 共 謀共 同正 犯 の 事 案 で 、 黙示 的意 思連 絡 で足 りる と した もの は存 在 しな い とい う こ とであ り、 また 、本 決定 には、 実 質 的客 観 説 的観 点 か らの 考 慮 、 主 観 説 的観 点 か らの 考 慮 の い ず れ もが含 まれ て い る よ うに 思 わ れ る との こ とで あ る( )。実 質 的客 観 説 と主観 説 とは相 反 す る見 解 で あ るか ら、 こ の よ うな調 査 官 解 説 が 出 され る点 に お い てす で に本件 を共 謀 共 同正 犯 で 有 罪 とした判 旨 に は問 題 が あ る とい わ な け れ ば な らない(11)。 4 拳 銃等不 法所 持 ・S事 件(最 決 平成17・11・29裁 判集[刑 事]288号543頁) ① 【事 実 の概 要】 本 件 公 訴 事 実 に よれ ば、 被 告 人Sは 五 代 目山 目組 若 頭 補 佐 兼 甲野会 会 長 で あ るが 、 会 長 秘 書Kと 共 謀 の 上 、 平 成9年9月20日 午 前10時40分 こ ろ、 大 阪 ヒ ル トンホ テ ル1階 南 側 出入 口前 通 路 上 に お い て、 けん 銃 一 丁 を これ に適 合 す る実 包6発 と共 に携 帯 所 持 し、 また 、 同会 乙 山組 組 員Mと 共 謀 の 上 、 前 記 日時 ころ 、前 記 ホ テ ル1階 メ イ ン ロ ビー にお い て、 け ん銃1丁 を これ に 適合 す る実 包5発 と共 に携 帯 所 持 した もの で あ る。 こ れ に対 して 、 被 告 人 及 び 弁 護 人 らは共 謀 を否 定 し被 告 人 は 無罪 で あ る と主 張 した 。 第 一 審(大 阪地 裁)は 、 本 件 事 実 につ き詳細 な検 討 を加 えた 上 、 「以 上 の事 情 を総 合 す る と、被 告 人 にお い て、K及 びMが け ん銃 を所 持 して被 告 人 を警 護 して い た こ とを認 識 し、 これ を容 認(許 容)し てい た とす る には 、 な お 合 理 的 な疑 い が残 る とい わ ざ る を得 ない 」 と判 示 して、 被 告 人 を無 罪 と し た(判 時1746号159頁)。 検 察 側 の 控 訴 に対 し、控 訴 審(大 阪 高 裁)は 、 第 一 審 を破 棄 し、被 告 人 を懲 役6年 に処 した 。控 訴 審 も、 原 審 の 事 実 認 定 に つ いて 突 っ込 ん だ考 察 を加 えそ の 結 論 を示 した 。被 告 人 の 認 識 ・認容 に つ い て は、 「被 告 人 は、 い わ ゆ る 親 衛 隊 の構成 員 や そ の指 揮 者 で あ るKら に 対 し、 け ん銃 等 を携 帯 所 持 して警 護 す る よ う に直 接 指 示 を下 さな くて も、

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共 謀 共 同正 犯 にお ける 「共謀 」概 念(立 石) 149 本 件 当時 の情 勢 下 に お い て阪 神 方 面 に 出掛 け る被 告 人 に同 行 す る に 当 た っ て は 、 これ らの者 の一 部 が 被 告 人 を警護 す る ため 自発 的 にけ ん銃 等 を携 帯 所 持 して い る こ と を、 少 な くと も概 括 的 とは い え確 定 的 に認 識 しなが ら、 そ れ を 当然 の こ と と して受 け入 れ て 認容 して いた もの で あ り、他 方 、K及 びMも 、被 告 人 の こ の よ うな意 思 を察 して い た もの と認 め られ る」 と論 じ、 共 謀 共 同 正 犯 の成 否 につ い て は、 「被 告 人 とK及 びMと の 問 に は、各 自の け ん銃 等 の携 帯 所 持 につ き、 そ れ ぞ れ黙 示 的 な意 思 の 連絡 が あ っ た とい え る。 ま た、 被 告 人 とMと の 問 にお い て も、Kを 媒介 とす る順 次 共 謀 を殊 更 観 念 せ ず と も、 直 接 的 な意 思 の 連絡 が あ った とい え る。 さ らに、 上 記 両 名 は、 被 告 人 の 警 護 の ため けん銃 等 を携 帯 所 持 しなが ら、役 職 の違 い に応 じ た若 干 の 距 離 の 違 い は あ れ 、 そ の こ と に よ っ て警 護 の効 果 を高 め なが ら、 いず れ も被 告 人 の 近 辺 にい て被 告 人 と行 動 を共 に して い た もの であ り、 両 名 に対 す る指 揮 命 令 の権 限 を有 す る被 告 人 の 地 位 及 び 両名 に よる警 護 を受 け る とい う被 告 人 の 立 場 を併 せ 考 え れ ば、 実 質 的 に は 、正 に被 告 人 が 両 名 に本 件 け ん銃 等 をそ れ ぞ れ所 持 させ てい た と評 し得 る(最 高裁 判 所 平 成15 年5月1日 第1小 法 廷 決 定 。刑 集57巻5号507頁 参 照)。 したが って 、 被 告 人 に は、 本 件 けん銃 等 の 各携 帯 所 持 につ い て 、 両 名 との 問 に そ れぞ れ 共 謀 共 同正 犯 が 成 立 す る とい わ な け れ ば な らない 」 と論 じて い る(判 時1881号 140頁)。 【判 旨】 「上 告 趣 意 の う ち、 …判 例 違 反 を い う点 は 、 い ず れ も事 案 を異 にす る判 例 を引 用 す る もの で あ って 、本 件 に適 切 で な く、 そ の余 は、 憲 法 違 反 をい う点 を含 め 、実 質 は単 な る法 令 違 反、事 実誤 認 、再 審事 由 の主 張 で あ って 、 刑 訴 法405条 の 上 告 理 由 に当 らな い。 ま た、 所 論 に か んが み記 録 を精 査 して も、 同法411条 を適 用 す べ き もの とは認 め られ ない(被 告 人 は、 本 件 当時 、 配 下 の組 員 らが被 告 人 に 同行 す る に当 た り、 そ の う ち一 部 の者 が 被 告 人 を警 護 す る た め け ん銃 等 を携 帯所

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150 京女 法学 第1号 持 して い る こ とを、 概 括 的 とは い え確 定 的 に認 識 し認容 して い た もの で あ り、 実 質 的 に は これ らの 者 に本件 け ん銃 等 を所 持 させ て い た と評 し得 る な ど と して 、本 件 け ん銃 等 の携 帯所 持 につ い て被 告 人 に共謀 共 同正 犯 が 成 立 す る と した 原判 決 は、 正 当 と して 是 認 で きる。)」。 ② 本 決 定 は、上 掲 ス ワ ッ ト事 件 決 定 を無批 判 ・無 定 見 に踏襲 した もので あ る。 本 件 にお い て、K, Mが 実 包 入 りの け ん銃 を携 帯所 持 して い る こ とを 被 告 人 が 「概 括 的 とはい え確 定 的 に認 識 しな が らそれ を当然 の こ と と して 受 け入 れ て 認容 」 してお り、K及 びMも 被 告 人 の この よ うな 意 思 を察 して い た こ とは、被 告 人 とK,Mと の 間 に、 けん銃 不 法 所 持 につ い て 意思 連 絡 が あ った こ と を意 味 しない 。 被 告 人 の 認 識 ・認容 、 な らび に、K及 びMの 心 理 状 態 は 、相 互 に あ くまで 片 面 的 な もの で あ り、 そ こ に は、 「黙 示 的 な 意 思 連 絡 」 の存 在 す る余 地 も全 くない 。 この よ うな場 合 に共 謀 が あ っ た と い うこ とは 「強 弁」 以 外 の な に もの で もない 。 練 馬事 件 の 共 謀 概 念 は、 「二 人 以上 の 者 が 、 特 定 の 犯 罪 を行 うた め、 共 同意 思 主 体 の 下 に一体 とな っ て互 に他 人 の行為 を利 用 し、 各 自の 意 思 を実 行 に移 す こ とを内容 とす る謀 議 を な」 す こ とで あ っ た。 これ を本 件 に 当 て は め る と、 け ん銃 不 法所 持 を行 うた め に、 二 人 以 上 の者 が 共 同意 思 主体 の 下 に一 体 とな って 互 に他 人 の行 為 を利 用 し、 各 自の意 思 を実 行 に移 す こ と を 内容 とす る謀 議 を行 う こ とが 必 要 で あ るが 、 本件 で は、 そ の よ うな 要 件 は 充足 され てい ない 。本 件 決 定 もス ワ ッ ト事 件 決 定 も明 らか に練 馬 事件 判 決 に対 す る判 例 違 反 を犯 す もの で あ る。 練 馬事 件 は共 謀 者 が犯 行 現 場 に存 在 しな か った 事案 で あ り(事 前 共 謀)、 本 件 及 び ス ワ ッ ト事件 は共 謀 者 が犯 行 現 場 に存在 して い た事 案 であ るか ら (現場 共 謀)、 事 案 が 異 な る と して、 ス ワ ッ ト事 件 を もっ て新 しい判 例 を確 立 す る もの で あ る な ど とは 決 して考 え て は な らない 。共 謀 共 同正 犯 の 成 否 は 、 共謀 の存 否 、 共 謀参 画者 の 内 の誰 か の実 行 行 為 の有 無 、 に よって 決 定 され る もの だ か らで あ る 。

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共 謀 共 同正 犯 にお ける 「共謀 」概 念(立 石) 151 な お、 付 言 す れ ば、 本稿 注11)で と りあ げ た実 質 的 客観 説 の 判 断手 法 は 妥 当 とは思 え ない 。 本件 で は 、 そ の 判 断手 法 が 用 い られ た が 、 第 一審 と控 訴 審 で は全 く異 な った 結 論 に到 達 した。 こ の判 断 手 法 に よ るか ぎ り、 共 謀 共 同正 犯 成 立 拡 大 認 定 の 惧 れ を払拭 で きな い とい う こ と を銘 記 すべ きであ る 。 5 廃 棄 物 不 法 投 棄 事 件(最 決 平 成19・11・14刑 集61巻8号757頁) ① 【事 実 の概 要 】 最 高裁 の説 く とこ ろ に よれ ば 、本 件 は、神 奈 川 県横 須 賀 市 に本 店 を置 き、 港 湾 運 送 事 業 、 倉庫 業 等 を営 む 被 告 人相 模 運 輸倉 庫 株 式 会社(以 下 「被 告 会 社 」 とい う)の 代 表取 締役 等 で あ っ た その 余 の被 告 人 ら(以 下 「被 告 人 5名 」 とい う)に お い て 、被 告 会社 が千 葉 市 内 の借 地 に保 管 中 の、 い わゆ る硫 酸 ピ ッチ 入 りの ドラム缶 の処 理 を、 その 下 請 会社 の代 表者 で あ っ たW に委 託 した とこ ろ、同 ドラム缶 が北 海道 内の 土 地 に 捨 て られ た こ とにつ き、 被 告 会 社 の業 務 に関 し、Wら と共謀 の上 、 み だ りに廃 棄物 を捨 て た もの と して、 廃 棄 物 の 処 理 及 び清 掃 に関 す る法 律 所 定 の 不 法投 棄 罪 に問 わ れ た事 案 で あ る。 【判 旨】 「原判 決 が 是 認 す る第1審 判 決 の 認 定 に よれ ば、Wに お い て 、 被 告 会社 が 上 記 ドラ ム缶 の処 理 に苦慮 して い る こ とを聞 知 し、 そ の 処理 を請 け負 っ た上 、 仲 介 料 を取 つて他 の 業者 に丸 投 げす る こ とに よ り利 益 を得 よ う と考 え、 そ の処 理 を請 け負 う 旨被 告 会社 に対 し執 よ う に 申 し入 れ た と ころ、 被 告 人5名 は、Wや 実 際 に処 理 に当 た る者 らが 、 同 ドラム 缶 を不 法投 棄 す る こ とを確 定 的 に認 識 して い た わ け で は な い もの の 、不 法投 棄 に及 ぶ可 能 性 を 強 く認 識 しなが ら、 そ れ で もや む を得 な い と考 え てWに 処 理 を委 託 した とい うの で あ る。 そ うす る と、被 告 人5名 は、 そ の後Wを 介 して共 犯 者 に よ り行 わ れ た 同 ドラム 缶 の不 法 投 棄 につ いて 、 未 必 の 故 意 に よ る共 謀 共 同 正 犯 の責 任 を負 う とい うべ きで あ る。 こ れ と同 旨の 原 判 決 は正 当 で あ る。」

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152 京 女法 学 第1号 ② 本 決 定 の 説 くと ころ はあ ま りに も簡 略 で あ り、 判 示 内 容 につ い て は極 め て不 十分 で あ る との誇 りを免 れ ない 。 そ こで 、本 決 定 が 原 判 決 を同 決 定 と 同 旨 で あ って 正 当 で あ る と評 して い る と こ ろか ら、 本稿 に関 係 の あ る箇 所 を本 件 控 訴 審判 決(札 幌 高等 裁 判 所 平 成19年1月18日 判 決)よ り引 用 して 、 検 討 す る。 控 訴 審判 決 に よれ ば、Wは 、被 告 会社 か ら委 託 を受 け るや 「無 資格 の東 明 に丸投 げ してい るの で あ って 、Wが 本 件 ドラム 缶 が 最 終 的 に不 法 投 棄 され る蓋 然 性 が 高 い との 認 識 を有 し、 か つ、 その こ と を認 容 して い た の は明 らか で あ り、Wも 捜 査段 階 で そ れ を認 め て い る。 そ こで 、 被 告 人 ら とWと の 共 謀 が認 め られ るか につ い て検 討 す る に、 共 謀 共 同正 犯 が 成 立 す る に は、 二 人 以上 の者 が 、 特 定 の 犯 罪 を行 うた め、 共 同 意 思 の 下 に一 体 とな っ て互 い に他 人 の行 為 を利 用 し、 各 自の 意思 を実 行 に移 す こ と を内 容 とす る謀 議 を な し、 よって 犯 罪 を実 行 した 事 実 が認 め られ な けれ ば な らな い。 そ こで い う共謀 共 同正 犯 の 要 件 と して の 謀議 は、 実 行 共 同正 犯 にお け る よ うな意 思 の 連絡 で は足 りない が 、 当 該 犯 罪 につ い ての 客 観 的 ・具 体 的 な謀 議 が あ る場合 に 限 らず 、 そ の 犯 罪 を共 同 して 遂行 す る こ との合 意 が あ る こ とで足 りる。 そ して、 共 同遂 行 の 合 意 が あ った とい うに は、 被 告 人 の 地 位 、立 場 、 共 犯者 との 関係 、 犯 罪 遂 行 過 程 にお け る役 割 、 犯 行 の動 機 等 を総 合 的 に勘 案 し、他 人 の行 為 を利 用 して 自己 の犯 罪 を行 っ た とい え る よ うな場 合 で あ る こ とを要 す る と解 さ れ る」 と述 べ 、 さ らに、 「被 告 人 らは、 自 らは実 行 行為 者 とは な らな い もの の、 相 東 運 輸 との 間で 同社 以 下 の 関与 者 を使 い、そ の 行為 を利 用 して 自己 の 犯 罪 を行 った もの とい うべ きで あ る。 結 局 、被 告 人 らにはWら との共 謀 が 認 め られ るの で あ っ て、 未 必 の故 意 な い し順 次 共 謀 の 点 は この結 論 を左 右 しな い」 とい う こ とで あ る(刑 集61巻 8号587頁 以 下)。 控 訴審 判 決 は、共謀 概 念 につ き基 本 的 に は練 馬 事件 判 決 に従 っ て い るが 、 そ の 謀 議 の 内容 につ き、 「共 同遂 行 の合 意 」 と して幾 つ か の 客 観 的 要 件 を 掲 げ た 。 「共 謀 」概 念 と して、 こ れ は注 目す べ き見 解 で あ る 。練 馬 事 件 の

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共謀 共 同正犯 におけ る 「共 謀」概 念(立 石) 153 延 長 線 上 で 共 謀 概 念 を考 え よ う と した 点 は評 価 で きるが 、 「共 同 遂 行 の合 意 」 と して 客 観 的 要件 を掲 げ た点 で こ の控 訴 審判 決 を支 持 し得 な い。 謀 議 の 内 容 に客 観 的 要 素 を加 え れ ば、 控 訴 審 は実務 に お け る主 観 説 を採 用 して はい るが 、 謀 議 存 否 の 判 断 を め ぐっ て実 質 的客 観 説 の手 法 に従 わ ざ る を得 ず 、 共 謀 の 存 否 をめ ぐっ て恣 意 的判 断 の介 入 を阻止 で きな い。 本 件 にお い て も、Wと 被 告 人 等 との 問 で は廃 棄 物 不 法投 棄 に つ い て は語 り合 われ て い ない の で あ り、 意 思 連 絡 は存 在 しな い ので あ っ て 、私 見 で は共 謀 の存 在 は 否 定 され るが 、 本 件 で は そ の存 在 が 肯 定 され て い る。 ス ワ ッ ト事 件 とは異 な り 「黙 示 の意 思 連 絡 」 の存 在 も説 か れ てい な い の で あ る か ら、 本 件 に意 思 連 絡 を要 す る共 謀 を認 め る の は無 理 で あ る。 謀 議 の 内容 に客 観 的要 素 を 含 ませ 、 そ れ らを充足 す る か ら 「主観 説 」 の 立 場 よ り 「共 謀 」 が あ る とす るの は、 現 実 に は存 在 しな い謀 議 を存 在 す る と擬 制 す る こ とに よっ て得 ら れ た結 論 で あ っ て到 底 賛 同 し難 い 。 控 訴 審 の 判 断 は 失 当 で あ り、 そ れ 故 、 ま た、 本 最 高 裁 決 定 も失 当 で あ る。 ま た、 本 件 決 定 は未 必 の故 意 に よる共 謀 共 同 正 犯 を認 め た 。 しか し、 廃 棄 物 不 法 投 棄 罪 につ き、Wも 未必 の故 意 で、 被 告 人 らも未 必 の故 意 で、 そ れ ぞ れ別 個 に行 為 し、 そ れ で廃 棄 物 不 法投 棄 罪 の 共 謀 が 成 立 す る と解 す る の は、 意 思 連 絡 の 内容 が あ ま りに も曖 昧 で あ り、 「共 謀 」 の根 拠 が 極 め て 薄弱 で あ る。 そ こ で は、 罪刑 法 定 主 義 に基 づ く明 確 性 の 原則 も充足 され て お らず 刑 法 の謙 抑 性 の 思 想 も存 在 しな い。 す で に何 度 も論 じて きた如 く、 共 謀 共 同正 犯 の成 立 を認 め る とい う こ とは、 実 行 行 為 を行 わ な い 者 を も共 同正 犯 と して処 罰 す る こ とで あ るか ら、 共謀 共 同正 犯 論 が 背 後 の 大物 処 罰 とい う刑 事 政 策 的意 図 を有 す る と して も、 そ こ に は厳 格 な歯 止 め が な け れ ば な ら な い。 「共 謀 」 には確 定 的 故 意 の存 在 が 不 可 欠 なの で あ り、 未 必 の 故 意 で足 りる と解 す る の は不 十 分 で あ る。 そ の意 味 にお い て も本 決 定 は 失 当 で あ る 。

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154 京 女法学 第1号 6 拳銃 等不 法所 持 ・X事 件(最 判 平成21・10・19裁 判集 〔刑 事〕297号489頁) ① 【事 実 の概 要 】 本 件 公 訴事 実 に よれ ば、被 告 人Xは 、 暴 力 団五 代 目 甲野組 若 頭 補 佐 兼 乙 原 会 総 長 で あ るが 、 同 会 幹 部兼 丙 村 会 会 長 補 佐 北 川 こ と南 田太 郎 と共 謀 の 上 、 平 成9年9月20日 午 前10時40分 こ ろ、 大 阪市 内Aホ テ ル南 側 出入 り口 前 通 路 上 に お い て、 けん銃1丁 を これ に適 合 す る実 包10発 と共 に不 法 に携 帯 所 持 し、 また、 同会 幹 部兼 丙 村 会 会 長 補 佐 東 山一 男 と共 謀 の上 、 上 記 日 時 場 所 にお い て、 け ん銃1丁 を これ に適 合 す る実 包10発 と共 に不 法 に携 帯 所 持 した もの で あ る。 第1審 判 決(大 阪地 裁)は 、南 田太 郎(以 下 「太 郎 」 とい う)及 び東 山一 男(以 下 「一男 」 とい う)が 被 告 人 を警 護 す る役 目の ボデ ィ ガー ドで あ って 、 この よ うな太 郎 らが被 告 人 を警護 す るた め に本 件 けん 銃 等 を所 持 してい る こ と を被 告 人 と して も、 概 括 的 にせ よ確 定 的 に認 識 しなが らそ れ を 当然 の こ と と して 受 け入 れ て認 容 し、 同 人 ら も これ を承 知 して い た と推 認 され るの で あ れ ば 、被 告 人 と太 郎 及 び一男 との 問 に け ん 銃 等 の 所 持 に関す る黙 示 的 な 意 思 の 連絡 が あ っ た もの と認 め られ るが、 本 件 で は、全 証 拠 を総 合 して も、被 告 人 に お い て、 太 郎 及 び 一男 が け ん銃 等 を携 行 して警 護 して い る もの と概 括 的 にせ よ確 定 的 に認 識 し なが ら、 そ れ を受 け入 れ て容 認 してい た とす る に は い まだ合 理 的 な疑 い が残 る と して無 罪 を言 い渡 した。 こ れ に対 し、検 察側 が事 実 誤 認 を理 由 に控 訴 した が 、原 判 決(大 阪 高 裁)は 、 詳 細 な判 断 を展 開 し、 第1審 に は事 実 誤 認 はな い と して、 検 察 官 の控 訴 を棄 却 した 。 【判 旨】 「主 文 原 判 決 及 び 第1審 判 決 を破 棄 す る。 本 件 を大 阪地 方 裁 判 所 に差 し戻 す 。」 最 高裁 は 「理 由 」 中 にお い て、 本 件 に関 す る詳細 な事 実 認 定 に 関す る判 断 を展 開 し、 「前 記(1)な い し(6)で 述 べ た と こ ろ に よれ ば 、 乙原 会 幹 部 で あ る太 郎 と一 男 は、JR浜 松 駅 か ら本 件 ホ テル ロ ビー に至 る まで の 間、 丁 木会 か らの けん銃 に よ る襲 撃 に備 え て け ん銃 等 を所 持 し乙原

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共 謀共 同正 犯 にお ける 「共謀 」概 念(立 石) 155 会 総 長 で あ る被 告 人 の警 護 に当 た っ て い た もの で あ る と ころ、 被 告 人 もそ の よ うな け ん銃 に よる襲 撃 の危 険性 を十 分 に認 識 し、 これ に対 応 す るた め 配 下 の太 郎 、 一 男 らを 同行 させ て警 護 に 当 た らせ て い た もの と認 め られ る の で あ り、この よ う な状 況 の も とにお い て は 、他 に特 段 の 事情 が な い 限 り、 被 告 人 に お い て も、 太 郎 、 一 男 が け ん銃 を所 持 して い る こ と を認 識 した上 で 、 そ れ を 当然 の こ と と して 受 け入 れ て容 認 して い た もの と推 認 す るの が 相 当 で あ る。 け ん銃 等 の所 持 の 共 謀 が認 め られ ない と した 第1審 判 決 及 び これ を是 認 した原 判 決 に は重 大 な事 実誤 認 の疑 い が あ る」 と述 べ て、 本 件 を大 阪地 裁 に差 し戻 した ので あ った 。 ② 本件 は、 上 掲 「3、 拳 銃 不 法所 持 ・S事 件 」 と 同 じ 日時 、場 所 で発 生 し た 事 件 で あ っ た 。S事 件 で は、 「第1審 無 罪 ・控 訴 審 有 罪 ・最 高 裁 有 罪 」 で あ っ た の に 対 し、 本 件 で は、 「第1審 無 罪 ・控 訴 審 無 罪 ・最 高 裁 有 罪 」 とい う構 図 とな っ た。 こ の点 に事 実 認定 の難 しさが 窺 え る。特 徴 的 で あ る の は 、S事 件 と本 件 で は、 第1審 が 共 に無 罪 で あ り、 最 高 裁 が 共 に有 罪 で あ って、 最 高 裁 の方 が有 罪 の 事 実 認 定 に傾 斜 して い る とい う こ とで あ る。 た だ、 私 見 に お い て い え る こ と は、 ス ワ ッ ト事 件 にお いて 既 に最 高裁 の 「共 謀 」 概 念 を否 定 した以 上 、S事 件 も本 件 も所 詮 は支 持 し得 ない 共 謀 共 同 正 犯 をめ ぐる事 実認 定上 の見 解 の 相違 で あ っ て、 改 め て論 ず る事 柄 は何 も ない とい う こ とで あ る。 ス ワ ッ ト事 件 以 降 の 最 高 裁 の共 謀 概 念 は修 正 ・ 変 更 され て然 るべ きで あ る。

N

お わ りに

1 上 述 の 如 く、 ス ワ ッ ト事 件 以 降 の最 高 裁 の 「共謀 」概 念 は こ とご と く妥 当 で な い。 最 高 裁 は、 「共 謀 な き共 謀 共 同正 犯 」 を認 め て、 共 謀 共 同正 犯 につ き処 罰 の 拡 大 化 を意 図 して い るの で は ない か と さ え思 わ れ る。 最 高裁 は ス ワ ッ ト事 件 以 降 の 共 謀概 念 を廃 棄 す べ きで あ り、 そ の こ とを強 く提 言

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156 京 女 法学 第1号 す る 次 第 で あ る 。 2 判 例 上 現 れ た 共 謀 概 念 と して は 、 練 馬 事 件 判 決 の そ れ を 支 持 し た い 。 す で に 、 何 度 もみ た よ う に 、 練 馬 事 件 判 決 の 共 謀 概 念 は 、 「二 人 以 上 の 者 が 、 特 定 の 犯 罪 を 行 う た め 、 共 同 意 思 主 体 の 下 に 一 体 と な っ て 互 に他 人 の 行 為 を 利 用 し、 各 自 の 意 思 を 実 行 に 移 す こ と を 内 容 と す る 謀 議 を な 」 す こ と で あ っ た 。 こ こ で 用 い ら れ た 「謀 議 」 と い う 文 言 を め ぐ っ て は 色 々 な 見 解 が 展 開 さ れ た 。 我 々 は 、 そ の 言 葉 の 持 つ 本 来 の 意 味 か ら 出 発 す べ きで あ る 。 語 源 的 に み れ ば 、「謀 議 」 と は 、 「計 画 し相 談 す る こ と 」(前 掲 、「広 辞 苑 」)、 あ る い は 、 「物 事 を相 談 し て 計 画 す る こ と 」(前 掲 、 「学 研 新 漢 和 辞 典 」) で あ る 。 して み れ ば 、練 馬 事 件 の 場 合 も、「謀 議 を な す 」 と い う こ と は 、「計 画 し相 談 す る 」 と素 直 に 理 解 す れ ば 良 い の で は な い か 。 3 そ の よ う な 思 考 を 前 提 と して 、わ た く し は 、「共 謀 と は 、二 人 以 上 の 者 が 、 特 定 の 犯 罪 を行 う た め 、 相 互 に 犯 罪 の 実 行 に 重 要 な 役 割 を 一 体 と な っ て 行 お う と い う 、 行 為 者 間 の 意 思 連 絡 を い う 」 と 定 義 し た 。 こ れ は 主 観 的 謀 議i 説 と称 さ れ るべ き概 念 で あ る 。 こ の よ う な 私 見 に対 し て は 、あ る い は 、「重 要 な 役 割 」 と は何 か 、 とい う 疑 問 が 呈 さ れ る か も し れ な い 。 しか し、 そ れ は 、 規 範 的 な 要 素 で あ る が 故 に 、 具 体 的 ・評 価 的 ・実 質 的 に 判 断 さ れ る 他 は な い 。 ち な み に 、 わ た く しは 、 正 犯 概 念 に つ き 「重 要 な役 割 説 」 を 採 っ て い る 。 共 謀 概 念 と共 謀 共 同 正 犯 成 否 の 関 連 に 配 慮 す る も の と 理 解 い た だ け れ ば 幸 い で あ る 。 注 (1)こ の 点 に つ い て の 私 見 に 関 して は 、 拙 著 、 『刑 法 総 論 〔第3版 〕』(2008年 、 成 文 堂) 298頁 以 下 を参 照 さ れ た い 。 な お 、 最 近 で は 共 同 意 思 主 体 説 に よ りつ つ 共 謀 共 同 正 犯 論 を 支 持 す る見 解 は 見 受 け ら れ な く な っ た とす る 叙 述 に 時 と し て 接 す る が 、 今 日、 共 同 意 思 主 体 説 に よ りつ つ 共 謀 共 同 正 犯 論 を 支 持 す る 見 解 と して は 、 私 見 の ほ か に 、 西 原 春 夫 『刑 法 総 論 改 訂 準 備 版 〔下 巻 〕』(1994年 、成 文 堂)376頁 、390頁 、岡 野 光 雄 『刑 法 要 説 総 論 〔第2版 〕』(2009年 、成 文 堂)297頁 以 下 、山本 雅 子 『実 質 的 犯 罪 論 の 考 察 』

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共 謀共 同正犯 におけ る 「共 謀」 概 念(立 石) 157 (2007年 、 成 文 堂)155頁 以 下 、 鈴 木 彰 雄 「共 謀 共 同 正 犯 に お け る 『共 謀 』 の 射 程 に つ い て 」 『立 石 二 六 先 生 古 稀 祝 賀 論 文 集 』(2010年 、 成 文 堂)509頁 以 下 、 等 が あ る こ と を 申 し添 え て お きた い 。 (2)下 村 康 正 『共 謀 共 同 正 犯 と共 犯 理 論 』(1975年 、 学 陽 書 房)142頁 。 同 旨 、 大 塚 仁 ほ か 編 『大 コ ン メ ン タ ー ル 刑 法(第2版)・ 第5巻 』(2002年 、 青 林 書 院)307頁 。 (3)か つ て 、 藤 木 博 士 は 、 こ の 練 馬 事 件 判 決 に つ き、 「こ れ は 、 他 人 の 行 為 を手 段 と して 犯 罪 を 行 う 点 を 重 視 して 、 共 同 意 思 主 体 説 を は な れ 、 個 人 責 任 の 見 地 か ら共 謀 者 の 正 犯 性 を根 拠 づ け よ う とい う努 力 の あ らわ れ と見 る べ き」(藤木 英 雄 「共 謀 共 同正 犯 」ジ ュ リ ス ト別 冊27号91頁)で あ る と評 価 さ れ 、 間 接 正 犯 類 似 説 を展 開 さ れ る に い た っ た が 、 練 馬 事 件 判 決 は 、 「共 同 意 思 の 下 に 一 体 と な っ て 」 と述 べ て い る の で あ っ て 、 そ の 措 辞 に お い て 共 同 意 思 主 体 説 か ら離 脱 して い る とは 解 せ な い 。 拙 著 ・注)1文 献 ・307頁。 同 旨 、 下 村 ・注2)文 献 、74頁 。 (4)岩 田 誠 「判 解 」 『最 高 裁 判 所 判 例 解 説 刑 事 篇 昭 和33年 度 』(1973年 、法 曹 会)405頁 以 下 。 (5)西 原 春 夫 「憂 慮 す べ き 最 近 の 共 謀 共 同 正 犯 実 務 一 最 高 裁 平 成17年11月29日 第 一 小 法 廷 判 決 を 中 心 に一 」 『刑 事 法 ジ ャ ー ナ ル ・3号 』(2006年)55頁 。 (6)下 村 、 注2)文 献 ・139頁 。 (7)松 原 芳 博 「共 謀 共 同 正 犯 と行 為 主 義 一 最 高 裁 平 成 一 五 年 五 月 一 日 決 定 ・同 平 成 一 七 年 一 一 月 二 九 日 決 定 を 契 機 と して 一 」 『鈴 木 茂 嗣 先 生 古 稀 祝 賀 論 文 集 上 巻 』(2007年 、 成 文 堂)533頁 。 (8)西 原 、 注5)・ 文 献 ・58頁 。 (9)西 原 、 注5)・ 文 献 ・57頁 ∼58頁 。 (10)芹津 政 治 「判 解 」 『最 高 裁 判 所 判 例 解 説 刑 事 篇 平 成15年 度 』(2006年 、 法 曹 会)295頁 以 下 。 ⑳ 実 務 家 の 間 に お い て は 、 被 告 人 と 実 行 犯 の 間 に 犯 行 に つ い て の 意 思 連 絡 が あ っ て も、 如 何 な る場 合 に 共 謀 共 同 正 犯 と さ れ 、 如 何 な る 場 合 に狭 義 の 共 犯 と さ れ る の か の 判 断 基 準 が 問 題 と され て い た 。 こ の 判 断 基 準 を め ぐ っ て は、 ① 実 質 的客 観 説(犯 罪 の 遂 行 に 際 し、 実 行 の 分 担 に 匹 敵 し又 は こ れ に 準 ず る よ う な重 要 な 役 割 を演 じた か 否 か を 基 準 とす る 説 、あ る い は 、実 行 行 為 者 の 行 為 を支 配 した と い え る か 否 か を基 準 とす る 説)、 ② 主 観 説(「 自 己 の 犯 罪 」 を行 っ た も の で あ る か 、 「他 人 の 犯 罪 」 を行 っ た も の で あ る か を基 準 と す る 説)、 ③ 共 謀 参 画 説(共 同 意 思 主 体 説 を 前 提 に 、 共 謀 に 参 画 した か 否 か を基 準 とす る説)等 に分 類 す る 見 解(小 林 充 「共 同 正 犯 と狭 義 の 共 犯 の 区 別 」 曹 時 51巻8号1頁)が 有 力 に主 張 さ れ て い る 。 そ して 、 一 般 に は 、 練 馬 事 件 以 降 の 下 級 審 判 例 は 、 主 観 説 的 な考 え が 中 心 に な っ て い る と説 か れ て い る(西 田典 之 「共 謀 共 同 正

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158 京 女 法学 第1号 犯 につ い て」 『平 野龍 一先 生古稀 祝 賀論 文集 上巻』(1990年 、有斐 閣)378頁)。 私見 は、 被 告人 と実行 犯 との 間の意 思 連絡 が本 文 に述 べ た私 見 にお け る共謀概 念 と一致 す る の で あ れ ば、共 謀参 画説 を妥 当 と解 す る。実 質 的客 観 説 は実行 共 同正犯 を想起 させ る も の で妥 当 で な く、 主観 説 は主観 的正 犯 概念 に通ず る もので妥 当 で ない。 私見 は上 記 の 意 味 で共 謀参 画説 を支持 す るが、 要 は 「共 謀 」概 念 の 内容 で あ り、 私見 の共謀 概 念 は 主観 的 謀議説 と呼 ばれ るのが一 番ふ さわ しい と考 え る。

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