帝塚山大学現代生活学部紀要 第 11 号 65 ~ 74(2015)
乳幼児期の気質の一貫性と性差
Consistency and gender differences of temperament
in infancy and early childhood
小椋たみ子
*Tamiko Ogura
The present study clarified stability, developmental trends, gender differences of temperament. Maternal reports of temperament for forty two of 9-month-olds, thirty six of 12-months-olds , sixty five of 18-months-olds, seventy five of 24-months-olds follow up data and fifty eight of 33-months-olds follow up data were analyzed. Stability for rhythmicity and persistency/self regulation were found from 9 months. Approach was stable after 12months and sensitivity was stable after 18 months. Gender differences were found that approach and rhythmicity were higher for boys, and self regulation was higher for girls. Developmental trends were found for rhythmicity and self regulation. Self regulation increased with age. Some dimensions in temperament were determined by biological factors (gender and age), and showed trends with individual stability.
問題と目的
気質の定義は研究者により広く多様である。Rothbart & Bates (2006) によれば、Allportは 気質を個人の情緒的性質の特徴となる現象と定義し、情緒的刺激への感受性、習慣的な強さ、反 応のスピード、気分の質と定義し、主に遺伝的な基盤をもつと定義している。Thomas & Chess は注意や活動性のレベルの個人差を含めた気質への広いアプローチをしている。一方、現在、気 質について精力的に研究をしているRothbartは、気質を感情、注意、活動水準における反応性 と自己制御における体質的な基盤をもつ個人差と定義している。体質的という用語は気質の生物 学的基盤をさし、遺伝、成熟、経験により時間をこえて影響をうけることを意味している。反応 性は内的なまた外的な環境における変化への応答性をさしていて、広範囲の反応(たとえば恐れ の情動、心臓の反応性)と、より一般的な傾向(たとえば否定的な情動性)を含んでいる。生理 学的な行動システムの興奮性、応答性あるいは覚醒をさしている。一方、自己制御はこの反応性 を調節するのに機能する神経や行動の過程をさしている。 乳幼児の気質については、初期の個人差がその後のパーソナリティや社会的な発達と関係して いるということから、最近とみに関心が高まっている。乳幼児期の気質測定の方法も関心事の ひとつであり、主に親が子どもの行動特徴について回答する質問紙調査により行われてきた。 ThomasとChessらは1956年に開始したニューヨーク縦断研究で、乳児の行動特徴のデータを面 接により定期的に集め、発達初期から安定してみられる子どもの個人差として活動水準、周期の 規則性、接近/回避、順応性、反応強度、敏感さ、気分の質、気の散りやすさ、注意の持続性と 固執性の9個の行動特性カテゴリーを見出した。このThomasらの研究をもとにCareyらは行動 特性を測定する質問紙として生後4 か月から8か月の乳児用質問紙のR-ITQ(Revision of Infant Temperament Questionnaire)(Carey & McDevitt、 1978) や 1 歳 か ら 3 歳 のTTS(Toddler
Temperament Questionnaire)(Fullard, McDevitt, & Carey, 1984)、3歳から7歳用のBSQ、 8歳から12歳用のMCTQを開発した。Thomasらの提案した9つの気質尺度は、他の多くの研究 で広く用いられた。しかし、尺度間の概念的な重複や内部的な一貫性の低さのために、実験的・ 理論的な概念を練り上げる必要が出てきた。一方、Rothbart (1981)は気質の心理生物学的なモ デルに基づいてThomas と Chessの気質の概念に基づいた気質次元を定義し、その定義に適合す る項目を演繹的に作成し、乳児の行動チェックリスト(Infant Behavior Questionnaire:IBQ) を作成した。オリジナルのIBQ、またIBQ-Rはともに、養育者が対象児についてある場面での行 動・様子が過去1週間にどのくらい見られたかを7段階で評定する行動のチェックリストである。 IBQでは、活動性水準、微笑みと笑い、恐れ、制限されたときの負の情動表出、注意の持続、な だめやすさの6尺度が想定された。その後改訂されたIBQ-Rでは、新たに8個の気質次元が加 わって14次元まで拡大されている。その8次元に対応する尺度とは、強い刺激を好む、穏やかな 刺激を好む、不機嫌からの回復のしやすさ、接触を好む、知覚的敏感さ、悲しみ、接近、声によ る反応性である。IBQ-Rの14尺度の構造を明らかにするために行われた因子分析では3因子が抽 出されている(Gartstein & Rothbart, 2003)。第1因子「外向性(surgency/extraversion)」 では、活動水準、微笑みと笑い、強い刺激を好む、知覚的敏感さ、期待して接近する、声による 反応性の尺度において高い負荷が見られた。第2因子「否定的情動性(negative affectivity)」 では、制限されたときの負の情動表出、恐れ、悲しみにおいて正の負荷が、不機嫌からの回復の しやすさで負の負荷が見られた。第3因子「注意/制御(orienting/regulation)」は、注意の 持続、穏やかな刺激を好む、なだめやすさ、接触を好むといった4尺度で負荷が見られた。これ ら3つの因子は、14の気質次元をまとめるより広範囲な次元であると考えられている。
IBQ、IBQ- Rは3~ 12か月児を対象とした乳児用チェックリストであるが、R othb art らは、18 ~ 36か月の幼児を対象としたチェックリストとして、Early Children Behavior Questionnaire:ECBQも作成している。前述した乳児期の気質尺度のIBQ-Rと重複した8尺度 と新たな尺度として注意の集中、注意の転換、不安、欲求不満、衝動性、抑制的制御、運動、 内気、社会性、肯定的な期待の計18尺度を設定した。ECBQもIBQ、IBQ-Rと同様にPutnam, Gartstein, & Rothbart (2006)により因子分析が行われ、3つの因子が抽出されている。抽出
された3つの因子はIBQ、IBQ-Rの因子分析の結果と非常に類似しており、それぞれ「外向性」、 「否定的情動性」、「実行注意制御」と命名されている。 わが国における乳児期、幼児期の気質研究は多くはない。Careyらによって開発された気質測 定の日本語版を作成した佐藤(1985 ; 1988)や日本語版のR-ITQやBSQの信頼性や追跡研究をし た古田 (2004) の研究、佐藤らが作成した日本語版R-ITQと日本語版TTSの妥当性検討を行った 菅原・島・戸田・佐藤・北村 (1994) の研究、RothbartのIBQ-R日本語版を作成し、文化の気質 測定への影響を検討した中川・鋤柄 (2005) の研究、いままでの気質質問紙から項目を選定し、 日本での使用に適した幼児用気質質問紙を作成した武井・門田・笹川 (2004)、武井・寺崎・門 田 (2007)の研究である。 Rothbart (2005) は気質研究の最近のキーとなる研究として以下の4つをあげている。第1は 乳幼児期の気質の主なる次元はなにか。第2に気質はどのように発達するのか。第3に気質はど んな心理社会的結果とむすびついているのか。第4に気質に神経系、遺伝、経験はどんな寄与を するのかである。本研究においては、Rothbartがあげている4つのキーとなる研究のうち、第 1に気質次元は安定しているのか、発達的変化がみられるのか、第2に性差はあるのかについて 検討する。
方 法
対象児:赤ちゃん観察研究に参加した9か月、12か月児、18か月児と追跡時点 24、 33か月児で 質問紙返却があった人数をTable 1 に示した。9か月児の24か月追跡率は73.8%、33か月追跡率 は57.1%、12か月児の24か月追跡率は66.7%、33か月追跡率は52.7%、18か月児の24か月追跡率は 80%、33か月追跡率は61.5%であった。9、12、18か月のすべての月齢の観察時点のデータを分母 とすると24か月追跡率は69.4%、33か月追跡率は53.7%であった。 Table 1 観察時点(9, 12, 18 か月)と追跡時点(24, 33 か月)のデータ数 観察時点 24か月 33か月 9か月観察児 42 31 24 12か月観察児 36 24 19 18か月観察児 65a) 52b) 40c) a)このうち30名は18か月時点で観察を開始した。残り35名は9か月の追跡児。 b)このうち20名が18か月時点で観察開始した追跡児。残り32名は9か月児の追跡児。 c)このうち15名が18か月時点で観察開始した追跡児。残り25名は9か月の追跡児。 質問紙:観察実験に来学する前に42項目からなる気質質問紙などを自宅へ送付し、自宅で母親に 記入を依頼し、持参してもらった。追跡調査は郵送で行った。気質質問紙は CareyらのR-ITQ、 TTSをもとに、Sanson, Hemphill, & Smart(2004)の気質の構造の考えに依拠して小椋ら (2006、 2009a) が作成した42項目からなる乳児版 (5-11か月用) と幼児版 (1歳-3歳) の質 問紙使用をした。9か月は乳児版、他の月齢は幼児版への記入である。評定は「1.ほとんどそう でない」「2.めったにそうでない」「3.どちらかというとそうであることは少ない」「4.どちらかと いうとそうである」「5.しばしばそうである」「6.ほとんどいつもそうである」の6件法で評定し てもらった。 分析方法:乳児版は小椋ら (2009b) で報告した7か月と9か月児の繰り返しデータを含まない296 データの因子分析から抽出された4因子(接近、味覚的過敏、周期の規則性、持続性)を、幼児 版については13か月から30か月名の繰り返しデータを含まない223データの因子分析から抽出さ れた4因子(接近、自己管理、周期の規則性、敏感性)について各因子を尺度として平均値を算 出した。乳児版4尺度の項目をTable 2 、幼児版4尺度の項目をTable 3 に示した。結 果
1.年齢毎の気質間の相関 9か月、12か月、18か月、24か月、33か月毎に気質尺度間のピアソンの相関係数を算出すると、 33か月の自己管理と周期の規則性の間で0.259の有意な相関があった以外はすべての月齢で気質 尺度間の相関はなかった。 2.同一尺度内での月齢間の相関 9か月児に使用した乳児版の質問項目と12か月以降の子どもに使用した幼児版の質問項目の文 言は異なるが、その内容は類似しているので、観察時点の得点と24、33か月追跡時点の得点の各 尺度内のピアソンの相関係数を算出し、Table4-1 に接近尺度、Table4-2 に持続性(乳児版)・自 己管理尺度(幼児版)、Table 4-3 に周期の規則性尺度、Table 4-4 に敏感性尺度(乳児版は味覚 的過敏、幼児版は敏感性)の結果を表示した。Table 2 乳児版の気質項目 No. 項 目 接近 Q27 なれない場所(知人の家、店)にはじめて行ったときでも、きげんがよい(ほほえむ、笑う) RQ34 はじめての場所(はじめていった店や家)では、最初の数分間は落ち着かず、機嫌が悪い Q6 自分の家では、知らない人がそばにきても最初から平気である Q20 新しい場所(家、店、遊び場)に慣れるのに 10 分もかからない RQ41 はじめての人にあずけようとするといやがる(泣いたり、母親にしがみついたりする) RQ13 知らない人に会ったときは、15 分たっても様子をうかがったり、こわがったりしている 味覚的過敏 RQ29 はじめての食べ物でもすぐに受けつけ、平気で食べてしまう Q15 離乳食のかたさ、味、温度が変わると、最初はいやがる(顔をそむける、吐き出す) RQ8 味や固さの違いにはとんちゃくしないで離乳食を食べる RQ1 食事や授乳のときは、好き嫌いをあまり強くあらわさず、おとなしく食べる RQ22 食べさせられる物はなんでも、ちがいに気づいた様子も泣く食べてしまう Q36 きらいな食べ物や薬は、親がいくらあやしたりだましたりして気を引いても、いつまでたっても受けつけない 周期の規則性 RQ35 きまった食事以外にミルクや食べ物をほしがる時刻が、日によってまちまちで、1 時間以上もずれる RQ7 昼寝したがる時刻が日によって 1 時間以上もずれる Q28 毎日だいたいきまった時刻にミルクを欲しがって飲む(1 時間と違わない) Q14 昼寝の長さは、毎日だいたい一定している RQ42 朝、目をさます時刻がその日その日で 1 時間以上もずれる Q21 毎晩だいたい決まった時刻に眠くなる 持続性 Q33 寝床やベビー・サークルの中で、30 分間以上ひとり遊びをする(モビールをみたり、オモチャで遊んだり) Q12 お気に入りのオモチャなら、10 分間以上続けて遊んでいる RQ40 ひとつのオモチャで遊ぶのはせいぜい 1 分間ぐらいで、すぐ、ほかのオモチャや遊びにうつる Q5 新しくやれるようになったことは、何分間もやりつづける(ものをつかむ、つまむ、ゴロゴロねがえるなど) Q26 欲しいオモチャに手がとどかないときは、2 分間以上もとろうとしてがんばりつづける RQ は逆転項目をあらわしている。 Table 3 幼児版の気質項目 No. 項 目 接近 Q13 自分の家では、知らない人がそばにきても最初から平気である(見つめたり、その人に手をのばしたり) Q20 家にはじめてきた客に近寄っていく Q41 知らない大人に遊んでもらうときでも、にこにこしている Q6 家の外で、はじめての大人とでも気軽につきあう RQ27 初めての人には、15 分たってもまだ警戒している Q34 なれない場所にはじめて行った時でもきげんがよい (ほほえむ、笑う) 自己管理 Q4 お気に入りのオモチャでなら、10 分間以上も続けて遊ぶ Q5 欲しいものや、やりたいこと(おやつ、大好きなこと、プレゼント)が数分またされても、我慢して待てる Q32 新しく覚えた技能(ボールを投げる、つみきをつむ、絵を描くなど)を 10 分間以上続けてやる Q3 服がぬれると気がつき、すぐに替えてもらいたがる RQ17 よごれても、いっこうに気にしない Q12 してはいけないことをしようとしたとき、言い聞かせればやめる Q19 髪をとかしたり、つめを切ったりしている間、じっとしている(ほとんど動かない) RQ18 静かな活動(お話をきく、絵本を見る)のあいだ、落ちつきなく身体を動かす Q26 顔をふいているあいだ、きげんよくしている(ほほえむ、笑う) 周期の規則性 Q7 毎晩大体決まった時刻に眠くなる (ずれても 30 分以内) Q42 寝床にはいってから眠るまでの時間は一定である RQ28 朝、目を覚ます時刻はその日その日で、1 時間以上もずれる RQ14 昼寝をしたがる時刻はまちまちで、日によって 30 分以上もずれる RQ21 おやつをほしがる時刻は、日によってまちまちで、1 時間以上もずれる Q35 一日の中で、もっとも活動的になる時間帯は一定している 敏感性 RQ30 自動車のクラクションやドアのベルがきこえても、気にしないで絵本を見る事を続ける Q37 だれかがそばを通ると、遊びをやめて、そちらを見る Q9 電話のベルやチャイムがなると、食べるのをやめて、音のした方を見る RQ16 自分がいる部屋のなかで物音がしても、今していることを続ける Q23 母親が部屋へはいってくると、遊びを中断して、母親の方を見る RQ は逆転項目をあらわしている。
(1)接近尺度 Table 4-1では接近尺度は9か月では追跡時点と有意な相関がなかったが、12か月観察、18か 月観察時点とも24か月、33か月と有意な高い相関があり、また、すべての観察時点のデータとも 24か月は33か月とも有意な高い相関があった。 (2)持続性(乳児版)・自己管理(幼児版) Table 4-2をみると、9か月持続性は追跡24、33か月の自己管理と有意な相関があったが、12 か月児自己管理は追跡24、33か月と相関はなく、また、18か月自己管理は24か月自己管理とだけ 相関があった。18か月自己管理は33か月とは相関がなかった。24か月自己管理はどの年齢で観察 したデータでも33か月自己管理と相関が高かった。 (3)周期の規則性 Table 4-3をみると、9か月周期の規則性は24、 33か月と相関が高かった。12か月児の周期の規 則性は24か月時点としか相関がなかった。18か月児の周期の規則性は24、 33か月と相関が高かっ た。24か月と33か月の周期の規則性は12か月児データでは相関がなかったが、9か月、18か月児 データでは相関があった。 (4)味覚的過敏(乳児版)、敏感性(幼児版) 9か月の味覚的過敏、12か月の敏感性はどの月齢とも相関がなかった。18か月の過敏性は24、 33か月と有意な相関があり、また、24か月も33か月と有意な相関があった。 3.気質の年齢推移 9か月観察児の9、 24、 33か月時点の各尺度の平均値をTable 5-1 に示した。繰り返しの分散 分析を行った結果、周期の規則性は年齢差が有意(F (2, 40)= 3.39, p <.05)で9か月が24、33 Table 4-1 接近尺度 Table 4-2 持続性・自己管理 9 か月 24 か月 33 か月 9 か月 24 か月 33 か月 9 か月 1 9 か月 1 24 か月 0.054 1 24 か月 0.437* 1 33 か月 0.372 0.638** 1 33 か月 0.473* 0.563** 1 12 か月 24 か月 33 か月 12 か月 24 か月 33 か月 12 か月 1 12 か月 1 24 か月 0.559** 1 24 か月 0.145 1 33 か月 0.623** 0.624** 1 33 か月 -0.171 0.515* 1 18 か月 24 か月 33 か月 18 か月 24 か月 33 か月 18 か月 1 18 か月 1 24 か月 0.812*** 1 24 か月 0.44** 1 33 か月 0.729*** 0.738*** 1 33 か月 0.181 0.599*** * p<.05, **p<.01, *** p<.001 * p<.05, **p<.01, *** p<.001 Table 4-3 周期の規則性 Table 4-4 味覚的過敏・敏感性 9 か月 24 か月 33 か月 9 か月 24 か月 33 か月 9 か月 1 9 か月 1 24 か月 0.609*** 24 か月 0.058 33 か月 0.694*** 0.570* 1 33 か月 -0.074 0.184 1 12 か月 24 か月 33 か月 12 か月 24 か月 33 か月 12 か月 1 12 か月 1 24 か月 0.420* 24 か月 -0.251 33 か月 0.058 0.186 1 33 か月 0.232 -0.077 1 18 か月 24 か月 33 か月 18 か月 24 か月 33 か月 18 か月 1 18 か月 1 24 か月 0.59*** 1 24 か月 0.629*** 1 33 か月 0.522** 0.556*** 1 33 か月 0.404* 0.305* 1 * p<.05, **p<.01, *** p<.001 * p<.05, **p<.01, *** p<.001
か月に比べ有意に低かった。自己管理は24、33か月だけ比較したが、33か月が24か月よりも有意 に平均得点が高かった(F(1, 20)= 8.591, p <.01)。 Table 5-1 9 か月児追跡 24, 33 か月の気質尺度の平均値 ( )標準偏差 気質次元 9か月 24か月 33か月 F df 接近 3.74(1.01) 3.58(1.19) 3.39(1.23) 0.746 2, 40 周期の規則性 3.35(0.82) 3.75(1.04) 3.71(0.77) 3.39* 2, 40 味覚的過敏 2.94(1.09) 敏感性 4.2(0.86) 4.1(0.69) 0.482 1, 20 持続性 2.96(0.77) 自己管理 3.74(0.56) 4.07(0.56) 8.591** 1, 20 * p <.05, **p <.01, ***p <.001 12か月児観察児の12、 24、 33か月の各尺度の平均値とF検定の結果を Table 5-2 に示した。33か 月の追跡時点までのデータがそろっている子どもが17名であった。自己管理尺度は年齢で有意な 差があり(F (2, 32) = 46.52, p <.001)、33か月の得点は24か月、12か月児よりも高く、24か月児 の得点は12か月児の得点よりも有意に高かった。 Table 5-2 12 か月児の追跡 24, 33 か月の 気質各尺度の平均値 ( )標準偏差 気質次元 12か月 24か月 33か月 F df 接近 3.71 (1.63) 3.64 (1.44) 4.03 (1.14) 0.96 2, 32 周期の規則性 3.65 (0.79) 3.41(0.73) 3.64 (0.84) 0.62 2, 32 敏感性 4.38(0.78) 4.04 (0.60) 4.07 (0.77) 1.407 2, 32 自己管理 2.32 (0.73) 3.76 (0.55) 4.33 (0.68) 46.52*** 2, 32 * p <.05, **p <.01, ***p <.001 18か月観察児の24、33か月の各気質次元の平均値を Table 5-3 に示した。自己管理の尺度で有 意な年齢差があり(F (2, 62) = 39.832)、33か月の得点は24か月、18か月児よりも高く、24か月 児の得点は18か月児の得点よりも有意に高かった。9、 12、 18か月観察児とも自己管理の尺度は 年齢に伴い、平均得点が上昇していた。接近、敏感性は年齢差がなかった。周期の規則性だけ9 か月児が24、33か月よりも有意に低かった。 Table 5-3 18 か月児の追跡 24, 33 か月の 気質各尺度の平均値 ( )標準偏差 気質次元 18か月 24か月 33か月 F df 接近 3.31(1.45) 3.6 (1.28) 3.51(1.21) 1.431 2, 62 周期の規則性 3.73(0.89) 3.8 (0.91) 3.68(0.7) 0.364 2, 62 敏感性 4.47(0.95) 4.31(0.73) 4.29(0.65) 0.906 2, 62 自己管理 2.84(0.69) 3.54(0.74) 3.99(0.61) 39.832*** 2, 62 * p <.05, **p <.01, ***p <.001 4.気質の性差 各年齢の各気質の男児、女児の平均値と t 検定の結果をTable 6 に示した。 有意な性差がみられたのは、9か月では、持続性が女児 > 男児、12か月では、接近が男児 > 女児、24か月では周期の規則性が男児 > 女児、自己管理が女児 > 男児、33か月では接近が男 児 > 女児、周期の規則性が男児 > 女児であった。月齢は異なるが、持続性、自己管理は女児 が男児より有意に高く、接近は男児が女児より高く、周期の規則性は男児が女児より有意に高 く、一貫した性差がみられた。
考 察
1.気質の安定性と発達
初期の気質研究者は気質は遺伝的なもので、初期の出現から人生を通して安定性があることを 強調してきたが、最近の研究者は、気質自身が発達し、この発達研究により、規準と個人差の両 方をわれわれがより理解できるようになったことに注目している(Rothbart & Bates, 2006)。 Thomas & Chess(1987)は131名の1歳から5歳までのニューヨーク縦断研究で、1年間隔の 相関は接近・回避、持続性、気の散りやすさ以外の尺度では高く、また、活動水準、反応の閾値 は5年間にわたり一貫性があり、平均値の年齢推移は、周期の規則性はより規則性が増し、気分 はよりポジティブな気分に移行し、適応性は2歳で低下し、再び増加し、反応強度は生後2年で 強度を増加させ、その後、穏やかな強度に戻ったことを報告している。Pedlow et al.(1993)で は接近、周期の規則性、持続性、協力・従順、過敏性、頑固の因子は年齢を超えて連続性があ り、また、年齢が高い群間ほど相関が高かった。Putnam et al.(2006)の18か月から36か月の ECBQでの6か月、12か月、18か月間隔の縦断研究の相関は、主たる養育者の評定では18か月と 36か月の積極的期待以外のすべての年齢間で有意な相関があり、安定していた。古田(2004)の 0歳から8歳まで113名のR-ITQ、 TTS、BSQ、MCTQ日本語版での1年間隔の縦断研究で、彼は 0歳児の各気質尺度の安定性は低く、1歳、2歳、3歳の気質がそれ以降の年齢段階の気質傾向 を予測することは低いこと、4歳以上になるとそれ以降の年齢との相関が高くなることを報告し ている。しかし、古田の結果をよくみると、本研究でとりあげた周期の規則性の相関係数は0 歳代と1歳代は0.48、0歳と2歳は0.39、1歳と2歳は0.63、接近尺度では0歳と1歳が0.32、 0歳と2歳が0.25、1歳と2歳が0.57、敏感性は0歳と1歳が0.44、0歳と2歳が0.06、1歳と2 歳が0.25を示しており、周期の規則性、接近は0歳から2歳はかなり安定した傾向があるといえ る。Rothbart, Derryberry, & Heshey(2000)では、3か月から13.5か月の乳児期でIBQや実
験室実験で恐れの尺度で、3か月と10か月、3か月と13.5か月の間では有意な相関がなかったが、 Table 6 各年齢の各気質次元の男児、女児の平均値 ( )標準偏差 月齢 気質次元 男児 女児 t df 9か月 接近 4.11(1.08) 3.59(1.50) 1.29 40 周期の規則性 3.57(0.65) 3.15(1.05) 1.54 40 味覚的過敏 2.99(1.25) 3.11(1.20) 0.31 40 持続性 2.91(0.80) 3.51(0.92) 2.27* 40 12か月 接近 4.29(1.48) 2.96(1.52) 2.65* 34 周期の規則性 3.73(0.76) 3.63(0.99) 0.33 34 敏感性 4.43(0.53) 4.5(0.79) 0.3 34 自己管理 2.17(0.55) 2.43(0.64) 1.25 34 18か月 接近 3.35 (1.38) 3.26 (1.37) 0.25 63 周期の規則性 3.88 (0.80) 3.7 (1.04) 0.81 63 敏感性 4.44 (0.95) 4.64 (0.74) 0.93 63 自己管理 2.84 (0.67) 2.99 (0.76) 0.84 63 24か月 接近 3.79 (1.29) 3.6 (1.32) 0.62 74 周期の規則性 3.93 (0.94) 3.41 (0.93) 2.38* 74 敏感性 4.25 (0.74) 4.18 (0.84) 0.4 74 自己管理 3.49 (0.8) 3.84 (0.55) 2.23* 74 33か月 接近 3.91(1.18) 3.24 (1.17) 2.13* 57 周期の規則性 3.82 (0.68) 3.26 (0.81) 2.81** 57 敏感性 4.26 (0.7) 4.05 (0.75) 1.12 57 自己管理 4.07 (0.72) 4.09 (0.51) 0.14 57 * p <.05, ** p <.01
6.5か月と他の月齢間には有意な相関があったことを報告している。また、6か月の恐れと7歳 のCBQで測定された恐れとも.61の相関があることを報告している。 本研究では、接近では9か月児は24か月、33か月に測定された接近の得点と相関がなかった が、12か月児以降は相関があり、1歳以降に安定してくる気質といえるのではないだろうか。周 期の規則性は9か月児は24、33か月に測定された周期の規則性得点と有意な相関があり、12か月 児は24か月児だけの相関であったが、18か月とその後の年齢、24か月と33か月の相関が高く、周 期の規則性は乳児期から幼児期まで一貫性のある気質と考えられる。持続性、自己管理は9か月 の持続性は24か月、33か月の自己管理とも相関が高く、9か月の持続性はその後の自己管理能力 を予測するが、12か月については予測性がなかった。18か月と24か月、18か月と33か月、24か月 と33か月については有意な相関があり、1歳半以降から一貫性がある気質といえる。9か月の味 覚的過敏は幼児期の注意の敏感性とは全く相関していなかった。乳児期の味覚での敏感性は幼児 期の視覚、聴覚での注意の敏感性とは異なった次元である。18か月、24か月、33か月の敏感性に は相互に相関があり、幼児期の注意の敏感性は一貫性があるといえる。 本研究の接近、周期の規則性、自己管理がかなり一貫した気質であることは先に紹介した Pedlow et al.(1993)や古田(2004)の結果とも一致している。また、小椋ら(2009b)は本研 究と同じ質問紙を5か月から15か月までは2か月間隔で、18か月から30か月までは3か月間隔で縦 断的に28名に実施した。乳児期の接近、周期の規則性は7か月以降ではその後の30か月まで、ま た、幼児期の接近、周期の規則性、自己制御、敏感は13か月以降30か月までの追跡で相関が高 く、気質は一貫性があるとの結果を得たが、本研究の結果はこの結果とも一致していた。 次に気質の発達変化についてみていく。乳児期の気質についてGartstein & Rothbart(2003) はIBQ-Rのすべての気質尺度で3-6か月、6-9か月、9-12か月の横断の3群で有意な差があっ たことを報告している。幼児期についてはPutnam et al.(2006)がECBQを使用した18、24、 30、36か月の縦断研究で穏やかな刺激を好む以外の気質尺度の平均値で年齢に有意な差を見出 している。本研究で年齢推移があった気質尺度は自己管理の気質で、年齢に伴い平均点が有意 に増加した。Putnam et al.(2006)のECBQでの注意の集中(お気に入りのおもちゃで10分以 上遊ぶなどの項目)の年齢に伴う増加は本研究の自己管理尺度の得点の増加に対応していた。 Rothbartのモデルでは、自己制御気質次元といわれている。本研究での自己管理の尺度は小椋 ら(2009b)でQ4「お気に入りのオモチャでなら、10分間以上も続けて遊ぶ」、 Q5「欲しいもの や、やりたいこと(おやつ、大好きなこと、プレゼント)が数分待たされても、がまんして待 てる」)、Q3「服がぬれると気がつき、すぐに替えてもらいたがる」などに高く負荷した。当初 設定した自己制御(持続性とフラストレーション耐性の2つの因子)と触覚的過敏さの項目と して設定した2項目にも負荷が高かったので自己管理と命名したが、内容としては自己制御と 同じと考えてよい。自己制御気質次元は、Rothbartのモデルでは気質の本質的な側面で、個人 の反応傾向を調節する機能を果たす注意と努力の過程を含んでいる(Derryberry & Rothbart,
2001)。年齢増加に伴い、注意は内的にコントロールされるようになり、他の実行能力と統合さ
れる。Ahadei, Rothbart & Ye (1993)は3歳から7歳のCBQの因子分析研究で注意のコント ロールの気質次元と行動を意図的に制止する子どもの能力を反映した気質次元を合体した実行 注意制御という広い因子を見出している。本研究での自己管理気質次元も同様な因子であると 考えられる。Derryberry & Rothbart(2001)は、この実行注意制御の発達は前頭前野内側部 (medial prefrontal cortex)の領域を含むより随意的な注意システム前部(anterior attention system)が生後1年目の後半に発達してくることによっているとしている。
本研究ではCareyやRothbartの質問紙を使用していないので、測定できる気質次元が限られ ていたが、味覚的過敏以外は乳児期から一貫性があり個人内で安定していた。また、自己管理、 周期の規則性尺度は年齢推移がみられた。
2.性差
気質の性差は多くの研究で見いだされている。そのひとつのMartin, Wisenbaker, Baker, & Huttunen(1997)では、5-7か月で新奇な状況への困惑は女児が高く、生物学的な不規則 性は女児が高く、敏感さは女児が高かった。Garstein & Rothbart (2003) のIBQ-Rの乳児期の
気質の測定では、女児は恐怖 (fear) で男児より得点が高く、男児は強い刺激を好むと活動水 準で女児より得点が高かった。また、1歳半から3歳までの幼児期前半についてはPutnam et al.(2006)の ECBQによる研究で、女児が恐怖、肯定的な期待、内気の得点が男児より高く、 男児は強い刺激を好むが女児より高かった。本研究では接近次元の男女差は12か月、33か月で見 られ、女児の接近得点が男児より有意に低く、新奇なひとや場所への不安や恐怖が大であった。 乳幼児期で女児が新奇な場所や人への不安を示すことは、文化を超えて見出されており、生物 学的な要因が大きく関与していると考えられる。一方、男児は恐れないことが好まれ、女児は 恐れても許容されるという社会化の要因も重要な役割をはたしているとの考えもある (Putnam et al., 2006)。小椋ら (2009b) の縦断研究の結果でも18か月以降に女児が男児よりも有意に得点 が低く、本研究の結果と一致していた。周期の規則性は24か月、33か月で男児が高く、小椋ら (2009b) の5か月から30か月で男児が高かった結果と一致している。また、年齢は異なるが、 Martin et al. (1997)の6か月の男児で周期の規則性が高かった結果とも一致していた。本研究 で、9か月の持続性、24か月の自己管理能力は女児の方が有意に高かった。気質の性差について のメタ分析 (Else-Quest et al., 2006) でEffortful controlは女児の方が男児より高いことが報告 されている。以上、本研究において、性差については先行研究と同様な結果が得られた。 本研究の結果で見いだされた気質次元は性別、年齢という生物学的要因に規定され、個人内で 安定した傾向をもっていることが示された。最近の気質研究は気質が愛着や子どもの社会化、育 児への関与だけでなく、言語や認知との関連も研究されている。今後、気質次元をより明確に し、頑健な気質測定の道具の開発を行い、気質構造、安定性、性差や、気質の他領域への関与を 検討していくことが課題である。また、養育、保育、教育において子どもの気質にあわせたかか わりが重要であることはいうまでもない。
文 献
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