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遊びを導入した音楽学習活動 ―幼小接続への予備的研究―

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(1)Title. 遊びを導入した音楽学習活動 ―幼小接続への予備的研究―. Author(s). 石出, 和也. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 66(2): 181-190. Issue Date. 2016-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/7862. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第66巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 66, No.2. 平 成 28 年 2 月 February, 2016. 遊びを導入した音楽学習活動 ― 幼小接続への予備的研究 ―. 石 出 和 也 北海道教育大学札幌校音楽教育学研究室. The Significance of Music Learning Activities with Plays and Games ― A Preliminary Study for the Connectivity from Pre-to Primary School ―. ISHIDE Kazuya Department of Music Education, Sapporo Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 本小論の研究対象は,小学校低学年の音楽科授業における「遊びを導入した学習活動」であ る。小学校低学年の音楽科授業では, 「~をして遊ぼう」や「○○遊び」などの言葉が,日常 的に飛び交っている。音楽科教科書をもとに小学校低学年の「遊びを導入した学習活動」を俯 瞰すると,そこには大きく①「遊び」や「遊び方」としての提示,②「遊ぼう」や「遊んでみ よう」などの呼びかけによる提示という2つの傾向が見られる。前者は「学習内容としての遊 び」と「学習方法としての遊び」に分類することができ,後者――遊ぶことへの呼びかけ―― は,学習者を「遊び手」にすることによって「遊ぶ=遊ばれる」という構図を生み,そうした 学習者のありかたが「遊びの構造」を創り出す。特に「…をして遊ぶ」学習者の内的過程には, 「拡散的思考」の萌芽が内包されている点を指摘することができる。. 1.研究目的. 年の音楽科教育を再検討することにもつながるだ ろう。また,音楽科授業に含まれている「遊び」. 本小論は,小学校低学年の音楽科授業における. の特徴の一端を明らかにすることで,低学年に限. 「遊びを導入した学習活動」を対象とした理論研. らず,学習者の音楽的思考の在りようを捉えるた. 究である。音楽科授業の一部に取り入れられてい. めの糸口を見出すこともできると考える。. る「遊び」の特徴を追究することは,小学校低学 年の音楽学習場面を読み解くために有効であると 考える。それは,幼小接続の視点から小学校低学. 181.

(3) 石 出 和 也. 2.研究動機. 岐が想定される。それは,子ども同士の関係の中, あるいは単独の子ども自身の中に,遊びについて. 小学校低学年の音楽科授業は総じて,楽しさや. のメタ・コミュニケーション――私たち(私)が. 明るさを誘う気分・雰囲気が支配的である。それ. 今行っていることは「遊び」であるという了解―. らは,教材や題材が醸し出す気分や雰囲気である. ―が成立している状態と,遊びについてのメタ・. と同時に,授業者と学習者の間で交わされる「遊. コミュニケーションが成立していない状態であ. び」 「遊ぼう」などの言葉によっても助長されて. る2)。. いると言えるだろう。小学校低学年の音楽科授業. 遊戯論の古典であるホイジンガの洞察において. においては, 「遊ぶ」という表現が目立つように. も,「…それは,緊張と歓びの感情を伴い,また. 感じられる。. これは〈日常生活〉とは〈別のものだ〉という意. こうした印象論に対してより実証性を持たせる. 識に裏づけられている」3)という言表によって,. ために,小学校低学年の音楽科教科書に見られる. 遊びのメタ・コミュニケーション性はすでに示唆. 「遊びを導入した学習活動」を定量的に把握して. されているが,例えば子どもたちが「○○をして. みよう1)。試みに小学校1年生の音楽科教科書を. 遊ぼう」 「○○君と遊びたい」などと言うときには,. 対象として, 「遊び」への言及が見られる箇所を. 少なからず他の諸活動から遊びを分節化する意識. 整理・分類してみると,それぞれの教科書に含ま. が作用しており,遊びというものに対して自覚的. れる題材の半数以上において, 「遊び」と関わる. である。. 活動や説明が示されていることがわかる(資料1. 他方,子どもが何かに没頭しており,それを見. から5を参照) 。その具体的内容については後述. た大人が「遊んでいる」と判断した場合であって. するが,こうした教科書内容の量的傾向を踏まえ. も,そうした子ども自身が必ずしも「遊んでいる」. ると,小学校低学年の音楽科授業においては, 「~. という自覚的意識を伴っているとは限らない。つ. をして遊ぼう」や「○○遊び」などの言葉が,日. まり,さまざまな諸活動の中から遊びを分節化す. 常的に飛び交っていることが予想される。確かに,. るような自覚的意識が働いていない時,遊びにつ. 「遊び」 「遊ぼう」などは,言葉の用法としては. いてのメタ・コミュニケーションは成立していな. さほど気になる感触を持つものではない。だが,. い。. 例えば「…を鳴らそう」と「…を鳴らして遊ぼう」. さて,音楽科における「遊びを導入した学習活. とでは,やはり〈何か〉が異なる。こうした「遊. 動」を考えた場合,題材名や活動名などとして「遊. び」は,どのような音楽学習上の特性を含んでい. び」が宣言されているから,一応は「これから遊. るのか。. ぶ」というメタ・コミュニケーションの成立が促 されていると言えよう。ただし,小学校低学年と. 3.子どもの遊びに関わる言説. いう発達段階を考慮すれば,児童たちが,遊びと は何であるのかといった遊びの定義や,どのよう. ⑴ 遊びのメタ・コミュニケーション性. なものが遊びであるのかといった遊びの条件を経. 予備的考察として,子どもの遊びに関わる日常. 由して「遊びを導入した学習活動」に臨んでいる. 的な言説を吟味したい。しばしば「子どもの生活. とは考え難い4)。児童たちは,遊びを概念として. の中心は遊びである」 「子どもは遊びの中で成長. 把握しているのではなく,いわば語感として受け. する」などと言われる。基本的にこれらは,子ど. 止めていると考えるべきだろう。. もを客体視する大人の側からのエティックな観察 に基づく言説である。そこで,想像力を働かせて. ⑵ 遊びの自己目的性と学習. 子どもの側に視点を移すと,少なくとも2つの分. もう1つ,子どもの遊びに関わる日常的な言説. 182.

(4) 遊びを導入した音楽学習活動. を吟味しておく。私たちが,幼児や小学校低学年. 態があるとすれば,確かに憂慮されるべきことで. の児童を念頭において, 「子どもたちは遊びを通. あろう。遊ぶ主体である子どもを,外的理由に従. して学習する」という言い方をするときには,以. 属させることになるからである。. 下2点が含意されている。第一に, 「遊び」と「学. 一方,音楽科における「遊びを導入した学習活. 習」とを互いに異なる領域として分離していると. 動」の場合は,もちろん,公園での鬼ごっこなど. いう点, 第二に,そのように分離しつつも, 「遊び」. のような日常生活圏での遊びとは異なる。それは. -「学習」の関係を「手段」-「目的」の図式で. 授業者によって仕掛けられた遊びであるから,紛. 結合させているという点である。そこで, 「遊び」. れもなく,学習させることが目的である。従って,. と「学習」の関係を改めて検討してみたい。. すでに子どもが実行している遊びを,後から「教. しばしば, 「子どもは遊びの外部に何か他の目. 育的遊び」と「非教育的遊び」に分類していくと. 的が定められているから遊ぶのではなく,活動す. いった,日常生活圏で起こり得たような順序は成. ることそれ自体に意味や価値を見出しているから. 立しない。ここでは,最初から「教育的遊び」と. 遊ぶ」という言い方がなされてきた。再びホイジ. して設定され,それが子どもに学習の別名として. ンガに遡行するならば, 「遊戯の目的は行為その. 与えられる。音楽科における「遊びを導入した学. 5). ものの中にある」 ということになり,ホイジン. 習活動」の始発は,子ども(学習者)の側ではな. ガと同様,その後の遊び研究に対して大きな影響. く,あくまでも大人(授業者)の側に属している。. を与えたカイヨワの遊戯論においても,遊びは「純 粋な消費の機会」6)とされていた。これらはつま り,遊びの自己目的性という考え方である。そし. 4.遊びを導入した音楽学習活動. て,自己目的性を持つ遊びが,子どもの「内発的. 音楽科教科書をもとに小学校低学年の「遊びを. 動機」という形で大人=教育者の眼差しのもとに. 導入した学習活動」を俯瞰すると,その提示のさ. 置かれるとき, 「遊び」は「学習」の手段となる。. れ方には2つの傾向が見て取れる。第一に, 「遊び」. 確かに,ままごとや砂遊び,折り紙などの「象. や「遊び方」としての提示であり,第二に, 「遊. 徴的遊び」は創造性の形成に貢献し,主に集団で. ぼう」や「遊んでみよう」などの呼びかけによる. 行われる「ルールの遊び」は社会性や道徳性,自. 提示である。前者の「遊び」や「遊び方」として. 7). 律性の発達に貢献するといった具合に ,それ以. の提示は,さらに以下2つに分けることができる。. 前には不可能であった何事かが可能になるという 意味においては, 「遊び」は「学習」の別名である。. ⑴ 学習内容としての遊び. そのため,子どもの中で〈結果的に〉学習になっ. 1つ目は,遊ぶことそれ自体が目的として示さ. ていた遊びのありようから,大人が学習を〈狙う. れている場合であり,主にわらべうたや世界の遊. ための手段〉としての遊びのありようへの転換も. び歌に関わる学習場面などで見られる(資料1~. 起 こ り う る の で あ る。 こ の 点 に 関 連 し て 藤 田. 5の☆印の題材や活動など)。これはちょうど,. (1991)は,遊びの手段的な価値が強調され過ぎ. 小学校低学年の生活科において「遊び」が教育内. ると,子どもの遊びを,推奨されるべき「教育的. 容として前景化されている状態に近い。幼児期の. 遊び」と,排除されるべき「非教育的遊び」に二. 遊びを中心とした総合活動と,教科による分化し. 8). 分する考え方が生じてくると指摘する 。藤田が. た学習活動を接続する生活科の場合には, 「遊び」. ここで想定しているのは,主に日常生活圏におけ. が積極的に学習内容として位置づけられているの. る子どもの遊びであるから,大人側の目的意識に. である。「みんなは,どんなうたであそんだこと. よって遊びの自己目的性が遮断されたり,ある特. があるかな」といった生活経験を想起させるよう. 定の遊びのみが過度に強調されたりするような事. な文言も,こうした見方を補強している9)。ここ. 183.

(5) 石 出 和 也. での「遊び」は,児童の具体的行為としては,歌. て前面に出されている場合であっても,音楽科の. いながら(声を出しながら)動くことを指してお. 授業場面であるからには,音楽的概念や音楽的技. り, さらに「真似をする」「はやさを変えてみる」. 能を獲得させるという方法的側面は含まれてい. 「動き方を変えてみる」 「人数を変えてみる」な. る。他方,学習方法としての遊びについても,遊. どの可変性が認められている。 「遊び」それ自体. びの内容に参与せずして,教育内容を媒介すると. を把握し,さらに「遊び」を変化させていくとい. いう役目を果たすことはできないだろう。遊びが. う点において,これは遊びを知り,遊びを学ぶ状. 内容として前景化されているか,それとも方法と. 態,すなわち学習内容としての遊びである。. して手段化されているかの相違は,児童の側から 見れば,教育内容が〈透明化された状態〉で遊び. ⑵ 学習方法としての遊び. と関わるのか,あるいは,教育内容が〈視界に入っ. 2つ目として, 「なまえあそび」 「ことばあそび」. た状態〉で遊びと関わるのかといった,活動に臨. 「ゆびあそび」 「まねっこあそび」「おとあそび」. む姿勢の相違として把握することができる。. 「どれみあそび」 「やまびこあそび」のように, 「〇 〇遊び」というその語感が,親しみをもって教材 や活動に出会わせる媒介機能を担っている場合が. 5.遊ぶことへの呼びかけ. 挙げられる(資料1~5の○印の題材や活動な. ⑴ 遊ぶというありかた. ど) 。一例として「まねっこあそび」を取り上げ. 前述のように,小学校低学年の「遊びを導入し. てみよう。ここでは,「けんばんハーモニカでど. た学習活動」には①「遊び」や「遊び方」として. れみふぁそをふく」という目標が示され, 「まねっ. の提示,②呼びかけによる提示,という2つの傾. こあそび」の前段階には「鍵盤ハーモニカの音を. 向が見られるが,教科書全体にわたって随所に見. 味わう」 , 「ドレミファソの音を吹く」という活動. られるのは,呼びかけによる提示――「遊ぼう」. が設定されている(資料5の※の学習活動)。授. 「遊んでみよう」――である。こうした呼びかけ. 業者や仲間が吹く音を模倣することが「まねっこ. について細かく考察してみると,そこには3つの. あそび」とされており,最終的には,既存の楽曲. 類型が見られる。. に合わせて鍵盤ハーモニカを演奏する活動へと収. 1つ目は,「いろいろなおとであそぼう」のよ. 束していく。この他にも,「なまえあそび」に対. うな,対象となる素材を示しつつ「〔素材〕で遊. しては「拍を感じる」,そして「がっきあそび」. ぼう」という形になっている呼びかけである。2. に対しては「色々な鳴らし方を覚える」というよ. つ目は, 「…まねてあそびましょう」のような「〔行. うに, 「〇〇遊び」は具体的な目標へと向けられ. 為〕をして遊ぼう」という呼びかけである。そし. ている。遊び自体の把握と応用が前面に出されて. て3つ目は,これらを複合させた「〔素材〕で〔行. いるというよりも,音楽的概念や音楽的技能など. 為〕をして遊ぼう」という場合であり,「がっき. の教育内容の獲得に向かう面が強い。従ってこれ. のおとでよびかけっこしてあそぼう」などがある。. らは,遊びを通して学ぶ状態,つまり学習方法と. 例えば「リズムであそぼう」を「リズムをうっ. しての遊びである。. てあそぼう」と解釈することができるように, 「〔素 材〕で遊ぼう」という形の呼びかけは,対象とさ. ⑶ 遊びと教育内容の関連. れている素材への働きかけ(行為)を補うことが. このように, 「遊び」や「遊び方」として示さ. できる。従ってこれら3つの類型は,「〔行為〕を. れている題材・活動については,「学習内容とし. して遊ぼう」という共通項を持っていることにな. ての遊び」と「学習方法としての遊び」に分類す. る。それでは,ある行為に付加されている「遊ぶ」. ることができる。もちろん,遊びが学習内容とし. とは,いかなるものであるのか。管見の限りでは,. 184.

(6) 遊びを導入した音楽学習活動. 遊ぶことのこうした含意を端的に述べているの. 「遊びを導入した学習活動」の始発は授業者の側. は,西村(1989)による現象学的把握である。. にあるため,児童はその始発からただちに遊び手 になるわけではなく,しだいに遊び手になってい. なるほど,われわれは「鬼ごっこをする」とはいう。. く。このような時系列に沿った捉え方を「遊びの. それは,鬼ごっこというひとつの行動を指示している。. 構造化」に適用することによって見えてくるのが,. そのかぎりでは,これは,「仕事をする」とおなじ表現で. 「遊びをする」と「…をして遊ぶ」の差異である。. ある。だが,けっして「鬼ごっこを遊ぶ」とはいわない。. 「遊び」をする者は,あらかじめ存在している. かならずわれわれは,「鬼ごっこを・して・遊ぶ」とか,. 遊びの構造を引き受けて,そうした構造において. 「鬼ごっこ・で・遊ぶ」とかいうのである。それはつまり,. 遊ぶ。それに対し,元々遊びではない行為におい. わたしは, 「鬼ごっこをする」というひとつの行動におい. て「遊ぶ」場合には,はじめから遊びの構造が存. て,そのような状況「に・遊ぶ」ということである。遊. 在しているわけではない。例えば学習者が「音を. ぶとは,ある特定の行動ではなく,その行動をとりつつ. 鳴らす」ではなく「音を鳴らして遊ぶ」とき,つ. あるわたしの独特のありかた,存在様態を指示する自動. まり「遊び手」になるとき,遊びの構造もしだい. 詞であり,とりわけて状態動詞なのである10)。. に形成されていく。 「遊びをする」という場合には, 遊びの構造は「在る」と言える。一方「…をして. つまり,ある行為が実行されているその状況の. 遊ぶ」という場合には,遊びの構造は「創り出さ. 中に,さらに「遊ぶ」という「ありかた」が見出. れる」のである。. されるのである。この「遊ぶ」というありかたを 考えるために,改めて「遊びの自己目的性」を想. ⑶ 「遊ぶ=遊ばれる」という構造. 起したい。遊びの自己目的性といった場合,それ. こうした構造化のプロセスにおいて重要なの. は,遊びの目的がその外部には存在しないと述べ. は,遊び手が,ただ単に対象に働きかける主体な. ていることになる。だが注視すべきは,あくまで. のではなく,働きかけることによって自分自身も. も遊びの目的は存在しているという点である。遊. 働き返される存在だという点である。その様相は. びは「自己目的的」であるが,決して「無目的」. ちょうど,壁に向かって投げたボールが自分自身. ではないのである。. に跳ね返ってくるような運動性に準えることもで きよう。また,シーソーやブランコなどの揺れ動. ⑵ 遊びの構造化. きや,トランプゲームのように偶然性に委ねて何. それでは, 「無目的」ではない遊びの「目的」. かを待ち,その結果に翻弄されて一喜一憂する心. は何であるのか。再び西村の洞察に学ぶならば,. 境によっても,こうした遊び手のありかたのイ. それは「遊びの構造化」である。. メージを描くことができるだろう。遊び手のあり かたは,「遊ぶ者であると同時に遊ばれる者でも. 遊びの自己目的性という,それ自体否定的な規定は,. 12) という特徴に凝縮される。そして,遊び ある」. じつは, 「遊びはもっぱら遊びの構造化を目的とする独得. の構造を創り出すのは,こうした遊び手のありか. のふるまいであり,この実現のために,個々の諸行動,個々. たであると考えられる。. の技が遊びのルール,遊びの手順に従って独自のしかた. 音楽学習場面に引き戻して考えよう。この「遊. で編成される」という積極的な命題にパラフレーズされ. ぶ=遊ばれる」という構造は,複数の児童がリズ. るときにのみ,十全な意味をもつ. 11). 。. ムを叩き合ったり,真似をし合ったり,声を出し 合ったりするような「…をして遊ぶ」場面におい. 「遊びを導入した学習活動」であるから,学習. て確認できるだろう。児童たちは,他者や楽器,. 者=児童は,そこでは「遊び手」になる。だが,. 音響に働きかけ,かつそれらに働き返され,そし. 185.

(7) 石 出 和 也. て再び働きかける。そして「遊び手」となった児. まり見られない。今回は,小学校音楽科の教科書. 童は, 「遊ぶ=遊ばれる」という状況に置かれる. を参照しつつ,「遊びを導入した音楽学習活動」. ことで, ある課題達成を1つの道筋から目指す「収. についての検討を試みた。小学校音楽科に見られ. 13). 束的思考」 から見ればその余白部分に相当する. る「遊び」については,大きく「学習内容として. ような,対象への働きかけを試行錯誤することが. の遊び」と「学習方法としての遊び」に分類でき. できる時間や空間へと導かれることになる。学習. る。また, 「遊ぶ」ことへの呼びかけについては,. との関連において「遊び手」としての児童を捉え. それが遊びの構造を創り出すプロセスであり,特. ると, 「収束的思考」とは異なる時間的余白・空. に「遊ぶ=遊ばれる」という遊び手のありかたが. 間的余白が中心化される点に,大きな特徴がある. 「拡散的思考」の萌芽を内包している点を指摘し. と言えるだろう。. た。. さらに, 「遊ぶ=遊ばれる」という構造は,あ. だが,教科書に見られる用法を起点として導き. る児童が鳴らした音に対し別の児童が応答して鳴. 出した見解のうち,「…をして遊ぶ」という活動. らすというような,目に見えて対話的な状況に限. についてのそれは,決して教科書全体の内容を反. られるべきではない。というのも,「遊ぶこと」. 映しているわけではない。本小論で導いた見解か. と「学ぶこと」が積極的に関係づけられるために. ら教科書全体を見つめ直すと, 「…をして遊ぼう」. は,遊び手の複数性に目を奪われることなく,一. と「…をしよう」は渾然一体となっており,明確. 人の児童の内的過程として,音楽学習場面での「…. な基準のもとで区別されているわけではない。 「…. をして遊ぶ」ありかたを把握することが必要とな. をして遊ぼう」という学習活動の中には,「…を. るからである。例えば一人の児童が音を鳴らし,. する」と同一視できる活動も多く含まれており,. その鳴り響く音を聴く場合にも,その音が児童自. それらは必ずしも複数の道筋や可能性を試みよう. 身に働き返していると考えることができる。すな. とする「拡散的思考」を伴う学習活動とはなって. わち,すでに鳴らした音を聴き,後続の音を鳴ら. いないのである。. すことにおいて「遊ぶ」児童の内的過程には,あ. 幼小接続の重要性が叫ばれる今日,幼児教育や. る課題解決に向けて複数の道筋や可能性を試みよ. 保育の場面では子どもの成長・発達における遊び. 14). うとする「拡散的思考」 の芽生えを見ることが. の可能性が追究されているのに対し,小学校音楽. できる。創造性に繋がるものとされる「拡散的思. 科教育が「遊び」や「遊ぼう」などの用語上の使. 考」を生み出す場が, 「…をして遊ぼう」という. い勝手の良さに頼るのみで果たしてよいのか。小. 呼びかけから生まれるのである。創造性は,言う. 学校音楽科における「遊び」や「遊ぶ」の内実を. までもなく音楽科教育において重視されるべきも. どのように捉える必要があるのか,今後問われる. のであるから,ここに,「…をして遊ぶ」という. べきだろう。. 学習活動を導入する意義が認められる。. 今回は,現実の音楽科授業の傾向を掴むために, 教科書を検討対象の中心とした。継続研究として. 6.まとめ. 今後は,教科書の枠内から離脱し,「遊びを導入 した学習活動」における子どもの姿を実際的に捉. 遊びと学習の関連それ自体については,主に幼. え,さらに,教員養成段階において「遊び」 「学び」. 児教育学や保育学を中心として,発達心理学の知. 「学習」「音楽」の関連性をどのように位置づけ. 見に依拠した研究が相当数見られる。他方,小学. ることが可能であるのかを追究する予定である。. 校で「遊びを導入した音楽学習」が数多く実践さ れているという現実があるにも関わらず,それら を理論的に基礎づけようとする音楽教育研究はあ. 186.

(8) 遊びを導入した音楽学習活動. 註および引用文献 1)これまでの音楽科授業の傾向を掴むため,2014年度 版の教科書とあわせて2011年度版の教科書も考察対象. 5)ホイジンガ,前掲書,p.58. 6)カイヨワ『遊びと人間』清水幾太郎,霧生和夫訳, 岩波書店,1970年,p.12. 7)藤田英典『子ども・学校・社会―「豊かさ」のアイ ロニーのなかで―』東京大学出版会,1991年,pp.39-. に含めた。 2)西村清和『遊びの現象学』勁草書房,1989年,p.203. 3)ホイジンガ『ホモ・ルーデンス〈人類文化と遊戯〉』 高橋英夫訳,中央公論社,1963年,p.58.. 40. 8)同上書,p.41. 9)本文中では基本的に「遊ぶ」という漢字表記を用い ているが,教科書の中の題材名・活動名などを示す際. 4)ここで述べている「条件」とは,子どもが個々の遊 びの中で把握している条件(ルール)とは異なる点に 留意されたい。例えば,かくれんぼという具体的実践 についての場所や時間の使い方,役割分担などの条件 は,もちろん小学校低学年相当の子どもであっても把 握できるだろう。だが本文中で述べている条件は,よ り抽象的で概括的な「遊びというもの」についての条. には,そのまま平仮名による表記を用いる。 10)西村,前掲書,p.31. 11)西村,同上書,p.144. 12)西村,同上書,p.33. 13)内田伸子『発達心理学』岩波書店,1999年,p.157. 14)同上書,p.157.. 件のことを指している。. 資料1 『小学音楽 おんがくのおくりもの1』教育出版,2015年発行(2014年検定済). 題材名など. 学習のねらい 6-7頁. おんがくに あわせて. リズムと なかよし. こんにちは けん ばん ハーモニカ おとで よびかけっこ ようすを おんがくで. ききあって あわせて. うたに あわせて かもつれっしゃに なって あそぼう. 補足説明や示されている活動など ・はやさを かえて あそんで みよう。. 10-11頁. うたに あわせて おはなに なって あそぼう. 12-13頁. わらべうたで あそぼう. 14-15頁. うたに あわせて みぶりで あそぼう. 16-17頁. たん と うんの リズムで あそぼう. 18-19頁. たん と うんで リズムを つくろう. 20-21頁. ジェンカの リズムで あそぼう. 22-23頁. たん と たたの リズムで あそぼう. 30-31頁. どんなおとが するかな. 32-33頁. 「ど」の おとで あそぼう. 34-35頁. 「どれみ」の おとで あそぼう. 36-37頁. 「どれみふぁそ」の おとで あそぼう. 42-43頁. がっきの おとで よびかけっこして 【もっと あそぼう】 あそぼう. 46-47頁. どうぶつの ようすを うたや がっき 【もっと あそぼう】 で あらわそう ・いろいろな いきもので,かえうたを つくって あそぼう。. 50-51頁. うたの まねっこで あそぼう. 52-53頁. ことばの まねっこで あそぼう. ・お なじうたでも,いろいろな うたいかた や あそびかたが あります。 ・み んなは どんな うたで あそんだ こと が あるかな。. ☆. 【まねっこあそび】. ○. 【まねっこあそび】. ○. ・がっきの リズムに あわせ,いろいろな フルーツの なまえで まねっこして あそぼう。. ※表は,教科書の中から「遊び」 「遊ぼう」などの表記が見られる箇所を抜粋したものである(下線を引い て示してある)。「題材名」や「学習のねらい」などの項目名については,基本的に各出版社が示している 表現に従った。以下資料2~5についても同様である。. 187.

(9) 石 出 和 也. 資料2 『小学音楽 おんがくのおくりもの1』教育出版,2011年発行(2010年検定済). 題材名 /コーナー名 (題材外). 学習活動・学習内容 6-7頁. うたで いっしょに あそぼう. にっぽんのうた みんなのうた. どれみと なかよし こんにちは けん ばんハーモニカ ようすを おんがくで おんがくランド. ・はやさをかえて あそんでみよう。 ・うたやあそびを いっぱいおそわりたいね ・みんなはどんなうたであそんだことがある かな。 ・おなじうたでも,いろいろなうたいかたや あそびかたがあります。. 14-15頁. わくわく リズム. 補足説明や示されている活動など. 16-17頁. たんとうんであそぼう. 18-19頁. うたにあわせて リズムであそぼう. 20-21頁. ジェンカのリズムであそぼう. 22-23頁. たんやたたであそぼう. 26-27頁. からだをつかって どれみであそぼう. 32-33頁. どのおとで あそぼう. 34-35頁. どれみのおとで あそぼう. 36-37頁. どれみふぁそのおとで あそぼう. 46-47頁. どうぶつのようすを うたやがっきで あらわそう. いろいろないきもので,かえうたをつくって あそぼう。. 56-57頁. 《おおきな かぶ》(教材楽曲). は,かけごえのことばやせんりつをじ ゆうにかえて,つなげたりかさねたりしてあ そぼう。. ☆. つくったリズムをともだちとまねっこしあっ たり,リレーしたりしてあそぼう。. 【まねっこあそび】. ○. 資料3 『小学生のおんがく1』教育芸術社,2015年発行(2014年検定済). 題材名. 学習活動 《ひらいた ひらいた》 (教材楽曲). ・み んなで あそびながら たのしく うたい ましょう。 ・て をつないでわになり,はすの はなのよ う に  ひ ら い た り  つ ぼ ん だ り し て  あ そ ぶ うたです。. ☆. 12-13頁. はくをかんじながら なまえあそびを しましょう。. 【なまえあそび①】 【なまえあそび②】 ・たべものの なまえをつかって なまえあそ びをしましょう。 ・みんなで て をうちながら「●●●はい」 といって あそびましょう。. ○. 18-19頁. 「たんたん|たんたん|たんたん|た んうん」の リズムを うちましょう。. 《みんなで あそぼう》 (教材楽曲) ※歌詞中に「あそぼうよ」という言葉が含ま れている. 34-35頁. 「どれみふぁそ」の いちを おぼえ て ふきましょう。. 【どれみふぁそ のまねっこ】 《なかよし》 (教材楽曲) ※歌詞中に「あそぼうよ」という言葉が含ま れている. ○. 52-53頁. わ ら べ う た を  き い た り  う た っ た ・あそびかたをおぼえて みんなでたのしみ り しましょう。 ましょう。 ・わ らべうたには,おなじうたでも いろい ろな うたいかたや あそびかたがあるよ。 ※《さんちゃんが》と《おおなみこなみ》の あそびかたが図で示されている。. ☆. 8-9頁 うたで なかよし になろう. はくをかんじて あそぼう. はくをかんじて リズムをうとう ・・・. どれみで うたったり ふいたりしよう. にほんのうたを たのしもう. 188. 補足説明や示されている活動など.

(10) 遊びを導入した音楽学習活動. おとをあわせて たのしもう. 54-55頁. わらべうたを うたって たのしみま しょう。. ・てあそびをしながら うたいましょう。 ・い ろ い ろ な  は や さ で  あ そ ん で み る の も おもしろいよ。 ※《おちゃらかほい》のあそびかたが図で示 されている。. ☆. 56-57頁. たがいの こえを ききあいながら う 【やまびこあそび】 たいましょう。 ・ともだちと むかいあって,いろいろな こ とばを やまびこのように まねて あそび ましょう。. ○. 資料4 『小学生のおんがく1』教育芸術社,2011年発行(2010年検定済). 題材名. 学習目標 6-7頁. ・み んなで あそびながら たのしく うたい ましょう。 ・はすの はなのように,ひらいたり つぼん だりして あそぶ うたです。. こころのうた はくを かんじとろう はくに のって リズムを うとう. けんばんハーモニ カを ふこう. いろいろな おと に したしもう おとの たかさに きを つけて うたおう たがいの おとを きこう. 補足説明や示されている活動など. 10-11頁. なまえあそびをしながらはくをかんじ ましょう。. 【なまえあそび】. ○. 22-23頁. たんたんたん(うん)  と たたたたた 【ことばあそび】 ん(うん)に あう ことばを さがし ましょう。. ○. 26-27頁. ゆびの たいそうを しましょう。. ・うたをおぼえたら,◆のところでゆびあそ びをしましょう。. ○. 30-31頁. どえみふぁその いちをおぼえて ふき ましょう。. 【まねっこあそび】. ○. 36-37頁. いろいろな ならしかたを おぼえま しょう。. 【がっきあそび】 【おとあそび】. ○. 38-39頁. ほしぞらの ようすに あう おとを み つけて えんそうしましょう。. 【おとあそび】. ○. 46-47頁. おとの たかさを たしかめながら ・・・ どれみで うたいましょう. 【どれみあそび】. ○. 50-51頁. つよさを かんがえて うたいましょう。 【やまびこあそび】 ・ともだちと むかいあって,いろいろな こ とばを やまびこのように まねて あそび ましょう。. ○. 資料5 『あたらしいおんがく1』東京書籍,2011年発行(2010年検定済). 題材名 たのしい おんがくランド. にっぽんの あそびうた. リズムに のって あそぼう. 活動内容. 補足説明や示されている活動など. 4-5頁. かもつれっしゃに なって あそぼう ・おんがくを よく きいて あそべるかな。 ―おんがくを よく きいて あそべる ・おんがくを よく きいて あそべたかな。 かな。―. 6-7頁. てを つないで うたおう ―うたに あわせて あるけるかな。―. 8-9頁. わらべうたで あそぼう ―ともだちと いっしょに うたいなが ら あそべるかな。―. 12-13頁. おんがくをよく きいて あるこう . 14-15頁. うたと てびょうしを あわせよう. 16-17頁. うたと がっきを あわせよう. ・う た に  あ わ せ て, と も だ ち と  た の し く あそべたかな。. ☆. 189.

(11) 石 出 和 也. からだで おんがく. がっきらんどを たんけん しよう おんがくづくりを たのしもう. 20-21頁. うたいながら あそぼう ―おんがくの くりかえしを たのしめ るかな。―. ・と もだちの うごきを みんなでまねる あ そびだよ。 ・ぼうとに のって さかなつりを する あそ びだよ。 ・ぱれぱれの ところで うごきが かわる あ そびだよ。 ・お んがくの くりかえしで たのしく あそ べたかな。. ☆. 22-23頁. はやさを かえて あそぼう. ・うたいながら つくえを てで うって あそ びましょう。 ・1ばんと 2ばんの はやさを かえて あそ びましょう。 ・と もだちと いろいろな あそびかたで あ そびましょう。 ・ほかの あそびかたも くふうしよう。 ・い ろいろな はやさで たのしく あそべた かな。. ☆. 26-27頁. まねっこあそびを しよう ―けんばんハーモニカで どれみふぁ そを ふけるかな。―. ・せ んせいや ともだちと どれみの まねっ こあそびを しましょう。 ・まねっこあそびで どれみふぁそを ふけた かな。. ○ ※. 38-39頁. いろいろな おとで あそぼう ― み の ま わ り の  も の で  い ろ い ろ な おとを だせるかな。―. (札幌校准教授). 190.

(12)

参照

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