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Journal of Advanced Marine Science and Technology Society, Vol. 25, No. 1, pp , 2019 寄稿 調査現場からデータ整備まで, 海洋生物観察情報の 収集と蓄積 鈴木宏枝 * 1 山内束 * 1 宮城伸 * 1

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寄 稿

調査現場からデータ整備まで,海洋生物観察情報の

収集と蓄積

鈴木 宏枝 *1 山内  束 *1 宮城  伸 *1 齋藤 秀亮 *1 園田  朗 *1 *1 国立研究開発法人海洋研究開発機構,〒 236-0001 神奈川県横浜市金沢区昭和町 3173 番 25 2019 年 2 月 6 日受付,2019 年 5 月 27 日採録 Abstract

JAMSTEC has participated in the Tohoku Ecosystem-Associated Marine Sciences project (TEAMS) which scientifically clarifies the impact and recovery process of the Great East Japan Earthquake on marine ecosystems in the Tohoku region and supports the rehabilitation of fisheries and industries. JAMSTEC develops and operates systems for managing and publishing data and information obtained from observations of TEAMS. One of them is the system for collecting and archiving obtained information of biological observation at the field observation. This system enables to archives and edits marine biological observation information in Web application by collecting marine biological observation information such as photos and related information and uploading it using mobile application.

Keywords: biological observation, archive system, IoT, TEAMS 1.はじめに 2011 年の東北地方太平洋沖地震において,大量の瓦 礫の堆積や藻場・干潟の消失,岩礁への砂泥の蓄積等に より,沿岸域の海洋生態系が大きく変化した.地震・津 波が東北沿岸域の海洋生態系に与えた影響と回復過程を 科学的に明らかにすると共に,沿岸地域の産業を復興支 援するためのネットワークとして,文部科学省の海洋生 態系研究開発拠点機能形成事業費補助金制度により,東 北大学,東京大学大気海洋研究所,海洋研究開発機構が 中心となって東北マリンサイエンス拠点形成事業(海洋 生態系の調査研究)(Tohoku Ecosystem-Associated Marine Sciences: TEAMS)を実施している.TEAMS は様々な分 野の研究者の力を結集し,対象地域の物理・化学的環境 と生物動態について総合的に調査研究を行い,東北地方 太平洋沖地震・津波後の海洋生態系の変動メカニズムを 解明することで,生物多様性や生態系を保全した持続的 漁業のあり方について科学的知見やデータを国民や被災 地に提供することを目的としている.TEAMS は地元自 治体や関係省庁等と連携しながら,東北の復興を図るた め東北沿岸域からその沖合海域における海洋生態系の調 査研究を行っている. 東北大学は岩手県南部から宮城県沿岸域を中心とし て,人為生産と漁場環境の変動機構を明らかにするため に,養殖漁業を含む漁場の環境と生態系の状況を科学的 に調査するとともに,震災による変化や震災後の復興過 程における海洋環境,海洋生態系の変化も追跡調査を 行っている.また,得られた成果に基づいて,漁業者と ともに漁業復興の実現に向けた活動も行っている. 東京大学大気海洋研究所は地震と津波が沿岸海洋生態 系と物理・化学的環境に対して及ぼした影響を総合的に 把握し,その変動機構を解明するとともに,得られた データを基に沿岸海洋生態系の数値モデルを構築して いる.漁業の復興を支援する生態系と環境の変動予測に 関する科学的知見を提供するために,大槌及び岩手県北 部を対象に研究船を駆使して沿岸から沖合の総合的な観 測と研究を行っている. 海洋研究開発機構(JAMSTEC)では岩手県から宮城 県にかけての沖合海底付近において,生物と環境の現状 と変動をとらえ,また巨大津波によって海に流出した瓦 礫等が海洋の生態系に与える影響評価を行っている.ま た,巨大地震・津波後の持続的な漁業や海域利用をもた らす復興に貢献するために,これまで取得したデータや 新たに取得するデータを基に,三陸沿岸から沖合にかけ て生物や環境の現状や変動を生態系モデルによって「見 える化」する取り組みを行っている. さらに JAMSTEC は,TEAMS の調査・研究で得られ たデータや,関連する情報を収集すると同時にデータ共 有・公開機能の整備・運用も実施しており,TEAMS で 得られたデータを収集・管理し,国内外において広く情 報が共有できる公開型のデータベースを構築,基礎デー タの整備・公開を行うとともに,調査研究内容の紹介や 調査計画,関連するイベントなどの情報を発信している (Fig. 1). TEAMS は,中心機関である東北大学,東京大学大気 海洋研究所,JAMSTEC の 3 機関以外にも多くの機関が 参加していることから,データや情報を効率的に収集す るために,TEAMS の調査・観測で取得したデータや情 報の取扱いに関する基本方針(データポリシー)を制定 している.JAMSTEC ではそれに則り,入力フォーム, 管理フロー,作成要領を整備し,また多機関・多拠点が 関わるプロジェクトであることから,本事業に関する調 査観測情報・データの収集及び関係者間の情報共有を可

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鈴木 宏枝・山内  束・宮城  伸・齋藤 秀亮・園田  朗 能とするネットワーク環境を構築することで,調査・研 究活動が円滑に進められるよう支援している.さらに, 本事業の観測計画に関する情報や調査・研究の進捗や成 果などの情報を,情報やデータの種類によって効果的に 発信するサイトの構築と運用を行っている. TEAMS では,調査実施前に調査計画書,調査終了後 に調査報告書,データ提出時にデータとメタデータ,成 果公表時に成果概要届の提出がルール化されており, JAMSTEC はこれらの情報やデータの提出先となってい る.TEAMS 参画メンバーは,様々な情報を共有するた めの関係者限定のサイト「TEAMS Members Site」を利 用し,それぞれのフォームに情報を入力し登録すること で情報やデータの提出ができるようになっている.登録 した情報には調査単位で通し番号が自動で付与され,そ れに基づいた管理番号が調査計画書や調査報告書,デー タ・メタデータに自動で付与されることで,それぞれ の情報を関連付けて管理している.登録した情報は TEAMS Members Site 上で TEAMS メンバーが閲覧・検索 できるようになっており,調査の詳細やデータを共有で きるようになっている.また,TEAMS Members Site に登 録された情報やデータは,自動でデータ・情報格納フォ ルダに保管される仕組みとなっており,その都度管理番 号ごとに DVD などのメディアにバックアップとして格 納し保管するとともに,調査計画書,調査報告書,成果 概要届の情報を TEAMS 公式サイトに掲載し一般に公開 している.また,提出されたデータとメタデータをイン ターネットから閲覧可能なデータサイト「TEAMS デー タ案内所『リアス』」(以下,「リアス」と表記)で公開 しており,登録データの観測位置や観測機器,データ種 などの条件から検索し,1 メタデータ単位での情報表示 とそのデータのダウンロードが可能である.公開サイト への登録は,TEAMS Members Site からダウンロードした 情報やデータを各サイトにアップロードし,必要であれ ば付随情報を付与する程度に簡易化されており,速や

かに受領した情報やデータを公開する仕組みを有して いる.

TEAMS Members Site で収集し,「リアス」で公開する 一連のフローで情報・データの収集と公開を実施してい るが,これはデータファイルとして完結したものを扱う のに対して有用である.継続的な観測が必要なものや, データ整備に時間を有するもの,観測データとして情報 が多岐に渡り複雑なものなど,別の方法でデータ・情報 収集が必要で,通常の運用フローに乗らないものについ ても対応が必要とされる(Fig. 2). 2.TEAMS における生物観察情報の収集 生態系の状態の把握において,津波の直後の状態から 生物多様性情報を収集し,蓄積することは重要なことで ある.復興で構築される堤防などの人工物や,水温や海 流といった様々な影響を受ける生物の情報は,同じ場所 で継続的に調査を実施して情報を収集・蓄積することで その変化を知ることができる. TEAMS では,生態系の状態を把握するために様々 なモニタリング調査を実施し,得られた情報を公開し ているが,加えて,公開する前の生物観察情報を記録 し,整理・蓄積する「生物観察記録アーカイブシステム (Biological Observation Record Archive System: BORAS)」

を構築することで,研究者への研究・データ整備の支援 を行っている. BORAS は調査観測現場で利用可能なモバイルアプリ ケーション(BORAS 野帳)と,取得した情報を登録・ 蓄積する Web アプリケーション(BORAS システム)と で構成されるシステムである.BORAS は TEAMS 関係 者のみが利用できるシステムであり,ユーザ ID とパス ワードを用いてログインすることで利用可能となる. BORAS 野帳は,野外でも使えるデジタル野帳であり, 対象生物の写真と,位置,日時などの調査の情報を生物 観察情報として登録できる.なお位置情報や日時は,モ Fig. 1 The organizations and projects of TEAMS

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バイル端末のネットワークの機能から自動で取得するこ とができる. 生物観察情報は,調査内容や観察場所など調査の内容 ごとに分けて整理して登録することが可能である.生物 観察情報を格納する調査フォルダを作成し,情報の格納 場所を変えることで調査観測とその情報を結びつけ,整 理することができる.調査フォルダ自身にも位置情報や 日時の他,撮影現場の写真や水温,塩分などの環境情報, 調査方法や水深など,調査観測に関わる情報を入力する ことができ,調査フォルダの情報も生物観察情報とあわ せて BORAS 野帳から BORAS システムにアップロード することができる.なお,調査フォルダ及び生物観察情 報の登録項目は,日本海洋生物地理情報連携センター (Japan Ocean Biogeographic Information System Center:

J-OBIS)の受け入れデータの項目に準じており,J-OBIS への提供フォーマットである DarwinCore 形式でのダウ ンロードも可能である. また,調査観測は多くの場合複数人で実施することが 多い.調査観測で得た生物観察情報や環境情報は,メン バー間で共有して管理・編集できる必要があるため, BORAS ではグループを作成し,情報を共有したいメン バーを設定できるようになっている.グループに共同で 管理したい調査フォルダや生物観察情報を格納すること で,グループに設定されたメンバーは BORAS 野帳か ら共通の該当するグループに情報をアップロードでき, BORAS システムに登録できるようになっている. BORAS 野帳から BORAS システムにアップロードさ れた生物観察情報は,BORAS システムで閲覧・編集す ることができる.調査現場から持ち帰ったデータを整理 し,必要な情報を付与したり修正したりすることは重要 な作業であることから,BORAS システムには登録され た生物観察情報を各利用者,あるいは所属しているグ ループ単位で閲覧・編集することが可能な「管理環境」 が整備されている.生物観察情報を選択することで,そ の情報の詳細が表示され,閲覧や編集が可能となる.ま たデジタルカメラ等他の機器で撮影した写真を元にした 生物観察情報を BORAS システムの「管理環境」から追 加登録することも可能である.生物観察情報は写真を主 としたサムネイル表示,テキスト情報を主としたリスト 表示,観察位置を地図上に表示したマップ表示など, 様々な方法で俯瞰できる. BORAS 野帳の情報と BORAS システムの情報は同期 を取る形となっており,BORAS システムに登録された グループや調査フォルダの情報を,BORAS 野帳に取り 込むことも可能である.複数の調査を実施することが事 前にわかっている場合は,予め BORAS システムで調査 地点などの情報を設定しておき,BORAS 野帳にダウン ロードしてから調査観測を実施することで,その都度調 査フォルダを作成することなく写真や情報を登録するこ とができる.またダウンロードした調査フォルダの情報 は BORAS 野帳でも編集することができ,調査観測現 場で変更を加えた場合に,BORAS 野帳から BORAS シ ステムにアップロードすることで変更内容を BORAS システムに保存することができる.また BORAS 野帳, BORAS システムの双方で情報が更新されていた場合は, 同期の際に上書きするか確認するメッセージが表示され るようになっている.このように,グループにおいて複 数人で情報を更新していても,誤操作などで情報の不整 Fig. 2 The flow of submission, sharing and publishing of data and related information

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鈴木 宏枝・山内  束・宮城  伸・齋藤 秀亮・園田  朗 合を生じさせることがないような仕組みを取り入れて いる. 生物観察情報が大量になると,個々に生物観察情報を 編集し保存するのは効率が悪い.そのため,BORAS シス テムでは生物観察情報の Excel 及び CSV 形式でのダウ ンロード機能やアップロード機能を有している.情報を アップロードして一括で登録・更新したり,ダウンロー ドして様々な目的に利用したりすることが可能である. また,取得した生物観察情報について,その生物の専 門家でなければ正確に同定することは難しい場合があ る.生物の分類が不明な場合は「同定希望」としてフラ グを立てることで,同定を希望するレコードを格納する 「同定環境」に,生物観察情報のうち同定に必要な情報 と写真が公開される.同定環境は BORAS の同定権限を 有する利用者が閲覧できる環境で,互いの専門分野の生 物の同定情報やコメントを付与し,利用者同士で協力し て分類情報を付与できる(Fig. 3, 4, 5, 6). 3.同系のシステムの事例 モバイル端末と観察情報の記録は相性が良い.観察情 報の基本となる「なにが」「いつ」「どこで」について, モバイル端末に搭載されたカメラで撮影する被写体の情 報と,ネットワークから提供される日付と時間情報,位 置情報として取得することができる. 生物情報を収集・提供するシステムとして,環境省の 生物情報収集・提供システム「いきものログ」がある. 市民参加型のシステムであり,ユーザ登録すれば誰もが 利用可能である.哺乳類や鳥類,昆虫類などの動物や, 植物や菌類など幅広い生物を対象としており,生物の写 真とその種名,見つけた日付,個体数,場所等の情報を モバイルアプリケーションに入力しシステムにアップ ロードすることで生物の観察情報をシステムに登録でき る.モバイルアプリケーションだけではなく,Web ア プリケーションも有しており,モバイルアプリケーショ ンと同じように生物の写真や情報を付して投稿するこ とができる.460 万件を超える情報が登録されており (2018 年 12 月現在),その情報は公開され,誰でも閲覧 が可能となっている.生物の名前で検索すると,その生 物が観察された位置が地図上に表示されたり,データを ダウンロードしたりできる.また,地域やプロジェクト など,いくつか調査がシステムに登録されており,利用 者は興味のある調査に参加し,情報を投稿することが可 能である. 東京の蝶を対象とした観察情報を収集するシステム 「市民参加による生物モニタリング調査(いきモニ)」が 中央大学・東京大学・パルシステム東京協働プロジェク トで実施されている.パルシステム東京の組合員から参 加を募り,調査員として登録された利用者が,蝶の写真

Fig. 3 The construction of river improvement works and seawall

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Fig. 5 Biological Observation Record Archive System (BORAS)

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鈴木 宏枝・山内  束・宮城  伸・齋藤 秀亮・園田  朗 とその時の行動や位置情報,天候や蝶がとまっていた植 物,種名等を調査票としてアップロードすることにより, 収集された調査票はデータベース化され,蝶の専門家が 個々のデータについてチェックを行い,精度の高いデー タに修正され,蓄積される.収集され整備されたデータ は,いつ,どこで,どんな状況で,どの種の蝶が確認さ れたのかを,写真の一覧や地図上への表示,種名や観察 日などから検索することで,誰もが閲覧できるよう公開 されている. 主に釣りで採集した魚を中心に魚の情報を収集する図 鑑のようなシステム「WEB 魚図鑑」は,誰もが投稿す ることが可能であり,3,000 種を超える種類の魚のデー タが約 5 万件登録されている(2018 年 12 月現在).撮 影日,採集場所,全長,採集方法,水深,底質,餌など の情報を対象となる魚の写真とあわせて投稿することが でき,システムに収集されたデータは誰もが閲覧できる. またその膨大な登録データは,手元にある魚の写真を アップロードすることでその魚の名前を教えてくれるお 魚判定アプリ「魚みっけ」の画像認識データとしても利 用されている. いくつかの種類の生物を撮影したらレベルが上がった り,一定期間内に特定の生物の写真の撮影に成功すると ポイントが付与されたりするゲーム要素を有した生き物 コレクションアプリ「バイオーム」もベータ版でリリー スされている.他にも国際自然保護連合のレッドリスト において危急種に指定されているジュゴンの生息数を監 視し把握するために地元の漁師が位置情報付きのジュゴ ンの画像を撮影しシステムにアップロードすることで情 報を収集・蓄積するような,特定の生物を対象とした観 察情報を収集するプロジェクトなども国内外で取り組ま れている. 観察の対象が生物ではないが,同じようなデータ収集・ 蓄積のシステムとして,生物・生態系への影響が懸念さ れているゴミに関するアプリケーションがある.ゴミ拾 い SNS アプリ「ピリカ」は,ゴミを拾ったときのゴミ の数と量,種類,位置情報や日付を写真やコメントとと もに投稿することができる.誰もが利用可能なアプリ ケーションであり,個人から自治体,企業まで幅広く利 用されており,このアプリケーションを用いて 7,500 万 個以上のゴミが拾われている(2018 年 12 月現在).ま た欧州環境庁では海洋ゴミの問題に取り組むためのモバ イルアプリケーション「Marine Litter Watch」を提供して いる.これらのゴミ収集アプリは,市民活動によるゴミ の回収や監視活動において,モバイルアプリケーション でゴミの写真や情報を取得し,投稿することでゴミの情 報を収集していく.登録された情報はモバイルアプリ ケーション上で閲覧可能であり,各活動箇所におけるゴ ミの分布を地図に重ね合わせてその数がわかるような表 示や,プラスチックやペットボトル,釣り用具,タバコ の吸い殻などゴミの種類別に表示することもできるよう になっており,積極的にゴミを回収しその情報を蓄積す ることで,不法に投棄されているゴミの状態や回収状況 の把握と,利用者にゴミに関する意識付けをすることで ポイ捨てなどのゴミを減らすための取り組みとして利用 されている. 4.BORAS と他システムとの違い TEAMS の調査観測においては,様々な調査現場があ り,電波の届かないオフラインの状況で BORAS 野帳を 利用する場合も少なくない.緯度経度や市町村など位置 に関する情報が必須であるモバイルアプリケーションが 多い中,BORAS 野帳は写真があれば位置情報がなくて も BORAS システムにアップロードすることが可能であ る.また,学名や和名の入力がないとアップロードでき ないシステムも多いが,野外で実施される調査観測では 多くの写真の撮影やサンプルの採取を実施し,研究室に 戻った後でデータ整理することが多く,現地で全ての生 物を同定し和名や学名を登録するのは実用的ではないた め,学名や和名の入力がなくてもまずはアップロードで きるような仕組みとしている. 市民参加型のモバイルアプリケーションは,システム にアップロードすると同時に一般に公開され,誰もが閲 覧可能な状態となるものや,公開後は自身が内容を編集 ができないものも多い.自らが観測したデータは貴重な ものであり,データを整備・蓄積し,その研究成果を発 表できるまで公にすることを望まない研究者も想定され る.また調査現場から持ち帰った一時的なデータを,同 じシステム上で整理し必要な情報を付与し正しく修正す ることは重要な作業である.簡易的に調査観測現場で利 用できるデジタル野帳としてのモバイルアプリケーショ ンと,研究室でより詳細な情報やデータの入力を行い, より精度の高いデータを整備していくことのできる Web アプリケーションで構成されている BORAS は,研究者 の調査観測を支援するためのシステムとして開発された ため,生物観察情報を撮影・アップロードした後に情報 を整理する様々な機能を有している.BORAS 野帳と同 じアカウントでログインすることで,研究者自らの作業 スペースとして BORAS システムを利用することが可能 である. 生物観察情報に登録されている写真も,編集したい項 目の 1 つであり,BORAS システム上で編集ができるよ うになっている.写真の回転や図の書き込み,クレジッ ト情報の付与ができるため,画像編集ソフトを用いず, BORAS 上で全て編集を完結できる.クレジット情報を 付与した写真はダウンロードして別の用途に使用するこ とも可能である. また BORAS では環境省などが定める絶滅危惧種の情 報や事業対象地域で公表している水産対象生物の情報を 基に TEAMS が定めた情報公開制限生物リストに基づき 位置情報制限種に関してアラートを表示する機能を有し ている.水産対象生物や希少生物については乱獲等を目 的とした情報の利用を防ぐため,公にする際には位置の 精度を粗くしたり,詳細な種名を伏せたりするなど,情 報の取り扱いに注意する必要がある.該当する生物種が

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登録された場合には,画面での表示やダウンロードデー タのログに対象の生物種であることが記載され,利用者 が確認できるようになっている. 加えて,BORAS 野帳と BORAS システムは,同期を 取ることで情報を共有することが可能である.このこ とから,調査現場で取得した情報を BORAS 野帳から BORAS システムにアップロードすることで,調査には 参加していない研究室にいる研究者が閲覧することがで き,またアップロードされた情報に研究室で同定したり 他の情報を付与したりして情報を更新することで,調査 現場では観測している生物の情報をより詳細に知ること ができる.リアルタイムで調査現場と研究室を繋げるこ とから,関係者間で情報を共有するとともに,作業の効 率化を図ることができる. 実際に生物に関する調査観測で利用する研究者を対象 として開発されたのが BORAS であり,利用者の要望を 踏まえた機能開発や機能強化を実施している. 5.今後の可能性

現在,BORAS 野帳は Android 版のみであり,iOS に対 応していない.その理由はいくつかある.まず Android と iOS ではプログラミング言語が異なるため,同じア プリケーションであっても,異なる言語で開発しなけれ ばならず,倍の人的・時間的コストがかかってしまう. また iOS はメジャーアップデートが年 1 回,マイナー アップデートは年 10 回程行われているが,OS のバー ジョンにより仕様が大きく変わる場合も多く,OS バー ジョンアップの度に OS の仕様変更による BORAS 野帳 への影響を検証し,アプリケーションの改修が不可欠と なる.なお iOS のアプリケーション開発・配付をする 場合は審査が必須であるが,OS のバージョンアップに よるアプリケーションの改修の度に審査を受ける必要が あるため,継続的・安定的な環境維持が難しい.これら の理由から,iOS に対応した BORAS 野帳は開発できて いない状態であるが,利用者からの希望は多い.現在は iOS ユーザ向けには BORAS システムに Web ブラウザで アクセスすることで代用しているが,こうしたモバイル 端末を活用した IT システムでは何らかの対応は必要と 考えている. また野外での調査では,実際の観察活動に多くの時間 を費やすことが優先されるため,活動時に BORAS 野帳 を利用するためには,情報やデータをより簡易に収集・ 登録する機能が必須である.例えば,モバイルアプリ ケーションで多く採用されている音声認識機能を用いる ことで,生物の個体数や特記事項などの情報を,作業を 継続しながら声での入力が可能となる.BORAS 野帳の 問題点として,調査観測現場の状態により利用が限られ ることがあり,水中であればモバイル端末を防水ケース に入れて生物を撮影することも考えられるが,観測で手 袋をするような場面が多い場合には,画面の操作ができ ないため不向きである.この場合は先に述べた音声認識 機能が有効な手段になると考えられる. 生物観察情報の付随情報として,温度や塩分などの環 境データがある.調査観測現場の位置情報からその場の 気温や気象データを,ネットワークを経由して取得する ことも可能であるが,携帯用の温度計や水温・塩分計か ら BORAS 野帳や BORAS システムにデータを自動的に 送信し収集することも考えられ,実現すれば調査観測現 場の環境データも一度に得られるようになる. さらにモバイルアプリケーションを拡充するとともに Web アプリケーションとの連携を進めることで,調査 観測時のデータ収集や管理における様々なシステム利用 の可能性を秘めているため,具体化に向けた検討を進め る予定である. 参考文献 東北マリンサイエンス拠点形成事業(海洋生態系の調査研究). 東北マリンサイエンス拠点形成事業(海洋生態系の調査研 究)―TEAMS.http://www.i-teams.jp/(2018 年 12 月現在) 東北マリンサイエンス拠点形成事業(海洋生態系の調査研究). TEAMS データ案内所『リアス』.http://www.i-teams.jp/ rias/(2018 年 12 月現在) 環境省生物多様性センター.生物情報 収集・提供システム「いき ものログ」.https://ikilog.biodic.go.jp/(2018 年 12 月現在) 中央大学・東京大学・パルシステム東京協働プロジェクト.市民参 加による生き物モニタリング 調 査( いきモニ).http:// butterfly.diasjp.net/(2018 年 12 月現在) 株式会社ズカンドットコム.WEB 魚図鑑.https://zukan.com/fish/ (2018 年 12 月現在) 株式会社ズカンドットコム.魚みっけ.https://zukan.com/fish/mikke (2018 年 12 月現在) 株式会社バイオーム.“いきもの”コレクションアプリ「バイオーム」. https://biome.co.jp/(2018 年 12 月現在) 株式会社ピリカ.ごみ拾い SNS アプリ「ピリカ」.https://sns.pirika. org/(2018 年 12 月現在)

European Environment Agency. Marine Litter Watch. https://www. eea.europa.eu/themes/water/europes-seas-and-coasts/ assessments/marine-litterwatch(2018 年 12 月現在)

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鈴木 宏枝・山内  束・宮城  伸・齋藤 秀亮・園田  朗

* * * * * * *

Collection and archival of marine biological observation information obtained at

field observation

Hiroe Suzuki*1, Tsukane Yamauchi*1, Shin Miyagi*1, Hideaki Saito*1, Akira Sonoda*1

*1 Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology, 3173-25, Showa-cho, Kanazawa-ku, Yokohama, Kanagawa, 236-0001, Japan Received: February, 6. 2019, Accepted May, 27. 2019

Fig. 3  The construction of river improvement works and seawall
Fig. 5  Biological Observation Record Archive System (BORAS)

参照

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