385 教養知識としての AI ─ AI って何?─
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391 教養知識としての AI ─ AI って何?─
393 教養知識としての AI ─ AI って何?─ 1.人工知能とは? そもそも,人工知能(AI:Artificial Intelligence)とは何であろうか.一般 的には,映画などに出てくる仮想のロ ボットや対話を行うプログラム(Siri, Google Assistant, …),将棋や囲碁な どのゲームをプレイするプログラムなど のイメージをもっていることだろう.こ れらの答えは,ある意味,正解を示して いるが,改めて「人工知能」とは何かを 問うと,戸惑う人も多いだろう. 実は,「人工知能とは何か」という問 いに対する答えは,単純ではない.人工 知能の専門家の間でも,大きな議論があ り,それだけで 1 冊の本となってしまう ほど,見解の異なるものである.そのよ うな中で,共通する部分を引き出して, 一言でまとめると,「人間と同じ知的作 業をする機械を工学的に実現する技術」 といえるだろう.ここでのポイントは,「知 的作業をする機械」と,「工学的に実現 する」という点である. まず,簡単な後者の「工学的に実現 する」という点から説明しよう.ここで 「工学的に実現」というのは,実際に役 立つものをつくるという意味が含まれて いる,深層学習(Deep Learning)に 関して,一般の報道などで,「人間の脳 と同様の仕組みを用いた深層学習」と いった解説を見ることがあるが,人工知 能の技術の一つである深層学習も工学的 な技術である.そのため,人間の脳から 最初のヒントは得ているが,工学的に有
第1回
AI って何?
What’
s AI
市瀬 龍太郎
国立情報学研究所,人工知能学会編集委員長
Ryutaro Ichise National Institute of Informatics. /
Editor-in-Chief, Jounal of the Society for Artifi cial Intelligence. [email protected] 【連載開始にあたって】 昨今の人工知能ブームにより,社会的に人工知能技術に大きな関心が集まっています.そのた め,人工知能学会には,さまざまな分野の方が新たな会員として多数参加してきています.従来は,学会誌において,人 工知能の専門家のみを対象として,最新技術の解説などの記事を提供してきました.しかし,新たな読者層が増えたため, 従来型の記事だけでは,読者のニーズに十分に応えられないと考え,新たな企画を編集委員会で練ってきました.そこ で,これまでの学会誌に足りない視点として,二つのタイプの記事が必要と考えました.一つ目は,すそ野の拡大に伴い, 人工知能の専門家でも全貌が把握しにくくなっているため,人工知能技術各種に関する全体像を把握するための概観的 な解説記事です.もう一つは,現在,人工知能技術は,さまざまなところで応用が試みられていますが,そのような実用 化技術とその背景にある人工知能技術の関係がわかりにくくなっているため,企業などで使われる人工知能応用技術に関 する解説記事です.このような記事は,従来からの読者を含めた学会員の知見を広め,さらに,人工知能技術の理解を 社会に広めるためにも必要と判断し,新たな記事企画を始めることとしました. この企画では,人工知能技術を俯瞰し,多様な技術を気軽に理解できるようにするために,漫画による解説記事 8 ページ, および技術解説記事2ページ程度により構成することとしました.漫画による解説記事は,人工知能学会の担当者が取材し, 技術の概要がわかるような記事を漫画で作成します.漫画だけでは,技術的な背景を十分に説明することが難しいため, 別途,技術解説記事を付けることとしました.技術解説記事は,学会監修のもとで,学会担当者または取材先の担当者 が中心となって,技術の詳細を解説する記事を作成します. また,新たな試みとして,企業のもつ実用化技術を取材して記事にすることにし,いくつかの企業にご協力をいただく ことにしました.その関係で,技術解説記事は,取材先の企業・団体がもつ技術の解説がありますが,取材先の技術の みではなく,幅広い視点からの基礎的な解説を目指し,内容に関しては,企業・団体の単なる宣伝記事にならないように, 学会のほうで責任をもって監修を行っております. 今回は,教養となるような人工知能の知識を解説するために,高校生以上であれば,十分に理解できるように心がけ て記事の作成を行いました.身近な人と共有しながら,記事を楽しんでいただければ幸いです.
教養知識
としての 連 載Keywords:
artifi cial intelligence, reasoning, learning, strong AI, weak AI, narrow AI, artifi cial general intelligence.394 人 工 知 能 34 巻 3 号(2019 年 5 月) 用な方向で発展した結果,現在の深層 学習技術は人間の脳とは似ても似つかな いものになっている.つまり,「工学的 に実現する」とは,人間の知能と同じよ うに動作すれば,人間と同じ仕組みでな くても構わないことを含意している.し かし,人間の仕組みは,知能を実装して いるため,人工知能をつくる際の重要な ヒントも多く含まれている. 次に,前者の「知的作業をする機械」 という点を説明する.「知的作業」とい うのは,「力作業」とは対照的に,ビジ ネスにおける意思決定といった知能が作 用する作業のことを指す.そのため,冒 頭に出てきた対話や,将棋のプレイなど は,確かに知的作業であり,それを機械 (コンピュータ)が行えば,人工知能と 言えるであろう.しかし,ロボットにお いては,腕や足といった物理的なハード ウェアとそれをどのように動かすかとい うソフトウェアは分けて考える必要があ り,一般的には,ハードウェア自体は 機械工学の技術,それを動かすためのソ フトウェアが人工知能の技術となる. 上記の説明で,一点,重要な部分の 議論が抜けている.何が「知能」かとい う点である.人工知能の議論で一番難し い部分が,この「知的作業」を遂行する「知 能」とは何かという点である.実は,「知 能」が何かというのは,定義が難しく, 考え方も時代とともに変化している.昔 は,計算機言語をコンパイルする作業を 人間が行っていたため,それを代替する 「人工知能」をつくることが試みられて いた.しかし,それがいったん,機械で 自動的にできるようになると,それが当 たり前になってしまい,もはや,誰も「人 工知能」とは呼ばないようになっている. つまり,人間がやっている複雑で難しい 作業には知能が必要であるが,いったん それが機械で当たり前のように実現でき るようになってしまうと,もはやそれを 知的作業と呼ばず,その作業をこなして も人工知能と呼ばなくなってしまうので ある.そのため,人間にしかできない知 的な作業の代替方法を永遠に模索する 学問が人工知能ともいえるのである. 2.推論と学習 人間は,現在もっている知識から,新 しい知識を生み出すことができる.この ようなプロセスを推論と呼ぶ.代表的な 推論として,三段論法が知られている. 例えば,「すべての人間は死ぬ」,「ソク ラテスは人間である」という二つの知識 があったときに,「ソクラテスは死ぬ」 という新たな知識を人間は導き出すこ とができる.このような推論は,ランダ ムに新しい知識を生成しているのではな く,一定の法則があることが知られてい る.推論は,人工知能の世界で長年取 り組まれてきた課題の一つであり,近年 では,確率と組み合わせて推論を行う方 法が広く用いられている. 新たな知識というのは,学習によって も生成することができる.人間は,学習 能力をもち,知識を新たに獲得すること ができる.例えば,人間の子供は,ネコ を見た際に,親から「ネコがいるよ」と 教えてもらうことにより,ネコにはとがっ た耳があるなどの特徴を学習し,次にネ コを見た際に,そこにいるのがネコと識 別する知識を学習できる.そのような学 習能力をもつ人工知能を実現することを 目指すのが機械学習である.しかし,機 械は,人間と異なり,基本的に身体がな いため,人間のように経験から学習する ことができない.そのため,機械の学習 では,経験の代わりに,データを用いる. 機械学習において,学習の枠組みとし て,さまざまなものが考えられているが, その中で「例からの学習」が一般的に 広く利用されている.機械に対して例を 与えることで,その例に共通する特徴を 知識としてデータから抽出するのが,例 からの学習の大まかな枠組みである.例 えば,ネコを識別する知識を得るために は,大量のネコの画像とネコ以外の鶏な どの画像が与えられることにより,ネコ に共通する特徴である 4 本脚,とがっ た耳など識別に有用な特徴を選別する 一方で,白い色などは鶏にも見られる識 別には役立たない特徴として無視するこ とで,識別に役立つ特徴を知識として学 習する. 3.強い人工知能と弱い人工知能 人工知能を議論する際に欠かせない話 題の一つとして,人工知能は意識をもち 得るかという点がある.意識をもち意味 を理解する人工知能は,強い人工知能 と呼ばれ,しばしば SF の世界に登場す る.一方,人間の思考を表面的に模倣 するような人工知能は,弱い人工知能と 呼ばれ,現在,世界に存在する人工知 能は,このカテゴリーに属する.人工知 能が意識(心)をもち得るかについては, そもそも人間がもつ意識や心とは何かと いう問題について,深く考えていく必要 がある. 4.特化型人工知能と汎用人工知能 人工知能の歴史を振り返ると,当初 の人工知能は,人間の知能と同様に領 域やタスクに依存しない汎用的な知的 処理を機械で実現することを目指してい た.しかし,当初の期待とは異なり,研 究が進むにつれて,知能の複雑さが明ら かとなり,しだいに特定の領域で使える 人工知能の開発にシフトしていった.例 えば,将棋を指す人工知能は,将棋と いう領域に特化して開発されたものであ る.このような特定の用途に使われる人 工知能は,特化型人工知能(Narrow AI)と呼ばれ,現在でもさまざまな領域 で研究されている.しかし,将棋に特化 した人工知能は,将棋を指すのが強く ても,似たようなゲームであるチェスを プレイすることはできない.人間の場合 は,将棋のコツがわかっているプレーヤ は,似たようなゲームであるチェスに対 しても,知識を転用してプレイすること ができる.一方,汎用人工知能(AGI: Artificial General Intelligence)は, 人間のように,さまざまな状況,問題に 対応できる汎用性をもつ人工知能で,特 化型人工知能の対極にある概念の人工 知能である. 汎用人工知能は,さまざまな領域・タ スクに適用できるという点で,従来の主 流である特化型人工知能と比べると強力 な人工知能である.そのため,強い人工 知能としばしば混同されることがある. しかし,汎用人工知能は,領域やタス クに依存しない汎用性に着目して分類が なされており,強い人工知能,弱い人工 知能を区分する意識があるかという軸と は,全く異なる軸で分類されている点に 注意が必要である.
395 教養知識としての AI ─ AI って何?─ 2019年 4 月 3 日 受理