総説マウス乳癌ウイルスにさる発癌の分子機構柳川伸一マ ウ ス乳 癌 ウ イル ス (MMTV) は, 感染 した 乳 腺 上 皮 細 胞 の ゲ ノ ム に 組 み 込 ま れ, 細 胞 内 の 癌 遺 伝 子 int-1 と int-2 を 活 性 化 す る こ とに より 乳 癌 を 誘 発 す る。 両 遺伝 子 は, と もに 通 常 は胚 や 未 分 化 な 細 胞 で の み 発 現 して おり, した が って 両 者 は, 正 常 細胞 で は 分 化 因 子 お よび 増 殖 因 子 と して 機 能 して いる こ とが 推 測 され てい る。 ま た 最 近MHTVの 変 異 株 は リ ンパ 性 白 血 病 の 原 因 とな り うる こ とが 報 告 され, そ の 解 析 を通 じてMMTVに よ る 発 癌 の 組 織 特 異 性 を 決 定 して い る 機 構 が 明 らか に ざれ よ う と して い る 。 は じめ に マ ウス 乳 癌 ウ イル ス (mouse mammary tumor virus ; MMTV) が乳 汁 因 子 と して Bittner に よ
り発 見 され た の は1936年 で あ り, これ は 哺乳 類 のRNA 腫 瘍 ウ イル ス と して 最初 の発 見 で あ った^<1)>。MMTVに 関 す る研 究 は, そ の 定 量法 や in vitro 感 染 系 の 確 立 が 充 分 で な か った た め に, 他 の 癌 遺伝 子 を も っ た レ トロ ウイ ル ス に 比 べ, 遅 れ て い た 。 しか し1970年 代 後 半 に至 り, 分 子 生 物 学 的 方 法 論 が 大 幅 に導 入 され るこ と に よ り, MMTVに よ る発 癌機 構 の研 究 は 大 き く進 展 し, 現 在 も数 多 くの 新 事 実 が 明 らか に され て い る。 す なわ ち, (1) MMTVのLTR (long terminal repeat) は, ステ ロイ
ドホ ル モン に よ る制 御 を うけ る遺 伝 子 の典 型 で あ り^<2)>, 最 近 の各 種 ス テ ロイ ドホ ル モ ン受 容 体 の cDNA ク ロー ニン グ とあ い ま っ て^<3,4)>, MMTV LTRの 転 写 系 は , 真 核 細 胞 の転 写 制 御 の研 究 に重 要 な 位 置 を 占 め る よ うに な っ た。(2) Varmus^<5,6)*1> や Dickson^<7,8)> の グ ル ープ に よ り, MMTVに よ って ひ き起 こ され る, マ ウス 乳 癌 の 発 生 に関 与 して い る癌 遺 伝 子 int-1 お よび int-2 が 発 見 され, そ の構 造 や 正 常 細 胞 に お け る機 能 の 解析 が進 ん で い る。(3) 最 近, MMTVのLTRに 規 則 的 な組 換 え を も った 変 異 株 が, リンパ 性 白血 病 の原 因 とな り うる こ と が 明 らか に な った^<9∼12)>。レ ト ロウ イ ル ス がそ の 標 的 組 織 を 決 定 す る要 因 の 解 明に こ の変 異 株 は有 用 で あ り, 筆 者 らを 含 め 解 析 が 進 め られ て い る。 本 稿 で は, (1) MMTVの 遺 伝 子 構 造, 伝 達 と複 製 の様 式, さ らに (2) LTRの 特 徴 につ い て概 説 し, (3) int-1, int-2 を中 心 と して, 乳 癌 発 生 と関 連 の深 い 癌 遺 伝 子 に つ い て 述 べ, (4) 最 後 に, MMTV変 異 株 に よ る 白 血 病 発 生 の機 構 につ い て筆 者 らの 結 果 を 中心 に 解 説 す る こ と によ って, MMTVに よ る発 癌 機 構 に 関 す る分 子 生 物 学 的 研 究 の現 状 を概 観 した い 。
1. MMTVの
遺 伝 子 構 造 と伝 達 様 式
1. MMTVの 種 類 と伝 達 様 式 MMTVは, 正 常 細 胞 遺 伝 子 と相 同 性 を示 す, い わ ゆ る癌 遺 伝 子 (v-onc) を ウイ ル ス遺 伝 子 と して 含 む こ と の な い レ トロ ウイ ル ス で, 感 受 性 の雌 マ ウス に 半 年 か ら 約1年 間 の 潜 伏 期 の の ち に 高 率 (ほぼ100%) に 乳 癌 を 誘 発 す る^<13)>。MMTVの 研 究 に は各 種 の近 交系 マ ウス の 樹立 が大 き く寄 与 し て き た。MMTVは 大別 して 次 の 3種 類 に分 類 さ れ る。 す な わ ち, (1) C3Hマ ウ ス や Shin-ichi Yanagawa, 京 都 大 学 ウ イ ル ス 研 究 所 が ん ウ イ ル ス 大 部 門 が ん 遺 伝 子 研 究 分 野 (〒606 京 都 市 左 京 区 聖 護 院 川 原 町) [Laboratory of Gene Analysis, Department of Viral Oncology, Institute for Virus Research, Kyoto University, Kyoto 606, Japan]Molecular Mechanisms of MMTV-Induced Tumor DevelopmentKey word 【マ ウス 乳 癌 ウ イル ス 】 【int-1】 【int-2】 〔LTR】
35
36 蛋 白 質 核 酸 酵 素 Vol. 35 No. 1 (1990)
*1 カ リフ ォル ニ ア大 学 サ ン フ ラ ンシ ス コ校 医 学 部 の Harold E. Varmus は, 「レ トロ ウイ ル ス の もつ 癌 遺 伝 子 が 細 胞 起 源 で あ ることの発見」によって, J. Michael Bisop とともに1989年度ノーベル医学・生理学賞を受賞した。現在, int-1 に関する研究け, Varmus グループのもっとも主要なテースの1つとなっている。
36
マウス乳癌 ウイルスに よる発癌 の分子機構 37 DBA/2マ ウス のMMTVの よ うに 乳 汁 に発 現 し, 乳 汁 を通 じて仔 マ ウス に 水平 伝 達 さ れ る 外 来 性 ウ イ ル ス (exogenous virus) と して存 在 す る も の, (2) GRマ ウ ス のMMTVの よ うに, マ ウ ス の ゲ ノ ム中 に 内 在 性 ウ イ ル ス (endogenous virus) と して遺 伝 子座 を もち, 垂 直 伝 達 され る と同時 に乳 汁 中 に も発 現 して, 水 平 伝 達 を も行 な うも の, そ して (3) マ ウ ス ゲ ノ ム中 に 内 在 性 ウ イル ス と して存 在 し, ほ とん ど発 現 しな い 不 活 性MMTV, の3種 で あ る。 広 く一 般 に用 い られ て い る各 種 近 交 系 マ ウス は, 例 外 な く数個 の 内在 性 ウイ ル ス をそ の ゲ ノ ム中 に も って お り, 現在 Mtv-1 か ら Mtv-15 の遺 伝 子 座 が区 別 され て い る。 しか し, GRのMMTVを 与 え る Mtv-2 を除 け ば そ の 多 くは 非 活 性 で あ る。 した が っ て, 本 稿 にお い て問 題 と な るの は, 乳汁 を通 じて 水平 伝 達 され る外 来 性MMTV で あ る。C3H, A, RIIIと い っ た代 表 的 乳 癌 好 発 系 の マ ウス は, 外 来 性MMTVを も って い る。 外 来 性 MMTVは 乳 汁 を通 して 子 マ ウ ス の腸 管 に入 り, 最 終 的 に 乳 腺, 唾 液腺, 涙 腺 お よび雄 性二 次性 腺 な どの 少数 の 腺 組 織 に お い て の み 発 現 す る の で あ る が^<14)>, 最 近 の Tsubura らの報 告 に よれば, そ の間 にTリ ン パ 球 が 関 与 して い る こ とが認 め られ て い る^<15)>。妊 娠 期 の マ ウ ス乳 線組 織 は, MMTVの 発 現 に きわ め て効 果的 な ス テ ロイ ドホ ル モン 環 境 を 提 供す る。 した が っ て雌 マ ウ ス の乳 癌 発 生 の 率 や そ の 時期 に は, 感 染 マ ウス の妊 娠 の回 数 が大 き く影 響す る^<13)>。一般 に複 数 回 の妊 娠 出 産 を 経 験 し た 雌 マ ウス に お い て は, そ の約80%の 乳 腺 上 皮 細 胞 は, MMTVに よ り反 復 感 染 を うけ て い る。 しか し, そ の う ち 最 終 的 に 乳癌 とな る の は, わ ず か に数 個 の細 胞 ク ロー ン の み で あ る。 そ の理 由 につ い て は後 述 す る。 2. MMTVの 遺 伝子 構 造 とMMTVの 産 生^<16)> 図1に は ウイ ル ス産 生 細胞 を示 して い る。MMTVゲ ノ ムは, 35Sの 単 鎖RNAよ りな り, 逆 転 写 の のち, 宿 主 細 胞DNA中 に プ ロ ウ イル ス と して 組 み 込 まれ る。 図1に 示す よ う にMMTVの 産 生 は, プ ロウ イ ル スか ら の35Sゲ ノ ムRNAと24Sサ ブ ゲ ノ ムRNAの 転 写 よ り始 ま る。35SRNAは ゲ ノムRNAと な る と とも に, gag 遺 伝 子前 駆 体 蛋 白質 Pr75^<gag> と, 逆 転 写 酵 素, エ ン ドヌ ク レア ー ゼ お よび プ ロテ ア ー ゼ を コー ドして い
る。24S RNAか らは env 前 駆 体 p60^<env> が翻 訳 され, 糖 付 加, 限 定分 解 を 受 け, 最 終 的 に gp 52 と gp 36 と な る。gp 36 は膜 蛋 白質 で あ り, gp 52 は これ と疎 水結 合 し, 細胞 表面 上 に現 わ れ て ウイ ル ス ス パ イ クを構 成 す る。 Pr 75^<gag> は ゲ ノ ムRNA, 逆 転 写 酵 素, エン ドヌ ク レア ー ビ, Lys の tRNA を包み, これ でMMTVに 特有 な A粒 子 (プ ロ ヌ ク レオ キ ャプ シ ド) を構 成 す る。 細胞 質 内に 蓄 積 したA粒 子 は, 細 胞 表 面 上 で env をか ぶ っ て 発 芽 す る と と もに, Pr 75^<gag> は リン酸 化, ミル ス チン 酸 付 加, プ ロテ ア ー ゼ に よ る限 定 分 解 を経 て, gag 最 終 産 物 (P10, PP21, P27, P14) へ と変 化 し, 成 熟MMTV であ るB粒 子 と な っ て, 乳 腺 の腺 腔 へ と放 出 され る。
II. MMTVの
組 織 特 異 性 を 決 定 す る
MMTV
LTR
1. LTRの 構 造 前 述 した よ うにMMTVの 発 現 す る組 織 は, 乳 腺 とそ の他 わ ず か の腺 組 織 に限 られ て い る。これ はMMTVの LTRが, きわ め て高 い 組 織 特 異 性 を 有 して い るか らに ほか な らな い。MMTVのLTRは 約1300塩 基対 (bp) と他 の レ トロウ イ ル ス のLTRに 比 べ 非 常 に 長 く, ト リ の ラ ウ ス 肉腫 ウ イ ル ス のLTRの4倍 で あ る。 そ れ は U3部 分 が 約 1200bp と 巨大 な た め で あ る。 このU3 部 分 に は, (1) MMTV LTRを ス テ ロ イ ドホ ル モン 依 存 性 の プ ロモ ー タ ー と して特 徴 づ け る, ス テ ロ イ ドホ ル モ ン感 受 性 領 域 (hormone responsive element ; HRE) が存 在 し, ま た, (2) 分 子 量36,000の 蛋 白 質 を コ ー ドしうる長 い 翻 訳 可 能 領 域 (open reading frame ; ORF) が保 存 さ れ て い る 。 以 下, このMMTV LTRの 特 徴 につ い て述 べ る (図1のLTR拡 大部 分 を参 照)。 2. ホ ル モ ン 感 受 性領 域 MMTV感 染 細 胞 を合 成 グル コ コル チ コイ ドで あ る デ キ サ メ サ ゾン (Dex) で処 理 す る と, MMTVの 産 生 が 数 十 倍 増 加す る こ とは古 くか ら知 られ て い た が, そ れ は, Dex に よ りMMTVのRNAの 転 写 が 活 性 化 され るた め であ る こ とが 明 らか とな っ た^<17)>。Yamamoto ら の グル ー プ は, LTRの 各 部 分 に欠 失 変 異 を導 入 し, そ の下 流 に チ ミジン キ ナ ー ゼ遺 伝 子 を 結 合 した 融 合 遺 伝 子 を 作 製 し, そ れ を細 胞 に トラン ス フ ェ ク ト して, Dex に対 す る 反 応 性 を解 析 した^<18)>。そ の 結 果, HREは 転 写 開 始 点 の 上 流 200bp 以 内 に 存在 す る こ とが 明 ら か に な った 。 現 在HREは, 誘 導 型 のエン バン サ ー と して, また ホ ル モ ン受 容 体 は, リガ ン ドに 依 存 した 転 写 制 御 因子 と し て認 識 さ れ るに至 っ た^<4)>。 現 在, 精 製 した グル コ コル チ コ イ ド受 容 体 お よび プ ロ ゲス テロ ン受 容 体 を 用 い て, HREの 実 体 であ る とこ ろ 37
38 蛋 白 質 核 酸 酵 素 Vol. 35 No. 1 (1990) の受 容 体 結 合DNA領 域 が フ ッ トプ リン トされ てお り, 両 受 容 体 は転 写 開 始 点 の 上 流-202か ら-59bp の間 で4カ 所 の結 合部 位 を 共 有す る こ とが 明 らか とな っ て い る^<19)>。各 結 合 部 位 に は, 5'GG TA CA NNN TGTTCT 3'と 相 同 の配 列 が 存 在 す る。 こ の配 列 は 他 の グル コ コル チ コイ ド反 応 性 の遺 伝 子 (た とえ ば, ヒ ト成 長 ホル モン や, ト リ リゾチ ー ム遺 伝 子) に も存 在 し, 一 般 にGRE (glucocorticoid responsive element) の コン セン サ ス 配 列 と呼 ぼ れ て い る。 こ の配 列 はパ リン ドロー ム構 造 を して お り, 受 容 体 は こ の配 列 に2量 体 とな って 結 合 す る こ とが 明 らか とな っ て い る^<20)>。MMTVのHREに は, グ ル コ コ ル チ コイ ド以 外 に プ ロゲ ス テ ロン とア ン ドロ ゲン , さ ら に ミネ ラ ル コル チ コイ ドが作 用 し^<21)>, 妊 娠 期 の 乳 腺 で のMMTVの 活 性 化 には, プ ロゲ ス テ ロン の寄 与 が 大 き い とされ て い る。 このよ うにMMTVの 乳 腺 特 異 性 に は, LTR中 のHREが 主要 な 役 割 を果 た して い
る^<17)>。3. 翻訳可能領域MMTVのLTRにば, 5'末端より約 960bp にわたり36,000の分子量をもつ蛋白質をコードしうるORFが存在する^<22)>。この部分の配列は, 異なったマウス由来のMMTVの間でも非常によく保存されており, 何らかの機能をもっていると考えられているが, まだ不明である。ORF蛋白質は, env 領域にあるスプライシングアクセプターを使って生成される 1.7kb の mRNA より翻訳されると考えられるが, この mRNA は, Balb/c マウスの授乳期乳腺など少数の組織を除いては認められておらず, MMTV感染細胞でも検出されない^<23)>。しかし, 最近 Bentvelzen のグループは, ORF発現プラスミドと, SV40プロモーターおよびMMTV LTRにより転写されるCAT (クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ) レポータープラスミドとを, ラット乳癌細胞にコトランスフェクトし, CATアッセイを行ない, ORF蛋白質がMMTV LTRに対してのみトランスアクチベーターとして働くと報告している^<24)>。この活性はSV 40プロモーターに対しては認められない。この報告からすると, MMTVはHTLV-1の tax やHIV の tat のような, トランスアクチベーターをもつレトロウイルスと類似していることになる。また彼らは,ORF蛋白質にNIH 3T3細胞を.トランスフォームする活性があると報告している^<25)>。今後の解析が注目される。 4. LTR中 に 存 在 す るHRE以 外 の 転 写 制 御 領 域 LTR中 の 転 写 制 御 領 域 につ い て の解 析 は, NF-1結 合部 位 に 関す る もの を除 けば ほ とん どがHREに つ い て の研 究 で あ り, 他 の シス エ レメ ン トに 関 す る 解 析 は遅 れ て い る。 しか し Stewart らは,種 々 の 欠 失MMTV LTRと ヒ ト成 長 ホ ル モ ン遺 伝 子か らな る 融 合遺 伝 子 を 導 入 した トラン ス ジ ェ ニ ッ クマ ウス を作 製 し, そ の遺 伝 子 発 現 の組 織 特 異 性 の 解 析 か ら, MMTVのLTRの5' 末 端 よ り約 300bp 以 内 に も重要 な制 御 領域 が あ るこ と を 示 して い る^<26)>。筆 者 も同 じ領 域 に乳 癌 細胞 で特 異的 な エンハン サ ーの 存 在 を 確 認 し, int-1, int-2 活 性化 へ の 寄 与 の可 能 性 を 検 討 して い る^<27)>。ま た 後 述す るMMTV のLTR変 異 株 を用 い た筆 者 ら の研 究 か ら も, HRE以 外 の多 くの シ ス エ レメン トの存 在 が 明 らか に な った 。
III. MMTVに
よる 乳 癌 発 生 に 関 与 す る
癌 遺 伝 子
M MTVの よ うに そ の ゲ ノ ム 上 に 癌 遺 伝 子 (v-onc) を もた な い レ トロ ウ イル ス は, 細胞 内 の 癌 遺 伝 子 (c-onc) の近 傍 にそ の プ ロ ウ イル ス を 組 込 ま せ る こ とに よ り, c-onc を活 性化 し, 細 胞 を 癌化 に導 く こ とが一 般 に 認 め られ て い る^<28)>。活 性 化 の様 式 に は, (1) c-cnc に対 し て ウ イ ル ス のLTRが 強 力 な プ ロモ ー タ ーを 提 供 す る (プ ロモ ー タ ー 挿 入), (2) LTRが c-onc の 本 来 の プ ロ モ ー タ ー に対 して エンハン サ ー と して 働 く (エンハ サン ー挿 入), の2つ が知 られて いる。 1. int-1 1982年 か ら1984年 に か け て, Varmus と Nusse の グ ル ー プ は, MMTVで 誘 発 し たC3Hマ ウ ス の 乳 癌 の う ち, MMTVの プ ロ ウ イ ル ス の エ ク ス トラ コ ピ ー の 組 込 み が1つ で あ る も の に 注 目 し, そ れ に 隣 接 す る 前 後 35kb の マ ウ スDNA領 域 を ク ロ ーン 化 し た^<*2)>。これ を プ ロ ー ブ と し て 他 のC3Hマ ウ ス 乳 癌 へ の プ ロ ウ イ ル ス の 組 込 み 部 位 を 検 索 し た と こ ろ, 26例 中18例 に お い て こ のDNA領 域 に プ ロ ウ イ ル ス の 組 込 み が み ら れ た。彼 ら は こ の 領 域 を int-1 (int と は, instrumental in
mammary tumorigenesis の 意 味) と名 づ け た^<5)>。 図2に 示 す よ う に, int-1 領 域 か ら は, 2.6kb の mRNA が 乳 癌 特 異 的 に 転 写 さ れ て い る が (mRNA 量 は わ ず か で10コ ピ ー/細 胞 程 度), 正 常 乳 腺 上 皮 細 胞 で は, ま っ た くRNAの 発 現 は 認 め ら れ な か っ た 。MMTVプ *2 この よ うな 手 法 は 一 般 的 に は トラ ンス ポ ゾ ンタ ギ ン グ法 と呼 ば れ て い る。
マ ウス乳癌 ウイルスに よ る発癌 の分子機構 39 ロ ウイ ル ス は, int-1 遺 伝 子 の コ ー デ ィン グエ ク ソン を 避 け る よ うに して導 入 され てお り, そ の 転 写 方 向 は, int-1 上 流 の もの は int-1 の 転 写 方 向 に対 し 逆 向 き, 下 流 の もの で は 同方 向 で あ った 。 こ の こ と は int-1 プ ロモ ー ター が, MMTVプ ロ ウイ ル ス のLTR中 に存 在 す るエン ハ ンサ ー に よっ て活 性化 され て い る こ とを示 し て お り, エ ンハ ンサ ー 挿 入様 式 に よ る c-onc の 活 性 化 が 生 じて い る こ とが 明 らか とな っ た^<5)>。乳 癌 と正常 細 胞 の int-1 遺 伝 子 産物 の間 に差 は な く (ras の よ うな点 変 異 に よ る活 性 化 は認 め られ な い), 本遺 伝 子 は, マ ウス で は第15番, ヒ トで は 第12番 染 色体 に存 在 し, 4個 の エ ク ソン か ら な って い る^<29)>。int-1 蛋 白 質 は, マ ウ ス, ヒ ト とも に370の ア ミノ酸 残 基 か らな って お り (ヒ トでは4残 基 の ア ミノ酸 置 換 が あ るのみ), N末 端 部 分 に27ア ミノ酸 か らな る シ グナ ル ペ プ チ ド配 列 が存 在 す る^<29)>。ま たC末 端 に は約20個 の Cys ク ラス タ ー が 存在 し, 4カ 所 のN型 糖 鎖 結 合 部 位 も認 め られ る。 最 近 同 グル ー プは, int-1 蛋 白 質 を レ トロ ウイ ル ス ベ ク タ ーを 用 い て, マ ウス お よび ラ ッ トの 乳腺 細胞 株 で発 現 させ, int-1 蛋 白質 が シ グ ナル ペ プ チ ドの切 断 な らび に糖 付 加 を うけ て, 分 子 量38∼44Kの ヘ テ ロな産 物 を 生 じ る こ と^<30)>, また これ が 小 胞 体 内 に輸 送 され る こ とを 示 した^<31)>。また Brown と PaPkoff らは, int-1が 確 か
に分 泌 蛋 白 質 で細 胞 外 マ トリ ッ クス に 安 定 に 存 在 す る こ と, ま た int-1 は ジス ル フ ィ ド結 合 で多 量 体 に な り う る こ とを示 した。 以 上 の結 果 は, int-1 が 拡 散 性 の 因 子 で あ る こ とを示 唆 し て い る。 さ らに int-1 の マ ウス の 正 常 組 織 に おけ る発 現 が検 討 さ れ, (1) マ ウス 胚 発 生 の 9∼15日 の間 に 主 に 神経 管 で発 現 す る こ と, (2) 成 体 で は唯 一 精 巣 で 円型 精 芽 細 胞 か ら成 熟 精 子 が 生 じ る過 程 で 一 時 的 に発 現 す る こ と, が報 告 さ れ た^<32)>。 最 近 シ ョウジ ョウバ ェ の相 同 遺 伝 子, D-int-1 の解 析 が な され た^<33)>。D-int-1 は468ア ミノ酸 か らな り, マ ウ ス int-1 に比 べ, 新 た な85ア ミノ酸 を コ ー ドす る も う 1つ の エ ク ソン を も って い る こ と, N末 端 に シ グ ナ ル配 列 を も ち, 23個 の Cys の位 置 が int-1 と一 致 す る こ と, int-1 に対 し54%の 相 同 性 を 保 って い る こ とが 明 らか に され た 。 お どろ くべ き こ とに D-int-1 は, シ ョ ウ ジ ョウバ エ の分 節 の 極 性 (セ グ メ ン トポ ラ リテ ィ) を 決 定 して い る遺 伝 子 に 属す る Wingless 遺 伝 子 そ の も の で あ った 。Wingless 遣 伝 子 は, 形 態 形 成 の際 に細 胞 内 の コ ミュ ニ ケー シ ョンの シ グナ ル とな っ てい る。 こ の こ と は, D-int-1 の ア セ チ セン スRNAを 正 常 胚 に 発 現 さ せ る と Wingless に な る こ とで証 明 され た^<34)>。int-1 が ヒトや マ ウス の正 常 細 胞 で 果 た して い る機 能 は まだ 不 明 で あ る が, この D-int-1 よ り得 られ た事 実 は, int-1 遺 図2. MMTVプ ロウ イ ル ス に よ る int-1 遺 伝 子 の 活 性 化 と int-1 蛋 白質 の構 造 図 中 プ ロウ イ ル ス の組 込 み 部 位 と そ の 転 写 の 方 向 を 矢 印 で 示 し て あ る。int-1 遺 伝 子 の エ ク ソ ン中 は コ ー ド領 域 を, □ は 非 コ ー ド領 域 を 示 して い る 。 39
40
蛋 白 質 核 酸 酵 素 Vol. 45 No. 1 (1990)
伝 子 が, マ ウ ス に お い て も分 泌 性 の分 化 因子, あ る い は 形 態 形 成 に 関す る因 子 で あ る こ とを さ らに示 唆 した 。 次 に int-1 の各 種 細 胞 に 対す る トラン ス フォー ム 能 が 検 討 され た 。int-1 はNIH 3T3を 含 め, 多 くの 繊 維芽 細 胞 に対 しては, そ の トラン フ ォー ム活 性 を 認 め る こ とは で き な い。 一 方, Brown ら は マ ウ ス乳 腺 上 皮 細 胞, C57MG に 対 し int-1 産 物 が, 部 分 的 トラ ンス フォー メ ー シ ョンを誘 起 し, 細 胞 の飽 和 密 度 が4∼5倍 高 くな る こ とを示 して い る^<35)>。しか し得 られ た トラ ン ス フ ォー ム 細 胞 は ヌー ドマ ウス に 対ず る可 移植 性 が な く, 軟 寒天 中 で の生 育 も認 め られ な いこ とか ら, int-1 には 弱 い ト ラン ス フ ォ ー メー シ ョン能 しか な い と考 え られ る^<35)>。 最 近 彼 らは, int-1 導 入C57 MG細 胞 に お い て のみ 分 子 量120Kと180Kの 蛋 白 質 の チ ロ セ ン リン酸 化 が亢 進 して い る こ とを 観 察 し, そ の分 子 量 か ら この2種 の 蛋 白 質 が チ ロ シン キ ナ ーゼ 活 性 を 有 す る int-1 の受 容 体 で あ る可 能 性 を 指 摘 して い る^<36)>。さ ら に1987年 同 グル ー プは, int-1 遺 伝 子 の約1kb上 流 にMMTV LTRを int-1 の転 写 方 向 と逆 向 きに導 入 した融 合 遺 伝 子 (乳 癌 に おけ る int-1 とプ ロウ イ ル ス の状 況 を再 現 した) を 用 い て トラン ス ジ ェ ニ ッ クマ ウ スを 作 製 し, 乳 腺 癌 の多 発 を 確 認 し, int-1 が乳 癌 の発 生 に強 く関 与し てい るこ と を 直 接 証 明 して い る^<37)>。 2. int-2int-1 と 同 様 の 解 析 は, Dickson と Peters ら を 中 心 と
す る グ ル ー プ に よ り, BR 6マウ スの MMTV誘 発 乳 癌 に つ い て も行 な わ れ た^<7,8)>。こ の場 合 も c-onc エ ンハ ン サ ー挿 入に よ る活 性化 が生 じて お り, 乳 癌40例 中17 例 に お い て プ ロ ウ イル ス が int-2 と名 づ け られ た領 域 に 存 在 した 。 乳 癌 特 異 的 に 3.2kb の mRNA も認 め られ た 。int-2 遺 伝 子は int-1 とは ま っ た く異 な っか遺 伝 子 で あ り, マ ウス では 第7番, ヒ トで は 第11番 染色 体 q13 に マ ップ され た。int-2 は マ ウス成 体 組織 で は ま っ た くそ の発 現 は 認 め られず, 発 生 後7日 ∼8日 目の胚 の 延 髄 の 前駆 体 で あ る髄 脳 の 神経 上 皮や, 胚 外 の 外廓 内皮 に お い て 発 現 が 認 め られ^<88)>, ま た, マ ウス お よび ヒトの 奇 形 腫 テ ラ トカル シ ノー マ細 胞 に お い て も発 現 が 確認 され て い る^<39)>。1986年か ら1989年 に か け て, マ ウ ス^<40)>およ び ヒ ト^<41)>の int-2 遺 伝 子 の構 造 解 析 が な され, 3つ のエ ク ソンか らな っ て い ること が 明 らか に され た。int-2 遺 伝 子 の プ ロモ ー タ ー 領 域 の 解 析か ら, 転 写 は主 に2カ 所 のGCボ ッ クス近 傍 よ り始 ま り, TATA配 列 は認 め られ なか っ た 。 また, alternative ス プ ラ イ シ ン グが 生 じ, ま た2カ 所 の poly A 付 加 シ グナ ル が 存在 す るた め に, マ ウ ス テ ラ トカ ル シ ノ ー マ 細胞 で発 現 して い る int-2 mRNA には2.9, 2.7, 1.8, 1.6kb の4種 が 存 在 す る。 しか し, これ らの いず れ か らも 同 じ蛋 白 質 が翻 訳 され る。int-2遺 伝 子産 物 は, マ ウス で は245個, ヒ トで は239個 の ア ミノ酸 残 基 か らな って お り, 両 者 に は89%の 相 同 性 が 認 め られ, とも に シ グナ ル配 列 を も って い る^<41)>。 最 近 int-2 は, 繊 維 芽 細 胞 増 殖 因 子 (fibroblast growth factor ; FGF) の ス ー パ ー フ ァ ミリー に 属 す る 遺伝 子 であ る こ とが 明 らか に な っ た^<42)>。図3に は 現 在 ま で ア ミノ酸 配 列 が 明 らか に な っ て い るFGFフ ァ ミ リー の遺 伝 子産 物 の構 造 を示 して あ る^<43)>。図3B中 に黒 く表 わ した2カ 所 の部 分 は, と くに相 同性 の高 い領 域 を 示 し て い る。 この 領 域 で は全 フ ァ ミリー を通 じて19%の ア ミノ酸 が 保 存 され て お り, 相 同的 置 換 を含 めれ ば, 30% め ア ミ ノ酸 が一 致 す る。 したが っ て こ の ドメ イン は, FGFファ ミ リーの機 能 上重要 であ ることが推 測 さ れ る^<43)>。こ の中 で は, a, b両FGFが シ グナ ル配 列 を もた ない こ と, int-2 は2つ の 相 同 ドメイ ンの間 に17ア ミ ノ酸 残 基 を 挿入 させ て い る こ と, さ らに int-2, お よび hst/KFGFに は, C末 端 に 長 い 配 列 が 存在 す る こ とが特 徴 的 であ る。hst/KFGF^<44)>, FGF-5^<45)> はNIH 3T3細 胞 を トラ ン ス フ ォー ム で き る癌 遺 伝 子 で あ り, ま た bFGF に免 疫 グ ロブ リン の シ グ ナ ルペ プチ ドを 導 入 す る と, NIH 3T3細 胞 に対 す る トラ ンスフォ ー ム能 が 現 われ る こ とが 報 告 され て い る^<46)>。int-2 自身 の トラ ンス フ ォー ム能 に関 す る報 告 は な い が^<*3>, 他 のFGFファ ミ リー遺 伝 子 との類 似 性 よ り, int-2 は増 殖 因 子 と して 分 類 さ れ る型 の癌 遺 伝 子 であ る と考 え られ る。 最 近 Lee ら に よ っ て, bFGF の 受 容 体 の 精 製 と cDNA ク ロー ニ ン グが な され た^<62)>。受 容 体 は, 分 子量 130Kの トラ ン ス メ ン ブ レン蛋 白質 で, 細 胞 外 部 分 に 多 くの酸 性 ア ミノ酸 か らな る ドメ イ ン と, 免 疫 グロ ブ リン 様 の ドメ イン を3個 も って お り, 細 胞 内部 側 に は チ ロ シ ンキ ナ ーゼ 部 分 を 有 して いた。int-2 や 他 のFGFファ ミ リー の蛋 白質の受 容 体 も, チロ シ ンキ ナ ー ゼ の可能 性 が 強 い 。int-2 と hst^<*4> とは エ ク ソン の構 造 が きわ め て類 似 し, 両 者 は17kbの 間 隔 を へ だ て るのみ で非 常 に近 接 し *3 . 最近 int-2 の翻 訳 を 阻害 して い る と考 え ら れてい る5'ORFを 取 り除 いたり, シ グナ ル 配 列 を イ ム ノ ダ ロ ブ リンの 配 列 に 替
え て や るな ど して, 増 殖 因子と して の 活 性 が示 され た (Deed, R., Merlo, G.: Dncogene Meeting)。
*4 胃癌 あ るい は カポ シ 肉 腫 よ りNIH3T3細 胞 へ の トラ ン ス フ ェ クシ ョ ン法 に よ り見 いだ され た 癌 遺 伝 子 。
マウス乳癌 ウイル スによる発癌 の分子機 構 41 て 存在 す る。 した が っ て 両 者 は, 共 通 の遺 伝 子 に よ り進 化 して き た も の と考 え られ る。最 近 Peters らは, MMTV が int-2 の代 わ りに hst を 活 性 化 して 乳 癌 を誘 発 す る場 合 のあ る こ とを 報 告 してい う^<17)>。彼 らは ま た, BR6マ ウ ス の 乳 癌30例 に つ い て, int-1, お よび int-2 の mRNA の検 索, な らび に 両 遺 伝 子 座 近 傍 へ の プ ロ ウ イ ル ス の組 込 み の有 無 を 検 討 し て, 次 り結 果 を得 た^<48)>。(1) 15例 (50%) に お い て, int-1, int-2 両 mRNA を 検
出 し, そ の うち の12例 に つ いて は両 遺 伝 子 座 近 傍 に プ ロ ウイ ル ス の存 在 が確 認 され た 。し た が う て, int-1 と
int-2 とは 癌 化 の プロ セ ス に対す る寄 与の 仕方が異 な る た め に, 両 遺 伝 子 の活 性 化 は相 乗 的 に働 き, 乳 癌 発 生 を
促進 す るも の と考 え られ る。(2) ま た3例 (10%) に お い て は, 両 mRNA と も検 出 さ れず, int-1, int-2 以 外 に も, 乳 癌 発 生 に関 与 す る癌 遺 伝 子 が 存在 す る こ とを 示 唆 した。 最 近 まで v-sis (サル 肉 腫ウ イ ル ス の も つ 癌 遺 伝 子 と して 同 定 さ れ, の ち にPDGFβ 鎖 で あ る こ とが 判 明 し た) の みが 増 殖因子 型の 癌 遺 伝 子 とし て 分 類 され て き た 。 なぜMMTV誘 発 乳癌 に関 連す る癌 遺 伝 子 が, とも に増 殖 因子 型 な の で あ ろ うか 。 3. その他の乳 癌 関 連癌遺伝子 1987年 Callahan の グルー プ は, 野 生 マ ウス よ り近 交 図3. FGFフ ァ ミ リー と し て int-2 の 遺 伝 子 (A) は int-2 と酸 性 お よび 塩 基 性FGFの 配 列 の 比 較 を, (B) はFGFフ ァ ミ リー遺 伝 子 産 物 の構 造 を 示 す 。 図 中 シ グナ ル ペ プ チ ド配 列は〓 で, と くに 相 同 性 の高 い 部 分 は■ で 示 す。2個 のCは 全 フ ァ ミー に 共 通 した Cys の位 置 を 示 す 。 数 字 は■ の部 分 の相 同性 をKGFを 基 準 と して 計 算 した も の 。 KGF : 角 質 上 皮 細 胞 増 殖 因 子, hst/KFGF : トラ ンスフェ ク シ ョン法 に よ り, 胃癌 あ る い は カ ポ シ 肉 腫 か ら 見 い だ さ た 癌 遺 伝 子, FGF-5 : 同 じ く膀 胱癌 由 来 の 遺 伝 子 。
41
42 蛋 白 質 核 酸 酵 素 Vol. 35 No. 1 (1990) 化 した Czech IIマ ウス のMMTV誘 発 乳 癌 よ り int-3
領 域 を 同定 し, 第17番 染 色 体 に マ ップ した^<49)>。int-3 はint-1 , int-2 と ま った く 異 な った 遺 伝 子 で あ る こ と, 2.4kb め mRNA が 発 現 す る こ と以 外 は 解析 は進 ん で い な い。 ま た Ali らは, ヒ ト乳 癌110例 中16%に ゴ int-2 , hst 遺伝 子 の存 在 す る第11番 染色 体q13領 域 の増 幅 が認 め られ る と報 告 して い る^<50)>。ヒ トの 乳 癌 の発 生 に も int-2 が 関 与 し て い る こ とを示 唆 す る興 味 深 い報 告 であ る 。 ま だ c-erb B2も ヒ ト乳 癌 で の増 幅 が 報 告 され て い る 。
IV.
LTRに
変 異 を も ったMMTVに
よ
る リンパ 性 白血 病 の 発 生
1. リ ン パ 性 白 血 病 細 胞 中 に 存 在 す るMMTV 1964 , 年 Stuck ら は, DBA/2マ ウ ス の リンパ 性 白 血 病 細 施 がMMTV誘 発 乳 癌 と 抗 原 を 共 有 す る こ とを 発 見 し, こ れ をML抗 原 (mammary-leukemia antigen) と 呼 んだ が^<51)>, これ はMMTVの env 遺 伝 子 産 物 で あ っ た 。 ま た 電 子 顕 徴 鏡 に よ る観 察 か ら, 乳 癌 好 発 系 マ ウス の リンパ 性 白血 病細 胞 中 に, MMTYの 前 駆 体 で あ るA 粒 子 の蓄 積 が認 め られ る こ とが 多 数報 告 さ れ た 。 そ の後 の研 究 に よ り, リンパ 球 の 中 で は gag あ る い は env 前 駆 体 の プ ロセ シ ン グ に阻 害 が 生 じ るた め に, A粒 子 は 蓄 積 して も, 成 熟MMTV粒 子 が リンパ 球 か ら 産 生 され る こ とは まれ で あ る とされ てい る^<52)>。 この よ うな 観察 か ら, 活 性MMTVを もつ マ ウ ス に 自 然 発 症 した リンパ性 白血 病 の中 に は, MMTVが そ の発 生 に関 与 して い る も のが あ り うる と推 測 され て いた 。 ま たGRマ ウス で は, 400日 齢 の雄 に8%の 割 合 でT 細 胞 白血 病 が 自然 発 症 す る (雌 マ ウ ス は 乳 癌 に よ り 死 亡)。 しか し, 活 性 内在 性MMTVの 遺 伝 子 座 で あ る Mtv-2 を欠 く共 通 遺 伝 子 系 マ ウス で は, こ の 白血 病 発 症 が み られ な い。 こ の in vivo の結 果 も, MMTVの 関 与 を示 唆 して い る。 図4に は, 筆 者 らに よ る結 果 も含 め, 今 ま で に解 析 さ 図4. リンパ 性 白血 病 細 胞 中 に存 在 す る 変 異MMTVのLTR構 造 MLA, DL-8, MLは, DBA/2マ ウス 由来 の 自 然発 症 リ ンパ 性 白血 病株, ま た GRSL13, 34, 42はGRマ ウス 由 来 の 白血 病 株 を 示 す 。マ ウス乳癌 ウイルスに よる発癌の分子機構 れ た リンパ 性 白 血 病細 胞 中 に 存在 す るMMTVの, エ キ ス トラ プ ロウ イ ルス のLTRの 構 造 を 示 して あ る。一 見 してわ か る よ うに, きわ め て共 通 した 部分 に 欠 損 を 含 む 変 異 が 認 め られ る。 そ こ で, このLTR変 異 に よ りMM TVの 増 殖 ・発 癌 にお け る組 織 特 異 性 が , 乳腺上皮か ら リ ンパ球 へ と劇 的 に変 化 した め で は ない か と考 え られ, 分 子生 物 学 的 手 法 に よ る解 析 が, Michalides グル ー プ, Diggelmann グルー プ, そ して 筆 者 , 村 上, 田 中, の グ ル ー プ に よ り行 なお れ た 。 2. 白 血 病 原 性 を もつMMTV変 異 株DMBA-LV Ball は, CFW/Dマ ウ スに 発 癌 剤DMBA (dimethyl benz-(α)-anthracene) を投 与 して 誘 発 した 胸 腺 リンパ 腫 よ り, 白 血 病 原 性 ウイ ル スDMBA-LVを 分 離 した 。 最 近 この ウ イル ス は, 図4に 示 す よ うにLTRのU3部 分 に 欠 損 と再 配 列 を もつMMTV変 異株 で あ る こ とが 明 らか に され た^<9)>。DMBA-LVお よび 対 照 と し てC3H 由来 のMMTVを 新 生 仔 マ ウス の 胸 腺 に 注 射 す る と, C3H MMTVは 胸腺 より 消 失 し, 何 らの病 原 性 を示 さ な い の に対 し, DMBA-LVは, 胸 腺 リンパ球 に感 染 し, プ ロウ イ ル ス を リンパ 球 の ゲ ノ ム中 で 増 加 させ る と と も に胸 腺 の肥 大 が観 察 され, 30日 か ら40日 の比 較 的 短 い 潜 伏期 の の ち, 胸 腺 リンパ 腫 を 発 生 させ た^<53)>。ま た こ の ウイ ル ス に は, 乳 癌 誘 発 能 は な い とされ てい る。 正 常 MMTVに 比 べ, こ の ウイ ル ス のLTR以 外 の遺 伝 子 に 大 き な 変 化 は 認 め られ な い こ とか ら, LTR変 異 が トロ ピズ ム 変 化 の 原 因 と考 え られ て い る^<9)>。今 後 1 や int-2の よ うに, DMBA-LVプ ロ ウイ ル ス の組 込 み に よ り 活 性 化 され る癌 遺 伝 子 の 検 索 が 必 要 で あ る。 3. 変 異LTRの 構 造 GRマ ウス のT細 胞 白血 病^<10,11)>およびDBA/2^<12,54)>マウ ス リンパ 性 白血 病 の解 析 よ り, 以 下 の事 実 が 明 らか とな った 。(1)す べ て の 白血 病 細 胞 株 の ゲ ノム に は 例 外 な く MMTVの プ ロウ イ ル ス の新 た な挿 入 が 認 め られ , そ の LTRのU3部 分 に は 組 換 え が 存在 す る。(2) そ の 組 換 え は 同一 白血 病 株 内 の プ ロウ イル ス コ ピー の間 で は 同 じで あ るが, 異 な る細 胞 株 で は 異 な る。つ ま り個 々 の 白血 病 は モ ノ ク ロー ン性 増 殖 であ り, そ れ ぞ れ 固有 の 組 換 え を LTRに も っ たMMTV変 異 株 に よ り, 反 復 感 染 を うけ て い る と考 え られ る。(3) 図4に 詳 し く示 す よ うに, LTR の変 異 は 特 定 の 領 域 に 限 ら れ, LTRの5'末 端 か ら 530∼660bp 付 近 か らは じ ま り, 980∼1040bp 付 近 で終 る約300∼450bp の欠 損 (全例) と, そ れ に加 え 欠 損 部 分 の近 傍 の配 列 の再 挿 入 を生 じた も の の2つ の タ イ プ が あ る。 後 者 の場合 は, SV 40や マ ウ ス 白血 病 ウ イ ル ス の エ ンハン サ ー の よ うにDNA重 複 領域 が生 じて い る。 し た が って, 変 異LTRに は 単純 欠損 型 とDNA重 複型 が あ る こ とに な る。(4) プ ロ ウイ ル ス の5'と3'側 のLTR の変 異 は 同 一 で あ る の で, 変 異 は ゲ ノ ムRNA段 階 で生 じ, 逆 転 写 の結 果 そ れ が5', 3'両LTRへ 写 し と られ た も の と考 え られ る。(5) LTR変 異 に よ りORFは 崩 れ, コー ドし うる蛋 白質 の分 子 量 は36Kで は な く, 多 くは 20K程 度 とな る。 で はな ぜ 白血 病 細 胞 に のみ , このよ うな変 異LTRを も ったMMTVが 存在 す るの で あ ろ うか 。 4. 変 異LTRの 機 能 筆 者 は, U3の 欠失 して い るDNA部 分 に は, リン パ 球 で 強 く働 く 負 の制 御 領 域 (negative regulatory ele ment ;NRE) が存 在 す る と考 え た 。す な わ ち 変 異MMTV は, NREを 欠 失 す る こ とに よ っ て, リンパ 球 内 で の増 殖 性 を獲 得す る とい う仮 説 で あ る^<54)>。そ こで 変 異LTR (筆 者 らがMLA, DL-8の2種 の 白 血 病 株 よ り ク ロー ン 化 した もの) と正 常LTR (C3HとGR由 来 のMMTV のLTR) の転 写 活 性 をCATア ッセ イ に よ り比 較 した 。 常 法 に 従 い, 両LTRの 下 流 にCAT遺 伝 子 を つ な ぎ, 得 られ たCATプ ラ ス ミ ドを ヒ ト乳 癌 細 胞 と ヒ トお よび マ ウス のT細 胞 白血 病 株 に トラ ン ス フ ェ ク トして 検 討 し た 。MLA LTRは 単純 欠 損型, DL-8はDNA重 複 型 の 変 異 を も っ て い る こ とに注 意 され た い 。図5Aに 示 す 結 果 か ら, (1) 乳 癌 細 胞 (T47D) 中 で はMLA LTRと 正 常LTR (C3H, GR) と は, と もに 通 常 の Dex 依 存 性 の 転 写活 性 を 示 した 。一 方, DL-8LTRは Dex 非 依 存 性 の 転 写 を 示 し, DNA重 複 に よ って新 た な エンハン サ ー が 生 じて い る こ とが 明 らか に な った (事 実 , 重複 配 列 中 に は ア デ ノ ウ イル ス のE1Aの コア エン ハ ンサ ー類 似 の 配 列 とGREが2回 ず つ く り返 され て い る)。(2) 一 方, T細 胞 株 に お い て は 図5B, Cに 示 す よ うに, 正 常 LTR (CH3, GR) の転 写 は 強 く 抑 制 され , 白血病 由来 の 変 異LTR (MLA, DL-8) の み が 強 い Dex 非 依 存 性 (図5B Dex 参 照) の 転 写 活 性 を 示 した 。 した が っ て, リンパ 球 に お け る変 異LTRの 転 写, あ る い は複 製 に 関 す る優 位 性 が 実 験 的 に証 明 され た 。 さ らに筆 者 は 多 くの LTRの 欠 損 変 異 を用 い て次 の結 論 を 得 た^<55)>。 (1) LTRの 欠 損DNA部 分 に は, リン パ球 で 強 く作 用 す るNREが 存 在 す る。(2) リン パ球 で 機 能 す るた め に は, NREの 欠失 に 加 え, エン ハ ン サ ー が必 要 で, MLA, 43
44 蛋 白 質 核 酸 酵 素 Vol. 35 No. 1 (1990) DL-8LTRで は, 図6に 示 す よ うにLTRの5'末 端 よ り536∼557bp 部 分 に, リン パ 球 特 異 的 エン ハ ン サー が 存 在 す る 。 こ の エ レ メ ン トは, ホ リオー マ ウ イ ルスの エ ンハ ン サ ーAエ レ メン ト^<56)>と高 い 相 同 性 を もっ て い た 。C3H MMTVのLTRで は, 6bp の 塩 基 置 換 に よ り こ の エンハ ン サ ー は 壊 れ, 機 能 し な く な っ て い た 。 乳 癌 好 発 系 のC3Hマ ウ ス に, 変 異 MMTVの 関 与 した 白血 病 が認 め られ な い こ と と, 関連 があ る のか も しれ な い。(3) 上 記 エ ンハ ン サ ーエ レメン ト に結 合 す る核 蛋 白質 (Jurkat 細 胞 を 用 い て) が 確認 され た。 今 後, これ ら正 と負 の 制 御 領 域 と相 互 作 用 す る トラン ス 作 用 性 因 子 の 解 析 が必 要 で あ る。 前述 した よ うに リンパ 球 で は 成 熟 MMTVの 産 生 は 阻害 され て い る た あ, 変 異 ウ イル ス を 用 い た in vivo の 実 験 で, 直 接 老 の 白血 病 原 性 を証 明す る こ とはで き て い な い 。 しか しDMBA-LVの 結 果 か ら 考 え る と, 変 異 MMTVの み が リン パ 球 で優 先 的 に 増 殖す る能 力 を獲 得 し, リンパ 球 ゲ ノ ムへ の プロウ イル ス の 組 込 み を くり返 す うち に, 近 傍 の c-onc を活 性 化 し, 白 血 病 を誘 発 させ て い る も の と推 測 され る 。事 実, 村 上 は DL-8の 白 血病 図5. 変 異LTRと 正 常LTRのCATア ッセ イに よ る転 写 活 性 の比 較
Jurkat Molt 3 は ヒ トT細 胞 株, DL-8は, LTRを クロ ー ン したDBA/2マ ウ スT細 胞 白血 病 株 。T47Dは
ヒ ト乳 癌 細 胞 株 で あ る。RSV (ト リラ ウス 肉腫 ウ イ ル ス) は対 照 と して 用 い たRSV LTR CATの 意 味 で あ る。
A) はT47D細 胞 を 用 い て Dex の効 果 を 検 討 した 。B) は Jurkat 細 胞 に お け る Dex 添 加 (上 図), 非 添 加
(下 図) 時 のCAT活 性 を 示 す 。MLAはT47Dで の場 合 と異 な り, Dex 非 俵 存 性 の 転 写 を 示 す 。Dex の 添 加 に よ
り2∼3倍 の 転 写 の 活 性 化 が 生 じて い る。C) 他 のT細 胞 株 で も Jurkat 細 胞 と同 一 の結 果 が 得 られ た。
図6. MLA MMTVのLTR中 に見 い だ され た リ ンパ 球 特 異 的エン ハ ン
サ ー の 構 造
C3HLTRで は 矢 印 で 示 した 塩 基 置 換 に よ ってエ ンハ ンサ ーが 壊 れ て い る。ポリオーマウイルスAエレメント配列中のサブエレメントおよび2種の結合蛋白質 (PEBP 1, 2) の認識部位を示した。
マ ウス乳癌 ウイルスに よる発癌の分子機構 45 株 で は変 異 プ ロ ウイ ル ス の挿 入 に よ り, そ の 近 傍 の 遣 伝 子が 活 性 化 され, そ こか ち, 約 4kb の mRNA が 転 写 され る こ とを 報 告 して い る^<57)>。今 後, この活 性 化 され て い る遺 伝 子 の解 明 が 期 待 され る。 5. 腎 癌 と変 異 MMTV Fullugua らは, Balb/c マ ウス にC3H MMTVを 伝 達 させ て作 った Balb/cfC3H マ ウ スに 腎 癌 が 多 発す る こ とに注 目 し, 腎癌 多 発 の方 向 に選 択 圧 力 をか け て Balb/ cfC3H/cd マ ウ スを 樹 立 した 。 この マ ウス は 雌雄 を 問 わ ず, 15月 齢 で70%に 腎腺 癌 が発 生 し, そ の 癌 細 胞 の 中 に はMMTVが 認 め られ た 。最 近, 腎 癌 中 のMMTV エ キ ス トラプ ロ ウイ ル ス のLTRの 構 造 を 解 析 した と こ ろ, 図4にK-MMTVと 示 す よ うに, U3部 分 の欠 失 と, さ らにMMTVと 関連 の な い 由来 不 明 の 90bp の DNA断 片 の挿 入 が 認 め られ た^<58)>。した が ってLTRに 変 異 を 生 ず る こ とは, リンパ 球 のみ な らず 乳 腺 以 外 の他 の組 織 でMMTVが 発 現す るた め に も 必 要 な もの と 考 え られ る。 以 上 述 べ た よ うに, MMTV変 異株 に よ る異所 発 癌 の 系 は, レ トロ ウイ ル ス の病 原 性 の組 織 特 異 性 決定 に か か わ る メ カ ニズ ム を分 子 レベ ル で解 析 す る のに, きわ めて 有 用 な 系 で あ る と 考 え られ る。 な お ご の 問 題 に 関 して は, 田 中 に よ る優れ た総 説 が あ る の で 参 照 され た い^<59)>。 お わ りに MMTV LTR, ス テロ イ ドホ ル モン 受 容体 系 を 用 いお 転 写 制 御 系 に 関 す る 研 究 は, Yamamoto, Chambon, Evans らに よ っ て きわ め て 精 力 的 に 解 析 が 進 め られ てい るが, 誌 面 の 都 合 上 割 愛 させ て い た だ い た 。 最 近 の 総 説^<2,3,17,20,60,61)>を参 照 され た い 。MMTV LTR は誘 導 型 プ ロモー ターマ と して一般 に広 く用 い られ て い る が, 前 述 した よ うに, 導 入 す る 細 胞 に よ って はGRE以 外 の制 御 領 域 が作用 して, 期 待 す る よ うな ホル モ ンに よ る誘 導 が か か らな い こ とも充 分 あ り うる の で, 注 意 を 喚 起 した い 。 MMTVに よ る々 ウス乳 癌 発 生 め分 子 機 構 の研 究 は, ヒ ト乳 癌 発 生 の メカ ニズ ム 解 明 に も, 重 要 な糸 口を堤 供 して く る も の と信 じて い る。 本研究に ご指導, ご協力いただいた京大ウイルス研究所 田中 春高, 村上昭両博士, な らびに本稿を ご校閲下さ った札幌医科 大学藤永蕙先生, 京大 ウイルス研究所石本秋稔先生に感謝いた します。 文 献 (文献番号を太字にした ものは特に重要な文献 であることを示す) 1) Bittner, J. J.: Science, 84, 162 (1936)
2•z Yamamoto, K. R.: Ann. Rev. Genn., 19, 209-252 (1985)
3) Evans, R. M.: Science, 240, 889-895 (1988) 4) Green, Chambon, P.: TIG, 4, 309-314 (1988) 5•z Nusse, R., van Ooyen, A., Cox, D., Fung, Y. K.
T., Varmus, H.: Nature, 307, 131-136 (1984) 6) van Ooyen, A., Nusse, R.: Cell, 39, 233-240
(1984)
7•z Peters, G., Brookes, S., Smith, R., Dickson, C.: Cell, 33, 369-377 (1983)
8) Peters, G., Smith, R., Brookes, S., Dickson, C.: Cell, 37, 529-536 (1984)
9•z Ball, J. K., Diggelmann, H., Deckaban, G. A., Grossi, G. F., Semmeler, R., Waight, P. A., Fletcher, R. F.: J. Virol., 62, 2985-2993 (1988)
10) Michalides, R., Wagenaar, E., Weijers, P.: Mol. Cell. Biol., 5, 823-830 (1985)
11) Michalides, R., Wagenaar, E.: Virology, 154, 76-84 (1986)
12) Lee, W. T. L., Parakash, O., Klein, D., Sarker, N. H.: Virology, 159, 39-48 (1987)
13) Michalides, R., van Ooyen, A., Nusse, R.: Curr. Top. Microbiol. Immunol., 106, 57-74 (1983)
14) Imai, S., Morimoto, J., Tsubura, Y., Iwai, Y., Okumoto, M., Tahanori, Y., Tsubura, A., Hilgers, J.: Eur. J. Cancer Clin. Oncol., 19,
1 011-1019 (1983)
15) Tsubura, A., Inaba, M., Imai, S., Murakami, A., Oyaizu, N., Yasumizu, R., Ohnishi, Y., Tanaka, H., Morii, S., Ikehara, S. Cancer. Res., 48, 6555-6559 (1988)
16) Dickson, C., Peters, G.: Curr. Top. Microbi ol.Immunol., 106, 1-29 (1983)
17) Ringold, G.: Curr. Top. Microbiol. Im munol.,106, 79-98 (1983)
18) Chandler, V. C., Maler, B. A., Yamamoto, K. R.: Cell, 33, 489-499 (1983)
19) Chalepakins, G., Arnemann, J., Slater, E., Bruller, H. -J., Gross, B., Beato, M.: Cell, 53,. 371-382 (1988)
20) Beato, M.: Cell, 56, 335-344 (1989)
21•z Cato, A. C. B., Henderson, D., Ponta, H.: EMB O J., 6, 363-368 (1987)
22) Kennedy, N., Knedlitshek, G., Groner, B., Hynes, N., Herrlich, P., Michalides, R., van Ooyen, A. J. J.: Nature, 295, 622-624 , (1982) 23) Wheeler, D. A., Buetel, J. S., Medina, D.,
Cardiff, R. D., Hager, G. L.: J. Virol., 46, 42-49 (1983)
45
46 蛋 白 質 核 酸 酵 素 Vol. 35 No. 1 (1990)
24) van Klaveren, P., Bentvelzen, P.: J. Virol., 62, 4410-4413 (1988)
25) Bentvelzen, P., van Klaveran, P., Haaksma, A. G. M., Krump-Konvalinkova, V.: in the 1989 meeting on RNA TUMOR VIRUS, p. 140, Cold Spring Harbor, N. Y. (Abstract)
26) Stewart, T. A., Hollingshead, P. G., Pitts, S. L.: Mol. Cell. Biol., 8, 473-479 (1988) 27) –ö•ì•Lˆê : ‘æ11‰ñ“ú–{•ªŽq•¶•¨Šw‰ï (“Œ‹ž 1988) 28) Payne, G. S., Bishop, J. M., Varmus, H.: Nat
ure,295, 209-214 (1982)
29) Fung, Y. K. T., Shackleford, G. M., Brown, A. M. C., Sanders, G. S., Varmus, H.: Mol. Cell. Biol., 5, 3337-3344 (1985)
30•z Brown, A. M. C., PapKoff, J., Fung, Y. K. T., Shackleford, G. M., Varmus, H.: Mol. Cell. Biol., 7, 3971-3977 (1987)
31) PapKoff, J., Brown, A. M. C., Varmus, H.: Mol. Cell. Biol., 7, 3978-3984 (1987) 32) Shackleford, G., Varmus, H.: Cell, 50, 89-95
(1987)
33) Rijisewik, R., Schuermann, M., Wagenaar, E., Parren, P., Weigel, D., Nusse, R.: Cell, 50, 649-657 (1987)
34) Cabreara, C., Alonso, M. C., Johnston, P., Phil lips,R. G., Lawrence, P. A.: Cell, 50, 659-663 (1987)
35) Brown, A. M., Wildin, R. S., Prendergast, T. J., Varmus, H.: Cell, 46, 1001-1009 (1986) 36) Kitajewski, J., Chamorro, M., Varmus, H.: in
Fifth Annual meeting on Oncogene, p. 369, Frederick (1989) (Abstract)
37•z Tsukamoto, A. S., Grosschedl, R., Guzman, R. C., Parslow, T., Varmus, H.: Cell, 55, 619-625 (1988)
38) Wilkinson, D. G., Peters, G., Dickson, C., Mc Mahon,A. P.: EMBO J., 7, 691-695 (1988) 39) Jakobovits, A., Shackleford, G. M., Varmus,
H., Martin, G. R.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 83, 7806-7810 (1986)
40) Moore, R., Casey, G., Brookes, S., Dixon, M., Peteres, G., Dickson, C.: EMBO J., 5, 919-924 (1986)
41) Brookes, S., Smith, R., Casey, G., Dickson, C., Peters, G.: Oncogene, 4, 429-436 (1989) 42•z Thomas, K. A.: TIBS, 13, 327-328 (1988) 43) Finch, P. W., Rubin, J. S., Miki, T., Ron, D.,
Aaronson, S. A.: Science, 245, 752-755 (1989) 44) Yoshida, T., Miyagawa, K., Odagiri, H., Saka moto,H., Little, P. F. R., Terada, M., Sugimu ra,T.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 7305-7309 (1987)
45) Han, X., Bates, B., Hu, X., Goldfarb, M.: Mol. Cell. Biol., 8, 3487-3495 (1988)
46) Rogelj, S., Weinberg, R. A., Fanning, P., Klagsbrun, M.: Nature, 331, 173-175 (1988) 47) Peters, G., Brookes, S., Smith, R., Placzek, M.,
Dickson, C.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86, 5678-5682 (1989)
48•z Peters, G., Lee, A., Dickson, C.: Nature, 320, 628-631 (1986)
50) Ali, I. U., Merlo, G., Callahan, R., Lidereau, R.: Oncogene, 4, 89-92 (1989)
51) Stuck, B., Boyse, E. A., Old, L. J.: Nature, 203, 1033 (1964)
52) Nusse, R., Van der Ploeg, L., Van Duijn, L., Michalides, R., Hilgers, J.: J. Virol., 32, 251-258 (1979)
53) Ball, J. K., Dekaban, G. A.: Virology, 161, 357-365 (1987)
54) Yanagawa, S., Murakami, A., Tanaka, H.: in the 1989 meeting on RNA Tumor Virus, p. 37, Cold Spring Harbor, N. Y. (Abstract) 55) Yanagawa, S., Murakami, A., Tanaka, H.:“Š•e’†
56) Yamaguchi, Y., Satake, M., Ito, Y.: J. Virol., 63, 1040-1048 (1989)
57) 村 上 昭 : 第11回 日 本 分 子 生 物 学 会 (東 京, 1988)
58) Wellinger, R., Garcia, M., Vessaz, A., Dig
gelmann,H.: J. Virol., 60, 1-11 (1986)
59) 田 中 春 高 : ウイ ル ス, 37, 41-54 (1987)
60) 今 門 純 久 ・近 藤 滋 ・酒 井 正 春 ・村 松 正 実 : 実 験
医 学, 17, 124-129 (1989)
61) 梅 園 和 彦 : 細 胞 工 学, 8, 578-586 (1989)