2
第
章
準備
1
診療ガイドライン作成手順およびスケジュール
···82
診療ガイドライン作成主体の決定
···83
診療ガイドライン作成組織の編成
···94
診療ガイドライン作成資金
···105
利益相反(conflicts of interest;COI)
···116
診療ガイドライン作成への患者・市民参加
···12診療ガイドライン作成手順およびスケジュール
診療ガイドラインは,以下の作成手順により作成される。計画にあたっては,全 体を通してどのくらいの時間が必要か,各手順にどの程度の時間と費用をかけるか を考慮し,具体的に立案する必要がある。 ①作成目的の明確化 ②作成主体の決定 ③事務局・診療ガイドライン作成組織の編成 ④スコープ作成 ⑤システマティックレビュー ⑥推奨作成 ⑦診療ガイドライン草案作成 ⑧外部評価・パブリックコメント募集 ⑨公開 ⑩普及・導入・評価 ⑪改訂 【テンプレート ID:2─1 ガイドライン作成手順およびスケジュール O* 1】診療ガイドライン作成主体の決定
作成主体とは診療ガイドライン作成に責任を持つ学会などの団体を言う。単一の 学会・研究会の場合もあるが,選定されたテーマ/トピックによっては,関連する 複数の学会・研究会が,準備の段階から合同して作成を進めることもある。例えば, 内科系学会と外科系学会,医科系学会と歯科系学会,医科系学会と看護系学会な ど,多様な専門的視点を得ることで,診療ガイドライン作成の全過程を通して,偏 りの少ない診療ガイドラインの作成を実現できる。 【テンプレート ID:2─2 ガイドライン作成準備_(1)G* 2】1
2
* 1: テンプレートは名称の最後に以下のように使用するドキュメントに対応した記号が付され ている。 G:診療ガイドライン,O:作業用 * 2:(1),(2)などのカッコ付き数字はテンプレート 2─2 中の欄を表す。第
2
章
準備診療ガイドライン作成組織の編成
診療ガイドラインを作成するうえで,偏りのない作成組織の編成は最も重要であ る。特に,ガイドライン統括委員長をはじめとした各組織の責任者の選出は,経済 的,およびアカデミックな利害関係に配慮して慎重に行う〔詳細は2 章 1 2 3 4 5 6 7 8 9 利益相 反(conflicts of interest;COI),p.11 を参照〕。1
)ガイドライン統括委員会
ガイドライン統括委員会は,作成主体のもとで,作成に関わる委員会の設置,予 算の決定などの意思決定を担う委員会を言う。単一の学会・研究会の場合,その理 事会,常設委員会などがあたることが多い。また,複数の学会・研究会が合同して 診療ガイドラインを作成する場合は,各学会・研究会の代表者で構成される「協議 会」のような組織がガイドライン統括委員会となることもあり得る。ガイドライン 統括委員会の役割は,図1
─1
(p.4)を参照のこと。 【テンプレート ID:2─2 ガイドライン作成準備_(2)G】2
)ガイドライン作成事務局
診療ガイドライン作成の進行管理,ガイドライン作成グループのメンバー間の連 絡,作成会議の日程調整,会議室の確保,文献収集などの事務作業,ガイドライン 作成資金の管理などを担当する事務局を設置する。 【テンプレート ID:2─2 ガイドライン作成準備_(3)G】3
)ガイドライン作成グループ
ガイドライン作成グループは,診療ガイドライン作成の企画書とも言うべきス コープを作成し,診療ガイドラインが取り上げるべき問題(クリニカルクエスチョ ン,clinical question;CQ)を決定し,システマティックレビューの結果を受けて 推奨を作成して診療ガイドライン草案を作成する責任を負う(図1
─1
)。ガイドラ イン作成グループの編成は,ガイドライン統括委員会が行う。疾患の特性,どのよ うな診療ガイドラインを作成するかにもよるが,10 数名で構成されることが多い。 診療ガイドラインの内容に関係する多様な領域の専門家が幅広く含まれるべきであ る。診療ガイドラインが扱うトピックの専門医を複数の関連学会から利害関係を熟 慮したうえでバランスよく選出するほか,プライマリケア医,看護師や薬剤師など の医療者,診療ガイドライン作成に関わる専門家(図書館員など医学文献検索専門 家,疫学専門家,統計専門家),医療経済学の専門家,法律家,患者・市民,政策 担当者など,性別,経済的およびアカデミックな利害関係に配慮した多様なメン3
バーで編成することが望ましい。また,2 章 2 3 4 5 6 7 8 9 で述べる COI への配慮が必要であ る。 【テンプレート ID:2─2 ガイドライン作成準備_(4)G】
4
)
システマティックレビューチーム(
SR
チーム)
システマティックレビューチーム(SR チーム)は,システマティックレビューを 担当するグループであり,ガイドライン作成グループとは独立したチームとして, ガイドライン統括委員会の指示で編成される。SR チームのメンバーは,システマ ティックレビューの方法についてトレーニングを受け,システマティックレビュー 作成の十分な経験を持っていることが望ましい。SR チームは,各 CQ に対して, 既存のシステマティックレビュー論文の採用,海外の診療ガイドラインの適応 (adaptation)の可否を判断して,新たなシステマティックレビューが必要な場合 は,それを実施する。我が国では,医師などの医療関係者がシステマティックレ ビューを行うことが多いと思われるが,文献検索を担当する図書館員など医学文献 検索専門家,システマティックレビューの方法論に習熟した疫学専門家・統計専門 家などをチームに入れることで,システマティックレビューに必要な技術面のサ ポートを得ることが望まれる。また,2 章 1 2 3 4 5 6 7 8 9 で述べる COI への配慮が必要である。 【テンプレート ID:2─2 ガイドライン作成準備_(5)G】5
)外部評価委員(会)
外部評価委員(会)は,診療ガイドライン草案を第三者の立場で評価し,改善のた めの助言を行う。外部評価委員は,ガイドライン統括委員会が任命する。2 章 1 2 3 4 5 6 7 8 9 で述べる COI への配慮が必要である。利害関係にある複数の関連医学会の疾患専 門医とプライマリケア医,その他の医療者,疫学専門家,経済学者,法律専門家, 患者・市民などを指名して評価を受けるほか,テーマによっては,学会のウェブサ イトなどに一定期間公開して幅広くパブリックコメントを求める方法も検討が必要 になる。 【テンプレート ID:2─2 ガイドライン作成準備_(6)G】診療ガイドライン作成資金
ガイドライン統括委員会は,診療ガイドライン作成にどの程度の資金が必要か予 算を組み,作成資金をどこから拠出するのか記載する。診療ガイドライン作成に要 する主な費用には,交通費,会議会場費,文献検索・収集に関わる費用,製本など 公開のために必要な費用などがある。公的資金,企業資金だけでなく,学会の資金4
第
2
章
準備 を使用する場合も記載する。 【テンプレート ID:2─3 ガイドライン作成資金 O】利益相反(conflicts of interest;COI)
1
)診療ガイドライン作成における
COI
診療ガイドラインの作成過程の厳密さ,透明性の担保のために,診療ガイドライ ン作成に関わるすべての候補者の COI を事前に管理し,開示することが必須であ る。COI には,知的 COI(個人の専門性や好みなど),職業上の利害(昇進,キャリ ア形成など)が関係するアカデミック COI と,特定の企業/団体との経済的関係, 研究費取得などが関係する経済的 COI に大別される(表2
─1
)。個人的な COI と同 様に,診療ガイドライン作成グループメンバーが所属する学会などの組織のアカデ ミック COI,経済的 COI も診療ガイドライン作成に影響を及ぼす可能性がある。 特にアカデミック COI は,ガイドライン作成グループのメンバーの専門性が CQ の選定,推奨の作成など,診療ガイドラインの重要な作成過程に強い影響を及ぼす 可能性がある。 表2─1 COI の種類 アカデミック COI 経済的 COI 個人的 COI ・個人の専門性と好み ・昇進 ・キャリア形成 ・ 特定の企業/団体から本人,家族へ の経済的利益の提供 ・研究費取得の利益 ・機器,人材,研究環境の提供 組織的 COI ・学会・研究会が推奨する専門性 ・学会・研究会の学問的発展 ・利害関係のある他組織との競争 ・ 特定の企業/団体から学会・研究会 への経済的支援 ・学会・研究会の経済的発展2
)
COI
の管理と対応
❶個人的COI
・作成組織への参加の適否の判断 2 章 1 2 3 4 5 6 7 8 にあげた診療ガイドライン作成組織の編成前に,候補者から経済的 COI の自己申告をガイドライン統括委員会に提出してもらい,作成組織への参加の適否 を検討する。診療ガイドラインの内容と関連する企業/団体などからの資金提供を 受けている候補者はガイドライン作成上の役割を限定する。特にガイドライン統括 委員長,ガイドライン作成グループ責任者の選任には慎重な配慮が必要である。外5
部からの疑念の対象にならないかについて,学会理事会などが十分検討を行ったう えで,適切な人物を選出する必要がある。 アカデミック COI への対応としては,特にガイドライン作成グループの構成員 が特定の専門領域に偏らないように配慮する必要がある(2 章 1 2 3 4 5 6 7 8 9 3)ガイドライン作 成グループ,p.9 参照)。
【テンプレート ID:2─4 COI 報告 ① ─経済的 COI 申告書 O】 ・作成過程における COI 管理と対応 作成の過程で経済的 COI に変更が生じた場合は,ガイドライン作成グループ委 員長に自己申告するように委員全員に周知する。 作成過程における経済的 COI への対応は,ガイドライン作成グループでの審議 によって方法を決定する。具体的対応としては,① ガイドライン作成グループ, SR チームからの離脱,② 特定の役割ごとに投票権を制限するなど,参加制限を実 施する方法などが考えられる。 ❷組織的
COI
組織的 COI の中で,診療ガイドライン作成資金は特に重要である。診療ガイド ラインの内容に影響を与える可能性のある特定の団体からの寄付などが,診療ガイ ドラインの作成に影響を及ぼす可能性について,ガイドライン統括委員会において 十分な議論が必要である。 組織的 COI の中のアカデミック COI への対応としては,診療ガイドラインの内 容に関連する可能性のある学会・研究会が幅広く参加し,合同で作成に当たること が極めて重要である〔2 章 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1)参照〕。 ❸COI
に関する情報管理と開示 COI の管理と対応に関する事項は,診療ガイドライン上に公開すべきである。 ただし,個人別に収集した COI 申告書は秘匿すべき個人情報が含まれている可能 性があるので,ガイドライン統括委員会において厳重に管理し,診療ガイドライン 公開後,次の診療ガイドライン改訂まで等の基準を設けて一定期間は保管する。 【テンプレート ID:2─5 COI 報告②─経済的 COI 申告サマリーと対策方針 O】診療ガイドライン作成への患者・市民参加
診療ガイドラインの目的は,医療の現場で患者と医療者による意思決定を支援す ることであり,医療者からの視点だけではなく,診療ガイドライン作成に患者・市 民の価値観を反映することが極めて重要である。診療ガイドラインを医療者のみで 作成した場合,診療ガイドラインの対象集団の価値観や希望,重要視する点などに ついて見落としたり,配慮したようでも,実際には見誤ったりする可能性がある。6
第
2
章
準備 対象集団の実状により即した方法で患者アウトカムを検討するためには,診療ガイ ドライン作成過程に患者・市民参加を図ることは必要不可欠である。 患者・市民参加を図るには,スコープ作成の初期段階から対象集団と協議を行っ てトピックを決める,患者代表がガイドライン作成グループメンバーとして推奨作 成に関わる,公開前の草案について対象集団からフィードバックを受ける方法など がある。また,対象集団の情報収集としては,文献レビューのほかに,インタ ビュー調査やアンケート調査などがある。2
─1
ガイドライン作成手順およびスケジュールO
:記入方法 作成目的の明確化 作成主体の決定 事務局・診療ガイドライン作成組織の編成 スコープ作成 システマティックレビュー 推奨作成 診療ガイドライン草案作成 外部評価・パブリックコメント募集 公開 普及・導入・評価 改訂 月 年 月 年 月 年 月 年 月 年 月 年 月 年 タイムスケジュール 各工程の完了目標年月を記入, 必要に応じて見直しを行う。 パブリックコメントを広く集める場合は, 診療ガイドライン草案を公開し,意見を求める。第
2
章
準備2
─2
ガイドライン作成準備G
:記入方法 診療ガイドライン作成組織 (1)ガイドライン 作成主体 学会・研究会名 関連・協力学会名 関連・協力学会名 関連・協力学会名 (2)ガイドライン 統括委員会 代表 氏名 所属機関 / 専門分野 所属学会 作成上の役割 (3)ガイドライン 作成事務局 代表 氏名 所属機関 / 専門分野 所属学会 作成上の役割 (4)ガイドライン 作成グループ 代表 氏名 所属機関 / 専門分野 所属学会 作成上の役割 (5)システマティック レビューチーム 氏名 所属機関 / 専門分野 所属学会 (6)外部評価委員(会) 氏名 所属機関 / 専門分野 所属学会 対象となるテーマ / トピックスに関連 する複数の関連・協力学会で作成する。 作成上の役割, 担当を記載する。 専門分野が明確になる ように記載する。 各代表者には ✓を入れる2
─3
ガイドライン作成資金O
:記入方法費用項目 予算 資金提供者 備考
診療ガイドライン作成に必要な費用項目をあげ, 予算および資金提供者も含めて記載する。