中心多様体定理の走化性方程式への応用
著者
勝平 裕太
2014 年度 修士論文要旨
中心多様体定理の走化性方程式への応用
関西学院大学大学院 理工学研究科 数理科学科専攻 大崎研究室
勝平 裕太
1
微分方程式の解の挙動
非線形微分方程式 du dt = F(u), u ∈ R n について,不動点 P の近傍の任意の点を初期値として出発した解の t → ∞ での挙動を考える. 不動点 P の近傍の点を u(t) = P + v(t) とおき P のまわりで線形化すると線形化方程式 dv dt = Av (1.1) を得る.方程式 (1.1) は行列の指数関数 etA を考えれば解くことができる.行列 A の固有値を λ1, λ2, · · · , λn とすると,それぞれに対応する線形独立な固有ベクトル t1, t2, · · · , tn がとれると き,これらを並べた正則行列 T によって対角化される: Λ ≡ T−1AT = λ1 0 · · · 0 0 λ2 · · · 0 ... ... ... ... 0 0 0 λn . よって,t = 0 で v0 ∈ Rn を通る (1.1) の解は v(t) = etAv0 = eTΛT −1t v0 = TeΛtT−1v0 で与えられる ので,漸近挙動 (t → ∞) は eλjt によって次のように決まる: • 固有値の実部が全て負のとき,|v(t)| は 0 に収束する (漸近安定) • 1 つでも実部正の固有値があるとき,|v(t)| は発散する (不安定) • 固有値の実部が全て 0 のとき,|v(t)| は発散も収束もしない また,行列 A が対角化不可能な場合は,ジョルダン標準形を用いることにより同様に考えるこ とができる.2
中心多様体の定義・存在定理
定義 ベクトル場 ˙x= Ax + f (x, y), ˙y= By + g(x, y), (x, y) ∈ Rc× Rs (2.1)を考える.ここで,f (0, 0) = 0, D f (0, 0) = 0, g(0, 0) = 0, Dg(0, 0) = 0, f と g は Cr級関数 (r≧ 2). また,A は実部が 0 の固有値を持つ c× c 行列であり,B は実部が負の固有値を持つ s × s 行列 とする.このとき,(2.1) の解 (x, y) に対して,十分小さな δ > 0 が存在し, Wc(0)= {(x, y) ∈ Rc× Rs| y = h(x), |x| < δ, h(0) = 0, Dh(0) = 0} と表されるとき,Wc(0) は (2.1) の不変な中心多様体と言う. また,Wc(0) 上の y= h(x) のグラフが不変な中心多様体になるために満たすべき準線形偏微 分方程式を N(x) ≡ Dh(x){Ax+ f (x, h(x))}− Bh(x) + g(x, h(x)) = 0 (2.2) とする. 存在定理 (2.1) は,|x| < δ のとき C2級関数である局所中心多様体 y= h(x) を持つ. この定理を用いることで,局所的な空間においては (2.1) の解の安定性を解析することができる.
3
走化性・増殖系
大腸菌分布のパターン形成に対する数理モデルである走化性・増殖系: ut = auxx− b(uvx)x+ pu(1 − u), (t, x) ∈ (0, ∞) × I, vt = dvxx+ f u − gv, (t, x) ∈ (0, ∞) × I, ux(t, 0) = ux(t, L) = vx(t, 0) = vx(t, L) = 0, t ∈ (0, ∞). ここで,u は走化性大腸菌の個体密度,v は大腸菌が分泌する化学物質の濃度,I は区間 (0, L) ⊂ R を表し,p> 0 は定数である.走化性・増殖系において自明解が不安定化するメカニズムは走化 性誘導不安定化と呼ばれており,走化性の係数 b 以外のパラメータを全て固定した上で b を増 加させることにより,走化性の作用によって全ての定数定常解が不安定となり,非自明なモー ド解が現れる. α = π/L, Am= am2α2+ p, Bm= dm2α2+ g として,臨界モードの集合を S :={m∈ N0 = N ∪ {0} | λ+(m)= 1 2 {− (A m+ Bm)+ √ (Am+ Bm)2− 4(AmBm− f bm2α2) }> 0} で定義し,中心多様体の理論を用いて系を臨界モードの固有空間に制限する.本研究では,臨 界モードを (n, n + 1) ならびに (n, 2n) とした 2 つの場合において,標準形の導出とその系の平衡 点近傍のダイナミクスについて考察した.(n, 2n) モードにおいては,平衡点近傍において周期 解と密接な関係を持つ Hopf 分岐について,発生する分岐点の導出も行うことができた.
4
参考文献
[1] S. ウィギンス,非線形の力学系とカオス,シュプリンガー・フェアラーク東京 ,1992. [2] J.Carr,Applications of Center Manifold Theory,Springer-Verlag, New York, Heidelberg andBerlin,1981.
[3] 山本耕士朗,1 次元走化性・増殖系の分岐解析,関西学院大学大学院理工学研究科,大崎 研究室卒業論文・修士論文集,2012.