278 廃 棄 物 学 会 誌,Vol.19, No.6, pp.278-285, 2008
【特
集:バ
イ オマ ス 系廃 棄 物 の総 合 利 用技 術― バイオマス系廃棄物研究部会特集― 】
バ イ オ マ ス 系 廃 棄 物 の バ イ オ リ フ ァ イ ナ リ ー
現 状 と 展 望
高 見 澤
一
裕*
【要 旨】 バ イ オマ ス系 廃 棄 物 の バ イ オ リ フ ァ イナ リー につ い て 解 説 した 。 バ イ オ リ フ ァ イナ リー は バ イ オマ スの カス ケー ド利 用 に よ る付 加 価 値 の 高 い 物 質 の 生 産 や バ イ オマ ス の サ ー マ ル リサ イ クル や マ テ リ ア ル リサ イ ク ル にお け る キー 物 質 の 生 産 につ い て 使 われ る。 基 本 的 な技 術 はバ イ オテ ク ノ ロ ジー と化 学 反 応 であ る。 そ して,バ イ オマ ス 中の セ ル ロ ー スや ヘ ミセ ル ロー スか ら様 々 な反 応 の 出発 物 質 で あ る 糖 の効 率 的 加 水 分 解 抽 出方 法 が キ ー と な る。 そ こで,ヘ ミセ ル ロー ス分 解 酵 素 群 に よ る各 種 植 物 系 廃 棄 物 か らの キ シ ロ ー ス の抽 出例 につ い て紹 介 した 。 す な わ ち,対 象 バ イ オマ スの 化 学 構 造 に基 づ い て,使 用 す る酵 素 の 種 類 と使 用 方 法 を検 討 す る こ とが 大 切 で あ る。 最 後 に,日 本 で の バ イ オ リ フ ァ イ ナ リー の 研 究 例 を述 べ た。 日本 で は,バ イ オマ ス系 廃 棄 物 か ら機 能 性 物 質 の 分 離 精 製 に特 徴 が あ る。 そ して バ イ オ リフ ァイ ナ リー の将 来展 望 を行 っ た。 キ ー ワ ー ド:バ イ オ マ ス 系 廃 棄 物,バ イ オ リ フ ァ イ ナ リ ー,バ イ オ マ ス,セ ル ロ ー ス,ヘ ミセ ル ロ ー ス 1.バ イ オ リ フ ァ イ ナ リ ー と は ア メ リ カ合 衆 国 で は ク リ ン トン政権 の と きに バ イ オ マ ス 有 効 利 用 を政 策 と した 。 そ して,バ イ オ マ ス エ ネ ル ギ ー,バ イ オ フ ユ ー エ ル,バ イ オ プ ロ ダ ク ツ の3Bを 掲 げ た 。 そ の 中 で 初 め て バ イ オ リ フ ァ イナ リー とい う言 葉 を使 用 した 。 これ は,バ イオ マ ス リ フ ァ イナ リー と も呼 ば れ て い るが,バ イオ 技 術 に よる バ イオ マ ス リ フ ァ イナ リー を意 味 して い る。 ブ ッ シ ュ政 権 に な る と,バ イオ マ ス を電 力 お よ びエ ネル ギ ー 資 源 か ら,工 業 資 源 と して 位 置 づ け る よ う に政 策 転 換 した 。 そ して,バ イ オ フ ユー エ ル とバ イ オ リ フ ァ イナ リー に重 点 化 した 。 バ イオ フ ユー エ ル は トウモ ロ コ シ をエ ネル ギ ー 作 物 と して エ タ ノー ル 生 産 す る こ と を 目的 と し,バ イ オ リ フ ァ イ ナ リー は,ト ウ モ ロ コ シ 残 渣 をC5源,C6源 お よ び リ グ ニ ン源 と し て有 効 利 用 す る もの で,当 面 は乳 酸 を生 産 して,乳 酸 か ら ポ リ乳 酸 を主 成 分 とす る生 分 解 性 プ ラ スチ ッ ク ス を生 産 す る こ と に 重 点 を置 い て い る。 さ らに,戦 略12物 質 を策 定 し,バ イ オ マ ス を 原料 と して そ れ らの戦 略 物 質 生 産 に力 を注 ぎ始 め た1)。 未利 用 バ イ オ マ ス や バ イオ マ ス系 廃 棄 物 の 有効 利 用 と して,燃 料利 用,直 接 農 地へ の鋤 きこ み,メ タ ン発 酵 に よる エ ネ ル ギ ー 回収,コ ンポ ス ト,食 品工 場 廃 棄物 の飼 料 化,肥 料化,間 伐材 か らの圧 縮 木材 成 型,の こ くず の ボ ー ド化 な どが 行 わ れ て い る が,原 料 に新 た な価 値 を 見 出 した り,産 物 に新 た な機 能性 を持 たせ る な どの場 合 を 除 い て は,バ イ オ リ フ ァ イナ リー の 範 疇 に 入 らな い と考 え られ る 。 バ イ オ リ フ ァ イナ リー は カス ケ ー ド利 用 に よ る付 加 価 値 の 高 い もの の 生 産 や バ イオ マ ス の サ ー マ ル リ サ イ クル や マ テ リア ル リサ イ クル に お け る キ ー 物 質 の 生 産 につ い て 使 わ れ る。 バ イ オ マ ス ・バ イ オマ ス 系 廃 棄 物 か らの エ タ ノ ー ル, 乳 酸,メ タ ン,ア セ トン ・ブ タ ノー ル の 生 産 もバ イオ リ フ ァ イ ナ リー の 範 疇 に 入 れ る こ とが で き る。 こ れ らは, この 特 集 号 で 詳 し く取 り上 げ られ て い るの で,こ こで は 触 れ ず,バ イ オ リ フ ァ イナ リー の 全 般 に関 す る基 本 的 考 え方 とバ イ オマ スか らの 物 質 生 産 の 基 本 で あ るバ イ オマ スの 加 水 分 解 に よ る糖 の 取 得 方 法 につ い て 紹 介 す る。 原 稿 受 付2008.10.4 *岐 阜 大 学 応 用 生 物 科 学 部 連 絡 先:〒501-1193岐 阜 市 柳 戸1-1 E-mail:[email protected]279 バ イオ マ ス 系 廃 棄物 の バ イオ リ フ ァ イナ リー
2.基 本 的 な考 え方
バ イオ マ ス は 大 き く分 け る と動 物 系 と植 物 系 に 分 か れ る 。生 産量 の 多 い,そ して,未 利 用量 や廃 棄 量 の 多 い植 物 系 がバ イオ リフ ァイ ナ リー の主 た る対 象 とな る。 した が っ て,農 業 で生 産 す る植 物 が 第一 次の リフ ァ イ ナ リー の対 象 で あ り,こ れ を変 換 して工 業 用 用 途 に用 い る こ と に な る。 この 際 リ グ ニ ン,炭 水 化 物 脂 質,タ ンパ ク 質,そ の他 の 特 別 な物 質 に分 けて 工 業 用 原 料 とす る こ と が 考 えや す い 。 また,こ れ らの 複 合 物 質 や 無 機 成 分 は別 途 の もの と考 え,エ ネ ルギ ー 利 用 の 場 合 も一 体 と して 考 え て い る 。 そ の 他 の特 別 な物 質 と して は,色 素,染 料, ア ロマ エ ッセ ン ス,香 料,酵 素 ホ ル モ ンや 機 能 性 物 質 で あ る。 これ らの 概 念 を図1に 示 す23)。 続 い て 図2に 示 す2.3)よう に,こ れ ら の 前 駆 物 質 を 含 む バ イオ マ ス と して 木 材,ソ フ トウ ッ ド,穀 物,ト ウモ ロ コ シ,ビ ー ト,サ トウキ ビ,大 豆,ナ タ ネ,ア ル フ ァ ル フ ァ,牧 草,ク ロ ー バ が 代 表 例 で,そ れ らの 茎,バ ガ ス,葉 が エ ネ ル ギ ー 源 と して の 前駆 物 質 で あ る 。 こ れ ら, の植 物 の リグ ニ ンは 合成 ガ ス を経 て メ タ ノ ー ル や ガ ソ リ ンの 原料 物 質 とな る。 炭水 化 物 は セ ル ロ ー ス,ヘ ミセ ル ロ ー ス,で ん ぷ ん,シ ョ糖 か ら構 成 され る が ヘ ミセ ル ロ ー ス以 外 は ブ ドウ糖 源 で,ブ ドウ糖 か らは酢 酸 エ タ ノー ル,エ テ ン,乳 酸 乳 酸 エ チ ル,ア ク リ ル酸 や そ の ポ リマ ー な どが 微 生 物 学 的 あ る い は化 学 的 に生 産 で き る。 脂 質 か ら は油 が,タ ンパ ク 質か ら は ア ミノ酸 や 酵 素 そ の もの が生 産 され る 。 これ ら前 駆 物 質 の構 成 成 分 と して は6単 糖 で あ る ブ ド ウ糖 と5単 糖 で あ る キ シ ロ ー ス な どの糖 の存 在 量 が 圧 倒 的 に大 きい。 単 糖 を変 換 して 各種 物 質 を生 産 す る こ と は バ イオ テ ク ノ ロ ジ ー の も っ と も得 意 とす る技 術 で あ る。 そ の例 を 図3に 示 す4)。 微 生 物 反 応 に よ る単 糖 か らの 他 物 質 へ の 変 換 は好 気 反 応 と嫌 気 反 応 に分 か れ る。 好 気 反 応 で は,6単 糖 の ブ ドウ糖 か ら炭 素 数3の 物 質 で あ る プ ロパ ン ジ オー ル や 炭 素 数4の リ ン ゴ酸 あ るい は 炭 素 数 6の ソ ル ビ ン酸 な どに 変 換 で き る。 も っ と もこ の好 気 性 微 生 物 に よる ブ ドウ糖 か ら各 種 物 質 生 産 は,従 来 の 発 酵 工 業 そ の もの で あ り,原 料 物 質 の ブ ドウ糖 源 を シ ョ糖 や で ん ぷ ん 加 水 分 解 物 質 か ら変 更 す る こ とで あ る 。 嫌 気 発 図1バ イ オ リ フ ァ イ ナ リ ー の 巨 視 的 概 念2,3) 図2炭 水 化 物 に着 目 した前 駆 物 質 含 有 バ イ オマ スか らの バ イ オ リ フ ァ イナ リー2,3)280 高 見澤 一 裕 酵 で は,エ タ ノー ル,酢 酸 ア セ トン ・ブ タノ ー ル,乳 酸 イ タ コ ン酸 ク エ ン酸 な ど図3中,灰 色 で網 掛 け し て い る物 質 が まず 生 産 され,そ の 後,た とえ ば エ チ レ ン, プ ロ ピ レ ンな どの 化学 工 業 原 料 や ポ リマ ー な どを合 成 す る こ とが で きる 。 この 意 味 か ら,一 次 工業 原 料 をバ イ オ テ ク ノ ロ ジー で 生 産 し,そ の 後 現 有 の 石 油 化 学 プ ラ ン トを活 用 して 化 学 合 成 に よっ て 各種 最 終 産 物 を 生 産 す る ス キ ー ム を 描 く こ と が で き る 。 こ れ ら を ま と め る と 図45)と な る 。 最 終 的 な 工 業 製 品, 繊 維 製 品,健 康 食 品 な ど 民 生 用 の 物 質 の 前 駆 物 質 で あ る 炭 水 化 物(で ん ぷ ん,セ ル ロ ー ス,ヘ ミ セ ル ロ ー ス), リ グ ニ ン,脂 質,タ ン パ ク 質 を 含 む バ イ オ マ ス か ら,原 材 料 と し て 合 成 ガ ス,糖 リ グ ニ ン,脂 質 と オ イ ル,タ ン パ ク 質 が 大 き な プ ラ ッ ト フ ォ ー ム と な り 各 種 物 質 を 生 図3糖 を 出発 物 質 と した バ イ オ テ ク ノロ ジ ー に よ る生 産物4) 図4微 生 物 反 応 を 基 本 と し た バ イ オ マ ス フ ィ ー ドス ト ッ ク5)
281 バ イ オマ ス 系 廃 棄 物 の バ イオ リ フ ァ イナ リー 産 す る。 そ の プ ラ ッ トフ ォー ム の 中 で も糖 の 占め る位 置 が 非 常 に大 きい 。 そ して バ イ オテ ク ノ ロ ジー に よ って 炭 素 数1か ら炭 素 数6の 各 種 原 材 料 物 質 が 作 られ,次 い で 2次 化 学 物 資 が 生 産 され る。 そ の 後,中 間体 が 合 成 され, 最 終 製 品 とな って 市 場 に出 回 る こ とに な る 。 この ス キ ー ム が バ イオ マ ス か らの バ イ オ リ フ ァ イナ リー に よる 最 終 製 品 の 生 産 で あ る 。
3.バ イ オ マ ス系 廃 棄 物 の 糖 組 成
各 種 植 物 の 殻 や 皮 な ど15種 類 と 食 品 工 業 廃 棄 物 (ジ ュ ー ス,清 涼 飲 料 水 の 製 造 残 渣)5種 類 の 化 学 分 析 を行 っ た 。 方 法 は,木 材 分析 方 法 を参 考 に した 。 選 ん だ 植 物 はFAO年 間統 計 を参 考 に して 世 界的 に見 て そ の 生 産 量 が 多 く,し か も,廃 棄 率 が 高 い と考 え られ る モ ノ で あ る 。 な お,ト ウモ ロ コシ の穂 軸 や バ ガ ス も大量 に生 産 され て い る が,ア ル コー ル発 酵 や乳 酸 発酵 の 原 料 と して あ る い は エ ネ ル ギ ー 源 と して 有 効 利 用 され て い る の で 除 外 した 。結 果 を表16)に 示 す 。 まず,セ ル ロ ー ス に 注 目す る と,ほ とん どの試 料 は セ ル ロ ー ス を40-50%含 む こ とが わ か る。 次 に ヘ ミセ ル ロ ー ス に注 目す る 。 クル ミ,ピ ス タチ オ ,ヒ マ ワ リの種 の 各 々の 殻 に は18%以 上 の キ シ ロ ー ス が 含 ま れ て い る こ とが わ か る。 特 に ピス タチ オ の 殻 に は36%も 含 ま れ て い た 。 ブ ナ の鋸 屑,雑 草,ム ギ の もみ殻 タ ケ や ス ギ の鋸 屑,ク リの 皮 に も10%以 上 の キ シ ロー ス が 含 ま れ, ギ ンナ ン,ピ ー ナ ッ ツ の殻 と イ ナ ワ ラに も約8%以 上 が 含 まれ て い る こ とが わ か っ た 。 また,麦 茶 の 絞 りか す に は キ シ ロー ス は あ ま り含 まれ て い な い が,グ ル コー ス が 20%含 ま れ て い た 。 こ れ ら の 結 果 は 非 常 に 興 味 深 い 。 た とえ ば,麦 茶 の 絞 りか す と ピス タチ オ の殻 の 両者 を合 わ せ る と高 濃 度 の 糖 原 料 素材 とな る 可 能性 を示 して い る 。 これ らか らの 単糖 の抽 出 方 法 が 課題 とな る が こ れ に 関 し て は 後 述 す る 。 表1か ら砂 糖 の 吸収 阻 害作 用 が あ る た め 肥 満 防 止 の た め の 機 能性 物 質 と して注 目 され て い る ア ラ ビ ノー スが,ス ギ の 鋸 屑 や ク リの 皮 に6%含 ま れ て い る こ と もわ か っ た 。 日本 に は 食 品分 析 表 とい う世 界 に冠 た る 食 品 成分 の分 析 表 が あ り,し か も毎 年 更新 され 充実 して い る。 こ の表 を 利 用 した 様 々な 食 品 の 開 発 や 医薬 品 の 開発 が 日常 的 に 行 わ れ て い る 。非 可 食 部,す な わ ち バ イオ マ ス のバ イ オ リ フ ァ イ ナ リー の 対 象 と な る 植 物 非 可 食 部 分 の デ ー タ ベ ー ス もバ イオ リフ ァイ ナ リー 産業 の 隆盛 の た め に必 要 で あ る 。4.酵 素 加 水 分 解 に よ る植 物 系 廃 棄 物 か らの キ
シロ ー ス の抽 出
こ こ で は,筆 者 らの研 究 例 につ い て紹 介 す る。 植 物 の ヘ ミセ ル ロ ー ス の代 表 で あ る キ シ ラ ンは次 の よ う な構 造 式 で模 式 化 で きる。 あ わせ て,そ の分 解 に 関与 す る酵 素 も図5に 示 す 。 キ シ ラ ンは,キ シ ロ ー ス か らな る主 鎖 に ア ラ ビ ノ ー ス や グ ル ク ロ ン酸 が 側 鎖 と して結 合 して い る。 キ シ ロ ー ス 表1植 物 系 廃 棄 物 の 化 学 分 析 に よる 糖 組 成6)282 高 見 澤 一 裕 図5ヘ ミセ ル ロー ス(キ シ ラ ン)と そ の 分 解 物 キ シ ロ ビオ ー ス の 化 学 構 造 お よ び加 水 分 解 に 関 与 す る酵 素 とそ の攻 撃 サ イ ト を 得 る に は,主 鎖 を 切 断 す る エ ン ド-β-1.4-キ シ ラ ナ ー ゼ,キ シ ラ ナ ー ゼ に よ っ て 生 成 す る キ シ ロ ビ オ ー ス を 加 水 分 解 す る β-D-キ シ ロ シ ダ ー ゼ と 側 鎖 を 切 断 す るa-レ ア ラ ビ ノ フ ラ ノ シ ダ ー ゼ が 必 要 と な る 。 さ ら に,キ シ ラ ン と入 り組 ん だ セ ル ロ ー ス も分 解 す る 必 要 も あ る 。 キ シ ラ ナ ー ゼ の 高 生 産 菌Penicillium sp. AHT-1お よ び キ シ ロ シ ダ ー ゼ と ア ラ ビ ノ フ ラ ノ シ ダ ー ゼ の 高 生 産 菌 Rhizomucor pusillus HHT-1を 新 た に 見 い だ し た 。 こ れ ら の 微 生 物 の 酵 素 活 性 を 表2に 示 す7)。 こ れ ら の 酵 素 お よ び 場 合 に よ っ て は 市 販 の セ ル ラ ー ゼ を 使 っ て,各 種 の 植 物 系 廃 棄 物 の 加 水 分 解 を 行 っ た 。 図5に あ る ヘ ミ セ ル ロ ー ス の 構 造 式 か ら,ヘ ミ セ ル ロ ー ス の 酵 素 加 水 分 解 に は3種 類 の 酵 素 が 必 要 で あ る こ と が わ か る 。 こ れ ら を 同 時 に 加 え る べ き か そ れ と も順 番 に 加 え る べ き か を 考 え な く て は な ら な い 。 まず,標 準 品 で あ る オ オ ム ギ キ シ ラ ン を 用 い て,酵 素 を 作 用 さ せ る 順 番 を 検 討 し た 。 結 果 を 図6に 示 す8)。 一 連 の 酵 素 反 応 条 件 は,キ シ ラ ナ ー ゼ28U/mL,キ シ ロ シ ダ ー ゼ0.2U/mL,ア ラ ビ ノ フ ラ ノ シ ダ ー ゼ19U/mL, 反 応 温 度40℃,反 応 時 間72時 間 で あ る 。 ス テ ッ プ1は ま ず キ シ ラ ナ ー ゼ を 作 用 させ た 結 果 で あ る 。HPLCの ピ ー ク か ら わ か る よ う に キ シ ロ ビ オ ー ス, キ シ ロ ト リ オ ー ス は じ め と す る キ リ ロ オ リ ゴ糖 の ピ ー ク が た く さ ん 見 ら れ る 。Penicillium sp. AHT-1の 生 産 す る キ シ ラ ナ ー ゼ は エ ン ド型 反 応 を 行 う こ と が わ か る 。 次 図6オ オ ム ギ キ シ ラ ンの 各 種 ヘ ミセ ル ロ ー ス 分 解 酵 素 に よ る加 水 分 解8) に ス テ ッ プ2で キ シ ロ シ ダ ー ゼ と ア ラ ビ ノ フ ラ ノ シ ダ ー ゼ を 作 用 さ せ る と,や っ と キ シ ロ ー ス の ピ ー ク が 生 じ た が,ア ラ ビ ノ ー ス の 生 成 は 見 られ な か っ た 。 一 方,最 初 に ア ラ ビ ノ フ ラ ノ シ ダ ー ゼ を 作 用 さ せ る と(ス テ ッ プ 3),ま ず オ オ ム ギ キ シ ラ ン の 加 水 分 解 産 物 で あ る ア ラ ビ ノ ー ス が 生 じ,続 い て キ シ ラ ナ ー ゼ を 作 用 さ せ る と,キ シ ロ ビ オ ー ス,キ シ ロ ト リ オ ー ス を は じ め と す る キ リ ロ オ リ ゴ 糖 が 生 じ る 。 そ の 後,キ シ ロ シ ダ ー ゼ を 加 え る と, キ シ ロ ー ス が 出 て く る 。 こ の キ シ ロ ー ス の ピ ー ク 高 さ を ス テ ッ プ2の 場 合 と 比 較 す る と,明 らか に ス テ ッ プ5の 方 が 高 い 。 す な わ ち,側 鎖 で あ る ア ラ ビ ノ フ ラ ノ シ ダ ー ゼ を 切 断 す る 酵 素 を 先 に 作 用 さ せ る とお そ ら く は 主 鎖 が よ り キ シ ラ ナ ー ゼ の 作 用 を 受 け や す く な り,キ シ ラ ン の 加 水 分 解 効 率 が 高 く な っ て,よ り多 くの キ シ ロ ー ス が 得 ら れ る こ と に な る 。 次 に ブ ナ を 試 料 と し て,確 認 実 験 を 行 っ た 。 粒 径 を 90mm以 下 に し て 行 っ た 。 結 果 を 図7に 示 す 。 一 連 の 酵 素 反 応 条 件 は,キ シ ラ ナ ー ゼ3,000U/g,キ シ ロ シ ダ ー ゼ32U/g,ア ラ ビ ノ フ ラ ノ シ ダ ー ゼ84U/g,反 応 温 度40℃,反 応 時 間72時 間 で あ る 。 図7のCに 示 す よ う に,ス テ ッ プ1'で ア ラ ビ ノ フ ラ ノ シ ダ ー ゼ,ス テ ッ プ2'で キ シ ラ ナ ー ゼ,そ し て ス テ ッ プ3'で キ シ ロ シ
283 バ イ オマ ス系 廃 棄 物 の バ イ オ リ フ ァイ ナ リ ー (A)逐 次反応 ホロセル ロース 分解酵素群 (B)同 時反応 ホ ロセル ロース 分解酵素群 (C)逐次反応 ヘ ミセル ロース 分解 酵素群 Step1:セ ル ラ ー ゼ に よ る 分 解
Step2 & Step1': α-L-ア ラ ビ ノ フ ラ ノ シ ダ ー ゼ に よ る 分 解 Step3 & step2':キ シ ラ ナ ー ゼ に よ る 分 解
Step4 & Step3: β-D-キ シ ロ シ ダ ー ゼ に よ る 分 解X1
:D-キ シ ロ ー ス,X2:キ シ ロ ビオ ー ス,X3:キ シ ロ ト リ オ ー ス C1:D-グ ル コ ー ス.Ara:レ ア ラ ビ ノ ー ス
図7ブ
ナの各種酵素 に よる加水分解
ダー ゼ を作 用 させ て も顕著 な キ シ ロ ー ス の ピー ク は生 じ な か っ た 。 そ こ で,セ ル ロ ー ス とヘ ミセ ル ロ ー ス の構 造 が 複 雑 に絡 み合 っ て い る もの と考 え,セ ル ラ ー ゼ を作 用 さ せ て きた 。 図7のAに 示 す よ うに,最 初 に セ ル ラ ー ゼ を 作 用 させ る と,グ ル コ ー ス の 大 き な ピ ー クが 生 じ, そ の他 の糖 類 は検 出 さ れ て い な い。 次 に ア ラ ビ ノ フ ラ ノ シ ダ ー ゼ,キ シ ラ ナ ー ゼ,キ シ ロ シ ダ ーゼ と順 番 に作 用 さ せ て ゆ く と新 た な酵 素 を加 え る た び に キ シ ロ ー ス の ピ ー クが 高 くな っ て き た。 比 較 と して,こ れ ら4種 類 の 酵 素 を同 時 に 添 加 した 結 果 を図7のBに 示 す 。 同 時 添 加 よ り も酵 素 の 逐 次 添 加 の 方 が 遙 か に高 い キ シ ロ ース が 得 ら れ た。 したが っ て,酵 素 添 加 の 順 序 が キ シ ロ ー ス抽 出 に大 切 で あ る こ とが わか る。 さ ら に,セ ル ラー ゼ の 重 要 性 も わか った 。 と こ ろで,植 物 系 廃 棄 物 か ら キ シ ロー ス を酵 素 加 水 分 解 に よ っ て 抽 出す る に は や は り簡 便 に で き る だ け 少 な い 種 類 の 酵 素 と手 間 が か か ら な い 加 水 分 解 の 方 法 が 望 まれ る。 そ こで,セ ル ラー ゼ は 添 加 せ ず,ヘ ミセ ル ロー ス 分 解 酵 素 群(キ シ ラナ ー ゼ,キ シ ロ シ ダー ゼ と ア ラ ビ ノ フ ラ ノ シ ダ ー ゼ)で の 各 種 植 物 系 廃 棄 物 か らの キ シ ロ ー ス の 加 水 分 解 を検 討 し た。 ブ ナ ,ス ギ,雑 草,タ ケ の 各 々 の90μm以 下 の 粉 砕 物 の 酵 素 分 解 時 間 経 過 を 図8に 示 す 。 キ シ ロー ス は 反 応 時 間 の 経 過 と と もに 増 加 し,雑 草 で は40時 間 経 過 後 一 定 と な っ た 。 そ の 量 は 図8ヘ ミセ ル ロ ー ス 分 解 酵 素 群 に よ る ブ ナ,ス ギ,雑 草,タ ケ の 加 水 分 解 11.5gで あ る 。 そ の 他,ブ ナ,ス ギ,タ ケ と もに72時 間 の 反応 で キ シ ロ ー ス生 成量 は一 定 とな っ た。 各 々 の量 は12.1,10.3,9.1gで あ る 。 これ らの 値 と表1に 示 す 化 学 分 析 に よ る糖 組 成 分 析 結 果 を比 較 しキ シ ロ ー ス の 回収 量 を 求 め る と,収 率 は雑 草82%,ブ ナ72%,ス ギ93%, タケ70%と な っ た 。 これ ま で に 著 者 らが 行 っ た 各 種 植 物 系 廃 棄 物 か らの酵 素 加 水 分 解 に よ る キ シ ロ ー ス収 率 を 表3に 示 す。 ピス タチ オ の殻 ピ ー ナ ッツ の殻,ク リの 皮 か らは100%の 収 率 で キ シ ロ ー ス を得 て い る。 これ ら の 酵 素 群 に よ る収 率 と植 物 の 分 類 学 的 相 違 は見 い だせ て い な い。 さ ら に,形 状 の差 で も相 違 は見 い だせ な く,化 学 構 造 の 違 い が キ シ ロ ー スの 加 水 分 解 収 率 に影 響 を及 ぼ して い る の と考 え られ る。 なお,加 水 分 解 す れ ばヘ ミセ ル ロー ス 酵 素 群 だ けで も キ シ ロー ス と グ ル コー ス,ア ラ ビ ノー ス は生 じる。 酵 素 加 水 分 解 に よ る 糖 濃 度 は 数10%で あ る が,こ れ らの 混 表3各 種 植 物 系 廃 棄物 か らの 同 時 反 応 ヘ ミセ ル ロー ス 酵 素 群 に よ るキ シ ロー ス 抽 出 率284 高 見 澤 一・ 裕 合 糖 液 か ら の 個 々の 糖 の 精 製 と い う難 しい 課 題 が 横 た わ っ て い る 。 5.日 本 で の バ イ オ リ フ ァ イ ナ リ ー の 研 究 例 表4に これ まで 廃 棄 され て きた 食 品工 場 残 渣 や 農 産 廃 棄 物 に新 た な価 値 を認 め た例 を 示 す9)。天 然 物 化 学 的 手 法 に よっ て バ イオ マ ス 系 廃 棄 物 か ら新 た な 機 能性 物 質 を 見 い だ した 例 と,バ イオ マ ス 系 廃 棄 物 を微 生物 用 の培 地 と して 利 用 し,そ れ か ら新 た な機 能性 物 質 を発 酵 生 産 す る例 に 大 別 され る。 前 者 で は,ト マ ト果 皮 に 含 まれ る ポ リ フ ェ ノー ル の 一 種 で あ るナ リ ンゲ ニ ンカ ル コ ンの 栄 養 補 助 食 品 と して の 利 用 が あ げ られ る 。 多 くの バ イ オ マ ス 系 廃 棄 物 は も と も と食 品 が 多 い た め,そ の 中 に 含 まれ て い る物 質 を 日常 節 食 して も問 題 は な い 。 未 利 用 食 品 中 の 生 理 活 性 物 質 の 探 索 とい う側 面 もあ り,バ イ オマ ス の カ ス ケ ー ド利 用,Mottainai精 神 の 発 揮 と して ます ま す 盛 ん に な る と考 え られ る。 後 者 の 例 と して は,コ ー ン コブ か らの キ シ ロ オ リ ゴ糖 ア ラ ビ ノー ス 生 産,乳 酸 生 産 や 廃 白土 か らの リ ボ フ ラ ビ ン生 産 が あ げ られ る。 い ず れ も 実 用 化 し,市 場 に 出回 って い る。
6.将
来
展
望
IPCC4次 評 価 報 告 書 で 地 球 温 暖 化 は 間違 い な く人 為 的原 因 で生 じて い る こ と を 人類 は理 解 した。 そ して,地 球 温 暖 化 改 善 の た め に,洞 爺 湖 サ ミッ トで50%削 減 を 約 束 した が,こ れ を遂 行 す る に は カ ー ボ ンニ ュ ー トラ ル で あ るバ イ オ マ ス の有 効 利 用 が不 可 欠 で あ る。 バ イ オマ ス を 利 用 した新 規 産 業 の 成 立 な しで は21世 紀 は 成 り立 た な い。 した が っ て,バ イ オ リフ ァイ ナ リー技 術 は こ れ か ら各 方 面 で飛 躍 的 に 開 発 され,盛 ん とな る こ とが 予 測 され る 。 参 考 文 献 1) 新 エ ネ ル ギ ー 産 業 技 術 総 合 開 発 機 構:平 成16年 度調 査 報 告 書 「バ イオ リ フ ァ イナ リー の 研 究 ・技 術 動 向 調 査 」 (2005)2) B. Kamm and M. Kamm: Principles of Biorefineries.
表4日 本 に お け るバ イ オ マ ス リフ ァイ ナ リー の例9)
Appl. Microbiol. Biotechnol., Vol. 62, pp. 474-477 (2003) 3) B. Kamm and M. Kamm: Biorefinery-Systems. Chem.
Biochem. Eng. Q., Vol. 18, p. 1-6 (2004)
4) B. Kamm, P. R. Gruber and M. Kamm: Biorefineries-Industrial Processes and Products; 21, Wiley-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA, (2006)
5) T. Werpy and G. Petersen (eds.): Top Value Added Chemicals from Biomass (ed) U. S. Department of Energy, Office of Scientific and Technical Information,
No. DOE/GO-102004-1992 (2004) http://www.osti.gov/bridge 6) 趙 昶 浩,発 正 浩,高 見 澤 一 裕:植 物 系 廃 棄 物 の 有 効 利 用 の た め の 糖 質 成 分 の デ ー タ ベ ー ス 作 成 とD-キ シ ロ ー ス抽 出方 法.廃 棄 物 学 会 論 文 誌,第12巻,第6号, pp.266-274 (2001)
7) C. H. Cho, M. Hatsu and K. Takamizawa: The Production of D-xylose by Enzymatic Hydrolysis from Agricultural Wastes. Pcoc. of 5th Internat. Symp. on Waste Management Problems in Agro-Industries-Agro 2001-, pp. 235-242. Shiga-Japan. pp. 16-18 November (2001)
8) A. K. M. S. Rahman, N. Sugitani, M. Hatsu and K. Takamizawa: A Role of Xylanase, ƒ¿-L-arabinofuranosi-dase, and Xylosidase in Xylan Degradation. Can. J. Microbiol. Vol.49, pp. 58-64 (2003)
9) 日本生 物 工学 会:第55回 日本 生 物 工 学 会 大 会 講 演 要 旨 集,pp.17-19 (2003)
285
バ イオ マ ス 系 廃 棄 物 の バ イ オ リ フ ァイ ナ リー
Biorefineries
The Current
Situation
and Future
Prospects
Kazuhiro Takamizawa
Gifu University
(1-1 Yanagito, Gifu 501-1193 Japan)
Abstract