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〈論文〉視覚再考--見ることの意味, 視覚障害者とのワークショップ報告

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Academic year: 2021

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(1)視 覚再考 一 見 る こ との意 味 一 視 覚 障害 者 との ワー クシ ョップ報 告. 岡本清 文. 1.発. 端. 現 在 取 り組 ん で い る研 究 課 題 と して、 「ユ ニ バ ー サ ル ・ミュ ー ジ ア ム構 想 」 とい う もの が あ る。 こ れ は 文 字 通 り、 誰 もが 楽 しめ る 美術 館 、 博 物 館 とい う意 味 で あ るが 、 〈 誰 も〉 の 内 に は、 と りわ け重 点 課 題 と して視 覚 障 害 者 を 含 ん で い る。 考 えて み れ ば 、 既 成 の 美 術 館 、 博 物 館 は見 る(読 め)を. む こ と も含. 自 明 の 前 提 と して作 ら れ て い る た め に 、 目の 見 え な い 人 々 に と って. は ほ と ん ど何 の 情 報 も得 られ な い 施 設 で あ る 。 貴 重 資 料 の 展 覧 で あ る ゆ え に、 触 る こ と も、 時 に は近 づ くこ と も禁 じ られ て い る。 ガ ラス ケ ー ス の 中 に 陳 列 さ れ て い る作 品 や 資 料 は、 晴 眼 者 に とっ て も フ ィル ター を介 した 鑑 賞 で あ り、 こ の1枚 の薄 く硬 質 な皮 膜 が 、W.ベ ンヤ ミ ンの い う、 〈ア ウ ラ〉 一 作 品 が 、 い ま、 こ こ に あ る とい う真 正 性 〔Echtheit〕一 の 放 射 を遮 蔽 し て い る か に も思 え る。 こ の よ う な 問 題 意 識 は既 に様 々 な と ころ で 共 有 さ れ て い るで あ ろ うが 、 そ の 一 つ に、 国 立 民 族 博 物 館 の 広 瀬 浩 二 郎 准 教 授 を 中心 と した、 ユ ニ バ ー サ ル ・ミュ ー ジ アム の 可 能 性 「さ わ っ て 楽 しむ博 物 館 」 の 研 究 活 動 が あ る 。 広 瀬 氏 は 自 ら も全 盲 で あ り、 京 都 大 学 で 文 学 博 士 号 を取 得 後 、2001年 か ら 民 博 に勤 務 され 、 現 在 は 民 俗 文 化 研 究 部 准 教 授 。 専 門 は 日本 宗 教 史 、 障 害. [178]. (1).

(2) 者 文 化 論 で あ る。2009年. に氏 の 提 唱 した 民 博 で の 「さわ る企 画 展 」 は 多 く. の視 覚 障 害 者 を動 員 し、 大 きな反 響 を呼 ん だ。 1年 ほ ど前 に 調 査 で民 博 を訪 れ た 際 、 ロ ビ ー の 一 角 に展 示 物 に触 る コー ナ ー(2009年. に 開催 され た 「さわ る企 画展 」 終 了後 に一 部常 設 され た展 示). を 見 つ け 、最 近 の 博 物 館 は面 白 い 試 み を す る もの だ と印 象 に 残 っ て い た 。 ま た偶 然 そ れ と期 を同 じ く して 、2012年5月. に大 阪府 立 中 央 図 書 館 で 開 催. さ れ た 府 民 講 座 「ユ ニバ ー サ ル ・ミュ ー ジ ア ム の 可 能 性 一 さわ っ て楽 しむ 図書 館 、 博 物 館 をめ ざ して 」 を聴 講 した 。 こ の 講 演 も た ま た ま新 聞記 事 で 知 っ た と記 憶 す る。 登 壇 した 広 瀬 氏 の プ ロ フ ィー ル や 研 究 業 績 を そ こで 初 め て 知 り、 民 博 の 触 る展 示 も彼 の ア イ デ ア と判 明 した。 広 瀬 氏 の 活 動 に興 味 を抱 き、 講 演 後 早 々 に 連 絡 を入 れ て研 究 室 を 訪 ね た の が 、 講 演 か ら僅 か 1週 間少 し後 の こ とで あ っ た。 そ うい う こ とが き っか けで 「ユ ニ バ ーサ ル ・ ミュ ー ジ ア ム構 想 」 の共 同 研 究 を始 め た わ け で あ るが 、 私 に は 既 に今 テ ー マ に 導 か れ るべ き伏 線 が あ り、 そ れ故 民博 の展 示 や 講 演 会 に 敏 感 に反 応 し た の で あ る。 そ の潜 在 要 因 とは、 ゼ ミ生 に よ る卒 業 制 作 の 一 作 品 で あ った 。 か らだ. 2.身. 体 で視 る美 術 館. 造 形 芸 術 専 攻 造 形 コ ー ス で は4年 次 終 了 に あ た って 卒 業 制作 を行 っ て い る。 これ らの 作 品 群 は、 彼 らが4年. 間 に わ た っ て積 み 重 ね て きた ゼ ミ演 習. の 集 大 成 で あ る が 、 芸 術 作 品 とい え ど も、 出来 上 が っ た作 品 は 学 生 一 人 に よ る成 果 で な く、 そ れ を指 導 して きた教 員 との 共 同 制作 とい う側 面 もあ る 。 彼 らの 創 作 の結 晶 は、 同 時 に 指 導 者 自身 を 映 し返 す 鏡 と して 、 教 育 成 果 の 集 大 成 と も言 え る。 作 品 の 良 し悪 し も ま た、 学 生 個 々が 全 て 一 人 で負 う も の とは 言 え な い 。 教 員 自 身 の 満 足 も反 省 も、 そ の 労 作 一 つ 一 つ に あ りあ り と映 っ て い る。 芸 術 の 中 で も と りわ け デ ザ イ ン領 域 にお い て は 、 パ ー ソ ナ リ テ ィの 表 現 に 先 駆 け、 文 化 、 経 済 、 技 術 、 環 境 、 心 理 、 情 報 な ど の 多 様 な 視 点 か ら テ ー マ を見 出 し、 造 形 以 前 に、 課 題 解 決 、 未 来予 測 、 文 脈 解 読 等 の観 点 を もっ て企 画 立 案 す る工 程 が 必 須 で あ る。そ れ ら一 連 の 認 識 体 系 を簡 潔 に 「 社. (2). [177].

(3) 会 性 」 と呼 ん で い るが 、 違 っ た言 葉 で は 、 「客 観 性 」 と も言 え よ う。 つ ま り デ ザ イ ン に お い て は主 観 と客 観 の バ ラ ンス が な に よ り も重 要 で あ り、社 会 的 契 機 を通 して 同 期 的 に 、 また あ る種 演 繹 的 に 形 成 さ れ る 主 観 とい う もの を、 私 はゼ ミ運 営 上 の 重 要 な ポ イ ン トの 一 つ と して い る 。 そ の よ うな視 点 で の 演 習 指 導 は 、 教 員 側 か ら相 当量 の 情 報 提 供 が 必 要 で あ り、 実 社 会 で の 経 験 値 や 広 い 知 識 体 系 が圧 倒 的 な 説 得 力 と指 導 力 を もっ て デ ザ イ ンプ ロセ ス を先 導 す る 。一 しな け れ ば な らな い 。 す な わ ち、 作 品 の 本 質 と もい え る コ ンセ プ ト構築 段 階 に お い て ま さに 学 生 と教 員 の 二 人 三 脚 で あ り、 そ の 末 に実 を結 ん だ作 品 はや は り共 同制 作 とい う率 直 な実 感 が あ る。 か ら だ. 2010年 度 卒 業 生 、 永 井優 里 君 に よる 「身 体 で 視 る 美術 館 」 とい う設 計 作 品 は 、優 れ た もの の 一 つ で 、 仕 上 が り精 度 や 表 現 技 術 面 で 、 全 体 審 査 評 価 は 決 し て高 くな か っ た もの の 、 コ ンセ プ トと問 題 意 識 の 点 で は説 得 力 の あ る作 品 で あ り、 そ れ を実 社 会 へ 提 言 で き な い もの か と思 い 続 け て きた 。 こ の 卒 業 制 作 に 関 して は、 初 期 段 階 で まず ユ ニバ ーサ ル デ ザ イ ン とい う課 題 を与 え 、 そ の視 点 か ら視 覚 障 害 者 に とっ て の 美術 館 とい う着 想 が 導 か れ た 。 府 立 の 盲 学 校 や 兵 庫 県 立 美 術 館 で 毎 年 開催 され て い る 「美術 の 中 の か た ち 一手 で 見 る造 形 」 展 等 を リサ ー チ し、 視 覚 以 外 で も鑑 賞 で き る美 術 館 とい うものを考 えた。視覚 の前提 条件 となってい る光 を一旦排 除す る意味 で、 基 本 的 に は 地 下 構 造 と して 、 聴 覚 、 嗅 覚 、 触 覚 な ど に訴 え か け る空 間 の 連 続 構 成 そ の もの が 一 種 の 体 験 型 作 品 と して 味 わ え る とい う計 画 内容 で あ る 。 こ れ は単 に施 設 の建 築 設 計 を超 え て、 美 術 館 の 在 り方 、 芸 術 鑑 賞 の 問 題 、 ひ い て は視 覚 自体 へ の 再 考 を促 す 問題 提 起 へ と、 壮 大 な テ ーマ につ な が る 。 そ の計 画 の広 が りや 社 会 性 は、 ず っ と印 象 深 く心 に留 ま っ てい た。 広 瀬 先 生 との 出 会 い に よ っ て、 ゼ ミ演 習 か ら生 まれ た 素 朴 な ア イ デ ア が 、 次 の フ ェ ー ズ に 向 け て再 始 動 し始 め た 。 しか し模 型 はす で に破 棄 され て お り、 最 初 の 広 瀬 研 究 室 訪 問 で は、 口頭 で 我 々 の発 想 を伝 え な が ら意 見 交 換 を した 。 空 間 デ ザ イ ンや 建 築 は、 図 面 や 模 型 、 完 成 予 想 図 な ど を 中心 と し て説 明 す る の が 常 だ が 、 視 覚 資料 が使 え な い 場 合 は言 葉 が 唯 一 頼 り とな る 。 と こ ろが 造 形 物 を言 葉 の み で 理 解 す るの に は や は り限 界 が あ る。 そ こで 私. [176]. (3).

(4) の研 究 室 で 、 当初 の 卒 業 設 計 案 を基 に 再 プ ラ ンニ ン グ した 上 で 建 築 模 型 を 作 り直 して民 博 へ 持 ち込 み 、 今 度 は模 型 を手 で触 って も らい なが ら空 間 の ア イ デ ア を伝 え た 。 長 い 設 計 活 動 の 中 で 、 触 る こ と を前 提 と した 模 型 作 り は初 め て の こ とで あ っ た。 【写真1】. 共 同 研 究 の最 終 目標 は 、 この よ うな 美 術 館 を ど こか に実 現 す る こ とで あ る が 、 そ れ は途 方 も な くハ ー ドル の 高 い 課 題 設 定 で あ り、 到 底 一 足 飛 び に 行 く もの で は な い 。 何 段 階 もの 工 程 を積 み 重 ね つ つ 、 あ ら ゆ る可 能 性 を 探 っ て ゆ く道 の りと な ろ う。 そ の0フ. ェ ー ズ と して 、 視 覚 そ の もの を改 め. て考 え る作 業 か ら始 め る 。 そ もそ も 〈見 る〉 とは ど う い う こ と な の か 、 そ して 我 々 の文 化 、 歴 史 、 社 会 にお け る視 覚 の意 味 や 存 在 を 、 や は り一 通 り 検 証 して み な け れ ば な らな い 。 な に よ り も、 自 身 が 今 ま で あ ま りに もそ の 問題 に 関 して ナ イ ー ブ で あ り、 迂 闊 に も今 日ま で ほ と ん ど意 識 的 に考 えて こ な か った こ とに 我 なが ら愕 然 と した。AV(Audio-Visual)時. 代 な ど と言. わ れ て 久 しい が 、 近 年 造 形 に 携 わ る多 くの 人 々 は 、 視 覚 に よ って こ そ 表 現 を成 立 させ て お き なが ら、視 覚 そ の もの を 自 明 の 前 提 と して 無 自覚 無 批 判 に 受 け 入 れ 、 エ ポ ケ ー の態 度 に甘 ん じて い る の で は な い だ ろ うか 。 そ れ ど こ ろ か 、 ア ニ メ や キ ャ ラ ク ター 等 サ ブ カ ル チ ャー 領 域 も含 め 、 ます ます 視 覚 偏 重 の傾 向 を感 じる。 そ もそ も認 識 や 知 覚 の 問 題 は 、古 来 、 哲 学 の大 き な テ ー マ で あ っ た が 、 こ れ か ら進 め て ゆ く研 究 姿 勢 は、 純 粋 な形 而 上 的 論 考 で は な く、 あ く まで も建 築 家 や デ ザ イ ナ ー 、 実 務 家 と して の 自覚 と実 感 を伴 い 、 最 終 的 に は 実 社 会 に 向 け て具 体 的 な提 言 が で きる 距 離 を保 つ こ とが 、 自 ら に課 せ られ た 領 分 で あ ろ う。. 3.色. に さわ る、 色 をつ くる、 色 で 伝 え る. 最 初 の 契 機 と して 、 視 覚 障 害 者 向 け の ワ ー ク シ ョッ プ企 画 の 依 頼 を受 け た。 広 瀬 先 生 は 、視 覚 障 害 者 文 化 を育 て る会(4し. ょ く会)の. 副会長 をさ. れ て お り、 当会 は 定 期 的 に様 々 な シ ンポ ジ ウム や イベ ン トを主 催 して い る 。. (4). [175].

(5) 因 み に4し. ょ く会 の4し. ょ く とは、1)食. 、2)色. 、3)触. 、4)職. とい. う意 味 で 、 そ れ ぞ れ の フ ァ ク タ ー ご と に視 覚 障 害 者 の社 会 生 活 や 文 化 を考 え、 情 報 交 換 を 行 な っ て い る。 ち ょ う ど タ イ ミ ン グ よ く、 昨 年 秋 に イ ベ ン トが 計 画 され てお り、 そ の企 画 運 営 を委 ね て頂 い た。 目的 や 目指 す 方 向 性 の 違 い か ら喧 々誇 々 の 議 論 を何 度 か 重 ね た が 、 そ れ は 私 自身 が 今 まで 持 ち あ わ せ て き た視 覚 障 害 者 に 対 す る認 識 、 ひ い て は 〈見 え な い こ と〉 へ の 理解 度 と想 像 力 の 浅 さ を露 呈 した 証拠 か も知 れ ず 、 出 発 時 点 か ら考 え させ られ る こ とが 多 か っ た。 両 者 の 問 で合 意 さ れ た基 本 的 な 考 え は、 ワ ー ク シ ョ ップ にお け る視 覚 障 害 者 と健 常 者(晴. 眼 者)と. の 位 置 づ け は、 一 方 向 で は な く、 で きる だ け 双. 方 向 の 関 係 を 保 ち、 お 互 い が そ れ ぞ れ 主 体 的 な 行 動 が 取 れ る こ と。 イ ベ ン トの 目的 は、 晴 眼 者 が 視 覚 障 害 者 に対 して 一 方 的 に何 か を教 授 した り手 助 け した りす る よ う な、 ボ ラ ン テ ィア 活動 で は な い とい う こ と。 も う一 つ は 、 今 回 の4し. ょ く会 の テ ー マ は 「色 」 と し、 そ れ に 関 連 す る ワー ク シ ョッ プ. で あ る。 と い う内 容 だが 、 これ を実 際 に プ ロ グ ラム に落 と し込 む の は 難 し い課 題 で あ っ た。 試 行 錯 誤 の 末 に到 達 した の が 、 「色 に さわ る、 色 をつ くる、 色 で伝 え る 」 とい う ワ ー ク シ ョ ップ で 、 概 要 は 、種 々の 素 材 を使 っ て 〈色 〉 を作 っ て み よ う とい う もの で あ る。 そ もそ も色 そ の もの に は 姿 か た ち も な く質量 も質 感 も ない 。 色 とは 実 体 で な く、 光 の ス ペ ク トラム で あ る 。 目 に入 射 した 複 合 ス ペ ク トラ ム 光 が 、 受 光 器 官 で あ る視 神 経 の 錐 体 細 胞 を通 じて 、 電 気 的 なパ ル ス 信 号 情 報 と して 大脳 皮 質 の 中 枢 神 経 に送 られ 、 そ こで 生 じる 知 覚 反 応 、 感 覚 の こ とで あ る 。 ま さ に色 と は幻 で、 リ ン ゴ に もバ ナ ナ に も特 定 の色 が 付 い て い る の で は な く、 光 が 我 々 に赤 や 黄 色 を感 じさせ るの で あ る。 色 につ い て の研 究 は 、17世 紀 に プ リズ ム を使 っ て ス ペ ク トラ ム を発 見 し た科 学 者 ニ ュ ー ト ンば か りで は な く、 後 の文 豪 ゲ ー テ も 『色 彩 論 」 とい う 大 著 を表 し、 美 術 教 育 と して の色 彩 学 は、 バ ウハ ウス に参 加 した ヨハ ネス ・ イ ッテ ン に よっ て 集 約 され た。 さ らに 吉 本 隆 明 もか な り専 門 的 に踏 み 込 ん だ 色 彩 論 を述 べ て い る。(吉 本 隆 明 講 演 集 『敗 北 の 構 造 』,1972年119頁. [174]. (5).

(6) 「色 彩 論 」)こ の よ うに 、"色"は 人 間 に と って 探 求 すべ き永 遠 の不 可 思 議 で あ る。 今 回 の ワ ー ク シ ョ ッ プ の 目的 は そ の よ う な学 術 的 研 究 と一 線 を 画 して 、 単 純 に 、 視 覚 障 害 者 は色 を どの よ うに 把 握 して い る の か 、 そ れ を言 葉 や イ ラ ス トに よ る 表 象 で は な く、 立 体 造 形 と して表 現 し よ う とい う創 作 の 試 み で あ る 。 そ の 際 に 手 が か り とな る のが 、 〈触 覚 〉 で あ る。 色 を触 覚 と して 表 現 して み る。 す で に前 述 の 通 り広 瀬 先 生 は 、ユ ニ バ ーサ ル ・ミ ュ ー ジ ア ム の可 能性 を 、 「さ わ る」 とい うキ ー ワー ドか ら研 究 さ れ て お り、 そ の 観 点 を 組 み入 れ た。 視 覚 障 害 者 に と っ て の触 覚 は、 晴 眼 者 に もま して と りわ け 重 要 な感 覚 で あ り、彼 ら は 目で は な く指 で 文 字 を 読 む 。 点 字 ブ ロ ッ ク は足 の 裏 か ら伝 わ る情 報 で あ り、 白杖 は地 面 の 触 覚 を手 に伝 え る 道 具 で あ る。 一 体 、 色 の 手 触 りは どう い う ものか?と. い う テ ーマ は興 味 深 い 。. 必 然 的 に 形体 や ボ リ ュ ー ム の要 素 も加 わ る。例 え ば、 〈 赤 〉 は 丸 くて 大 き く硬 い イ メ ー ジ とか 、 〈 黄 色 〉 は細 くて 尖 って ザ ラザ ラ した 感 じ とか … 。 考 え て み れ ば、 普 段 色 を 当然 の こ と と認 識 し、 セ ザ ンヌ や マ チ ス で もな い 限 り、 色 と物 の 同体 的 結 合 を 信 じて疑 わ ない マ ジ ョリ テ ィ に と っ て、 色 の 肌 触 りや 色 の 形 な ど は普 段 意 識 す る こ とが な い 。 そ う い う意 味 で 、 色 を触 覚 的 に 造 形 す る とい う ワ ー ク シ ョ ッ プ は、 視 覚 障 害 者 、 晴 眼 者 の どち らか が 圧 倒 的 に ア ドバ ン テ ー ジ 、 な い しは デ ィス ア ドバ ン テ ー ジ を持 つ もの で は な く、 一 緒 に楽 しめ る の で は ない だ ろ うか 。 具 体 的 な素 材 選 び や 進 行 手 順 を決 め る準 備 に取 りか か っ た。. 4.ワ. ー ク シ ョッ プ実 施. ワ ー ク シ ョ ッ プの フ ォー マ ッ トを作 る た め に、 候 補 素 材 を収 集 し、事 前 に広 瀬 先 生 に提 示 して全 盲 者 と して の 感 想 や 意 見 を伺 っ た 。 わ か り易 い こ とに加 え て扱 い易 さ も重 要 で あ る。 参 加 さ れ る 方 々 は、 普 段 もの づ く りや 造 形 に 親 しん で い な い の で 、 加 工 が 難 しか っ た り、 危 険 な 道 具 を使 っ た り す る材 料 は避 け ね ば な ら ない 。 最 終 的 に ス ポ ン ジ、 紙 、 布 な ど を 中心 と し. (6). [173].

(7) た8種 類 ほ どの 材 料 を選 定 した。 材 料 は 全 て 白 か そ れ に準 ず る色 と した 。 こ れ は、 ど う して も晴 眼 者 や 弱 視 者 が 素 材 自体 の 色 か ら影 響 を受 け て しま うの を防 ぐた め で あ る 。 と は い え 、 白 とい うの も1種 の 色 味 な の で 、 そ れ を使 っ て他 の 色 を表 現 す る に は心 理 的 影 響 が 無 い とは い え な い が 、事 に は 限界 が あ る。 進 行 手 順 と して は 、 まず 参 加 者 に赤 ・黄 ・緑 ・青 ・白 ・黒 の6色. か ら好. きな 色 を2色 選 ん で も らい 、 そ れ ぞ れ の 色 に纏 わ る 自 由 な イ メ ー ジ を用 意 され た 素 材 を使 っ て造 形 す る。 一 約1時 で鑑 賞(見. 間半 。 次 に各 自が 作 っ た作 品 を皆. る の で は な く、 手 で さ わ る)し 、 そ れ が 何 色 の イ メ ー ジ か を当. て 合 い 、 最 後 に そ れ ぞ れ が 作 品 の 思 い を語 る。 一 約50分. 。 とい う もの で 、. 私 自身 に とっ て も広 瀬 先 生 に とっ て も全 く初 め て の試 み ゆ え、 時 間 配 分 や 作 業 内容 も含 め 、 果 た して う ま くい くの か 当 日 ま で大 い に 心 配 で あ っ た 。 以 下 に ワ ー ク シ ョ ッ プ参 加 者 募 集 の た め に 広 瀬 先 生 が 草 稿 され た パ ン フ レ ッ トか ら一 部 抜 粋 す る。. 「色気 の 経 路 い ろい ろ∼色 に さわ る、色 をつ くる、 色 で伝 え る ∼ 色 気 と は 「色 の 気 配 」 で あ る1か つ て 盲 目の 琵 琶 法 師 や 瞥 女 は 、 音 と 声 に よ っ て 色 気 を 表 現 して い ま した。 テ レ ビや パ ソ コ ンが な い 時 代 、 彼 らの 「語 り」 は 、 心 象 風 景(目. に 見 え な い色 彩 世 界)に. アプローチ. す る 手 段 と して 重 視 され た の で す 。 僕 た ち の ご先 祖 様 は、 どん な 「色 の気 配 」 を感 じ、 思 い描 い て い た ので し ょ うか 。 現 代 社 会 の 常 識 で は、 色 とは 目で 認 識 す る もの と考 え られ て い ます 。 だ か ら、 視 覚 障 害 者 は 「色 を理 解 で き な い 人 」 と決 め つ け ら れ て しま うわ けで す 。 しか し、 そ もそ も 「色 気 の 経 路 」 は視 覚 の み に 限 定 され る もの で は あ りませ ん 。 色 の響 き、 色 の 感 触 も あ る は ず で す 。 視 覚 障 害 者 が 常 識 に と らわ れ ない 自 由 な 「色 の気 配 」 を発 信 す れ ば 、 見 常 者 た ち が 忘 れ て い た 色 気 の 多 様 性 を 取 り戻 す こ とが で き るの で は な い で し ょ うか 。(中 略)触. 察 、創 作 、 伝 達 の 三 つ の体 験 を 通 じて 、視 覚 障 害. 者 独 自の 色 気 を発 揮 す る こ とが で きれ ば、 僕 た ち の 人 生 そ の もの も色. [172]. (7).

(8) 鮮 や か な もの に な る で し ょう。 「色 の 気 配 」 を熟 知 す る視 覚 障 害 者 が 、 閉塞 した 日本 社 会 に七 色 の夢 を与 え る1」. 2012年11月10日. 、会 場 の吹 田市 立 「夢 つ な が り未 来館 」 に約50名. の参. 加 者 が 集 ま っ た 。 視 覚 障 害 者 とそ の 家 族 、福 祉 関 係 者 、教 員 、 研 究 者 、博 物 館 学 芸 員 な ど多 彩 な顔 ぶ れ が 揃 っ た 。 加 え て 私 の ゼ ミか ら5名 の学 生 と 1名 の 研 究 ア シ ス タ ン ト、 計6名. の サ ポ ー タ ー が 参 加 して くれ 、 会 場 は 活. 況 を 呈 した。 ワ ー ク シ ョ ッ プ は二 部 構 成 に な っ て お り、 一 部 は 「色 に さ わ る」 とい う趣 向 で 、 古 今 東 西 の 名 画 を立 体 化 した 「さ わ る絵 」 に よる絵 画 鑑 賞 法 を体 験 す る。 こ れ を 主 導 す る柳 澤 飛 鳥 氏 は独 自 の エ ンボ ス 絵 画 を開 発 され て お り、 視 覚 障 害 者 の 美 術 鑑 賞 の 普 及 に 努 め て い る 。 当 日は い ろ い ろ な立 体 絵 画 の サ ン プル を持 ち込 ん で 、 自由 に触 りなが ら 〈手 で 絵 を観 る 〉 試 み が な さ れ た 。 私 個 人 と して は、 ア イ デ ア の趣 向 や 意 図 は 理 解 で き る も の の 、技 術 面 と同 時 に本 質 的 に も様 々 な問 題 点 が あ る と感 じた 。 翌 日 に開 催 され た 広 瀬 先 生 の 共 同研 究 会 「触 文 化 に 関 す る人 類 学 的研 究 」 で も、 さ わ る絵 や エ ンボ ス 絵 画 に 関 して は複 数 の メ ンバ ー か ら 同様 の 問 題 指 摘 と疑 問 が 呈 され た。 こ こで は この 論 題 に 関 して述 べ る紙 面 も無 く、 別 の機 会 に 譲 る。 さて 、 一 部 終 了 と休 憩 の 後 、 私 の 企 画 「色 を つ くる、 色 を伝 え る」 が 開 始 され た 。 こ れ ほ ど多 くの視 覚 障 害 の 方 々 と関 わ る こ と 自体 始 め て の 経 験 で 、多 少 の 緊 張 感 は あ っ た もの の、 目的 の 第 一 義 は 参 加 者 一 同 が 今 日1日 楽 し く過 ごす こ とで あ り、 リ ラ ック ス した雰 囲気 を心 掛 け た 。 全 体 を6つ の テ ー ブ ル に分 け 、 そ れ ぞ れ の テ ー ブ ル で 視 覚 障 害 者1名+晴. 眼 者2名. の. チ ー ム を三 組 な い し四組 作 り、 チ ー ム ご と に 共 同 制 作 を して も らっ た 。 基 本 的 に主 役 は視 覚 障 害 者 で あ る か ら、 色 を選 択 し創 る の は視 覚 障 害 者 で 、 晴 眼 者 側 は そ れ をサ ポ ー トす るが 、 こ こで 重 要 な 認 識 は 、企 画 段 階 で検 討 した よ う に、 この 関 係 が 視 覚 障 害 者 へ の 一 方 的 な 手 助 け で は な く、 共 同 作 業 と して 行 わ れ る こ とで あ る。 そ の理 解 と して 、 私 は 自分 の 専 門 で あ る建 築 や デ ザ イ ンの 話 を した 。 建 築 家 や デ ザ イ ナ ー は ア イ デ ア を考 え、 絵 や 図. (8). [171].

(9) 面 に 書 い た りす る だ け で 、 釘 一 本 打 た ず 、 壁 一 枚 作 らな い 。 注 文 を つ け た り指 示 した りす る ば か りで あ る。 しか しそ れ だ けで は物 は で きな い 。 実 際 の現 場 で 力 と汗 に よ る作 りこ み が 必 要 で あ る。 つ ま り、 設 計一 施 工 の 分 担 で あ り、 こ れ は ど ち らが 偉 い と か重 要 と は言 え な い。 両 方 が しっ か りと手 を携 え、 協 力 し合 っ て初 め て 良 い物 が 出来 る 。 この 点 で 、1人 で 全 て を こ な す よ う な絵 画 や 工 芸 の プ ロ セ ス と は大 き く異 な る。 こ の ワー ク シ ョッ プ で は 、今 日1日 視 覚 障 害 者 の 方 々 は 建 築 家 も し くは デ ザ イ ナ ー に な っ た つ も りで 、 自分 の イ メ ー ジ を相 手 の 晴 眼 者 に あ らゆ る 方 法 で伝 え て も らい 、 晴 眼 者 は そ の 発 想 を施 工 者 、 技 術 者 と して 出 来 る だ け忠 実 に形 に して 頂 き た い、 と。 ワー ク シ ョ ッ プの 基 本 構 造 と意 図 を理 解 す る上 で、 こ の 説 明 は会 場 の 皆 様 に う ま く伝 わ っ た よ うで 、 広 瀬 先 生 に も評 価 を頂 い た 。 そ れ ぞ れ が まず 2色 を選 び、 各 テ ー ブ ル で 創 作 が 開 始 さ れ た。 全 体 を6テ ー ブ ル に分 け た の は 、6名. の学 生 サ ポ ー トを1人 ず つ 配 置 させ る た め で 、作 る こ とに慣 れ. て い ない 人 々 に と っ て は 、 学 生 とい え ど も普 段 造 形 を勉 強 して い る者 の ア ドバ イ スや サ ポ ー トは大 きな助 け とな る。. 5.色. をつ くる. この よ う な場 に臨 ん で み る に つ け 、 人 間 に と って 創 造 とい う行 為 の 大 切 さ を再 認 識 させ ら れ る 。真 剣 に、 しか も な に よ り も楽 しそ う に、 そ れ ぞ れ が 話 し合 い 、 考 え合 い 、確 か め合 い 、 頷 き合 い 、 触 り合 い 、 笑 い 合 っ て い る。 【 写 真2、3】. こ れ が芸 術 の根 源 的 な姿 で あ る。 会 場 を 巡 りな が らそ れ. ぞ れ の テ ー ブ ル の 様 子 を観 察 す る 。 中 に は晴 眼 者 同士 の ペ ア もあ り、 目隠 し を し て触 覚 世 界 に 身 を投 じて い る 。 素 材 は テ ー ブ ル ご と に一 通 り均 等 に 振 り分 け られ 、 あ れ こ れ材 料 の 触 覚 を吟 味 しな が ら イ メ ー ジ を膨 ら ませ て い る 。 学 生 た ち もあ ち こち か ら の 引 き合 い に走 り回 っ て 、 さ なが ら コ ンサ ル タ ン トか イ ンス トラ ク タ ー然 と頼 も し く、 加 工 や 制 作 の 手 助 け を して い る。 そ う こ うす る う ち に会 場 中 に活 気 が 満 ち溢 れ た。 中 で も広 瀬 先 生 な ど は椅 子 の 上 に 立 ち上 が り、何 や ら材 料 を テ ー ブ ル の 上 の作 品 に勢 い よ く叩. [170]. (9).

(10) き つ け 出 し て い る 。 【写 真4】. こ れ は ア ク シ ョ ン ・ペ イ ン テ ィ ン グ か パ. フ ォ ー マ ン ス の 域 で あ る 。 私 は 自 然 と快 活 な 笑 い が こ み 上 げ て き た 。 こ の よ う に楽 しい ものづ く りに は長 ら く出会 っ てい なか っ た よ う に思 う。 そ の 時 一 つ の テ ー ブ ル か ら私 に お 呼 び が か か っ た 。そ の テ ー ブ ル の サ ポ ー タ ー か ら も少 し 助 け て ほ しい 、 と い う 当 惑 し た 様 子 で あ る 。 何 事 か と行 っ て み る と 、 一 人 の 視 覚 障 害 者 が 、 ど う し て も作 品 は 作 れ な い 、 い や 作 ら な い と い う の で あ る 。 彼 も2人. の 晴 眼 者 とチ ー ム を組 ん で い るが 、 周 りが い. く ら 説 得 し て も 、 頑 と し て 制 作 を 拒 否 す る の で 困 り果 て て い る 。 そ の 方 は 遠 く 関 東 か ら参 加 さ れ て い る 全 盲 者 で 、 マ ッ サ ー ジ 師 で あ り、 セ ラ ピ ス ト で も あ る と い う こ と で あ っ た 。 年 齢 は60前  . 後 で あ ろ うか。 話 を聞 け ば、 目.  . を 閉 じた 常 態 で 自分 の 瞼 の 裏 、 あ る い は も う少 し有 機 的 に 言 え ば 〈内 側 〉 に 感 ず る もの は 、様 々 な色 の 点 が 無 数 に混 ざ り合 い なが ら一 つ の 宇 宙 的 な 光 景 が構 成 され て い て、 色 に は不 可 分 に全 て の 色 相 が 含 まれ て い る 。 自分 に は 赤 や 青 とい う よ う な 個 別 的 な単 色 と い う もの は認 識 され な い。 一 とい う よ う な意 味 の こ とを、 ま るで 堰 を きっ た ご と く早 口で 喋 っ た。 加 え て 次 に、 い き な り中沢 新 一 に 言 及 さ れ た 。 明 言 は さ れ な か っ た が 、 話 の 内 容 か ら察 す る と、 著 書 『チ ベ ッ トの モ ー ツ ァル ト』 の 中 で 述 べ られ て い る 、 中 沢 自身 が チ ベ ッ トで の 修 行 課 程 で遭 遇 した 宗 教 的 体 験 の こ と と 理 解 した。 そ れ に 続 い て オ ウ ム 真 理 教 に も触 れ た が 、 そ の 内 容 は 忘 れ た 。 (な に しろ こ ち ら も進 行 全 体 が 気 にか か り焦 っ て い た 。)俄 に 宗 教 的 な 問 題 を 出 され た の は 、 実 は こ の ワー ク シ ョ ッ プ の 説 明 に あ た り、 冒 頭 で私 が 般 若 心 経 の 〈色 即 是 空 〉 につ い て触 れ た こ と を受 け てで あ っ た。 概 ね 以 下 の よ う な意 味 合 い の こ と を言 っ た と思 う。 「一 体 〈 色 〉 と は何 で し ょ う?「 色 即 是 空 」 い う言 葉 が あ ります 。 こ こで 言 う 〈色 〉 と は 目 に見 え る あ ら ゆ る現 象 や 実 体 の こ とで す が 、 実 は 人 間 も草 木 も耐 えず 新 陳代 謝 し変 化 して い る の で 、 不 変 で は な い。 だ か ら色 は し っか り見 えて い る よ う で、 実 は よ く見 え て い ない 。 そ うい う見 方 を 〈空 〉 と言 い ます 。 〈空 〉 と は 空 っ ぽ の こ とで は な く、 あ ら ゆ る現 象 を全 部 ま とめ て捉 え る こ とで す 。 色 は さて も不 思 議 な も の で す が 、 今 日は 皆 様 そ れ ぞ れ の 色 の 形 を 自 由 に 考 え. (10). [169].

(11) て み ま し ょ う…. 」 とい う よ うな。こ れ は話 の つ か み 程 度 に軽 い 感 じで 喋 っ. た もの で 、 誰 もあ ま り真 剣 にそ の 意 味 を問 わ ず 、 さ ら り と流 して い た よ う だ が 、彼 一 人 は そ の 言 葉 に敏 感 に 反応 し、 ワ ー ク シ ョ ップ の 内 容 に 異 議 申 立 て を した の で あ っ た。 彼 との 議 論 は 結 論 が 出 る よ うな もの で は な く、 そ こ に 留 ま っ て全 体 の 進 行 を長 く停 止 す る こ と もで きず に 困 っ た。 私 が 返 し た の は 、 こ れ は ア ー トな の で本 来 正 解 も解 釈 の良 し悪 し も無 い。2色 を作 る とい うや り方 は 無 視 して 構 わ な い の で 、 好 き な よ う に そ こ に あ る 材 料 を 使 っ て 、 あ な た な りに創 っ て み ませ ん か?と. い う必 至 な が ら も 間抜 け た 説. 得 で あ っ た が 、彼 は 中沢 論 や 哲 学 論 を少 しで も交 わせ た こ と に溜 飲 を下 げ て か 、 そ れ と も 目の 前 で焦 って い る フ ァ シ リエ ー タ ー を 放 免 して や ろ う と 言 う気 に な って か 、 で は作 っ て み よ う とい う事 に な っ た。 こ の よ うに して 、 参 加 者 全 員 が 色 作 りに適 進 し始 め た ので あ る。. 6.色. で伝 え る. 次 はい よ い よ作 品 鑑 賞 で あ る。 芸 術 に は創 作 と鑑 賞 とい う双 方 向 の 楽 し み 方 が あ り、 今 回 の ワ ー ク シ ョ ップ で は 両 方 を味 わ う とい う欲 張 りな 企 画 で あ っ た。 作 品 の 台 紙 の裏 に は想 定 され た色 名 が 記 さ れ て お り、 作 品 の 横 に は 選 択 肢 の6色. を一 覧 に した紙 が 置 か れ て い る。 次 々 とテ ー ブ ル を巡 回. しな が ら、 他 人 の 作 品 を鑑 賞 し、 一 この 場 合 は 目で 見 る の で は な く、 手 で 触 っ て 鑑 賞 す る一 そ れ ぞ れ の 作 品 が何 色 を イ メ ー ジ して作 られ た か を一 覧 表 に投 票 して ゆ くの で あ る。 【写 真5】 一 体 色 の質 感 は 人 に伝 わ るの か?実 は この ワ ー ク シ ョ ップ が 実 験 で は な い と言 い な が ら も、 私 は 密 か に この 結 果 に 興 味 を抱 い て い た。 果 た して色 と触 覚 や 形 体 の 関係 に 一 定 の傾 向 や 法 則 が あ る もの か?サ. ンプ ル 数 は少 な い が 、 何 か の 関 係 性 が 見 つ か れ ば 、 さ. らに進 ん だ研 究 に もつ なが る の で は な い か とい う期 待 め い た ものが あ っ た 。 一 通 りの 鑑 賞 と投 票 が 済 む と、 最 後 に 一 人 ず つ 色 の 発 表 と作 品 の意 図 を紹 介 して も ら う。 創 っ た色 を今 度 は伝 え る わ けで あ る。 さ て、 そ の 結 果 は? 私 の 期 待 は 見 事 に打 ち砕 か れ た 。 ほ と ん どの作 品 へ の投 票 と結 果 が ず れ て い た 。 多 くの 人 が 白 と思 っ て い た もの が 、 赤 で あ っ た り、 青 と思 っ て い. [168]. (11).

(12) た もの が 緑 で あ っ た り。 作 り手 、 作 品 、 鑑 賞 者 の 間 に共 有 され る メ ッセ ー ジ性 は ほ ぼ読 み 取 れ な か っ た 。 も うひ とつ 予 想 外 で あ っ た こ と は、 具 象 的 な 造 形 が 多 く見 られ た こ と で あ る。 鯨 や 魚 、 鳥 、 果 物 な ど。 目が 見 え る 人 々 の よ うな 認 知 形 式 や 表 現 方 法 が た く さん 出 て きた の は不 思 議 で あ っ た 。 【写 真6】 ま ず 、 視 覚 障 害 と一 言 で 言 っ て も、 そ の 状 態 は そ れ ぞ れ に異 な る 。生 ま れ な が らに して か 、 後 天 的 に視 覚 を失 っ た 人 か 、 そ れ も幼 児 期 か成 人 後 か 、 事 故 か 病 気 か 、 突 然 か 徐 々 にか 等 … 。 か つ て視 覚 を持 っ て い た 場 合 は 、 見 た もの が 原 風 景 、既 視 情 報 と して残 っ て い る の で 、 そ う い う経 験 値 に よ っ て色 も認 識 され て い る で あ ろ う。 因 み に 中学 生 の こ ろ失 明 した 広 瀬 先 生 に よ れ ば 、 見 て きた もの の記 憶 は時 間 と と もに徐 々 に薄 れ て 、 あ ま り残 って い な い とい う。 い ず れ に せ よ、 少 しで も何 か を 見 た 経 験 の あ る人 は 、 色 か た ち も ま た そ の 経 験 を 通 じて 記 憶 され た情 報 な の で 、 具 体 的 な もの の 形 が 呼 び 起 こ さ れ る の は理 解 で き る。 広 瀬 先 生 も主催 者 と して ワー ク シ ョ ッ プ の結 果 を ま とめ ら れ て い る が 、 や は り同 じ よ うな 感 想 が 述 べ ら れ て い る 。 そ の レポ ー トか ら抜 粋 す る(視 覚 障 害 に 関す る表 現 は原 文 の ま ま)。. 「今 回 の. 「4し ょ く会 」 イ ベ ン トで 僕 が シ ョ ッ ク を 受 け た こ と が 二 つ あ. る 。 そ の 第 一 は 「視 覚 障 害 者 の 多 く が 視 覚 的 イ メ ー ジ を ベ ー ス と す る 作 品 を制 作 した こ と」 だ った 。 弱 視 の 方 の作 品 が 風 景 画 の よ うな もの に な る こ とは あ る程 度 予 想 して い た。 しか し、 大 半 の 全 盲 者 も、 ポ ス ト、 リ ン ゴ 、 サ ク ラ ン ボ な ど な ど、 視 覚 的 イ メ ー ジ(色)を. 伴 う具 体. 物 を モ チ ー フ と して作 品 制 作 した の は意 外 だ っ た。 イ ベ ン トを 企 画 し た 岡 本 先 生 や 僕 の 狙 い は 、 「色 を 触 覚 的 に 表 現 す る こ と」 で あ り、 そ の 意 味 で は イ ベ ン トの 趣 旨 が 参 加 者 に 十 分 伝 わ っ て い な か っ た と も い え る だ ろ う。 で は 、 なぜ 伝 わ っ て い な か っ た の か 。 全 盲 とい っ て も、 い つ 視 力 を 失 っ た か に よ って 、 視 覚 に 対 す る 意 識 は十 人 十 色 で あ る 。 ユ ニバ ー サ ル ・ ミ ュ ー ジ ア ム研 究 会 で は あ え て0さ. (12). [167]. ん 、Hさ. ん 、 広 瀬 の よ う な 「比.

(13) 較 的 早 い 時期 に視 力 を失 い 、 触 覚 を通 じて 自己 形 成 、 世 界 認 識 を して きた 盲 人 」 を集 め 、 そ の 体 験 か ら 「さ わ る 文 化 」 を 追 求 して きた 。 僕 は 「どっ ぷ り盲 人 」 「あ っ さ り盲 人 」 と い う言 葉 で 区 別 して い るが 、 実 際 に は0さ. ん 、Hさ ん の よ う な 「どっ ぷ り盲 人 」 は 少 数 派 で 、視 覚 障. 害 者 の多 くは 「あ っ さ り盲 人 」(弱 視 者 や 中途 失 明者)な. の で あ る。 善. 悪 ・優 劣 の判 断 は別 と して、 「あ っ さ り盲 人 」 の作 品 が視 覚 イ メ ー ジ に 依 拠 して しま うの は 当然 な の だ ろ う。」. こ こで 私 は 広 瀬 先 生 と は若 干 異 な っ た観 察 を して い る。 と い うの も、 広 瀬 先 生 が 称 す る 「ど っぷ り盲 人 」 の作 品 に も、具 象 的 な 表 現 が 見 られ た の で あ る。 中 で も印 象 的 な作 品 が あ っ た 。 そ の作 品 の 色 予 想 は、 私 も含 め ほ とん どの 人 が外 れ た。 そ れ は、 四 角 い ス ポ ンジ に 薄 い 布 を被 せ た だ け の 非 常 に シ ン プ ル な 作 品 で あ る。 晴 眼 者 は ど う して も現 物 を 一 瞬 で も見 て しま い、 ま さに ミニ マ ル な抽 象 性 か ら想 起 され る 印 象 や 既 成 概 念 に絡 み取 られ 、 そ の オ ブ ジ ェ を 〈白〉 と思 い が ち で 、 一 方 多 くの 視 覚 障 害 者 もま た 、 そ の 単 純 明 快 な幾 何 学 形 態 と柔 ら か み の あ る均 一 的 触 覚 に や は り 〈白〉 と予 想 した。と こ ろが 、 そ の 人 が 作 った の は意 外 に も 〈赤 〉 で あ った 。まっ た く逆 、 とは 言 わ な い まで も、誰 もが 〈赤 〉 と は予 想 しな か っ た 。 【 写 真7】. 説明. を 聞 い て み れ ば、 そ れ は座 布 団 を表 した もの だそ う だ。そ の 人 の 赤 の イ メー ジ は 必 然 的 に 座 布 団 ら しい 。 作 品 は つ ま り 「赤 い 座 布 団 」 で あ る。 多 くの 人 が 抽 象 作 品 と して捉 え た ものが 、 実 は具 形 表 現 で あ っ た。 で は なぜ 〈 赤 〉 と 〈座 布 団 〉 が 結 び つ くの か?そ れ は す な わ ち物 語 で あ る。 そ の 人(高 齢 者 で あ る)に. よ れ ば、 自 分 は生 ま れ つ き 目が 見 え な い 。. だ か ら こ の世 界 の 何 を も一 度 た り と も見 た こ とが な い 。 しか し世 界 を感 じ る こ と は で き る。 そ れ が触 覚 で あ っ た り、 嗅 覚 で あ っ た り、 味 覚 で あ った り。 そ し て も うひ とつ 世 界 を知 る 方 法 、 そ れ は 話 を 聞 く こ とで あ る 。 生 ま れ て この か た 、 大 勢 の 人 達 か ら数 え 切 れ な い言 葉 を 聞 い て き た。 人 々 が 口 伝 して き た壮 大 な物 語 の 中 心 で生 き る こ とに よ っ て、 世 界 を身 体 の外 に見 出 す の で は な く身 体 の 内 に独 自 で構築 し、 築 き上 げ られ た 世 界 の 隅 々 に は. [166]. (13).

(14) 言 葉 に 纏 わ る文 脈 と して 色 もつ け られ て い る 。 しか しそ の 言 葉 達 が 指 し示 して い る色 自体 の 光 学 的 体 験 は無 い。 「赤 い 座 布 団」 は、 今 まで触 れ合 って きた 人 々 との協 業 に よ っ て 紡 ぎだ され た 彼 の物 語 で あ る 。 そ れ は他 人 が 検 知 で きる もの で は ない 。 他 の 多 くの視 覚 障害 者 が作 った 具 象 形 態 の作 品 も、 単 に 普 通 名 詞 と して の シ ンボ ルや ア イ コ ン と して で は な く、 固 有 名 詞 と し て 、 そ れ ぞ れ か け が え の な い 物 語 の 形 で あ っ た の だ ろ う。 さ ら に は 具 象 ・ 抽 象 に 関 わ らず 、 こ こ に披 露 され て い る作 品群 は 、 外 へ 向 くべ き 目の代 わ りに 、 身 体 内 で培 わ れ た物 語 の 一 端 で あ る。 晴 眼 者 や 弱 視 者 に と っ て は 視 覚 に よ っ て事 物 化 さ れ、 客 体 化 さ れ た も の と して 理 解 され る、 い わ ば エ ク リチ ュ ー ル 的 知 覚 が 、 視 覚 障 害 者 に と っ て は個 別 の 主 体 的 、 全 人 的経 験 を 核 とす る認 識 方 法 、 い わ ばバ ロ ー ル的 知 覚 に よ っ て作 品 化 され て い た。 こ の事 実 は、 触 覚 的(taktish)一. 視 覚 的(optish)と. い う知 覚 の 二 元 論 を. も思 わ せ る。 芸 術 活 動 に お け る知 覚 や 認 識 へ の 注 目は 、 ア ロ イ ス ・リー グ ルが1901年. に著 した芸 術 史(井 面信 行教 授 に よ る邦 訳 『 末 期 ロ ー マ の 美術. 工 芸 』 中 央 公 論 美 術 出 版2007年)に. そ の 萌 芽 を感 じる。 リー グ ル の 芸術 論. は 、後 に ベ ンヤ ミ ン に よ っ て 社 会 的視 点 を加 え た 知 覚 論 と して 展 開 され る が 、 い ず れ もそ こで 使 っ て い る 「触 覚 」 は手 で触 る こ と だ け を意 味 す る も の で は な い。. 「そ れ は手 で 触 る こ とを 意 味 して い ない 。 そ れ は視 覚 の よ うに 瞬 間 的 な もの で は な く、 また 視 覚 の よ う に 明 晰 で もあ りえ な い 。 わ れ わ れ が 考 え る に 値 す る 「触 覚 」 とは 、 何 度 も経 験 し、 固 定 した決 定 的 な像 を認  .  .  .  .  . 識 しな い の だ 。 平 面 とか 三 次 元 とか に表 す こ とが で き な い。 「 触 覚」 と  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  . は 時 間 を 含 み 、 多 次 元 で あ り、 イ 可 よ り も 経 験 で あ り、 か つ 再 現 の で き  .  .  .  .  .  .  .  .  . の. な い もの な の で あ る。」(多 木 浩 二 『ベ ン ヤ ミ ン 「複 製 技 術 時 代 の芸 術 作 品」 精 読 」 岩 波 現 代 文 庫 、2000年100頁. 傍 点 は筆 者 に よ る。). お そ ら く リー グ ル、 ベ ンヤ ミン の知 覚 論 は 晴 眼 者 を主 体 に して 書 か れ て い る と思 うが 、視 覚 障 害 者 側 の 感 覚 に こそ彼 らの 分析 は鮮 明 に表 れ て い る 。. (14). [165].

(15) 確 か に視 覚 障 害 者 も視 覚 的 イ メ ー ジ を ベ ー ス と して い るの は事 実 と して も、 そ こで い う視 覚 的 イ メ ー ジそ の もの は、 必 ず し も実 際 的 な 視 覚 情 報(光 的体 験 と して の 記 憶)か. 学. ら導 か れ て い る もの で は な く、 む し ろ時 間 をか け. た 言 語 体 験 を ベ ー ス と して 其 々 に 自 ら構築 した イ メ ー ジ を 表 現 して い る 。 そ れ は リー グ ル 、 ベ ンヤ ミ ンの い う 「触 覚 」 に 近 い の で は な い だ ろ うか 。 広 瀬 先 生 は レポ ー トを こ う締 め く くっ てい る。. 「今 回 の イベ ン トは 、 「視 覚 障 害 者 の 日常 生 活 が 、 じつ は 視 覚 情 報 に支 配 され て い る こ と」 をあ ら た め て 浮 き彫 り に した よ う な気 が す る。 視 覚 障 害 者 文 化 と は 「視 覚 に頼 らな い 生 活 術 」 で あ る 。 近 年 の 視 覚 障 害 教 育 の 現 場 で は 、 情 報 保 障(視 覚 情 報 を補 う こ と)が 中 心 と な っ て お り、ITを 駆 使 して視 覚 障 害 者 の 生 活 を見 常 者 に近 づ け る こ とが 目標 と され て い る。 本研 究 会 で は盲 学 校 教 育 に 直接 立 ち入 るつ も りは な い が 、 「ど っぷ り盲 人」 の触 覚 へ の こだ わ り、 視 覚 障 害 者 文 化 の独 自性 は折 に 触 れ て主 張 して い きた い」. 予 想 外 の作 品 が 多 くあ っ た もの の 、 そ の実 、 よ り深 く貴 重 な分 析 に つ な が る 収 穫 で あ っ た 。 や は り当 初 よ り広 瀬 先 生 が 強 調 して きた 「触 覚 」 の 問 題 は 、単 純 に手 で物 を触 る とい う意 味 を超 え て考 え て ゆ く必 要 が あ る。リー グ ル や ベ ンヤ ミ ン にお け る 〈視 覚 的〉 一 〈 触 覚 的 〉 とい う知 覚 の 問題 意 識 、 さ ら に くエ ク リチ ュ ー ル 〉一 〈バ ロ ー ル 〉 とい う ジ ャ ッ ク ・デ リ ダ の 脱 構 築 論 を、 視 覚 障 害 者一 晴 眼 者 の複 眼 的 な立 場 で トレ ー ス し直 して み る の も 興 味 深 いが 、 こ れ は次 のス テ ップで あ ろ う。 も う一 つ 言 及 して お きた い 作 品 が あ る、 そ れ は 例 の異 議 申立 て を した 方 の作 品 で あ る 。 前 述 の 通 り彼 は個 別色 の 表 現 は で きな い とい う こ とで 、 色 全 般 の イ メ ー ジ と して作 っ た。 そ れ は 良 い と して 、 一 応 は 用 意 さ れ た 材 料 だ け を使 っ て 制 作 す る こ と に な っ て い た の だ が 、 彼 の作 品 に は工 作 用 に準 備 したハ サ ミが 真 ん 中 に突 き刺 さ っ て い た。そ れ は、 終 始 貫 い た抵 抗 の メ ッ セ ー ジ に も見 え 、 思 わず ドキ リ と させ ら れ た が 、 ア ー ト作 品 の 在 り方 と し. [164]. (15).

(16) て は実 に力 強 く語 りか け る傑 作 と い え よ う。 【写真8】 更 に 彼 は最 後 の 作 品説 明 の 際 に 、 突 然 持 っ て い た マ イ ク を はず し、 こ う 言 っ た の で あ る 。 「こ れ が私 で す 」 と。 この 言 葉 が 一 体 何 を意 味 す るの か? 私 ば か りで は な く会 場 の 多 くの 参 加 者 も一 瞬 唖 然 と した 。 また して も哲 学 的 な レジ ス タ ンス で あ ろ うか …。 彼 は続 け た 。 「皆 さ ん、 特 に視 覚 障 害 者 の 方 は 、 一 度 は マ イ ク を外 して 喋 っ て くだ さ い。 マ イ ク を使 っ て 話 して い る と、 目の 見 え な い 人 は み ん な ス ピ ー カ ー の 方 を 向 い て 聞 い て い る の で す 。 で も私 は ス ピ ー カ ー の とこ ろ に はい ませ ん。 私 は こ こ にい るの で す 。」 これ に は 強 い衝 撃 を 受 け た 。 確 か に 見 え て い る者 に は 、彼 が どこ で 喋 っ て い る か は分 か る。 そ れ 以 前 に彼 が 誰 か(ど. うい う容 姿 か)も 分 か る。 同. 時 に マ イ ク を持 って 話 して い る こ と も見 え て お り、 そ の声 は 離 れ た ス ピー カ ー か ら出 力 され て い るが 、 拡 声 装 置 と肉体 の 分 離 を こ と さ ら意 識 もせ ず 、 当 た り前 の 現 象 と して不 便 な く受 け 入 れ て い る 。 しか し視 覚 障 害 者 に と っ て は 、声 だ けが 彼 の 存 在 を示 す 拠 り所 で あ り、 そ れ は紛 れ も無 く小 さな 黒 い箱 の 中 か ら聞 こ え て くる 。 自ず と声 の 方 を 向 い て 聞 い て い るが 、 本 人 は ど こに い る か は わ か らな い 。 声 のす る 場 所 に は 誰 も存 在 しな い の だ 。現 代 社 会 は この よ う に して 身体 性 を 隠 匿 し、 除 外 して い る訳 で あ るが 、 そ れ は 見 え な い こ とに よ っ て初 め て見 え て くる。 メ デ ィ ア 論 の 先 駆 者 マ ー シ ャ ル ・マ ク ル ー ハ ン が 「人 間 拡 張 の 原 理 』 (1969年)で. 述 べ た 、 様 々 な メデ ィ アや 機 械 に よ る身 体 機 能 の 拡 張 や 感 覚 比. 率 の 歪 み は、 今 や 当 た り前 の こ と と慣 習 化 、 日常 化 さ れ て し まい 疑 う余 地 もな い 。 ス ピ ー カ ー は 身体 機 能 の 拡 張 と 同時 に 人 間 の 複 製 とな っ て い るの だが 、感 覚 の優 等 生 、 「視 」 の補 完 に よ って そ の つ じつ ま合 わせ が行 わ れ て い る 。 〈視 覚 〉 と は、 一 体 もの を見 る機 能 な の か 、 見 え な くす る作 用 な の か?こ の よ うな気 づ きこ そ 、視 覚 を 失 っ た側 か ら提 議 さ れ るの で あ る。 と りわ け1人 の 異 議 申 立 て 人 は、 この ワ ー ク シ ョ ッ プ の 中 で 急 先 鋒 に立 ち 、 終 始 鋭 い批 評 軸 を加 え て くれ た。 私 は 最 後 の ま と め の 言 葉 に、 今 日集 ま っ た 皆 様 の 中 に は、 見 事 に ア ク シ ョ ン ・ペ イ ンテ ィ ング あ り、 ミニ マ リズ ム あ り、 印 象 派 あ り、 そ して 強. (16). [163].

(17) 烈 な ダ ダ イス トま で が 揃 っ て 壮 観 で あ っ た 。 とい う 表 現 で締 め く くっ た 。 この. 〈ダ ダ イ ス ト〉 発 言 は 、 の ち に1人. の 参 加 者 か ら絶 賛 をい た だ い た 。. 彼 女 は 件 の 人 と組 ん だ パ ー トナ ー で あ っ た 。. 閉 会 の 際 に 急 遽 広 瀬 先 生 か ら、 学 生 サ ポ ー ター 達 に も一 言 述 べ て欲 しい とい う リ クエ ス トが 出 たが 、 全 員 堂 々 と会 場 の 前 に立 ち並 び、 各 々 の感 想 、 意 見 、 総 論 を6名 が6名. と も(内4名. は2回 生)自. 分 な りの 視 点 と言 葉 で. しっ か り と話 した の に は我 なが ら感 心 した 。 【 写 真9】. ゼ ミで の 日頃 の プ レ. ゼ ンテ ー シ ョ ン練 習 成 果 が こ こ に 発 揮 で きた か と密 か に 喜 ん だ。 会 場 か ら も学 生 た ち の働 き と振 る 舞 い を お 褒 め い た だ い た。 そ う回 数 は多 くな い に しろ 、 今 ま で様 々 に行 な っ て き た ワ ー ク シ ョ ッ プ の 中 で も、 今 回 は 内 容 運 営 面 と も と りわ け充 実 した もの で あ っ た。. 7.考. 察. 「見 る 」 こ と の 意 味. デ カ ル トは レ ンズ とそ の屈 折 に 関す る研 究 書 『 屈 折 工 学 』(1637年)の. 中. で、 視 覚 の は た ら きを確 か め る た め に、 カ メ ラ ・オ ブ ス キ ュ ラ の装 置 的 モ デ ル に、 死 後 問 も な い 人 間 の 眼 球(入. 手 で き な い 場 合 は 大 型 動 物 の も の). を レ ンズ の代 わ りに嵌 め 込 ん で、 どん な映 像 が 写 り込 ん で い るか を 網 膜 の 裏 側 か ら観 察 す る、 とい う よ うな不 気 味 な実 験 を紹 介 してい る。. 「視 覚 を 通 じて 主 体 性 を形 成 す る こ と は、 我 思 う、 ゆ え に我 あ り (60g伽6㎎0∫%〃!)だ. けで は な く、 我 見 る 、 ゆ え に我 あ り(V読06㎎0. 脇 〃  )も 意 味 した 。 デ カ ル トの 認 識 論 的懐 疑 一 感 覚 か ら引 き 出 され た 知 識 の信 頼 性 に対 す る疑 い一 は 『 屈 折 工 学』 にお け る視 覚 の機 械 学 的 、 生 理 学 的 、幾 何 学 的 説 明 と直 接 関係 して い た 。(中 略)デ カ ル トの 視 覚 を 通 じて獲 得 され た知 識 に対 す る 不 信 と、 視 覚 の 光 学 的 な真 の性 質 を 正 確 に記 述 した い とい う科 学 的 な 興 味 は、 視 覚 に対 す る 軽 視 と重 視 の 両 方 を示 して い る。」(ア ン ・フ リー ドバ ー グ 『ヴ ァー チ ャ ル ・ウ ィ ン ドウ』 産 業 図書 、2012年68頁). [162]. (17).

(18) 近代 哲 学 の 父 が 示 した視 覚 へ の異 常 な ほ どの 執 着 は、 見 る 人 は世 界 か ら 切 り離 され て い る と う考 え一 ハ イ デ ッ ガ ーへ 続 く脱 身体 化 の 理 論 を生 み 出 し、 そ れ が 今 日の 科 学 文 明 へ の 階梯 と な っ た 。 世 界 を普 遍 的 に認 識 し、 誰 に とっ て も同 質 な る知 覚 とい う ものへ の予 感 、 あ るい は信 念 は、 〈見 る〉 こ ミ ザ. ナ. ビ ヘ. ム. とが 問題 定 義 の 発 端 と な り、 〈 視 〉 へ の 眼 差 し とい う入 れ子 構 造 か ら探 求 が  . の.  . 始 まっ た 。 確 か に 見 る 人 は 世 界 か ら切 り離 さ れ て お り、 視 覚 にお い て 肉 体 か ら遊 離 して い る。 我 々 の 世 界 の認 知 の 仕 方 は 畢 寛 対 置 的 で あ る。 そ れ は ひ とえ に我 々 の 身 体 デ ザ イ ン、 眼 の 配 置 構 造 に よ る。 体 の前 方 に 向 け て 放 た れ る有 効 視 野 に よ っ て捉 え ら れ た 視 情 報 を 、 正 対 す る対 象 物=〈 世 界 〉 と して 捉 え る か らで あ る 。 更 に我 々 に 与 え られ た 眼 球 自体 の デ ザ イ ン に も よ る 。 ヒ ラ メ や カ メ レ オ ン、 ハ エ の世 界 認 知 方 法 、 ま して や ミ ミズ や プ ラ ンク トンで は、 お そ ら く人 間 と大 き く異 な っ てい るで あ ろ う。 【図a】 こ の 対 置 的 認 知 の 自 覚 は、 近 代 哲 学 と相 互 作 用 し な が ら、 〈自 然 〉 =natureと. い う概 念 を作 っ た。 か つ て は 自 ら も包 み 込 まれ て一 体 化 して い. た世 界 と、 今 度 は 正 対 面 して 、 い よ い よ人 間 は 唯 一 孤 立 の 道 を歩 み 始 め た の で あ る。 ギ リ シ ャ人 の"COSMOS"か. ら キ リス ト教 の 世 界 観"WORLD". へ 、 そ して 神 殺 し以 降 の"NATURE"へ. と、 ま さ し く人 類 の 視 線 は揺 れ 動. い て きた 。 確 か に 自然 を発 見 す る とい う独 創 的 ア イ デ ア に よ っ て、 科 学 と い う名 の 強 力 な 武 器 を手 に入 れ た。(科 学 を武 器 と呼 ぶ に は若 干 抵 抗 が あ る が 、 西 洋 近 代 科 学 は 自然 と戦 い そ れ を抑 えつ け る た め の知 恵 とい う点 か ら す れ ば 、 や は り一 種 の 武 器 で あ ろ う)し か しこ こ に来 て 、3.11を 挙 げ る ま で もな く人 間 は そ の 能 力 限 界 と と も に、 相 手 は 、 敵 とす る に は あ ま り に も 複 雑 で 偉 大 な こ と は 十 分 に 解 っ た の で あ る。 次 の 時 代 を切 り開 くた め に 、 脱 ・脱 身体 化 が パ ラ ダ イ ム シ フ トの課 題 とな り得 る。 そ の 手 掛 か り と して 、 〈見 る〉 こ との 再 考 が あ る の で は な い だ ろ うか 。 私 は 一 体 世 界 の ど こ に い るの か?目. を 閉 じて み れ ば 自分 を取 り囲 む世 界. の 中 心 に、 一 体 化 され た存 在 と して の 身 体 感 覚 が あ る。 だ が ひ と た び 目 を 開 け る と、 世 界 が 客 体 化 され 、 自分 の 身体 と は 別 の あ り方 と して 対 面 され. (18). [161].

(19) る。 確 か に見 る こ と は素 晴 ら しい体 験 で あ る。 しか しそ の こ と に よっ て も た ら され る 晴 眼 者 の世 界 認 識 だ け を正 しい もの 、 最 良 た る も の、 好 ま しい もの と前 提 し、 デ ィス ア ビ リ テ ィ と して の 視 覚 障 害 者 を そ こへ 近 づ け よ う とい う一 方 向性 だ け で は不 十 分 で あ る。 今 回 の ワー ク シ ョ ッ プ を通 じて 痛 感 した こ とは 、 む しろ彼 らの 世 界 認 識 の 方 法 に、 我 々晴 眼 者 が 学 ぶ こ との 重 要 性 で あ る 。 両 者 の対 話 を繰 り返 し続 け る こ と で 、 ポ ス ト ・デ カ ル ト時 代 へ の切 り口が 見 つ か るか も しれ ない 。 研 究 は始 ま っ た ばか りで あ る。. 「耳 で 聴 く も の に 価 値 は な い 。 価 値 が あ る も の は 両 眼 を 開 い て 見 る も の 。 さ ら に 価 値 が あ る も の は 、 両 眼 を 閉 じ て み る もの 」 一 ジ ョ ル ジ ュ ・デ ・キ リ コ. [160]. (19).

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参照

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