Panel Data Research Center at Keio University
DISCUSSION PAPER SERIES
DP2016-005
January, 2017
タスクモデルを用いた男女間格差の考察
伊藤 大貴
*【要旨】
ここ数十年で男女間賃金格差は大幅に縮小したものの,他の先進国と比較すると日本の男
女間賃金格差は未だに大きい水準にある。これまでの研究では,年齢や勤続年数の男女間で
の属性差が男女間賃金格差の主要因であると指摘されてきたが,同時に,これら属性差の影
響力が弱まっているという結果も得られており,先行研究が考慮していない別の要因の影
響力が高まっている可能性が示唆されている。そこで,本稿では,その一つの可能性として
考えられる業務内容(タスク)に着目し,タスクが賃金や賃金格差に与える影響を検証した。
具体的には,
Motor-task(運動能力を要するタスク)・Analysis-task(分析能力・思考力を
要するタスク)
・
Interaction-task(コミュニケーション能力を要するタスク)を算出し,こ
れらタスクが男女間賃金格差に与える影響を検証した。さらに,これに加えて,
3 つのタス
クの値に応じて各職業を
Motor-intensive・Analysis-intensive・Interaction-intensive に分
類し,男女間のタスクの属性差が生じる要因についても分析を試みている。分析の結果,男
女ともに
Analysis-task が賃金に正に有意であり,分析能力に対する要求度が高い業務であ
るほど賃金が高いという結果が得られた。また,賃金格差への影響をみてみると,タスクの
属性差,すなわち男性の方が多くの
Analysis-task を行っていることが賃金格差を拡大させ
ている可能性が示された。さらに,男女間賃金格差に対するこれらタスクの影響力が高まっ
ているという結果も得られた。これに関連して,タスク別の就業関数の推計結果をみると,
女性は
Analysis-intensive な職業に就く確率が低いことが示されているが,特に,社内の配
置転換や転職が女性を
Analysis-task から遠ざけている可能性がある。
*慶應義塾大学大学院商学研究科 後期博士課程
タスクモデルを用いた男女間格差の考察
*
伊 藤 大 貴
† <要 約 > こ こ 数 十 年 で 男 女 間 賃 金 格 差 は 大 幅 に 縮 小 し た も の の , 他 の 先 進 国 と 比 較 す る と 日 本 の 男 女 間 賃 金 格 差 は 未 だ に 大 き い 水 準 に あ る 。こ れ ま で の 研 究 で は ,年 齢 や 勤 続 年 数 の 男 女 間 で の 属 性 差 が 男 女 間 賃 金 格 差 の 主 要 因 で あ る と 指 摘 さ れ て き た が ,同 時 に ,こ れ ら 属 性 差 の 影 響 力 が 弱 ま っ て い る と い う 結 果 も 得 ら れ て お り , 先 行 研 究 が 考 慮 し て い な い 別 の 要 因 の 影 響 力 が 高 ま っ て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ て い る 。そ こ で ,本 稿 で は ,そ の 一 つ の 可 能 性 と し て 考 え ら れ る 業 務 内 容( タ ス ク )に 着 目 し , タ ス ク が 賃 金 や 賃 金 格 差 に 与 え る 影 響 を 検 証 し た 。 具 体 的 に は , Motor-task(運動 能力を 要するタ ス ク )・Analysis-task( 分析能 力・思考力 を 要する タスク )・Interaction-task( コミュ ニケー ショ ン 能力を 要 す る タ ス ク )を 算 出 し ,こ れ ら タ ス ク が 男 女 間 賃 金 格 差 に 与 え る 影 響 を 検 証 し た 。さ ら に ,こ れ に 加 え て ,3 つのタ スクの 値に応 じて各職 業を Motor-intensive・Analysis-intensive・Interaction-intensive に 分 類 し ,男 女 間 の タ ス ク の 属 性 差 が 生 じ る 要 因 に つ い て も 分 析 を 試 み て い る 。分 析 の 結 果 ,男 女 と も に Analysis-task が賃 金に正 に有意で あり , 分析能 力に対 する要求 度が高 い 業務 である ほど賃金 が 高 い と い う 結 果 が 得 ら れ た 。ま た ,賃 金 格 差 へ の 影 響 を み て み る と ,タ ス ク の 属 性 差 ,す な わ ち 男 性 の 方 が 多 く の Analysis-task を 行ってい ること が賃金 格差を 拡大させ ている 可能性 が示さ れた。 さ ら に ,男 女 間 賃 金 格 差 に 対 す る こ れ ら タ ス ク の 影 響 力 が 高 ま っ て い る と い う 結 果 も 得 ら れ た 。こ れ に 関 連 し て , タ ス ク 別 の 就 業 関 数 の 推 計 結 果 を み る と , 女 性 は Analysis-intensive な 職業に 就 く確率が 低 い こ と が 示 さ れ て い る が , 特 に , 社 内 の 配 置 転 換 や 転 職 が 女 性 を Analysis-task か ら遠ざ けている 可 能 性 が あ る 。 * 本 稿 の 作 成 に あ た り , 指 導 教 授 で あ る 山 本 勲 教 授 に は 研 究 の 初 期 段 階 か ら 丁 寧 に ご 指 導 い た だ い た ほ か , 清 家 篤 塾 長 , 中 島 隆 信 教 授 , 樋 口 美 雄 教 授 , 深 尾 光 洋 教 授 を は じ め と す る 多 く の 方 か ら 大 変 有 益 な コ メ ン ト を 頂 戴 し た 。 ま た , 本 稿 は , 慶 應 義 塾 大 学 家 計 パ ネ ル デ ー タ 設 計 ・ 解 析 セ ン タ ー か ら 『 慶 應 義 塾 大 学 家 計 パ ネ ル 調 査 』 お よ び 『 日 本 家 計 パ ネ ル 調 査 』 の 個 票 デ ー タ の 提 供 を 受 け た 。 記 し て 深 く 感 謝 し た い 。 な お , 本 稿 の あ り う べ き 誤 り は 全 て 筆 者 に よ る も の で あ る 。 † 慶 應 義 塾 大 学 大 学 院 商 学 研 究 科1. は じ め に 過去 数 十年 に わた る 女性 の 大学 進 学率 の 向上 は もと よ り,1985 年の男女雇用機会均等法 改正 や 2002 年に提言されたポジティブアクション ,さらには 2015 年に制定された女性活 躍推 進 法な ど ,労 働 市場 に おけ る 女性 の 活躍 を 支援 す る取 り 組み の 後押 し を受 け て, 日 本 の男 女 間賃 金 格差 は 徐々 に 改善 し てき た とい え る。 実 際に , 男性 一 般労 働 者の 所 定内 給 与 額 を 100 としたときの女性一般労働者の所定内給与額の推移をみてみると , 1986 年では 59.7 で あ っ た も の の , 2013 年 に は 71.3 に ま で 改 善 し て い る1。 他の 先 進国 と 比較 し た場 合 にも , ここ 数 年に お ける 日 本の 男 女間 賃 金格 差 の縮 小 度合 い は大 き いこ と がわ か る。 例 え ば, 男 女間 賃 金格 差 を「 フ ルタ イ ム雇 用 者に お ける 男 女の 賃 金差 を 男性 賃 金の 中 央値 で 除 した も の」と定 義 して いる OECD の最新の統計によれば,OECD 加盟国平均 でみた男女間 賃金 格 差 は 2000 年の 18.2 から 2013 年の 15.5 へ縮小した中で,同期間に日本の 男女間賃 金格 差 は 33.9 から 26.6 へと大きく縮小して いる。しかしながら ,男女間賃金格差の水準 を国 際 比較 し てみ る と , 現 時点 の 日本 の 男女 間 賃金 格 差は 未 だに 高 い水 準 にあ る とい わ ざ るを え ない 。と い うの も, 同統 計 によ れ ば, 主要 先 進 国で あ る米 国 の数 値は 17.9,英国は 17.5,仏 国 は 14.1 と な っ て お り ,OECD 加 盟 国 34 カ 国 で 日 本 の 男 女 間 賃 金 格 差 は 韓 国 と エ スト ニ アに 次 いで 3 番目に大き くなっている2。 こ れ に関 す る既 存 の研 究 によ れ ば , 一 般的 に ,年 齢 や勤 続 年数 な どの 属 性差 が 男女 間 賃 金格 差 の主 要 因で あ ると の コン セ ンサ ス が得 ら れて い る。 長 期雇 用 のも と で年 功 的に 賃 金 が上 昇 する 日 本の 雇 用慣 行 を踏 ま えれ ば ,上 記 の結 論 は十 分 に説 得 力の あ る結 果 であ る と いえ よ う。この 点 に関 す る 代表 的 な実 証 研究 を みて み ると ,例 え ば,樋口[1991]や川口[2005] は『 賃 金構 造 基本 調 査』 の 個票 を 用い て Oaxaca 分解3を行 っ てお り ,勤 続 年数 の 属性 差 に よる 影 響力 が 最も 大 きい と の結 果 を提 示 して い る。ま た ,『 賃 金構 造 基本 調 査』と『賃 金労 働時 間 制度 等 実態 調 査 』の 個票 を 用い た 中田 [1997]は,男女間賃金格差(対数値)の 56.4% は年 齢 や勤 続 年数 な どの 属 性差 に よる も のと 指 摘 し て おり , なか で も年 齢 の差 に よる 影 響 力は 24.4%に及ぶことを示している。 こ れ らの 研 究を み る限 り ,男 女 間賃 金 格差 の 主要 因 は男 女 間の 属 性差 で あり , 年齢 や 勤 続年 数 の属 性 差を 縮 める こ とで 賃 金格 差 が改 善 する と 解釈 で きる だ ろう 。 しか し なが ら , これ ら の研 究 の検 証 結果 を より 精 査し て みる と ,こ れ まで の 分析 に 含ま れ てい た 属性 の 影 響 力 が 徐 々 に 弱 ま っ て い る 傾 向 が あ る こ と が わ か る 。 例 え ば , 樋 口 [1991]の分 析 結果か ら は, 勤 続年 数 の属 性 差に よ る影 響 力 が 1978 年の 31.0%から 1988 年の 27.8%, 年齢につい ては 1978 年の 21.1%から 1988 年の 15.8%へ低下している。同様に ,川口[2005]において 1 出 所 :『 賃 金 構 造 基 本 調 査 』( 厚 生 労 働 省 )。 2 出 所 :『 Employment Database 2014』( OECD)。
3 Oaxaca[1973]に 基 づ く 方 法 で あ り , 賃 金 格 差 を ① 両 グ ル ー プ の 属 性 差 に よ る も の , ② そ れ ら 属 性 に 対 す
る 市 場 評 価 の 差 に よ る も の に 分 解 す る 手 法 で あ る 。 な お , ① と ② に つ い て の 統 一 し た 呼 称 が な い こ と か ら , 以 降 本 稿 で は ① を 属 性 差 , ② を 係 数 差 と 示 す 。
も,1990 年における属性差の影響力は 40.4%であったものの,2000 年には 35.8%に低下し てい る 。
こ れ に関 連 して ,2 時点のクロスセクションデータを用いて Oaxaca 分解を 2 時点間に拡
張し た Juhn, Murphy, and Pierce(以下,JMP)4の手 法 によ り 男女 間 賃金 格 差の 推 移を 検 証
した 研 究で は ,年 齢 や勤 続 年数 以 外の 要 因が 格 差縮 小 に寄 与 して い ると い う結 果 が得 ら れ てい る 。例 え ば, 堀[1998]は 1986 年と 1994 年の『賃金構造基本調査』の個票を用いて男 女間 賃 金格 差 の変 動 要因 を 分析 し てお り ,同 期 間で の 男女 間 賃金 格 差の 縮 小の 全 てが ギ ャ ップ 効 果( 観 察 され な い属 性 の 変 化に よ る要 因 )で説 明さ れ ると 指 摘し て いる 。1990 年か ら 2000 年にかけての男女間賃金格差の変動をみている川口 [2005]においても ,属性変化と 同程 度 にギ ャ ップ 効 果の 影 響度 が 高い と いう 結 果が 得 られ て いる 。 以上 を 踏ま え ると , 日 本の 男 女間 賃 金格 差 にお い て , こ れま で の研 究 で着 目 され て きた 年 齢や 勤 続年 数 以外 の 要 因の 相 対的 な 影響 力 が高 ま って い る可 能 性が 推 察さ れ る。 こ こ で, 欧 米の 先 行研 究 に目 を 向け て みる と ,男 女 が行 う 業務 内 容( タ スク ) に焦 点 を 当て た 研究 が 行わ れ てい る こと が わか る 。筆 者 の知 る 限り , タス ク とい う 視点 を 男女 間 賃 金格 差 の検 証 に取 り 入れ た 研究 は 日本 で は行 わ れて い ない 一 方で , この 枠 組み を 用い た 研 究は 欧 米を 中 心に 進 めら れ てい る 。特 に ,職 業 を 5 つのタスクで特徴づけている Autor et al.[2003]の タ ス ク モ デ ル を 男 女 間 賃 金 格 差 に 応 用 し た 研 究 が 行 わ れ て お り , こ れ ら に よ れ ば,IT 技術の発展に伴い,①マニュアルタスクから分析能力を要するタスクへと労働需要 がシ フ トし た こと , ②肉 体 労働 の 優位 性 が低 下 し た こ とが 男 女間 賃 金格 差 を縮 小 させ た と の見 解 が得 ら れて い る5。ま た ,Yamaguchi[2013]は ,職業毎に Motor-task(運動能力が要求 され る タス ク )と Cognitive-task(分析・相互能力が要求されるタスク)6のデ ー タを 作成 し , こ れ ら タ ス ク が 男 女 間 賃 金 格 差 に 与 え る 影 響 を 検 証 し て い る 。 他 の 研 究 と 同 様 に , Yamaguchi[2013]は ,① Motor-task が 要 求 さ れ る 職 業 に お け る 男 性 比 率 が 高 く ,② Motor-task に対 す るリ タ ーン が 低下 し たこ と で男 女 間賃 金 格差 が 縮小 し たと 指 摘し て いる 。
先 述 した と おり ,国 内 の 研究 で は 男 女 が行 う タス ク が分 析 に取 り 入れ ら れて い ない た め , 先ほ どの JMP の手法を用いた研究と照らし合わせると ,タスクの影響はギャップ効果 に含
4 Juhn, Murphy, and Pierce[1991]に 基 づ く 方 法 。 Oaxaca 分 解 を 2 時 点 間 に 拡 張 し た 方 法 で あ る 。 JMP で
は , 男 女 間 賃 金 格 差 を 以 下 の よ う に 分 解 す る 。 𝐷1− 𝐷0= (∆𝑋1− ∆𝑋0)𝛽̂ + ∆𝑋1𝑚 1(𝛽̂ − 𝛽1𝑚 ̂ ) + (∆𝜃0𝑚 1− ∆𝜃0)𝜎1𝑚+ ∆𝜃0(𝜎1𝑚− 𝜎0𝑚) 𝐷1は 時 点 1, 𝐷0は 時 点 0 に お け る 男 女 間 賃 金 格 差 ( 対 数 値 ) で あ る 。 ま た , ∆𝑋は 各 属 性 の 平 均 値 の 差 , 𝛽̂𝑚 は 男 性 賃 金 関 数 の 推 定 値 , ∆𝜃は 男 女 間 の 賃 金 残 差 の 差 , 𝜎𝑚は 男 性 の 賃 金 残 差 の 標 準 偏 差 で あ る 。 JMP で は 上 記 の よ う に , 2 時 点 間 に お け る 男 女 間 賃 金 格 差 の 変 動 を , ① 観 察 さ れ る 属 性 効 果 : 第 1 項 , ② 観 察 さ れ る 価 格 効 果 : 第 2 項 , ③ 観 察 さ れ な い 属 性 効 果 ( ギ ャ ッ プ 効 果 ): 第 3 項 , ④ 観 察 さ れ な い 価 格 効 果 : 第 4 項 に 分 類 す る 。
5 Borghans, ter Weel, and Weinberg[2006], Black and Spitz-Oener[2010], Bacolod and Blum[2010]な ど 。 6 Autor, et al.[2003]で は ,
Routine-manual/Routine-cognitive/Nonroutine-manual/Nonroutine-analytic/Nonrouitne-interactive の 5 つ に タ ス ク を 分 類 し て い る 。 大 ま か に , Yamaguchi[2013]で の Motor-task は Autor,et al. [2003]の Nonroutine-manual, Cognitive-task は Nonroutine-analytical/Nonroutine-interactive に そ れ ぞ れ 該 当 す る 。
まれ て いる と いえ る。こ の ため ,タ ス クの 違 いが 男 女 間賃 金 格差 に どの よ うな 影 響を 与 え , その 影 響力 が どの 程 度に な って い るの か とい っ た 点 は ,必 ず しも 日 本で 明 らか に され て い ない 。 ジョ ブ 型雇 用 慣行 と いわ れ る欧 米 とは 対 照的 に ,日 本 はメ ン バー シ ップ 型 雇用 慣 行 であ る こと を 踏ま え ると7,タス ク の影 響 力は 日 本で は 大き く はな い と見 る こと も でき る か もし れ ない 。 しか し ,こ れ まで の 分析 で 指摘 さ れて き た年 齢 や勤 続 年数 の 男女 間 賃金 格 差 への 影 響力 が 低下 し てい る こと の 背景 に ,日 本 でも タ スク の 影響 力 の増 加 して い るこ と は 十分 考 えら れ る。 こ う した 問 題意 識 のも と ,本 稿 では , 日本 に おけ る 男女 間 賃金 格 差の 新 たな 一 要因 と し て考 え られ る 業務 内 容( タ スク ) に着 目 し , タ スク が 賃金 や 賃金 格 差に 与 える 影 響を 検 証 する 。具 体的 に は ,Yamaguchi[2013]を参考に ,各職業の特徴を詳細に捉えたデータである
「 O*NET」( Occupational Information Network)を用いて Motor-task(運動能力が要求される
タス ク )・ Analysis-task(分析能力・思考力が要求されるタスク)・Interaction-task(コミュ ニケ ー ショ ン 能力 が 要求 さ れる タ スク ) につ い ての デ ータ を 作成 し ,こ れ らタ ス クが 賃 金 に与 え る影 響 とし て ,① 男 女間 で 行う タ スク の 量が 異 なる ( 以下 , タス ク の属 性 差) た め に生 じ る賃 金 格差 , ②同 じ タス ク を行 う 際に 男 女間 で リタ ー ンが 異 なる ( 以下 , タス ク の 係数 差 )ため に 生じ る 賃金 格差 の 各 影 響を Oaxaca 分 解により明らかにする 。さらに ,本稿 では ,Oaxaca 分解の分析結果を踏まえて,男女間のタスクの属性差がどのような要因で生 じる の かに つ いて も 検証 す る。 そ の際 の 具体 的 な分 析 アプ ロ ーチ と して , 上記 3 つのタス クデ ー タの 値 に応 じ て各 職 業を Motor-intensive・Analysis-intensive・Interaction-intensive に 分類 し ,こ れ らを 被 説明 変 数に お いた 分 析を 行 うこ と でタ ス クの 属 性差 に 繋が る 要因 を 検 証す る 。ま た ,タ ス クに 近 い概 念 であ る 職業 に 着目 し ,転 職 前後 で の職 業 の変 化 をみ て い る先 行 研究 を 参考 に ,転 職 や出 産 など が タス ク の属 性 差 に 影 響す る のか も 分析 に 取り 入 れ てい る 。 本稿 の 学術 的 な貢 献 とし て ,こ れ まで の 日本 の 先行 研 究で は あま り 扱わ れ てい な いタ ス クに 着 目し , 男女 間 賃金 格 差に 影 響し う る新 た な要 因 の可 能 性を 検 証し て いる 点 をあ げ る こと が でき る 。ま た ,こ の 点は 政 策的 な 含意 も 備え て おり , 例え ば ,新 た にタ ス クが 男 女 間賃 金 格差 に 有意 に 影響 し てい る とす れ ば, 女 性が 長 く働 き 続け る こと の でき る よう 支 援 する だ けで は なく , 女性 も より 高 度な 業 務を 担 うこ と ので き る環 境 を整 え るこ と の重 要 性 を示 す こと と なる 。 本稿 の 分析 結 果を 予 めま と める と ,次 の よう に なる 。まず ,男女 と もに Analysis-task が 賃金 に 正に 有 意で あ り, 分 析能 力 を要 す る業 務 であ る ほど 賃 金が 高 いと い う結 果 が得 ら れ た。 ま た ,賃 金 格 差へ の 影 響を み て みる と , Motor-task の属性差が賃金格差の縮小要因と なっ て いる 一 方, Analysis-task の属性差は賃金格差を拡大させている可能性が示さ れ,こ 7 ジ ョ ブ 型 雇 用 慣 行 で は , ま ず 必 要 な 仕 事 が 定 め ら れ , そ の 仕 事 に 人 を あ て は め る の に 対 し , メ ン バ ー シ ッ プ 型 雇 用 慣 行 で は , コ ミ ュ ニ テ ィ を 単 位 と し て , そ の メ ン バ ー に 仕 事 を あ て は め る と い う 違 い が あ る 。 両 者 の 具 体 的 な 違 い に つ い て は , 濱 口 [2013]を 参 照 さ れ た い 。
の Analysis の属性差の影響力が高まっていることが明らかとなった。これに関連して,タ スク 別 の就 業 関数 の 推計 結 果を み ると ,女 性は Analysis-intensive な職業に就く確率が低い こと が 示さ れ た 。ま た ,企 業内 の 配置 転 換や 転 職が 女 性を Analysis-intensive 職業から遠ざ ける 要 因で あ り,男女 間で Analysis-task の属性差が生じていることを裏付ける 結果が得ら れて い る。 以 上の こ とか ら ,男 女 間賃 金 格差 の 解消 へ の一 つ の取 組 みと し て, 男 女間 で の Analysis-task の 属 性 差 を 埋 め る , す な わ ち , 女 性 も 男 性 と 同 程 度 に 分 析 能 力 が 要 求 さ れ る タス ク を行 う こと の でき る 環境 作 りが 有 効で あ ると い えよ う 。 本 稿 の構 成 は以 下 のと お りで あ る。 ま ず次 節 では , 男女 間 賃金 格 差に 関 する 国 内の 研 究 を概 観 する と とも に ,男 女 間賃 金 格差 の 分析 に タス ク を取 り 入れ た 欧米 の 先行 研 究を 紹 介 する 。 続く 3 節では, Yamaguchi[2013]を参考に , 本稿の理論モデル を提示 する。 4 節では 分析 に 用い る 推計 手 法を 示 し ,5 節では利用データ ,変数を紹介する。6 節にて各分析の結 果を 示 し,最後 に 6 節では,分析結果をもとに得られる含意と本稿の課題について述べる。 2. 先 行 研 究 2.1 男 女 間 賃 金 格 差 に 関 す る 先 行 研 究 男女 間 賃金 格 差に 関 する 先 行研 究 はこ れ まで に 数多 く 行わ れ てい る 。男 女 間賃 金 格差 の 要因 と して ,企 業側 の 合理 的・非 合 理的 な 女性 差 別に 着目 し たも の や8,企 業 の均 等化 政 策 によ る 影響 を 検証 し たも の9など ,そ の アプ ロ ーチ は 多 種多 様 であ る。こ れら の 先 行研 究 の 中で , 以下 で は本 稿 と同 様 に 男 女 間賃 金 格差 の 要因 分 解を 行 って い る実 証 研究 に つい て 概 観し た い。 1 時点のクロスセクションデータ用いて Oaxaca 分 解を行い,その時点での男女間賃金格 差の 要 因を 検 証し て いる 代 表的 な 先行 研 究と し て ,樋 口[1991],中田[1997],堀[2003],川 口[2005],吉岡[2015]などがあげられる10。 樋口[1991]では 1978・1983・1988 年の『賃金構造基本調査』の個票を用いた分析 が行わ れて お り, 男 女間 賃 金格 差 にお け る教 育 年数 の 属性 差 が占 め る割 合 は , 1978 年から 1988 年に か けて 15.4%から 10.4%へと低下したことが示されている。また,勤続年数の属性差 につ い ても 同 様に 31.0%から 27.8%,年齢の属性差は 21.1%から 15.8%へと減少している。 これ ら の属 性 差の 影 響力 は いず れ も減 少 傾向 に ある も のの , 全体 で みる と 勤続 年 数の 属 性 差の 寄 与率 が 最も 大 きい こ とが 明 らか に され て いる 。 8 Phelps [1972]に よ る 合 理 的 な 女 性 差 別 ( 統 計 的 差 別 ) の 存 在 を 検 証 し た も の と し て は , 女 性 の 離 職 率 と 処 遇 の 関 係 を み た 川 口 [2008], 統 計 的 差 別 と 男 女 間 賃 金 格 差 の 関 係 を 検 証 し た も の と し て は , コ ー ス 別 人 事 管 理 制 度 に 着 目 し た 阿 部 [2005]が 挙 げ ら れ る 。 ま た , Becker [1957]が 提 唱 し た 非 合 理 的 な 女 性 差 別 に つ い て は , 佐 野 [2005], 児 玉 ・ 小 滝 ・ 高 橋 [2005], Kawaguchi[2007], Asano and Kawaguchi [2007]が あ る 。
9 三 谷 [1997], 阿 部 [2005], 川 口 [2008]な ど 。
10 こ の 他 , 野 崎 [2006]が Oaxaca 分 解 に よ る 男 女 間 賃 金 格 差 の 検 証 を 行 っ て い る 。 な お , こ れ ら を 包 括 的
中 田[1997]は,1992 年の『賃金労働時間制度等実態調査 』と 1993 年の『賃金構造基本調 査』 の 個票 を 用い て おり , 男女 間 賃金 格 差 の 56.4%が男女間の属性差に起因していると結 論付 け てい る 。具 体 的な 属 性を み ると , 年齢 の 差に よ るも の は 24.4%,勤続年数の差によ るも の は 16.7%である 。ただし,中田[1997]では,個々の説明変数の属性差と係数差のうち , 最も 寄 与率 の 高い も のは 年 齢の 係 数差 で ある こ とを 指 摘し て いる 。 堀[2003]では,1990・2000 年の『賃金構造基本調査』の個票を用いており, パートを含 めた 常 用労 働 者に お ける 男 女間 賃 金格 差 を検 証 して い る。 そ の際 , 職階 を 含め た 場合 と 含 めな い 場合 の 2 パターンの推計を行っている。堀 [2003]の分析によれば,職階を含めない 場合 で は男 女 間賃 金 格差 の 53%は属性差によるものの ,職階を含めると 70%に上昇する こ とや , 個々 の 変数 を みて み ると , 男女 間 での 年 齢の 係 数差 が 最も 賃 金格 差 に寄 与 して い る こと な どが 明 らか に され て いる 。 川 口[2005]でも堀[2003]と同様に,1990・2000 年の『賃金構造基本調査』の個票が 用いら れて い る 。川口[2005]の分析によれば ,男女間賃金格差(対数値)のうち ,勤続年数をはじ めと す る属 性 差の 寄 与率 が 40.4%から 35.8%へと 低下している ことが示されている 。これ は,属性 差 より も 係数 差 の 影響 力 が高 い こと を 指摘 し てい る 点で 他 の先 行 研究 と は異 な る。 個別 の 要因 を みる と ,勤 続 年数 の 属性 差 の寄 与 率 は 25.2%から 22.5%へと低下している一 方で , 管理 職 比率 の 属性 差 の影 響 力は 7.1%から 9.0%へ増加したという結果もみられる。 吉 岡[2015]は 2007・2010・2013 年の『賃金構造基本調査』の個票 を使用し ,①全サンプ ルを 対 象に 学 歴・ 役 職を 含 め な い モデ ル ,② 企 業規 模 100 人以上の一般労働者を対象に学 歴・ 役 職を 含 めた モ デル の 2 パターンの分析を実施している 。その結果 ,①のケースでは 属性 差 の寄 与 率が 半 分を 下 回る 結 果と な って お り , ② のケ ー スに お いて も ,属 性 差の 影 響 力は 係 数差 を 若干 上 回る 程 度で あ るこ と が示 さ れて い る。 ま た , 係 数差 に 着目 す ると , 雇 用形 態 と勤 続 年数 の 影響 力 が高 く ,勤 続 年数 の 寄与 率 は減 少 傾向 で ある の に対 し ,雇 用 形 態の 寄 与率 は 拡大 し てい る こと が 明ら か にさ れ てい る 。 こ れ らの 先 行研 究 をま と める と ,総 じ て 次の こ とが いえ る 。ま ず ,2000 年以前の先行研 究に よ れば , 年齢 や 勤続 年 数な ど の属 性 差の 影 響力 は 弱ま っ てい る とい う のが 概 ね一 致 し た結 果 とい え る 。な お ,2000 年代以降の研究においても,加える変数などによって結果は 多少 変 わる も のの , 男女 間 賃金 格 差の う ち 属 性 差の 影 響力 が 大き い とい う 結論 に は至 っ て いな い 。ま た ,年 齢 や雇 用 形態 , 勤続 年 数の 係 数差 の 影響 力 が大 き いこ と が明 ら かに さ れ てい る 。た だ し, 勤 続年 数 にお い ては 影 響力 が 弱ま っ てい る と指 摘 する 研 究も 存 在す る 。 本 稿 では , これ ら の研 究 と同 じ 分析 ア プロ ー チに 基 づき つ つ, 男 女間 賃 金格 差 に影 響 し うる 要 因と し てタ ス クに 着 目し て いる 。 タス ク とい う 視点 か ら男 女 間賃 金 格差 を 検証 し て いる 研 究は 行 われ て いな い ため , この 点 は本 稿 のオ リ ジナ リ ティ と いえ る 。ま た ,分 析 時 には ,職業 の 細か な 特徴 を 捉え た「 O*NET」データを用いて,各職業で要求されるタスク を十 分 に反 映 した タ スク デ ータ を 作成 し てい る 点も 本 稿の 特 徴の 一 つと い える 。
2.2 職 業 ・ 業 種 選 択 に 関 す る 先 行 研 究 先 述 のと お り,本稿 で は ,Oaxaca 分解によりタスクの属性差と係数差が男女間賃金格差 に与 え る影 響 を検 証 した 後 ,男 女 間の タ スク の 属性 差 に影 響 する 要 因も 分 析す る 。 こ の 分 析に 関 連し た 研究 と して は ,ど の よう な 労働 者 がど の よう な 職業 ・ 職種 に 就く の かが 検 証 され て いる 。 例 え ば,定 型的 業 務で あ る事 務 職に 着 目し た 研究 に は永 瀬 [1999],仙田[2002],寺村[2012] があ る 。こ れ らに よ れば , 男性 に 比べ て ,女 性 は事 務 職か ら 他職 種 へと 移 行す る 確率 が 低 く, 特 に管 理 職へ の 移行 は 起こ り にく い こと や ,女 性 では 高 学歴 で ある ほ ど, 事 務職 か ら 他の 職 種へ の 転換 に 対す る 意欲 が 低い と いう 点 が示 さ れて い る。 ま た, 事 務職 従 事者 は 結 婚や 出 産に よ る退 職 割合 が 高い こ とも 指 摘さ れ てい る 。 転 職 が職 種 選択 に 与え る 影響 を 分析 し た研 究 も存 在 する 。例 え ば,永沼[2014]は,「技術 職」,「 専門 職」,「 管 理職 」 従事 者 を高 ス キル 労 働者 と 定義 し ,高 ス キル 労 働者 の 転職 パ タ ー ン を 検 証 し て い る 。 永 沼 [2014]によ れば, 高スキ ル 労働者の 転職率 は他 職種に 比べて 低 く, 高 スキ ル 職種 に 留ま る 傾向 に ある こ とが 示 され て いる 。 さら に ,学 歴 が高 い ほど , 企 業規 模 が大 き いほ ど 転職 率 は低 下 する こ とも 明 らか に され て いる 。また ,戸 田[2010]は,公 表 デ ー タ を 用 い た 分 析 に よ り , 職 種 経 験 の 重 要 性 を 論 じ て い る 。 戸 田 [2010]の分 析では , 1991 年から 2007 年 に お い て , 前 職 が 専 門 的 ・ 技 術 的 職 や 事 務 職 で あ る 労 働 者 の み , 同 一 職種 へ の転 職 割合 が 増加 し てお り ,そ の 他の 職 種で は 大き な 変化 が みら れ ない と いう 結 果 が得 ら れて い る。 以 上 の先 行 研究 で は, 労 働者 の 属性 に 加え て ,出 産 や転 職 が労 働 者の 職 種選 択 に影 響 し うる こ とが 示 され て いる 。 職種 が 変わ る こと で 要求 さ れる タ スク も 変化 す る可 能 性は 十 分 に考 え られ る 。本 稿 では , これ ら 先行 研 究に 立 脚し , タス ク 別就 業 関数 の 推計 時 に, 結 婚 や出 産 ,転 職 など , 労働 者 の行 う タス ク を変 化 させ う る可 能 性が あ る要 因 も分 析 対象 に 含 める 。 3. 理 論 モ デ ル 本節 で は,賃金 と 職業 選 択 にタ ス クを 取 り入 れた Yamaguchi[2013]に基づく理論モデルに つい て 解説 す る 。Yamaguchi[2013]では,職業は Motor-task(運動能力が要求されるタスク) と Cognitive-task(分析・思考力 ,およびコミュニケーション能力が要求されるタスク)の 2 つ か ら 構 成 さ れ , 労 働 者 は そ れ ぞ れ の タ ス ク に 対 応 す る ス キ ル を 保 持 し て い る と し , こ れら 2 つのタスクが賃金や職業選択に与える影響への理論的考察を可能にしている。ただ し,Cognitive-task が対象とする能力は幅が広いため ,日本の労働市場を対象にした分析時 には や や曖 昧 なイ ン プリ ケ ーシ ョ ンと な るこ と が懸 念 され る 。1980 年以降みら れる機械化 や大 学 進学 率 の上 昇 に伴 い ,労 働 市場 に おけ る ホワ イ トカ ラ ー の 割 合は 増 加傾 向 をた ど っ
てい る 。こ こ で, ホ ワイ ト カラ ー とブ ル ーカ ラ ーを 比 較し た 場合 , ホワ イ トカ ラ ーの 主 た るタ ス ク は Cognitive-task から構成されると予想 されるが,ホワイトカラー の中でも分析 を要 す るタ ス クと コ ミュ ニ ケー シ ョン が 要求 さ れる タ スク で は問 わ れる 能 力は 別 であ ろ う。 つま り 、近 年 の日 本 の労 働 市場 に おけ る 賃金 格 差を 考 察す る 上で は ,ブ ル ーカ ラ ーと ホ ワ イト カ ラー に おけ る Motor-task と Cognitive-task の識別に加えて、ホワイトカラ ー内での 問 わ れ る 能 力 の 識 別 も 必 要 で あ る と 考 え ら れ る 。 こ の 点 に 対 応 す る た め , 本 稿 で は Yamaguchi[2013]の 枠 組 み に 沿 い つ つ ,Cognitive-task を Analysis-task( 分 析・思 考 力 を 要 す る タ スク ) と Interaction-task(コミュニケーション能力を要するタスク) に分類した 形の 理論 モ デル を 考察 す る。 3.1 理 論 的 枠 組 み はじ め に,職業 𝑗は ,①𝑥𝑀,𝑗: Motor-task( 運 動 能 力 が 要 求 さ れ る タ ス ク ),② 𝑥𝐴,𝑗: Analysis-task( 分 析 能 力・思 考 力 が 要 求 さ れ る タ ス ク ),③ 𝑥𝐼,𝑗: Interaction-task( コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能力 が 要求 さ れる タ スク )の 3 つのタスクから構成されていると仮定し,各職業 𝑗の 3 つの タス ク の要 求 度を 示 すベ ク トル を 𝑥𝑗= (𝑥𝑀,𝑗, 𝑥𝐴,𝑗, 𝑥𝐼,𝑗)と表 す。各 タ スク の 要求 度 は非 負 とし , 値が 大 きい ほ ど高 い スキ ル が要 求 され る と解 釈 する 。例え ば,𝑥𝐴,𝑗の 値が 大 き い場 合 ,職 業 𝑗の Analysis-skill の 要 求 度 が 高 い こ と を 意 味 す る 。 こ れ に 対 応 し て , 労 働 者 𝑖は Motor-skill(𝑠𝑀,𝑖),Analysis-skill(𝑠𝐴,𝑖),Interaction-skill(𝑠𝐼,𝑖)を 所 持 し て い る と 想 定 し ,労 働 者𝑖の ス キ
ルベ ク トル を 𝑠𝑖= (𝑠𝑀,𝑖, 𝑠𝐴,𝑖, 𝑠𝐼,𝑖)とし て 表す 。各ス キ ルが 高 いほ ど ,よ り 要求 度 の高 い タス ク をこ な すこ と がで き る と 解 釈す る 。例え ば ,労働 者 𝑖の𝑠𝐴,𝑖が高 い 場合 ,よ り高 度な Analysis-task を 行 う こ と が で き る 。 次に , 生 産 要素 と し て 労 働 者の み を 想 定し , 職 業 𝑗についた労働者 𝑖の生産量を 𝑞𝑗(𝑠𝑖)と す ると ,職 業 𝑗の全労働者 𝐿𝑗に よ る生 産 量は 𝑄𝑗= ∑𝑖∈𝐿𝑗𝑞𝑗(𝑠𝑖)と して 示 され る 。生 産量 𝑄𝑗は 最終 財 の中 間 投入 財 とし て 用い ら れ, 𝑃𝑗と いう 価 格で 取 引さ れ ると す る。 3.2 賃 金 ・ 職 業 選 択 上記 の 枠 組み の も と , 労 働 者 𝑖の限界生産力に応じて ,職業𝑗につく労働者 𝑖の賃金は以下 の(1)式により決定される。 𝑊𝑖𝑗= 𝑃𝑗𝑞𝑗(𝑠𝑖) (1) ここ で ,職 業 𝑗における労働者 𝑖の生産量が標準的な Cobb-Douglas 型生産関数で表される と仮 定 し, 職 業 𝑗につく労働者 𝑖の対数賃金を以下のように表す。 𝑙𝑛𝑊𝑖𝑗= 𝑙𝑛𝑃𝑗+ 𝑙𝑛𝛼𝑗+ 𝛽𝑀,𝑗𝑙𝑛𝑠𝑀,𝑖+ 𝛽𝐴,𝑗𝑙𝑛𝑠𝐴,𝑖+ 𝛽𝐼,𝑗𝑙𝑛𝑠𝐼,𝑖 (2) ≡ 𝛱𝑗+ 𝛽𝑀,𝑗𝑙𝑛𝑠𝑀,𝑖+ 𝛽𝐴,𝑗𝑙𝑛𝑠𝐴,𝑖+ 𝛽𝐼,𝑗𝑙𝑛𝑠𝐼,𝑖 (3)
(2)(3)式 に お け る𝛽𝑀,𝑗, 𝛽𝐴,𝑗, 𝛽𝑀,𝑗は ,各 タ スク に 対す る リタ ー ンを 示 す。 こ こで , 上記 (3)式 は, 𝛱𝑗と タス ク に対 す るリ タ ーン ( 𝛽𝑀,𝑗, 𝛽𝐴,𝑗, 𝛽𝑀,𝑗)が 職 業 𝑗に応じて異なることを示してい る。 職 業は 3 つのタスクから構成されるとの仮定より ,タスクに対する リターン ( 𝛽𝑀,𝑗, 𝛽𝐴,𝑗, 𝛽𝑀,𝑗)は 職業 𝑗の各タスクの関数として以下のように表される。 𝛱𝑗= 𝑝(𝑥𝑗) (4) 𝛽𝑀,𝑗= 𝑏𝑀(𝑥𝑀,𝑗) (5) 𝛽𝐴,𝑗= 𝑏𝐴(𝑥𝐴,𝑗) (6) 𝛽𝐼,𝑗= 𝑏𝐼(𝑥𝐼,𝑗) (7) 以上 よ り,職 業 𝑗での労働者 𝑖の賃金は,職業𝑗の各タスクへのリターンと労働者 𝑖の各スキ ルか ら 決定 さ れる 。 つま り ,労 働 者の 賃 金は 職 業の タ スク と 労働 者 のス キ ルの 組 み合 わ せ から 決 まる 。 この よ うな 賃 金の 決 まり 方 を踏 ま える と ,労 働 者の 職 業選 択 は以 下 のよ う にな る 。 𝑀𝑎𝑥𝑑𝑖𝑗={0,1}∑ 𝑑𝑖𝑗[𝑝(𝑥𝑗) + 𝑏𝑀(𝑥𝑀,𝑗)𝑙𝑛𝑠𝑀,𝑖+ 𝑏𝐴(𝑥𝐴,𝑗)𝑙𝑛𝑠𝐴,𝑖+ 𝑏𝐼(𝑥𝐼,𝑗)𝑙𝑛𝑠𝐼,𝑖] 𝐽 𝑗=1 (6) 𝑠𝑢𝑏𝑗𝑒𝑐𝑡 𝑡𝑜 ∑ 𝑑𝑖𝑗 𝐽 𝑗=1 = 1 ここ で , (6)での𝑑𝑖𝑗は 職 業に 関 する ダ ミ ー変 数 であ り , 労 働者 𝑖の職業が 𝑗であるときに 1, その 他 の職 業 であ る とき に は 0 をとる。 (6)式は ,労 働 者 は (3)式 か ら な る 賃 金 を 最 大 化 す る よ う な 職 業 を 選 択 す る こ と を 示 し て い る。 例 えば , Analysis-skill の高い労働者は,Analysis-task へのリターンが大きい 職業を選 ぶこ と で自 身 の賃 金 を最 大 化で き るこ と が理 論 モデ ル によ り 示さ れ る。 4. 分 析 ア プ ロ ー チ 4.1 賃 金 関 数 ・ Oaxaca 分 解 前節 で 述べ た 理論 モ デル を もと に ,以 下 では 男 女別 の 賃金 関 数を 推 計し , タス ク が賃 金 に与 え る影 響 を検 証 する 。 ま ず ,賃 金 関数 の 推計 に あた り ,ク ロ スセ ク ショ ン デー タ を用 い て以 下 3 式の推計を行 う11。 11 先 に 紹 介 し た 先 行 研 究 と 同 様 に , 本 稿 で も ミ ン サ ー 型 の 賃 金 関 数 を 推 計 す る 。 な お , 用 い る 変 数 に つ い て は , ミ ン サ ー 型 の 賃 金 関 数 を 推 計 す る 際 の 留 意 点 を ま と め た 川 口 [2011]を 参 考 に し て い る 。
𝑙𝑛𝑊𝑖𝑗= 𝛼0+ 𝑿𝒊𝜶𝟏+ 𝜀𝑖 (1) 𝑙𝑛𝑊𝑖𝑗= 𝛼0+ 𝑿𝒊𝜶𝟏+ ∑ 𝛼𝑖𝑗𝐽𝑖𝑗 𝑗∈𝑀,𝐴,𝐼 + 𝜀𝑖 (∑𝑗∈𝑀,𝐴,𝐼𝐽𝑖𝑗= 1) (2) 𝑙𝑛𝑊𝑖𝑗= 𝛼0+ 𝑿𝒊𝜶𝟏+ 𝛼2𝑆𝑖𝑗𝑀+ 𝛼3𝑆𝑖𝑗𝐴+ 𝛼4𝑆𝑖𝑗𝐼+ 𝜀𝑖 (3) 被 説 明 変 数 𝑙𝑛𝑊𝑖𝑗は 職 業 𝑗における個人 𝑖の時間当たり賃金の 自 然対数値であ る。 𝑿𝒊は 個 人 属 性と 企 業規 模 から な るコ ン トロ ー ル変 数 ベク ト ルで あ り , 年 齢, 年 齢二 乗 項, 勤 続年 数 , 勤続 年 数二 乗 項, 学 歴ダ ミ ー, 役 職ダ ミ ー, 正 規雇 用 ダミ ー ,企 業 規模 ダ ミー ( 中企 業 規 模, 大 企業 規 模ダ ミ ー12), 産業 ダ ミー を 示す 。 𝜀 𝑖は誤 差 項で あ る。 こ こ で, (2)式における 𝐽𝑖は Motor-intensive, Analysis-intensive,Interaction-intensive ダミ ーを 示 す 。こ れ は ,要求 度 の 最も 高 いタ ス クに 応 じて 職 業を 分 類し た もの で ある 。例え ば , 個人 𝑖の職業が Motor-task を最も要求する場合 ,𝐽𝑀= 1, 𝐽𝐴= 0, 𝐽𝐼= 0とな る13。本 稿 で は ま ず 𝐽𝑖の 係 数 に 着 目 し , そ の 他 の 要 因 を コ ン ト ロ ー ル し た う え で タ ス ク が 与 え る 大 ま か な 影響 を 観察 す る。 (3)式での 𝑆𝑖𝑗𝑀は 個 人 𝑖がついている職業 𝑗の Motor-task の 要求度を示している。同様に, 𝑆𝑖𝑗𝐴は Analysis-task,𝑆𝑖𝑗𝐼は Interaction-task の要求度を表す。本稿では,まず男女別に賃金関 数を 推 計す る こと で ,各 タ スク 変 数の パ ラメ ー ター よ り, 各 タス ク が賃 金 にど の よう な 影 響を 与 えて い るの か ,そ の 影響 に つい て 男女 で 差異 が みら れ るか を 確認 す る。 こ こで , 各 タス ク を行 う こと で 得ら れ るリ タ ーン に つい て ,男 女 で差 が みら れ るか を ある 程 度把 握 で きる が ,これ ら の有 意 性に つい て は ,Oaxaca 分解を行い,タスクの係数差をみる必要があ る。 そ こ で, 本 稿で は , (1)-(3)の賃金関数を推計した後 ,それぞれの推計式に対して Oaxaca 分解 を 行い , 男女 間 賃金 格 差 に 影 響し う る要 因 ,特 に ,各 タ スク 変 数の 属 性差 と 係数 差 が 賃金 格 差に 与 える 影 響を 検 証す る 。こ れ まで の 先行 研 究に よ り, 年 齢や 勤 続年 数 など の 影 響力 が 低下 し てい る こと が 指摘 さ れて い るた め ,代 わ りに タ スク の 影響 力 が増 し てい る 可 能性 が 考え ら れる 。そ のた め ,Oaxaca 分解により,男女間賃金格差におけるタスクの寄与 率が 増 加し て いる こ と が 示 され た 場合 , タス ク の影 響 力が 高 まっ て いる と 解釈 で きる 。 た だし , 男女 間 のタ ス クの 属 性差 が 重要 で ある の か, あ るい は タス ク の係 数 差が 果 たす 役 割 が大 き いの か につ い ては Oaxaca 分解の結果をみて判断する必要がある。なお,女性の賃金 関数 推 定時 に は,セレ ク シ ョン バ イア ス に対 応 する た めに ヘ ック マ ンの 二 段階 推 定を 行 い , その 上で Oaxaca 分解を実施している。 12 KHPS の 選 択 肢 に 応 じ て , 100-499 人 を 中 企 業 , 500 人 以 上 を 大 企 業 と 分 類 し た 。 13 詳 し い 分 類 を 5 節 に 記 載 し て い る 。
4.2 タ ス ク 別 就 業 関 数 上述 の Oaxaca 分解の推計により,タスクが賃金格差に与える影響について,属性差と係 数差 そ れぞ れ の影 響 力を み るこ と がで き る。 た だし , こ の 属 性差 が どの よ うな 要 因か ら 生 じる の かに つ いて は,欧 米 の先 行 研究 も 含め て 明ら か には さ れて い ない 点 であ る 。そ こで , 本 稿 で は , 最 も 要 求 度 の 高 い タ ス ク に 応 じ て 職 業 を Motor-intensive, Analysis-intensive, Interaction-intensive に 分 類 し , こ れ ら 各 タ ス ク の 就 業 関 数 を 推 計 す る こ と で , ど の よ う な タス ク が要 求 され る 職業 に 就き や すい の かに つ いて も 検証 す る。 実 際の 推 計で は ,2 節で 述べ た 先行 研 究に 基 づき , 転職 や 出産 な ど, タ スク 就 業に 影 響す る と考 え られ る 要因 も 分 析に 取 り入 れ る。 タ ス ク別 就 業関 数 の分 析 では ,パネ ル デー タ を用 い て ,以 下(1)式を変量効果プロビット モデ ル によ り 推計 す る。 𝐽𝑖𝑡= 𝛼1𝐹𝑖+ 𝑬𝒊𝜶𝟐+ 𝑿𝒊𝜶𝟑+ 𝑻𝒕𝜶𝟒+ 𝜇𝑖+ 𝜀𝑖𝑡 (4)
被 説 明 変 数 の 𝐽𝑖𝑡は 個 人 𝑖 の 𝑡 期 に お け る Motor-intensive , Analysis-intensive ,
Interaction-intensive ダ ミ ー で あ り , 賃 金 関 数 の (2)式 で 用 い た 変 数 と 同 様 の も の で あ る 。 以 下 ,𝐹𝑖は女 性 ダ ミ ー , 𝑬𝒊は 各 ラ イ フ イ ベ ン ト か ら な る ベク ト ル ( 転 勤 ダ ミ ー , 出 向ダ ミ ー , 転 職 ダ ミ ー , 新規 就 職 ダ ミ ー ,出 産 ダ ミ ー), 𝑿𝒊は コ ン トロ ー ル 変 数 ベク ト ル ( 年 齢 ,学 歴 ダ ミ ー, 配偶 者 年収 , 未就 学 児数 , 親と の 同居 ダ ミー , 正規 雇 用ダ ミ ー , 企 業規 模 ダミ ー ,産 業 ダ ミ ー ), 𝑻𝒕は 年 ダ ミ ー 変 数 ベ ク ト ル を 示 す 。 𝜇𝑖は 時 間 不 変 の 固 定 効 果 , 𝜀𝑖𝑡は 誤 差 項 で あ る 。 本 分 析に お ける 着 目点 は ,女 性 ダミ ー であ る 。男 女 でタ ス ク就 業 の傾 向 が異 な れば , そ れは 男 女間 で のタ ス クの 属 性差 を とお し て賃 金 格差 に 影響 す る可 能 性が 考 えら れ る。 そ こ で, 女 性ダ ミ ーの 係 数に 着 目す る こと で 男女 別 の傾 向 を検 証 する 。 5. デ ー タ 5.1 タ ス ク デ ー タ 本稿 で は, 労 働者 の 行う タ スク が 賃金 や 男女 間 賃金 格 差に 与 える 影 響を 検 証し て いる 。 実際 の 分析 に あた り ,タ ス クの 程 度を 示 すデ ー タが 必 要と な る。 こ の タ ス クデ ー タの 作 成 に は , ア メ リ カ 労 働 省 雇 用 訓 練 局 ( the US Department of Labor/Employment and Training Administration ) の 支 援 に よ り ノ ー ス カ ロ ラ イ ナ 州 雇 用 保 障 委 員 会 ( the North Carolina
Department of Commerce) が 作 成 し た 「 O*NET」 を 利 用 し て い る14。「 O*NET」には,その
14 日 本 の 職 業 に 関 す る デ ー タ に つ い て は 「 キ ャ リ ア マ ト リ ッ ク ス 」( 労 働 政 策 研 究 ・ 研 修 機 構 ) が 平 成 23
職業 で 要求 さ れる 知 識や 能 力が 0-100 の値で掲載されており ,職業ごとにどのようなタス クが 要 求さ れ るか の 情報 を 取得 で きる 。
各タ ス クの 分 類方 法は Yamaguchi[2013]を参考にした。Yamaguchi[2013]は,「 O*NET」の
前身 で ある「 DOT」( Dictionary of Occupational Titles)を用いており ,職業が Motor-task(運
動能 力 に関 す るタ ス ク)と Cognitive-task(分析能力やコミュニケーション能力に関するタ ス ク ) か ら 構 成 さ れ る と 想 定 し , こ れ ら 2 つ の タ ス ク デ ー タ を 作 成 し て い る 。 こ の Yamaguchi[2013]の 分 類 を 元 に , 本 稿 で は Cognitive タ ス ク を 詳 細 に 分 類 し , ① 運 動 能 力 を 要求 する Motor-task,②分析能力・思考力を要求する Analysis-task,③コミュニケーション 能力 を 要求 す る Interaction-task の計 3 つのタスクデータを主成分分析により 作成した 。各 タス ク デー タ の作 成 に用 い たデ ー タは 表 1-1~1-3 のとおりである。本稿ではこれらタスク デー タ を説 明 変数 , 賃金 対 数値 を 被説 明 変数 に した 分 析を 行 い , 各 タス ク が賃 金 や男 女 間 賃金 格 差に 与 える 影 響を 検 証す る 。 さ ら に,タス ク デー タ に 加え て ,こ れら 3 つのタスクデータの値を元に各職業を Motor-intensive・ Analysis-Motor-intensive・ Interaction-intensive に 分 類 し た ダ ミ ー 変 数 も 使 用 す る 。 分 類 結果 は表 2 に掲載している。表 2 は,例えば,「採掘作業者 ,運輸・通信従事者,製造・建 築・ 保 守・ 運 搬な ど の作 業 者」 は Motor-task が最も要求される職業であることを示してい る 。表 2 の分類に基づいて Motor・Analysis・Interaction-intensive それぞれのダミー変数を 作成 し ,こ れ らを 被 説明 変 数に し た分 析 を行 う こと で ,ど の よう な タス ク がよ り 要求 さ れ る職 業 に就 く のか に つい て の検 証 も行 う 。 5.2 賃 金 ・ 属 性 デ ー タ 本稿 で は, 慶 應義 塾 大学 家 計パ ネ ルデ ー タ設 計 ・解 析 セン タ ーの 「 慶應 義 塾大 学 家計 パ
ネル 調 査( Keio Household Panel Survey)」( 以下 ,KHPS),および「日本家計パネル調査( Japan
Household Panel Survey)」( 以下 ,JHPS)の個票データを使用する。これらは同一個人を追
跡し た パネ ル 調査 で あり ,KHPS は 2004 年,JHPS は 2009 年より毎年 1 月に調査が行われ てい る 。賃 金 関数 ・ Oaxaca 分解の推計には KHPS2004・KHPS2012(新規コーホート)と JHPS2012 に よ る ク ロ ス セ ク シ ョ ン デ ー タ , タ ス ク 別 就 業 関 数 の 推 計 に は KHPS2004-2014 によ る パネ ル デー タ を用 い る。 分 析 対象 は 60 歳未満の男女 ,かつ雇用者に限定し ,自営業者は分析対象外としている。 賃金 関 数の 被 説明 変 数 に は , KHPS・JHPS より算出した時間当たり賃金の自然対数値を用 いる 。 タス ク 別就 業 関数 の 被説 明 変数 に つい て は, KHPS の調査項目である職業を表 4 の とお り に分 類 した Motor・Analysis・Interaction-intensive ダミーを使用する。また ,タスク 別就 業 関数 の 推計 に は , 転 勤ダ ミ ー, 出 向ダ ミ ー, 転 職ダ ミ ー, 新 規就 職 ダミ ー ,出 産 ダ ミー を 利用 す る 。そ の 他,コン ト ロー ル 変数 と して ,年齢 ,勤 続年 数 ,学 歴 ,雇 用形 態( 正 規・非 正規 ),役 職 ,企 業 規 模,産 業 ,配 偶 者年 収 ,親 との 同 居状 況 ,未 就 学児 数 を用 い て いる 。 これ ら 変数 の 基本 統 計量 は表 3 のとおりである。
基 本 統計 量 をみ る と, 男 性と 女 性の 時 間当 た り賃 金 に差 が ある こ とが 確 認で き る。 そ の 他, 年 齢に 大 きな 差 はみ ら れな い が, 勤 続年 数 や正 規 雇用 ダ ミー は 大き な 差が み られ , 先 行研 究 の指 摘 どお り ,こ れ らの 属 性差 の 相対 的 な影 響 力は 大 きい と 予想 さ れる 。 ただ し , 同時 に ,各 タ スク 変 数に も 男女 間 で大 き な差 異 が存 在 する こ とが 読 み取 れ る。 男 性で は , Motor・ Analysis・ Interaction-task が そ れ ぞ れ, 46.13, 44.196, 46.737 に 対 し , 女 性 で は , 27.497, 29.212, 32.502 と な っ て い る 。 この 点 につ い て, よ り細 か く男 女 が行 う タス ク の動 向 をみ る ため に , 2004 年から 2012 年に か けて の 男女 別 のタ ス クの 推 移を 表 4 に掲載している。表 4 から,正規雇用の男性は 偏り な く各 タ スク を こな し てい る のに 対 し, 正 規雇 用 の女 性 は Interaction-task にやや偏っ てい る こと が わか る 。こ の 女性 の 特徴 は 非正 規 雇用 に も観 察 され る ため , 女性 全 般の 傾 向 とし て ,コ ミ ュニ ケ ーシ ョ ン能 力 が要 求 され る タス ク をよ り 多く 行 って い る可 能 性が 示 唆 され る 。こ こ で, 2004 年から 2012 年への変化に着目すると,最も顕著な傾向として,非 正規 雇 用の 女 性の タ スク が 大き く 増加 し てい る こと が わか る 。こ れ は, 2004 年に比べて, 2012 年 で は 非 正 規 雇 用 の 女 性 が 行 う タ ス ク が い ず れ も 高 度 な も の に な っ て い る こ と を 示 唆し て いる 。 その 他 ,正 規 雇用 を みて み ると , 女性 は いず れ のタ ス クも 減 少し て いる の に 対し ,男 性は Analysis-task のみ,若干ではあるが増加している。本稿では,これらタスク の属 性 差が 賃 金格 差 に与 え る影 響 につ い て, Oaxaca 分 解を用 いて検証していく。 6. 推 計 結 果 6.1 賃 金 関 数 ・ Oaxaca 分 解 はじ め に, 賃 金関 数 の推 計 結果 に つい て みて い きた い 。表 5 は男性 ,表 6 は女性の賃金 関 数 の 推 計 結 果 を 示 し て い る 。 4 節で 紹 介し た推 計 式 に基 づ き , Model1 を基 本 とし て , Model2 は 各 タ ス ク ダ ミ ー ( Motor/Analysis/Interaction-intensive) を 加 え た も の , Model3 は 各タ ス ク変 数(Motor/Analysis/Interaction-task)の自然対数値 を加えた推計式となっている。 はじ め に Model2 の各タスクダミーに着目することで ,タスクの大まかな影響力を確認し た上 で ,Model3 の各タスク変数に焦点を当て ,各タスクの具体的な影響力を確認していく。 なお ,女 性 の賃 金 関数 推 計 に行 っ たヘ ッ クマ ン の二 段 階推 計 をみ る と,2004 年では逆ミル ズ比 が 有意 で はな い もの の ,2012 年では有意であり,セレクションバイアスが生じている 可能 性 が示 さ れて い る。 以 降で は ,セ レ クシ ョ ンバ イ アス を 考慮 し た推 計 結果 を もと に , 以降 で 考察 を 進め て いく 。 ま ず表 5・6 の Model2 に着目すると ,男性では 2004・2012 年ともに ,女性では 2012 年 にお いて Analysis ダミーが正に有意になっている。これより ,産業や企業規模などの労働 需要 側 の要 因 をコ ン トロ ー ルし た 上で も , Analysis-task がより要求される職業に就く労働 者の 賃 金が 高 いこ と を示 し てお り , Analysis タスクが賃金に有意に影響 する可能性が示唆
され る 。 Model2 でみた大まかなタスクの影響を より詳しく 確認するため,以下ではタスクの具体 的な 影 響が 表 れる Model3 をみていきたい。まず,男女ともに Analysis-task の係数が正に なっ て いる こ とが わ かる 。これ は Analysis-task が要求されるほど賃金が高くなることを表 して お り, Model2 とも整合的な結果である といえよう。 さらに ,その係数に着目すると, Analysis-task の 影 響 力 は , 2004 年 と 2012 年 と も に 男 性 よ り も 女 性 の 方 が 高 い こ と が 読 み 取れ る 。こ れ は ,2004 年と 2012 年いずれにおいても,Analysis-task を行うことで得られる 賃 金 の 増 加 分 は 女 性 の 方 が 大 き い こ と を 示 唆 し て い る 。 た だ し , こ の 結 果 か ら 男 女 間 の Analysis-task の 影 響 力 の 差 が 有 意 で あ る か を 確 認 す る こ と は で き な い た め , こ の 点 に つ い て は Oaxaca 分解を行い, Analysis-task の係数差をみる必要がある。続いて , Analysis-task の係 数の 2004 年から 2012 年への変化をみると,男性では値が減少している一方で, 女性 では 増 加し て いる こ とが 読 み取 れ る。 こ の点 に 関し て ,職 種 経験 が 賃金 に 与え る 効果 を 調 べた 戸 田[2010]によれば ,女性では,専門的・技術的職業の賃金に与えるポジティブな効果 が近 年 高ま っ てい る とい う 結果 が 得ら れ てい る 。表 4 で示したとおり,専門的・技術的職 業 で 最 も 要 求 さ れ る タ ス ク が Analysis-task で あ る こ と を 踏 まえ れ ば , 本 稿 の 結 果 は 戸田 [2010]の 結 果 と 整 合 的 な も の と 考 え ら れ る 。 次 に ,賃金 関 数の 結 果を 踏ま え て ,Oaxaca 分解の結果について考察していく 。推計結果 は表 7 のとおりである。 なお,表 7 では格差を男性賃金対数値から女性賃金対数値 を引い たも の とし て 示し て いる た め, 各 変数 の 係数 が 正で あ る場 合 ,そ の 変数 は 男女 間 賃金 格 差 を拡 大 させ て いる と 解釈 で きる 。 はじ め に, 2004 年から 2012 年にかけての男女間賃金格 差の 傾 向を み てみ る と,い ずれ の Model においても格差は縮小していることがわかる。こ の傾 向 は吉 岡[2015]でも確認されており,実際に,2007 年から 2013 年にかけて男女間賃金 格差 自 体が 縮 小し て いる と 指摘 さ れて い る 。続 い て ,Model1 をみると ,賃金格差における 属性 差 全体 の 影響 力 が弱 ま って い るこ と がわ か る。具 体的 に は, 2004 年の格差 0.667 のう ち, 属 性差 0.419 の寄与率は約 62.8%である一方で, 2012 年では格差 0.575 における属性 差 0.289 の寄与率が 50.3%となっており,属性差の寄与率は低下していることが読み取れ る。個 別の 変 数を み ると ,2004 年での勤続年数の属性差は 0.132 であり,賃金格差計 0.667 にお け る寄 与 率は 約 20%となっている 。これは,川口[2005]による 2000 年のデータを用い た推 計 とほ ぼ 同様 の 結果 で ある 。 また , 多く の 先行 研 究と 同 じく ,2004 年から 2012 年に かけ て 勤続 年 数の 属 性差 の 影響 力 が弱 ま って い るこ と が示 さ れて い る。 続 いて Model2 に関して ,以下では特に各タスクダミーに着目していく。まず 2004 年に おけ る Motor-intensive ダミーの属性差 が負に有意であ り,男女間賃金格差を縮小させてい るこ と が示 さ れて い る 。こ れは Motor-intensive な職業での 男性比率が高いことが男女間賃 金格 差 の縮 小 の一 要 因で あ ると 論 じた Yamaguchi[2013]と同じ結果であり ,米国でみられた 傾向 が 日本 で も生 じ てい る 可能 性 が考 え られ る 。ま た ,2004 年での Analysis-intensive の属 性差 は 正に 有 意と な って お り, 女 性よ り も男 性 の方 が 分析 能 力を よ り要 求 され る タス ク を
行 っ て い る こ と が 賃 金 格 差 を 拡 大 さ せ て い る こ と を 示 し て い る 。 こ こ で , こ れ ら Motor/Analysis-intensive の 属 性 差 の 影 響 は 2012 年 に は 有 意 性 が 失 わ れ て い る が ,タ ス ク ダ ミー は タス ク の大 ま かな 影 響を み るこ と がで き る一 方 で, 純 粋な タ スク の 影響 力 以外 の 要 因も 含 まれ て いる た め, タ スク が 果た す 役割 に つい て は Model3 をみて判断する必要があ る。 な お, 各 タス ク の属 性 差を 生 じさ せ る要 因 につ い ては , 次項 の タス ク 別就 業 関数 に て 考察 し てい く こと と する 。 最 後 に,Model3 の分析結果をみると ,Motor-task の属性差は 2004・2012 年ともに負に有 意と な って お り ,Model2 で得られた結果を支持するものとなっている 。また,その影響力 をみ る と,2004 年での Motor-task の属性差の絶対値は 0.0874 であり,その寄与率は 13.2%, 2012 年 で の 絶 対 値 は 0.0862 で あ り , 寄 与 率 は 16.8%と な っ て お り , 寄 与 率 は 増 加 し て い る 。次 に ,Analysis-task の属性差については ,2004・2012 年ともに正に有意となっている。 寄与 率 をみ る と ,2004 年での Analysis-task の値が 0.0358 であり,寄与率が 5.4%,2012 年 での 値が 0.505 であり,寄与率は 9.9%である。これらの結果は,男女間賃金格差における タス ク の属 性 差の 影 響力 が 高ま っ てい る こと を 示唆 す るも の であ る 。 こ れ ま で は 属 性 差 に 着 目 し て き た が , 続 い て 係 数 差 に 着 目 す る と , 2004 年 にお い て は Motor-task が 正 に 有 意 , Analysis-task が 負 に 有 意 と な っ て い る 。 こ れ に よ れ ば , 2004 年 時 点で は ,同 じ Motor-task を行っても男性の方が多くの賃金を獲得する一方, Analysis-task では 女 性の 方 が多 く の賃 金 を得 て いた 可 能性 が 推察 さ れる 。 ただ し , Analysis-task につい ては 絶 対値 が 0.00492 であり,寄与率に換算すると約 0.7%と非常に小さい差である。また, これ ら タス ク の係 数 差 は 2012 年には有意性が失われてお り,近年での男女間のタスクの 係数 差 は存 在 しな い こと が 推察 さ れる 。 6.2 タ ス ク 就 業 関 数 これ ま での 分 析か ら ,タ ス ク,特に Analysis-task が賃金に対し正に有意であり ,この属 性差 が 男女 間 賃金 格 差を 拡 大さ せ てい る こと , およ び その 影 響力 が 年々 高 まっ て いる 可 能 性が 示 唆さ れ た 。これ ら の 結果 を 踏ま え ,続 いて ,タ ス ク別 就 業関 数 の推 計 結果 を 概観 し , 男女 間 にタ ス クの 属 性差 が 生じ る 要因 を 検証 し てい く 。 は じ めに , 全サ ン プル を 対象 に した 全 体的 な 傾向 を 確認 し たい 。 推計 結 果は 表 8 に掲載 した と おり で ある 。こ こ で は ,①産 業 をコ ン トロ ー ル して い ない モ デル(Model1),②産業 をコ ン トロ ー ルし た モデ ル (Model2),③Model2 に企業内の配置転換や転職,出産ダミー を加 え たモ デ ル( Model3)となっている。
まず ,Model1 と Model2 の女性ダミーをみると,Motor-intensive ダミーには負,Interaction-ダミ ー には 正 に有 意 とな っ てい る 。 こ れ は運 動 能力 が 要求 さ れる タ スク に は男 性 の方 が つ きや す く, コ ミュ ニ ケー シ ョン 能 力が 要 求さ れ るタ ス クは 女 性が つ きや す いこ と を示 し て いる 。 この Motor-intensive に対する結果は,先ほどの Oaxaca 分解でみた Motor-task の属 性差 と も整 合 的な も ので あ る。ま た,Analysis-intensive ダミーに関しては ,Model1 では女
性ダ ミ ーの 有 意性 が みら れ ない も のの ,Model2 では負に有意となっている。これは ,同一 産業 内 では 女 性の 方 が分 析 能力 の 要求 さ れる タ スク を 行う 確 率が 低 いこ と を示 唆 して い る。 最後 に ,配 置 転換 や 転職 ,出 産ダ ミ ーの 効 果を み てい く 。表 7 から明らかなように,Analysis-intensive ダ ミ ー に 対 し ,転 職 ダ ミ ー や 新 規 就 職 ダ ミ ー が 負 に 有 意 と な っ て い る 。これ よ り , 労働 市 場か ら 一度 撤 退す る と Analysis-task を行いにくくなると解釈できる。 次 に ,男 女 別の 推 計結 果 につ い てみ て いく 。表 9 に推計結果を掲載しており ,Model1-3 は表 8 と同じ推計モデルを示している。 主な結果について述べていくと ,まず, 転職ダミ ーと 新 規就 職 ダミ ーは Analysis-intensive ダミーに負に有意であり ,これは男女ともに同 様の 結 果で あ る。 つ まり , 労働 市 場か ら 撤退 し た場 合 に Analysis-task を行いにくくなる 傾向 は 男女 と もに 共 通の 傾 向で あ るこ と がわ か る。 そ の他 , 正規 雇 用ダ ミ ーを み ると , 男 性で は Analysis-intensive ダミーに正に有意である一方 ,女性では Motor-intensive と Interaction-intensive ダ ミ ー に 負 に 有 意 , Analysis-intensive ダ ミ ー に 正 に 有 意 と な っ て い る。 こ の結 果 から , 雇用 形 態の 違 いに よ る行 う タス ク の違 い は女 性 の方 が 顕著 で ある 可 能 性が 考 えら れ る。 そ こ で, 女 性の 雇 用形 態 別に 推 計を 行 った 結 果を 表 10 に掲載している。これをみる と, ま ず, 女 性非 正 規雇 用 者に お いて は 転職 ダ ミー と 新規 就 職ダ ミ ーが Analysis-intensive ダミ ー に対 し て負 に 有意 と なっ て おり , 分析 能 力を 要 求さ れ るタ ス クを 行 いに く いこ と が 示さ れ てい る 。こ の 結果 は これ ま でに 確 認し て きた も のと 同 様に , 労働 市 場か ら 離脱 し た 場合 , その 後に Analysis-task を行いにくいことを示している。特に, 30 歳代で育児を経 験し た 後, 40 歳代で再就業する女性の 6 割が非正規雇用であることを踏まえると15,労 働 市場 か ら一 度 撤退 す るこ と によ る 影響 は 非正 規 雇用 者 に顕 著 であ る とい え る。 た だし , 女 性が Analysis-task を行いにくいという傾向は正規雇用においても 確認されており,分析 結果 を みる と ,女 性 正規 雇 用者 で は転 勤 ダミ ー が負 に 有意 と なっ て いる 。 これ は ,社 内 で の配 置 転換 の 結果 , 女性 正 規雇 用 者は 分 析能 力 を求 め られ る タス ク に就 き にく い 可能 性 が ある こ とを 示 唆し て いる 。 最 後 に, こ れま で のタ ス ク就 業 関数 と は異 な る視 点 から , 男女 別 のタ ス クの 属 性差 が 生 じる 要 因を 探 って み たい 。 ここ で は, 行 うタ ス クを ど のよ う に変 え てい く のか , その 変 遷 を検 証 した 結 果を 表 11 に示している。 ここで, TASK_SHIFT は,タスクダミーが前年度 から 変 化し た 場合 に 1 をとるダミー変数であり,主に要求される タスクが変わりやすいか につ い て, 男 女の 差 異を 分 析す る こと を 意図 し てい る 。続 い て, 各 タス ク ダミ ー にお け る In は , あ る タ ス ク ダ ミ ー に 対 し て , そ の 他 2 つ の タ ス ク ダ ミ ー か ら 移 行 し て き た 場 合 に 1 をと る ダミ ー 変数 で ある 。 つま り ,そ の タス ク ダミ ー への 移 行が 生 じた 場 合に 1 をとるダ ミー 変 数で あ る。 例 えば , Motor-intensive-In は, Analysis-intensive,あるいは Interaction-intensive から Motor-Interaction-intensive に 移 行 し た 場 合 に 1 を と る 。 最 後 に , 各 タ ス ク ダ ミ ー に お け
る Out は,あるタスクダミーから他のタスクダミーへ移行した場合,あるいは非就業へと 移行 し た場 合に 1 となるダミー変数である。 つまり, そのタスクダミーからの移動が生じ た場 合に 1 をとるダミー変数である。これは 例えば, Motor-intensive-Out は,前年に Motor-intensive に 属 す る 労 働 者 が , Analysis も し く は Interaction-intensive へ 移 行 し た 場 合, あ るい は 非就 業 状態 に なっ た 場合 に 1 をとる。 主な 結 果は 次 のと お りで あ る。 ま ず , TASK_SHIFT を被説明変数にした分析結果をみる と, 女 性ダ ミ ーが 負 とな っ てい る 。こ れ は, 自 らの タ スク が 変わ り やす い のは 男 性で あ り, 女 性に 比 べて 男 性は 異 なる タ スク を 行う 傾 向に あ るこ と を示 し てい る 。次 に ,各 タ ス クダ ミ ーへ の 移行 を 示す In に着目すると, Analysis-intensive-in に対し,女性ダミーが負 に有 意 とな っ てい る 。こ れ より , タス ク を移 動 する 際 ,女 性 は分 析 能力 が 求め ら れる タ ス クに は 就き に くい こ とが 示 され て おり , これ ま での 分 析と 整 合的 な 結果 と なっ て いる 。 最 後に , 各タ ス クダ ミ ーか ら の移 行 を示 す Out をみてみると, Intenraction-intensive-Out に 対し , 女性 ダ ミー が 負に 有 意で あ るこ と がわ か る。 先 ほど の タス ク 別就 業 関数 か らは 明 ら かに さ れて い なか っ たが , 表 8 の結果 とあわせると ,一旦 Interaction-intensive な職業につ くと 女 性は そ こに 留 まる 傾 向に あ る こ と が推 察 され る 。 7. お わ り に 本稿 で は,職 業の 特 徴を 詳 細に 捉 えた「 O*NET」データよりタスクデータを作成し ,タ スク が 賃金 に 与え る 影響 , およ び タス ク の属 性 差と 係 数差 が 男女 間 賃金 格 差に 与 える 影 響 を検 証 する と 同時 に , 男 女 間の タ スク の 属性 差 が生 じ る要 因 につ い ての 分 析も 行 っ た 。 本 稿の 分 析の 結 果 ,男 女 とも に Analysis-task が賃金に正に有意であり,分析能力を要する業 務で あ るほ ど 賃金 が 高い と いう 結 果が 得 られ た 。ま た ,賃 金 格差 へ の影 響 をみ て みる と , Motor-task の 属 性 差 が 賃 金 格 差 の 縮 小 要 因 と な っ て い る 一 方 , Analysis-task の 属 性 差 は 賃 金格 差 を拡 大 させ て いる 可 能性 が 示さ れ た。 さ らに , 男女 間 賃金 格 差に お ける タ スク の 属 性差 の 影響 力 は高 ま って い るこ と が示 唆 され た 。こ れ に関 連 して , タス ク 別の 就 業関 数 の 推計 結 果を み ると ,女 性 は Analysis-intensive な職業に 就く確率が低いことが示されている が ,特 に ,社内 の 配置 転 換 や転 職が Analysis-task の属性差を引き起こしている可能性が高 いこ と が明 ら かと な った 。 本稿 の 分析 結 果で 注 目す べ き点 と して は ,まず Analysis-task が賃金を上昇させる要因で ある こ とが あ げら れ る。こ れは ,メ ン バー シ ップ 型 と いわ れ る日 本 の雇 用 慣行 に おい て も, 労働 者 の行 う 業務 内 容( タ スク ) が賃 金 に対 し て一 定 の説 明 力を 有 して い るこ と を示 唆 し てい る 。また ,男女 間 賃金 格差 に おい て ,男女 間の Analysis-task の係数差ではなく,属性 差が 格 差を 拡 大さ せ てい る 点に も 注目 に 値す る と考 え られ る 。こ れ は, 同 じ分 析 ・思 考 力 が要 求 され る タス ク を女 性 が行 っ ても , 男性 と ほぼ 同 様の リ ター ン を得 る こと が でき る こ
と, な らび に ,男 性 に比 べ て分 析 ・思 考 力が 要 求さ れ るタ ス クを 女 性が 行 って い ない こ と が賃 金 格差 を 拡大 さ せて い るこ と を意 味 して い る。 よ って , 分析 ・ 思考 力 が要 求 され る タ スク を 女性 が 行う こ との で きる 環 境を 整 える こ とが 重 要で あ ると い える 。こ の 点 につ い て, タス ク 別就 業 関数 の 推計 結 果よ り 得ら れ るイ ン プリ ケ ーシ ョ ンと し て, 企 業内 の 配置 転 換 が女 性を Analysis-task から遠ざ けている可能性が示唆されている ことから,タスクの観点 から い えば , 企業 内 の配 置 転換 が どの よ うに 行 われ て いる の かを 精 査す る こと で 賃金 格 差 解消 に 繋が る 可能 性 があ る とい え よう 。 ただ し ,全般 的 に女 性が Analysis-task を行いにくいという結果に対しては,さらなる追 加的 分 析が 必 要で あ ると い える 。 とい う のも , この 結 果に 関 して は ,労 働 需要 側 の差 別 に 起因 す るも の か, あ るい は 労働 供 給側 の 選好 に よる も のか に つい て は分 析 でき て いな い 。 例え ば ,これ が 労働 供 給側 の選 好 によ る もの で あれ ば ,女性 は Analysis-task を行うこ とで 多く の リタ ー ンを 得 るこ と がで き るに も かか わ らず ,実際 には Analysis-task を行う確率が 低く ,労 働時 間 や職 場 環境 など ,リ ター ン とは 別 の要 因を 考 慮し て Analysis-task を選んで いな い 可能 性 が考 え られ る 。こ の よう に ,本 稿 で得 ら れた 結 果の 背 後に は ,労 働 需要 側 と 労働 供 給側 の どち ら が影 響 して い るの か ,つ ま り, 女 性が Analysis-task を行えないのか, ある い は自 発 的に 行 わな い のか に 応じ て ,着 手 すべ き 具体 的 な対 応 策は 異 なる 。 この 点 に つい て は本 稿 の分 析 の限 界 であ り ,今 後 ,識 別 可能 な デー タ を用 い た分 析 が望 ま れる 。