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農地中間管理機構を活かすには
農地所有者に対する貸し付けの動機付けが課題
○ 政府は、農地集積による農業の生産性向上を促すべく、農地を借り集めたうえで地域農業の担い手 に貸し付けることを主な業務とする農地中間管理機構(仮称)を設置する方針を示している ○ 2013年10月に示された機構制度の骨格案では、①貸し付けに際しての公平性および手続きの簡素化、 ②借り受けに伴う財政負担の増加防止、③農地情報の共有、に対する工夫が評価できる ○ 一方で骨格案は、農地所有者に対して機構への貸し付けを動機付ける対策に乏しい。農業関係者か ら反発を受ける可能性のある規制強化も含めて、対策を講じていく必要がある1.はじめに
日本農業の再生に向けた最大の課題は、農業の生産性向上を図るべく、担い手(「効率的かつ安定 的な農業経営及びこれを目指して経営改善に取り組む農業経営1」を指す)がより多くの農地を面的に まとまった形で利用する状態(=農地集積、図表1)を実現することである。日本の農業は、農地の小 口分散が顕著であり、担い手による農地集積が進めば、スケールメリットによる生産コストの削減を 通じて競争力の強化が期待できる。 こうした考え方に基づき、政府は、農地所有者から借り受けた農地をまとめて担い手に貸し出す業 務を主に担う「農地中間管理機構(仮称:以下、機構)」を各都道府県に設置する方針を2013年4月に 打ち出し、同年10月に機構制度の骨格案をまとめるに至った。政府は今後、この骨格案に沿って関連 法案を作成し、国会での審議を行う予定である。 本稿では、機構の基本構想および骨格案のポイントを確認したうえで、その評価と今後の課題につ いて考察する2。 政策調査部主任研究員 堀 千珠 03-3591-1304 [email protected]政 策
2013 年 10 月 18 日みずほインサイト
図表 1 農地集積のイメージ B C C B A B A A B B A A C A C A A A B B C B C B C B A B B A C C C 担い手(A,B,C)ごとに 農地を集約 A B C (資料)農林水産省「これまでの『攻めの農林水産業』の検討状況」(2013 年 6 月)よりみずほ総合研究所作成2.機構の基本構想と骨格案のポイント
以下では、政府がこれまでに示してきた機構の基本構想と、2013年10月4日に公表した機構制度の骨 格案におけるポイントを整理する(図表2)。 (1)機構の基本構想 機構の基本的な役割は、耕作者がいない農地の所有者などから農地を借り集め、当該農地を管理す るとともに、必要に応じて大区画化などの基盤整備を実施したうえで、経営規模の拡大を指向する担 い手に貸し付けることである。政府としては、機構の設置によって、小口分散化した農地が担い手へ と集約され、規模拡大に伴う農作業の効率化が進むと期待している。 機構が所有者に支払う賃料、借り受けた農地を貸し付けまでの間に管理する費用、基盤整備にかか る費用などについては、国費を投入する予定である。また、機構の円滑な業務運営を促す目的から、 業務の一部については市町村などに委託可能とする方針である。 また、政府は機構の設置にあわせて耕作放棄地対策の強化も進めようとしている。具体的には、農 地所有者に対して機構への農地貸し付けに関する意向を確認したり、所有者不明の耕作放棄地を機構 が借り受けられる手続きを簡素化したりするなどの策が検討されてきた。 (2)骨格案のポイント 上記の基本構想をもとに政府は、産業競争力会議3や規制改革会議4での民間議員の意見も踏まえて、 機構制度の骨格案をまとめた。骨格案において新たに打ち出された主なポイントをまとめると、以下 のとおりである。 a.農地の貸し付け 骨格案では、農地の貸し付けに際して、農地借り入れ希望者を公募して相手先を選定すること や、農地法に基づく農業委員会の許可手続きを不要とすることが示されている。 貸し付けの相手先については、農地の借り入れ希望者を区域ごとに募集したうえで、機構が独 図表 2 機構の基本構想および骨格案の主なポイント (1)業務目的 ・利用が小口化している農地を担い手ごとにまとめる (2)業務内容 ・耕作者がいない農地の所有者などから農地を借り受ける ・規模拡大を指向する担い手に上記農地を貸し付ける ・借り受けから貸し付けまでの間、農地を維持・管理する ・必要に応じて農地の基盤整備を実施する (3)運営 ・(2)にかかる費用に対して、国費を投入する ・業務の一部を市町村などに委託することができる (4)関連対策 ・耕作放棄地対策を強化する(例:農地所有者に機構への貸し 付け意向を確認、所有者不明の耕作放棄地を機構が借り受け る手続きの簡素化) <農地の借り受け> ・農地としての利用が著しく困難な場合は借り受けを行わない ・借り受け後、相当期間内に貸し付け見込みがない場合、賃貸借契約を解除する 基本構想 骨格案の主なポイント <農地の貸し付け> ①貸し付け先の選定 ・農地借り入れ希望者を地域ごとに募集する ・貸し付け先の選定ルールを定めた事業規程を作成し、都道府県知事の認可を 受けたうえで公表する ②貸し付け手続き ・機構が農地利用配分計画を定め、都道府県知事の認可を受けて公告する ・農地法に基づく農業委員会の許可は不要 (cf.機構は上記計画を定める際に、市町村による案の提出や農業委員会から の参考意見の聴取を求めることが可能) <農地台帳の活用> ・農業委員会が作成している農地台帳を法定化し、公表する (資料)みずほ総合研究所作成 2自に作成した事業規程に基づき選定する。これに先立ち、機構は相手先の選定ルールを定めた事 業規程を作成し、都道府県知事の認可を受けるとともに、同規程を公表する。 貸し付けの手続きについては、機構が農地利用配分計画(地域内のどの土地を誰に貸し付ける かをまとめたもの)を定めて、これについて都道府県知事の認可を受け、公告することで完結し、 農地法に基づく農業委員会の許可は要しない。なお、機構は農地利用配分計画を定めるに当たり、 市町村に対して案を求めることができ、市町村は必要に応じて農業委員会から意見を聴取して、 この案を作成することとなっている。 b.農地の借り受け 農地の借り受けに際しては、「農地の利用の効率化及び高度化が効果的に促進されると見込まれ る区域において重点的に業務を実施する5」ことを基本方針とし、適切な借り受けルールを設け、 農地としての利用が著しく困難な場合は借り受けを行わない。 また、借り受け後「相当期間内」(現時点では、どの程度の期間を指すのか不明)に農地の貸し 付けの見込みがないことが明らかとなった場合については、賃貸借契約を解除できることとされ ている。 c.関連対策 政府は、機構の設置にあわせて、耕作放棄地対策の強化(前述)に加え、農業委員会が作成し ている農地台帳を法定化し、公表する。
3.機構の評価と今後の課題
骨格案が示されたことによって、いわば農政改革の「目玉対策」として位置づけられている機構の 制度設計がより具体的に見えてきた。これを受けて、現時点での機構の評価および今後の課題をまと めると、以下のとおりである。 (1)評価 まず、機構の基本構想についてみると、日本農業の牽引役であった昭和一桁生まれの農業者の離農 によって耕作不在者の農地が急増するおそれがあるなかで、こうした農地をとりまとめて担い手に託 そうとする動きは、時宜を得たものである。基盤整備の実施によって、使い勝手の良い農地を担い手 に提供しようとする姿勢も評価できる。 また、骨格案において評価すべき点としては、①希望者の公募によって、貸付先の公平な選定を図 っていること、②貸し付けの手続きを簡素化すべく、農業委員会の許可が不要な仕組みとしているこ と、③借り受けの制限や契約解除の規程を設けることで、貸付先がみつからない農地の滞留による財 政負担の増加を防ごうとしていること、④法的な位置づけを持たないために現状把握が不十分なうえ、 原則非公開となっている農地台帳を法定化・公表することで、機構関係者による正確な農地情報の共 有を目指していること、がある。 一方で、機構制度の骨格案は、農地所有者に対して機構への貸し付けを動機付ける対策が欠けてい るのが最大の弱点である。機構に農地が集まらなければ、農地集積ひいては農業の生産性向上に機構 3が果たせる役割も限られたものとなってしまう。所有者に農地貸し付けを動機付けるための策として は、補助金の交付があり得るが、耕作放棄地の機構への貸し付けに対する補助金の交付はモラルハザ ードを招くおそれがあることや、所有者は補助金よりも総じて金額的な規模が大きい農地の転用・売 却益に期待を寄せる傾向にあることを考えると、こうした対策は妥当とはいえない。政府としては今 後、補助金の交付以外の方法で所有者への動機付けを図る必要があり、その取り組みが機構の成否を 大きく左右することになると予想される。 (2)課題 では、政府としては具体的にどのような形で所有者への動機付けを図っていけば良いのか。その答 えを探す鍵は、現状の分析にある。現状では、①転用による農地売却益に対する所有者の期待が高い こと、②不適正な農地利用(例:耕作放棄)に対する抑制措置が乏しいこと、③他者に農地を託すこ とに対する心理的な抵抗感が所有者の間でみられること、などを背景に、所有者が農地の貸し付けに 踏み切らない傾向が強い。政府としては、機構による農地集積を円滑化するために、上記①~③への 対策を検討する必要があろう(図表3)。 第1に、転用による農地売却益に対する所有者の期待をおさえるためには、農地の明確なゾーニング によって転用が認められる農地とそうでない農地を定め、これを厳密に運用する策が有効とみられる。 1952年の農地法制定以降、農地転用は歴史的に農業委員会による許可制となっているが、有識者の間 では同委員会の裁量の余地の大きさが農地転用の拡大を招いたとの批判6がある。政府としては、明確 なゾーニングによって、こうした状況を改善することが求められる。 第2に、不適正な農地利用に対する抑制措置を強化するうえでは、農地台帳の法定化を機に、農地の 利用状況をより正確に把握する体制を整えるとともに、不適正な利用を一定期間以上にわたって改め ない所有者に対する「厳正な対処7」の実施を検討していく必要がある。例えば、利用状況の正確な把 握には、一部の農業委員会で既に導入されているGPS(全地球測位システム)の全国的な活用が妥当で ある。また、厳正な対処としては、都道府県知事の判断で上記所有者の農地を貸し付ける仕組みの本 格的な運用8や、不適正に利用されている農地に対する固定資産税の引き上げといった措置があり得る。 図表 3 機構による農地集積を円滑化するための対策案 現 状 対 策 転用による農地売却益に対する 所有者の期待が高い 農地の明確なゾーニングによって、転用が認められる農地と そうでない農地を定めるとともに、これを厳密に運用 農地台帳の法定化を機に、農地利用状況をより正確に把握 (例:GPSの全国的な活用) 不適正な利用を一定期間以上にわたって改めない所有者に 対する厳正な対処(例:都道府県知事の判断により貸し付け を実施する仕組みの本格的な運用、固定資産税の引き上げ) 他者に農地を託すことに対する心理的な 抵抗感が所有者の間でみられる 機構が農地の貸付先を選定する際に、農地の所有者および その周辺の農業関係者の意向をできるだけ反映する仕組み を構築する 不適正な農地利用(例:耕作放棄) に対する抑制措置が乏しい (資料)みずほ総合研究所作成 4
第3に、他者に農地を託すことに対する所有者の心理的な抵抗感については、公的機関である機構が 直接の取引相手となることで多少は弱まるとみられるものの、機構が農地の所有者およびその周辺の 農業関係者の意向をできるだけ反映して最終的な貸付先を決定する仕組みをつくれば、状況をさらに 改善できると期待される。この仕組みをつくる具体的な方法としては、各地域において最終的な貸付 先の希望条件をとりまとめたうえで、これを機構が貸付先を選定する際の参考情報として活用するこ とが考えられる。