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助産師による退院後の母乳育児ケアにおける観察視点

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原  著

助産師による退院後の母乳育児ケアにおける観察視点

Observation viewpoints by midwives

on breastfeeding after discharges

長 田 知恵子(Chieko OSADA)

* 抄  録 目 的  地域において,授乳期の母乳育児ケアに精通している助産師による観察視点の構成因子を抽出し,そ の特徴を明らかにすることである。 対象と方法  対象者は,病院や地域で母乳育児支援をしている助産師6名で,研究協力者である母子は,対象助産 師に初めてケアを受ける25ケースであった。  対象者が研究協力者に母乳育児ケアを行う場面を参加観察した後に半構成的インタビューを行い,得 たデータから, 助産師による観察 と思われることを意味内容に沿って抽出し,カテゴリー化したデー タを既存文献と比較検討した。 結 果  母乳育児ケアにおいて助産師が対象の母子を捉え,アセスメントする際の観察項目や因子は,【母親】 【子ども】【母子】の3コアカテゴリーから構成されていた。また先行研究と比較すると,【母親】の心理的 状態として〈行動特性〉や〈内省〉〈イメージ〉が,社会的状態としては〈衣服〉や〈生活〉〈医療者〉が新た な因子として見出された。また【子ども】の「パワー」と「フォローアップ」,【母子】の「イベント」も本研 究で新たに見出された。そして助産師が行っている観察の特徴として,母子を取り巻く環境や,より暮 らしに密接した具体的で個別性を重視した観察因子が抽出され,中でも特に乳房の状態は助産師自身の 手によって感じ分けているという観察因子が抽出された。さらに助産師の観察視点の特徴としては,【母 親】と【子ども】の各々を観るだけでなく,【母子】という母親と子どもの双方の観察を併せ持つ視点から 構成されていた。 結 論  母乳育児ケアにおいて助産師は,授乳期の母子の生活に密着した詳細な情報を多面的に観察するとと もに,助産師自身の手で感じ分けていた。また【母親】と【子ども】の各々の視点からだけでなく,母親 と子どもの双方の観察を併せ持つ【母子】という3視点から構成されているという特徴があった。 キーワード:母乳育児ケア,助産師,観察,授乳期,退院後

聖路加看護大学大学院博士後期課程(St. Luke's College of Nursing)

2009年3月6日受付 2009年7月29日採用 日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 23, No. 2, 182-195, 2009

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Abstract Purpose

The present study aims to make a sampling of the factors constituting the observation viewpoints by midwives in the community who are well versed in breastfeeding during lactation period, and thus to clarify the characteris-tics of their viewpoints.

Methods

The study was carried out at a midwife clinic specializing in breastfeeding support, a hospital and a maternity center in Japan. The subjects for this study were 6 midwives, and 25 postnatal women who received the breast-feeding care by the midwives for the first time were employed as the study collaborators. We conducted the semi-structured interviews with the subjects after making observations at breastfeeding care for the study collaborators, and made a sampling from the data collected that were deemed to be the "observations by midwives". Then we compared our categorized data with those in the literature.

Results

The observation factors for assessing breastfeeding care by midwives for the postnatal women and the children were composed of the 3 categories, i.e. "Mother", "Child" and "Mother and Child". In comparison with the previous studies, the category of "Mother" was found to additionally contain the sub-categories of "Behavior Characteristics", "Reflection" and "Image" as the indicators of psychological state, and the sub-categories of "Clothes", "Lifestyle" and "Medical support" as the indicators of social state. The sub-category of "Behavior characteristics" indicated the women's behavior based on their cultural values. The "Child category" was newly sub-divided into "Power" and "Follow-up". Also in the category of "Mother and Child", the sub-category of "Event" was newly added in the present study. As the observation characteristics by midwives, the observation factors attaching great importance to specific and individualized aspects of the environment or life surrounding a mother and child were taken as a sample. Among such observation factors, especially the observation factor of midwives evaluating the conditions of breasts by touching them using their own hands was taken as a sample. Furthermore, as the characteristics of the observation viewpoints by midwives, these were constructed on not only the respective viewpoints of "Mother" and "Child", but also the viewpoint of the dyad of "Mother and Child".

Conclusion

It was found that, in breastfeeding care, midwives observed multi-facedly the detailed information closely relat-ed to the life of a mother and child during the lactation period, examining directly the breast conditions by their own hands. Moreover, their observations characteristically consisted of not only the respective viewpoints of "Mother" and "Child", but also the viewpoint of the dyad of "Mother and Child".

Keywords: breastfeeding care, midwife, observation, lactation period, after discharge

Ⅰ.緒   言

 日本の平成12年の母乳栄養率は,生後1∼2ヵ月 で44.8%,生後2∼3ヵ月で42.3%,生後3∼4ヵ月で 39.4%,生後4∼5ヵ月で35.9%と,他の先進国と同様 に,その割合は徐々に減少しているのが現状であり, 政策として「健やか親子21」でも母乳栄養率の増加を 目標に挙げている(厚生労働省,2008)。  母乳育児を確立,支援していくには,入院中だけで なく医療機関を退院した後のフォローが重要である (根津,2002)と言われ,紺野によれば(2005)褥婦の 約75%が退院後3∼5日目の支援を希望している。し かしながら,出産施設を退院した後の母子への支援は 限られており,必要な時にトータル的な支援が受けら れないのが現状であると八木(2004)は指摘している。 また乳腺炎などの乳房トラブルは,授乳期であればい つでも起こりうる可能性があり(水野,2005),中でも 退院した後である産後2,3週以降から多発するといわ れている(泉,1998;武市,2005)。そのため,助産師 にとって,産褥早期の入院中だけでなく,出産施設を 退院した後の授乳期の母子に対して母乳育児ケアを行 う機会は多い。  また母乳育児ケアを行うためには,母子の授乳状態 を観察し,適切にアセスメントすることが必須である (杉浦,2005)とも言われている。しかしわが国の母乳 育児支援は,施設環境や医療者間の認識の相違等によ り,その方針やケアの方法が統一されているとは言い 難い(粟野,2006;峯岡,2005)。   海 外 に は, 授 乳 期 の ア セ ス メ ン ト ツ ー ル と し て,UNICEFやWHOが 推 進 す るB-R-E-A-S-T FEED

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OBSERVATION(母乳育児観察用紙)(UNICEF/WHO (1993/2003)) やSAIB(Systematic Assessment of the

Infant at Breast)(Shrago, 1990)やLATCH(Breastfeed-ing Assessment Tool)(Riordan, 1997)等あるが,乳房 に関する詳細な観察視点はなく,授乳行動のみに焦点 が当たっていることや,またそれらを研究した結果で は,信頼性や妥当性は得られていない(粟野,2006; Riordan, 1997)。また,アセスメントツールの開発目 的が日本の入院システムや産褥ケアに適合しないとい う意見(粟野,2006)や日本の文化や医療事情に合わせ てアレンジすることも必要であるという意見もある (橋本,2003)。つまり,母乳育児ケアは,助産師個人 の経験的な判断によるものが大きいのが現状である。  しかし,個々の看護者の経験による偏った判断や看 護者間での不統一な認識は,効果的な母乳育児支援 の実践や継続の妨げとなりやすく,ケアの受け手で ある母親達に戸惑いを与えかねない(前原,2005)。ま た,助産師の基礎教育における母乳育児ケアは,産褥 期の看護や地域における保健活動に位置づけられてい る(青木他,2004)が,十分な内容とは言い難く,実際, 助産師が卒後,ケアを提供するうえでもっとも困るケ アの1つとなっている(脇本他,2001)。そのため,実 際に母乳育児ケアに従事している助産師らが行ってい る観察に着目し,記述することは,助産師学生や新人 助産師にとってアセスメントやケアの方向性を検討す る際の参考となると思われる。以上のことより,母乳 育児ケアを授乳期の母子に提供する助産師の観察視点 を構成する因子を抽出し,その特徴を明らかにするこ とが必要であると考える。

Ⅱ.研 究 目 的

 本研究の目的は,地域において,授乳期の母乳育児 ケアに精通している助産師による観察視点の構成因子 を抽出することである。

Ⅲ.用語の操作的定義

 本研究において,次のように用語を定義した。 母乳育児ケア:母乳育児を確立・支援するために助産 師が授乳期の母子に行うケアで,乳房の観察だけで なく,育児支援を含むケア。 観察:助産師がアセスメントを行う際に得る指標とな る情報。 アセスメント:観察したことを,査定,判断し,ケア を導く思考過程。

Ⅳ.研 究 方 法

1.研究対象(助産師)と協力者(母子)  対象助産師は,6名であった。対象条件として次の 要件を満たすものとした。1)地域で主に母乳育児ケア を提供している訪問あるいは開業している助産師。あ るいは病院内の母乳外来で,主に退院後の母乳育児ケ アを行っている助産師。2)母乳育児ケアに携わってか ら5年以上の経験がある。3)日本語での意思疎通が可 能である。4)研究の趣旨を理解し,同意を得られた助 産師とした。  研究協力者(母子)は,25ケースであった。選択条 件は,1)母乳外来あるいは母乳育児相談室に(訪問も 含む)母乳育児ケアを受けに来た母子。2)対象助産師 にとって初めて担当する母子である。3)日本語で意思 疎通が可能な母親である。4)研究への参加の同意が得 られた母親とした。 2.データ収集期間  2006年6月∼10月 3.データ収集方法 1 )『母乳育児ケアの観察項目』の作成経過  和文献10は,医学中央雑誌で「母乳」「授乳」「観察」 など19のキーワードを基に過去10年間の文献を検索 し,観察項目が重複しないように内容を検討し,選 択した。(稲葉・飯田・長澤他,1997;伊藤,1997;大 沢・藤木・太田他,1999;古仲&武田,2004;中村・ 牧野・家城他,2001;峯吉,2001;加藤・寺山・伊藤 他,2003;飯田・堤・川崎他,2003;角川,2005;竹 下,2005)また洋文献5は,PubMedおよびコクランラ イブラリーで同様に検索し,検討した。(Marmet & Shell, 1984; Mulford, 1992; Jensen et al, 1994; Adams, 1997; Matthews, 1988)それらを統合し,『母乳育児ケ アの観察項目』(以下『観察項目(既存研究)』とする) を作成した。 2 )データ収集手順  各施設長あてに研究依頼を文章でお願いし,了解を 得られた後に所属長から対象条件に見合う助産師の推 薦をいただき,研究者が直接研究の趣旨を説明し了承

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を得た。また母乳育児相談室には,研究者より口頭と 文書による依頼をし,了承を得た。また,対象助産師 の基本情報を得るための質問紙(助産師歴,勤務形態 など)の記載をお願いした。研究協力者である母子は, 対象助産師より推薦された母親に対し,研究者自身で 研究の趣旨を説明し同意を得た。その後,対象助産 師が行う母乳育児ケア時に参加観察をし,ケア終了後 あるいは業務終了後に,参加観察で得た情報を基に半 構成的なインタビューを対象助産師に行った。インタ ビュー場面を録音したテープは,逐語記録としてデー タ化した。 4.データ分析と分析の信頼性と妥当性の確保  データの中から,対象のどこを観ていたかなど,助 産師が対象を把握する際に情報を収集しているであろ うと思われる個所に着目し,意味内容を解釈した。そ の後,前後の文書も含めて文脈を吟味しながら,助産 師の「観察視点」と思われることをコード化し,抽出 した。それらをさらに抽象度のレベルを考慮しながら, コアカテゴリー,カテゴリー,項目,因子として分類 した。また本研究では,データ分析の信頼性と妥当性 を高めるために,以下の方法を行った。1)本研究を行 うにあたり,母乳育児相談室を開業して3年目の助産 師および22年目の助産師にパイロットスタディとし て,インタビュー内容や方法,所要時間などのアドバ イスを得た。2)インタビューを行う前に,フィールド の見学および対象助産師に対して事前に研究目的や方 法について説明を行った。3)データの誤りを最小限に するとともに,研究者と対象助産師との信頼関係の構 築や正確なデータを得やすくするため,インタビュー は必要に応じて数回行い,結果の確認も行った。4)イ ンタビューだけでなく,補足として参加観察法を用い るという複数の方法によりデータを収集した。5)得ら れた結果について,母乳育児ケアに関心のある助産師 や研究法に精通した研究者よりスーパーヴィジョンを 受けた。なお研究者は,産褥病棟および母乳外来にお いて母乳育児ケアの経験を持ち,現在も地域で暮らす 母子を対象とした母乳育児相談室でケアに携わってい る助産師である。 5.倫理的配慮  インタビューに際し,対象助産師および研究協力者 に対して,以下の倫理的な配慮を行った。1)研究への 参加,協力は,自由意志に基づくものである。2)研究 への参加,協力は,研究途中および終了後でも拒否が できる。3)研究の拒否による不利益は被らない。4)個 人情報の保護に努める。5)プライバシーの保護に努め る。なお,聖路加看護大学の研究倫理審査委員会の承 認(承認番号:06-018)を得た。

Ⅴ.結   果

1.対象者の背景(表1参照)  対象者の年齢は,33∼76歳,助産師歴8∼33年,母 乳育児ケア歴7∼26年,調査開始前1週間の母乳育児 ケア時間9∼55時間(平均31.3時間)であった。勤務形 態は,母乳育児ケア専門の外来や訪問が1名,外来だ けでなく産科病棟も兼務している助産師が3名,母乳 育児相談室を開業している助産師が2名であった。母 乳育児に関する教育機関別でみると,International Board Certified Lactation Consultantの有資格者である 助産師が1名,Baby Friendly Hospitalの病院に勤務し

表1 対象助産師の概要 助産師 助産師歴(年) 母乳育児ケア専門歴(年) 母乳育児ケア時間(時間/1週間) 勤務形態 母乳育児ケアの基礎的教育機関 A B C D E F 20 8 15 15 33 32 16 7 10 8 23 26 19 40 15 9 55 50 外来・訪問 病棟・外来 病棟・外来 病棟・外来 開 業 開 業 IBCLC*1 BFH*2 BFH BFH 桶谷*3 桶谷 *1 IBCLC:International Board Certified Lactation Consultantの有資格者

*2 BFH:Baby Friendly Hospitalに勤務している助産師 *3 桶谷:桶谷式乳房管理法の認定者

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ている助産師が3名,桶谷式乳房管理法認定者が2名 であった。 2.対象症例(母乳育児ケアの受け手である母子)の 概要  本研究に協力を得られた母乳育児ケアの受け手であ る母子は,合計25ケースであった。助産師の診断では, 乳汁の分泌不足や分泌不足による子どもの体重増加不 良あるいは乳汁分泌が不足していると母親が認識して いるだけの分泌不足感などの「分泌不安」12ケースと, 乳房内の硬結や白斑などの「乳房トラブル」13ケース の2つに大別された。来院時の産後日数は,7日∼2年 2ヵ月であった。  その内訳は,「分泌不安」は産後7日目から319日目 ではあるが,特に産後1ヵ月までの受診が多かった。 一方「乳房トラブル」は,産後11日目から790日目で あるが,産後2週目以降から増加し,1年以上経過して もケアを受けに来院されるケースもあった。 3.母乳育児ケアにおける助産師の観察視点  対象の助産師が臨床において母乳育児ケアをするに あたり,その判断の指標とする観察視点を明らかにす るため,『観察項目(既存研究)』と,インタビューより 抽出した観察項目因子(以下『母乳育児ケアにける観 察視点(インタビュー)』とする)について述べる。なお, 本研究で用いた用語の中には,生理・解剖学的には使 われていないもの(例えば,催乳徴候や乳頚,基底部 など)も含まれているが,臨床で実際に使用されてお り,今回のインタビューデータとしても得られたこと から臨床用語として載せることとした。  記載するにあたり,【 】はコアカテゴリーを,《 》 はカテゴリーを,〈 〉は項目を,「 」は因子を,〈 〉 は助産師の会話を表す。 1 ) 『観察項目(既存研究)』(表4参照)  『観察項目(既存研究)』は,【母親】【子ども】【母子】 の3コアカテゴリー,154因子で構成されている。その 内訳は,【母親】62因子,【母子】3因子,【子ども】54因 子である。 2 ) 『母乳育児ケアにける観察視点(インタビュー)』 (表4参照)  インタビューの結果,対象助産師が母乳育児ケアを 行う際の観察視点は,【母親】【子ども】【母子】の3コア カテゴリーと8カテゴリー,140因子が抽出された。以 下に,今回のインタビューで得られた観察項目の特徴 と『観察項目(既存研究)』と『母乳育児ケアにける観 察視点(インタビュー)』の比較について,コアカテゴ リー別に述べる。 (1)【母親】  本研究で抽出された【母親】は,他のコアカテゴリー である【子ども】【母子】に比べ,項目数や因子数とも 6 5 4 3 2 1 0 (人) □分布不安 ■乳房トラブル 1 週 2 週 1ヵ月 3ヵ月 6ヵ月 1 年 1年以上 1 0 3 1 5 2 1 3 1 1 1 2 0 4 (産後の日数) 表2 助産診断の違いによる受診日と受診者数 表3 助産診断の違いによる受診日(単位:日) 分 泌 不 安 (N=12) 乳房トラブル(N=13) 平 均 最 短 最 長 78.5 7 319 240.3 11 790

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表4-1 『母乳育児ケアにける観察視点(インタビュー)』と『母乳育児ケアの観察項目(既存研究)』の比較 【母親】 『母乳育児ケアにける観察視点(インタビュー)』 『母乳育児ケアの観察項目(既存研究)』 項  目 因  子 因  子 特   性 ・既往歴や既往妊娠分娩歴 ・体質(アレルギーなど) ・スポーツ経験 ・利き手 ・既往歴・既往妊娠・分娩歴(流・早産を含む) ・アレルギーの有無 ・スポーツ経験 ・年齢・身長・趣味・家族歴(高血圧など) 体   調 ・バイタルサインおよび循環状態 ・発熱状態や出現状況(悪寒や関節痛を伴う) ・炎症症状や風邪症状の有無 ・体重およびその増減 ・顔色や表情(顔つき),しぐさ,言動 ・体力や倦怠感および疲労 ・睡眠状態 ・緊張やストレス ・月経開始の有無と状況 ・肩こり ・発熱・悪寒 ・非妊娠時の体重・現在の体重 ・疲労 ・月経周期関連事項 妊 娠 期 ・妊娠中の異常や薬剤内服・入院経験の有無とその理由 ・今回の妊娠経過(体重増加量・血圧異常・蛋白尿・尿糖など) 分 娩 期 ・分娩形態(帝王切開や吸引など)とその理由・分娩経過や分娩所要時間 ・分娩形態(帝王切開・吸引・鉗子)・分娩経過(出血量など)・分娩所要時間 産 褥 早 期 ・身体の回復状態(悪露や子宮復古状態) ・入院形態(母子同室,異室) ・出産施設での母乳育児に関する方針 ・乳房緊満状況 ・乳房マッサージの有無 ・悪露・便秘・頭痛・食欲・貧血 ・乳房緊満の時期・程度 ・乳房マッサージ 退院〜受診 ・退院後の母乳育児の状況・来院目的および来院までの経過と症状 ・来院目的(主訴)・来院までの経過 乳 腺 体 ・乳房の大きさや左右差 ・乳腺の発達(弾力性) ・可動性 ・皮膚の色や浮腫 ・乳房の形態 ・全体的な発赤・限局した発赤・皮膚の陥没・潰瘍 乳   輪 ・大きさ・柔軟性や伸展性 ・乾燥状態 ・乳輪(大きさ)・乳輪(厚さ) ・乳輪の疼痛の有無・乳輪(色彩) 乳   頚 ・長さや伸展性 乳   頭 ・大きさや形状,色彩・伸展性や柔軟性 ・皮膚の乾燥状態 ・大きさ・乳頭の形・皮膚の色 ・乳頭の牽引感・乳頭の伸展性 ・水泡・発赤・内出血・浮腫・血腫 乳   管 ・乳管のサイズ(狭い,太い)や感触(硬さ)・乳管の抵抗感や詰まり ・乳管洞の深さ 排 乳 口 ・排乳口の数や形状(いびつなど) ・乳管開通の本数 乳   汁 ・色彩や濃淡,混濁や分離,粘稠度・乳汁の味や匂い,温度 ・血乳や乳汁内への混入物,浮遊物 ・乳汁(色彩)・乳汁(粘稠度) ・乳汁(温度)・乳汁(臭気) ・血乳・乳汁(混入物) 分   泌 ・分泌状態(にじむ程度,射乳するなど) ・分泌の仕方(左右差など) ・射乳の回数や時間,状態 ・催乳の感覚(湧いてくる感じがわかる) ・射乳の状況・乳汁分泌量 ・射乳反射(催乳徴候) ・射乳(感覚)・催乳の徴候 搾   乳 ・搾乳状況(回数,量) ・適切な搾乳(手の位置,圧のかけ方) ・搾乳後の残乳 ・搾乳前後の変化 ・搾乳し易さ・搾乳の方法(搾乳器・手)・量 ・搾乳の有無(授乳前・授乳後・その他) 妊娠〜産褥期の経過

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ト ラ ブ ル ・硬結の数,大きさ,形状や経過(変化) ・硬結の部位と深さ,程度(硬さ),皮膚色 ・白斑の数や部位,大きさ,状態 ・白斑ができた状況(いつ・どんな時)と経過お よび白斑がなくなった時期 ・水疱や血疱の数や部位,大きさ ・水疱や血疱の表皮の状態(破裂) ・キズの部位や大きさ,程度 ・疼痛の部位と範囲(限局,全体) ・疼痛の訴え方や状態(拍動痛など) ・疼痛の状況(授乳前後,搾乳前後,吸着時など) ・詰まった経験(部位,回数) ・乳房マッサージ前後の変化(乳房,乳頭,乳輪, 乳汁の分泌状態など) ・硬結(大きさ,硬さ,波動の有無) ・亀裂・損傷 ・乳頭痛・限局した痛み・全体的な痛み ・リンパ節の腫大 自 己 管 理 ・普段の乳房自己管理状況・乳房内の硬結に対する自己対処方法 ・妊娠中の乳房管理・授乳期の乳房管理・冷湿布・乳房を温める・手当ての方法 行 動 特 性 ・物事の捉え方や感じ方(悲観的,楽観的など) ・対処行動(指導に対する理解や行動,先を見据 えた行動など) ・不安や悩み事およびその内容 内   省 ・お産に対する想い イ メ ー ジ ・乳房や母乳育児,分泌に対する母親が想う理想 と現実 ・母乳育児への関心度と継続の意思 ・子どもが泣いたときに母親が抱く想い ・子どもに対する感情や期待 ・母乳育児への意欲 食 生 活 ・妊娠前及び現在の食事状況や傾向・食事形態(食事の準備をする人,外食の頻度等) ・嗜好・偏食 住   居 ・現在住んでいる場所 ・里帰りの有無と自宅に戻る日 ・通院の負担(距離,経済,身体,サポート) ・現在の居住地 ・里帰り・実家との距離 ・来院するときの交通手段・所要時間 ・母親が主に授乳する部屋の色彩 衣   服 ・下着の種類(ワイヤー入りブラジャー) 生   活 ・片手を良く使う生活・季節 経   済 ・仕事の有無や内容,復帰時期・経済状態 ・職業・復職の有無と時期・会社の体制 育 児 経 験 ・母乳育児歴・母親の成育状態(幼い子への接触経験など) ・前回の栄養状況(栄養方法,やめ方など) 家   族 ・家族構成や同居者 ・夫の協力状況や母乳育児に対する想い ・祖母との関係性や祖母の協力状況 ・母乳育児に対する祖母の想いや心配事 ・支援内容(哺乳瓶を使って授乳を支援するなど) ・家族構成・同居家族 ・夫の協力 ・夫以外の援助 周   囲 ・母乳育児への理解や価値観・母乳育児状況 知   識 ・出産施設の母乳育児指導内容および母親の理解と納得 ・情報のルート ・母親が得る情報の場(友人関係) 医 療 者 ・医師の治療方針や指示・処方理由および薬剤の種類,内服状況

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多かった。  カテゴリーの内容は,《身体的状態》《心理的状態》 《社会・文化的状態》という3つの側面から主に母親を 捉える観察項目で構成されている。その中でも,特に 母乳育児を行っている母親の特徴である〈乳房の状態〉 については,『観察項目(既存研究)』の項目より詳細な 内容となり,さらに助産師らによる具体的な観察方法 も因子として抽出された。例えば,〈乳腺体〉という項 目について,既存の研究からは「乳房の形態」という 因子はあったものの「乳腺の拡張」という因子はなかっ た。しかし今回のインタビューでは,〈お乳の硬さ柔 らかさは,デリケートで差が少ないですけど,やっぱ り手で感じ分けられますよね。これは硬いとか,これ は弾力があって,分泌がいい弾力のあるものとかとい うのを。〉というように,助産師は手によって感じる 乳腺の弾力性の状態を観察することにより乳腺が拡張 する状態を見分けているという〈乳腺の拡張〉因子が 抽出された。また〈乳管〉では,既存の研究からは「乳 管洞の深さ」だけだったが,乳管のサイズを助産師は 手で感じ取りながらその感触から太さや硬さ,詰まっ ている状態を見分ける「乳管のサイズ(狭い・太い)や 感触(硬さ)」「乳管の抵抗感や詰まり」という因子が抽 出された。さらに今回のインタビューでは,〈射乳で 出るっていうだけじゃなくて,刺激しているうちに どんどん湧いてきた〉や〈搾っていても流れてくる感 じが全然なかった〉,〈手で搾っていて,出方をみれば, よく出るか出ないかとかがわかる〉というように「ケ ア前後の変化(乳房・乳頭・乳輪・乳汁の分泌状態な ど)」「搾乳前後の変化」など,助産師らはケア前後の 変化や経過から乳房トラブルの状況を推し量っている 因子が抽出された。また,《心理的状態》では,既存の 研究では「母乳育児への意欲」のみであったが,本研 究からは母乳育児をしている母親の行動や心の内面を 反映するものとして〈行動特性〉や〈内省〉,〈イメージ〉 という項目が抽出された。それらには,既存の研究に は全くなかったが母親の行動を特徴づける考え方や価 値観を観るものとして「物事の捉え方や感じ方(悲観 的・楽観的など)」や「対処行動(指導に対する理解と 行動,先を見据えた行動など)」,「不安や悩み事やそ の内容」などが表出された。加えて,母親が母乳育児 をする上で描いている想いや,理想と現実との差であ る「乳房や母乳育児,分泌に対する母親が想う理想と 現実」,子どもが泣くことによって感じる母親の感情 を観るという「子どもが泣いたときに母親が抱く想い」 なども因子として抽出された。そして《社会・文化的 状態》では,食生活や住居に関する項目は既存の研究 でも「嗜好」や「偏食」という因子は得られていた。し かし,インタビューでは「食事形態(食事の準備をす る人,外食の頻度等)」というように,授乳している 母子にとってどのような食事をしているかだけでなく, 誰が食事の準備をするかという母親の日々の暮らしぶ りなど,より生活に密着した因子までも抽出すること ができた。さらに今回のインタビューのみで得られ〈衣 服〉では,「ワイヤー入りブラジャー」という下着の種 類や,〈生活〉では普段の生活において「片手をよく使 う」「季節」など,対象者である母子の生活を反映する ような因子が抽出された。加えて〈支援〉でも,「母乳 育児への理解や価値観」「母乳育児状況」という周囲の 人達の母乳育児への理解度や価値観についての因子は, 今回のインタビューだけで見出された因子であった。 以上のように,今回のインタビューで得られた項目は, 既存研究の観察項目に比べ,対象者である【母親】の 心身の状態や日々の暮らし方を詳細に観察する項目内 容であり,さらに,どのように助産師らが観察し判断 しているのか,そのアセスメントも反映している因子 が得られた。 (2)【子ども】  【子ども】は,《身体的状態》及び《医療との関わり》 という2つの側面から子どもを捉える項目で構成され ている。  〈体重および増加率〉や〈発達〉という因子は,既存 研究にも今回のインタビューにもあった。しかし〈あ のお子さんは,今は体重が伸び悩んでいるけど,パ ワーがあったから大丈夫です。飲みもよかったし,身 体もよく動かしていたし,笑顔もみられていたからね。 元気です。〉というように,助産師らは,子どものそ の後の経過を予測し判断する際に「活気や表情」「哺 乳力」という因子から,その子どもが持っている〈パ ワー〉を観ていた。これは既存の研究にはなく,今回 のインタビューからのみ得られた項目である。さらに 今回のインタビューからは,〈フォローアップ〉という 項目が新たに抽出された。これは,例えば〈湿疹によ り皮膚科受診をした〉など,湿疹ができる機序は多数 あることから直接母乳育児に関係が深いかは不明であ る因子でも,母乳外来や母乳育児相談室に受診するま でに子どもが医療者によるフォローを受けたことがあ るのかを観るものとして,母子が出産施設を退院し た後から受診するまでにあった出来事を観る因子「退

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院後から健診までの状況」「医療機関への受診(日にち, 科目など)」で構成されている。  一方,「子どもの性別」や「アプガールスコア」など 計7因子は,既存の研究では指摘されていたが,本研 究において助産師らからのインタビューでは表現され ていなかった因子である。 (3)【母子】  【母子】は,《時期》《出来事》《授乳》の3つのカテゴ リーで構成されている。例えば,その中の《時期》と は母親側からみると〈産後の日数〉であり,子ども側 からみると〈日齢・月齢〉,あるいは母親の仕事復帰 により子どもが保育園に通園し始めるという通園開始 により母子が分離されてしまう影響を母子双方の立場 から観るというような,母親と子どもの双方に関係が ある項目で構成されている。既存の研究と比較すると, 今回新たに得られた項目は,〈イベント〉であった。こ れは,「母親と子どもの分離状況」「ライフイベント(お 宮参り・来客の有無)」など,母親や子どもが生活し ている上で,どのような非日常的な出来事が起こった のかを観察するものである。また「授乳」は,既存研 究と同じような項目や因子が抽出された。しかしその 中の〈補助具〉の乳頭保護器については,確かに既存 研究でもみられた因子であった。しかし,どのような 搾乳器を使い,その使い心地について観る「搾乳器の 種類や使用状況」や,哺乳瓶も種類だけでなく,哺乳 瓶を使う際の子どもの反応も観るという「哺乳瓶の使 用状況」という因子は,今回のインタビューからだけ 得られた因子である。 4.助産師による退院後の母乳育児ケアにおける観察 視点の概念図  今回のインタビューを通して得られたコアカテゴ リーと,その中に含まれるカテゴリーおよび項目につ いて,その関係性を概念図として示した。前述の結果 で示したように助産師は,【母親】【子ども】【母子】と いう3つの視点から観察を行い,アセスメントをして いた。そのうち【母親】は,〈特性〉〈体調〉〈妊娠∼産褥 期の経過〉〈乳房の状態〉という《身体的状態》と,〈行 動特性〉〈内省〉〈イメージ〉という《心理的状態》およ び〈生活環境〉〈支援〉という《社会的状態》から構成さ れていた。【子ども】は,〈身体〉〈パワー〉〈栄養〉という 《身体的特徴》および〈入院中〉〈フォローアップ〉とい 表4-2 『母乳育児ケアのアセスメント指標(インタビュー)』と『母乳育児ケアの観察項目(既存研究)』の比較 【子ども】 『母乳育児ケアにける観察視点(インタビュー)』 『母乳育児ケアの観察項目(既存研究)』 項   目 因   子 因   子 身   体 ・体重および増加率 ・体温 ・顔色(黄疸を含む)や皮膚の艶 ・アレルギー ・口腔内の状態 ・脱水症状 ・排泄状態 ・発達 ・身体の柔軟性 ・睡眠状況 ・啼泣の状態 ・体重(出生時・1ヵ月・現在)・増減 ・バイタルサイン ・顔色・口唇色・黄疸・皮膚の乾燥 ・発疹 ・口蓋・舌小帯・上唇小帯 ・排尿回数(回/日)・排便回数(回/日) ・発達 ・子どもの性別・眼脂 パ ワ ー ・活気や表情,動作・哺乳力(緩慢など) ・活気 栄 養 離乳食 ・離乳食開始時期や進み具合 ・離乳食の開始の有無・進み具合 入 院 中 ・NICUへの入院経験とその理由 ・栄養方法(母乳,混合,人工乳など) ・母乳以外の追加状況(量,回数,タイミング) ・NICU入院経験・小児科入院経験 ・入院中の栄養方法 ・アプガールスコア・カンガルーケア・初回直母 までの時間 フォローアップ ・退院後から健診までの状況・医療機関への受診(日にち,科目名など) ・予防接種

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表4-3 『母乳育児ケアのアセスメント指標(インタビュー)』と『母乳育児ケアの観察項目(既存研究)』の比較 【母子】 『母乳育児ケアにける観察視点(インタビュー)』 『母乳育児ケアの観察項目(既存研究)』 項   目 因   子 因   子 時    期 ・在胎週数や修正月齢 ・退院日(母親と子ども) ・来院時の産後の日数(子どもの月齢や日齢) ・在胎週数 ・産後の日数 イ ベ ン ト ・母親と子どもの分離状況(通園開始など) ・ライフイベント(お宮参り,来客の有無など) ・医療者による家庭訪問の有無や指導内容 ・健診の受診経験や指導内容 授 乳 状 態 ・授乳間隔や回数・直母(直接哺乳)の回数 ・授乳パターンの変化(急に飲まなくなったなど) ・授乳方法・間隔・補足(人工乳,糖水) ・授乳の回数・長さ(分/回)・直母量 ・授乳時の状況(児の目覚め具合など) 姿    勢 ・子どもの口の角度や高さ ・抱き方や授乳の方法(片方ずつなど) ・母親の姿勢(肩に力が入る,アイコンタクトなど) ・授乳姿勢(密着,ねじれ,固定)・アイコンタクト ・授乳態勢までの時間・補助具(クッションなど) 吸    着 ・子どもの口の開き方や唇の状態・子どもの舌の位置 ・子どもの口の開き方・唇の状態・乳頭の捉え方・舌の位置 吸    啜 ・吸啜中の子どもの顎の動き・吸啜状況や吸啜持続時間 ・母乳の嚥下音 ・子どもの吸啜パターン・母乳の嚥下音・授乳時,哺乳以外の音 授乳後の変化 ・授乳後の乳頭の形(つぶれている,歪んでいる)・授乳後の子どもの睡眠状況 ・授乳後に子どもは眠りにつく ・排気の出具合・吐乳の有無 ・乳頭保護器の種類や使用状況 ・搾乳器の種類や使用状況 ・哺乳瓶の種類や使用状況(子どもの反応など) ・乳頭保護器の使用の有無 ・おしゃぶりの使用の有無 補 足 状 況 ・現在の栄養方法及び人工乳の補足状況 ・補足開始状況や補足前後の子どもの変化 ・人工乳の追加状況・糖水の追加状況・空腹時の子どものサイン    【母親】 身体的状態 特性・体調・      妊娠∼産褥期の経過・ 乳房の状態      心理的状態 (行動特性・内省・期待) 社会・文化的状態 (生活環境・支援)   【母子】 時期 出来事 (イベント) 授乳 授乳状態・姿勢・吸着  ・吸啜・授乳後の変化 ・補助具・補足状況  【子ども】 身体的特徴 (身体・パワー・栄養) 医療との関わり 入院中・    フォローアップ 図1 助産師による退院後の母乳育児ケアにおける観察視点の概念図

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う《医療との関わり》から構成されていた。【母子】は, 〈現在の状態〉という《現状》と〈イベント〉という《出 来事》および〈授乳状態〉〈姿勢〉〈吸着〉〈授乳状況〉〈授 乳後の変化〉〈補助具〉〈補足状況〉という《授乳》で構 成されていた。なお,助産師の観察視点は,【母親】と 【子ども】という各々を単独に観察,アセスメントす るとともに,母親が母乳で子どもを育てるという母乳 育児を1組のこととして観る,つまり母親と子どもの 双方の観察を併せ持つ【母子】という視点から成り立っ ていた。

Ⅵ.考   察

1.助産師が行っている観察の特徴  今回のインタビューにおいて,母乳育児ケアにおい て助産師が対象の母子を捉える観察項目や因子は,3 コアカテゴリー【母親】【子ども】【母子】から構成され ていた。これは,対象の把握とは,対象の心身の状態 に関する情報の把握である(川島,1998)と述べてい るように,母乳育児ケアを受けに来院した母子の身体 的なことだけでなく,助産師がケアを行う前提として, 心身を含む母子双方の情報を捉えようとしたものであ るためと考える。  コアカテゴリーの【母親】では,母親の心の内面, 例えば「子どもが泣いたときに母親が抱く想い」「乳房 や母乳育児,分泌に対する母親が思う理想と現実」な ど,母親が抱いている母乳や育児,子どもに対する想 いあるいは母親が抱いている理想と現実の差というイ メージに焦点をあてている項目が多かった。これは, 乳房ケアで一番大切なことは,母親へのエモーショナ ルサポートであると武石・熊谷・熊谷(2002)が述べ ているように,母乳外来や母乳育児相談室に来院する 母親に対して助産師が行う心理的支援は大切であり, 重要視している結果であると考える。さらに「食事形 態(食事の準備をする人,外食の頻度など)」など,母 子の日常生活に関するより詳細な内容を問う観察項目 が多かった。これは,母子の全身の健康状態や生活状 況を確認することが大切であると松原(2003)が述べ ているように,助産師は身体的・精神的側面だけでな く,対象の母子が身を置き,2人に大きく影響を及ぼ すであろう日常生活状況である社会・文化的側面を捉 えることを重視しているためと考える。  加えて臨床で実際に助産師が観察をする際に特徴的 なことは,〈お乳の硬さ柔らかさは,デリケートで差 が少ないですけど,やっぱり手で感じ分けられますよ ね〉や〈手で搾っていて,出方をみれば,よく出るか 出ないかとかがわかる〉というように,助産師は手で 感じ取りながらその感触から乳腺体の弾力性や分泌状 態,さらには乳管の太さや硬さ,詰まっている状態 なども見分けていた。つまり,助産師が観察するとい うことの中には,母親と話しをしたり,目で見たりす るだけでなく 助産師自身の手で感じ分ける という, より深い意味を持っていることが伺われた。これは, Benner. P, et al(1999/2005)が状況の質的差異を識別 する能力と述べているように,微妙な差異を助産師は 自分自身の手の感じ方から判断していると考える。つ まり,看護に必要な情報は,手(触診)と目(視診)に よる観察から得られるものが多く(松原,2003),また 情報収集の方法にはが必要である(松原,2003)と述べ ているように,観察するには感性が大切であり,技術 が必要であることが伺われた。 2.『観察項目(既存研究)』と『母乳育児ケアにける観 察視点(インタビュー)』の比較  今回のインタビュー結果では,項目数や因子数が既 存の研究より多いことからも推察されるように,対象 の母子の日々の生活状況まで助産師らは観察している ことから,観察内容がより詳細に,また具体的になっ ているとともに,個別性を見極めるような観察項目や 因子が抽出された。特に,今回の研究対象が授乳期の 母乳育児ケアを受けに来院された母子であることから, 【母親】の〈乳房の状態〉や【母子】の〈授乳〉の因子では, それが顕著に現れていた。これは,母乳育児の基本と なる観察視点と共にケアの視点が整理されることで, スタンダード的な援助として具体策の明確化につなが る(竹内,2006)と言われているように,母乳育児ケア においては,これらの観察は来院された母子のニー ズや状態把握のためには必須の観察視点であり,ケア を提供する助産師にとってアセスメントをする際の重 要な判断基準を含む観察であるがゆえと考える。しか しまた,局所である乳房・乳頭だけを観察したのでは, トラブルを引き起こしている真の原因を見落とすと松 原(2003)が述べているように,母子の身体状態や心 理状況,生活環境など,心理的状態や社会・文化的状 態など,幅広い観察も行っていた。つまり,助産師に とっての観察とは,対象の個別性を重視するとともに, その全体像も把握するという多面的な観察を行い,ケ アの方向性を導いていくことであると考える。

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 また今回のインタビューで得られた因子には,変 化を捉える因子が抽出された。例えば,〈乳房の状態〉 の〈トラブル〉に関する項目では,「白斑ができた状況 や取れた時期」「疼痛の状況(授乳前後,排乳前後,搾 乳前後,吸着時など)」など,具体的な状況の把握だ けでなく,ケアの前後や状態の変化を捉えることがで きるような項目である。これは,松原(2003)が診断 しつつケアを施し,ケアしながら,また診断を重ねて いく動的なプロセスが看護行為であると述べているの と一致する。つまり助産師は一時点を見るのではなく, 動的な情報である変化や経過を観ることにより,その 後のケアの方向性を判断するという実践知が今回のイ ンタビューで得られたと考える。  なお,既存研究では得られたものの,今回のインタ ビューで得られなかった因子「児の性別」や「アプガー ルスコア」などは,来院された時点で助産師がケア介 入により変えることはできない因子であるため,今回 のインタビューのような,今後のケアを前提とする観 察では重要視しない因子であったのではないかと推察 される。 3.観察視点の構成因子について  本研究で得た構成因子のうち,項目や因子数の数か らみると,特に詳細な観察が行われていたのは,【母 親】の〈乳房の状態〉と【母子】の〈授乳〉であった。こ のことは,本研究での対象ケースが,主に産褥7日目 以降であったためと推察される。つまり,この時期は, 産褥2,3週以降に多発するといわれている乳腺炎の発 症時期であり,乳房のトラブルを起こしやすい時期で ある。さらに乳汁生成Ⅲ期であることから,いわゆる 母乳分泌が確立する時期でもある(日本ラクテーショ ン協会,2006)。この乳汁生成Ⅲ期の特徴は,乳汁産 生がオートクリンコントロールで制御されることであ る。そのため,乳汁の産生と子どもが飲む乳汁量のバ ランスが適切でないと,乳房内に乳汁がうっ滞してし まい,乳汁産生抑制因子であるホエイ蛋白によって乳 汁産生が低下する恐れがある(日本ラクテーション協 会,2006)。したがって,助産師らが母乳育児ケアを 行う際に乳房内の硬結の数や大きさ,部位をはじめと する〈乳房の状態〉や授乳間隔や回数などの〈授乳〉を より詳細に観ていることは,生理学的な側面から考え ても妥当な観察が行われていると考える。つまり言い 換えると,助産師らが〈乳房の状態〉や〈授乳〉をより 詳細に観察することは,アセスメントをする上で必要 不可欠であり,ひいてはケア介入へも影響を及ぼすこ とから,これら2項目は,特に重要な観察視点である と考える。

Ⅶ.結   論

 本研究の結果より,地域において,授乳期の母乳育 児ケアに携わっている助産師の初診時における観察視 点は,【母親】【子ども】【母子】の3コアカテゴリーが抽 出された。母乳育児ケアにおいて助産師は,特に〈乳 房の状態〉や〈授乳〉など,日常生活に密着した情報を より詳細に捉えるような観察をするとともに,《身体 的状態》だけという一方向からだけでなく,《心理的状 態》や《社会・文化的状態》をも含む大きな視野で授乳 期の母子の状態を捉えるという多面的な観察を行って いた。また助産師の観察の視点は,【母親】と【子ども】 の各々を観るとともに,【母子】という母親と子どもの 双方の観察を併せ持つ視点から成り立っていた。また, 臨床で実際に助産師が観察するということの中には, 母親と話しをしたり,目で見たりするだけでなく 助 産師自身の手で感じ分ける という,より深い意味を 持っていることが伺われた。

Ⅷ.研究の限界と今後の課題

 本研究の限界として,研究協力者である助産師が6 名と少なく,データの偏りがある可能性がある。さら に,研究者の参加観察やインタビュー技術の未熟さが 研究結果に影響している可能性もある。また本研究で は,「分泌不安」と「乳房トラブル」に大別できること から示されるように,対象ケースに偏りがあったこと は否めない。今後は,今回調査できなかったケースを 対象とすることで,より多くの母乳育児ケア時の助産 師による観察視点を記述していきたい。 謝 辞  本研究にご協力いただきました助産師や母子,ス タッフの皆様に心より感謝いたします。また研究をご 指導くださいました聖路加看護大学大学院ウイメンズ ヘルス・助産学教授堀内成子先生に深く感謝いたしま す。 なお本研究は,2006年度聖路加看護大学大学院ウイメ ンズヘルス・助産学修士論文に加筆,修正したもので ある。

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