有向曲面,非有向曲面のレベルつき写像類群のアーベル化について
岐阜大学教育学部佐藤正寿 Masatoshi Sato Faculty ofEducation, Gifu university1
はじめに
本稿ではレベルつき写像類群のアーベル化について得られた結果[6], [16] の要約を述 べる.また,有向曲面のレベル4写像類群のアーベル化はまだ決定されていないが,これ に関連して,最近調べたことについて述べる. 第2節では [6] において得られた非有向曲面のレベル2写像類群のアーベル化の結果 について述べる.第3節では,[16] において得られた,有向曲面のレベルつき写像類群の アーベル化の結果について述べる.また,[16] において,アーベル化の構造を調べる上 で,曲面の $\mathbb{Z}$/2$\mathbb{Z}$係数1次ホモロジー群を基底とする自由加群からレベル 2写像類群の アーベル化への全射準同型を構成した.他のレベルの場合についても,全射とは限らな いが同様の準同型を構成できる.本稿の第4節ではこの準同型に関連して,最近得られ た結果について述べる. 有向曲面と非有向曲面のレベル2写像類群のアーベル化には大きな違いがある。非有 向曲面の場合には,レベル2写像類群上に代数的に構成された,mod2 Johnson準同型 ([3], [8], [13] 参照) という加群への準同型によって,そのアーベル化が完全に記述され る.これに対し,有向曲面の場合にも mod2 Johnson 準同型は構成できるが,これはレ ベル2
写像類群のアーベル化に単射を誘導せず,アーベル化を記述するには不十分であ る.その理由は,有向曲面のTorelli群のアーベル化には幾何的な位数2の元が多く存在 し,それらのmod2 Johnson準同型による値が$0$ になるためである. コホモロジー類の言葉では,この位数 2 の元は Birman-Craggs 準同型 ([2]) (もしく は,Torelli群の元による2つのハンドル体の貼り合わせにより得られる整ホモロジー 3 球面のRochlin不変量) に対応するものである.上で幾何的と述べたのはそのためであ る.筆者は,Heap [5] により構成された有向曲面の Torelli群上の加群への準同型と類似 した準同型をレベル2写像類群上に構成することにより,これらの元が1つを除いて,レ ベル 2写像類群のアーベル化において非自明であることを示し,アーベル化を完全に決 定した. 現在筆者が興味をもっていることとして,$d$ が4の倍数のときの有向曲面のレベル $d$ 写像類群のアーベル化がある.これは完全には決定されておらず,原因は,上で述べた Torelli群のアーベル化にすむ位数 2 の元のうちの 1 つが,レベル$d$写像類群において消えるかどうかがわかっていないためである.レベル2写像類群については,第3節で述 べる,曲面の $\mathbb{Z}$/2$\mathbb{Z}$係数1次ホモロジー群の生成する自由加群からアーベル化への準同 型を調べることで,このTorelli群のアーベル化にすむ位数2の元が消えることが偶然示 せたため,アーベル化が完全に決定できた. なお,もしこの元がレベル$d$写像類群で生きているとすると,つまり,Torelli 群のアー ベル化のレベル$d$写像類群による coinvariant (定義は 3 節で後述する) から,レベル$d$ 写像類群のアーベル化への準同型が単射だとすると,Torelli 群上で構成された Birman-Craggs 準同型を,レベル $d$写像類群上の準同型に拡張することができる.これに関連 して,レベル$d$写像類群により 2 つのハンドル体を貼り合わせて得られる $\mathbb{Z}/d\mathbb{Z}-$ホモロ ジー 3球面の Rochlin不変量をレベル$d$写像類群上の関数として表すことにも筆者は興 味をもっている.
2
非有
$\prod p$曲面のレベル
2
写像類群のアーベル化
廣瀬進氏との共同研究[6] において得られた,非有向曲面のレベル2写像類群のアーベ ル化と生成系に関する結果について述べる.曲面$N_{g}$ を $\mathbb{R}P^{2}$ の$g$個の連結和として定める.曲面 $N_{g}$ の写像類群を,$\mathcal{M}(N_{g})=$ Diff N $/($isotopy) として定める.以下では位数$d$
の巡回群を $\mathbb{Z}_{d}$ と表すことにする.写像類群$\mathcal{M}(N_{g})$ は曲面の $\mathbb{Z}_{2}$係数1次ホモロジー群
に作用するため,準同型$\mathcal{M}(N_{9})arrow AutH_{1}(N_{g};\mathbb{Z}_{2})$ が定まる.この準同型の核を $\Gamma_{2}(N_{g})$
と表し,レベル 2写像類群とよぶ.
写像類群$\mathcal{M}(N_{g})$ の有限生成系は Chillingworth [4], Birman-Chillingworth [1] におい
て与えられており,レベル2写像類群$\Gamma_{2}(N_{g})$ の有限生成系はSzepietowski [18] により
求められている.Szepietowski はまず,$Y$-homeomorphism と呼ばれる pushing map の
一種により,レベル2写像類群が正規生成されることを示した ([17]).
まず,$Y$-homeomorphism (もしくは,crosscap slide とも呼ばれる) について説明す
る.非有向曲面の単純閉曲線は 1 次 Stiefel-Whitney 類の値によって,その管状近傍がア
ニュラスになるか,メビウスの帯になるか,の2種類のものがある.これらをそれぞれ
A-circle, $M$-circle と呼ぶことにする.曲面$N_{g}$ 内の$A$-circle $a$ と $M$-circle $m$ が図 1 のよ
うに 1 点で交わっているとする.このとき $M$-circleの近傍$T$から,内部 (メビウスの帯)
を取り除くと境界は円周である.$A$-circleと,この $M$-circle の近傍$T$ の境界は2点であ
り,$A$-circle と $N_{9}$ –Int$T$ の共通部分は,上の2点を端点にもつ弧であることに注意す
る.$Y$-homeomorphism $Y_{m,a}$ とは,右側の図にあるように,この弧に沿って $T$ を1周さ
せる写像として定義される.なお,中央の図では,$a$ の近傍を $m$ の近傍に沿ってハンド
ルスライドしている.
Szepietowski はさらに,有限個の $Y$-homeomorphism とDehn ツイストの2乗の生成
する部分群が正規であることを示し,$Y$-homeomorphismで正規生成される部分群,つま
$a$
図 1: A-circle $a$ and $M$-circle $m$
えた.廣瀬氏との研究では,Szepietowskiによるこの有限生成系の位数を小さくし,位数
$+(\begin{array}{l}g2\end{array})$ の生成系を構成した.
この生成系を説明する.曲面$N_{g}$ は$S^{2}$から $g$枚の開円板を取り除き,境界のそれぞれの
連結成分において,その対蹄点を同一視することにより得られる.これによって,図2の
ように曲面 $N_{g}$ を描くことにする.曲面$N_{g}$ 内の単純閉曲線として,図のように $\alpha_{i_{1},i_{2},\ldots,i_{k}}$
をとる.閉曲線 $\alpha_{i_{1},i_{2},\ldots,i_{k}}$ は $k$ が偶数のとき $A$-curve, $k$ が奇数のとき $m$-curveとなるこ
図2: simple closed
curve
$\alpha_{i_{1},i_{2},\ldots,i_{k}}$とに注意する.我々の生成系は以下のものである.また,これはmod2 Johnson準同型
の像の $\mathbb{Z}_{2}$-rankに一致することがわかり,この生成系が最小位数のものであることを示
した.
定理2.1 ([6]). $g\geq 4$ とする.レベル2写像類群$\Gamma_{2}(N_{g})$ は以下の元で生成される.また,
これは最小位数の生成系である.
(i) $Y_{\alpha_{\iota},\alpha_{i,j}}$
for
$i\in\{1, . . . , g-1\},$ $j\in\{1, . . . , g\}$, and $i\neq j,$(ii) $T_{\alpha_{1,j,k,l}}^{2}$
for
$1<j<k<l.$特に mod2 Johnson 準同型がアーベル化に単射を誘導することもわかり,アーベル化
定理2.2 ([6]). $g\geq 4$ のとき, $H_{1}(\Gamma_{2}(N_{g}))\cong \mathbb{Z}_{2}^{(_{3}^{g})+(_{2}^{g})}.$
3
有
$\prod p$曲面のレベル
$d$写像類群のアーベル化
次に,[16] において得られた,有向曲面のレベル$d$ 写像類群のアーベル化の結果を述 べる.説明を簡単にするため,連結な境界をもつ種数$g$ の有向コンパクト曲面$\Sigma_{g,1}$ の写 像類群$\mathcal{M}_{g,1}=Diff_{+}(\Sigma_{g,1}, \partial\Sigma_{g,1})/($isotopy rel $\partial\Sigma_{g})$
の場合に述べる.筆者が決定したのは,$d=2$ と $d$ が奇数の場合におけるレベル $d$写像 類群のアーベル化である.$d$が奇数のときのアーベル化は,Perron [13], Putman [14] に おいても独立に決定されている.また,$d=2$ の結果を拡張して,Putman [15] は$d\equiv 2$ (mod4) のときのレベル$d$写像類群のアーベル化を決定している.$d$ が4の倍数のとき には,Torelli 群のアーベル化にすむ1つの位数2の元が,レベル $d$写像類群のアーベル 化において自明かどうかがわかっていないため,未解決である. 有向曲面のレベル$d$写像類群のアーベル化を決定する上で,完全列
$1arrow \mathcal{I}_{g,1}arrow\Gamma_{d}(\Sigma_{g,1})arrow Sp[d]arrow 1.$
が重要である.ここで,$Sp[d]$ は symplectic群のレベル$d$ 主合同部分群である.
一般に群$G$ が加群$M$ に左から作用しているとき,coinvariant $M_{G}$ とは
ル$G= \frac{M}{\{gm-m\in M|g\in G,m\in M\}}$
で定義される加群である.上で述べた群の完全列はアーベル化の間に完全列
$H_{1}(\mathcal{I}_{g,1})_{Sp[d]}arrow H_{1}(\Gamma_{d}(\Sigma_{g,1}))arrow H_{1}(Sp[d])arrow 0$ (1)
を誘導する.ここで,$H_{1}(\mathcal{I}_{g,1})_{Sp[d]}$ は群$\Gamma_{d}(\Sigma_{g,1})$ の共役作用が誘導する,$H_{1}(\mathcal{I}_{g,1})$ への
SP
$[d]$ 作用の coinvariant である.以下では,$H_{d}=H_{1}(\Sigma_{g,1};\mathbb{Z}_{d})$ とおく.$H_{1}(\mathcal{I}_{g,1})$ の構造は Johnson [7] において求められており,特に coinvariant は以下のようになる.
$H_{1}(\mathcal{I}_{g,1})_{Sp[d]}\cong\{\begin{array}{ll}\Lambda^{3}H_{d}\oplus \mathbb{Z}_{2}[Matrix]+[Matrix]+[Matrix], if d is even,\Lambda^{3}H_{d}, if d is odd.\end{array}$
ここで,$d$ が偶数のときに現れる位数 2 の元が,Birman-Craggs 準同型,もしくは,整ホ
モロジー 3球面のRochlin不変量に由来する幾何的なものである.
また,$H_{1}(Sp[d])$ は[16] において決定されている.$d$が奇数のときは,[13], [14] におい
ても計算されている.$\mathbb{Z}_{d}$ を係数にもつ $2g$次正方行列であって,$tAJ+JA=0$ を満たす
補題 3.1 ([16]). $g\geq 2$ とする.$d$ が奇数のとき,
$H_{1}(Sp[d])=\mathfrak{s}\mathfrak{p}(2g;\mathbb{Z}_{d})$
.
また,$d$が偶数のとき,
$0arrow H_{1}(\Sigma_{g_{)}1};\mathbb{Z}_{2})arrow H_{1}(Sp[d])arrow \mathfrak{s}\mathfrak{p}(2g;\mathbb{Z}_{d})arrow 0$ (2)
は完全であり,加群としては $H_{1}(Sp[d])=\mathbb{Z}_{d}\oplus \mathbb{Z}_{2d}(\begin{array}{l}2g2\end{array})(\begin{array}{l}2g1\end{array})$
3.1
$d$ が奇数のとき完全列 (1) と以上で述べてきたことから,$d$が奇数のとき次の完全列が得られる
$\Lambda^{3}H_{d}arrow H_{1}(\Gamma_{d}(\Sigma_{g,1}))arrow \mathfrak{s}\mathfrak{p}(2g;\mathbb{Z}_{d})arrow 0.$
河澄 [8] において,moddJohnson 準同型 $\tau_{1}:\Gamma_{d}(\Sigma_{g,1})arrow H_{d}^{\otimes 3}$ が構成されており,特に $d$ が奇数のとき,上の完全列の分裂を与えることがわかった.な お,Broaddus-Farb-Putman [3], Perron [13] も同種の準同型を独立に構成している. これにより,レベル$d$写像類群のアーベル化は以下のように表される. 定理3.2 ([13], [14], [16]). $g\geq 4,$ $d$が奇数のとき, $H_{1}(\Gamma_{d}(\Sigma_{9,1}))=\Lambda^{3}H_{d}\oplus \mathfrak{s}\mathfrak{p}(2g;\mathbb{Z}_{d})$.
3.2
$d=2$ のとき 次に,$d=2$のときを考える.$d$が奇数のときと同様に,mod2 Johnson準同型がレベル2写像類群上に構成できるが,$H_{1}(\mathcal{I}_{g,1})_{Sp[d]}$ にはBirman-Craggs準同型に由来する $\mathbb{Z}_{2}$ 加
群があるため,これは完全列の分裂を与えるわけではなく,アーベル化を決定するのに
不十分である.代わりに,Heap[5] により構成された Torelli群上の準同型の $mod$$2$版と
よぶべきものを,レベル2写像類群上に構成することで,これが解決できた.これについ
て説明する.
写像類$[f]\in\Gamma_{2}(\Sigma_{g})$ について,有向閉3次元多様体$M_{[f]}$ を
$M_{[f]}=((\Sigma_{g,1}\cross[0,1])/(f(x), 0)\sim(x, 1))\cup(\partial\Sigma_{g,1}\cross D^{2})$
により定める.このとき,$H_{1}(M_{[f]};\mathbb{Z}_{2})\cong H_{1}(\Sigma_{g,1};\mathbb{Z}_{2})$ となる.また,多様体$M$ の spin
spin$M_{[f]}$ が存在する.したがって,以下では$M_{[f]}$ の 1 次コホモロジー群,および,spin構 造は $\Sigma_{g,1}$ のものと同一視する. 以上の準備の下,レベル2 写像類群から 3 次ボルディズム群$\Omega_{3}^{spin}(\mathbb{Z}_{2})$ への準同型写像 を構成することができる.ここで,$\Omega_{3}^{spin}(\mathbb{Z}_{2})$ とは,3次元有向閉多様体$M$, そのspin構 造$\sigma,$ $\mathbb{Z}_{2}$ 係数 1 次コホモロジー類$c$の組のボルディズム類であり,あるコンパクト有向 4 次元多様体$V$ とその spin構造$\tau$ が存在して,
$\partial V=M_{1}\coprod(-M_{2}) , \tau|_{M_{i}}=\sigma_{i},$
さらに$H^{1}(V;\mathbb{Z}_{2})arrow H^{1}(M_{i};\mathbb{Z}_{2})$ による$c$の像が$c_{i}$であるとき,$[M_{1}, \sigma_{1}, c_{1}]=[M_{2}, \sigma_{2}, c_{2}]\in$
$\Omega_{3}^{spin}(\mathbb{Z}_{2})$ とみなすものである.なお,Brown不変量と呼ばれる,曲面の$pin^{-}$ 構造の不変
量を通して,$\Omega_{3}^{spin}(\mathbb{Z}_{2})\cong \mathbb{Z}_{8}$ となることが知られている.
定理 3.3 ([16]). $g\geq 4$ とし,$\sigma\in$ spin$\Sigma_{g,1},$ $c\in H^{1}(\Sigma_{g,1};\mathbb{Z}_{2})$ とおく.写像
$\eta_{\sigma,c}:\Gamma_{2}(\Sigma_{g,1})arrow\Omega_{3}^{spin}(\mathbb{Z}_{2})$
を $\eta_{\sigma,c}(\varphi)=[M_{\varphi}, \sigma, c]$ と定めると準同型.また,
$\eta_{\sigma,c}$ が誘導する準同型
$\{(\eta_{\sigma,c})_{*}\}_{\sigma\in spin\Sigma_{g,1}}C\in H^{1}(\Sigma_{g,1;\mathbb{Z}_{2})}:H_{1}(\Gamma_{2}(\Sigma_{g,1}))arrow\Omega_{3}^{spin}(\mathbb{Z}_{2})^{N}$
は単射.ただしここで,$N$ は spin$\Sigma_{g,1}$ と $H^{1}(\Sigma_{g,1};\mathbb{Z}_{2})$ の位数の積である.またさらに,
$H_{1}(\Gamma_{2}(\Sigma_{g,1}))=\mathbb{Z}_{8}(\begin{array}{l}2g1\end{array})\oplus \mathbb{Z}_{4}\oplus \mathbb{Z}_{2}.$
注意3.4. 特に完全列 (2) からわかるように, $Ker(H_{1}(\mathcal{I}_{g,1})_{Sp[2]}arrow H_{1}(\Gamma_{2}(\Sigma_{g,1})))=\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}.$ したがって,Birman-Craggs 準同型の中には,準同型としてレベル2写像類群上に拡張 しないものがあることがわかる.(実は,任意の2つのBirman-Craggs準同型の差は,上 の準同型を用いてレベル2 写像類群上に拡張することがわかっている)
4
レベル $d$写像類群のアーベル化における
Dehn
ツイスト
の $d$乗
最後にレベル4写像類群のアーベル化を調べるために,曲面の $\mathbb{Z}_{d}$係数1次ホモロジー 群を基底とする自由加群からレベル $d$ 写像類群のアーベル化への準同型の性質を調べる.記号 $H_{d}^{prim}$ により,$H_{1}(\Sigma_{g};\mathbb{Z}_{d})$ の primitive な元 (言い換えれば,曲面を分割しない
補題 4.1 ([16]). 準同型 $\Phi_{d}$ : $\mathbb{Z}[H_{d}^{prim}]arrow H_{1}(\Gamma_{d}(\Sigma_{g,1}))$ を $\Phi_{d}([x])=[T_{x}^{d}]$ により定める
と,well-defined. ただし,$[x]$ は有向単純閉曲線$x\subset\Sigma_{g,1}$ の代表するホモロジー類とし,
$T_{x}\in \mathcal{M}(\Sigma_{g,1})$ は$x$ に沿う Dehnツイストとする.
証明.証明の概略を述べる.$H_{d}$ の元は有向単純閉曲線で代表できる.もし,$\Sigma_{g,1}$ 内の有
向閉曲線$x$,x’が$[x]=[x’]\in H_{1}(\Sigma_{9};\mathbb{Z}_{d})$ を満たすとする.このとき,[16, Lemma 6.2] に
書かれているように,ある写像類$\varphi\in\Gamma_{d}(\Sigma_{g,1})$ が存在して,$\varphi(x)=x’$. またよく知られ
ているように,写像類群において関係式$\varphi T_{x}\varphi^{-1}=T_{x’}$ が成り立つ.したがって,
$[T_{x}^{d},]=[\varphi T_{x}^{d}\varphi^{-1}]=[T_{x}^{d}]\in H_{1}(\Gamma_{d}(\Sigma_{g,1}))$
.
口
本節では,上で構成した準同型について次を示すことを目標とする.より精密に調べ
れば,レベル2 写像類群のときと同様に $Ker(H_{1}(\mathcal{I}_{g,1})_{Sp[d]}arrow H_{1}(\Gamma_{d}(\Sigma_{g,1})))$ が $\mathbb{Z}_{2}$ であ
ることを示せるかもしれないが,現状ではわかっていない $($なお,
$Ker(H_{1}(\mathcal{I}_{g,1})_{Sp[d]}arrow$ $H_{1}(\Gamma_{d}(\Sigma_{g,1})))=0$ or $\mathbb{Z}_{2}$ まではわかっている)
命題4.2. $x\subset\Sigma_{g,1}$ を曲面を分割しない単純閉曲線とする.
(i) $d\equiv 0mod 4$のとき,
$2d[T_{x}^{d}]=0\in H_{1}(\Gamma_{d}(\Sigma_{g,1}))$
.
(ii) $d\equiv 2mod 4$ のとき,
$4d[T_{x}^{d}]=0\in H_{1}(\Gamma_{d}(\Sigma_{g,1}))$
.
これを示すために,まず次の補題を示す. 図 3: 補題 4.3. 図のように単純閉曲線$c_{1},$$c_{4},$$e_{1},$$e_{2}\subset\Sigma_{g,1}$ をとる.$d$ を 4 の倍数,かつ,正の数 とする.このとき, $2[T_{c_{1}}^{d}]+2[T_{c4}^{d}]=[T_{e_{1}}^{d}]+[T_{e_{2}}^{d}].$証明.簡単のため,曲線$c_{1},$$c_{2},$ $c_{3},$$c_{4},$$e_{1},$$e_{2},$$e_{3}$ に沿う Dehnツイストも $c_{1},$$c_{2},$$c_{3},$$c_{4},$$e_{1},$$e_{2},$$e_{3}$ と表す.このとき,Lantern関係式より, $c_{1}c_{2}c_{3}c_{4}e_{2}^{-1}=e_{3}e_{1}.$ $e_{3},$$c_{1)}c_{2},$$c_{3},$$c_{4}$ はすべて可換なので, $(c_{1}c_{2}c_{3}c_{4}e_{2}^{-1})^{d}=c_{1}^{d}c_{2}^{d}c_{3}^{d}c_{4}^{d}e_{2}^{-d}.$ また, $(e_{3}e_{1})^{d}=e_{3}(e_{1}e_{3}e_{1}^{-1})(e_{1}^{2}e_{3}e_{1}^{-2})\cdots(e_{1}^{d-1}e_{3}e_{1}^{-(d-1)})e_{1}^{d}.$ これより特に, $[c_{1}^{d}]+[c_{2}^{d}]+[c_{3}^{d}c_{4}^{d}]= \sum_{i=0}^{d-1}[e_{1}^{i}e_{3}e_{1}^{-i}]+[e_{1}^{d}]+[e_{2}^{d}].$ 曲面を分割する単純閉曲線に沿うDehnツイスト全体で生成される,写像類群$\mathcal{M}(\Sigma_{g,1})$
の部分群を $\mathcal{K}_{g,1}$ と表す.Johnson 核と呼ばれる部分群である.${\rm Im}(H_{1}(\mathcal{K}_{g,1})arrow H_{1}(\mathcal{I}_{g,1}))$
はレベル2写像類群の共役作用で不変な $\mathbb{Z}_{2}$ 加群であることが知られている.いま $e_{3}$ は 曲面を分割する単純閉曲線に沿うDehnツイストなので, $[e_{3}]=[e_{1}^{2}e_{3}e_{1}^{-2}]=\cdots[e_{3}^{d-2}e_{1}e_{3}^{-(d-2)}],$ $[e_{3}e_{1}e_{3}^{-1}]=[e_{3}^{3}e_{1}e_{3}^{-3}]=\cdots[e_{3}^{d-1}e_{1}e_{3}^{-(d-1)}].$ これより,$d$ が4の倍数のとき, $\sum_{i=0}^{d-1}[e_{1}^{i}e_{3}e_{1}^{-i}]=$ $O$
.
したがって,$[c_{1}^{d}]+[c_{2}^{d}]+[c_{3}^{d}c_{4}^{d}]=[e_{1}^{d}]+[e_{2}^{d}]$ を得る.$c_{3}c_{4}^{-1}\in \mathcal{I}_{g,1}$ であり,補題3.1の直前
で述べたように $H_{1}(\mathcal{I}_{g,1})_{Sp[d]}$ の位数は高々$d$なので,
$[c_{3}^{d}c_{4}^{d}]=d[c_{3}c_{4}^{-1}]+[c_{4}^{2d}]=2[c_{4}^{d}].$
また,$C_{1}=C_{2}\in \mathcal{M}(\Sigma_{g,1})$ より,$2[c_{1}^{d}]+2[c_{4}^{d}]=[e_{1}^{d}]+[e_{2}^{d}]$ を得る.口
命題 4.2 の証明.まず (i) を示す. $c_{1},$$c_{4}$ に適当に向きをいれ,その有向閉曲線が表す
ホモロジー類をそれぞれ $B_{1},$$B_{2}\in H_{1}(\Sigma_{g,1};\mathbb{Z}_{d})$ と表す.写像類$\varphi\in \mathcal{M}(\Sigma_{g,1})$ として,
$\varphi_{*}(B_{1})=B_{1}+B_{2},$$\varphi_{*}(B_{2})=B_{2}$ を満たすものをとる.補題4.3で得た式は$\Phi_{d}$ を用いて, $2\Phi_{d}(B_{1})+2\Phi_{d}(B_{2})=\Phi_{d}(B_{1}+B_{2})+\Phi_{d}(B_{1}-B_{2})$
と表せる.これに $k=0$, 1,
.
. ., $d-1$ 回 $\varphi$ を作用させると,これより,$2d\Phi_{d}(B_{2})=0$
.
つまり,$2d[T_{c_{4}}^{d}]=0$が得られた.任意の2つの曲面を分割しない単純閉曲線は,ある写像類$\varphi\in \mathcal{M}(\Sigma_{g,1})$ で互いにうつり合うので,
$2d[T_{x}^{d}]=2d[\varphi T_{c_{4}}^{d}\varphi^{-1}]=\varphi_{*}(2d[T_{c}4]^{d})=0\in H_{1}(\Gamma_{d}(\Sigma_{g,1}))$
が得られる.
(ii) については,補題4.3を $d\equiv 2mod 4$ のときに調べることで,ほぼ同様に示すこと
ができる 口
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