1.は じ め に
人間に比するかそれ以上の汎用知能をもつ考える機械 をつくるという,人工知能の起源にさかのぼる問題を概 念化し,研究する最も良い方法はどのようなものだろう か.人工知能分野創始以来 60 年の間に発展してきた標 準的なアプローチでは,人工知能をおおむね個々の能力 や個別の実際的課題の追求とみなす.しかし,こうした アプローチは多くの興味深い技術や理論的な成果をもた らしてきたものの,当初の中心的な目標の実現に関して はどちらかといえば不首尾であった. レイ・カーツワイル [カーツワイル 07] は,個別の文 脈において個別の「知的な」振舞いをするシステムの作 成を指して「狭い AI(特化型 AI)」という用語を用い ている.狭い AI では,文脈や振舞いの仕様を少しでも 変えると,知能のレベルを保つためには人間による何 らかの再プログラムや再設定が一般的に必要になって しまう.しかし,人間のような自然に汎用な知的なシス テムでは事情は全く異なる.人間は,ある目標や状況 からの知識を別の目標や状況に対して汎化する「転移学 習」[Taylor 08] により目的や状況の変化に自ら適応する 広範な能力をもつ.「汎用人工知能(Artificial GeneralIntelligence,以下 AGI)」という概念は「狭い AI」の反
義語として現れ,この種の広範な汎化能力をもつシステ ムを指す.AGI のアプローチは「汎用知能」を,課題・ 問題個別の能力とは根本的に異なる性質として捉え,そ のような性質の理解とそのような性質を呈するシステム の作成に直に取り組むものである. 「AGI」であるためには,無限の汎用性や適応性,柔 軟性をもつ必要はない.平たくいえば AGI は,現在の 狭い適用範囲の AI プログラムと,フィクションでよく 見られる類の AGI システム(R2D2, C3PO, HAL 9000,
Wall-Eのようなロボット,あるいは数多くの SF 小説や 映画で描かれている汎用的な知的会話システムのように ロボットの形をしていない汎用知能)との間の橋渡しを 狙ったものと考えられよう.また,研究者の中には,通 常の SF 的な AI の解釈よりもずっと広く,人間の理解 をはるかに超えた想定上の心的機構を含むすべてのあり 得る人工的な心的機構(例えば AIXI[Hutter 05] のよう な計算不能な心的機構)を包括するものとして AGI を 解釈するものもいる.AGI の正確な定義や特徴付けは AGI分野の研究主題の一つである. 近年,明白に AGI を目指すことによって結ばれた 研究者の広範なコミュニティが現れてきたが,このこ とは例えば AGI*1,BICA*2,Advances in Cognitive
Systems*3といった一連の会議および人間並みの知能*4, 統合知能*5,その他関連テーマについての特別トラック やシンポジウムが開催されてきていることによっても明 らかである.こうした AGI 関連会議への参加者などか らなる「AGI コミュニティ」は,AGI 概念に対してさま ざまな解釈と関与度をもつ研究者を含むファジィな集合 である.この論文は,現在の AGI コミュニティの主要 な考え方と方向性についてサーベイを行うものである.
2.AGI の中心仮説
AGIコミュニティの考え方と取組みは多様であるもの の,共有されているものの一つは著者が「AGI の中心仮 説」と呼ぶ以下の信念である. AGI の中心仮説:十分に広範な(例えば人間並みの) 適用範囲と強力な汎化能力をもつ人工知能の作成と 研究は,有意により狭い適用範囲と弱い汎化能力を もつ人工知能の作成と研究とは根本において質的に 異なる. この「AGI の中心仮説」が明示されたのはこのレビュー 論文が初めてである.著者がこれを強調するのは,AGI汎用人工知能概観
Artificial General Intelligence: Concept, State of the Art, and Future Prospects
ゲーツェル ベン
ノバメンテ LLCBen Goertzel Novamente LLC. [email protected]
Keywords:
cognitive science, human-level intelligence, strong AI, cognitive robotics, philosophy of mind. 「汎用人工知能(AGI)への招待」 *1 http://agi-conf.org/ *2 http://bicasociety.org/ *3 http://www.cogsys.org/ *4 http://www.aaai.org/Press/Reports/Symposia/ Fall/fs-04-01.php, http://www.ntu.edu.sg/home/ epnsugan/index files/SSCI2013/CIHLI2013.htm *5 http://www.aaai.org/Conferences/AAAI/2011/ aaai11iicall.phpコミュニティ内のほとんどすべての研究者が,AGI につ いての概念上の違いや,アーキテクチャ的あるいは理論 的,技術的,工学的な取組みの違いにもかかわらず同意 することだからである. AGIの中心仮説の範囲内において,AGI を定義し,特 徴付けるさまざまな取組みが,心理学的,数学的,実用 論的な観点あるいは認知アーキテクチャの観点などから なされている.この論文では,現在の AGI 分野を十分 に包括的かつ簡潔にサーベイする.
3.AGI と汎用知能の特徴付け
AGIコミュニティの一つの興味深い性質は,今のとこ ろ AGI 概念の定義について一つとして合意するところ がないということであるが,AGI の一般的な直感的性質 については広範な合意があり,何らかの形の AGI の中 心仮説が真であるということについても広範な合意があ る.心理学には一般知能についての成熟した理論があり, AGI分野においては知能の数学的定義についての文献が あるが,何らの心理学的あるいは数学的な一般知能概念 も,詳細において基礎的なものとして AGI コミュニティ の一部を超えて受け入れられているわけではない.むし ろ「AGI とは何か」についての詳細かつ厳密な理論化は, AGIコミュニティで進められている研究のうちの小さい けれども重要な部分なのである.新興の AGI コミュニ ティの大部分の努力は AGI システムの設計と実装およ びそれらに関する最良の方法についての理論をつくり出 すことに向けられているが,「AGI」概念を具体化する ことはそうした作業に寄り添い,あるいは相乗的に実現 されていくのである. ここで注意しておくべきこととして,「AI」という用 語も AI 研究コミュニティ内でさまざまな意味をもって おり,定義に関する明確な合意は存在しないということ がある.「AGI」が「AI」に比べてとりたててより曖昧だ ということはなく,実際のところ曖昧性はより少ないか もしれない.「知能」自体もかなり曖昧な概念である.レッ グとフッター [Legg 07a] は,さまざまな分野の研究者が 出版した 70 を超える数の「知能」の定義(大方は一般 的な知能を志向している)を整理する論文を書いている. AGIは他の多くの用語や概念とも関連している.ヨ シャ・バッハ [Bach 09] は AGI を「人造知能」をつく り出す探求として見事に特徴付けてみせた.AGI 関連の ゴールを目指している研究者のコミュニティには「計算 知能(computational intelligence)」,「自然知能(natural intelligence)」,「 認 知 ア ー キ テ ク チ ャ」,「 生 物 学 に 触発された認知アーキテクチャ(BICA:biologically inspired cognitive architecture)」などのレッテルが付 いているかもしれない.こうしたレッテルはそれぞれ一 定の目的によって導入され,特定の概念と取組み方の集 合をもっており,一定の観点(群)に対応している.「AGI」 という用語と概念に特有の目的は(人間,AIXI [Hutter 05]のような理論的システム,さらに未来において可能 であろう人工知能の部分集合のような)知的システムの 一般的な適用範囲および汎化能力に注目しているという ことである.すなわち,おおまかにいうと AGI システ ムは,一般的な適用範囲をもち,さまざまな目標や文脈 に対して汎化に長けた人工知能だということになる. AGIを特徴付けるさまざまなアプローチをレビューす る際に心に留めておくべき点として,AGI と関連概念で ある「人間並みの AI」(通常「人間並みで,かなりの程 度人間のような AGI」を意味するように用いられる)と の違いである.AGI はかなり抽象的な概念で,本来的に 人間固有の性質に縛られているわけではない.一方,「人 間並みの AGI」の概念は人工知能と人間との比較を求め るのだが,そこには問題があるように思える.任意の知 能の「知能水準」を人間の「知能水準」と比べるような 形で,すべての可能なシステムの知能を単純な階層に並 べるということは難しい.一方,人間と同じような環境 内で,人間とおおまかには同じような認知過程によって 行動すると考えられる AGI システムにとっては,「人間 並み」という概念は比較的,少なくとも直感的には理解 しやすい.「AGI」概念は「人間並みの AGI」より理論 的に深いところにあるように思えるが,まさにその深さ も問題なのであって,AGI システムについての一般的な 結論を導くことを難しくしているのである.4.汎用知能についての諸観点
AGI分野には「汎用知能」概念の理解に対する多様か つ重複するアプローチがある.以下,いくつかの主要な 観点を概観し,それらの共通部分を探してみることにす る. 4・1 汎用知能を特徴付ける実用主義的なアプローチ 汎用知能を特徴付ける実用主義的なアプローチは,人 工知能の初期のリーダの人であるニルス・ニルソンの「人 間並みの人工知能だって? 冗談でしょ!」という AI Magazineの記事 [Nilsson 05] に代表される.ニルソン の見方は以下のようなものである. ……人間並みの人工知能を達成するということは, 人間が賃金労働で行うほとんどの作業が自動化できる ということを必然的に意味するであろう.この自動化 の目標に向かって特定目的のシステムをつくる努力を する代わりに,人間が行い得る何千もの仕事のどれを も学び,教えることができるような汎用の教育可能な システムを開発することを著者は薦める.著者は同様 な提案をする人々と同じように,最小のしかし豊富な 組み込み能力をもつシステムから始めることを提唱す る.そこには学習によって向上する能力が他の多くの 能力とともに含まれるべきだろう.この観点からすると,AI は人間が行っている大方の 実際的なことについて人間を無用のものとしてしまうこ とで汎用の人間並み知能を手に入れることになる.ここ での暗黙的な仮定は,人間こそ我々が関心をもっている 汎用の知的なシステムなのであって,汎用知能を特徴付 ける実際上最も良い方法は人間の能力との比較によると いうものである. 機械知能に関する(人間の審判をだませるほど上手に 人間の会話を真似するという)古典的なチューリングテ スト [Turing 50] はニルソンと同じような意味で実用主 義的である.しかしチューリングテストは人間をまねる という異なる関心をもっていた.ニルソンが興味をもっ ているのは,AI システムが自分を人間だと思わせるこ とができるかどうかではなく,人間ができる有用かつ重 要な実際的なことが AI システムにできるかどうかとい うことである. 4・2 汎用知能の心理学的な特徴付け 汎用知能を特徴付ける心理学的なアプローチも人間の ような一般的な知能に焦点を当てているが,直に実際的 な能力を見るというより,そうした実際的な能力を可能 にしているより深層の能力を特定しようとしている.実 際には,このアプローチは統一的な観点を表しているの ではなく,多くのサブアプローチからなる. 歴史的に見ると,人間の知能を概念化し,定義し,測 定する努力は,より一般的なものから個別的なものへと いう明確な潮流を反映している(AI における歴史的な潮 流と類似性が認められることは興味深い)[Gregory 96]. すなわち,知能を定義し測定する初期の研究は 1904 年 に g という心理学的因子(general intelligence の「g」) を提案したスピアマンに大きく影響された.スピアマン は,g は生物学的に決定されており,個人の全体的な知 的スキルの水準を代表していると主張した.1916 年に ターマンが IQ(intelligence quotient)概念を提唱した が,それは受験者の精神年齢(成績に相当する年齢)を 物理的あるいは暦上の年齢で割ったものである.しかし 後年になると心理学者達は単一の分化されない能力とし ての知能概念を疑い始めた.いくつかの代替的な理論や 定義,測定手法が現れてきたが,それらはみな,知能は 多面的なもので,個人内部あるいは個人間で可変である という考えをもっていた.こうしたアプローチの中で特 に有名な例はガードナーの多重知能の理論であり,八つ の異なる形または種類の知能を提案した.それらは(1) 言語的,(2)論理・数学的,(3)音楽的,(4)身体運動的, (5)空間的,(6)対人的,(7)内省的,および(8)博 物学的な知能である [Gardner 99].ガードナーの理論に よれば,個々人の知的スキルは,知能プロファイル,す なわち 8 種の知能にまたがる固有のモザイクまたは組合 せによって表現されるということになる. 4・3 汎用知能を特徴付ける数学的なアプローチ 特に人間のような一般的な知能に焦点を当てるアプ ローチとは対照的に,より一般的な汎用知能を理解しよ うとする研究者もいる.ここでベースとなる直感は以下 のようなものである. ● 真に絶対的に汎用的な知能は,無限の計算能力が あって初めて実現可能である.計算可能なシステム にはそれが何であれあまり知的ではないような文脈 や目標があるであろう. ● しかし,ある有限の計算システムが別の計算システ ムより一般的に知的だということはあり得るだろう し,その程度を量化することができる. このアプローチを代表するのは,Solomonoff-Levin の 事前分布に基づく一般知能の形式的な定義を与えるレッ グとフッターによる最近の研究 [Legg 07b] である.極 めて大まかにいえば(すべての報酬加算可能な環境の確 率分布を考慮した)システムの平均報酬達成能力として 知能が定義され,そこでの環境の重みは,より簡潔に記 述できるプログラムがより大きな重みをもつような形で 与えられる.この種の測定方法によれば,人間は最大に 一般的に知的なシステムにはほど遠い.しかし,人間は 例えば岩や虫よりは一般的に知的である.レッグとフッ ターのもともとの定義の形では実際上計算ができなかっ たが,より扱いやすい近似法が最近つくられてきている [Legg 13]. 4・4 汎用知能を特徴付ける適応主義的なアプローチ もう一つの観点は汎用知能を環境と密接に関連するも のとして見る.王 培(Pei Wang)[Wang 06] は「限ら れた資源を用いた環境への適応」としての汎用知能とい う概念を入念に提唱した.システムは,現実的な資源制 約内でより一般的なクラスの環境に効果的に適応できる なら,より一般的な知能をもつといえるだろう.著者は 2010年の論文でレッグとフッターの数学的アプローチ を修正し,王の定義の主要な部分を説明しようと試みた [Goertzel 10]. 4・5 では汎用知能とは何か 観点の違いは別にして,AGI コミュニティ内には汎用 知能のいくつかの主要な属性に関する広範な合意がある. ● 汎用知能は,さまざまな文脈や環境において,さま ざまな目標を達成し,さまざまな仕事をする能力を 含む. ● 汎用に知的なシステムは,製作者が想定したのとは非 常に異なる問題や状況に対処できなければならない. ● 汎用に知的なシステムは,ある問題または文脈を他 に適用できるよう,獲得した知識の汎化に優れてい なければならない. ● 現実的な資源制約が与えられた場合,任意に汎用な 知能は実現不可能である.
● 実世界のシステムはさまざまな限られた汎用性を示 すかもしれないが,学習効率にかなりの差があるこ とは避けられない.実世界の特定のシステムは,あ る種のタスクの学習が受け入れがたいほど遅いとい うことになる.したがって,実世界の汎用知能は不 可避的に一定種類の目標や環境に偏向している. ● 人間は現存する AI プログラムより,そして見たと ころ他の動物よりも高水準の汎用知能を示す. ● 人間が最大水準の汎用知能を呈することは,それが 進化的に適応してきた目標や環境に関連することで あってもとうていあり得ないように思われる. AGIコミュニティ内には,さまざまな実世界の汎用 知能が一定の属性を共有するであろうという直感もある が,それらが何であるかについてはそれほどの合意はな い!
5.AGI 分野の範囲
ヴヲジスワフ・ドゥフの卓越したサーベイ論文 [Duch 08]では,AI への既存のアプローチを記号的,創発的 およびハイブリッドという三つのパラダイムに分けてい る.著者もこれを踏襲しつつ「普遍主義」というカテゴ リーを加える.フッター [Hutter 05] に代表される普遍 主義アプローチでは,圧倒的,非現実的に多大な計算能 力が与えられればとてつもなく強力な汎用知能をもたら すであろう AGI アルゴリズムから始めて,それらを入 手可能な計算資源を用いて動作するよう適用することで 「スケールダウン」することを試みる. 5・1 記 号 的 AGI 由緒ある AI の伝統の一つが強調するのは,心的機構 は主に世界や自分達を表象する記号を操作するために 存在するという物理記号システム仮説である [Nilsson 07].物理記号システムは,記号的実体を入力,出力, 保存,変更し,目標に到達するための適切な行為を実 行する能力をもつ.一般的に記号的認知アーキテクチャ は,必要に応じて長期記憶を利用する「ワーキングメ モリ」を主たる要素とし,知覚,認識および行為に対す る集中型制御を用いる.こうしたアーキテクチャは原理 的に任意の能力をもち得る(記号システムは理論的に 普遍的な表現および計算能力をもっているため)もの の,記号的アーキテクチャは実際には学習や創造性,手 続き学習,さらにエピソード的および連想的記憶に弱 い傾向がある.記号的認知アーキテクチャの典型例とし て,ACT-R [Anderson 03], Cyc [Lenat 90], EPIC [Rosbe 01], ICARUS [Langley 05], SNePS [Shapiro 07]および SOAR [Laird 12] をあげる. 5・2 創発主義 AGI AGIの別の種類のデザインにおいては,抽象的な記号 処理が(知能の他のすべての側面とともに)下層の「サ ブシンボリック」な力学から創発することを期待する. サブシンボリックな力学は,ときに(常にではないが) 神経ネットワークその他の人間の脳機能の側面をまねる よう設計される.今日の創発主義的アーキテクチャは, 高次元データのパターン認識,強化学習および連想記憶 を非常にうまく行うこともあるが,抽象的推論や複雑な 言語処理のような高水準の機能を純粋にサブシンボリッ クな創発主義的アプローチを用いて実現する方法につ いては誰も示していない.若干のサブシンボリックな創 発主義的認知アーキテクチャの典型例として,DeSTIN [Arel 09a, Arel 09b], Hierarchical Temporal Memory (HTM)[ホーキンス 05], SAL [Jilk 08] および NOMAD[Krichmar 06]をあげる. 概念的に「創発主義」の傘下にある AGI へのアプロー チの一つとして,計算論的神経科学を用いて脳がどのよ うに働くかのモデルをつくり,それを AGI システムの モデルとして用いるということがよく行われる.我々が 脳をより十全に理解するなら,これは世界初の人間並み AGIを実現するために極めて効果的なアプローチとなろ う.現在の我々の限られた脳の理解と最良の計算シミュ レーションについての現状からすると,AGI への計算論 的神経科学的アプローチは特効薬ではないし,実際ほと んど追求不可能であるが,それでも興味深い方向性では ある.ここでのボトルネックは計算シミュレーションの 側にあるわけではなく,神経科学側にある.我々はこの 種の AGI へのアプローチを効果的に推し進めるに必要 な神経科学的データをまだ手に入れていないのである. 創発主義認知アーキテクチャの一部分集合として著 者が特に重要だと考えるのは発達ロボティクスアーキテ クチャである.そこではとりたてて知識や能力を「組み 込む」ことをせずにロボットを制御することに取り込ん でおり,ロボットが世界との関わりにおいて学ぶ(そし て学ぶことを学ぶなどをする)ようにする.そこではし ばしば「内在的動機」が重要視され,ロボットは新奇性 や好奇心といった内的目標によって導かれつつ世界を探 索し,目標が示すモデル化条件に基づき,探索によって 世界のモデルを形成する.この研究領域の礎の多くの 部分は 1990 年にユルゲン・シュミットフーバーの研究 [Schmidhuber 91a, Schmidhuber 91b, Schmidhuber 95,
Schmidhuber 02]によって築かれたが,今ではより強力
なコンピュータやロボットが現れてきて,この領域はよ り目覚ましく実際的な成果を示しつつある.この領域の いくつかの新たな取組みとして翁 巨揚(Juyang Weng) の Dav [Han 02] および SAIL [Weng 00] プロジェクト, さらに FLOWERS [Baranes 09] をあげる.
5・3 ハイブリッド AGI
記号的および創発主義的アプローチの相補的な長所と 短所に応える形で,近年多くの研究者が,上記二つのパ
ラダイムによって動作するサブシステムを組み合わせた 統合的なハイブリッドアーキテクチャへと転向した.組 合せにはさまざまなやり方がある.例えば大規模な記号 的サブシステムを大規模でサブシンボリックなサブシス テムと組み合わせたり,それぞれが記号的かつサブシン ボリック的な性質をもつ小さなエージェントの集まりを つくったりということが行われる.いくつかの典型的な ハイブリッド認知アーキテクチャとして CLARION [Sun 04], DUAL [Nestor 04], LIDA [Baars 09], MicroPsi [Bach 09], PolyScheme [Cassimatis 07], Shruti [Shastri 93],
James Albusの 4D/RCS,さらに著者自身の CogPrime
システム [Goertzel 11] をあげる.
構成要素間の統合の性質はハイブリッドアーキテク チャごとに異なる.本質的に「別々の機能を実行する多 くの異なる種類のアルゴリズムがブラックボックスに 閉じ込められており,実行結果を相互にやり取りする」 ものもある.例えば PolyScheme, ACT-R や CLARION はかなりの程度この「モジュール性」を示す.一方, CogPrimeや DUAL, Shruti, LIDA, MicroPsi では,よ り密接な統合がなされているため動作を理解したり調整 したりすることはより難しいものとなる. 5・4 普遍主義 AGI フッター [Hutter 05] に見られるような普遍主義のア プローチでは,非現実的に膨大な計算能力が与えられ れば信じられないほど強力な汎用知能をもたらすような AGIアルゴリズムからスタートする.例えば,フッター の AIXI(tl)アルゴリズムは,「認知サイクル」の各ス テップで,長さが l より短く計算時間が t より小さいよ うなすべてのプログラムを探す.こうしたアルゴリズム を,実際的な計算資源を用いて動作するよう適用するこ とで「スケールダウン」することを試みる.こうしたス ケールダウンは場合によっては可能であることが示され ている.すなわち,AIXI(tl)に関連するアルゴリズム が単純な領域の問題を解くのに用いられており [Veness 11],また AIXI(tl)は汎用知能に関する抽象的な定理に 用いられている [Hutter 05]. 普遍主義の強みはその厳密さである.AIXI(tl)のよ うなアルゴリズムは計算可能な環境において計算可能な 報酬関数を一般的に最大化する能力という意味での汎用 知能を近似することを数学的に証明することができる. 主な弱みは,関連するさまざまなアルゴリズムや構造が 非現実的に膨大な計算能力という文脈あるいは非常に限 られた領域の外では役に立たないかもしれないというこ とである.この弱みが克服されるかどうかは今後の研究 を待つことになる.
6.結 論
今日 AGI 分野の中心にある大きく暗黙的な問いは, AGIの中心仮説をさらに探求し,その検証あるいは反証 へと向かうために,何がなされつつあり,何がなされな ければならないかということである.AGI 分野を速やか に前進させるには,以下の二つのうち一つが起きなけれ ばならないように見える. ● AGIコミュニティ内で,AGI とは何かについての 特徴付けや,現実的な計算資源を用いて人間並みの AGIを実現するにはどのようなアーキテクチャがう まくいくと期待できるかについての理論を含む,汎 用知能についての広範に受容された理論が現れるこ と,あるいは ● 素人にも専門家にも定性的に,目覚ましく十分な 汎用知能を示すように見える AGI システムの実 現.これには,例えば,柔軟で適応的なやり方でさ まざまな幼児的活動を行うことができるロボット, あるいはひどく統合失調症的な印象をもたせたり, キャッチフレーズの繰返しに頼ったりせずに 1 時間 会話をすることができる対話システムといったもの があげられる. どちらの場合でも AGI の中心仮説はより多くの信頼 を得ることになる. 今は AGI にとっての幼年期であるが,それでも指数 関数的な技術進歩 [カーツワイル 07] の現実を考えれば, 目覚ましい成功がはるか彼方だということを必ずしも意 味しない.比較的近未来に(次の数十年間あるいはひょっ とすると次の数年間にでも)AGI の設計,工学,評価お よび理論において,目覚ましく相互に連関した進歩が起 きる現実的な可能性がある.どんな研究領域であっても その発展の道筋を正確に予測できる者はいないが,興味 深いことに 2010 年の AGI 国際会議での研究者に対する アンケートでは,大多数の回答者が人間並みの AGI は 2050年より前に実現しそうだと感じており,さらにずっ と楽観的な回答者もいた [Baum 11].AGI が近く到来す るという楽観論には議論があるところだが,これは AGI コミュニティ内で自らの期待や予測に結果を出すべく努 力している多くの人々によって抱かれている立場なので ある.◇ 参 考 文 献 ◇
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2014年 2 月 14 日 受理
ゲーツェル ベン(Ben Goertzel)
Ph.D.AGI 研究者,AI 起業家.ブラジル生まれ, アメリカ国籍,現在香港在住.AGI 国際会議創設者, AGI Society会 長, 金 融 予 測 企 業 AidyiaLimited チーフサイエンティスト,AI 企業 Novamente LLC お よ び Biomind LLC の 創 立 者・ 会 長.100 件 以 上の論文を発表,12 冊の書籍(最近では論文集 Engineering General Intelligence, Springer, 2014) を著述した.