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4Kデジタルが実現する映画の新たなビジネスアーキテクチャー

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4K

デジタルが実現する映画の新たな

ビジネスアーキテクチャー

産 業 構 造 と 法 律 の 改 革

松尾未亜

野口幸司

100年におよぶ映画の世界は、トーキー(音声を伴った映画)

、カラーに次ぐ

第3の技術革新により、4Kデジタルの時代を迎えつつある。4Kデジタル技

術は、巨大スクリーンで臨場感溢れる高精細の映像体験を実現する。

2006年6月23日午前4時、TOHOシネマズ六本木の巨大スクリーンは、サッ

カーのワールドカップを観戦するサポーターの熱狂に揺れた。スクリーン前に

集まった人々は、ドイツから送られる試合のデジタルライブ映像に見入った。

世界規模でのデジタルシネマの普及は、2007年以降本格化する。ネットワー

ク映像機器につながったスクリーンは、もはや映画のためだけのものではな

い。スポーツイベントやコンサート、演劇など、多様な映像コンテンツを上映

することが可能になる。

4Kデジタルが、100年にわたりフィルム映画が培ったビジネスアーキテク

チャーの革新を促す。デジタルシネマスクリーンのネットワーク化により、コ

ンテンツ流通の効率化が進む。同時に、従来の制作、配給、興行の各プレーヤ

ーの位置付けと役割に変化が起こり、新規プレーヤーの参入も可能となる。

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4Kデジタル時代を迎える

映画産業

トーキー、カラーに次ぐ、映画史上 第3の技術革新、4Kデジタルの時代が 到来しつつある 1891年、アメリカの偉大な発明家トーマ ス・エジソンと助手のウィリアム・ディクソ ンが46フレーム/秒の撮影キネトスコープを 発明し、ニューヨークにキネトスコープ・パ ーラーを開店したことから、映画が誕生し た。 100年におよぶ映画の歴史の中で、2つの 大きな技術革新が起こっている。最初の技術 革新は、無声映画からトーキー(音声を伴っ た映画)への移行であり、第2の技術革新は、 白黒映画からカラーへの移行である。 そして、現在、第3の技術革新である4K (画像の解像度が横方向約4000画素であるも の、後述)デジタル技術が実現しつつある。 4Kデジタル技術は、これまで100年以上に わたって使用されてきた銀塩フィルムにとっ て代わろうとしている。 ハリウッドメジャースタジオは、 映画会社からグローバル複合メディア 企業へと変貌を遂げた 1990年代後半から、ハリウッドメジャース タジオを中心として、映画の販路拡大を視野 に入れた業界再編が立て続けに起こった。 ウォルト・ディズニーは、アメリカの主要 な地上波テレビネットワークの一つである ABCを買収し、巨大な複合メディア企業が 誕生した。タイムワーナーは、インターネッ トプロバイダー企業であるアメリカ・オンラ イン(AOL)と合弁し、AOLタイムワーナ ーに生まれ変わった(2001年から2003年ま で。現在の社名はタイムワーナー)。また、 ヴィヴェンディ・ユニバーサル・エンタテイ ンメントとNBCの合弁により、NBCユニバ ーサルが誕生した。 映画の販路は、映画館にとどまらず、ケー ブルテレビ局や地上波テレビネットワーク、 インターネットなどへと飛躍的に拡大してい る。 ハリウッドメジャースタジオの収入は、 過去20年間で5倍に拡大している 映画会社は、映画を提供するメディアを複 数抱えることによって、一つの作品から得ら れる収入を拡大している。 映画は、作品の封切り時に映画館で上映さ れた後、インターネット配信、ビデオ・DVD などパッケージ販売とレンタル、CATV(ケ ーブルテレビ)などの有料放送、地上波の無 料放送など、複数のメディアで繰り返し提供 されている(図1)。各メディアに映画を提 供するタイミングや価格は、映画会社によっ てコントロールされている。 こうしたなか、ハリウッドメジャースタジ オ6社(20世紀フォックス、パラマウント・ これまでの業界推移 図1 映画の流通形態と流通時期 映画館 インターネット配信 封切りからの時間経過 ビデオ・DVDの販売、レンタル ペ イパー ビュ ー  ペイチャンネル 地上波テレビ コ ン テ ン ツ の 流 通 形 態 封切り 3カ月 6カ月 1年 2年 3年

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ピクチャーズ、ソニー・ピクチャーズ・エン タテインメント、NBCユニバーサル、ワー ナー・ブラザーズ・エンタテインメント、お よびウォルト・ディズニー傘下のブエナビス タ・モーション・ピクチャーズ)の収入は、 年々拡大している。図2に示すように、1980 年には6社の収入の合計は82億ドルであっ たが、10年後の1990年には198億ドルと2.4倍 に、そして2003年には411億ドルと5倍にま で拡大した。 アジア、ヨーロッパ・中東・アフリカ 地域で映画の市場が拡大している 2004年の全世界の映画興行収入は、250億 ドルであった(図3)。特に、アジアおよび ヨーロッパ・中東・アフリカ地域での増加が 大きい。アジアでは2001年の31億ドルから、 2004年には54億ドルに増加している。また、 ヨーロッパ・中東・アフリカ地域では、2001 年の40億ドルから、2004年には85億ドルにま で増加している。 北アメリカ、ラテンアメリカ市場が安定的 に推移している一方、アジアやヨーロッパ・ 中東・アフリカ地域での市場が拡大してい る。

技術標準化によりデジタルシネマが

世界の潮流へ

4Kデジタル技術の実現により、 巨大スクリーンで臨場感溢れる映像を 体験できるようになった ハリウッドメジャースタジオは、映画の制 作、配給、興行(映画館での上映)のすべて のプロセスにおいてデジタル化に取り組んで いる。 ハリウッドが導入を目指しているデジタル 最近のトピックス 図2 全世界におけるハリウッドメジャースタジオの収入合計の推移 注)ハリウッドメジャースタジオ6社:ブエナビスタ・モーション・ピクチャーズ(ウ   ォルト・ディズニー傘下)、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント、ワーナ   ー・ブラザーズ・エンタテインメント、パラマウント・ピクチャーズ、NBC ユニ   バーサル、20世紀フォックス

出所)Edward Jay Epstein, The Big Picture: The New Logic of Money and Power    in Hollywood, Random House, 2005

1980年 85 90 95 2000 03 無料テレビ 有料テレビ ビデオ・DVD 映画館 億 ド ル 0 50 100 150 200 250 300 350 450 49.0 55.7 58.7 74.8 23.4 58.7 106.0 116.7 189.0 10.41 16.2 23.4 31.2 33.6 32.6 55.9 74.1 79.2 107.5 114.0 44.0 29.6 3.8 2.0 図3 地域・国別の映画興行収入の推移

出所)Motion Picture Association 億 ド ル 2001年 02 03 04 84.1 95.2 94.9 95.3 5.2 6.0 6.9 8.0 8.0 9.0 7.9 9.1 40.9 49.5 55.8 85.3 31.4 37.9 37.9 54.6 アジア ラテンアメリカ カナダ アメリカ 0 50 100 150 200 250 300 ヨーロッパ・中 東・アフリカ

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映像の業界標準は2種類ある。「4K」とい われる、4096×2160画素、24フレーム/秒の デジタル映像と、「2K」といわれる、2048 ×1080画素、24フレーム/秒(または48フレ ーム/秒)のデジタル映像である(図4)。 2Kデジタルは、ハイビジョンレベルの高 精細画像を実現し、4Kデジタルは、ハイビ ジョンの4倍の高精細画像を実現する。つま り、劇場の大型スクリーンでハイビジョンと 同等か、それ以上の高精細デジタル映像を実 現しようというのである。 特に、4Kデジタルは画素数が多く、より 大型のスクリーンに対応できる点で、映画館 に適している。ヒトは、画面に対して水平視 野が30度を超えると、臨場感を得ることがで きるといわれている。4Kデジタルの技術に よって、600席を超える映画館の巨大スクリ ーンで、迫力溢れる映像を体験することが可 能になるのである。 ハリウッド発の規格標準化により、 4Kデジタルへの移行が現実的に なってきた 2002年3月、ハリウッドメジャースタジオ は、映画の制作、配給、興行のすべてのプロ セスをデジタル化するためのオープンアーキ テクチャーに関する仕様書を作成し、実証す ることを目的として、デジタル・シネマ・イ ニシアティブス(Digital Cinema Initiatives、 以下DCI)を設立した。 DC I には、ウォルト・ディズニー、ソニ ー・ピクチャーズ・エンタテインメント、メ トロ・ゴールドウィン・マイヤー(MGM)、 ワーナー・ブラザーズ、パラマウント・ピク チャーズ、NBCユニバーサル、20世紀フォ ックスのメジャー7社が参加している。 DCI での主な論点は、配給用の画像フォー マットや音響フォーマット、暗号方式、伝送 方式、表示形式などの技術方式の規格化であ る。 2005年7月にはこれらの検討結果が報告書 にまとめられ、事実上の業界標準として、提 示された。 報告書に先立って、2004年11月には、国際 的な標準化組織であるSMPTE(Society of Motion Picture and Television Engineers) との合同検討会を組織化するなど、国際標準 化に向けた活動も進められている。こうした なか、各種機器メーカーもDCI の規準に則っ た方式での製品開発を行っている。 映画の流通システムも変化を 余儀なくされている 映画は、銀塩フィルムに記録され、現像所 でコピーされたうえで、映画館に輸送されて いる(次ページの図5)。 2006年の大ヒット映画である『ダ・ヴィン 2,000 2,160 1,000 1,080 0 図4 4Kデジタル、2Kデジタルの映像スペック 注1)空間解像度は、水平有効画素数の値に等しい  2)HDTV:ハイ・デフィニション・テレビジョン、ハイビジョン。高精細度テレビ放送 デジタルカメラ ハイビジョン HDTV 通常のテレビ ◆ ◆ ◆ 4K映像 0 20 50 40 文 字 、 図 な ど の 情 報 が 多 い 空 間 解 像 度 ︵ 画 素 数 / フ レ ー ム ︶ フ レ ー ム / 秒 を 超 え る と 動 き を 知 覚 で き な い 時間解像度(フレーム/秒) 動きに関する情報が多い 2K映像 2K映像 ◆ ◆ ◆

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チ・コード』は、日本全国800を超えるスク リーンで公開された。すべてのスクリーンで フィルム上映するためには、800セット以上 のフィルムのコピーを作らなければならな い。また、映画館で上映するフィルムは、 35mmフィルムといわれるが、150分の映画 であればフィルム9巻で1セットとなり、そ の総重量は40kgにもなる。これだけのフィ ルムが、映画公開の直前に日本全国を大移動 していることになる。全世界同時上映ともな ると、その管理コストは大きい。 また、従来の銀塩フィルムは、コピーにか かるコストも大きい。1セットのコピー代は 20∼30万円となっており、上映スクリーンの 数だけコピー代が発生している。 銀塩フィルムがデジタルファイルによって 置き換えられることにより、映画の流通シス テムが大きく変わる。映像がデジタル信号で 記録、暗号化された瞬間に、映画のデータ は、ネットワーク経由であらゆる国・地域・ サイトに送信することが可能になる。 フィルムで撮影 ● フィルム化に手間輸送に時間コピー作成コスト輸送に時間海賊版被害のリスク即時的即時的セキュアな環境 ネットワーク、衛星など 現像所で加工・コピー 映写機で上映 フ ィ ル ム の 流 通 シ ス テ ム デ ジ タ ル シ ネ マ の 流 通 シ ス テ ム 映像をデジタル信号で 記録 デジタル処理・複製 ファイルをサーバーに蓄積、 プロジェクターで上映 制作 配給 興行 図5 フィルムとデジタルシネマの流通システムの比較 図6 全世界におけるデジタルシネマスクリーン数の推移

出所)Motion Picture Association

2001年 02 03 04 05 ス ク リ ー ン 数 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 41 159 188 335 849

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デジタルシネマの導入が グローバルに進められている 映画館へのデジタルシネマの導入は、グロ ーバルに進められている。2005年のデジタル シネマスクリーン数は、全世界で849スクリ ーンとなっている(図6)。これまで導入さ れているデジタルシネマは、2Kデジタルが 中心であるものの、DCI の標準を満たすデジ タルシネマスクリーンは着実に増加してい る。つまり、従来のフィルム上映のスクリー ンからデジタル上映のスクリーンへの移行が 進んでいるのである。 主要国のスクリーン数は、合計で11万スク リーンを超える(図7)。ハリウッドのお膝 元、アメリカは、全国で3万5000スクリーン を有しているが、うち、デジタルシネマを導 入ているのは470スクリーンであり、今後急 速に導入が進む見通しである。 現状では、主要国の大半は、1%に満たな い導入率となっている。しかし、これらの 国々はいずれも国内映画興行に占めるハリウ ッド映画の比率が高く、アメリカでの導入が 進むにつれて、本格化する見通しである。 世界最多の4万2000スクリーンを有する中 国、また1万1000スクリーンを有するインド でも、デジタルシネマの導入が始まってい る。また、主要国に比べてスクリーン数が少 ない国の中には、デジタルシネマの導入が早 く進む国々もある。シンガポールでは、すで に16%のスクリーンにデジタルシネマが導入 されている(図8)。 日本では、世界に先駆けて4Kデジタル シネマの実証実験が進められている 日本では、2005年11月にワーナー・ブラザ ーズの『ハリー・ポッターと炎のゴブレッ ト』が公開された際に、東宝の映画館で4K 図7 主要国のスクリーン数とデジタルシネマ導入率 注)各国におけるスクリーン数と、そのうち2K、または4Kデジタルシネマに対応する   スクリーンの導入率 出所)時事映画通信社『映画年鑑(2006年版)』2005年、およびDCinema Today(http: //www.dcinematoday.com/)をもとに作成 ア メ リ カ カ ナ ダ フ ラ ン ス ド イ ツ ス ペ イ ン イ タ リ ア イ ギ リ ス 中 国 イ ン ド 日 本 デ ジ タ ル シ ネ マ 導 入 率 ︵ % ︶ 1.33 0.11 0.28 0.62 0.16 0.80 1.63 0.06 0.02 1.16 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 ス ク リ ー ン 数 0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 35,000 40,000 45,000 35,786 2,822 5,295 4,868 4,253 3,628 3,433 42,000 11,000 2,825 図8 デジタルシネマの導入が最も進んでいる国(上位7カ国) 注)各国における2K、または4Kデジタルシネマに対応するスクリーンの導入率 出所)時事映画通信社『映画年鑑(2006年版)』2005年、およびDCinema Today(http: //www.dcinematoday.com/)をもとに作成 デ ジ タ ル シ ネ マ 導 入 率 ︵ % ︶ シ ン ガ ポ ー ル ル ク セ ン ブ ル ク ア イ ル ラ ン ド ベ ル ギ ー 韓 国 オ ー ス ト リ ア オ ラ ン ダ 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 16.0 7.7 7.6 3.8 3.5 2.6 2.5

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デジタル上映の実証実験が行われた。この実 証実験は、コンテンツの配信の際に衛星やハ ードディスクを利用せず、NTTの光ファイ バーを利用した点で世界でも先進的な試みと なった。 さらに2006年6月には、ワーナー・マイカ ルも加わって、ソニー・ピクチャーズ・エン タテインメントの『ダ・ヴィンチ・コード』 でも4Kデジタル上映の実証実験が行われ、 実用化に向けた上映ノウハウの蓄積、技術的 課題の精査が進められている。

変革する映画業界の

ビジネスアーキテクチャー

映画館が劇場になる 今日にいたるまで、映画館は、映画という 作品を配給会社からの配給を受けて上映し、 それを求める消費者が入場料を支払って鑑賞 する場であった。ところが、デジタルシネマ を前提としたシステムが導入されると、そこ にはさまざまなコンテンツビジネスが生まれ ることになる。 新しいビジネスモデルの萌芽の一例として あげられるのが、デジタル歌舞伎である。松 竹は、東京を皮切りに、大阪、京都、札幌、 福岡においてデジタル歌舞伎を映画館で上映 し、好評を博している。 歌舞伎は、生で見てその臨場感を楽しむこ とができるのであれば、それが一番良いのか もしれない。しかし実際には、2階席、3階 席ともなると、役者の表情や衣装の美麗さな ど、その良さを十分に堪能できない場合があ る。デジタル歌舞伎では常に舞台全体を見る ことはできないかもしれないが、必要に応じ て、役者の表情のアップなど従来の舞台では 見ることができなかったものを見ることがで き、臨場感を体感することができる。 料金は1000円均一(2006年5月現在、松竹 興行のデジタル歌舞伎について)であり、舞 台の歌舞伎が桟敷席で2万円弱、3階席でも 2500円程度するのに比べて格安である。 つまり、誰でも気軽に映画館で歌舞伎を楽 しむことができるようになり、これまで「高 価で堅苦しい」と敬遠していた消費者の獲得 や、上演回数が限られていた地方での上映な ど、顧客の広がりが実現すると考えられる。 歌舞伎という世界において、嗜好性の強いフ ァンを対象とした高価格戦略とは異なった、 不特定多数の消費者への薄利多売を戦略とし たビジネスモデルを可能とする、新しいチャ ネルが誕生しつつあるといえる。 映画館の大型スクリーンと音響 システムが、FIFAワールドカップの パブリックビューイングに活用された さらに、2006年6月、FIFA(国際サッカ ー連盟)ワールドカップがドイツで開催さ れ、世界中がサッカー観戦に湧いた。日本で は、FIFA公認のパブリックビューイングと して、映画館が大々的に活用された。 東京都内では、TOHOシネマズ六本木の2 つのスクリーンが日本戦の観戦に使われた。 深夜の観戦にもかかわらず、チケットの予約 開始とともに完売するスクリーンが相次ぎ、 消費者の関心の高さがうかがわれた。特に、 提供された2つのスクリーンのうち、600席 を超える大型スクリーンのチケットの人気が 高く、大型スクリーンで大勢で観戦し盛り上 がりたいという消費者の志向が見て取れる。 劇場を中心とした新しいビジネス アーキテクチャーが生まれる デジタルシネマは、従来の映画館の映写機 業界構造の変化

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を新たな映像ネットワーク機器に置き換え る。コンテンツがデジタル化されれば、必要 な時間に、必要な映像をネットワークで送れ ばよい。劇場にサーバー機器を置いて、サー バーに蓄積しておくことも可能となる。 また、昨今、国内の映画館はシネマコンプ レックス(複数のスクリーンを抱える映画館) が主流になりつつある。シネマコンプレック スでは、劇場内のサーバー機器と映像ネット ワーク機器を活用して、コンテンツの上映ス クリーンを自由にアレンジすることも可能と なる。 劇場が、映画以外のコンテンツを上映でき るようになると、劇場のユーザーであるコン テンツプロバイダーも多様化する。これから は、例えば FIFAのように、映画会社以外の コンテンツプロバイダーの利用が進むと考え られる。 さらに変化が起こるのは、配給会社の役割 である。劇場のユーザーが多様化すること で、映画以外のコンテンツとスクリーンのブ ッキングを行い、チケットの価格を調整し、 消費者に対して宣伝広告を行う役目を担う、 総合コンテンツ配給会社のようなプレーヤー が新たに求められるだろう(図9)。 スクリーンのネットワーク化によって、 コンテンツ流通の効率化が進む すでに、450を超えるデジタルシネマスク リーンが導入されたアメリカでは、新たなビ ジネスアーキテクチャーの担い手を巡って、 競争が始まっている。 鍵となるのは、将来のプラットフォームと なりえる、スクリーンのネットワーク化であ コンテンツが多様化 映像配給サービス 通信インフラ 映像ネットワーク機器・サービス 劇場 映画 音楽 スポーツ 演劇 イベント 総合コンテンツ配給 サービスへ 映像配信のトータル な品質保証 多様なコンテンツを 興行する劇場へ 従来のアーキテクチャー 新しいアーキテクチャー 新たなプレーヤー 注)MOVIX:松竹マルチプレックスシアターズ、UIP:ユナイテッド・インターナショナル・ピクチャーズ、アスミック:アスミック・エース エンタテインメ ント、コダック:イーストマン・コダック、ソニー:映画制作においてはソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント、ディズニー:ウォルト・ディズニ ー(ブエナビスタ・モーション・ピクチャーズ)、ユニバーサル:NBCユニバーサル、リーガル:リーガル・エンタテインメント、ワーナー:ワーナー・ ブラザーズ・エンタテインメント 例:ワーナー、ソニー、ユ ニバーサル、ディズニー、 東宝、松竹、東映など 音楽レーベル、スポーツ 団体、放送会社、劇団、 芸能プロダクションなど 放送事業者、複合メディ ア企業、複数のコンテン ツプロバイダーによる合 弁会社など ソニー、NEC、テキサス インスツルメンツ、ドル ビーラボラトリーズなど 光ファイバー、衛星 ナショナル・シネメディ アなど 例:UIP、アスミック、東 宝、松竹、東映など 例:コダック、テクニカラ ー、IMAGICAなど 例:リーガル、TOHOシネ マズ、ユナイテッドシネ マ、MOVIXなど 映画制作 映画配給 フィルム現像・輸送 映画上映 図9 映画の新たなビジネスアーキテクチャー

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る。これは、数百、数千単位の映画館のスク リーンを囲い込み、これらのスクリーンに、 共通の映像ネットワーク機器を導入していく 動きである。 制作されたコンテンツは、劇場に配信され る前に、ポストプロダクションと呼ばれる加 工工程を経る必要がある。ここでは、劇場の スクリーンに合わせて加工したり、字幕を挿 入したりする操作を行う。 また、デジタルシネマは、セキュアな環境 下で流通され、上映されることが前提とな る。高精細な映像を実現する4Kデジタル は、コンテンツの容量が数テラバイトにもお よぶため、コンテンツは、暗号化されるとと もに、圧縮され、劇場に送られる。劇場の映 像ネットワーク機器は、コンテンツを解凍し、 上映するスクリーンにデータを転送する。 これらの複数の工程を効率的にマネジメン トするうえで、ネットワーク化は有効であ る。 さらに、ネットワーク化は、即時的にコン トロールできるスクリーンを増やすことにな るので、コンテンツプロバイダーにとっては 魅力あるものとなる。 アメリカでは、スクリーンのネット ワーク化を巡る競争が始まっている 注目すべきは、映画館のスクリーンのネッ トワーク化を仕掛けている企業群である。プ ロジェクターのベンダーであるクリスティ・ デジタル・システムズと、映画のブッキング システム(シネマコンプレックスのスクリー ンの番組編成を行うシステム)に強みがある ア ク セ ス IT( Access Integrated Tech-nologies、AIX)は、デジタルシネマ事業を 展開するために、合弁会社のクリスティAIX (Christy/AIX)を設立している。 クリスティAIXは、デジタルシネマのビジ ネスアーキテクチャーにおいて、映像ネット ワーク機器・サービスのベンダーとしての役 割を担っている。クリスティAIXは、アメリ カの大手興行会社であるカーマイクシネマと 提携し、2300スクリーンを導入し、2007年ま でには4000スクリーンのネットワーク化を達 成すると発表している。 従来のアーキテクチャーにおいて、フィル ム現像や輸送といったインフラを担っていた 企業群も、デジタルシネマへの参入に向けて 動いている。なかでも、デジタル映像のポス トプロダクション技術に強みがあるテクニカ ラー(フランスのトムソン傘下)やイースト マン・コダックの動向は注目されている。 また、完全に新しい動きとしては、興行会 社自らによるネットワーク化の動きがある。 アメリカ最大の興行チェーンであるリーガ ル・エンタテインメントと、準大手のAMC エンタテインメントなどによる合弁会社ナシ ョナル・シネメディアは、アメリカ全土に1 万4000スクリーンを有する。具体的にどのよ うにデジタルシネマの導入を進めるかは明ら かにされていないが、2007年以降、順次デジ タルシネマを導入すると発表している。 コンテンツプロバイダーによる 支配力が強化される デジタル歌舞伎に代表されるような多様な コンテンツの上映が常態化した場合、従来の 制作∼配給∼興行という映画の流通構造に、 テレビ局を中心としたコンテンツプロバイダ ーが新たなプレーヤーとして参入することが 予想される。 デジタルシネマ対応スクリーンで楽しむこ とができる、すなわち高画質・高音質・大画 面での視聴が希望されるコンテンツは、歌舞

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伎だけではない。ニューヨーク・ブロードウ ェイのミュージカルや、ラスベガスのマジッ クショー、サッカーのワールドカップやオリ ンピックなどのスポーツ中継、クラシックの コンサートやオペラといったさまざまな「商 品」が上映対象となるであろう。こうした商 品を最も多く有している(放映権を有してい る)のはテレビ局であり、自社制作のドラマ などもあわせて、この新しい放映チャネルを 攻略・支配する戦略をとってくる可能性があ る。 コンテンツプロバイダーにとっては、テレ ビ放映の権利を有しているコンテンツを映画 館で提供(上映)することができるのか、そ もそも保有している過去の作品ならびに今後 制作される作品は映画館での上映に耐えうる 画質なのか(現状では4K対応はしていな い)、といった克服すべき課題は依然として 残る。しかし今後は、従来の映画というコン テンツにとらわれないさまざまな作品提供の 場として映画館がクローズアップされ、ビジ ネスを創出していく一つのマーケットプレー スとして機能することになるであろう。 制作会社、配給会社の 投資回収モデルが変わる デジタルシネマによる、より高画質・高音 質な作品制作、また3D(立体映像)やマル チシナリオ(バージョンによってエンディン グが異なるなど)の作品制作など、投入する 制作コストの増大は、配給会社の買い付けコ ストの増大および回収リスクの増大に直結す る。そのため、配給会社としては、そのリス クを最小化する施策を打つことが喫緊の課題 となっている。 課題解決に向けた象徴的な動きが、配給会 社と総合商社の版権ビジネスにおける本格的 な提携である。配給会社はそのコアコンピタ ンスである作品に対する目利き、総合商社は キャラクターグッズ販売やゲーム化など多方 面での版権活用のノウハウを付加価値とし、 互いにビジネスチャンスを拡大していくため の補完関係を構築しようとしている。 このような動きは、増加傾向にある映画制 作コストの回収リスクを縮減するための施策 であるとも考えられる。配給会社にとっては 総合商社のチャネルを活用したコスト回収の 効率アップ、総合商社にとっては配給会社の 目利き力を活用した版権のヒット率の向上を 見込んでの動きである。劇場へと変化する映 画館での「作品」の多様化は、ポストプロダ クションといわれる封切り後のビジネスモデ ルを大きく変化させる。 制作会社、配給会社の ビジネスドメインが変わる これまでの制作∼配給∼興行・DVD制作 という一連のビジネスフローにおいて、制作 会社は映画を撮影して配給会社に販売、配給 会社はリスクを取ってスタジオから映画を買 い付け(版権獲得)、映画館への配給および DVD制作・販売を行ってきた。この映画館、 DVD市場をターゲットとしたビジネスは、 今後、家庭向けネット配信へとビジネスドメ インが大きく変わる可能性を秘めている。 これまで、家庭向け配信ビジネスでは、パ ソコン上での再生であれば視聴に耐えうる程 度の画質の作品が配信されてきた。しかし、 デジタルシネマの技術によって、大画面テレ ビでの再生が可能となる。また、課金アルゴ リズムやキー管理、暗号処理、圧縮技術など 映画館向け配信で構築する技術的プラットフ ォームは、家庭向け配信ビジネスを本格化す るうえでも有効である。

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ハリウッドが目指す家庭向けネット配信が 実現すると、これはビジネスドメインの変化 を意味し、映画制作のスタジオ、配給会社は これまでのビジネスモデルからの変革を余儀 なくされる。制作会社は、配給会社に対する 「売り切り型」のビジネスから、ネット配信 に対応するための「従量課金型」のビジネス モデルへとシフトする可能性がある。 現在、ネット経由でのコンテンツ配信ビジ ネスでは、ポータルサイトはマーケットプレ ース提供料と取引手数料を収益源としてお り、コンテンツ自体の版権は制作者が有して いる。そのため、映画のネット配信が実現し た場合、制作会社はこれまでよりも大きな販 売リスクを取る可能性が出てくる。 一方、そのマーケットプレースを管理・運 営していくプレーヤーの候補となるのが配給 会社である。配給会社のビジネスの流れは、 こ れ ま で 「 作 品 発 掘 ∼ 広 告 宣 伝 ∼ 配 給 ・ DVD販売」であった。しかし、映画のネッ ト配信が実現すると、「制作会社へのサイト 利用の勧誘∼広告宣伝∼消費者の訪問率・視 聴率向上」という新たなビジネスの成功要件 を満たすよう、ビジネスモデルを再構築する 必要に迫られることになる。 映像コンテンツビジネスは グローバルに再編される 業界構造の変化は、ハリウッドと日本だけ にとどまるものではない。むしろ、中国やイ ンドなど新興国を中心とした市場で、構造変 化が起こりつつある。インドでは早くも、デ ジタルシネマ対応のスクリーンが出現してい る。これは、高画質な映像を見ることができ るテレビが家庭に普及しておらず、またその 放送インフラ・技術も未成熟であるため、消 費者はきれいで迫力のある画像を求めて、映 画館に足を運ぶという背景がある。 このような新興市場においては、家庭用の ネット配信ではなく、映画館を基軸にしたビ ジネス展開が成功要因となる。オリンピック やワールドカップといった世界的なスポーツ イベントの配信、ミュージカルやオペラなど の中継など、単なる映画館からより多様なコ ンテンツを扱う劇場にシフトし、顧客の裾野 を広げることが求められる。また、飲食やシ ョッピング、アミューズメントなど、周辺の 消費と抱き合わせた形での拠点開発も求めら れてくるであろう。 一方、ヨーロッパでは高品質の画像を求め る消費者のニーズが強く、薄型・高画質のテ レビの普及率は日本よりも高い。また、イン ターネット経由での商品購入や料金支払いな どにも抵抗のない欧米においては、家庭に対 する映画配信ビジネスの素地が日本よりも整 っている。

デジタルシネマ対応スクリーンは

3万8000スクリーンに急増

野村総合研究所(NRI)の推定では、北ア メリカ(アメリカ、カナダ)、ヨーロッパ(イ ギリス、フランス、ドイツ)、アジア(日本、 韓国、中国、インド)におけるデジタルシネ マスクリーンは、2010年に3万8800スクリー ンに達する見込みである(図10)。 ハリウッドメジャースタジオは、2007年以 降、順次4Kデジタル、または2Kデジタル での映画配給を開始すると発表しており、 2007年以降、デジタルシネマの導入が本格的 に進む。 また、各社は2010年をデジタルシネマ普及 のターゲットとして位置付けており、普及に 向けてデジタル配給を本格化するとみられ 市場の見通し

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る。すでに、いくつかの映画がデジタルシネ マとして試験的に配給されているが、それら はいずれもブロックバスターと呼ばれる大作 ばかりである。2005年の例をあげると、『ス ター・ウォーズ エピソード3』(20世紀フ ォックス)、『ハリー・ポッターと炎のゴブレ ット』(ワーナー・ブラザーズ)、『チキンリ トル』、『ナルニア国物語』(ブエナビスタ・ モーション・ピクチャーズ)など、いずれも 大作である。 デジタルシネマの導入を加速するために も、今後もハリウッドメジャースタジオは、 大作のデジタル配給を積極的に行うとみられ る。

新たな映像ビジネスを支える日本型

アーキテクチャーの創造に向けて

新たなビジネスアーキテクチャーの 担い手が求められる 今後、日本においてもデジタルシネマの導 入が進む。ハリウッドメジャー作品は、日本 の興行市場の50%を占めており、ハリウッド によるデジタルシネマ推進のインパクトは非 常に大きい。デジタルシネマによるビジネス アーキテクチャーの変革の波は、日本にも確 実に押し寄せる。 日本には、日本映画やアニメーション、歌 舞伎、宝塚など、独自の文化に支えられた映 像コンテンツが多い。これらのコンテンツ流 通の新たな秩序を形成し、今後さらに、日本 独自の映像文化を発展させるためにも、国内 における新たなビジネスアーキテクチャーの 担い手を育成することが重要となる。 4Kデジタルの技術は、映画の制作にも 新しい可能性を生み出す デジタル映像の歴史は、100年におよぶ銀 塩フィルムの歴史に比べれば、始まったばか りである。今後、映画監督をはじめとするク リエイターが、映画館のデジタルシネマスク リーンで上映することを前提に作品を作るこ とによって、今までにない、新しい作品が作 られていくであろう。 デジタルで制作し、すべての流通、上映 (映画館、一般家庭の両方を含む)がデジタ ルで行われる場合、必ずしも1本の連続した フィルムを必要としない。例えば、1つの作 品の途中でいくつかの分岐を用意し、複数の ストーリーを展開することも可能である。 「有楽町の映画館で観るとハリー・ポッター の視点でシーンを追っているけれど、お台場 の映画館で観るとハーマイオニー(ハリーの 友達)の視点で観ることになる」といった映 画をつくることも可能なのである。 映画監督は、観客が映画館のスクリーンを 通してどのように映像を観るかを常に意識し ている。今後、デジタルシネマの技術が使わ 業界への提言 図10 主要国におけるデジタルシネマスクリーン数の見通し 注)アジア:日本、韓国、中国、インド、ヨーロッパ:イギリス、フランス、ドイツ、   北アメリカ:アメリカ、カナダ 出所)各種統計、ヒアリングなどをもとに作成 ス ク リ ー ン 数 アジア ヨーロッパ 北アメリカ 0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 35,000 40,000 45,000 2005年 (実績値) 07 08 09 10 670 8,800 14,200 24,500 38,800

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れることによって、新たなエンタテインメン トが生まれていくであろう。 多様な映像コンテンツに対応した 4Kデジタル映像が求められる デジタルシネマスクリーンの普及に伴っ て、今後は、映画館の上映コンテンツが多様 化する。映画館のスクリーンは、暗い所で鑑 賞することを前提としており、今後は、映画 館に対応した、映像の見え方が課題となる。 これまで、デジタルの映像技術は、テレビ やパソコンなど、明るい所でディスプレイを 見ることを前提として進歩してきた。しか し、映画館の場合は、暗い所でスクリーンを 見ることになる。 従来の銀塩フィルムは暗所での表現力に優 れていた。一般に、光を吸収して色を作るフ ィルムは、黒い部分での表現力が豊かな点が 特徴である。映像の黒さの加減によって、観 客は、さまざまな情報を得て、想像力をかき たてている。 一方、デジタル素材は、元来が明るい所で のクリアな色の表現が特徴である。クリアな 色は、インパクトがある反面、黒い部分の表 現力や奥行感は弱い。今後は、色の深さの表 現が課題となる。 新たなビジネスアーキテクチャーの 実現におけるボトルネック 技術的なハードルが克服され、新たなビジ ネスアーキテクチャーの担い手(プレーヤ ー)が生まれることによって、デジタルシネ マは従来の映画に代わる産業として確立され るのであろうか。 現在、最大の懸念材料とされているのが、 映画館におけるデジタルシネマ対応設備の導 入にかかるコスト負担である。初期コストは プロジェクター1台当たり1000万円程度(他 にサーバーなどの周辺機器が必要)と想定さ れており、興行収入が伸び悩む映画館の経営 を圧迫する要因となる。日本人の余暇時間が 今後飛躍的に増加するとは考えにくく、デジ タルシネマに変わったからといって興行収入 が2倍、3倍になることは予想しづらい。つ まり、売り上げの急拡大は見込まれないが、 ハリウッドの動向に対応するには、デジタル シネマ対応のためのコスト負担を業界として 余儀なくされる、ということである。 このような課題に対し、欧米ではさまざま な試みがなされている。イギリスでは政府負 担により2007年までに約240スクリーンがデ ジタルシネマ対応となる予定である。 また、アメリカでは、クリスティAIXなど のデジタルシネマ推進企業群とハリウッドメ ジャースタジオとの提携によるVPF(Vir-tual Print Fee)モデルが導入されている。 これは、クリスティAIXなどが映画館にデジ タルシネマ機器を供給し、その映画館に同機 器で上映する映画を配給するスタジオが、機 器の利用料を負担するというモデルである。 これによって興行側の初期コスト負担を軽減 させ、2010年までには2万5000∼3万スクリ ーンをデジタルシネマ対応とする計画であ る。 日本型ビジネスアーキテクチャーの 創出に向けて アメリカのVPFモデルは、現在映画会社 主導で行われているため、そのスクリーンで 映画以外のスポーツや演劇などを上映するた めにはクリアすべきハードルが多いと考えら れる。今後日本においては、アメリカのよう に特定のコンテンツプロバイダーによる支配 体制が敷かれるモデルではなく、映画館とい

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う公器が消費者にとって最大のエンタテイン メントの場であるという設計思想で、そのコ スト負担のモデルを検討していくべきではな いだろうか。 そのためには、制作、配給、興行の各組織 が系列化された現在の日本の業界構造にとら われるべきではない。業界横断的かつバリュ ーチェーン(価値の連鎖)の上流から下流ま でを巻き込んだ議論の場、推進の仕組みが必 要となるであろう。 そのうえで、産業としてのデジタルシネマ が、コンテンツ、ハード、インフラの革新と 競争のもとに実現されると同時に、その公共 性を維持しつつ健全に発展していくことが期 待されるところである。

者―――――――――――――――――――――― 松尾未亜(まつおみあ) 技術・産業コンサルティング一部コンサルタント 専門は先端技術分野・映像分野の事業戦略、知的財 産戦略 野口幸司(のぐちこうじ) 技術・産業コンサルティング一部主任コンサルタン ト 専門は製造業の成長戦略立案、営業改革、および実 行支援など

参照

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