理学 療 法 学 第 17巻 第2号 91
〜
98 頁 (1990 年) 911988
年度 学 術助 成研
究論 文
肝
機能 障害
に
対
す
る
運 動 療 法
の
適 応
に
つい て
*神 内 拡
行
’)石
田
暉
1)上
野 文 昭
2)荒 川
正
一
2) は じめに一
般に,
肝 機 能 障 害 患 者に対 して は運 動 負 荷に よる肝 機 能の悪 化が懸 念される結 果,
長 期 間の安 静が強い ら れ,
理学 療 法を施 行 する上で も,
し ば し ばそ のプロ グラムが 中断 さ れ,
リハ ビ リテー
シ ョ ンの進行の遅 れ を 生 じ さ せ る一
因と なっ て い る。歴史的にみて も
,
欧 米で は,
1947年Capps
らDは肝 機能 障害に対して,一
っ で も検 査 値に異 常があ れ ば安 静 が必 要と述べ て い るし,
1958年には Sherlockt) が,
社 会復
帰に は入 院 期 間の 2倍が必 要であると,
非 常に慎 重 な対 応 を報 告 して いる。
しか し,
少 数 派で はあ るが,
Chalamers3)4)のよ うに1950
年代か ら60
年代に か けて,
早期 身体調整運動の開 始や, その後の追 跡 調 査により予 後に差が み ら れ ない と の報 告 を し,
積 極 的 な 身体運 動 を 勧めて い る研 究者もい る。
一
方,
我 が 国で も慎重論と積 極論の双方が み られ る が,
古く は1960
年小 坂5) は,
ま た,1962
年脇 坂6) は,
運動の 必要 性を 認 めっ っ も,
そ の開 始はすべ て の検 査 値が 正常 化さ れ た後に開始すべ きで あ る と して い る。 こ の時 代 以 後,
日本で は現 代に至 る まで,
その大 勢は慎 重 論で 占め ら れて い る。
その中で数 少ない積 極 論 を 唱 えた上 野 幸 久η は,
1963年 慢 性 肝 炎の退院基準を設定 し, 入院期 間 の短 縮を計る た め,
検 査 値の正 常 化を またずに退院させ る こと を報 告 して い る。 また,
1966年に は 「肝 炎の リ*
Theinfluence and effect of the physical exercise Qn
liver disorders
1)東 海 大学 医 学 部 付 属 大 磯 病 院
リハ ビ リ テ
ー
ショ ン室Hiroyuki
Jinnaip
RPT.
Akira Ishida,
MD :Division of Re−
habilitatiom Medicine
,
Tokai University Oiso Hospital 2〕東 海 大 学 医学部付属大 磯 病院 内科
Fumiaki Ueno
,
MD,
Shoichi Arakawa,
MD :Departrnentof Internal Medicine
,
Tokai University Oiso Hospitalハ ビリテ
ー
シ ョ ン」 とい う タ イ トルで報 告e)し,
肝炎患 者の段階 的安静 度を設定 し,
院 内ADL
の緩 和を計っ た。 し か し,
ま だ入 院 期 間は2 〜 3
ヶ月を要 し,
社 会 復 帰 ま で は さ らに 2〜
3 ヶ月を必要とし て い た。 近 年にな り,
上 野 文 昭は短 時 間で は あるが Bruce の プ ロ トコー
ル を用い,Submaximal
な定 量 的 運 動 負 荷 試験9) とMaximal
な定量的運動 負荷試験を試み重゜,,
そ の 前後で の肝機能 検 査 値を比 較し,
特に影 響 を認め ない こ と を証 明し た。 当 院で は,
これ らの結 果 を受 け,
さ ら に長期的 段 階 的 に運 動 負 荷を試み,
肝機能 障害に及ぼす影響や効果につ い て,
慎 重に検 討 を重ね て きた。 本 報告は, 運動療法が肝機能に及ぼす 影 響や肝 機 能 障 害に対する運動療 法の効果,
さ らには,
その運動療 法の 妥当性につ いて検 討し, リハ ビ リテー
シ ョ ン と して の運 動 療 法が肝 機 能 障 害に対 して 可能か 否 か にっ いて論ず る もの である。1 .
運動 療 法が肝 機 能に及ぼす 影 響 まず,
運 動 療 法が肝 機 能に及ぼす 影 響につ い て検 討 を 加え る。 運動療法が施行さ れ た対 象は,
当 院 消 化 器 内 科に入 院 し た急性 肝炎 19例,
慢 性 肝 炎 6例の計 25 例であり,
平 均 年 令は37.
0才であっ た。
その平均 年令は急性 肝炎,
慢 性 肝 炎で有 意 差は み ら れ な かっ た。 (表 1 ) 表1 対 象 診断名 男 女(励 計 平 均 年 令 急性肝 炎 12 慢性肝炎4
72 9倉
じ ー 37.
0± 1L6 4L2 ±1L2 計 16 9 25 37.
0± 1L692
理学 療法学 第17
巻第 2 号 (METs)i
:
:
1} 凵l IV V V[ (Stage) 図1
プロ トコー
ル と実測値METs
数との比較 これ らの対 象に対 し,
図 1に示 すような肝 炎リハ ビ リ テー
シ ョ ンプロ トコー
ルを施 行 した。
運 動 負 荷は トレ ッ ド ミル を用い,
原 則と して3METs
より開 始し,
1日 20 分間施行し た。 この 運動を1
ス テー
ジとし3
日間 施 行 した後,
次の ス テー
ジ に進む。 次の ス テー
ジ では,
さ らに 1MET 増 加し,
4METs より開始する。 そ して,
患 者の 目 標 とす るMETs
数 まで,
漸 次ステー
ジア ッ プ する もの で ある。
肝 機 能 検 査 は,
運 動 療 法 開 始 直 前 および各ステー
ジ終 了 後に行な われ,
運 動 療 法の肝 機能に及ぼす 影 響を監 視 した。 運動療 法施行に当っ て は,
安静時の血 圧,
心拍数を測 定 し,
運動 療法巾は,
ECG モ ニ ター
を続け,
運動 直後,
運 動開始1
分,
3
分,
5
分,
10分,
15分,
20分 時の心 拍 数 を記録し た。
さ ら に,
運動終 了後,
直後の血 圧お よび5
分 間の心 拍 数を記録し た。 以上の よ う な運動 負荷を対 象25
例に施行し た が,
そ の運 動 療 法 期 間お よ び 運動負荷強度は,
急性肝炎で は,
平均運動 療法 期間 14.
8
日,
開始 時METs
数は平 均3.
7
METs,
終 了 時METs
数は平 均6.
9
・METs
で あっ た。
一
方
,
慢 性 肝 炎で は,
運 動 療 法 期 間 16.
7 日,
開 始 時METs 数は 3
.
7 METs,
終 了 時METs
数は73 METs で,
いずれ も急 性 肝 炎と有意 差 は 認 め ら れ な かっ た。 入院か ら運動 療法終 了ま での肝機 能検査値の変動を,
入 院を基点と して対比す る と,
急性肝炎では急 速な検査 値の減 少の後,
平均 13.
1日 目で運動 療 法が開始さ れ,
慢 性 肝 炎で は,
緩徐な減少の後,
平均36.
0
日目で運動 療法が開始さ れて いた。 こ の時間的遅れ は,
慢性肝炎で は,
検 査に要す る時 間や検査値の安定化に要す る時 間が 含 まれて い るた めである と考え ら れ る。 (図2
) また,
GOT を例に とっ て,
入 院 時お よ び運 動 療 法 開 00000 54321 (田) 10080604020 (mg!dl) 543210 図2入 院から訓練終了までの 肝機能検査 値の変 動 始 時の検 査 値 を比 較 す ると
,
急 性 肝 炎で は,
57G.
8
国 際 単位 (IU)か ら,
運 動 療 法 開 始 時に は85.
51U へ と減 少 し て お り,
慢 性 肝 炎において も,392.
O
IUか らlll.
31U
へ と , 共に有意に減少して いる。 こ の傾 向は, GPT ,Total
bilirubin
(T .
B
)にもみ られてお り,
この ことは,
肝機能の急性増 悪期の ピー
クが過 ぎ たことを確認 した後 に,
運 動療法が開始さ れて い たことを 意味して いる。 さらに,
運動療法 前後の肝機能 検査i
値を比較する と,
運 動 負 荷 量が漸 時増 加して い る にも か か わ らず,
急 性 肝 炎で は,GPT
240.
8IU
か ら78.
21U
へ,
GOT
は85.
51U
か ら5Lg IU へ
,
T.
B はL8
mg /d1か らLImg /dl
へ と有意に減少し て お り
,
運 動 療 法 が,
急 性 肝 炎の 自然 回 復 に,
特に悪い影響を及ぼ して いないことを示 している。
一
方,
慢 性 肝 炎で は,GPT
は197.
51U
か ら82.
31U
へ
,GOT
は 111.
31U
か ら50.
21U へ,
T.
B は 1,
0
mg /dlか ら0
.
8 /dlへ と,
ともに減少傾向が み られ る が,
有 意な差は認め ら れ な かっ た。 こ の こと は, 慢性肝炎に
おい て は定 常 的 異常の中で運動療 法が施行さ れ
,
その安 定 化に対して特に影 響を及ぼ さ な か っ たこと を 意味して肝機能 障害に対す る 運動 療 法の適 応につ い て
93
表2
退院後の社会復 帰状況 症 例 年 令 性 別 診 断 名 職 業 社 会 復 帰瀑
驫
自覚症状 温 器 聡 賀 M 田…
田 梱n
駅 衄 田 n 殿 m 齪 To 略M
鉗M
甑 胃 盟 O17900 RU4444τ
2
♂a
♂ ♂ ♀.
♀ 慢 性 肝 炎 業 員 員 職 業 員 設 社 造 務 建 教 会 無 製 事 ○ ○ ○OX
150
日14
日 5E15
日 十 16885434721826797653443232332335422622
♂ ♂ 舎 ♂ 舎 ♂ 舎 ♂ ♂ ♂ ♂ ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 急 性 肝 炎 員 員 員 員 官 員 員 員 業 生 員 職 婦 業 婦 婦 職 職 職 社 社 社 社 察 社 社 務 設 社 護 造 護 会 会 会 会 警 会 会 公 建 学 会 無 看 製 看 主 無 無 無 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○OX
○ ○ ○ ○14
日12
日le
日 10日 10日 7日7
日6
日 3日3
日 30 日 7日4
日 十 い る。 以 上のよ う に,
我々 の施行し た漸 増 的 運 動 療 法は,
肝 機 能の回復過 程に特 に悪 影響を 及 ぼさな かっ た が,
さ ら に誤解を招か ないよ う に,
次の点を強調し たい。 それは,
肝機 能障害に対す る運 動 療 法は,
現 在の ところ, 肝 機能 その ものを改 善さ せ るもの では なく,
肝 機 能 障 害の治 療 過 程に おい て 二次 的に引 き起こ されるdecondition{ng や社会 復 帰に向けて の不安 を 除 去す ることであ り,
本研 究の 目的はそ のた めの運 動 療 法が肝機能に悪影響を及ぼ さない こと を証明する こ と であ る。
且.
肝機能障
害に対 する運 動 療 法の効 果 前 述の如 く運 動 療 法の肝 機 能の改 善に及ぼす 効 果にっ い て は未だ証 明さ れて は いないが,
我々 の施行し た運動 療法が本来の リハ ビ リテー
ショ ンにどのよう な効果を も た らし た かにっ い て以 下に述べる 。 表 2は,
対 象 25例の退 院 後の社 会 復帰状況 を 示 して い る。
慢 性肝 炎で は 無職を除 く5例の う ち,
1 例が職業 復 帰 を 果し ていな か っ た が,
これ は,
職 場お よ び本 人の 都合に よ り進学を希望 し, 学生生 活に入っ
た た めである。 また,
退院後の 復職期 間150
日の例は,CVA
片マ ヒを 合併して おり,
自覚 症 状は易 疲 労 感が存 在 するが, 肝 機 能検査値は正常で あり,
肝機能 障 害が直 接の原 因 とは考 え ら れ な か っ た。 そこ で,
復 職 期 間の延 長 はCVA
片マ ヒのた め と判 断し,
以 下の復 職に関する検討におい て対 象か ら除外して い る。一
方,
急性 肝 炎で は,
職 業 人および学生の うち, 復職 して いない例が 1例みられ た が,
こ の理 由につ い て母 親 は,
病前より会 社で う ま く行 か ず 悩んでいた が,
これ を 機 会に退職し た と,
以前か らの病 前 性 格を強 調して いた。
当院での外来フォ ロー
で も検 査 値は正 常で あっ た。
ま た,
自覚症状 の1
例は,
退 院後 7日目で製 造 業に復 帰し て い る が,
退 院11 ヶ月 後の追 跡 調 査 中,
検査値は正常で 順 調に仕 事を続けて いた。
94
理学療法学 第 17 巻第2
号 O 工0 2D 30 40 50 6D 70 (日) 一 入 院 運 動 療 法 「一
一
一
舮
P学
一一
「 退 院90
80
(
%)
急 性 肝 炎 慢 性 肝 炎 一 一 〇 10 20 30 40 50 60 70 (艮) 図 3 入 院か ら職業復帰 まで の経過 以、
ヒの よ う に肝 炎に対 す る運 動 療 法 施 行 後の社 会 復 帰 状況は,
合併症を伴な わ ない症例につ いて は順 調である といえる。 そ こ で,
入院か ら職 業 復 帰までの時 間 的 経 過 を平均 的にみ る と図3
の よ う に な る。 急性 肝 炎では,
入院か ら約2
週間で運動療法が開 始さ れ,
さ ら に2
週間の 運動療法後,4
日程 度,
検 査 結果の 判 定を待ち退 院と な る。 そ して,
1
週間〜 10
日程の家 庭療 養の後,
社 会復帰に至っ て い る。一
方,
慢 性 肝 炎で は, 1
ヶ月 前後の入院療 養の後, 2 週 間 強の運 動 療法が施行さ れ,
退院後,
5日〜 2
週間 (平 均8,
0 日)で社会復帰して いた。 入 院から社会復帰まで の 日数は,
急性肝炎で平均 41.
0
日,
慢 性 肝 炎で 64.
6 日 と,
他 院と比 較 する こと はで き な い が,
経 験 的にみてか な り短 縮され たもの であると信 ずる。
こ の よ うに,
運 動 療 法 施 行 後,
早 期に社 会 復 帰が可 能 であっ たことは,
運 動 療 法の効 果と して特記すべ きこと であろう。
こ の よ うな早期 社 会 復 帰を可 能にする要 因と して,
漸 増 的 運 動療法に よ る耐 応能の増 加 が あ げ られる。
図4は,
対象22
例の運動 療 法 中に お け る 予測運動 負 荷 強 度の 推 移を示し た もの であ る。 %HRmax
の計算 方法は, karvonen 法を用い, 対象 の 年令,
安静時心拍 数 運 動中の最 大 心 拍 数よ り計 算し た。 な お, 運動 中の最 大 心拍 数は, 各ス テー
ジ の最終日,
3日目の 最 大 心 拍 数 を 用いた。
その結 果, 最 初の ス テー
ジ で 31.
3% HRmax の負 荷 が か かっ て お り,
ス テー
ジア ッ プ に伴ない途々 に増 加し,
2
週目で56.
8HRmax ,
そして最終ステー
ジの 2週 半で は73.
8
% HRmax まで運動 負 荷 強度が増 加し ていた。
こ の よ う な60〜
70%の負荷強 度は,
個々 の症例の社 会復帰 後の活動レベ ル に よっ て異な る が,一
般的作業に 充分耐え う る もので あ る と考え ら れ る。70
06
05
04
03
語
矗
= 駅 匚窪
o > 」220
10
0
0
1
2
3
(
Ws
)
図4
運動療法期 間 中にお け る予 測運動負 荷 強 度の推 移 そ して,
我々 のプ ロ トコー
ルに よ る運 動 療 法で,
30%HRmax
か ら最 終的に70
% HRmax まで段 階 的に,
か っ 安 全に運動負荷をかけられたこと が,
また,
これらの 負 荷に耐えて,
肝機能の増 悪 を き たさな かっ た 自信 が,
社会 復 帰へ の 自信にっ な がっ て い るもの と思わ れ る。 皿.
運 動 療 法の妥 当 性につ い て の検 討 そ れで は,
肝 機 能 障 害に対して,
安全 に,
かっ 迅速に 社 会復帰を進め る た め に は,
ど の よ う な運 動 療 法が妥 当 で あ ろ うか。 運 動 療 法の施 行に当っ て は,
その対象患者,
運動療法 の開 始 時 期,
運 動 療 法の強 度,
さ らに運 動 療法期間を検 討 する必 要が あ る。
そこで,
我々 の施 行 した運 動 療 法を妥 当性の面から考 察を加え て み たい。 1.
対 象 患 者 当院に,
主に肝 機 能 障 害の治 療を目的と して入 院し,
何 等かの運 動 療 法を施 行 し た患 者は,
急性肝炎正9
例,
慢 性 肝 炎6例,
肝 硬 変・
肝 癌 6例,
脂 肪 肝2
例,
その他 2例の計 35例であっ た。
これ ら症例の最 終転帰を み る と,
急 徃 肝 炎,
慢 性 肝 炎は順 調に軽 快して いる が,
脂 肪 肝 を 除 くそ の他の肝 疾 患で は,
必 らずしも予後はよくな かっ た。 これらの疾 患に対 して は,
従 来の肝 疾 患プロ ト コー
ル は施行され ず,
原 疾 患に基 因 する全 身状 態の低 下 や deconditioning に対 する活 動 性の回 復を目的に運 動肝機能 障 害に対 する運 動 療 法の適 応につ いて
95
表3 訓練開始 時 期および 肝機 能 検 査 値 診 断 名 練 の ) 訓 で 旧・
り か ま 間 院 始 入 開 期 訓 練 開 始 時 検 査 値GOT
(IU )GPT
(IU
)T .
B
(mg/dl
) 急性肝炎 慢性肝 炎 13.
1 ± 9,
636.
0
±28.
8
72,
9 ± 64.
5 228.
8± 2038111.
3
±110、
9
197.
5
±234.
4
1、
7± 1.
2 1.
0
±0.
9
(pく 0.
OD 療法が処方さ れ た。 その た めに,
その運 動 内容はベ ッ ド サ イ ド訓練や平 行棒内歩行な ど, プロ トコー
ル に よ る負 荷 強度 よ り,
は る かに少ない 強度で あっ た といえ る。 ま た,
脂肪肝にっ い て は プロ トコー
ル通 りの アプロー
チを施行し た が,
症 例数が少ない た め今回の対象か ら除 外 し た。
以 上の よ うに,
肝 疾 患に対 する運 動 療 法は広 範 囲に処 方さ れ うるが,
そ の 目的と内容は そ の病態に影 響を受 け る もの であ り,
い ずれに して も,
綿 密な監 視 下におい て 施 行さ れるべ きで あ ろ う と考えて いる。2.
運 動 療 法の開 始 時 期 次に,
運 動 療 法 開 始 時 期につい て検 討を加え たい。
本 項で は,
前 出 症 例の うち肝 疾 患プロ トコー
ル を施 行さ れ,
比較的症例数の整っ た急性 肝 炎および慢 性 肝 炎に対象を しぼっ た。
運 動療法の開始 時期は, 急性 肝 炎で は入院から13,
1
日 目,
慢性肝 炎で は36.
0日 目であっ たが,
入 院 か らの 日数で運 動 療 法開始 時 期 を決 定 すること は危 険であろ う。 な ぜ な らば,
患 者が入 院 する時 期が肝 炎の病 態の どの時 期にな る かt一
定 して いないた めで ある。 そこ で当 院で は, 肝 機 能 検 査 値より急 性 増 悪 期の ピー
クが過 ぎたこと を確 認 する と ともに,
患 者の 自覚 症 状を考 慮して,
内 科 医が判 断を して い る。
表3に示 す 運 動 療 法 開 始 時の検 査 値は,一
応の 目安と して参 考に はなると思 うが,一
時 点での検 査 値だけでな く,
数 点の検査値を比 較 して,
その減 少 傾 向 を確 認 する 必要が あ るで あ ろ う。 さ らに,
入院か ら運 動 療 法開始まで の期 間と入 院 期間 およ び復 職 期 間の関 係を みる と,
運 動 療 法 開 始 まで の期 間が長い程,
入 院期間が長 くなる傾 向にあっ た6
こ の こ と は,
入 院 期 間の短縮のた め に は,
運動療法開始時 期を 早 期に決 定 する必 要が あ ること を示 唆して いる。 ま た,
運 動 療 法 開始時と終 了 時の肝機能検査値を比 較 する と,
急 性 肝 炎で は, GOT
(r=0.
75
),
T.
B
(r= 0.
69)に開始時 検 査値が高い ほど,
終 了時検査値も高く なる傾 向が み ら れ た。 これ は,
肝機能の自然 回復の途 上 で早期に 運動療法が開始さ れ, ま だ回復す る余 地を残し てい る時 期に運動 療法 が終 了し た た め と解 釈で き る。 そ して,
その後の検査値の変動を みて も順 調に減 少して い たこと か ら,
こ の時期で の運動療 法は妥 当であっ た とい え る。
一
方,
慢 性 肝 炎で は,
T.
B (r=
0.
86)のみに関連が み られ,
GOT,
GPT
に は関 連が認め られ な か っ た。
こ れ は,
肝 機 能が回 復 途 上な が ら,
ほ ぼ安 定 した状 態で運 動療 法が施行さ れ たこと を示して いる。 特に T,
B
の運 動 療 法 前 後の 関 連に っ い て は,
その 反 応がGOT
や GPT よ り も 遅 れて 出現するとい う,
T.
B の反 応 特 性に よ るもの と説 明さ れ る。 以 上の結 果より,
我々 の施 行し た運 動 療 法の開 始 時期 は,
肝機能の回 復 途 上に あっ て妥 当な時 期であっ た とい え るが, 入院期聞や社 会復帰期間を短縮さ せ る た め に は, よ り早 く開 始時 期を決 定す る 必要があ り,
今 後,
慎 重に 検 討 を 重ね て ゆきたい。
3.
運 動 療 法の強度1
) プロ トコー
ル と実 測 値 強 度 我々 のプロ トコー
ルで は,
ト レッ ド ミ ルを用い,
計 算 上 求められ た速 度 (km/h) と傾 斜 (% )で 運 動 負 荷を 施 行し た が,
はた して そ の METs 数が 正確か ど う か疑 問であっ た。
そこ で,
健 常 成 人15名に対 し,
1ス テー
ジ3分 聞に短 縮 し連 続 して 6ステー
ジまで計 18分 間,
プロ トコー
ルと同 様の運 動負荷を行っ た。 そ し て,
各ス テー
ジ終了直 前の酸素 消費量 よ り実 測値METs
を 求め た。
そ の結 果,
図 1に示 すように,
ス テー
ジ1で は約 4 METs の負 荷になっ て い る ほかは,
若 干 計 算 値よりも 高い傾 向に あ る が, ほ ぼ プロ トコー
ル ス テー
ジ と併行し て いること が わ か っ た。 こ の こと は,
我々 の報 告にあ る 運動 強度と して の単位, METs
は,
実際上,
着干そ れ よりも強い負荷が か かっ て いた と考え るべ きであ ろ う。 2) 開始時運動 強 度96
理 学 療 法 学 第17
巻 第2
号 ところ で,
我々 のプロ トコー
ル では原 則 的に 3METs か ら開 始することになっ て い る が,
実 際に は3METs か ら開始されたもの は 11例で,
その他は4METs
以上 か ら開 始 されて いた。そ こ で, こ の開始 時 運 動 強 度が何に よっ て決定さ れ る か。 ま た
,
その違いによ る影 響にっ いて検 討 してみた。 その結 果, 開始 時運動強度に影響すると思わ れる因 子 の うち,
有意 差 を 認め たもの は年 令の みであ り,
性 別,
診断 名,
訓練 開始時の肝機能 検査 値 等に は,
有意 差 を認 め な かっ た。 っ ま り,
主 治 医 が 経 験 的に判 断 した開 始 時 運 動 強度は,
患 者の年令や外観か らうける体 力な ど が, そ の決 定 因 子と なっ て いたこと を証 明し た。 ま た,
こ の 開始 時 運 動 強 度の違い に よ る,
終 了 時 METs 数,
さらに退 院 後の 復職 期 間 や 身体状 況に対す る影 響は,
特に差異を認 め な かっ た。 さ らに,
開始時運動 強度の違い に よ る肝 機能検 査値の 変 動 を 運 動 療 法 前 後で比 較 すると,
急 性 肝 炎で は, 3
METs
群,
4METs 以 上群と も に, 同様の変化を示し, 有 意に検 査 値は減 少して いた。一
方,
慢 性 肝 炎で は対象 数 が 少ない ため,
有 意 差 検定が出 来な か っ た が, 3
METs 群で は や や高い値か ら開始 さ れ,
運 動 療 法 中に 検査値は減少する傾向 がみ ら れ,
4
・METs 以 上 群で は3METs
群よ り低い値で始め られて お り,
その後や や 高く な る傾 向が み られて い た。
以 上の結 果よ り,
運 動 療 法の開始 時 強 度 は年 令 や 俸 力 的な要素の影 響 を 強く受 けて お り,
そ の他 入 院 期 間や退 院ま で の予定 な ど,
社会 的 因 子 を 考 慮 して設 定 するのが 通常の よ うであ る。 そ して慢 性 肝 炎におい て は,
今の と ころ,
検査 値の高い もの にっ いて は,
低い METs 数 か ら開始す る方が安 全で あ る かもしれな い。
3
) 終 了時運動 強度 さて,
運 動 療法終 了時の運動 強 度は,
全 体の平 均で 7.
0 ± 1.
O METs で あっ た。 こ の終 了 時の運動 強 度と肝 機 能検査値との関 連 をみ る と,
GOT
は相 関 係 数一
〇.
282,
GPT
は一
〇.
271,
T.
B は一
〇,
031 と強い相 関はみ ら れな かっ た が,
いず れ も負の相 関 傾 向にあることがわかっ た。 この こと は,
肝機能 検査値が高い と, 運動強度をひかえ て いることを意味して お り,
定期的に得 られる検 査 値の 変動 傾 向を常にチェ ッ ク し, 場 合によ っ て はステー
ジ ア ッ プを 遅 らせ るなりの コ ン トロー
ル を してい た ためと 思わ れ る。 さ らに,
終 了 時の運 動 強 度と職 業復帰まで の期間の関 係を み る と,
特に関 連は認め ら れてお ら ず,
最 終的運動 強度によっ て復職 期間は左 右され な かっ たといえる。 しか し,
患 者の 退院後の活動 内容に よっ て は,
強い負 荷を 必要とするもの もある。
例 え ば,
慢 性 肝 炎の 1例で あ る が,
小 学校の教員で あ り,
退 院 後,
生 徒 を 引卒 して 山登 り をする必 要 が あっ た。
そ こ で,
退 院に向 けて 10.
5METs
ま で の負荷をか け, その後 順 調な職業復 帰 が 可 能であっ た。 以 上の よ う に,
終了 時の運 動 強 度は患 者の社 会 的 要 因 と肝 機 能チェ ッ クに よ る身 体 的要 因とによっ て慎重に決 定さ れるべ きであ ろ う と考え る。 4.
運 動 療 法 期 間 運動 療法期間は 図 5に示 すよ うに,
開 始 時の運 動 強 度 と,
かなり強い負の相 関 (r=− O.
722
)を示し た。 これ は, 弱い運動強度で開始すれ ば,
それ だ け最 終ス テー
ジ に達 するまで に時 間が か かっ て おり,
逆に強い負 荷で始 めれ ば, 早く最終ス テー
ジに達 して いた ということであ る。 ま た,
運 動 療 法 期 間は入 院 期 間とも有 意 水 準 10% で 関 連を示 してお り,
運 動 療 法 期 闇が長 ければ,
入 院 期 間 も長くな る傾 向がみ られ たD さ らに,
運動療法期 間は,
退院後の復職期間や入院か ら復 職 までの期 間に も,
同様の関連を示しており,
入院 期 間の延 長が退 院 後の 復 職 期 間に も,
か なり強い 影 響を 及ぼ して いた。 以 上の結 果より,
肝機 能障害に よっ て社会生活を一
時 的に絶た れ た患者にとっ て,
運動 療法期間を含め た入院 期 間の短 縮 は,
非 常に有利なもの にな るであ ろ う。 そ こ で,
さらに入 院 期 闇の短縮を計ろ う と す る な ら ば,
次の2
点が考えられ る。 1っ は,
終 了 時の運 動 強 度を下げずに,
開 始 時の強度 を上 げ ることによっ て運 動 療法の期間を短 縮すること。 第2
点は,
入 院か ら運 動 療 法開始 までの期 間 を短 縮 す ることで あ る。
しか し,
これ らの アプロー
チが安 全に施 行さ れ る た め に は,
頻 回の定 期 的な肝 機 能チ ェ ッ ク によ る病態の的確 な把 握 や,
無 理のないプロ トコー
ル の確立が必要であり,
さらに慎重に検討を重ねて ゆ か な け れ ば な ら ない重 要な 課 題であると考 えて い る。 ま と め 肝 機 能 障 害,
特に急性 肝 炎,
慢 性 肝 炎に対 して漸 増 的 運動療法 を行っ た。 その結 果,
我々のプロ トコー
ルは,
肝 機 能の自然 回 復に特に悪肝 機 能 障 害に対 する運動療 法の適応につ い て 97
(
METs
)
開
始
時
METs
数
(
r=−
O
.
722
)
運 動 療 法 期 間
(
日)
12
入10
院
期
8
間6
0
(日
)
4
2
(
r=0
.
433
)
運
動療法期問
0
(
日)
図5 運動療法期 間に影響する因子 い影 響を及ぼ して いない こと が わ かっ た。 ま た,
漸 増 的 運 動 療 法により,
社 会 復 帰に耐え得る まで の運 動 負 荷が可能であり,
こ の こ と が,
退院や 社 会 復 帰に向 けて の体 力 的 自信にっ な がっ た と思わ れ る。 さ ら に,
社会復帰状 況 をみ ると,
肝 機 能 障 害 が 直接 の 原因で 復 職を妨 げた例はな く,
順 調に かっ短 期 間 に復職が可能で あっ た。一一
方,
運 動 療 法の妥当性につ い ての 検討で は, 対象 患者につ い て は広範囲に処方さ れ得る が,
運動 療 法の 目的と内 容はその病 態に影 響を受けて い た。 ま た,
運動 療 法の開始時 期は肝機 能の 回復 途 上に あっ て妥 当な時期であっ た が,
よ り早期の開始が期 待さ れ た。 さ らに,
開 始 時の運 動 強度は年 令や体 力 的要 素に よ っ て設 定されるが,
慢 性 肝 炎の検査値の高い もの につ い て は,
弱い強 度か ら開 始 するのが望ま しい と 思 われ た。一
方,
終了時の運 動 強 度は復 職 期 闇に影 響を及ぼさ な か っ た が, 肝機能な どの身体 的要因 と患 者の社 会 的 要 因に よっ て決 定さ れ るべ きで あ ろ う。 そ して,
運 動 療 法 期 間は入 院 期 間や退 院 後の復 職 期 間に影 響を与えてお り,
運動 療法期 間を含めた 入院 期 間の短 縮が今 後の課 題と なっ た。 以 上の結 果よ り,
肝 機 能 障 害に対して運動 療法 は 可能 で ある といえるが,
安 全で,
かっ 可 及 的 迅 速に,
さ らに 質の高い リハ ビリ テー
シ ョ ンを遂 行 する た めに は,
次の 様な ア プ ロー
チ が確 立され な け れ ば な ら ない。 つ ま り,
内 科 医との協力体制の も とに, 病 態の的 確な 把 握,
適切な 無 理の ない プ ロ トコー
ル の確 立,
さ ら に は,
頻回の定期的肝機 能チェ ッ ク に よ る綿密 な 監視トの遂 行 であり,
早 期 ワハ ビ リテー
シ ョ ン の ために は,
必要以上 の安 静を除去すると ともに,
運動療 法開始時期の早期 決 定が必 要で あろう。 そ して,
質の高い社会復帰のた めに は,
患者の社 会的 活 動レベ ル に合 わせ た適 切な目標 設 定と,
そのE
標に向 けての 身体適 応の準備と不安除去の ための漸 増 的 運 動 療 法の施行,
さ らに肝機能に対する オー
バー
ロー
ドの予知 に関す る対策が重 要であ ろ う と考えて い る。 最 後に,
本報告に当っ て デー
タ収 集 や 統 計 処 理に多 大 な 労力を提 供 して く れた当 院リハ ス タッ フに感 謝い た し ます。 参 考文 献DCapps ,
T.
C,
& Barker,
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98
Iet7diza?
eg17grg2g
<AbstrEct>
The Infiuenceand Effectof The Physical Exercise on Liver Disorders
Hiroyuki
JINNAI,
RPT, Akira ISHIDA, MDDivision
ofRehabilitation
Mbdicine,7bhai Uitiversity0isoHbspital Fumiaki UENO, MD, Shoichi ARAKAWA, MDDepartment
of
internal
dedicine,
7bhai
UniversiCyOiso
llOspitat
The purpose of thisstudy
is
to verify the validity of thephysical exercise forthe patientswithliver
disorders.We instructedthe gradual increasingquantitated exercises totwenty fivein-patients,consisting of
nine-teen acute and six chronic
hepatitis
ones. The exercise was started at 3METs
as a rule with the treadmillfortwenty minutes a day, and itwas increased by 1 MET after every threesessions, And then,the influ-ence of the physical exercises on the
liver
function
was monitered by the value ofGOT,
GPT
and totalbil-irubin,
Consequently,
themean period of thetrialswas 15.2days,and theexerciseintensity
hadincreased
from
3,7
METs to7.0METs on an average. Hewever, therewas no significant differencebetween
acutehep-at!tisand chronic hepatitis.
The data of the liverfunction during the exercises remarkably improved inacute hepatitis,and
im-proved without significancein
chronichepatitis,
despite
that thequantity of the exercise was augmented gradually.The presentresults indicatedthatthe exercises gave no adverse effect on recovery of hepatitis.The mean period of
hospitalization
(31.9
days forthose with acute hepatitisand 56.6days forthose with chronic hepatitis)was shortened, compared with those with hepatitisingeneral.The subjects swiftly returned to theirusual liveswithin a mean period of8.9
days
after discharge.In alr cases, rehabilitationprocess was not interrupted by worsening Qf liverdisease.