ヒューマンライブラリーにおける対話の可能性 ―多様な他者との共生を目指して―

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ヒューマンライブラリーにおける対話の可能性 一多様な他者との共生を目指して一 人間教育専攻 現代教育課題総合コース 麿 田 朱 美 はじめに 本論文では、ヒューマンライブラリーを研究 し、1)なぜヒューマンライブラリーが受け入れ られ、「舞台Jが図書館であるのか、 2)なぜヒュ ーマンライブラリーの対話で共感が生まれたの か、 3)なぜ日本でヒューマンライブラリーが求 められつつあるのか、を明らかにする。 第 1章 ヒューマンライブラリーとは 2000年にデ、ンマークで生まれたとューマン ライブラリーは、偏見や差別を受けやすし、人々 が「本Jとなり、また人である「読者Jに自分 のことや人生を語りかけ、対話を行う、新しい 図書館の形態である。 人間の平等の現念に基づけば、図書館は人々 の、差別のない自由な交流の場でなければなら ない。しかし、図書館のあるべき姿は期待に留 まっている。マイノリティの人権を意識したヒ ューマンライブラリーが図書館を舞台として誕 生した理由はここにある。 2章 ヒューマンライブラリーの対話 宮崎と坪井が行ったアンケート調査で、「本J と「読者」の対話後は、共感が高まっているこ とが分かったO 共感が高まった理由は、以下の ヒューマンライブラリーにおける3つの開設か らであることが考えられる。 指 導 教 員 太 田 直 也 1)役割と漬技 「本jと「読者」は役割を与えられ、それを 演じることで自己と離れる効果を持ち、マジョ リティとマイノリティを取り巻く複雑な日常の 環境と自己自身から、一度距離を保ちやすい状 態を創り出し、心の自紙化を促す。また、「本」 と「読者Jそれぞれの自己と役割の間に役割距 離が確立され、心理句な制御が容易にできやす くなる。更に、物語の作者であり、主役でもあ る「本Jと「本jを自らの意思で選んだ「読者j が対等になりやすく、心の安定化がもたらされ ることである。これらの役割と演技により、心 のコントロールがしやすくなる。 2)空間と駐韓在 「本Jと「読者」の共同空間は単なる共同空 間ではなく、「本」の語りを共有する、あくまで 「本Jの中指吾を栴生させるための共同空間であ る上に「本jの物語を共有すること、ヒューマ ンライブラリーを成功させるとし、う協力関係の 元において共同空間が創造される。 また、「本Jと「読者」の

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間住も適切なものと なっており、パーソナノレ・スペースを保持した まま、相手に警戒心を抱くことなく距離を保つ ことができる。テーブ/レを挟むことにより、距 離感を視界と感覚で掴みやすくなる。 空間と距離により他者との対話に向けた安心 感がもたらされ、役割と演技における心のコン -

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69-トローノレ作用をよりもたらすことが期待される。 3)非現実と現実 ヒューマンライブ、ラリーには、非現実と現実が 混在している。「本」と「読者Jは、出会った時、 非現実関係にある。彼らはまず視覚による情報、 すなわち互いの姿を得る。互いを視覚で捉え、 次に「本Jの物語による「合意」がなされ、相 手を体験し、非現実は現実へと変容する。「本」 と「読者Jは、「本Jの物語を完成させ、ヒュー マンライブラリーというものを完成させるため の協力関係にあるのだが、非現実な関係から現 実的な関係になったことで、「あなたJと「わた しjの関係性を構築することになる。 第3章 日本とヒューマンライブラリー 1)ヒューマンライブラリーが続けられた理由 ヒューマンライブラリーには6つの「あいま いさ」が隠されている。その「あいまいさJに より、ヒューマンライブラリーは我々の感性に 負荷をかけることなく、現実性や日常性を含み ながら、他者との関係性を結びやすくなる。 また、「本」が「読者」に答えや考えを求めて はいないこともヒューマンライブラリイ

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搬 の 理由の1つで、ある。つまり、「読者Jは、考える ことや学びを目的にせずとも「本」の物語を聞 くことができ、「本Jも「読者Jも気軽に参加す ることができるのである。 2)ヒューマンライブラリーはなぜ求められるの か 日本は現在、かつてのムラ担会の影響による 集団の中で抑えられていた個人や個性を見つけ 出し、同調圧力の危倶やこれまでの集団意識の 是非が問われるようになった。 しかし、集団がなくなった訳で、はなく、インタ ーネットや SNSを通した無限空間の中で、集 団を選択できるようになり、細分化されるよう になった。その結果、マイノリティの中にも、 マジョリティの考え方を持っている者や、マイ ノリティの中に大多数の考え方、少数の考え方 が存在することが、明らかにされつつある。見 せかけのマジョリティや見せかけのマイノリテ イが数多く栴生し、最早誰がマジョリティで誰 がマイノリティなのか、区別することすら不可 能になっている。 次に向かうべきは、ヒューマンライブラリー の「本Jと「読者」に見られる、「あなたJと「わ たしJのような「個」と「個Jが向き合うこと にある。「本Jが辿ってきた現実は、「本」個人 にしカ域対ミりえない。「本」が社会になにを望ん でいるのか、どのように生きてきたのか、それ も「本J個人にしカづ尚もない。 様々な集団の柄生と、マジョリティ、マイノ リティの区別が分かりにくくなった今、マジョ リティとマイノリティ問題を挙げるより、「個

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としての問題が前提にあるのではなし功、しか し、それは「あなた」であり「個」である、「本J と出会わなければ見えにくい おわりに マジョリティもマイノリティも互しが前生し ている社会でしか生きていくことはできない。 平等を求めるのであれば、多様な他者として存 在を無視することはできず、「共生jせざるをえ ない。声を発するのも受け取るのも人でなくて はならず、ヒューマンライブラリーが共生を目 指すために「個Jを見つめなおす手段となろう。 70一

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