日本の下水処理状況の実態分析と環境性能の総合評
価
著者
長塩 尚之
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
11301甲第19293号
URL
http://hdl.handle.net/10097/00130540
なが しお なお ゆき
氏
名
長
塩 尚 之
研究科,専攻の名称 東北大学大学院工学研究科(博士課程)土木工学専攻
学 位 論 文 題 目
日本の下水処理状況の実態分析と環境性能の総合評価
指
導
教
員 東北大学教授 李 玉友
論 文 審 査 委 員
主査 東北大学教授 李 玉友 東北大学教授 西村 修
東北大学准教授 佐野 大輔
論文内容要約
下水道は,当初「公衆衛生の維持」を唯一の目的としていたが,現在では,「水質保全」さらに「浸水防止」等の役 割も担うようになっている.また,下水処理システムは,我が国の約0.7%という大きな電力を消費していることから, 「省エネ」は大きな課題であり,さらに,これからは創エネシステムとしての役割も期待されている.例えば,2014 年7月に国土交通省が示した「新下水道ビジョン」では,温室効果ガス(Green House Gases;GHGs)の排出抑制や 省エネルギー,汚泥処分量削減等,下水道に対して総合的な汚水処理システムの構築を求めており,従来の下水道ビジ ョンで示された「リユース・リサイクル」の方針をさらに進め,持続的発展が可能な社会の構築に貢献することを下水 道の使命の一つとしている.その様な状況で,今後,下水処理場の老朽化に伴って,建設から50 年を経過した更新対 象の処理場が急激に増加する事が予想されている.そして,更新時には,従来の指標である「水質」や「省エネ」だけ ではなく,総合的な観点から,下水処理システム全体を評価する事が期待されている. 一方,従来の研究は,省エネルギーを目的としたエネルギー解析が主流を占めており,2000 年以降になって,エネ ルギーと水質に着目した,環境負荷の研究が行われてきたが,全国大の規模でマクロ的に,LIME2 等の統一した指標 で比較検討した研究は行われていない. 一般に下水処理システムでは,水質を向上させるためには,より多くのエネルギーを消費する傾向があり,このトレ ードオフの関係を,どの様に判断するか悩ましい処である.本研究では,被害算定型の環境影響評価手法であるLIME2 (LIME:Life cycle Impact assessment Method based on Endpoint modeling)を用いて,環境負荷の統合化を行い, 下水処理による環境保全効果および環境におよぼす影響全体を数値化することによって,処理方法に依る,環境負荷の 差異を,マクロ的に評価・検討した. 今回,データベースとして,下水道統計を用いることでマクロ的に,下水処理状況の現状把握を行った.さらに,そ のデータを基に,LIME2 による解析,処理法に依る比較を行った. また,複数の処理法を採用している大規模処理場の実データを用いて,同様にLIME2 による解析を行い,全国平均 との比較検討を行った. 第3章の「下水道統計を活用した下水処理状況の実態把握・評価」では,以下のことが明らかとなった.まず,処理方法別の下水処理量であるが,標準活性汚泥法が最も処理量が多く,全体の約半分(47%)を占めており, 次いで多く下水を処理しているオキシデーションディッチ法(OD 法)の 21%と合わせると、約 7 割の下水は,この 2 方式の処理されていることが分かった.さらに,嫌気・無酸素・好気法(A2O 法)(8%),嫌気・好気法(AO 法)(5%), ステップ流入式硝化脱窒法(3%),循環法(2%)を加えると約 90%の処理が,これら 6 つの処理法で行われていることが 判明した.そこで,以下の解析はこれら6 方式の処理法を比較することとした. また,処理施設の稼働状態を表す負荷率は,全体で50%程度に留まっており,施設能力の半分しか使用していない ことが判明した.今後,負荷率の低い機場では,統廃合など,合理化の動きが一層強まると考えられる.特に,OD 法 の負荷率は,全体で約45%であり,施設に余裕があることが分かり,統廃合の対象になると思われる. 下水の流入方式では,完全な合流方式の処理場は,今や,4%足らずであり,分流化が進んでいることが伺える.そ の一方で,流域が完全に分流である処理場は約4 割に留まっており,多くの処理場が,何らかの雨水混入に晒されてい る状態である.現在,不明水の問題もあり,さらなる分流化が望まれるところである. 下水処理場の水質に関して見ると,概ね,良好であるが,窒素・りんについては,総量規制レベルには達していない 事が分かった.特に,全りんについては上昇傾向にあり,地域によっては,課題となることもあると考えられた. 流入水温の調査結果では,処理場全体の1/3以上にあたる699機場の流入最低水温が15℃以上であることが分 かった.将来的には,これらの処理場は,加温すること無く,嫌気性処理を行うことが可能な環境にあることが分かっ た. 消費電力の比較では,標準活性汚泥法が最も消費電力が少なく,OD 法が最も電力を消費する結果になった.しかし, この結果は,処理規模の影響が大きく,対象を,小規模処理場に限定した比較では,逆に,OD 法は標準活性汚泥法を はじめ他の処理法と比べ,最も消費電力が少ない事が判明した.この事より,小規模処理場がメインのOD 法を他法と 同じ条件で比較するのは本質を見誤る恐れが大きいことがわかり,以降の比較検討では,OD 法は,参考データとして 記載した. 現在、用いられている処理法別の機場数を見ると,依然として,標準活性汚泥法とOD 法が大半を占めている状況で あるが,機場数の推移を見ると,最近10年は,ステップ流入式硝化脱窒法が増加していることが判明した. 第4章の「LIME2 を用いた下水処理システムの環境影響評価」では,環境負荷指標として LIME2 を用い,処理法 別の比較を行った. LIME2 の評価手法に則り,評価を行い,インベントリデータベースとしては,下水道統計を用い て,「地球温暖化」と「富栄養化」への特性化を行った後,最終的な統合化で,単一指標(円)を算出した. 今回は,まず,単独の処理法を用いている機場をピックアップし,使用エネルギー(電気・石油類等)を積算,処理 法別に処理量当りの使用エネルギーを算出した.更に,それらの値と処理量より,発生炭酸ガス量・亜酸化窒素量・メ タンガス量を算出し,この地球温暖化量より「社会資産被害」と「人間健康被害」の基となる値を算出した 同様に,「人間健康被害」にのみ影響する処理水の水質(COD、T-N、T-P)を求め,上記の値と併せ,「人間健康被
害」「社会資産被害」を処理法別に算出,統合化係数を掛け合わせる事で環境影響評価を行った. その結果,標準活性汚泥法が,最も,環境負荷が大きいことが分かった.一方,窒素を除去することが出来る循環法・ A2O 法・ステップ流入式硝化脱窒法は,いずれも,標準活性汚泥法に比べ環境負荷が低く,特にステップ流入式硝化脱 窒法は,最も環境負荷の高い標準活性汚泥法と比べると4割も低い結果が得られた. また,汚泥がおよぼす環境負荷も把握する目的で,簡易的に,発生汚泥量より汚泥による環境負荷を算出・加算し, 比較を行った.その結果,A2O 法がステップ流入式硝化脱窒法と同等の低い環境負荷結果が得られたものの,全体とし て,汚泥の影響を加味しても,環境負荷に大きな変化は無かった. LIME2 の環境負荷解析結果より,ステップ流入式硝化脱窒法は突出して負荷が高い項目が無く,バランスが取れて いることが分かった.結果として,ステップ流入式硝化脱窒法は,最も環境負荷が低く,標準活性汚泥法等,既存の処 理施設からの改造も、A2O 法等に比べて容易であり,建設費も抑えられる事から,今後,より普及する事が予想される. 第5章は,「K市Tセンターでの環境負荷ケーススタディ」と題した.大規模処理場であるK市Tセンターは,全1 1系列・日量95万トンの処理能力を有する日本有数の下水処理場であり,標準活性汚泥法・AO法・A2O法・ステ ップ流入式硝化脱窒法の4 つの処理法で下水処理を行っている.今回は,Tセンターに於ける 4 処理法の運転・水質デ ータを用い,LIME2 の手法を活用して,処理法別の環境負荷を算出し,環境影響評価比較を行った.その結果,標準 法の環境負荷(被害)が1.429~1.685(円/㎥)であったのに対し,ステップ法では、0.917~1.039(円/㎥)と標準法に 比べて3割程度低い値を示し,AO 法も 0.924~1.163(円/㎥)とステップ流入式硝化脱窒法に次ぐ,低い値を示した. 今回のケーススタディでは,環境負荷の絶対値は異なるものの,その傾向として,下水道統計を用いた全国平均に酷 似しており,全国平均の傾向は,個別の処理場にも当てはまることを確認した.(図、ご参照) T-センターと全国平均の処理法別環境負荷量の比較
また,Tセンターでは前年度も,ほぼ,同じ傾向が得られており,処理法に依る差異は普遍的である可能性が高いこ とを確認した. 今回,特徴的なこととして,代表的な6種類の処理法の中,採用数推移において,ステップ流入式硝化脱窒法だけが, 毎年増え続けていることがある.本法の優位性は,LIME2 解析でも裏付けられており,この傾向は今後も続くと思わ れる. 一方,標準活性汚泥法は,現在,最も処理量が多い処理法である.今回の調査で,標準活性汚泥法は,消費エ ネルギーは最小であるものの,窒素・リン等の処理水質に問題があり,また,汚泥転換率も高めである事が判明した. そこで,LIME2 によるトータルな環境影響評価を行ったところ,環境負荷が大きく,あまり,勧められない結果とな った.今後,更新時には,他法も検討されると思われる. 今回は,下水処理において前段にあたる「水処理」について,環境統合評価を行い,さらに簡易的ではあるが,下水 処理後段にあたる「汚泥処理」についても,汚泥の環境負荷を一律に捉え,暫定的に,環境負荷を算出した.汚泥処理 には,様々な処理法が知られており,今後は,汚泥処理も含めた,シミュレーションも可能な統合評価が望まれる. 今回の研究では,LIME2 分析を用い,6 種類の処理法に対して環境評価を行った.さらに,個別の処理場との相 違について検証することを行い,全国平均の傾向が,個別の処理場にも当てはまることを確認した.この結果より,下 水処理場のLIME2 解析を行う事は,今後,更新時等の処理法選定・基本設計に評価指針として,役立つものと考える.