1. 背景および目的 1.1 ハーフメタル ハーフメタルとは金属でも絶縁体でも,半導体でもな い新しい物質である。20 年ほど前に数値的研究で発見さ れた新しいタイプの磁性体,ハーフメタルが,いまや現 実の化合物中に見いだされるようになった。これは金属 と絶縁体の性質を微視的なレベルで併せ持つ物質で,メ モリーやプロセッサーなど,“スピントロニクス”への 応用が期待されている。 このように伝導電子がフェルミエネルギー (Ef) 付近に おいてすべてスピン偏極しているような物質をハーフメ タルという。その電荷状態密度 (DOS) の模式図を Fig. 1
に示す。図中,up spin では DOS が Efを横切らず,エネ
ルギーギャップをもつため絶縁体を示し,down spin で は,金属状態になっていることがわかる。ハーフメタル の種類としては,La–Sr–Mn–O 系のペロブスカイト, Sr2FeMoO6に代表されるダブルペロブスカイト構造 1) , Mn酸化物2)や,(Ga,Mn)As などの希薄磁性体3),NiMnSb などのホイスラ−合金4) ,CrAs などの閃亜鉛構造5) など 多岐にわたる。 ここ 23 年の間に,ハーフメタルの研究は盛んに行わ れてきており,報告も多くなされている。ハーフメタル は巨大磁気抵抗効果 (Giant Magneto Resistance: GMR) やス ピントンネル磁気抵抗効果 (Tunneling Magneto Resistance: TMR) を示す物質である。ハーフメタリック性質は,ま だ解明されていないところが多い。
1.2 ダブルペロブスカイト型ハーフメタル
本論文で取り上げたダブルペロブスカイト型ハーフメ タ ル に は Sr2FeMoO6, Sr2FeWO6, Ca2FeMoO6, Ba2FeMoO6, Sr2FeSmO6などの種類がある。この物質は Fe と Mo が酸 素を介して共有結合することにより超交換相互作用を起
ハーフメタルの熱電特性と電子構造の解明
湯 藤 幸 男 * ・杉 原 淳 **
Study of Electronic Structures and Thermoelectric Properties of Half Metal
Yukio YUTOH* and Sunao SUGIHARA**Electronic structures and magnetic structures of one of half metal material, Sr2FeMoO6were studied using the ab
ini-tio calculaini-tion of molecular orbital method and they were compared with the experimental results. As for calculaini-tion,
magnetic structures drastically changed with the position of oxygen atom.
The Crystal 98 and the DV-Xa were used to find out a total energy by the former and covalent bonding by the latter. Furthermore, the substance was explained in terms of ferrimagnetic with Fe, 3.866mBand Mo, 0.408 mBwhich were similar to the experimental values of 3.9mBand 0.37 mB. Seebeck coefficient was 0.010–0.015 mV/K and electrical resis-tivity, the order of 104W m and the thermal conductivity was 2 to 3 W/m · K according to our experiment. Sr2FeMoO6 in-dicated to be metallic increasing with temperature, which agreed with electronic structure of down spin crossing the Fermi energy level and without energy gap.
Vol. 39, No. 1, 2005
* 県立三崎水産高校 教諭
** マテリアル工学科 教授
こす。この物質は Fe の 3d 軌道に大きなスピンモーメン ト(不対電子)を有するため,大きくスピン偏極を起こ しフェリ磁性 (Ferrimagnetism) を示し,伝導電子と相 まって GMR や TMR の現象を引き起こす。 Sr2FeMoO6はぺロブスカイトの B サイトに Fe と Mo の 2種類の元素が存在し,それらが交互に配列し副格子を 形成した結晶構造である (Fig. 2)。しかし,現実には Fe と Mo を 100% 整列させることは困難である。ゆえに 100% のダブルペロブスカイト構造は存在しない。この 物質ではメスバウアー分光法による測定も行われ,Fe の 価数が約 2.5 であることが調べられた6),7)。加えて,ユ ニークな電子構造をとることが知られ, Fe2 と Mo6, Fe3と Mo6の 2 種類の混合原子価状態をとることがわ かっている6) 。 結晶構造には,Cubic 構造と Tetragonal 構造の 2 通り があり,約 400 K で相転移する(低温側で Tetragonal 構 造)8)。 1.3 フェリ磁性 (Ferrimagnetism) フェリ磁性とは,結晶中に A, B の 2 種類の磁性原子 (イオン)が存在し,その磁気モーメントの向きが負の 交換相互作用によって 2 群に分かれ,それぞれの群の数 または全磁気モーメントが異なることによって有限の自 発磁化を生ずる磁性のことであり,1948 年にネールに よって見出された。フェリ磁性を図示したものを Fig. 3 に示す。また自発磁化は強磁性の場合と同様にキュリー 温度で消失するが,その温度変化には種々の型があり, 途中の補償温度で自発磁化の向きが逆転することもある。 キュリー温度以上で,常磁性磁化率の逆数の変化がキュ リー – ワイスの法則からはずれ,温度に対して直線的で なく上向きに凸に曲がっているのもフェリ磁性の特徴で ある。フェリ磁性体には磁鉄鉱 (Fe3O5) をはじめ種々の フェライト,鉄ガーネット,クロマイトなどがある。 1.4 熱電効果と熱電変換素子 熱電変換は物質中のキャリアがランキンサイクルや ヒートポンプのように働く固体上でのエネルギー変換の 一つである。エネルギー変換部には,火力発電や冷暖房 機のように機械的な可動部分をもたないので,騒音や振 動がなく信頼性の高い熱-電気間のエネルギー変換ができ る。熱電変換材料は,一般に電気伝導性や低熱伝導性の 導体を組み合わせた熱電対として利用し,半導体の対は 熱電素子と言われている。この素子は Fig. 4 に示ように p–n 接合部と両分枝端間に温度差を与えることによって 電力を取り出したり(Seebeck 効果),また両分枝端に電 流を通ずることによって冷却や加熱することが出来る (Peltier 効果)。従ってゼーベック効果は,低温側 (Tc) と 高温側 (Th) との温度差,DT によって起電力 V が発生 し,次の式で表される; Va(Th–Tc) (1) ここで,比例定数 a [V/K] をゼーベック係数と呼ぶ。 一方,ペルチェ効果は,両素子間に一定電流を流す と,単位時間における熱の吸収(または発熱)量, Q は 次の式で表される; QpI (2) ここで, p はペルチェ係数で, paT (3) なる関係にある。 熱電変換素子は Fig. 4 で示した熱電効果を利用した素 子で,これに使用される素子のキャリア濃度は一般に高 く (1025m3),その良否は性能指数 Z と呼ばれる材料係数 Fig. 2. Crystal structure of Sr2FeMoO6. Fig. 3. Ferrimagnetism structure.
により示され, Za2/k r (4) で表される。ここで a はゼーベック係数 (V/K) で一般的 に温度の関数である。また,k は熱伝導率(W/m · K),r は 電気抵抗率(W · m)である。 この式から,優れた熱電変換素子を得るためには三つ の条件を満たす必要がある;つまり (a) ゼーベック係数 a が大きい,(b) 熱伝導率 k が小さい,(c) 電気抵抗率 r が小さい。また熱電材料には温度依存性があり,使用す る際はその材料の最も効率の良い温度領域を考慮して使 用する。 1.5 酸化物と熱電特性 駆動部がなく長寿命であり,また環境にやさしいなど の利点から,数多くの熱電発電の研究がなされてきた。 しかし,代表的な熱電素子の中には高温で劣化するもの, また環境に負荷がかかるものが多くみられる。そのため 最近では,耐熱性,耐酸化性,低熱伝導率であることか ら,酸化物熱電半導体の開発が盛んとなってきた。熱電 材料として酸化物を利用するという動きは,1993 年に大 瀧らによって熱電材料として,提案されたところに遡る9)。 それ以降は,ZnO10),11), Y 2O3 12), Ca(Mn,In)O 3 13), NaCo 2O4 14) な どがドレスデンにおける国際熱電学会で発表され,酸化 物熱電半導体が際立って注目され出した。現在,性能指 数では,NaCo2O4が 0.4103K のオーダー,Zn や Ca 系 で,0.10.2103/K の値が報告されている。こうした導 電性の酸化物は NaCo2O4に比較して,熱伝導率が 1 桁高 く,10 W/m · K 程度の値になること,また熱起電力が比 較的低いため,性能指数が Na 系に及ばないのが難点で ある。しかし,一方 NaCo2O4も Na 化合物であるため, 水 に 弱 い こ と を 考 え る と 実 用 化 と い う 点 で 支 障 が 大きい16) 。 1.6 熱電特性と電子構造との関係および研究の目的 この現象を電子構造上の観点から簡単に述べる。熱電 効果はフェルミレベル近辺のキャリア濃度の傾きに関わ ることから,素子の両端に DT が与えられると,高温側 ではキャリアの運動エネルギーが高くなり,低温側に拡 散してキャリア濃度の勾配が生ずるので,Efは温度の勾 配に沿って傾きをもつ。この傾きが熱起電力 (aDT ) に相 当し,金属の様にキャリア濃度が高いものより非常に大 きい。これと逆に,半導体の両端に電圧を与えると,電 流によって温度差 DT が発生し,Ef は価電子帯の底およ び伝導帯の頂上より大きな傾きになる。 さらには,こうした濃度変化ということに注目すると, エントロピーの関係が出てくる。たとえば,ゼーベック 係数 a は次のように定義される。 (5) S は,一個の電子の移動に関わるエントロピーの流れ,e は素電荷である。そしてエントロピーの流れが,価数・ スピンの状態の変化 (g) などに関わり,次のようにあら わされる。 SkBln g (6) ここで kBはボルツマン定数である。 以上のように,ダブルペロブスカイト構造物質群の研 究が注目を集めてい中,現在盛んに研究されており,多 くの報告がなされている。しかし,その材料設計はまだ 確立されていない。計算科学においては,強相関物質で αS e Fig. 4. Principle of Thermoelectric Module.
あるこの物質は共有結合性が強く,第一原理的に電子構 造を求めることがむずかしい。また応用研究は,活発な 基礎研究に比べ,ほとんど行われていない。そこで,ダ
ブルペロブスカイト型ハーフメタルの Sr2FeMoO6に着目
し,周期境界条件・クラスター法双方の分子軌道法(そ れぞれ CRYSTAL98 ・ DV-Xa)を用いて,Sr2FeMoO6の
電子構造を明らかにする。次に実験において Sr2FeMoO6 の熱電特性の評価を行い,電子構造との関連性を議論 し,熱電材料としての可能性を模索することが目的であ る。 2. 計 算 方 法 2.1 構造最適化を行う分子軌道法計算 本研究では Sr2FeMoO6の電子構造を求めるため,まず Fig. 2に Sr2FeMoO6の結晶構造を示した。空間群は FM-3M で cubic であり,格子定数は,a7.8973 Å である。ま た,元素座標はそれぞれ Fe(0,0,0), Mo(0,0,0.5), Sr(0.25,0.25, 0.25), O(u,0,0) であり,u0.251 である。 まず,計算の第一段階として,CRYSTAL98 を用いた, 分子軌道法(周期境界条件)によって,Sr2FeMoO6の構 造最適化をした17) 。その方法としては格子定数 a と酸素 の座標 u を変化させ,全エネルギーの最も低い(安定 な)結晶構造を求め,その状態から磁気モーメントを計 算した。
2.2 Discrete Variational (DV)-Xa 分 子 軌 道 法 (DV-Xa 法) 物質の電子状態は,そのシュレディンガー方程式(あ るいはディラック方程式)を解けば求まる。物質は普通 複数の電子と原子核を含むので,厳密な意味では正確な 解は得られない。したがって何らかの近似を行って,そ の解を求めることになる。現在までいろいろな近似計算 法が開発され,それぞれいろいろな問題に適用されてい るが,ここでは種々の物質,目的に広く使用されている について述べる18)。 まず,この方法ではスレーターの提案した交換相関ポ テンシャルを用いる。すなわち, (7) とする。これは上向きのスピンに対するものであるが, 下向きスピンに対しても同様の式を用いる。ここで r↑ は上向きのスピンの電子の密度で,a はこの方法で必要 なパラメータであるが,経験的に a0.7 とすると計算結 果が実験値を良く再現できることがわかっている。この ハートリーフォック法では, (8) と書かれる。ここで fiは軌道 i の波動関数である。この 式は一般に別々に中心をもつ 4 つの関数の積分であり, 実際の計算は大変複雑で膨大になる。スレーターはこの 式が (7) 式のように近似できることを示し,計算時間を 桁違いに短縮することを可能とした。したがってシュレ ディンガー方程式のポテンシャル V(1) は, (9) となる。ここで n は n 番目の原子で Znはその原子の原子 番号である。従って第 1 項は原子核からの引力項で,第 2項は電子雲との反発項である。 分子軌道法ではまず,原子核の位置が固定していると 仮定する(断熱近似)。次に波動関数は,分子全体に広 がりをもつような軌道を電子が運動することを仮定する ので,複数の散乱中心をもつ波動を表すものになる。こ のような関数を表すのに,分子軌道法では通常原子軌道 の線形結合をとって近似する。したがって分子軌道を表 す波動関数を (10) と書くことにする。ここで ciは原子軌道関数である。 φl ilχi i C ( )1
∑
( )1 ρ( )2 ν 12 2 r d Vxc∫
V z r eff( )1 1 ν ν ν∑
ν φ φ φ φ ν φ φ ex i j j i i i r d ( ) * ( ) * ( )( / ) ( ) ( ) * ( ) ( ) 1 1 2 1 1 2 1 1 12 2∫
Vxc( ) ( ) / 1 3 3 4 1 1 3 α π ρ ↑ DV-Xa 法では ciは,実際の物質中に存在する原子に対 するシュレディンガー方程式を解いて得られる原子軌道 関数である。 また,DV-Xa 分子軌道法では Xa ポテンシャルの近似 を導入したために,a パラメーターを決定する必要があ るため,完全な第一原理計算ではないが,経験上,a パ ラメーターを計算対象によってほとんど変える必要がな いことが確認されている。したがって実質的に非経験的 な分子軌道計算が可能である。また,エネルギーギャッ プが,ハートリー・フォック法や密度汎関数法に比べ, 実験値に近い正確な値が求まることが知られている。た だし,全エネルギーの計算精度が十分でなく,安定な分 子・クラスターの構造を決定する目的には向いていない。 共有結合性などの化学結合状態,電子構造に関する知見 を得,間接的に物性を評価・予測することに適している。 こ の よ う な 事 情 か ら , XPS (X-ray Photoelectron Spec-troscopy; X線光電子分光),EELS(イールズ; Electron Energy Loss Spectroscopy; 電 子 エ ネ ル ギ − 損 失 分 光 ) XAFS(ザフス; X-ray Absorption Fine Structure; X 線吸
収微細構造),XANES(ゼインズまたは,ザーネス;
X-ray Absorption Near Edge Structure; X線吸収端近傍構造) などのスペクトル同定や,これらスペクトルからの局所 構造解析などにも使われている。 今回,DV-Xa 法を用いた理由としては,周期境界条件 の計算による Sr2FeMoO6の電子構造は,いくつも報告さ れているものの,クラスター法である DV-Xa での計算例 は全くないこと。そして DV-Xa 法では,バンド計算では 求めることができない共有結合性を求めることができる メリットがあるからである。 3. 結果と考察 3.1 CRYSTAL98 による計算結果および考察 Sr2FeMoO6の電子状態計算は,今までに数多く行われ てきている1),20)22)が,本計算の萌芽性は,構造最適化を 経た上で磁気モーメントの結晶構造依存性を求めた点で ある。Table 1 に,構造最適化の結果を示す。構造最適 化は,最安定構造と実験値の誤差率が小さいほど,その 計算精度は高い。一方,誤差率が 23% を超えると計算 精度が荒いといわれているが,結果では誤差率が 1% 前 後であり,精度としてはまずまずの結果が得られたもの と考えられる。 最適化構造における Fe と Mo の磁気モーメントは,そ れぞれ 3.866 mB, 0.408 mBであった。Fe と Mo の磁気モー メントの正負が逆で,絶対値の大きさもはっきり異なる ことから,フェリ磁性体であることがわかる。文献19) に Fig. 6. Center of cluster.
Fig. 7. Density of states before or after substitution; 0 eV is Fermi level.
Table 1. Characteristics of structure optimization.
Before After
a (Å) 7.8973 7.9673
よると,磁気モーメントの実験値は,Fe と Mo でそれぞ れ 3.9 mBおよび − 0.37 mBと報告されている。それと比
べると,かなり近い値が得られたものといえ,Sr2FeMoO6
の磁気的特性を精度良くあらわしているといえる。 Fig. 8(a) に,Fe と Mo の磁気モーメントの格子定数 a 依存性の結果を示す。ここでは格子定数が大きくなるに つれて,Fe, Mo の磁気モーメントが大きくなっている。 また Fig. 8(b) に,Fe と Mo の磁気モーメントの O の座 標 u 依存性の結果を示す。座標 u が大きいほど,O は Mo に近づき,小さいほど Fe に近づく。結果をみると, uが大きくなるほど Fe, Mo の磁気モーメントがともに小 さくなっている。 また Fig. 8(c) に,磁気モーメントの格子定数依存性と O 座標 u 依存性を,それぞれ Mo–O 間の距離に変換した ときの,距離依存性の結果を示す。この結果をみると, 格子定数 a 依存性よりも O 座標 u 依存性の方が, Mo–O 間距離依存性による磁気モーメントの変化が(特に Mo で)大きい。 これは次のように考察できる。Sr2FeMoO6の磁気構造 は,強相関系であり Fe と Mo が O を介して磁気的相互作 用を及ぼす超交換相互作用をもつ。いわば,Fe, Mo, O の 3原子のバランスによって磁気構造が形成されていると いえる。格子定数の変化では Fe–O, Mo–O 間の結合距離 の比率は変わらないため,そのバランスに大きな変化は ないが,O 座標 u の変化ではその比率が変わってくるた め,バランスに及ぼす影響が大きく,それが磁気モーメ ントの変化の大きさとなってあらわれたものと考えられ る。 この O の座標 u の変化は,一種の格子振動モデルとみ なすことができる。温度が上昇すると格子振動が大きく なることから,磁気的な乱れ・エントロピーが急激に (特に Mo–O 間で)増加することが予想される。ここで, 式 (6) 中の g はスピン(磁気エントロピー)に関わって いると考えられる。つまり,これを熱電材料として考え ると,エントロピー増加は熱電変換効率の上昇につなが ることが,式 (5) と (6) から理論的に説明できる。そのた め,この物質の熱電特性の潜在的な可能性が示唆され る。今後の課題として,A サイトを置換した系について も構造最適化を行い, 計算させて結果を比較していく必 要がある。 3.2 DV-Xa 法による計算結果 DV-Xa 法計算には,Fig. 5 に示すクラスターモデルを 用いた。クラスターモデルは Sr を中心としたものを作 成した。DV-Xa では,有効電荷,状態密度 (DOS),磁気 モーメント,共有結合性を求めた。
Fig. 7 に示す DOS の結果より,Sr2FeMoO6では,ハー フメタリック特性が顕著に現れていた。up spin における エネルギーギャップは 2.57 eV であった。対して down spin Fig. 8. Dependence of magnetic moment of Fe and
のエネルギーギャップは完全に 0 であり,これは電気伝 導性の向上に繋がるのではないかと示唆される。
Fig. 9 に有効電荷の結果を示す。Fe, Mo, Sr, O の有効電 荷は,それぞれ 2.04, 2.59, 1.83, 1.31 を示している。この 中の Mo の有効電荷の 2.59 が,Mo の有効電荷が実験的 には約 5.5 であることを考えると,非常に小さい。強相 関物質の電子構造を一電子近似で正確に求めることは本 質的に困難であるが,この結果もその一環としてあらわ れたものといえる。 DV-Xa 計算では,Fe と Mo の磁気モーメントが,それ ぞれ 4.385 mB, 0.673 mB であった。この結果も,CRYS-TAL98 のときと同様,フェリ磁性を示していることが分 かる。CRYSTAL98 のときほど文献値に近い値ではない が,少なくとも,有効電荷の結果と比べるとかなり精度 が良いことが分かる。 共有結合性の結果を Fig. 10 に示す。これは,各原子間 における共有結合性の相対的な比率である。Fe–O 間と Mo–O 間の共有結合性は,それぞれ 0.196 と 0.141 であり, Sr–O 間のそれよりも遥かに大きい。強相関物質である Sr2FeMoO6の電子構造は,Fe–O 間と Mo–O 間の共有結合 性が強いことを考えると,この DV-Xa 計算ではそのこ とをある程度表現できていることがわかる。 次に,XPS の結果について考察する。価電子帯の XPS は Fig. 11 に示す(横軸の 0 eV が Ef)。図から計算結果と 実験結果の良い一致を示していることがわかる。これに より,計算の妥当性が高いと考えられる。 3.3 実験による物性評価 実験的には,固相法により作製した Sr2FeMoO6を測定 し,その熱電特性を評価した。XRD で構造解析を行い, 電気抵抗・熱起電力・熱伝導率を求めた。 まず試料の作製については,SrCO3粉末(関東化学 製),Fe2O3粉末(和光純薬工業製),MoO3粉末(和光純 薬工業製)を乳鉢で混合し,24 時間ボールミルを行った 後,金型で成型を行い,ArH2の雰囲気で 900°C で 2 時 間,仮焼きをした。また仮焼き後,試料を粉砕し再成型 し,ArH2の雰囲気で 1000°C で 24 時間,本焼成をし た。 作製した試料について,XRD 解析を行った。次に,試 料を 5515 mm の大きさに加工し,四端子法によって ゼーベック係数と電気抵抗率の温度依存性(熱電特性) の測定を大気雰囲気にて行った。またレーザーフラッ シュ法を用いて,熱伝導率を測定した。 XRD の結果を Fig. 12 に示す。これから Sr2FeMoO6の ほぼ単一相が得られたことがわかる。また,先述の Fig. 11 の XPS の実験結果は,ここで作製した試料を解析し た結果である。
Fig. 13 に Sr2FeMoO6のゼーベック係数 (a) および電気抵 抗率 (r) の温度依存性を示す。a がマイナスを示したこ とから,n 型半導体であることがわかる。熱電材料とし ては,a の絶対値が高く,r が低いことが望ましい。し かし結果では,a が低く,このままでは熱電材料として Fig. 9. Effective charges for Sr2FeMoO6. Atomic
posi-tions correspond to Fig. 6.
Fig. 10. Covalent bonding for Sr2FeMoO6.
Fig. 11. X-ray photoelectron spectroscopy for calcula-tion and experiment.
の応用は難しいと考えられる。しかし,r が 105(W · m) オーダーと半導体レベルでは比較的低い値を示している。 r が低いのは,計算結果でも述べたように,down spin の 金属的特性が関与しているのではないかと考察できる。 また,Fig. 14 に熱伝導率κの温度依存性の結果を示す。 k も 23 (W/mK) という比較的低い値を得た。この熱伝 導率は FeSi2の約半分程度の大きさである。性能指数を 計算したところ,106107(/K)オーダーであった。実用 化されている BiTe のそれと比べると,34 桁ほど低い。 今後,Sr2FeMoO6高性能な熱電材料とするためには,焼 成条件などの作製プロセスを変化させることで,a を向 上させる必要があると思われる。 4. 計算と実験における結論 まず,計算では Sr2FeMoO6がハーフメタリック特性を 示し,また,Fe, Mo の磁気モーメントから Sr2FeMoO6が フェリ磁性であることがわかった。これにより,ハーフ メタリック特性にはフェリ磁性が関与していると考えら れる。 共有結合性の結果では,Fe–O 間と Mo–O 間の共有結 合性が,それぞれ 0.196 と 0.141 であり,Sr–O 間のそれ よりもはるかに大きかった。強相関物質である Sr2FeMoO6 の電子構造は,Fe–O 間と Mo–O 間の共有結合性が強い ことを考えると,計算でそのことをある程度表現できた ことが分かった。また,CRYSTAL98 による磁気モーメン トの結晶構造依存性の結果をみると,O の座標 u 依存性 で,磁気モーメントの変化が(特に Mo で)大きかった。 エントロピーとゼーベック係数 a が比例関係にあること から,このことで高効率熱電特性の可能性が示された。 XPS の結果では,価電子帯の XPS が Fig. 11 に示すよ うに, 実験結果と良い一致を示した。これにより,計算 の妥当性が高いと考えられる。 DV-Xa で,このような電子相関の強い系の計算が実現 できたことは, 今後この議論が共有結合性などの議論が できることも含め,一つの大きな成果であるといえる。 また実験では,ゼーベック係数が小さいものの電気抵 抗率および熱伝導率が低かったため,試料作製プロセス や試料測定プロセスを工夫し,ゼーベック係数を向上さ せることができれば,熱電特性向上の期待は大きい。た とえば,作製プロセスで異種物質を微量添加した試料を 作製することなどが挙げられる。 また,計算から得られたハーフメタルの電子構造・磁 気構造と,熱電特性の関連性についてはまだ不明な部分 が多い。本計算により示された結晶構造の変化による磁 気構造の変化が,エントロピー増大に結びつくという結 論を確実に引き出すには,格子振動のエネルギーを評価 することが必須と考えられる。計算は基本的なもので, Frozen phonon の方法か線形応答の方法などを用いて,音 響モード,光学モードの格子振動エネルギー評価を行い, その上で熱電効果を議論する必要があると思われる。今 回,酸素の座標変化と磁気構造の変化を見出しているの で,そのことで重要な結果が得られると考えられる。そ れ以外の部分でも,ハーフメタリック特性と熱電特性と Fig. 12. XRD pattern for Sr2FeMoO6.
Fig. 13. Seebeck coeffcient and electrical resistivity against temperature.
の関連性についてより深く議論していくことが,今後の 課題である。
参 考 文 献
1) K. I. Kobayashi et al., Nature, 395 (1998) 677.
2) J.-H. Park, E. Vescovo, H.-J. Kim, C. Kwon, R. Ramesh and T. Venkatesan, Nature, 392 (1998) 794.
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Ther-moelectric Properties of Oxide Materials with Per-ovskite-Related Structure”, Proceedings of the 16th In-ternational Conference on Thermoelectrics, Organized by Institute of Solid State and Materials Research Dres-den, XVI (1997) p. 224–227.
14) I. Terasaki, Y. Sasago, and K. Uchinokura, “Large ther-moelectric power of NaCo2O4single crystals”, Phys. Rev. B, 56 (1997) 12685. 15) 著者/小和田善之,田中 功,中松博英,水野正 隆,監修/足立裕彦:はじめての電子状態計算 DV–Xa 法分子軌道計算への入門,(三共出版株式 会社,1998). 16) 杉原 淳,熱電半導体の現状と将来の動向,金属, Vol. 70 (2000) 757–766. 17) 湯藤幸男,平成 15 年度博士論文,第一原理計算に よるペロブスカイト型酸化物の電子構造と物性の研 究,湘南工科大学大学院,工学研究材料工学専攻. 19) D. Sánchez, J. A. Alonso, M. García-Hernández, M. J. Martínez-Lope and J. L. Martínez, Phys. Rev. B, 65 (2002) 104426.
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