要 旨
目的:眼科病棟内でおきた転倒転落事故の発生傾向を把握し,看護師の意識調査とともに問題点を抽出してアセスメン トスコアシート(以下,スコアシート)の活用方法を改良し,事故防止に向けての認識強化に取り組む。 方法:2014 年から 2017 年の眼科病棟内で発生した事故調査を行い,病棟看護師 16 名にアンケート調査を行った。 スコアシート活用方法改良前後のアンケート結果を解析した。 結果:33 件の事故が発生しており,手術日,手術 1 日目が多く殆どが高齢者であった。スコアシートを活用方法改良 後のアンケート調査では,手術当日,手術 1 日目にスコアシートの再評価,片眼遮蔽や入院 1 週間経過の再評価を行 う意識が顕著となった。 考察:スコアシートの活用方法を改良,有効に運用することで事故防止に向けて介入する意識が高くなったと考えられ た。 キーワード:アセスメントスコアシート,転倒転落事故,意識調査アンケート 転倒転落事故減少に向けては,各病院施設で様々な取り 組みを行っている。A 病院でも 2011 年先行研究1,2)にて転 倒転落のリスクについて調査し,B 眼科病棟(以下,B 病棟) に合った転倒転落アセスメントスコアシート(以下,スコアシー ト,図 1)を考案し現在も活用している。しかし,転倒転落 事故は減少傾向ではない。桂2)は「アセスメントスコアシー トの活用で最も大切な事は活用する看護師の意識である」 と述べている。更に,猿楽は,眼科病棟における転倒転落 因子を分析したアセスメントスコアシートの有効性を述べて おり3),この事から,B 病棟で発生した転倒転落事故につい て後ろ向きに調査し事故内容を分析した。さらに,古瀬は 転倒転落防止においては看護師の意識による介入が重要で あると述べており4),今回スタッフ一人ひとりの転倒転落に対 しての意識を高める事も重要と考え,看護師に転倒転落事 故防止に向けての取り組みについて意識調査を行った。 それらの結果からスコアシートの有効な運用を改良し,改 良後に再度意識調査を行い認識の強化に取り組んだので報 告する。 1.2014 年 1 月~ 2017 年 12 月の 4 年間に B 病棟内で発 生した転倒転落事故について,患者年齢・発生日・眼科 病名・身体的特徴(麻痺,運動障害の有無)・発生時間・ 発生場所・転倒歴の有無・スコアシート点数を後ろ向き に調査した。 2.意識調査アンケート対象:B 病棟看護師 16 名(回収率: 100%) 転倒転落事故防止に向けての意識調査について 19 項目 の質問をチェック式アンケート形式(①している②時々はじめに
受付日:2020 年 3 月 25 日 受理日:2020 年 10 月 29 日 医療法人社団ひかり会 木村眼科内科病院Ⅰ.方法
している③していない方が多い④していないの 4 択で回 答)と記述形式(図 2)で実施した。事故調査と看護師 アンケート結果から問題点の抽出を行い,改良点を検討 しスコアシート記入方法とハイリスク時加算として危険度 (図 1)(危険度Ⅰ(0 ~ 10 点)転倒転落に注意がいる, 危険度Ⅱ(11 ~ 17 点)転倒転落を起こす可能性が高い, 危険度Ⅲ(18 ~ 24 点)転倒転落の危険が高い,危険 度Ⅳ(25 点以上)転倒転落の危険が非常に高い)の段 階を見直した。入院時危険度Ⅲ以上の患者には転倒転 落事故防止に関する説明書で注意喚起を行った。また スコアシート評価方法の統一性を図り,スタッフマニュ アルにも追加修正した。経過表入力の徹底や定期的な 勉強会実施後,9 か月後に再度同内容のアンケートを実 施した。 3.意識調査アンケート回答をスコア化し,①しているをス コア 1,②時々しているをスコア 2,③していない方が 多いをスコア 3,④していないがスコア4 とした。スコア シート改良前後のアンケート結果を Wilcoxon の符号付 順位検定を行った。検定には JMP13 を使用し,有意水 準 p<0.050 以下とした。 図 2. 看護師意識調査アンケート項目 図 1. 転倒転落アセスメントスコアシート、危険度
1.A 病院では 4 年間で 8747 名の入院患者があり,B 病棟 内で 33 件の転倒転落事故が認められた。患者の平均年 齢は 80.6 ± 9.0 歳であった(図 3)。発生日は入院日 5 件(15%),手術日 8 件(24%),手術 1 日目 8 件(24%), 手術 2 日から 9 日目 8 件(24%)で約 7 割が手術日に 関する日であった。その他 4 件(12%)は光線力学的 療法や角膜移植後拒絶反応といった治療目的で入院 2 日~ 6 日目であった(図 4)。身体的特徴では麻痺や運 動障害は,あり20 件(60%)なし 13 件(39%)であっ た。発生時間は日勤帯(8 時~ 17 時)10 件(30%), 夜勤帯(17 時~翌朝 8 時)23 件(69%)であった(図 5)。発生場所ではベッドサイド 25 件(75%),トイレ内 5 件(15%),廊下 2 件(6%),シャワー室 1 件(3%) であった(図 6)。ベッドサイド 25 件のうち,13 件の事 故はトイレへ行こうとして起き上がった時の転倒転落事故 であり排泄関連の事故が多いことがわかった。転倒歴の 有無ではあり 16 件(48%),なし 17 件(51%)であっ た。入院時スコアシート点数では危険度Ⅰ 4 名(12%), 危険度Ⅱ 10 名(30%),危険度Ⅲ 11 名(33%),危険 度Ⅳ 8 名(24%)であった(図 7)。 2.看護師記述アンケートでは,A 病院は 2015 年 10 月から 電子カルテが導入され「以前はカーデックスでの申し送り でスコアシートがはさんであり患者の事故リスクの把握が しやすく危険度のチェックができていたが電子カルテ導 入後,スコアシートは電子カルテの入力画面を開いてま で見なくなった」や「スコアシートからの危険度や転倒リ スクの記録がわかりにくい」等の意見があった。問題点 としてスコアシートが活用されていないことや,入院日に スコアシートを評価していても危険度や転倒リスクが反 映されていないため,患者の状態,情報把握不足である ことがわかった。そのため,スコアシート記入方法と危 険度を見直しすることとし,まずスコアシート評価は入院 日のみでなく,事故発生率の高い手術日,手術 1 日目, 図 3. 事故発生年齢 図 4. 事故発生日 図 5. 事故発生の時間帯 図 6. 事故発生場所
Ⅲ.結果
2 日目,入院 1 週間経過時も評価を行い患者の状態把 握に努めた。また手術日,手術 1 日目は事故発生のハイ リスクを考慮し危険度を 2 段階アップとし,入院日,片 眼遮蔽中,入院 1 週間経過は危険度を 1 段階アップと した。加えスコアシートからの情報が反映できるように, 経過表には危険度,転倒歴の有無や排泄関連の事故が 多いことから歩行状態を入力できるように改良した。ま た,評価日や段階アップを忘れるといった意見があった ためパソコンにキーボード枠に表記したことで意識付け した。 3.看護師意識調査アンケート(図 2)をスコアシート記入 方法の改良前後で結果を比較した。結果を表 1,表 2 に示す。 問 1,2,3 に有意差はなかった。 問 4 の手術当日,手術 1 日目にスコアシートの再評価を しているかの問いでは改良前は①している18%,②時々 している 6%,③していない方が多い 29%,④していな い 47% であったが,改良後は①している 88%,②時々 している12% で(p=0.001)有意差があった。 問 5 の片眼遮蔽や入院1週間経過の再評価をしているか では,改良前は③していない方が多い 24%,④していな い 76% だったが,改良後は①している 63%,②時々し ている 31%,④していない 6% で(p=0.0005)有意差が あった。 問7の入院時に関わった患者以外でスコアシートをチェッ クすることはありますかの問いでは改良前は④していな い 64% であったが,改良後は 25% で(p=0.0039)で有 意差があった。 問 6 と,問 8 から問 19 については,有意差がなかった。 スコアシート改良後の記述アンケートでは「手術当日,手 術 1 日目の危険度 2 段階アップでリスクの高い患者への 介入意識が高くなった」や,「経過表に危険度,転倒歴, 図 7. スコアシート点数 %-3.42 !)*', "&)*', '('#)*'+ $)*'+' !)*', "&)*', #)*'+'( ' $)*'+ '
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$#! $#! 表 1 看護師意識調査 アンケート結果Ⅰ 表 2 看護師意識調査アンケート結果Ⅱの転倒要因について検討すると、転倒時間は 0 ~ 8 時が 9 人(50%),16 ~ 0 時 が 3 人(16.7%) で 夜 勤 帯 の転 倒 が約 7 割を占めていた。転倒場所は病室が最も多く,12 人 (66.7%)であった。発生誘因は移動によるものが最も多く 10 人(55.6%)であった」と述べている。A 病院 B 病棟の 結果も同様で,夜勤帯(17 時~翌朝 8 時)の発生頻度が 高いことがわかった。また,ベッドサイドでの事故はトイレ への移動時が多数を占め排泄行動に関連した事故が多いこ とを認識した。 スコアシート活用改良以前は,入院日にスコアシートを評 価し,入院日と片眼遮蔽中は危険度 1 段階アップ,手術当日 は 2 段階アップをしていたが,今回事故調査結果で手術日 から手術 1 日目にかけて事故件数が多かったことから,眼帯 による視野狭窄も原因の一つと考えられ,手術日,手術 1 日 目にもスコアシートの再評価を行い危険度 2 段階アップしリ スクが高いことを認識し意識付けした。 それに加え,入院時のスコアシート危険度Ⅲ以上の患者に は家人を含め転倒転落事故のリスクが高いことを説明しナー スコールの指導や履物のチェック等を行い患者自身にも転倒 転落事故防止に関する説明書で注意喚起し,それを元に看 護介入していった。 しかし,看護師のアセスメント不足や意識改善不足,情報 把握ができていないといった要因で,評価が正しく行えてい ないことが経過表入力の結果から推測され,2018 年 11 月 の 1 か月間,入院の全患者のスコアシートをチェックしたと ころ,評価忘れや評価間違い,入力忘れ,前日の評価をそ のまま写している等の傾向が見られたため,スコアシートに 関する指摘を行うことや新人スタッフマニュアルにも追加修 正した。 以上から 2 回目の看護師アンケート結果で,3 問のみの有 意差ではあったが,手術当日,手術 1 日目にスコアシートの 再評価,片眼遮蔽や入院1週間経過の再評価を行う意識が 顕著となり,事故防止への取り組む意識が高くなったと評価 できる。 加えて,定期的なカンファレンスや KYT(危険予知トレー 今後も転倒転落事故の動向を検討し,スコアシートによる 予防策の検討を重ね,転倒転落事故防止への認識強化を継 続していくことで,転倒転落事故がどれだけ減らせるか検討 してゆきたい。 本論文は第 35 回日本視機能看護学会学術総会で発表した。 利益相反申告すべきもの無し。 文献 1)奥井佳子:転倒転落事故事例の分析結果に基づく改良版アセス メントスコアシートの作成、日本眼科看護研究会、研究発表収録、 27、62-64、2011. 2)桂志穂:転倒転落防止への取り組み、日本視機能看護学会学 術総会、研究発表集録、114-116、2013. 3)猿楽多賀子 松田綾 松本真美子 他:眼科病棟での過去の 転倒・転落因子の分析、京都府立医科大学付属病院看護部看 護研究論文集、2016、11-15、2018. 4)古瀬正光:転倒・転落した患者の対応とスタッフの意識調査、 日本精神科看護学術集会誌、60、181-185、2018. 5)前掲載 3) 6)鈴木みずえ編集:転倒・転落予防のベストプラクティスベッドサ イドですぐにできる!、南江堂、2-28、2013.