内包カーネルとその応用
Intentional Kernel and Its Applications
土井晃一郎
1∗山本章博
1Koichiro Doi
1, and Akihiro Yamamoto
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京都大学 大学院情報学研究科
1
Graduate School of Informatics, Kyoto University
Abstract: We present the intentional kernel as a new class of kernel functions for structured
data. The convolution kernel, that is a typical class of kernel functions is based on sub-structures. On the other hand, the intentional kernel is based on derivations. We also show applications of the intentional kernel, such as boolean functions, first-order terms, RNA sequences. We show properties of the intentional kernel, and discuss the difference between intentional kernel and convolution kernel.
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はじめに
サポートベクトルマシン (Support Vector Machine, SVM)は近年,パターン認識や機械学習,データマイニ ングの分野で大きく注目されている手法である.SVM は,特徴空間をマージン最大化という基準により分割 する超平面を学習することによって認識を行う.また 非線形関数を用いて原データを高次の特徴空間に写像 することにより,非線形の判別関数を求める手法も開 発されている.SVM において,この写像関数を計算す るのではなく,カーネル関数という特徴空間における 内積を与える関数を使用することにより,学習を行う ことが可能である. SVMはもともと数値データの分類問題に適用するも のであったが,文字列,木などの構造を持ったデータ (以下,構造データとよぶ) の分類問題にも,構造デー タを特徴空間に写像する関数を定義することにより適 用され始めている.構造データを扱ったカーネル関数 のクラスとして,畳込みカーネル (convolution kernel) が Hausler[Haussler 99] によって提案されて,多くの構 造データに対するカーネル関数がこの考え方に基づい て設計されている.畳込みカーネルでは部分構造が構 造データの特徴であるという考え方に基づいてカーネ ルを設計する. それに対して本研究では,構造データの導出過程に 注目したカーネル関数のクラスとして内包カーネル (in-tentional kernel)を提案する.2 章では準備として SVM とカーネルについて説明を行い,3 章では内包カーネ ルの定義を与える.4 章では内包カーネルの具体例を ∗連絡先:京都大学 大学院情報学研究科 知能情報学専攻 〒 606-8501 京都府京都市左京区吉田本町 E-mail: [email protected] いくつか与え,5 章で内包カーネルの性質,6 章で畳込 みカーネルとの違いを議論し,7 章でまとめと今後の 課題を述べる.
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準備
2.1
SVM
とカーネル
サポートベクトルマシン (SVM)[高須 00, 津田 00] は 訓練データとして有限集合 X∈ Rn の要素 x iと yi ∈ {−1, +1} の組 (xi, yi)が与えられたとき, yi= +1 ⇒ fd(xi)≥ 0, yi=−1 ⇒ fd(xi) < 0. すなわち yi· fd(xi)≥ 0 となる線形判別関数 fd(x) = (w· x) + b を見つける.ここで w は重みベクトル,b はバイアス 項とよばれる.重みベクトル w に対し,訓練データを 重みベクトル上に射影したとき,2 つのクラスの訓練 データの中で重みベクトル上もっとも短い訓練データ の距離が最大になるように判別関数を計算する.この 距離をマージン (margin) とよぶ.すなわち訓練データ xi ∈ X, yi ∈ {+1, −1}(i = 1, 2, ..., n) に対して, 最大 マージンを持つ超平面 f (x) = (w· x) + b = 0 を計算す る.ここで (w· x) は w と x の内積を表す.この超平 面は,以下の最適化問題を解くことによって得られる.SIG-DMSM-A701-14 (7/26)
人工知能学会研究会資料
:positive example :negative example
margin
linear discriminant function
図 1: サポートベクトルマシン 最大化 : n ∑ i=1 λi− 1 2 n ∑ i=1 n ∑ j=1 λiλjyiyjxi· xj, 制約条件 : n ∑ i=1 λiyi= 0, λi≥ 0 (1 ≤ i ≤ n). 任意の非線形関数 ϕi(x)(i = 1, 2, ..., d)に対して, ϕ(x) = (ϕ1(x), ϕ2(x), ..., ϕd(x))とする.このとき訓 練データ xi∈ X を ϕ によって別の特徴空間内の ϕ(xi) に写像し,そこで SVM を適用することを考える.こ のときの最適化問題は, K(xi, xj) = ϕ(xi)· ϕ(xj) とすると以下のようになる. 最大化 : n ∑ i=1 λi− 1 2 n ∑ i=1 n ∑ j=1 λiλjyiyjK(xi, xj), 制約条件 : n ∑ i=1 λiyi= 0, λi≥ 0 (1 ≤ i ≤ n). このとき判別関数は,fd(x) = ∑n i=1λiyiK(xi, x) + b で求めることができる. 一般に新たな特徴空間はもとの空間よりも高次元で ある.しかし,判別のための最適化問題を計算する際は ϕ(x)を用いなくても K(xi, xj)だけを用いて計算でき るので,高次元の計算を避けることができる.すなわ ち,ϕ によって写像した特徴空間のベクトルを実際に求 めなくても最適化問題を解くことができる.このとき 関数 K(xi, xj) = ϕ(xi)· ϕ(xj)をカーネル関数 (kernel function)と呼ぶ. 䉺 䊷 䊂 䋱 䉺 䊷 䊂 2 ዉ general concrete 䊂䊷䉺䋱䇮䊂䊷䉺䋲䈮 ㅢ䈜䉎ዉㆊ⒟ 図 2: 内包カーネル
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内包カーネルの定義
構造データの特徴の一つに,データを導出する過程 の存在がある.導出過程とは文字列に対する文脈自由 文法による導出や,木構造が根から成長していく過程 である.これらの具体例については次章で述べる.デー タ d の導出過程を N0 → N1→ · · · → Nk = dとする と各 Niはある構造データの集合を表す概念である.導 出が進むにつれて概念が詳細に,つまり導出が表す構 造データの集合が小さくなっていき,最後には一つの 構造データを表すような導出に注目する (図 2) と,導 出過程の中に出現する節点にはそれが表す構造データ の集合の包含関係により半順序関係を定義できる.こ の半順序関係を利用して次のように定義されるカーネ ルを一般に内包カーネルとよぶことにする. 定義 1 構造データとその構造データの導出過程の節点 の集合とその間に成り立つ半順序関係≽ を考える.構 造データ x, y を入力とするとき,x, y の両方を包摂す る概念の集合 E(x, y) ={z|z ≽ x, z ≽ y} を用いて定義されるカーネルを内包カーネル(intentional kernel)とよぶ. 導出過程はデータの集合を表す概念と考えることが できるので,このカーネル関数のクラスを内包カーネ ルとよんでいる.図 2 の太い枠で囲まれた節点は内包 カーネルを定義するための E(x, y) のイメージである.例えば,♯(E(x, y)) が E(x, y) の要素数を表すとする と,K(x, y) = ♯(E(x, y)) は内包カーネルの一種であ る.特に K(x, y) = ♯(E(x, y)) という形で定義された 内包カーネル関数を数え上げ内包カーネルとよぶ.
完備束では半順序集合の任意の部分集合に対して最 小上界 (least upper bound, lub) が存在する. 半順序集 合の要素 x, y の最小上界を lub(x, y) と記述するとき, ♯(E(x, y))は lub(x, y) を包摂する要素全体の数のこと
を表す.一般の半順序関係には最小上界が存在すると は限らない.
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具体例
この章では,前章で定義をした内包カーネルの具体 的な例を挙げる.4.1
ブール関数
Sadohara [Sadohara 01, Sadohara 02] と Khardon et al. [Khardon 05]は SVM を用いたブール関数の学 習を独立に考案した.データは集合 X⊆ Bnの要素で あり,高次元の特徴空間に射影して SVM を用いて線 形判別関数を求める.このようなブール関数の学習の ためのカーネル関数として DNF カーネル,単調 DNF カーネル,k-DNF カーネルなどが考案されている. 特徴空間の座標としてリテラルの連言を選ぶ.ただ し命題変数の xiの否定を 1− xiで表すことにする. 定義 2 idx を idx(D, ..., D) = 0 となるような{D, 1, 0}n から{0, 1, ..., 3n− 1} への全単射とする.任意の命題変 数 x と任意の p∈ {D, 1, 0} に対して,L を以下のよう に定義する. L(x, p) = x (p = 1), 1− x (p = 0), 1 (p = D). さらに ϕi(x)を ϕi(x) = n ∏ j=1 L(xj, pj), idx−1(i) = (p1, p2, ..., pn) として,ϕ(x) = (ϕ1(x), ϕ2(x), ..., ϕl(x))とする.この とき特徴空間の次元は l = 3n− 1 である. 例 1 2 変数 x1, x2のブール関数 g(x1, x2)は以下の 32− 1個のブール式を基底とする特徴空間に射影できる. x1, x2, 1− x1, 1− x2, x1, x2, x1(1− x2), (1− x1)x2, (1− x1)(1− x2). 定理 1 ([Sadohara 01]) n 変数のブール関数 g : Bn → B に対し,以下の条件を満たす超平面 fd(z) = ∑3n−1 i=1 wizi= 0が存在する. g(x) = 1 ⇒ fd(ϕ(x)) = 1, g(x) = 0 ⇒ fd(ϕ(x)) =−1. ただし x∈ Bn ϕi(x)はリテラルの連言であるから,判別関数の重 みベクトル w がブール値であるときにおいては x = (x1, x2, ..., xn)∈ Bnに対する ϕ(x) = (ϕ1(x), ϕ2(x), ..., ϕl(x))は DNF を表しているとみなすことができる. このとき特徴空間における内積を考える.ϕi(x)に対 して,idx(i) = (p1, p2, ..., pn)とするとき,x = (x1, x2, ..., xn)において ϕi(x) = 1となるのは j = 1, 2, ..., n に 対して “pj = D”または “pj ̸= D かつ xj = pj” が成 立するときである.そのため ϕi(x)· ϕi(y) = 1となる ときを考えると, ϕi(x) = 1かつ ϕi(y) = 1 であり,ϕi(x)と ϕi(y)で pj = Dとなる j は等しい ので,pj ̸= D ならば xj = yj = pjのときに ϕi(x)· ϕi(y) = 1となる.これはブール値ベクトル x で ϕi(x) に含まれるリテラルの値がすべて等しいことを意味し ている.そこでブール値ベクトル x, y∈ Bdに対して, d(x, y) = x, yにおいて xi= yiとなる i の個数 とすると,長さ i のリテラルの連言でともに値が等し くなるものがただ ( d(x, y) k ) 個存在する.したがっ て内積 ϕ(x)· ϕ(y) は ϕ(x)· ϕ(y) = s(x,y)∑ i=1 ( d(x, y) i ) となる.これよりカーネルは K(x, y) =−1 + 2d(x,y) となる.このカーネルを DNFカーネル (DNF Kernel) とよぶ. 同様に特徴空間の座標として否定を含まないリテラ ルの連言だけをとることも考えられる.この特徴空間 への射影 ϕ′(x)のカーネルは Km(x, y) =−1 + 2d ′(x,y) である.ここで d′(x, y) = x, yにおいて xi= yi= 1となる i の個数 とする.このカーネルを単調 DNF カーネル (mono-tone DNF Kernel)とよぶ.また,長さが高々k である リテラルの連言で張られた特徴空間を考えることにより k-DNFカーネル (k-DNF Kernel)Kk(x, y)と単調 k-DNFカーネル (monotone k-DNF Kernel) Kk m(x, y) を以下のように定義できる. Kk(x, y) = k ∑ i=1 ( d(x, y) i ) ,
x
1¬x
1x
2¬x
2x
3¬x
3...
x
1∧ x
2¬x
1∧ x
2x
1∧ ¬x
2¬x
1∧ ¬x
2x
1∧ ¬x
2∧ ¬x
3x
1∧ ¬x
2∧ x
3x
1∧ ¬x
2∧ ¬x
3∧ x
4x
1∧ ¬x
2∧ x
3∧¬ x
4ϕ ϕ
(1
0 0 1)
(1
0 1 0)
K
DNF: 2
2– 1 = 3
図 3: ブール関数における包摂関係 Kmk(x, y) = k ∑ i=1 ( d′(x, y) i ) . 例 2 x = (1, 0, 0, 1), y = (1, 0, 1, 0) とする.このとき d(x, y) = 2, d′(x, y) = 1より K(x, y) =−1 + 2d(x,y)= 3, Km(x, y) =−1 + 2d ′(x,y) = 1. DNFカーネルにおいては連言をブール関数の特徴と しているが,連言の間に “連言 X, Y の中に含まれるリ テラルの集合 S(X), S(Y ) が S(X) ⊇ S(Y ) であると き X ≽ Y である” という半順序関係を考えると,図 3 のような包摂関係の図を考えることができる.図 3 は (1, 0, 0, 1)と (1, 0, 1, 0) に対する包摂関係を示している. したがって DNF カーネルは内包カーネルの一種であ るといえる.4.2
一階述語論理における一般項
一階述語論理における一般項に対して SVM が適用 できるような特徴空間として,ϕT ERM(t) = (ϕ1T ERM(t), ϕ2T ERM(t), ...)
を定める.(Doi et al. [Doi 07]) ここで,σ = s1, s2, . . .
は変種を含まないすべての項からなる列とし, ϕiT ERM(t) = { 1 (ある代入 θ に対して t = siθ), 0 (それ以外のとき) とする.項 t を構成する記号列は有限なので ϕT ERM(t) の成分のうち 1 であるものの個数は有限である. KT ERM f(g(X,Y),h(a)) f(g(X,a),h(Z)) f(g(X,Y),W) f(g(X,a),W) f(g(b,a),h(a)) f(g(X,a),h(a)) f(g(X,Y),h(Y)) f(V,h(Z)) f(V,h(a)) f(g(X,Y),h(Z)) f(g(c,a),h(a)) Anti-unification f(g(b,X),h(a)) f(g(b,X),h(Y)) f(g(c,X),h(a)) f(g(c,X),h(X)) f(V,W)
KTERM(f(g(b,a),h(a), f(g(c,a),h(a))
Non linear tem
図 4: 項データにおける包摂関係
は ϕT ERM(t)を用いて次のように定義される.
KT ERM(s, t) = ϕT ERM(s)· ϕT ERM(t).
いま,項 v を包摂し,かつ変種を含まないすべての項 の総数を size(v) とすると,KT ERM に対して KT ERM(s, t) = size(lub(s, t)) が成立する. カーネル関数 KT ERMの値を求めるためには, lub(s, t) を包摂するような項の変種を除いた個数を求める必要 がある. このカーネル関数の値を求めるアルゴリズム は Doi et al. [Doi 07] において提案されている.図 4 は,f (g(b, a), h(a)) と f (g(c, a), h(a)) に対する導出を 図示している. 内包カーネルの定義における x, y を項とすると,♯(E(x, y)) は KT ERMに一致し,KTERMは内包カーネルの一種 であることがわかる.Muggleton et al.[Muggleton 05] が提案した論理プログラムを利用したカーネルは,節 の最小汎化を利用しているような内包カーネルの一種 となる.Muggleton et al. はこのカーネルを用いて実 験を行ったが, カーネルの値をどのように計算するのか は示していない.
4.3
RNA
配列
RNAに対する内包カーネルは Sankoh et al. [Sankoh 07] によって提案されている.本稿では,いかにして RNA 配 列に対して導出を考えて内包カーネルを設計するかを説 明するにとどめる.さらにこの考え方を拡張したカーネ ル関数の設計方法については Sankoh et al. [Sankoh 07] を参照して欲しい.
RNA配列のうち,最近注目されているタンパク質に 翻訳されずに機能する非コード RNA を考える.RNA 配列のまま機能するため RNA の二次構造が機能に密接
S L P P R RNA㈩ ੑᰴ᭴ㅧ CFG䈮䉋䉎ዉ AUGCCG U ACAGU 図 5: RNA 配列における導出と二次構造の関係 に係わっていると考えられる.我々は,RNA の二次構造 を単純な文脈自由文法 (Context Free Grammar, CFG) で表現する.この CFG は,非終端記号 P, L, R, S, E を 用いて構成される.P は塩基の相補対を表し,L と R はそれぞれ左と右に一つの塩基を排出するという操作 を表すために用いる.S と E はそれぞれ開始記号,終 了記号を表す.この CFG は以下の生成規則から成る. S→ P | L | R | E, P → xP y | xLy | xRy | xEy,
L→ xP | xL | xR | xE, R→ P x | Lx | Rx | Ex.
ここで,x∈ {a, u, c, g} であり,x は塩基を表す.また, (x, y)∈ {(a, u), (u, a), (c, g), (g, c)} であり,(x, y) は塩 基の相補対を表す.図 5 に CFG による導出と RNA 配 列,二次構造の関係を示している. 本稿では,KRN Aとして,開始記号 S から 2 つの引 数の配列に向かうまでの全ての導出の中で,共通でか つ重複を除いたものの個数に注目する.以下に簡単な 例を用いて,この考え方を説明していく. 例 3 配列 σ1= aauuと配列 σ2 = auauに対して,開 始記号 S から各配列への導出の例として以下のものが ある. S→ P → aP u → aaEuu → aauu, S→ P → aP u → auEau → auau. ここで,導出における終端記号の違いを無視すると,導 出 S,S → P ,S → P → P の 3 つが共通な導出で ある. a a a u u a u u a a a u u a u u a a a u u a u u ) 2 ( ) 1 ( (4) (3) a a a u u a u u 図 6: 配列 σ1= aauuと配列 σ2= auauの共通二次構 造候補 S L P R L R L R P P L R P P L R
aauu aauuauau
P L R auau 図 7: 配列 σ1= aauuと配列 σ2= auauの共通二次構 造候補 次に,共通の導出過程のうち二次構造として同じも のを表している重複を除いた代表元を以下に示す. (1) S→ P → P, (2) S→ P, (3) S→ L → R → P, (4) S. これらの代表元は,2 つの配列が取り得る二次構造の 4 個の候補 (図 6) に対応しており,任意の導出は 4 個の 二次構造候補のいずれかを表現している.例えば,代 表元ではない導出 S → P → R → R → E は,(2) の 二次構造候補を表現する. 以上より,2 つの配列が共通に取り得る導出の個数 を数え上げることと,2 つの入力配列が共通に取り得 る二次構造候補の数を数え上げることは等価であるこ とがわかる.
5
内包カーネルの性質
前章で述べた内包カーネルは代表元をとっている RNA の場合もあるが,二つのデータに共通する導出をすべ て数え上げることによって,カーネル関数の値として いる.まず,このような内包カーネルがカーネルであ ることを示し,さらにその健全性と完全性についても 示す.定理 2 数え上げ内包カーネルはカーネル関数である. 証明の概略 E(x, y)の定義は x, y をともに導出する節 点であるので x, y に対して対称性を満たす.また,各 導出過程における節点を次元とする特徴空間を考えて, その節点から導出されるなら 1,されないなら 0 とな る特徴空間に写像されると考える.すると,この特徴 空間上の内積と,数え上げ内包カーネルの値が一致す る.このような空間を与えることができるので数え上 げ内包カーネルはカーネル関数であるといえる. 2 G¨artner[G¨artner 03]はカーネルとしての “良さ ”を 完全性 (completeness) と健全性 (correctness) によって 定義した. 完全性は, すべての x, x′, y ∈ X に対して K(x, y)の値によって x ∈ X が一意に決まることを いう. 定義 3 カーネル K が完全(complete) であるとは, K がすべての x, x′, y∈ X に対して K(x, y) = K(x′, y)⇒ x = x′ を満たすことをいう. 定理 3 (内包カーネルの完全性) 数え上げ内包カーネ ルは完全である. 証明の概略 データの間に半順序関係がなければ明ら か.一階述語論理の項データのように,データ間に半 順序関係が成り立つ (導出過程の節点も項である) とき 背理法を用いて証明する. x ̸= x′を仮定して, すべて の y に対して K(x, y) = K(x′, y)が成立しないことを 示す. つまり, K(x, y)̸= K(x′, y)が成立するような y が存在することを示す. このとき, x と x′に包摂関係 が成立するかしないかで場合分けを行う. x ≽ x′かつ x ̸= x′のとき, x を導出するすべての 節点は x′ も導出する.また,x′から x は導出されな いので E(x, x′) ( E(x′, x′)となり,y = x′ のとき, K(x, x′) < K(x′, x′)が成り立つ. x x′かつ x̸= x′のとき, x は x′を導出しないので E(x, x′)( E(x, x) となり, y = x のとき, K(x, x′) < K(x, x)が成り立つ. よって, K(x, y)̸= K(x′, y)が成立するような y が存 在することを示すことができたので, 数え上げ内包カー ネルの完全性が示された. 2 次にある概念クラスに関する健全性を定義する. 概 念クラスC と SVM に関する健全性とは任意の x ∈ X に対して線形識別関数がある閾値を超えるか, 超えな いかによってカーネルの入力である任意の x∈ X は概 念 c∈ C に含まれるかどうか判別を正しく行えること をいう. 定義 4 カーネル K が概念クラスC と SVM に関して 健全(correct) であるとは概念クラスC に含まれるすべ ての概念 c∈ C と x ∈ X に対して ∑ i αiK(xi, x)≥ θ ⇔ c(x) を満たすような αi ∈ R, xi ∈ X, θ ∈ R が存在するこ とである. 定理 4 (内包カーネルの健全性) 数え上げ内包カーネ ルを使用した SVM により任意の概念が学習可能可能 である. 証明の概略 データが与えられたときに,導出過程の 節点を次元とする特徴空間上でデータの任意の分割が 線形分離可能なことを示す.データの間に半順序関係 がなければ,データを全部導出した節点に対する次元 においてはそのデータに対してのみ 1 となるので明ら かである.一階述語論理の項データのように,データ 間に半順序関係が成り立つ (導出過程の節点も項であ る) ときも,データを一般的なものから順にトポロジカ ルソートし,データを一つずつ順に加えていくことを 考えて数学的帰納法で証明する.1 点だけのときは 0 次 元の単体である.i 個の節点が i− 1 次元の単体をなす と仮定し,そこに一点 d を加えることを考える.する とデータ d が加わったときには,データ d 自身を表す 次元が 1 となるデータは d のみである.よって,デー タ集合がなす図形に対して新たな次元を加えていくこ とになる.よって,データ集合は単体となる.これに より,特徴空間上でデータを頂点とする単体をなすこ とを示すことができた. 2
6
畳込みカーネルとの違い
畳込みカーネルとは構造データを部分構造に分け,そ の部分構造間のカーネル関数を足し合わせることによっ て定義されたカーネル関数である.つまり,“部分構造 が類似していれば構造データ全体も類似している” と いう考え方に基づいて設計されている.具体的には K(T, T′) = ∑ s∈s(T ) ∑ s′∈s(T′) Ks(s, s′). と定義される.ここで,s(T ), s(T′)はそれぞれ T, T′の それら自身を含まない部分構造全体の集合を表す. これに対して内包カーネルでは構造データの導出過 程に注目して,“共通の導出が多いということは構造 データが類似している” という考え方に基づいている. 部分構造の間にも包摂関係を考えることが出来るので, その包摂関係に基づいてカーネル関数を設計すれば内 包カーネルも畳込みカーネルの一種と考えられなくもないが,畳込みカーネルとは違う設計になる場合もあ る.例えば,一階述語論理の項データの導出において は同じ変数が複数回出てくる項 (非線型項) も導出にお いて出てくる場合があり,このような項はデータの部 分構造とは考えにくく,構造データ全体の導出として とらえる必要がある.
7
まとめ
本稿では内包カーネルという新しいカーネル関数の クラスを提案し,その具体例について述べた.さらに 内包カーネルの考え方でカーネル関数を設計し,内包 カーネルの有用性を示していくことを考えている.謝辞
この研究の一部は科学研究費補助金基盤研究 (B) 課 題番号 19300046 の助成を受けたものである.参考文献
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