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分子シミュレーションと実験による繊維/樹脂間のぬれ性評価の検討

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Academic year: 2021

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― 67 ― 平成29年3月 1 緒 言 近 年,繊 維 強 化 プ ラ ス チ ッ ク(Fiber Reinforced Plastics,以下:FRP)は,高強度で軽量なため,船舶 や航空機などさまざまな分野に用いられている.FRP は繊維に樹脂を含浸させて成形する.FRP の成形に はオートクレーブ法や樹脂注入成形(Resin Transfer Molding,以下:RTM)法が用いられる.オートクレー ブ法は積層したプリプレグシートを真空脱泡してオー トクレーブ(圧力釜)中で,不活性ガスによって加熱 加圧する成形法で,品質が安定し強度に優れた成形品 が得られる1).しかし,オートクレーブ装置自体が非 常に高価かつ成形対象に応じた大きさのものが必要に なることや成形補助材等が高価であり,成形サイクル が長いため,製造コストが高くなる. また,RTM 法は合わせ型内に強化材を置き,型に 設けられた注入口から液体樹脂を圧入して成形する加 圧樹脂注入法である1).しかし,金型のコストや加圧 機器などの設備コストなどの問題を抱えている. これらの問題を解決するため,型内に強化材を置き, 型に設けられた注入口から樹脂を圧入して成形する RTM 法の中でも真空補助含浸成形(Vacuum Assisted Resin Transfer Molding : VARTM)法が注目されている. VARTM 法は RTM 法のコスト低減と作業の容易さを 目的として作られた手法である.RTM 法は雌,雄の 一対になった金型を用いるのに対し,積層された強化 繊維を柔軟性の高いプラスチックフィルムで覆い,真 空状態で樹脂を流入させる2).このため,金型が片面 のみで済み,樹脂加圧装置を必要としないため,大幅 なコスト削減が実現できる.本手法は小型の船舶や風 車ブレードに用いられている.しかし,VARTM 法は 真空と大気圧の圧力差を樹脂含浸の駆動力に用いるた め,加圧時の圧力を増大させることができない.この ため,含浸不良の発生する可能性が高くなる.不十分 な樹脂含浸は成形品の力学的特性に大きく影響する. * 原稿受付 2017年2月4日 ** 金沢工業大学大学院工学研究科 白山市八束穂 *** 金沢工業大学工学部機械系機械工学科 野々市市扇が丘 **** 金沢工業大学ものづくり研究所 白山市八束穂

分子シミュレーションと実験による

繊維/樹脂間のぬれ性評価の検討

川 西 啓 介

**

斉 藤 博 嗣

***

金 原 勲

****

Study of Evaluation Wettability Between Fiber and Resin

by Molecular Simulation and Experiment

by

Keisuke K

AWANISHI

,

(Graduate School of Mechanical Engineering, Kanazawa Institute of Technology, Nonoichi)

Hiroshi S

AITO

(Department of Mechanical Engineering, Kanazawa Institute of Technology, Nonoichi)

and Isao K

IMPARA

(Research Laboratory for Integrated Technological Systems, Kanazawa Institute of Technology, Hakusan) In this study, the interaction between resin and fiber was simulated based on the coarse grained molecular dynamics with a model of resin and fibers with various surface structures. The main target of this simulation is to evaluate the effect of surface structures on the contact angle between resin and fiber. In the result, there was a tendency to be small the contact angle between fiber and resin when a simulated silane coupling treatment was applied on the surface of a fiber model. Therefore coarse-grained molecular simulation shows the same trend as the contact angle measurement test, suggesting that it is possible to evaluate the change in wettability by surface

modification. on the coarse grained molecular dynamics. (Received February 4, 2017)

キー・ワード:分子動力学,粗視化分子シミュレーション,ぬれ性,接触角

Key Words :Molecular Dynamics, Coarse Graining Molecular Simulation, Wettability, Contact Angle

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― 68 ― 材料システム 第35巻 そこで,含浸トラブルを抑制するために,事前に流動 シミュレーションをおこない,樹脂流動過程の設計が 必要となる.その際に重要となるパラメータの一つに 浸透性がある. 浸透性は,繊維に対する樹脂のしみこみやすさを表 す.浸透性は Darcy の法則に従い,実験的に測定され る材料固有の値である.浸透性は式(1)に基づき定 義される3).ここで,空隙率は繊維体積含有率より式 (2)を用いて算出される.Darcy の法則で求められ る浸透性は,流体の粘度や圧力勾配,繊維体積含有率 などをパラメータとして導かれる.定量的に求めた浸 透性を用いて,成形時の繊維に対する樹脂の含浸過程 を数値シミュレーションにより予測することが可能と なる.しかし,Darcy の法則は本来,土木工学で用い られる動水勾配と土砂を透過する流体の関係を実験的 に表したものである.複合材料分野での浸透性も同じ く,Darcy の法則に基づき評価されるが,繊維基材の 織り形態や繊維/樹脂間の界面特性(ぬれ性)は,材 料パラメータとして考慮されていない.そのため,わ ずかな織り形態やぬれ性の相違により,浸透性は大き く異なる値を取る.異なる強化繊維を用いて成形をお こなう場合は,個別に浸透性評価試験をおこなう必要 がある.海外では,2種類の繊維と様々な流体を用い て,合計16の異なる実験条件で浸透性試験をおこない, 測定方法の標準化や結果の互換性を目指す取り組みが おこなわれた4).異なるぬれ性の繊維を用いると成形 結果に違いが起こることから4)ぬれ性は FRP 成形にお ける重要なパラメータであると考えられる.浸透性に ぬれ性をパラメータとして考慮することで成形の設計 が可能になると考えられる. !$##!#("###)" (1) !$!!$' (2) !:浸透性[m2] #:樹脂の粘度[mPa・s] !:空隙率[‐] (:樹脂浸透長さ[mm] #:圧力差[Pa] ):試験時間[s] $':繊維体積含有率[‐] また,先行研究では浸透性とぬれ性の相関性の確認 のため,接触角測定および浸透性試験がおこなわれた. 樹脂に対するぬれ性を表すパラメータとして,付着エ ネルギーはぬれやすさと定性的に同じ傾向を示すこと から,ぬれ性を定量的に評価する上で接触角に基づく 付着エネルギーに着目した.付着エネルギーは Young -Dupre の式を用いて液体の表面張力と液滴の接触角 から算出した.Young-Dupre の式を式(3)に示す5) %&$""%!"#$%$& (3) %&:付着エネルギー[mN/m] "":液体の表面張力[mN/m] $:接触角[rad] その結果,シランカップリング処理により,付着エ ネルギーが大きくなることでぬれ性が向上し,浸透性 が高くなることが示唆された.しかし,評価されてい る接触角や付着エネルギーは静的なものであり,塗布 や洗浄のような,液体と固体の界面が動いている場合 を想定すると,充分なデータとは言えないと考えられ る.そこで,動的な接触角を評価することで,より樹 脂の流動状態に近いぬれ性を評価することができると 考えられる.また,ぬれ性を変化させるために,表面 張力の大きく異なる材料の選択と表面処理が容易な材 料における表面改質,これら2つのアプローチにより, 静的接触角,動的接触角におよぼすぬれ性の影響を評 価できると考えられる. 一方,繊維/樹脂間のぬれは,繊維表面および樹脂 を構成する分子間の相互作用により生じると考えられ る.そのため,ぬれについて分子動力学法を用いた研 究が多くなされてきた.Hongら6)は固体表面上を移動 する水滴と固体表面の動的接触角と平衡状態における 水滴の静的接触角の変化を調査した.その結果,高い 表面エネルギーを与えるほど,接触角が小さくなる傾 向が分子シミュレーションにより示された.Shiら7) レナード・ジョーンズ液体や液体との固体表面との接 触角を調査した.その結果,高い圧力で接触角が0に 低下することが示され,実験データとほぼ一致するこ とを示している. 上記の研究など分子動力学法は液体や固体,高分子 など分子集合体の構造や動的性質の研究に用いられて いる.そのため,繊維/樹脂間のぬれについて分子動 力学法を用いて,分子レベルの相互作用からマクロレ ベルの接触角およびぬれ性を評価できれば,繊維/樹 脂間の浸透性との相関性を評価できると考えられる. さらに異なる材料系における浸透性を予測することに より,新たな材料の設計をおこなうことも可能になる と考えられる. そこで,本研究では分子動力学法を用いて,繊維/ 樹脂間の相互作用を考慮したミクロレベルの接触角お よびぬれ性の評価をおこなった.まず,繊維と樹脂の 粗視化モデルをそれぞれ作成し,粗視化分子シミュ レーションによる繊維/樹脂間の相互作用を評価した. 次に,粗視化分子シミュレーションの結果を接触角測 定実験と比較し,ぬれ性の変化が静的および動的接触 角におよぼす影響を確認した.これら2つのアプロー チにより,分子モデル上で官能基付与による表面改質 をおこない,ぬれ性変化を分子シミュレーションに よって評価できることを検証した.

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― 69 ― 平成29年3月

2 粗視化分子シミュレーション 2・1 使用するソフトウェア

分子シミュレーションソフトウェアには株式会社 JSOL 製の J-OCTA2.1を使用した.J-OCTA は,ゴム ・プラスチック・薄膜・塗料・電解質など多岐に渡る 材料開発に際し,原子スケールからマイクロメートル スケールまでの材料特性をコンピュータ上で予測する 「材料物性解析ソフトウェア」である.画面上に化学 式を描くことにより,全原子モデルの力場パラメータ を設定し,3次元分子構造を作成することができる. 解析エンジンには COGNAC Version9.0を使用した. COGNAC は,原子結合を考慮した詳細な分子モデル から,ビーズスプリングモデルのような粗視化した分 子モデルまでを対象にした汎用の分子動力学シミュ レーションプログラムである. 2・2 分子モデル 解析対象は,分子構造が比較的単純で,分子モデル を構築しやすい材料として,固体をガラスとアルミニ ウム,液体をグリセリンとした.ガラスとアルミニウ ムを選定した理由は,表面張力がおよそ400mN/m8) 800mN/m9)で大きく異なり,共にシランカップリング 処理により効果が得られるとされており10),同条件で の試験,比較が可能と考えたためである.グリセリン を選定した理由は,VARTM 成形で用いられるビニル エステル樹脂(粘度:100∼150mPa・s)と粘度が近い ためである. ガラスはセルの複製機能を用いて,SiO2結晶のデー タを約200Åになるように X,Y の各方向に複製した. 力場パラメータには無機材料向けパラメータである CLAYFF11)を使用した.この力場は,相互作用には Lennard-Jones ポテンシャルが採用されている.Fig.1 にガラスの分子モデルを示す.

Fig.1 Molecular model of glass.

アルミニウムもガラスと同様にセルの複製機能を用 いて,約200Åになるように X,Y の各方向に複製し た.力場パラメータには CLAYFF11)を使用した.Fig.2 にアルミニウムの分子モデルを示す. また,表面改質を模擬したモデル,各材料の表面構 造に J-OCTA2.1の官能基の付加機能を用いて,シラ ンカップリング処理を模擬した分子構造を修飾した. Fig.3に表面処理を施したガラスの分子モデルを示す. 同図(a)のように粗視化グループを設定し,同図(b) のようにガラスにシランカップリング処理を模擬した 分子構造を付加した.アルミニウムの場合も同様とし た. (a) (b)

Fig.3 Model of silane coupling molecules. Fig.4にグリセリンの元素配置図(a)と分子モデ ル(b)を示す.図中(a)に示すように元素を配置し, 最適化をおこなうことで,図中(b)に示す分子モデ ルを作成した.複数の原子をひとつの球として取り扱 うため,粗視化グループを設定し,粗視化グループ毎 に Interaction Site を定義した.また,力場パラメータ には DREIDING12)を使用した.DREIDING は汎用力場 であり,実験データが少ないあるいは全くない場合や, 今までにない元素の組み合わせを持つ場合を含め,比 較的多くの構造に対して妥当な予測が可能である.こ の力場は,有機分子・生体分子・主族の無機分子の構 造予測や動力学計算に用いることができ,相互作用に は Lennard-Jones ポテンシャルが採用されている. (a) (b)

Fig.4 Molecular model of glycerin. 2・3 静的接触角

2・3・1 解析モデル

Fig.5に静的接触角の解析モデルを示す.一辺30Å の立方体セルにグリセリンのモデルを500個配置した.

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― 70 ― 材料システム 第35巻 立方体セルを固体のモデル表面の中央に配置した.境 界条件は X,Y,Z 方向それぞれに周期境界条件を設 定した.解析条件は全ステップ数10000,時間刻み幅 1fs,温度300K,圧力0.1MPa, NVT アンサンブルと した.初期状態から10ps 後のグリセリンと固体表面 で構成された角度を測定した.

Fig.5 Molecular model of glass sheet and glycerin (Static). 2・3・2 解析結果 Fig.6に静的接触角の解析結果,Fig.7に静的な接 触角から求めた付着エネルギーを示す.付着エネル ギーを求める際に,用いたグリセリンの表面張力は 56.0mN/m である.表面改質なしのモデルを0wt%, 表 面 改 質 を 施 し た モ デ ル を1wt%と 表 記 す る. Fig.6,7よりガラスとアルミニウムともに接触角は 界面処理ありのモデルの方が小さくなり,従って,付 着エネルギーは大きくなった.シランカップリング処 理が有機材料と無機材料を結ぶ働きをするため,シラ ンカップリング処理を模擬した官能基を修飾したモデ ルの方がぬれ性が向上し,接触角が小さくなったと考 えられる. 2・4 動的接触角 2・4・1 解析モデル Fig.8に解析モデルを示す.静的接触角のモデルを 7°傾けたモデルを動的接触角の解析モデルとした. 境界条件は静的接触角の解析と同様に X,Y,Z 方向 それぞれに周期境界条件を設定し,グリセリンモデル が境界を越えて流動しない範囲で接触角の評価をおこ なった.解析条件も同様に全ステップ数10000,時間 刻み幅1fs,温度300K,圧力0.1MPa, NVT アンサン ブルと設定した.

Fig.8 Molecular model of glass sheet and glycerin (dynamic).

2・4・2 解析結果

Fig.9に動的接触角の解析結果,Fig.10に動的な接 触角から求めた付着エネルギーを示す.

Fig.9 Dynamic contact angle

(Coarse graining molecular simulation).

Fig.10 Dynamic adhesive energy

(Coarse graining molecular simulation). Fig.6 Static contact angle

(Coarse graining molecular simulation).

Fig.7 Static adhesive energy

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― 71 ― 平成29年3月 Fig.9,10より静的接触角と同様にガラスとアルミ ニウムともに接触角は界面処理ありのモデルの方が小 さくなり,従って,付着エネルギーは大きくなった. シランカップリング処理が有機材料と無機材料を結ぶ 働きをするため,シランカップリング処理を模擬した 官能基を修飾したモデルの方がぬれ性が向上し,接触 角が小さくなったと考えられる.Fig.11に静的接触角 と動的接触角から得られた付着エネルギーの比を示す.

Fig.11 Relationship between static and dynamic adhesion energies (Coarse graining molecular simulation).

Fig.11より静的接触角と動的接触角は界面改質あり のモデルの方が静的・動的共に付着エネルギーが大き くなり,静的・動的共にぬれ性の評価が可能であると 考えられる.界面改質ありのモデルの方が付着エネル ギーが大きくなったことから粗視化分子シミュレー ションで表面分子構造の変化によるぬれ性の変化が確 認できた. 3 実験に基づく接触角測定試験 3・1 試験材料 静的な接触角測定と動的な接触角測定をおこなった. 表面張力の異なる2種類の材料を用いることでぬれ性 を変化させることに加え,表面改質(シランカップリ ング処理)によって,さらにぬれ性を変化させた.評 価材料には,スライドガラス(S1214,松浪硝子工業 株式会社)とアルミニウム板(YH52切板,白銅株式 会社)を用いた. はじめに,ガラス面に表面処理がなされている可能 性を考慮し,スライドガラスを電気マッフル炉(FUW 230PA,株 式 会 社 ア ド バ ン テ ッ ク 東 洋 製 作 所)で 350℃,30min で熱処理し,スライドガラスの製品時 に施されていると考えられる表面処理を除去した.ア ルミニウムはアセトンに浸漬し洗浄した.次に蒸留水 に対してシランカップリング剤(3‐アミノプロピルト リエトキシシラン KBE‐903,信越化学工業株式会社) を用いて,シランカップリング処理を常温下で混練し た.今回,作製した溶液は1重量および5重量である. その後,マグネチックスターラー(HS‐50D,アズワ ン株式会社)を使用して溶液を1[h]攪拌した.回転 数は約300rpm とした.0wt%の試験片をシランカッ プリング溶液に1h 浸漬した後,真空乾燥器(AVO‐ 250NB,アズワン株式会社)を用いて,100℃,30min 乾燥させた.アセトンで洗浄をおこなった試験片を0 wt%,1重量%のシランカップリング溶液で作製した 試験片を1wt%,5重量%のシランカップリング溶液 で作製した試験片を5wt%とした. 滴下する液体には,グリセリン(グリセリン P「ケ ンエー」,健栄製薬株式会社),(25℃において粘度: 100mPa・s)を使用した. 3・2 静的接触角測定 3・2・1 試験方法

接触角計(FTA1000,First Ten Angstroms)を使用 して,グリセリンとスライドガラス,アルミニウムの 接触角を測定した.接触角はステージの上に試験片を 置き,滴下した液体を横からデジタルマイクロスコー プ(VHX‐500,KEYENCE)で,撮影した.1濃度条 件につき,3枚の試験片を使用した.また,接触角の ばらつきを考慮し,1枚につき0wt%は5箇所,1wt %,5wt%は6箇所で接触角を測定した.1滴につき 2箇所の接触角を測定し,それぞれ滴下した箇所数分 の平均をとり,評価した. 3・2・2 試験結果 Fig.12に静的接触角測定の結果,Fig.13に静的な接 触角から求めた付着エネルギーを示す.

Fig.12 Static contact angle (Experiment).

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― 72 ― 材料システム 第35巻 Fig.12,13よりスライドガラス,アルミニウムの静 的接触角はシランカップリング処理濃度が高くなるほ ど小さくなった.シランカップリング処理が有機材料 と無機材料を結ぶ働きをするため,処理濃度が高くな ることで無機物であるガラス,アルミニウムと有機物 であるグリセリンが結合しやすくなり,接触角が小さ くなると考えられる. 4・2 動的接触角測定 4・2・1 試験方法 接触角計は静的な接触角測定と同一のものを使用し た.液滴を滴下し,接触角が90deg.以下になると同 時に0.5deg./s で接触角計のステージを7deg.傾けた. 接触角計のステージが傾き始めてから50秒後の接触角 と付着部分の直径から異なる材料系によるぬれ性の変 化が樹脂の流動におよぼす影響を確認した. 4・2・2 試験結果 Fig.14に動的接触角測定の結果,Fig.15に動的な接 触角から求めた付着エネルギーを示す.

Fig.14 Dynamic contact angle (Experiment).

Fig.15 Dynamic adhesive energy (Experiment). Fig.14,15よりスライドガラス,アルミニウムの静 的接触角はシランカップリング処理濃度が高くなるほ ど小さくなった.シランカップリング処理が有機材料 と無機材料を結ぶ働きをするため,処理濃度が高くな ることで無機物であるガラス,アルミニウムと有機物 であるグリセリンが結びつきやすくなり,接触角が小 さくなると考えられる. 4・3 粗視化分子シミュレーションとの比較 Fig.16に各条件の静的接触角と動的接触角から得ら れた付着エネルギーの比率を示す.

Fig.16 Relationship between static and dynamic adhesion energies. Fig.16よりガラスの場合,粗視化分子シミュレー ションと接触角測定試験共にシランカップリング処理 濃度が高くなるほど,静的・動的共に付着エネルギー が大きくなった. アルミニウムの場合も粗視化分子シミュレーション と接触角測定試験共にシランカップリング処理濃度が 高くなるほど,静的・動的共に付着エネルギーが大き くなった. すべての材料系において,接触角測定実験と同様の 傾向が得られたことから,表面改質によるぬれ性の変 化を粗視化分子シミュレーションで評価することが可 能であると考えられる.また,さらなる検証は必要な ものの,ガラス,アルミニウムと異なる材料系におい て,実験と同様の傾向が得られたことから,本研究と 異なる材料系においても本研究で用いた評価手法は適 用することが可能と考えられる. しかし,粗視化分子シミュレーションと接触角測定 実験の付着エネルギーを比較すると,粗視化分子シ ミュレーションの方が付着エネルギーの値が大きく なった.これは粗視化分子シミュレーションの解析対 象がオングストロームかつフェムト秒オーダーでの現 象であるのに対し,実験はミリメートルかつ秒オー ダーの現象を対象としており,実験の規模や時間が大 きく異なるためと考えられる.この点については,実 験の規模の縮小やシミュレーションの規模を拡大また は長時間の現象を対象とすること,ガラスの結晶構造 を改善することで実験を再現可能なシミュレーション の実現が期待される. 以上の課題を克服した上で,分子シミュレーション によりぬれの評価が可能になれば,新たな課題が予想 されるが,分子構造レベルから繊維/樹脂間の浸透性 の予測が可能になると考えられる.そのため,分子シ ミュレーションだけでなく,これらの結果に基づくよ りマクロスケールの数値シミュレーションを併用しな

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― 73 ― 平成29年3月 がら,浸透シミュレーションをおこない,繊維とのぬ れと浸透性との相関性を評価することが今後の課題で あると考えられる. 5 結 論 本研究では,分子動力学法を用いて,異なる材料系 によるぬれ性の変化と表面処理によるぬれ性の変化を 考慮したミクロレベルの静的および動的接触角の分子 シミュレーションをおこなった.また,接触角測定実 験と比較し,どのような傾向や差が生じるのかを評価 し,ぬれ性の変化が静的および動的接触角におよぼす 影響を確認した.その結果,以下の知見が得られた. ・ガラスの場合,粗視化分子シミュレーションと接 触角測定試験共にシランカップリング処理濃度が 高くなるほど,静的・動的共に付着エネルギーが 大きくなった. ・アルミニウムの場合も粗視化分子シミュレーショ ンと接触角測定試験共にシランカップリング処理 濃度が高くなるほど,静的・動的共に付着エネル ギーが大きくなった. ・粗視化分子シミュレーションは,接触角測定試験 と同じ傾向を示し,表面改質によるぬれ性の変化 を評価することが可能と示唆される. 本研究では,基板表面に官能基を付与したモデルを 作成し,表面改質によるぬれ性の変化を分子シミュ レーションで評価が可能であるか検証することができ た. 一方,接触角測定試験と粗視化分子シミュレーショ ンで実験の規模や時間が大きく異なるため,測定結果 とシミュレーションで違いが生じた.この点について は,実験の規模の縮小やシミュレーションの規模を拡 大または長時間の現象を対象とすることで改善するこ とが期待される. 参 考 文 献 1)一般社団法人強化プラスチック協会,基礎からわ かる FRP−繊維強化プラスチックの基礎から実 用まで−,株式会社コロナ社,(2016), pp.1−2, pp.38−55. 2)常深信彦,複合材料が一番わかる,株式会社技術 評論社,(2013),p.13, p.84, pp.90−109. 3)CD Rudd et al, Liquid moulding technologies,

Woodhead Publishing Limited,(1997), pp.257− 258.

4)R. Arbter et al, Experimental determination of the permeability of textiles : A benchmark exercise, Composites : Part A42,(2011), pp.1157−1168. 5)小石真純他,“ぬれ性”と制御,株式会社技術情

報協会,(2000), pp.109−120.

6)S.D. Hong et al, Static and dynamic contact angles of water droplet on a solid surface using molecular dynamics simulation, Journal of Colloid and Interface Science, 339,(2009), pp.187−195.

7)B.Shi and V.K.Dhir, Molecular dynamics simulation of the contact angle of liquids on solid surfaces, The Journal of Chemical Physics, 130, 034705,(2009). 8)飯田修一他,新版 物理定数表,株式会社朝倉書

店,(1978), p.80.

9)赤松佳則,ガラスへの撥水コーティング,NEW GLASS, Vol.21, No.3,(2006), pp.27−34. 10)小石真純他,“ぬれ性”と制御,株式会社技術情

報協会,(2000), p.26.

11)R.T.Cygan et al, Molecular Models of Hydroxide, Oxyhydroxide, and Clay Phases and the Development of a General Force Field,The Journal of Physical Chemistry B, Vol.108, No.4,(2004), pp.1255− 1266.

12)S.L.Mayo et al, DREIDING : A generic force field for molecular simulations, The Journal of Physical Chemistry, Vol.94, No.26, (1990), pp.8897− 8909.

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参照

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