Ⅰ.研究の背景
1.日本と海外とのつながりの拡大 近年、日本と諸外国との人的・物的往来はますます盛 んになっている。在留外国人(永住者・長期滞在者)の 数は 151 万人(1998 年)から 215 万人(2007 年)に増加 し、総人口の 1.7 %を占める。韓国・朝鮮人がやや減少 にある一方、中国人(台湾を含む)は 27 万人(1998 年) から 61 万人(2007 年)に大幅増となり、人数でも 2007 年には韓国・朝鮮人を抜いてトップになった。また日本 人の滞在国を見ても 1998 年には北米(39 %)・欧州 (15 %)・東アジア(10 %)・東南アジア(8%) で Ⅰ.研究の背景 1.日本と海外とのつながりの拡大 2.立命館学園の状況 3.立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所の機 能拡大と内外での評価の高まり 4.様々な視点から見た白川静の存在意義を考える Ⅱ.研究の目的と意義 Ⅲ.研究の方法 Ⅳ.調査結果 1.「漢字に対する意識調査」(2008 年7月∼ 11 月 実施)の分析 2.先行事例Ⅰ 3.先行事例Ⅱ 4.漢字文化圏内での漢字事情の調査 Ⅴ.政策提起 Ⅵ.残された課題 1.講師養成を目的とした上級・講師養成クラス講 座の開設 2.日本とアジア・太平洋地域をつなぐ講座の開設東アジアとつながる「東洋文字文化」
普及プログラムの開発
久保 裕之
(
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伊藤 昇
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武田 敦
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村上 吉胤
(
教 育 文 化 事 業 部教 育 文 化 企 画 課 長)
教育文化事業部次長 大学行政研究・研修 センター専任研究員 教 育 文 化 事 業 部 教 育 文 化 企 画 課論文
図1 在留外国人の国籍別統計 法務省統計より筆者が製表 図2 滞在国別海外在留邦人数 外務省統計より筆者が製表あ っ た が 、 2007 年 に は 北 米 ( 40 % ) ・ 東 ア ジ ア (16 %) ・欧州(14 %)・東南アジア(10 %)となり、 アジア地域、特に中国での滞在者数が急激に増加してい る(図1、図2)。 2.立命館学園の状況 立命館学園は戦前からアジア地域との結びつきも強 く、戦後も多くの留学生受け入れ、学術協定の提携・実 践を行ってきた。 学園は「中期計画 2007 ∼ 2010 年」において「世界に 開かれたアジア太平洋地域の教育・研究拠点形成」を目 標として掲げ、「立命館憲章」に「アジア太平洋地域に 位置する日本の学園として、歴史を誠実に見つめ、国際 相互理解を通じた多文化共生の学園を確立する」と定め た。その実践として国際プログラムに積極的に参加する だけでなく、立命館アジア太平洋大学(APU)の開学 (2000 年)、中国(2004 年∼)・ベトナム(2007 年∼) の大学管理運営幹部特別研修事業注1)、立命館孔子学院 の開設注2)(2005 年∼)など独自の政策も進めてきた。 立命館学園においても外国籍の学生数は飛躍的に増加 している。その中でも東アジア・東南アジア国籍の学生 の比率は、留学生数のうち立命館大学では9割、APU では8割に達している(図3、図4)。附属校にも少数 ながら外国籍の生徒・児童が在籍し、また教職員の数も 140 名以上に増加している。 これからアジア太平洋地域との関係をより一層促進 し、「世界に開かれたアジア太平洋地域の教育・研究拠 点形成」たらんとするためには、立命館の構成員は、日 本のアジア太平洋地域への侵略の歴史(負の遺産の知識) だけでなく、日本とアジア太平洋地域とをつなぐ正の遺 産の知識を具えておくことが望ましい。1992 年に学園 は立命館大学国際平和ミュージアム注3)を開設し、学園 構成員に学園理念である「平和と民主主義」を根付かせ るとともに、社会に対する発信の役割を担っている。同 様にアジア太平洋地域、その中でも特に関係が密接にな ってきている「東アジアなどのつながり」を社会に対し て発信する使命をもつと言える。 3.立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所の機能拡 大と内外での評価の高まり 立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所(以下「白 川研」)は、2005 年6月に故・白川静立命館大学名誉教 授(1910 ∼ 2006 年)の業績を記念し、東洋文字文化の 研究および普及を目指して開設された。事業は学術研究 事業と教育文化事業に大別され、うち教育文化事業は東 洋文字文化の普及を目的としている。 教育文化事業の活動が進展するにつれ、研究所自体が さまざまな機能を有するようになってきた(表1)。現 在研究所が主催している講座が量的に拡大を続ける一 方、質的な向上は十分に図れていない。受講者の知識欲 に応えるために中級・上級講座の開設が必要である。ま た、全国展開を図るにも、その担い手を養成する必要が ある。 白川静の研究業績のうちで最も知られたものは、漢字 創生期における呪術的性格を独自の解釈により明らかに し、西暦1世紀に著され字源解説の聖典とされた『説文 解字』注4)の解釈を根底から覆したことである。2004 年 には文化勲章を受章した。死後2年余が経過しても、マ スコミ報道が折りに触れてなされ、新聞等での漢字の説 明に「『字通』では」「『常用字解』では」ということが 図3 立命館大学留学生の国籍 図4 立命館アジア太平洋大学国際学生の国籍
多くなった。また学園外部から「白川静先生を生んだ立 命館」としてブランド評価されるようになった。 国外でも、まず台湾で 1970 年代に著作の翻訳出版が 始まり、2000 年代に入ってからは、韓国や中国でも出 版が始まった。中国では「日本の季羨林注5)」と呼ぶ者 もいる。 4.様々な視点から見た白川静の存在意義を考える (1)立命館の視点 白川静の存在は、立命館学園にとっても以下の意義が ある。 立命館出身者では学術部門の唯一の文化勲章受章者で あり、「文化功労者の顕彰をはじめ多くの賞を受賞」と いう理由で名誉館友に推戴された。死去に際しては「お 別れの会」を学園で催した。『広辞苑』(岩波書店)には、 末川博に次いで学園関係者では2人目の掲載者となり、 国内でも「白川静を生んだ立命館」という意識が高まっ ている。 中国の温家宝総理来校(2007 年4月)や北京大学等 3大学訪問時(2008 年3月)には、立命館より「字書 三部作」注6)を贈呈した。中国人に劣らず漢文化を愛し、 その本質を理解しようと努め、東洋世界の橋渡しになる 人物として、白川静およびその著作は学園のアジア太平 洋重視の象徴となっていると言えよう。 (2)学生・教育の視点 ①漢字や漢語に対する知識が増えることにより、資料 (正字や表外漢字で書かれている文書・書籍)が字 書を駆使しなくても読めるようになる。各学部でも 専門用語を中心に意味をすぐに理解できない言葉が 多い。明治初期に欧米から入ってきた学術用語を漢 語に置き換えて吸収したことにより、日本では高等 教育を自国語で受けられるという特長があり、この ことが日本国民の総体的な学力の高さを維持する原 因でもある。 ②若年層は、漢字は苦手だが、使いたいという複雑な 意識をもっている。「国語に関する世論調査 平成 18 年注7)」によると、「ワープロ・パソコンによる 文書作成の感想」に対して、16 ∼ 19 歳では「文章 の中で漢字を使うようになった」「漢字の知識が増 えた」を挙げた者が、他の年齢層よりも高くなって いる。また「ワープロなどによって漢字が簡単に打 対象 一般市民 児童・生徒・学生 研究者および教育者 項目 体験型漢字講座 「漢字探検隊」 立命館白川静記念 東洋文字文化賞 概要 漢字と自然・歴史との結 び付きを知る 学術研究および教育活動 の奨励 効果 ・立命館小学校推進の「白川文字学による漢字 学習」の発展講座。 ・学園外の参加者や組織とのつな がり拡大。 ・地方展開により、校友・在学生父母および地 域社会への立命館ブランドの浸透 教員・児童生徒 一般市民 出張講座・勉強会 学校・公民館等への 出張講座 ・立命館ブランドの浸透 附属校 学内他組織との 連携 附属校への助言 ・附属校での漢字学習意識の高まり 立命館大学国際平和 ミュージアム 「一字で表す平和への メッセージ」「漢字か ら学ぶ戦争と平和」 ・平和を考える新たなアプローチ 京都府立堂本印象 美術館(指定管理者) 「堂本印象動物漢字カ ード」制作 抽象画の題名の白川文 字学による解説 ・学内組織の融合 ・立命館ブランドの相乗効果 出版社・マスコミ 学外組織への協力 教材出版・監修、原稿 執筆、番組協力 ・立命館ブランドの浸透 ・白川文字学に限らずに幅広い成果を顕彰し、 国内外の研究・教育機関とのつながり拡大 表1 白川研文化事業の機能
ち出せるのだから、漢字をどんどん使っていくこと は望ましい」と考える者の割合が、16 ∼ 19 歳と 20 代では半数を超えている。「漢字を使いたい」とい う気持ちが強いのであれば、系統だった漢字の知識 を教授することにより、学生の漢字能力向上の可能 性がある。漢字・漢語を自在に使えることは、それ だけ簡潔に論理的に文章表現できることになり、ま た抽象的思考能力の向上、学習の深化に役立つこと になる。 (3)社会貢献の視点 漢字は、誰もが日常使用している割には、苦手意識を もつ人が多い。性差・年齢層・地域差なく知識を得たい と思われているものである。公開講座や科目等履修制度 などに組み入れることにより、生涯学習に資するところ は大きい。 (4)東アジア地域の交流ツールとしての視点 白川静の言葉を借りると「漢字は東洋のエスペラント」 であった。東アジア各国間の交流は、漢字と漢文を仲立 ちに行われてきた。国家間の公的なものだけでなく、民 間交流、個人間のやりとりにも漢字は重要な役割を果た してきた注8)。現代、いわゆる漢字文化圏注9)の交流に おいても英語が用いられることが多くなったが、文化背 景は漢字である。平和的交流の重要なツールである漢字 の知識を有しておくことは、意義深い。また漢字文化圏 外の人々との重要な交流ツールとなることが期待され る。白川文字学の精神世界的な要素を日本語教育として の漢字教育に取り入れ、インド・マレー系の学生への興 味を喚起した報告もある注 10)。 一方、同じ漢字文化圏ではあっても、各国での異なる 受容事情が存在する注 11)。また過去から現代にかけて創 出された擬似漢字注 12)や漢字とは別系統の文字も多数存 在する。(ひらがな・カタカナも漢字からできたが、別 系統の文字である。)それらに関する知識も具えておく ことにより、地域を画一的に捉えることなく、複眼的な 視野をもつことができる。
Ⅱ.研究の目的と意義
本研究の目的は、東アジアとつながる「東洋文字文化」 普及プログラムを開発することである。 「Ⅰ.研究の背景」の通り、「東洋文字文化」の知識を 普及させることにより、学内的には学生の学びの基礎と なり、対外的には立命館のブランドや親和力を高めるツ ールとなり、国際的にはアジア太平洋地域とのつながり を促進するツールとなりうる。また、漢字文化圏の言語 を学習するにも、その知識は有益なものとなる。注 13) 立命館学園を代表する白川静の名を冠する白川研が、 漢字を始めとする東洋文字に関する知識を一般に教授す る講座プログラムを開発するとともに、それを支えるも のとして、立命館が「日本とアジア太平洋地域とをつな ぐ」知識の必要性と、ともにそれが学園のビジョンであ ることを発信する事業の始動を提起する。Ⅲ.研究の方法
研究は、次の4つの調査(1∼4)と閲読(5)から 構成する。 調査1.「漢字に対する意識調査」(2008 年7月∼ 11 月 実施)の分析 「国語に関する世論調査」(文化庁)など先行 調査結果と併せて分析する。 調査2.先行事例の調査Ⅰ 白川文字学をブランドに高めた、また活用して いる組織の実態を知る。白川文字学との出合い と沿革、現状と課題について把握する。 調査3.先行事例の調査Ⅱ 立命館学園や他大学・団体が実施している(い た)漢字またはアジア文字をテーマとした一般 向け講座を知る。(日本語教育を除く) 調査4.漢字文化圏内での漢字使用の相違点を知る 東アジア地域での漢字事情の調査 閲読1.諸文献・書籍などの閲読 講座案・事業案の組み立てⅣ.調査結果
1.「漢字に対する意識調査」(2008 年7月∼ 11 月実施) の分析 (1)アンケートの概要 目的…情報化時代における漢字使用に関する意識等を 調査する 対象…16 歳以上の男女地点…京都、東京、福井、大阪、神戸、広島、北九州 時期…2008 年7月 20 日∼ 11 月3日 方法…用紙書込 調査 サンプル数… 340 (2)アンケートまとめ ①漢字の読みに対する自信は、10 代は割合高いが 20 代で大幅に低下し、60 代以上で回復する。書きに 対する自信の推移も年代別に見るとほぼ同じである が、20 ∼ 50 代の落ち込みが、読みに比べて大きい (図5、図6)。「漢字を書く能力が低下したか」と いう問いには、10 代を除くすべての世代が7割以 上「低下した」と回答し、「低下したことに対して どうしているか」との問いには、10 代と 60 代を除 いて「書けるようにしたいとは思うが、実行が伴わ ない」と回答している。60 代は学習意欲が高いと いえる(図7、図8)。 ②漢文学習歴については、在学中の 10 代を除いて、 すべての年代で9割以上が「ある」と回答している。 そのうち受験科目に漢文を選択したことのある人 は、20 代の5割強を除くとどの年代も3割強であ る。「受験以外に漢文を勉強してよかったと思うこ とがありますか」に対しては、20 代から 50 代がほ ぼ5割弱、60 代以上で6割強が「ある」と回答し ている(図9)。自由記述欄では「中国文化・歴史 に触れる」ことにより、「自己の文化度が高まる」 「故事成語などが人生訓になる」「中国語を勉強する のに役立つ」などの回答が多かった。漢文や故事成 語の意味を人生のさまざまな経験のなかで理解し、 図5 「漢字を読むことに自信がありますか」 図6 「漢字を手書きすることに自信がありますか」 図7 「ここ 5 年間で漢字を書く能力が低下したと思い ますか」 図8 「漢字を書く能力が低下したことに対してどうし ていますか」 図9 「受験以外に漢文を勉強してよかったと思うこと がありますか」
好きになることが考えられる。 ③漢字の読み・書きを学習する上で役に立ったことは 何か」への回答には、「何度も漢字を手でかくこと」 が突出し、「辞書(電子辞書、インターネット上の 辞書を含む)を小まめに引くこと」が続いている (図 10)。「実際には行っていないが、役に立つと思 えることは何か」への回答には、「部首やつくり、 漢字の構造について説明を受けること」「漢文を読 む」は各年代で大きな割合を占めている(図 11)。 これまでこのような学習を行わず、ひたすら字書を 引き、何度も書いていたことが伺える。 ④文章にできる限り漢字を使うことは望ましいと考え る者の比率は、10 代、30 代が高く、40 代以上は年 減少する。20 代が突出して低い(図 12)。 ⑤受けたい講座の内容は、「漢字の成り立ち」が突出 しているが、それ以下はほぼ拮抗し、「漢字使用の 歴史」「漢字の果たしたコミュニケーションの歴史」 という教養系と、「読み書きの誤りやすい言葉」と いう実用系、また「故事成語・難読語」という教 養・実用系(試験に頻出する)が続く。年代別に見 ると 10 代は「古代文字の読み方」「部首」に関心が あるが、20 代以上では「漢字文化圏での漢字の使 われ方」「漢字以外の東洋の文字」が多くなり、「東 洋の文字」への関心が起こってくる(図 13)。 ⑥受講したい理由では「生活に役立つから」「自分の 国の言葉を考えるきっかけにしたいから」「自分の 専攻・趣味に役立つから」が多く、「他の国の漢字 の使い方が知りたいから」「他の漢字を使う国出身 の人との理解に役立つから」「漢字を使わない国出 身の人とのコミュニケーションに役立つから」は1 割程度にとどまっている。実際に外国人とのコミュ ニケーションに役立てようという人は少ないが、ま ずは教養としたいということであろう(図 14)。 10 代は、勉強中あるいは勉強直後で、他の世代 図 10 「漢字の読み・書きを学習する上で役に立った ことは何ですか」 図 11 「実際には行っていないが、役に立つと思える ことは何ですか」 図 12 「文章に漢字をどんどん使っていくことは、望ま しいと思いますか」 図 13 「講座にはどんな内容があればいいですか(3 つ選択) 」
に比べて読み、手書きでも「自信あり」の比率が高 いと考えられる。これは、「受けたい講座」で「1 位」に「筆順」や「部首」「書き方(とめ・はね)」 となっていることから、「漢字の成り立ち」という 「漢字文化」への関心ととともに、教室の延長線上 で講座受講を考えていることを示しているとも考え られる。また、文章にできるだけ使うほうが「望ま しい」と回答した者が最も高い比率になっている。 受けたい講座として「部首」「筆順」「古代文字の読 み方」「漢字使用の歴史」を考え合わせると、漢字 使用を肯定的にとらえて、かつ漢字そのものに興味 を持っていることを示していると言える。 大学に入って間もない、またはこれから大学に入ろ うとする者の傾向を見るのには興味深い結果である。 (3)先行調査との比較 本調査の中で、いくつかは文化庁「平成 18 年度『国 語に関する世論調査』」(文化庁調査)と同じ設問への回 答を求めた。本調査の「漢字の読み・書きを学習する上 で役に立ったことは何ですか」は、文化庁調査の「問6」 と同じであり、回答結果は全体の傾向とほぼ同じである が、年代別に見ると若干異なる。「何度も手で書くこと」 は文化庁調査では 30 代、40 代で高く、60 代以上で最も 低いが、本調査では 30 代が最も低く 40 代が突出して高 いほかは、各年代均等である。「漢字をどんどん使って いくこと」については、両調査ともほぼ同じ結果となっ ている。年代別にみると文化庁調査では 10 代が最高で 年代が上がるにつれてその割合が低くなるが、本調査で は 20 代が最低であるほかは、文化庁調査にほぼ近い。 「漢字に関する意識調査注 13)」(漢検調査)と比較する と、「ここ5年間で漢字を書く能力が低下したと思いま すか(漢検調査では「Q 3ここ数年で…」)に対しての 回答は、漢検調査の 35 歳∼ 40 歳での値 85% とほぼ同じ 値となっている。 (4)まとめ どの年代も漢字を使いこなす必要性は感じているが、 その力を高める効果的な方法が見えていないようであ る。漢字文化への興味はあるが、日本語や中国古典のも つ修養の範囲でのものであり、広く東洋文化に対するも のではないことがわかった。 2.先行事例Ⅰ 白川文字学をブランドに高めた、また活用している組 織の実態を調査した。 (1)株式会社平凡社 平凡社と白川静との出会いは 1960 年代に始まるが、 まずは中国文学の解説から始まっており、白川自身の著 書の刊行は 1970 年代になる。平凡社は、「東洋文庫」の 刊行など、学問的に価値が有ると認めれば赤字覚悟で世 に問うことを積極的に行ってきた(『国民百科事典』が 大ベストセラーとなり、その潤沢な資金によって担保さ れていた)。白川文字学の評価が高まっている理由は、 白川静の説く精神文化の表象としての漢字の姿が、「心 を求める」現代人の琴線に触れたからではないかと、分 析している。「字書三部作」が単価 1.5 万円以上しても 版を重ねているのは、かつての家の書棚に飾っておく百 科事典のような権威をもつようになったからではないか と推測する。 (2)福井県 図 14 「受講したいと思う理由は何ですか( 3 つ選択)」 「字書三部作」を始めとした白川著作のほとんど は平凡社から出版されており、他社出版の白川静の 初期の著作も、「著作集」の形で平凡社によりまとめ られている。「白川静漢字暦」も 2005 年版から 2008 年版までを制作した。 白川静の生誕地の福井県では、生涯教育や学校教 育に「白川文字学」を採り入れ、県民こぞって「白 川文字学」を学ぶ取り組みがなされている。
福井県は県民賞授与(2002 年、文化勲章受章は 2004 年)を直接の契機として、白川文字学の普及事業が県の 教育文化事業の重点として行われている。 主な内容として、ハード面では、県立図書館(人口 1 0 万 人 当 た り の 入 館 者 数 は 全 国 平 均 の 6 倍 で ト ッ プ注 15))に「白川文字学の室」を開設(2005 年)し、 「白川静生誕之地」の碑を設置(2007 年)した。今後も 「福井子ども歴史文化館」(展示スペース 1096 ㎡の1/4 強が「白川文字学ゾーン」注 16))の開設を予定(2009) している。ソフト面では、講座開催(親子漢字講座…年 3回 県内各施設にちなんだ漢字について親子で学ぶ講 座)、漢字文化講座(年8回…白川文字学による、漢字 の成り立ちについての講座の開催漢字遊び講習会等の開 催)、漢字遊び講習会(年3回…白川文字学を取り入れ た学習指導者の育成のための講習会の開催)のほか、必 要に応じて小・中・高校教員向けの講習会が県教育研究 所主催で行われている。また、年1回のペースで「白川 文字学フォーラム」を開催している。「福井県生涯学習 情報ネット」注 17)によると、「白川文字学」を専門とす る講師が7名登録されている。このような基礎の上に 「小学校学習指導要領」の「学年別漢字配当表」の範囲 を超えた県独自の漢字学習教材を作成し、県下の全小学 校で一斉に白川文字学に基づく体系的な漢字学習の試み が始まった(2008 年)。 福井県でここまで白川文字学が普及した原因につい て、①県知事のリーダーシップ(マニフェストに入って いる)②県の規模が比較的小さい(人口 82 万人)③堅 実な気質、が挙げられる。まずは県が施策をとり、県民 から次の動きが起こることを期待している。 (3)まとめ 白川文字学の一般に対する普及のためには、①その精 神文化の表象の面を前面に押し出す、②各層に対する講 座を開設して構成員に共通認識をもたせる、③ハード・ ソフト両面での施策を押し出す必要のあることが分かっ た。 3.先行事例Ⅱ 漢字をテーマに活動を展開している組織を調査した。 (1)学習院大学東洋文化研究所 日本を含むアジアの諸国・諸民族の政治、経済、歴史、 社会、文化、思想等に関する研究及び資料収集を目的と して 1952 年に設立。大学附置機関となったのは 1976 年 から。近年の活動としては、学習院大学東洋文化アーカ イブズプロジェクト(2004 ∼ 2007 年)、文部科学省オー プンリサーチセンター整備事業「学習院大学東アジア学 ナリッジセンター」(2007 ∼ 2011 年)がある。 一般向け講座としては、「東洋文化講座」の名称で年 3回のペースで実施、2008 年度は「シリーズ・アジア の文字文化」と題して中央アジア・ハングル・甲骨文字 の講座が開かれた。講演会・討論会も主催・共催併せて 月1回程度のペースで開かれている。 (2)京都大学人文科学研究所附属漢字情報附属漢字情 報研究センター 人文社会研究所の組織再編に伴い 2000 年に設立。情 報工学の技能を東方学の組織に採り込んだ。旧東洋学文 献センターの機能を格段に強化する一方、言語・文献・ 文物・情報の4分野からアプローチして,漢字文化を基 盤とする中国学の資料・研究情報を蓄積・分析すると同 時に、それらを世界の学界に発信する漢字情報処理シス テムの研究・開発を行う。 文部科学省 21 世紀COEプログラムに選定された 「東アジア世界の人文社会情報学研究拠点―漢字文化の 全き継承と発展のために」は、東アジアの文字に関する 人文情報学的研究・漢字文献ナリッジベースの構築・東 アジア人文情報学の人材育成を目的としている。公開講 座としては、「東洋学へのコンピューター利用セミナー」 「漢籍セミナー」「漢籍担当教員講習会」が年1回、オー プンフォーラムを年1回のペースで開催している。 (3)漢字・文字文化に関する授業科目調査 ①立命館大学とAPU両校および関東・近畿地区の 2008 年オンライン・シラバスにより、「漢字/文字」 をキーワードに検索した結果は、表2の通り。 ②社会一般向け講座 白川文字学を中心に据えて開設している社会人向け 講座は表3の通り。 立命館大学では、文学部・国際関係学部の専門科目 として、APUでは共通科目として開設されている が、漢字文化全体から見た系統的なものではない。 この状況は他大学でも同じである。成蹊大学のシラ バスは、現代の言語生活を概観しようというもので あるが、漢検受験が目的の一つとなっている。資格
取得コースの一科目として漢検対策コースが設けら れているところが数校存在する。社会人向け講座に おいても白川静ゆかりの福井と京都にとどまってい る。茨城のものは、白川研の客員研究員(東京在住) によるもの。このほかのカルチャーセンター実施講 座では、漢字検定対策や書道関係が多く、広く漢字 文化を対象とした講座は存在しない。 主催 福 井 京 都 茨 城 福井県 講座名 白川文字学で学ぶ 「漢字学習講座(応用編)」 NPO文字文化 研究所 漢字の成り立ちを正しく学ぶ 「漢字普及講座」成人講座 NPO次世代 教育センター 白川静文字学講座 日常生活に息づく漢字と 字源講座 漢字遊び大会 『白川文字学に学ぶ 漢字おもしろ講座』 受講料 無料 6000円/回 1000円/回 3000円/回 無料 無料 定員 県民40名 50名 30名⇒増員 40名 なし 県民10∼ 40名 時期・回数 年1回・ 隔週2日 2ヵ月に1回・ 全5回 2ヵ月に1回・ 全6回 2ヵ月に1回・ 全4回 春休み・冬休み中 に各1日 年4回 表3 白川文字学をテーマにした社会人向け講座 大学 立 命 館 科目名 開設学部学科 単位 内容 文化交流論R 専門 国際関係 4 日中文化比較 A P U 日本の文化JA・JB 共通 日本の文化について、前半では文字を中 心に考察 基礎 2 成 蹊 実践漢字講座a・b 文・日本文学 漢字に関する知識を提供しつつ、実生活 で役立つ漢字能力を身につけるための訓 練を行う。漢検タイアップ。 専門 2 西武文理 言語表現Ⅰ 教養 サービス経営 2 語彙力の増強。 明 治 日本語の歴史 国際日本 2 日本語の移り変わりの姿とその原因 目 白 日本漢語研究 院・言語文化 2 漢字・漢語の歴史的な変遷 上 智 漢字と漢語 共通 人文 2 歴史書の故事を読み解く アジア太平洋の諸言語 ⅡJA 共通 アジア太平洋地域の諸言語(現代語)に ついて、歴史・音・文字・文法概観。 専門 2 日本語と社会ⅠL 専門 文・日本文学 2 日本語における漢字と漢語使用 日本語と社会ⅡL 専門 文・日本文学 2 日本語における漢字と漢語使用 中国文学特殊講義 ⅠL 文・中国文学 中国における文字誕生の背景を歴史的に 理解 専門 2 中国文学特殊講義 Ⅱ L 文・中国文学 甲骨文を読むことを通して白川文字学の 体系と殷文化との理解 専門 2 表2 大学での「漢字・文字文化」に関する開講科目
(4)まとめ 教養系の単発講座、または実用系・試験対策講座のみ であり、漢字および東洋文字について体系的に網羅して いる講座は存在しない。APUはもとより、他大学との 共催の可能性も視野に入れることにより、講師および受 講者の確保を図る必要のあることがわかった。 4.漢字文化圏内での漢字事情の調査 2008 年8月から9月にかけて、下記の4地域を訪 問・調査を行った。 (1)中国 調査先…北京大学附属小学、北京語言大学 出版社、王府井新華書店 小学校で約 3000 字を学習し、一般に必要な字は 3515 字(常用漢字 1500 字・次常用漢字 2015 字)である。古 典が簡体字に翻訳されているので、一般的には断絶はな いが、研究者は繁体字の学習が必須である。公式文書や 看板などは規範である簡体字を使うよう制限されている が、香港・台湾の影響か、繁体字が「かっこいい」と思 われている。 (2)台湾 調査先…台中教育大学、政治大学附属高級 中学、誠品書店敦化店など 小学校で 2755 字を学習する。一般に必要な字は 4808 字(常用国字)である。公用語は「国語」と呼ばれる北 京語であるが、人口の 80 %は、日常では台湾語や客家 語を用いる。それらや歴史的経緯から日本語の語彙、さ らには先住民の語彙が漢字で表記される。 中台とも初等教育では筆順・点画が厳しく指導される が(漢字の規範筆順があるが、「必」などは日中台すべ て異なる)、中等教育になると語彙の拡充や作文に重点 が置かれ、個々の字体までは指導されない。入試でも 「書き取り」の問題はない。 (3)韓国 調査先…韓国漢字能力検定会、沈慶昊教授 (高麗大)、教保文庫など 中等教育で「漢文教育用」として 1000 字学習するが、 実生活ではハングルのみであり、漢字はほとんど使わな い。大学入試では「漢文」が「第二外国語」の範疇にあ る。漢字の仲立ちがないので漢語を使わず、その結果抽 象的な思考が苦手だという指摘がある。一方、有名企業 なったりしているところが多くなっており、初等教育で は漢字を学習しないので「漢字塾」に子どもを通わせる 家庭が増えている。 (4)中国延辺朝鮮族自治州 調査先 延辺第一中学、 延吉市新華書店 民族言語としての朝鮮語(ハングル表記)の外に、公 用語としての中国語を学習する必要がある。街中の看板 は朝中2言語表記であるが、朝鮮語の語彙が韓国語の影 響を受けて変化している。日常使用する語彙も、中国 語・朝鮮語・韓国語が相互に混じり合っている。 (5)まとめ 4地域共通しているのは、子供が漢字を学習するのに 使用しているのは、教科書を除くと昔ながらの『千字文』 『三字経』注 18)であり、実は漢字教材の開発では日本が 最も種類が多いと感じた。しかし効果は別問題である。 漢字文化圏の他の国々でも、漢字を使用しているがそ の文化背景を十分理解しているとはいえないようであ る。一方、日本では『千字文』『三字経』を使用してい る者は少なくなっており、漢字文化圏同士での文化的基 礎に齟齬が生じるものと思われ、それを埋める「東洋文 字文化」の知識を共有することが必要と考える。
Ⅴ.政策提起
研究の目的である「漢字を始めとする東洋文字に関す る知識を一般に教授する講座プログラムを開発するとと もに、それを支えるものとして、立命館が『日本とアジ ア太平洋地域とをつなぐ』知識の必要性と、ともにそれ が学園のビジョンであることを発信する事業の始動を提 起する」には、これまでの調査から以下の要素が必要で あることがわかった。 (1)調査1 講座を開設するだけでなく、「東洋文字文化」の存在 自身を発信していく必要がある。また講座の内容も実用 系・教養系双方の内容を具え、幅広い需要に対応しない と受講者から敬遠されるものになる。 (2)調査2 学園全体のビジョンとして、東洋文字文化の知識を吸収し、対外的に発信する仕組みを作ること。ソフト(講 座・事業)・ハード(施設等)の両方の存在が必要。 (3)調査3 必ずしも立命館学園内だけで完成させる必要はない。 他大学・研究所などと連携をとることにより、需要と供 給を確保できる。 (4)調査4 日本人だけでなく、外国人にも理解できる講座とする ために、日本での受容の仕方についても講義内容に盛り 込む。また、非漢字圏にも発信できる講義内容にする。 以上の研究成果を踏まえ、以下の施策を提起する。 (1)「日本と東アジアとをつなぐ東洋文字文化講座」の 開設 形 態 下記の5講座に分割して実施。1講座当た り5∼7回。実施順や時期は、講師と相談。 採算ベースは、交通費・講師謝礼・教材制 作費を考えると 1000 円/回(全5∼7回) で、24 名/回。2000 円/回で 12 名。 (東京キャンパス・大阪オフィス開催の講 座は 2000 ∼ 3000 円/回) 実施場所 朱雀キャンパス・東京キャンパス⇒将来的 には、放送大学での開講も模索する。 講 師 白川研関係者+孔子学院+言語教育センタ ー+APU、東京講座では東京外国語大学 アジア・アフリカ言語文化研究所(AA研) などの協力。また、白川研だからできるゲ スト講師(白川家ご遺族、平凡社、白川静 ファンの有名人)を招いて、特別講義を行 う。〔調査1・3の結果を踏まえて〕 (2)「東洋文字文化」を発信する事業〔調査1・2・3 の結果を踏まえて〕 ①「 好 奇 字 展 − 白 川 静 と 東 洋 文 字 文 化 の 世 界 」 展 2009 年1月 衣笠キャンパスにおいて開催する。 主催は、白川研と東京外国語大学AA研。 ②「白川静文庫の開設」と「白川静生誕 100 周年」記 念フォーラム 2010 年春 ③「国民文化祭きょうと」への参加 2011 年秋 ④一般共通科目としての「白川文字学」 2009 年度より、半期講座として開講決定。衣笠 キャンパス6学部共通。 テーマ 回 1 2 3 4 5 漢字の成り立ち 字形の変化と部首 漢字の体系① 漢字の体系② 文字の体系③ 内容 漢字に関する基礎知識(六書の基本) 部首の歴史、字形の変化と白川静の主張 漢字音のつながりは、意味のつながり 漢字音のつながりの多様さ、その面白さ まとめ 表5 ②「漢字の体系」〔調査1の「実用系」「教養系」〕 テーマ 回 1 2 3 4 5 6 7 はじめに 熟語 漢文おさらい 部首と筆順 読み・書き 故事成語・四字熟語 同音訓異字・送り仮名 内容 漢字に関する基礎知識(六書の基本) 漢語と和語、熟語の構成 漢文法の基礎 基準は有るのか 漢字の体系と白川静の研究 「常用漢字表」、熟字訓・当て字、読み書きの誤りやすい字 表4 ①「漢字に強くなる講座」〔調査1の「実用系」〕 講 義 案
テーマ
回
1
2
3
4
漢字の歴史①
漢字の歴史②
漢字の歴史③
漢字の歴史④
内容
甲骨から楷書の成立まで、書体の変遷
甲骨文字を読んでみる
六書、字体の変化、初文と繁文
字書について 『説文解字』『干禄字書』『康煕字典』
甲骨文字の発見と白川静の研究
5
6
7
日本の漢字の歴史①
日本の漢字の歴史②
日本の漢字の歴史③
漢字伝来、万葉仮名、かなの誕生、音訓
漢文訓読、「漢字御廃止之儀」、戦前の漢字制限
当用漢字表、常用漢字表、学習漢字、人名用漢字
表6 ③「漢字と日本語の歴史」〔調査1の「教養系」〕テーマ
回
1
2
3
4
5
漢字の字体①
漢字の字体②
漢字の用法
ITと漢字
現代漢字の用例
内容
旧字と新字の問題、JIS漢字
ユニコード
用字の問題(交ぜ書き・書き換え)
ワープロ、辞書機能
字幕、テレビのクイズ番組、看板、「悪魔ちゃん」
表7 ④「現代日本の漢字」〔調査1の「教養系」〕テーマ
回
1
2
「東洋文字文化」とは
中国の漢字
内容
漢字文化圏と東洋の文字についての概説
清朝・民国の和製漢語の大量流入と、現代における台湾・日本語
の影響、文字政策、学校教育、簡体字、用字法、方言
3
香港・台湾の漢字
香港 繁体字、方言字
台湾 文字政策、学校教育、繁体字、日本語の影響
4
韓国・朝鮮の漢字
歴史、ハングル創製、60年漢字戦争、漢字語、長短音
日中両国語の影響
5
東南アジアの漢字
ベトナム漢字語・チュノム、シンガポールでの簡体字
東南アジア華僑での漢字使用
6
その他東洋文字
歴史的文字(女真文字・契丹文字・西夏文字)
現存文字(モンゴル文字・チベット文字・トンパ文字など)
7
「東洋のエスペラント」
漢字を仲立ちにした東アジアのコミュニケーションの歴史
表8 ⑤「東洋文字文化」〔調査1の「教養系」、調査4〕 *各回の講義は日本語で行うが、受講者の非漢字圏とのコミュニケーションツールになるよう、レジュメには英語 による概要を掲載する。〔調査4〕Ⅵ.残された課題
1.講師養成を目的とした上級・講師養成クラス講座の 開設 今回提起した講座の内容は、教養クラスとしては十分 であり、一部には日本語専攻の大学院レベルの内容も存 在する。 しかし講師養成には不十分なレベルである。福井県な どの事例を参考に上級・講師養成クラスの講座開設を次 段階として構想したい。 2.日本とアジア・太平洋地域とをつなぐ講座の開設 「日本とアジア・太平洋地域とをつなぐ」目的を達成 するためには、文字文化だけでは当然不十分であり、衣 食住・思考・習慣など様々な文化に関する理解が必要で ある。白川研にとどまらず、全学的な取り組みが求めら れる。取り組みを準備することにより、学園の教職員の 中にも「日本とアジア・太平洋地域とをつなぐ」という 理念が浸透されることを期待する。 【注】 1)立命館は、2004 年度より、日本政府と中国政府の間で実施 されている円借款事業の一環として中国内陸部の大学におい て管理運営に携わっている教職員、幹部候補の大学教職員、 およびそれらの大学を所管する教育庁関係者を対象として 「中国の大学管理運営幹部特別研修」を行っている。主とし て日本の私立大学における管理運営・財政・教学の改革に係 る経験等について学ぶ。 2)孔子学院は、中国語・中国文化普及のため中国政府が国策 として 2004 年に打ち出した。世界初の孔子学院は 2004 年 11 月に韓国ソウルで設立され、日本では立命館大学と北京大学 の提携によって 2005 年に設立された立命館孔子学院が第一 号である。2008 年 10 月現在、世界 78 か国・地域に 292 校存 在する。 3)立命館大学国際平和ミュージアム(京都市北区)は、立命 館大学が設立した『平和』をテーマとした世界で唯一の大学 立の博物館。1992 年、立命館大学の教学理念『平和と民主主 義』を具体化するとともに、同大学が蓄積してきた平和教 育・平和研究を発展させるために設立・開設された。 4)『説文解字』は、最古の部首別漢字字典。後漢の許慎の作 で西暦 100 年に成立。叙1篇、本文 14 篇。所載の小篆の見出 し字 9353 字、重文 1163 字。漢字を 540 の部首に分けて体系 付け、その成り立ちを「象形・指事・会意・形声・転注・仮 借」の6種(六書)に分けて解説し、字の本義を記す。 5)季羨林(1911 ∼)北京大学教授。言語学者・文学者・教育 家・翻訳家・宗教学者。 中国では「学術大家」とも称され る。「白川静:日本的季羨林」『新快報』2006 年 11 月9日。 6)「字書三部作」とは白川静が、自己の字源説や漢字の日本 語への吸収過程を字書の形でまとめた『字訓』『字統』『字通』 (いずれも平凡社刊)を指す。 7)「国語に関する世論調査 平成 18 年度」(文化庁) 目的:情報化時代における漢字使用、慣用句等の意味の理解や 使用に関する意識等を調査し、国語施策を進める上での参考 とする。 対象:全国 16 歳以上の男女 時期:平成 19 年2月 14 日∼3月 11 日 方法:個別面接調査 回収結果:アタック総数 3,442 人 有効回収数(率)1,943 人 (56.4 %) 8)日本史の重要事項に関するものとしては、①鎌倉時代、元 が北条時宗に遣した使者は、すでに勢力に収めた高麗人であ り、フビライの国書(漢文)を示した。日本・朝鮮・中国・ モンゴル四者とも漢文を理解したのである。②室町時代、中 国船が種子島に来航。地元役人が中国人と筆談。乗船してい たポルトガル人から鉄砲を購入する。③江戸時代、対馬藩の 儒学者・雨森芳洲は、朝鮮通信使の正使と相互に漢詩を送り、 個人的にも友情を深めていった。 9)漢字文化圏とは「文化圏」概念の一つであり、①中国②中 国皇帝からの冊封(名目的な君臣関係)をうけた周辺諸民族 のうち、漢文を媒体として、中国王朝の国家制度や政治思想 をはじめとする文化、価値観を自ら移入し、発展させ、これ を中国王朝と緩やかに共有しながら政治的には自立を確保し た地域、の双方をあわせた地域を指す。現在の地域区分で言 うと「東アジア」と重なる部分が大きく、現存国家の中では、 中国、ベトナム、北朝鮮、韓国、日本などがここに含まれる。 西嶋定生が提唱した「東アジア世界論(冊封体制論)」をき っかけとして定着し、歴史学における「文化圏」概念形成の モデルの一つとなった。 10)立命館大学法学部・遠山千佳准教授および言語教育研究科 修士・平井陽子の証言。 11)韓国語では、訓読みがない。ほとんどの漢字の読みは一つ である。漢文は原文の語順で読む。(訓読みがある、漢字の 読みが複数ある、訓点を使って語順を変えて読むことは、日 本語での特徴といえる) 12)「擬似漢字」とは、中国の周辺諸国が漢字の造字法を基に、 自らの言語に合うように制定した文字。チュノム(ベトナム)、 女真文字、契丹文字、西夏文字などを指す。 13)例を挙げると、「連合」「崩壊」は中国語では「聯合(□ 合)・崩潰(崩□)」と表記する。日本でもかつてはそう表 記していたが、「同音の漢字による書きかえ」が 1956 年に国 語審議会から報告され、当用漢字にない「聯・潰」を「連・ 壊」に書き換える指針が示された。 韓国語やベトナム語では語彙の 60 ∼ 70 %が漢字語であるといわれる。漢字を仲立ちにすることにより語彙力の向上が 期待できることは、多方面からの指摘がある。 14)漢字に関する意識調査「12 月 12 日漢字の日・日本人の漢 字力調査」(財団法人日本漢字能力検定協会) 目的…『漢検 DS』の売り上げ急増が日本人の漢字力(漢字 の読み書きの力)に起因しているかを探る。 対象…全国の 10 ∼ 15 歳 400 名および 35 ∼ 40 歳 400 名 時期… 2006 年 11 月 方法…インターネット 15)2008 年2月 29 日福井県報道発表資料。 16)「福井子ども歴史文化館の展示設計に係る企画提案募集に ついて」2008 年5月 29 日。 17)http://www.manabi.pref.fukui.jp/you-i/Systop.html 18)『千字文』は、6世紀に南朝・梁の武帝が、周興嗣に作ら せた文章。1000 字の全く異なる字から成る。多くの国の漢字 の初級読本となった。『三字経』は、宋代の儒者王応麟によ るもの。儒教を基本とし、思想家や歴史、当時の常識を3字 一組にして表現した家庭教育書。 【参考文献】 1)白川静『漢字―生い立ちとその背景』岩波書店(岩波新書)、 1970 年 2)白川静『金文の世界―殷周社会史』平凡社(東洋文庫)、 1971 年 3)白川静『甲骨文の世界―古代殷王朝の構造』平凡社(東洋 文庫)、1972 年 4)白川静『漢字の世界―中国文化の原点1、2』平凡杜(東 洋文庫)、1976 年 5)白川静『漢字百話』中央公論新社(中公新書)、1978 年 6)阿辻哲次『図説漢字の歴史』大修館書店、1989 年 7)高島俊男『漢字と日本人』文芸春秋社(文春新書)、2001 年 8)国語審議会・文化審議会国語分化会議事録 文化庁国語施 策情報システム(http://www.bunka-go-jp/kokugo/) 9)安田敏朗『国語審議会 迷走の 60 年』講談社(現代新書)、 2007 年 10)小池和夫、府川充男、直井靖、永瀬唯『漢字問題と文字コ ード』太田出版、1999 年 11)芝野耕司編著『JIS 漢字字典』 日本規格協会、2002 年 12)大原信一『漢字の移り変わり』 東方書店、1980 年 13)朝倉漢字講座第5巻 朝倉書店、2005 年 14)韓國漢字能力檢定會ホームページ(http://www.hanja.re. kr/) 15)呉善花『漢字廃止で韓国に何が起きたか』PHP 研究所、 2008 年 16)東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 編『図 説 アジア文字入門』河出書房新社、2005 年
Development of a program for the spread of East Asian letters and culture to create
links with East Asia
KUBO, Hiroyuki
(Staff, Office of Educational and Cultural Planning and Development)ITO, Noboru
(Senior Researcher, Research Center for Higher Education Administration)TAKEDA, Atsushi
(Deputy Managing Director, Office of Educational and Cultural Planning and Development)MURAKAMI, Yoshitsugu
(Administrative Manager, Office of Educational and Cultural Planning and Development)Keywords
Ritsumeikan Charter, linking Japan and the Asia-Pacific region, Shirakawa Shizuka, East Asian letters and culture, Chinese characters (kanji)
Summary
Spreading knowledge about kanji and other East Asian characters (East Asian letters and culture) is foundational to students’ studies at the Ritsumeikan Academy and externally offers a tool for both raising the Ritsumeikan brand and increasing affinity with the university, while internationally it provides a tool for promoting connections with the Asia-Pacific region, particularly East Asia. Not only is the Shirakawa Shizuka Institute of East Asian Letters and Culture at Ritsumeikan University, named for Shirakawa Shizuka, one of Ritsumeikan’s most renowned figures, developing a lecture program to offer general instruction on kanji and other East Asian letters, but Ritsumeikan is also supporting this by launching projects to disseminate the importance of knowledge linking Japan and the Asia-Pacific region and the fact that this is Ritsumeikan’s vision.