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パワースポットを活用した観光地域づくりの研究 青森県の取り組みを中心に

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関東都市学会年報第18号 2017年3月

パワースポットを活用した観光地域づくりの研究

一青森県の取り組みを中心、に-*

Study on “Power Spots’’ for Community DeveIopment and Tourism A Case Study of AomoriPrefecture

-内 川

久美子**

UCHIKAWA Kumiko

1はじめに

日本では2005年から人口減少が始まり、 2008年から本格的な人口減少社会の局面に突入した。このままの状態では 2050年には総人口1億人を切ると推測されている。増田(2014)は地方から大都市への若者の流入が人口減少に拍車を かけているとし、人口移動の推計から2010年から2040年までの問に20歳から39歳の女性人口が減少する896の 市区町村を消滅可能性都市とした。また消滅可能性都市が8割を占める都道府県は青森県、岩手県、秋田県、山形県、 島根県の5県と述べており、地方に若者を呼び込む、魅力あるまちにすることや地方経済の基盤づくりには観光分野にポテ ンシャルが高いとしている。 このような状況の中、 2008年、観光立国の推進体制強化のため、わが国初の観光庁が設立された。観光庁では従来の 物見遊山的観光旅行に対し、これまで地域でも観光資源として気づいていなかった資源を活用した体験型や交流型の旅行 形態をニューツーリズムと位置づげ、振興に力を注いでいる。これらの取り組みでは従来の発地型観光に対し、住民参加の 着地型観光が求められ、地方公共団体や地域の住民が一体となった地域活性化が目指されており、国際競争力があり魅 力ある観光地域づくりl)、その創出に向けたブランドの確立が促進されている。 そうしたニューツーリズムの一つとして、近年、新聞やテレビインターネットで話題になっている「パワースポット」巡りがある。 この現象は2010年頃からメディアを中心にして全国的に有名な社寺や特定の石、樹木といった自然景観の紹介から広がっ ていき、女性や若い人が訪れて、写真を撮りSNSで紹介するなど、地域ににぎわいを創出している。ブームになるにつけ、 「パワースポット」においても地元の人しか知らない場所で、長く伝承されてきた、ご利益が得られるとされるような特別な場所 に対する情報が求められるようになってきた。他方、社寺に観光客が集まる機会は初詣などもあるが、正月三が日に大勢の 人が集中する初詣と異なり、パワースポットは通年にぎわいを見せるという大きな特徴(内川,2016)がある。 このような「パワースポット」が大都市から地方に人の移動をさせたい、観光客を増やしたい地方公共団体にとっては魅力 的な素材であり、それらをどのように活用しているのか、という点は地方創生を考えるうえで興味深い視点といえる。たとえば、 和歌山県が策定した観光振興実施行動計画(観光振興アクションプログラム)では2013年から2015年の3年にわたり、 * 本稿の主題は関東都市学会例会(2016年3月12日)で報告した * * 法政大学大学院政策創造研究科博士後期課程

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ー59-観光振興のゴールデンイヤーと位置づけ、世界遺産「高野山・熊野」を軸に和歌山県を売り出すことで若い女性層はじめ 様々なターゲットに対して、より強力にこのゴ)アの魅力を伝えようと、ブランドカの発信とともに「聖地」 「パワースポット」 「旅の始ま り」のキーワードを組み合わせた情報発信を行うとしている2)。しかし、県と連携している和歌 山県観光連盟が多数作成している観光パンフレットの中に一部、パワースポット情報が入っ ているものの県単独で場所の指定やパンフレットの作成は行っていない。 これに対して、県が単独でパワースポットに関する冊子を作成している自治体に青森県 がある。同県では、県外からの訪問者増加を目指し、そのためにはまず県のよさを知って もらおうと2013年にPR冊子『美知の国あおもりパワースポットとミスデ)-ゾーン』 (写 真1)を作成した。このように、 「パワースポット」は社会現象化し地方公共団体による利用も 始まっているものの、後述するようにこれまで主だった学術研究がなく、定義も曖昧なまま である(小寺, 2011)。そこで本稿では、まず「パワースポット」の定義を確認したうえで、 地方公共団体によるその活用の実態と課題を明らかにしたい。 2

パワースポソトの定義

写真1 『英知の国あおもり』表紙 パワースポットに関する学術研究では、まず樫尾(2011)が和製英語だと見なして踏み込んだ分析を行わず、岡本 (2015)もそれを引き継いだうえで、宗教の「私事化」現象と関連づけて、その乱立を読み解いている。しかし海外では米国 のアリゾナ州、セドナ観光局j)が早くからネイティブアメリカンが神聖視してきたスピ)チュアルな癒しの場所を``power

spot’’と呼び、セドナを“power spot" ∵VOrteX’’として紹介する本も出版されている(D云nne11ey,1989)。山中

(2014)によればセドナには1970年代以降、世界有数のパワースポットとして年間400万もの人が訪れていると言う。この ように少なくとも米国では「パワースポット」は実態としても概念としても存在していると言えよう。 そこで本稿では、 「パワースポット」を和製英語として閑却せず議論を進めていくために、新聞記事を対象にした分析を行う ことで「パワースポット」に対する現代人の認識を捉えていく。また、近世には「流行神」信仰が存在4)し、特に江戸ではそうし た社寺がある種の「名所(観光地)」とされ、 「パワースポット」的な評価が市民の間でなされていた。こうした「名所化」の系譜 をひいているのが日本的パワースポットであり、そうした日本的な認識・意識も踏まえて、一定の定義づけを行うことにしたい。 3

新聞記事から見るパワースポソトの社会現象化

パワースポットは新聞やテレビをはじめとするメディアから広がっていったが、ここでは現代日本において「パワースポット」の 用語がどのように使われているかを、新聞に掲載されたパワースポットの記事を通して、特徴的な言葉を抽出し、特にキー ワードとなる言葉を割り出して、そのイメージを検討する。

(1)新聞記事の推移

発行部数の多い全国紙上位3紙5)、読売新聞、朝日新聞、毎日新聞について、 「パワースポット」記事の初出から2016 年9月30日までの記事(表1)を調査対象期間とした。記事の初出は読売新聞が1992年の『テレビCM新時代(9)ス ポンサーの力』、朝日新聞と毎日新聞が1993年で、 2紙とも同じ書籍『ARTのパワースポット』の紹介記事であった。その 後、 3紙ともに「パワースポット」の記事は1994年から2001まではなく、 2010年に記事が頻繁に登場するようになり、国 表1パワースポットの新聞記事数 1992 1993 ′"ii"′ 2002 2003 2004 2005 2006 釜00了 2008 2009 2010 之011 2012 之013 2014 2015 2016 合計 読売 1 1 ~ 0 0 1 0 0 5 2 9 106 159 117 115 97 83 42 738 朝日 0 3 ""iヽi○○ 1 0 0 1 0 3 6 7 92 150 134 11了 80 86 55 735 毎日 0 1 ー 0 0 0 0 0 1 1 4 65 89 101 103 88 88 54 595 (筆者作成) -6○○

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年、読売新聞が106回、調査期間中の合計738回、朝日新聞も同様に92回、合計735回、毎日新聞も65回、合計 595回であった。3紙ともにパワースポットの記事の大部分が2010年以降である。

(2)パワースポソト記事のキーワード

託事の量的な推移を確認したうえで、以下、記事内の特徴的なキーワードについて分析する。対象記事の抽出法及び分 析法は、新聞3紙のパワースポットの言葉を含む記事の抽出をした後、記事の見出しに使用されている頻度の多い特徴的 な上位150の言葉を抽出しテキストマイニングによる計量分析6)を行うこととした。 その結果、これらの特徴的な言葉(表2)から、 「パワースポット」の場所への認識を概括するならば、そこに行くとパワーを 感じる、癒しになる、元気になる、幸せになる場所、といった評価をすることができ、これらを記事では「パワースポット」と呼ん でいるほか、 「聖地」 「パワースポットの聖地」と呼称することもある。また、記事の傾向から「パワースポット」は、神社仏閣に代 表されるような信仰的要素を背景とした祈願する場所と、自然環境など癒しや元気を与えられる場所に分けることができる。 前者の具体的な地域としては、伊勢神宮のある三重県や出雲大社のある島根県が注目されており、さらに魅力ある地域や 観光(図1) 7)に訪れる場所として捉えられていることが解る。 神社仏閣を指す言葉には「神社」 「神宮」「大社」「寺」があり、 3紙の合計掲載回数は244回(表3)であった。神社仏閣 は信仰の対象施設であるが、 「信仰」の言葉は朝日新聞のみ認められ7回の使用である。「祈願」「願う」「願い」などの言 新聞記章の特徴的な言葉 読売新聞 (筆者作成) ー61-毎日新聞

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葉は各々複数回の使用がみられるが、宗教行為である「祈祷」の言 葉は一度も使用されていない。一方、自然に関する言葉には「自然」 「山」「石」などがあり、合計回数は153回で、新聞分析では「パワース ポット」の対象場所は、自然に比べて神社仏閣の方が約60%多い結 果であった。 こうした傾向から、訪問者は宗教行為への関心は低く信仰心も希薄 であり、またイベントや冊子などでPRされている人気の「パワースポッ ト」を訪れて、簡単に成就祈願できる気軽さを好む傾向にあると評価で きる。ご利益を得るための占いや体験、イベントに参加し、 SNSやブロ グに写真やコメントをアップするなど、インターネットで情報発信を楽しむ マイルドな気持ち8)が主となっていることがうかがえる。 まとめるならば「パワースポット」の対象は、主として神社だけでなく山、 石といった自然物であり、それらは「信仰」ではなく「観光」の対象として 捉えられている。特に地域としては、伊勢神宮や熊野古道などが所在す る三重県、出雲大社などがある島根県に注目が集まっており、それらが 「パワースポット」としての古い歴史を持つとともに、近年の熊野参詣道男 などの世界遺産登録や伊勢・出雲での遷宮l(〕)など、現代的な話題の焦 点にもなっている点に注意したい。加えて言えば、パワースポットの社会 現象化の主たる担い手11)は「女性」や「女子」 「若者」であり、縁結び、 良縁、婚活、幸せ、癒し、元気などがパワースポットの「御利益」 「魅力」 と考えられていると言えよう。 以上の分析を踏まえ、本稿では古くから縁起がよくなる場と伝承され ている、幸せを祈願する、癒しになる、元気がもらえる、パワーを感じる といった評価がなされてきた場所を「パワースポット」として仮に定義する ことにしたい。

4 『美知の国あおもり』からみる

地方公共団体の戦略

前章までの検討を踏まえて、パワースポットを「利用」した観光戦略を 進めている地方自治体の動向について検討し、将来の観光戦略におけ るパワースポットの活用可能性について考えてみたい。 (1) 『美知の国あおもり』 2013年に青森県が作成した『美知の国あおもり』はパワースポットと ミスデ)-ゾーン探訪のガイドブックである。この『美知の国あおもり』で注 目されるのが、通常、地方公共団体において観光者向けパンフレットの 作成を担当する観光振興担当部局でなく移住推進を担当する企画政 策部地域活力振興課12)が編集・発行を行っている点である。以下では、 今回筆者が行った県企画政策部地域活力振興課に対する聞き取り調 査の結果を軸に、議論を進めてみたい。 -62-図1 共起ネットワーク図 (筆者作成) 表3 新聞のパワースポソト数 納経仏閣 自然 パワース ポット数 読売新聞 81 56 137 朝日新聞 90 27 117 毎日新聞 73 70 143 合計 2仙 153 397 (筆者作成)

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元々2007年の団塊世代の移住問題を視野に入れて県外からの移住者のために暮らしの魅力を発信する取り組みをして いたが、実際には移住者はほとんど見られなかった。そのため移住促進にはまず県に訪問してもらおうと、良い所を広く知ってもら う方向に政策の軸を転換した。特に女性客向けに県の魅力を様々な切り口で発信していくにはより尖った情報が重要だと考え、 女性に人気のあるパワースポットに焦点をあて2013年に発行に至った。発行後は駅や観光案内所、ホテル、旅行社などから 次々に送付依頼があり、重版を含めて約3万部の発行となり同県が作成した冊子の中では人気のあるものとなったそうである。 冊子に掲載するパワースポットの選定は、最終的には県職員によって行われたが、その過程で市町村からの情報提供や 県民からの応募の形態をとっている。さらに『英知の国あおもり』の語は県で商標登録をしたうえで、県民や県内外の事業者 などが活用できるように使用に関する要綱を制定し、ブランド構築も行っている。これに対して、すでに9件問の申し込みがあ り、旅行会社のツアー企画や印刷会社のタウン誌での特集、まち歩きマップなどに利用されている。さらに地域住民による サークル活動のワークショップでもテキストとして活用され、地域の再発見や連携にも活かされているとのことであった。 冊子の体裁を確認するとA4サイズ、カラー30ページ、パワースポットの写真やイラストが全体的に入っている。表紙、目 次、巻頭特集「1、祈りと癒しの海岸を歩く。」、 「2、郷土を護る北斗星伝説を行く。」、続いて「パワースポット」と題され (pp.5-10)、その大半は「祈願成就スポット」 (pp.5-9)、一部が「慰霊の聖地」となっている。次に「気のパワーチャージ」と題 され(pp.1 1-16)、 「奇岩・巨石編」 「寺社・仏閣編」 「滝・水編」 「巨樹・巨木編」 「自然のヒーリングパワー編」の各編が挙げら れている。そして「女子カアップ」 (pp.17-18)と越され、ここ迄がパワースポットの部分である。また各ページには対象の場所 が掲載されており、それらは神社仏閣と自然に大別できる。その後は「コラム」 「ミスデ)-ゾーン紹介」 (pp.21-28)が続き、 最後に「探訪マップ」が掲げられている。また注目される点は、楽しむための注意書きとして「パワースポットやミスデ)-ゾーン には明確な定義がない」と最初に断りを入れている点である。以上を踏まえ、県担当者が作り出そうとしたパワースポットのイ メージについて、同誌の見出しの表現から検討を試みる。 まず目次の最初の大見出しは「ワクワク・ドキドキが導く、元気と癒し。青森のパワースポット&ミスデ)-ゾーンへ!」である。 探訪すると元気になり癒しになる場所をパワースポットと位置づけていることが理解でき、本稿の定義と合致していると言える。 さらに拾えば、 「大自然」 「癒し」 「心身のパワーチャージ」 「ネイチャーロード」 「祈願成就」 「慰霊」 「聖地」 「ヒーリングパワー」 「ご 利益ゲット」といった表現がキーワードとして挙げられている。このような内容の分散性は、明確な定義のなさを反映したものと 言えよう。加えて、 「女子カアップ」という見出しのみある点は、パワースポットに対する関心が女性を中心としたものであるとい う認識を反映したものであろう。 (2) 6地域のパワースポソトの分類 以下、冊子に紹介されているパワースポットを、先に記事分析で析出した区分である「神社仏閣」と「自然」に大別し、地域 別にみていく。ここで言う地域とは、青森県地域県民局の所管地域であり、東青地域、中南地域、三八地域、西北地域、上 北地域、下北地域。)の6つがある。次に今回、冊子で取り上げられたパワースポットが、青森県では従来、既成の観光地と して紹介されている場所であるのか、あるいはパワースポットの紹介を通して、新しいスポット、新しい観光地の発掘につな がっているのかどうかを確認する。そのため、青森県観光国際戦略局による観光地 点とその中にパワースポットが含まれているかを順に追って比較、検討してみたい。 まず掲載されたパワースポット数(表4)は69カ所で、その内訳は神社仏閣34、 自然35と僅差であるが自然の方が多かった。次に6地域の観光地点の合計数 249の内、束青地域の観光地点は計42である。この地域でのパワースポットは 8であるが観光地点に入っているスポットは1カ所もなかった。中高地域の観光地点 は計44である。パワースポット15の内、観光地点の岩木山総合公園、白神山地 ビジターセンター、猿賀神社の3ヵ所が既にある。三八地域の観光地点計43の内、 種差海岸インフォメーションセンター、蕪島、寺下観音の3ヵ所、西北地域の観光地 -63-表4 地域別パワースポット数 神社仏閣 自然 パワース ポット数 東宵地域 4 4 8 中高壇域 10 5 15 三八絶域 7 8 15 西北地域 8 8 16 上北地域 3 5 8 下北地域 2 5 7 合計 34 35 69 (筆者作成)

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点計49の内、高山稲荷神社、出来島埋没林、赤石渓流(くろくまの滝)、円覚 寺、北金ヶ沢のイチョウ、十二湖公園、千畳敷の7カ所が含まれている。上北地 域の観光地点計46の内、奥入瀬・十和田湖が奥入瀬渓流の1ヵ所、下北地 域の観光地点計25の内、恐山、仏ヶ浦、願掛公園の3カ所が既にある。 冊子に掲載のパワースポット合計69ヵ所の内、観光地点に記載があった場 所は全部で17ヵ所である。その結果(表5)、パワースポット69カ所の約75% にあたる52カ所が新しく発掘した観光スポットであることが解った。

(3)ブランド構築

表5 新しいス米ソト数 富 パワース 毅光始点 新しい ポット にあり スポット 東宮地域 8 0 8 申南飽蟻 15 3 12 三八壇域 15 3 12 西北地域 16 7 9 上北地域 8 1 7 下北捜域 7 3 4 合計 69 17 52 (筆者作成) 地域づくりという面では、ブランド構築は注目すべき戦略である。県によると商標登録申請9件の会社や団体名は個人情 報保護法などから開示できないということであった。なお、ミスデ)-ゾーンで掲載された五所川原市の窯業団体が青森県情 報観光ウェブサイトで「美知の国あおもり『自然の恵み』癒し体験」プログラムを企画したことが紹介1与)されている。同団体によ るとこの企画については年に数件程度の申し込みがあったと言う。しかし五所川原市役所では冊子掲載の当該パワースポット は一般的な観光地とは異なり、周囲に建物がなく調査し難い場所や市内辺境にあるなど、ミスデ)-ゾーンも含めて個々の観 光入込数などは調査しておらず、さらに同市の入込客総数は年々漸増してはいるがパワースポットの寄与度は不明16)だと言う。 同様に青森県でも、実際に観光客が増加したかどうかの追跡調査は、県の広さや一定期間での職員の部署移動、政策変更 などの理由で行っていない17)とのことであった。この点は地方公共団体が抱える課題の一つであると言える。

(4)新聞と冊子のパワース米ソトの比較

以上のように冊子『美知の国あおもり』の特徴を踏まえた上で現状の消費される「パワースポット」の現実を捉えるため、 それらと新聞記事からの分析結果を比較検討する。まず、パワースポット訪問者は、新聞記事の分析によると女性、若者で あったが、冊子では女性が主に想定され、新聞記事よりもさらに絞り込まれていると言えよう。次に対象は、新聞では神社仏 閣が圧倒的に多いが、冊子では自然が半分強の数を占めた。この点は自然に恵まれた青森県の特徴によるものだと考えら れ、パワースポットの「地域性」の表れであると考えられよう。 さらに訪問目的の「ご利益」については、新聞では「縁結び」 「婚活」が多いが冊子では27項目18)の「ご利益」が示されて おり、 「諸願成就」や「癒し」の他、 「大地の力」や「母乳」などまで挙げられている。また新聞にあったパワースポットでの「体験」 に関しては冊子では「湖水で行う占い体験」が挙げられていた。なお、冊子では多岐にわたる「ご利益」について、アイコン化 を行うなどの見やすく解りやすくするための工夫が見られた。 5

まとめにかえて

近年、懸念される地方の衰退については、観光を中心、とした活性化や地域づくりに期待がかかっている。パワースポットは 社会的ブームを巻き起こし、地域ににぎわい創出をしている事例も多い。しかし定義や分類をはじめとして、学術的研究は緒 に就いたばかりであり、本稿ではまず新聞記事分析にもとづく分類を試みた。その結果、神社や旧跡といった従来からの一般 的な行事への参詣や観光の対象以外にも「パワースポット」として認知される例や、特別な社会現象との関係が認められず パーソナル・コミュニケーションを通じて認知される例がみられた。 パワースポットがブームになるにつけ、その地域にしか知られていない独特の情報が求められるようになってきた。本稿で示 した分類もまた、パワースポットを活用した観光地の発掘やにぎわい創出など、今後の観光地域づくりを考えていく上で大き な手がかりになると考えられる。つまり、既成の参詣場所や観光の対象に改めて注目したり、それらに関する社会現象に着目 したりすることも重要であるのはもちろんのこと、地域での何気なく語り継がれている話にも注意を払い、その地域でしか知ら

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-64-れていない事柄を見直し、また、口コミやSNSによって伝えられる工夫を凝らす必要もあると言える。 本稿ではさらに、パワースポットをどのように地方公共団体が活用しているかに注目をし、青森県を事例にとりあげた。同県 では「パワースポット」を切り口にして、既成の観光地以外に幅広い関心が集まるように工夫するだけでなく、同県のパワース ポットやパワースポットの多い同県そのものを「英知の国あおもり」として商標登録し、実際の商業的な活用においても、一定 の広がりが出てきている。 さらに注目すべきは同県がまとめた冊子『英知の国あおもり』が地域学習などの文脈においても活用されている点や、そも そも同誌収載の「パワースポット」を市町村や住民からの情報提供にもとづいて決定した点である。たとえば堀野(2014)は、 まちづくりとは地域の住民や公共団体などが協力して、資源を活かして地域活性化をすることと述べ、観光地域づくりではそ の地域に暮らす住民の参画や共感が重要であると指摘している。これらから、とりわけ地域の魅力ある個性的な観光地域の 創出には地域の住民しか知らない情報が重要な位置を占めると考えられる。青森県での「パワースポット」は公募したことによ り、各市町村で住民からの情報収集によって、地域の人しか知らない情報を取り込むことに成功し、 69ヵ所のうち、 52ヵ所 もの新しい観光地の発掘に繋がったと指摘できよう。 しかしながら、こうした取り組みを通じた観光入込客数増加や住民意識の変化について、入込総数は調査していても個々 の要因などは所管する県・市町村とも十分に把握していない実態も明らかになった。そのような実態把握は県・市町村におけ る人事異動や政策変更の頻繁さ、政策数、対象地域の広大さ、掘り起こされた「パワースポット」の立地の辺境さなどで構造 的な難しさを抱えているとしても、政策効果を測るうえでは欠かせないものであろう。これらの取り組みの必要性は今後の重 要な課題であると指摘して掴筆としたい。 [受付 2016年6月3〇日] [受理 2017年2月22日]

[注]

1)観光まちづくりとも言い、観光庁では地域活性化のため、地域住民との幅広い連携を促進している。 2)和歌山県商工観光労働部観光局観光振興課企画政策班班長に2016年7月1日14時へ14時30分、同課振興班班長に11月 2日18時30分へ19時、 2013年から2015年の観光振興実施行動計画(こパワースポットを取り入れた経緯、効果、パンフレット作成 の有無などを電話で聞き取り調査を行った。また県のホームページ県政ニュースには、 2015年の動態調査で入込総数は前年比108.4 %増で史上最高の約33,399千人と掲載がある。 http://wave.pref.wakayama.1g.jp/news/kensei/shiryo.php?sid二23836 3)米国アリゾナ州セドナ観光局http://Visitsedona.com/what-tO-do/a-SPirjtuai-Side-Sedona/ 4)宮田登は『日本人の行動と思想17 近世の流行神』(1972,評論社)で、江戸時代には霊験の多様さを祈願する民衆欲求に呼応した 「流行神」の存在があり、特に都市では個人祈願現象が特徴だと述べている。 5)読売新聞広告ガイド日本ABC協会「新聞発行社レポート半期・普及率」2013年7月へ12月による。発行行部数上位3は読売新聞 の約1,270万部、朝日新聞の約1,000万部、毎日新聞の約430万部である。 (http:〃adv.yomiur主co.jp/yomiuri/Circuiation/nationaiO3.htmi) 6)記事の抽出には各紙のウェブ検索機能である、読売新聞のヨミグス歴史館、朝日新聞の聞蔵= 、毎日新聞の毎素を使用した。また、 テキストマイニング KH Coder Vo.12を用いて計量分析を行った。 7)表2から、 「観光」の言葉は読売新聞78回、朝日新聞63回、毎日新聞74回と複数回使用され、 「パワースポット」 「神社」の言葉と ともに使用数の多い、特徴的な言葉の上位10に含まれている。また図1は、上記6)の分析による、言葉と言葉の結びつきの強さや関 係性をみる、共起ネットワークの図である。使用回数の多い言葉と-緒に使用される頻度の多い言葉を線で結び、関係性の強さを示す。 その結果、 「パワース米ソト」と「観光」、 「パワース米ソト」と「神社」の言葉の組み合わせが特徴として挙げられ、 -方で「信仰」の言葉は示 されず、パワースポット訪問は観光要素が強いことが明示された。 8)宗教学の学問領域では霊性とスピi)チュアi)ティをしばしば同意語として使用する。しかし、パワース米ソト訪問者は霊性を意味するスピ) チュアリティとは異なり、気軽に祈願をする、体験やイベント、 SNSを楽しむといった、よりマイルドな感覚を重視していることから、マイルドな 気持ちとした。 9) 2004年7月7日、ユネスコの世界遺産として「紀伊山地の霊場と参詣道」が登録された。熊野三山への「熊野参詣道」は「熊野古道」 とも呼ばれている。 10)伊勢神宮は正式名称を神宮という。遷宮には定期的に行う式年遷宮と、不定期で修繕等の際に行う遷宮とがある。2013年(平成25 年)には伊勢神宮の第62回式年遷宮と、出雲大社の約6〇年ぶりの遷宮とが重なり、話題になった。 11)表2から、訪問者を指す言葉には3紙に「女性」 「女子」が各々合計57回、 39回みられ、毎日新聞を除く2紙には「若者」の言葉も16 回使用があった。また「男性」 「男子」の言葉はみられなかった。

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-65-12)青森県企画政策部地域活力振興課主査に、 2016年2月22日14時一14時30分に冊子作成の経緯、パワースポリトの選定、住 民参加、発行後の反響、活用状況などを電話による聞き取り調査を行った。移住促進を担当する課により、そこにつなげる企画としては じまったため、特に観光という位置付けはなく、地域のコンテンツを掘り起こして作成した冊子である。結果的に旅行社や観光施設といっ た観光関連各所からの問い合わせが多数あり重版に至るなど、観光客にも人気があったと言う。移住推進部署でもあり、予算、部署移 動、政策変更などのため、追跡調査などは行っていないとのことであった。 13)上記12)の同県同課によると個人情報保護法などにより、ブランド使用について、申請者名をはじめ具体的な例は情報公開をしてい ないとのことであった。 14)東青地域は県庁所在地である青森市を筆頭に平内町、今別町、蓬田村、外ヶ浜町の1市3町1村の構成である。県の南西部を指す 中高地域はりんご生産量が多い地域で弘前市、黒石市、平川市、藤崎町、大鰐町、西目屋村、田舎館村の3市2町2村。南東部の三 八地域は八戸市、三戸町、五戸町、田子町、南部町、階上町、新郷村の1市5町1村で岩手県との県境に位置する。続いて西北地域 は五所/Ii原市、つがる市、鯵ヶ沢町、深浦町、板柳町、鶴田町、中泊町の2市5町の構成。上北地域は十和田湖を有する十和田市、三 沢市、横浜町、野辺地町、東北町、七戸町、おいらせ町、六戸町、六ヶ所村の2市6町1村、本州最北端の下北地域はむつ市、大間町、 東通村、風間浦村、佐井村の1市1町3村である。 15)青森県情報観光サイトアブディネットhttp:〃www.aptinet.jp/DetaiLdispiay臆00000919.htmlで、津軽金山焼窯業協同組合の『未 知の国あおもり「自然の恵み」癒し体験プログラム』が紹介されている。同組合所在地には元々、株式会社津軽金山燐と組合と2つあっ たか、組合は2014年12月に解散した。同企業販売担当者に2016年7月1日16時一16時20分、活用状況や反響などについ て電話による聞き取り調査を行った。この体験プログラムは組合解散までの約2年間、行っていたとのことであった。 16)五所川原市役所経済部観光物産課主任に2016年7月1日15時一15時30分、冊子掲載のパワース米ソトへの観光客増加、活 用、追跡調査などを電話による聞き取り調査を行った。パワース村外はディープな場所で周囲に常駐できる建物がないなどにより、追跡 調査などは行っていないとのことであった。 17)上記12)に同じ。 18) 27項目のご利益は、気力湧出、癒し、伝説、不思議、商売繁盛、子授け、大漁豊漁、開運招福、信仰、請願成就、五穀豊穣、海上 安全、母乳、学業成就、縁結び、慰霊、武運勝負、家畜の無病息災、交通安全、眼病治療、大地の力、巨木神木、体の浄化、安産、延 命長寿、子孫繁栄、不老長寿である。 [参考文献]

● Danneiley, Richard (1989) Sedona Power Spot, Vortex, and MedlCine Wheel Guide, Sedona, Arizona : Light Techno10gy.

●堀野正人(2014) 「第i=部観光学のポイント一第12章観光まちづくり」大橋昭〇、橋本和也、遠藤英樹、神田孝治編『観光学ガイド ブソク 新しい知的領野への旅立ち』ナカニシャ出版、 p.168-173 ●樫尾直樹(201 1 ) 「パワースポリトとは何か-その真相に迫る」『三田評論No l 144』慶応義塾、 P,68-71 ●小寺敦之(2011) 「「パワースボント」とは何か一社会的背景の検討とその受容についての予備的調査-」 『人文・社会科学論集 第 29号』東洋英和女学院大学、 p.87-1 10 ●増田克也(2014)『地方消滅東京一極集中が招く人口急減』中央公論新社 ●宮田登(1972)『日本人の行動と思想17 近世の流行神』評論社 ●岡本亮輔(2015)『聖地巡礼世界遺産からアニメの舞台まで』中央公論新社 ●内川久美子(2016) 「パワースポット社寺参詣の研究」『コンテンツツーi)ズム学会論文集Vo上3』コンテンツツーi)ズム学会、 p.41-48 ●山中弘(2014)「第∨部観光のアイテム・資源一第9章聖地」大橋昭〇、橋本和也、遠藤英樹、神田孝治編『観光学ガイドブリク 新 しい知的領野への旅立ち』ナカニシャ出版、 P.258-26l

参照

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