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バングラデシュの気候変動対応 (特集 「パリ協定」後の気候変動対応)

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Academic year: 2021

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バングラデシュの気候変動対応 (特集 「パリ協定

」後の気候変動対応)

著者

山形 辰史

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

巻

246

ページ

28-29

発行年

2016-03

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00002994

(2)

アジ研ワールド・トレンド No.246(2016. 4)  

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● 水 と 生 き る バ ン グ ラ デ シ ュ   地球温暖化によって海面が上昇 すると標高の低い土地は浸水する。 水没する土地面積が広いと考えら れている国の代表がバングラデシ ュである。雨季の日中にダッカ空 港に着陸する航空機から眺めてい ると、国土のかなりの面積が水に 覆われていることに感嘆する。   一般に水は恵みであり、この地 を「黄金のベンガル」と呼ばしめ た稲やジュートの発育の源なのだ が、それも多すぎれば災いとなる (参考文献①②) 。バングラデシュ の水害は大きく二つに分けられる。 ひとつはサイクロンで、ベンガル 湾からバングラデシュを襲う。記 憶に新しいサイクロンとしては二 〇 〇 七 年 の シ ド ル が 挙 げ ら れ る (参考文献③) 。死者・行方不明者 が四〇〇〇人以上、被災者は九〇 〇万人以上に達した。サイクロン の来襲は一所においてせいぜい数 時間であり、たとえて言うなれば 「 急 性 疾 患 」で あ る。 こ れ に 対 し て 洪水はバングラデシュのほぼすべ ての国境で接しているインドから 流れる大河を通じて来襲する「慢 性 疾 患 」で あ る。 と い う の は、 洪 水 の場合、数十日単位で少しずつ水 かさが上がり、浸水域が広がって いくという形で被害が発生し、被 災者数はサイクロンより多いのに、 死者はほとんど出ないからである。 筆者は一九九八年、バングラデシ ュが史上最大といわれる大洪水に 見舞われた際に初めて同国を訪問 したのであるが、首都ダッカのグ ルシャン地区において、浸水は毎 日約二メートルずつ進行していた。   このように洪水は予測可能で、 季節的な現象である。農業のため には、肥沃な土を定期的に運び込 む 役 割 を 果 た し て お り、 「 恵 み 」 の側面を有している。 ● 北 限 の 地 の 洪 水   一方、洪水は徐々に土地を浸食 するので、浸食された土地に住居 や農地を有していた人々にとって は大きな被害をもたらす。   筆者は二〇〇九年から二〇一二 年の間、調査のため、年に二回程 度、バングラデシュ北西部のロン プール管区を訪れた。ロンプール 管区のなかでも、ガイバンダ県、 クリグラム県、ラルモニルハット 県は、インドのアッサム州、メガ ラヤ州から流れ入る大河川ブラフ マプトラ川(バングラデシュでは ジョムナ川と呼ばれる)や、その 支流のティスタ川によって、流域 の土壌浸食が激しい。この地は、 ベンガル湾から五〇〇キロの距離 にあり、ブータンやネパール国境 まで二〇〇キロの近さなので、冬 の朝は一〇度以下にまで気温が下 がる。そんな内陸部でありながら 洪水の被害が大きいことが、筆者 には意外であった。それほどまで にジョムナ川の水量は大きく、い ったん川の真ん中まで舟で行けば、 ( 近 眼 の 筆 者 に は ) も う 両 岸 が 見 えないほどの川幅である。川のな かには無数の中洲があり、小さい ものは日本人の感覚どおりの規模 であるが、大きいものは川のなか の島である。大小まとめてベンガ ル 語 で チ ョ ル( char ) と 呼 ば れ て いる(参考文献④) 。   チョルの端や河川敷は、洪水の 際には水没したり土壌が失われた りする。そして乾季になると再び 肥沃な土地として浮上する。した がって、土地登記がなされていな いことが多く、低所得層にとって は便利な農地となる。つまり、水 没しやすいところには低所得層が 居住する傾向にあり、洪水の際に 避難を余儀なくされるのも低所得 層の人々ということになる。地球 温暖化によって海水面のみならず、 川の水位も上昇すれば、低所得層 の居住域も狭まることとなる。 ● パ リ 協 定 の 評 価   当然のことながら、バングラデ

特 集

「パリ協定」後の気候変動対応

 

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山形

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  アジ研ワールド・トレンド No.246(2016. 4) シュ政府は地球温暖化に敏感であ る。COP 21から帰国した環境・ 森林大臣アンワール・ホセイン・ マンジュは、会議の結果がバング ラデシュの利益にかなったもので あったことを強調した(参考文献 ⑤ )。 気 候 変 動 対 策 は、 適 応 策 ( adaptation ) と 緩 和 策( mitiga-tion ) に 分 け ら れ、 医 療 に た と え ていえば、前者が治療、後者が予 防に当たる。既に大きな被害に直 面しているバングラデシュとして は、緩和策より適応策に資源配分 を多くして欲しいところである。 マンジュ大臣はその点でも「言う べきことは言った」と胸を張った。 ● バ ン グ ラ デ シ ュ の 気 候 変 動 対 応   温暖化脆弱国バングラデシュの 環 境・ 森 林 省 は、 二 〇 〇 九 年 に 「 気 候 変 動 戦 略・ 行 動 計 画 」 を 策 定し、これに基づいてバングラデ シュ気候変動信託基金(BCCT F)を設立した。これと並行して、 イギリス、オーストラリア、スイ ス、スウェーデン、デンマーク、 アメリカ、EUの出資によりバン グラデシュ気候変動レジリエンス 基金(BCCRF)も設立され、 両基金がバングラデシュ政府の行 動 計 画 を 支 え て い る( 参 考 文 献 ⑥ )。 報 道 に よ れ ば、 バ ン グ ラ デ シュ政府はBCCTFに約二〇〇 億タカ(約三〇七億円)の支出を 約束し、二〇一四年六月までに、 二一八の政府プロジェクト、六三 のNGOプロジェクトが基金の支 援を受けている。NGOプロジェ クトは、これまでNGOにマイク ロファイナンスの元手を融資する 政府機関として機能していたPK SF(農村活動支援基金)を通じ て資金が配分されている。具体的 には、災害早期警報システム、災 害に強い稲の新品種導入、植林、 治水インフラ、太陽光発電、深井 戸、行政官の能力開発がプロジェ クトの内容である。   BCCTFのような基金をLD C(後発開発途上国)が設立する のは初めてとのことで、バングラ デシュ政府の気候変動課題への思 い入れの強さが窺われる。 ( や ま が た   た つ ふ み / ア ジ ア 経 済研究所   国際交流・研修室長) 《参考文献》 ① 内田晴夫「資源としての水と災 害 ―― 恵 み と し て の 洪 水 」( 大 橋正明・村山真弓編『バングラ デシュを知るための 60章』明石 書店、第八章、二〇〇三年) 。 ② B・L・C・ジョンソン著、山 中一郎・松本絹代・佐藤宏・押 川 文 子 訳( 『 南 ア ジ ア の 国 土 と 経 済   第 2 巻   バ ン グ ラ デ シ ュ』二宮書店、一九八六年) 。 ③ 日下部尚徳「バ ングラデシュに おけるサイクロ ン防災と住民避 難 に 関 す る 研 究 」(『 上 智 ア ジ ア学』第二九号、 二〇一一年)一 三七―一五三ペ ージ。 ④ アブー・ション チ ョ イ、 高 橋 和 志、 山 形 辰 史 「 川 の 中 の 島 に 住 む ―― バ ン グ ラデシュのチョルの生活――」 (『アジ研ワールド・トレンド』 第 二 三 一 号、 二 〇 一 五 年 一 月 号)二七―三〇ページ。 ⑤ Financial Express, “Paris cli -mate deal ensures Bangladeshʼs interest, ” December 16, 2015. ⑥ S.M . M un jur ul Ha nna n Kh an, Saleemul Huq and Md. Sham -suddoha, “The Bangladesh Na-tional Climate Funds, ” LDC Paper Series, International In -sti tu te fo r E nv iro nm en t an d Development, 2012. ⑦ Rana Dutta, “Climate change: Can Bangladesh win the battle of climate finance? ” Financial Express, December 1, 2015. 崩れた川岸を新しい船着き場にして救援米を運び入れる (クリグラム県、2012年筆者撮影) 降雨により亀裂が入り、今にも崩れそうな川岸 (ラルモニルハット県、2010年筆者撮影)

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