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政府IT調達の失敗に関する研究

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Academic year: 2021

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(1)情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. Vol.2017-IS-142 No.7 2017/12/2. 政府 IT 調達の失敗に関する研究 本田正美†1 2004 年を起点とする特許庁の基幹系システム刷新プロジェクトが失敗に終わった。この失敗では約 55 億円が無駄に なったとされているが、この失敗のみならず、政府の IT 調達ではこれまでも様々な失敗が積み重ねられてきた。本 研究は、この政府 IT 調達の失敗に焦点を当てる。IT 調達の失敗にはどのようなものがあり、どのような原因が考え られるのか。それらは公共分野特有のものなのか、情報システム一般に言えることなのか。事例分析も行いながら、 それらの点につき議論する。. Study on failure of government IT procurement Masami HONDA†1 The backbone system renewal project of the Patent Office starting from 2004 ended in failure. About 5.5 billion yen is said to have been wasted on this failure. In addition to this failure, various failures have been accumulated in the government's IT procurement. This research focuses on this IT procurement failure. What are the causes of IT procurement failure and what kind of cause can be considered? Are they peculiar to the public sector or information systems in general? It is the purpose of this research to discuss these points by carrying out case analysis.. 1. 本研究の背景と目的. 3. 政府の IT 調達について. 2004 年を起点とする特許庁の基幹系システム刷新プロ. 日本政府では、2000 年に策定された IT 基本戦略におい. ジェクトが失敗に終わった。この失敗では約 55 億円が無駄. て、 「電子政府の実現」が謳われて以降、政府における電子. になったとされている。この失敗のみならず、政府の IT. 化が推進されてきた。これは政府内の業務に関する電子化. 調達ではこれまでも様々な失敗が積み重ねられてきた。. だけではなく、行政手続のオンライン化のように、官民の. 本研究は、この政府 IT 調達の失敗に焦点を当てる。IT. 接点における電子化も包含するものであった。現在の日本. 調達の失敗にはどのようなものがあり、どのような原因が. 政府の情報通信技術戦略である世界最先端 IT 国家創造宣. 考えられるのか。それらは公共分野特有のものなのか、情. 言は 2013 年に策定され、その後に毎年改訂を重ねているが、. 報システム一般に言えることなのか。事例分析により、政. これにおいても公共サービスのワンストップ化が目標とし. 府 IT 調達の失敗につき議論する。. て掲げられるなど、政府における電子化は今後も進められ ることが確認されている。IT 調達はこれまでも行われ、さ. 2. 失敗に関する先行研究 本研究は政府 IT 調達の失敗に着目するものであるが、失. らに今後も行われることが予定されているのである。 2000 年以前から日本政府は IT 政策に関連する予算を計 上しており、2000 年の IT 基本戦略策定以降も毎年約 1 兆. 敗に関する研究は、2000 年に発表された畑村[1]において. 円の予算を投じて来た[3]。その中には、情報システムの構. 「失敗学」が提唱されて以降、一つの研究領域として広が. 築や改修のための IT 調達も含まれている。なかには大規模. りを見せている。国立情報学研究所の CINII において、 「失. な調達もあり、失敗の事例も存在している。失敗の事例と. 敗学」というキーワードで検索を行うと、300 件を超える. しては、本稿の冒頭であげた 2004 年を起点とする特許庁の. ヒットがあるが、その大半が 2000 年以降のものである。失. 全庁的な基幹システム刷新プロジェクトがあげられる。こ. 敗を扱ったものとしては、1984 年に刊行された[2]がある。. れに限らず、政府 IT 調達では失敗が積み重ねられてきた。. これは日本軍の失敗を分析したもので、後にも広く参照さ. これまでの政府の情報通信技術政策を振り返り、今後の政. れている。失敗が重要な研究テーマとなり得るのである。. 策のあり方を考える上で、これまでの IT 調達の失敗を検証. それらに共通するのは、発生した失敗に関して詳細な事. することは重要な意義を持つものと考えられる。. 例分析を行っている点である。事例分析から、失敗の一般 化を図っているのである。そこで、本研究は、政府の IT 調達の失敗につき、その事例分析を行うこととする。. 4. 会計検査院の指摘事例 政府 IT 調達の失敗事例を網羅するのは必ずしも容易で はない。参議院事務局が編集・発行する『立法と調査』に. †1 東京工業大学環境・社会理工学院 School of Environment and Society, Tokyo Institute of Technology. ⓒ 2017 Information Processing Society of Japan. おいて、 「政府の IT 調達における課題等について」が 2012. 1.

(2) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. Vol.2017-IS-142 No.7 2017/12/2. 年に発表されている[4]。これは副題を「近年の決算検査報. く、プロジェクト管理を担当したアクセンチュア株式会社. 告等に見る失敗の事例から」とし、会計検査院によってな. の問題点も指摘している。. された 15 件の代表的な指摘事例が紹介されている。 会計検査院の指摘事項を見ると、システムの開発と導入 を行ったものの、その利用状況が悪いという事例が含まれ ている。利用されないシステムの開発も IT 調達の失敗に分 類され得るが、それは投資に対して見合う成果が得られな. その他、仕様書を作成する業者と設計を担当する業者を 分けるといった政府 IT 調達特有の制約が結果として混乱 を招いた可能性も指摘される。 [4]において、会計検査院の指摘事項を基に、IT 調達の課 題及び問題点につき、以下の五つの点をあげている。. かった事例であり、投資そのものが水泡に帰す開発自体の 頓挫こそが IT 調達の失敗でも代表的なものとなる。. (1). 政府における IT 人材の不足. 開発そのものが頓挫した事例が特許庁における基幹系シ. (2). 「目に見えない」ことによるチェック機能の欠如. ステム刷新プロジェクトがある。なお、同プロジェクトは. (3). IT の急速な性能向上等への対応が不十分. 「特許庁業務・システム最適化計画」」に基づくものであり、. (4). 求める成果物の不明確さと利用者の視点の欠如. 他の省庁でも同様に、2004 年の「業務・システム最適化計. (5). 供用開始後の状況への無関心. 画」に基づきシステム刷新のプロジェクトに着手していた。 しかし、2012 年の段階で未了や遅延、停止事例が見られた. 以上は、特許庁の事例も指摘される問題点である。つま. [5]。それだけ困難なプロジェクトが全庁で進行していたの. り、担当者の異動と復帰による混乱は(1)に起因する。また、. である。なかでも、特許庁の失敗はプロジェクト自体が頓. (2)についても、プロジェクト管理の支援業務まで契約して. 挫し、約 55 億円がその段階では無駄になったということで. いながら、途中で軌道修正が図られなかったことからも明. 注目された。本研究では、以下に特許庁の事例を確認する。. らかである。さらに、(4)についても、特許庁の事例では成 果物が不明確なままプロジェクトが進められ、なおかつ途. 5. 特許庁の事例から政府 IT 調達の失敗を見る. 中で目標まで刷新から改修へと変更されたことに見られる ように、配慮されなかったことがうかがえる。. 特許庁は、 2003 年に政府が策定した「電子政府構築計. 以上の問題点ついて公共分野特有の問題とは言い難い面. 画」に基づき、2004 年に「特許庁業務・システム最適化計. もある。一方で、政府 IT 調達ゆえに課される制度的制限が. 画」を策定した。次の 2005 年に同計画は改定され、それに. 結果として失敗を招来している可能性も指摘されるだろう。. 基づき、2006 年に運営基盤システムの設計・開発の入札を 公示し、これを東芝ソリューション株式会社が落札した。 そして、アクセンチュア株式会社とプロジェクト管理の支. 6. 結論. 援業務について契約締結した。その後、開発が行われるが. 本研究は、政府 IT 調達の失敗に焦点を当てて、特許庁の. 完成に至らず、2012 年に当時の枝野幸男経済産業大臣がこ. 事例も取り上げながら、その本質について議論した。特許. の情報システムの開発中断を発表した。. 庁の事例に限らず、小さなものもあげれば、数多くの失敗. 開発中断の直接の契機となったのは、「特許庁情報シス. が存在している。それらの事例につき定量的な調査を行う. テムに関する技術検証委員会」による「技術検証報告書」. ことにより、政府 IT 調達の失敗の理由を見定め、失敗発生. [6]が 2012 年 1 月に提出されたことによる。さらに、この. の確率を縮減するための提言まで行うことが本研究に残さ. 件の経緯については、2010 年に「特許庁情報システムに関. れた課題である。. する技術検証委員会」により提出された[7]において詳述さ れている。これを見ると、特許庁担当者の突然の異動と復 帰、そして、復帰後に不正な情報提供を行ったことで再び 異動といった混乱、さらに当初作成した仕様書を破棄して、 途中からシステム刷新を諦めて既存システムベースの改修 へと方針が大転換されるという特許庁側の問題点が指摘さ れるところである。さらに、プロジェクトの停滞に対応す るために、急遽人員の大幅増員が図られるも、それが現場 を混乱させるという東芝ソリューション株式会社側の問題 も指摘される。 情報システム学会は、この特許庁の失敗に関して提言を まとめている[8]。これによれば、システム開発を担った東 芝ソリューション株式会社及び発注者の特許庁だけではな. ⓒ 2017 Information Processing Society of Japan. 参考文献 1 畑村洋一郎:失敗学のすすめ、講談社、2000 2 戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中 郁次郎:失敗の本質 日本軍の組織論的研究、ダイヤモンド社、1984 3 本田正美:高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する予算 の推移、経営情報学会 2017 年秋季全国研究発表大会予稿、2017 4 清水雅典:政府の IT 調達における課題等について、立法と調査、 No.333、pp.140-159、2012 5 浅川直輝:IT 力と変化対応力が不足、日経コンピュータ、2012 年 7 月 19 日号、pp.26-31、2012 6 特許庁情報システムに関する技術検証委員会、技術検証報告書 ~フォローアップ結果とりまとめ~、特許庁、2012 7 特許庁情報システムに関する調査委員会:調査報告書、特許庁、 2010 8 一般社団法人情報システム学会 企画委員会提言検討チーム:政 府のソフトウェア調達の改善について、2013. 2.

(3)

参照

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