(1)(2)今回の目次
今回と次回は弱い相互作用
弱い相互作用の特徴が実験でどのように検証されたか
レプトン数の保存とβ崩壊
パリティ非保存
ベクトルー軸性ベクトル(V-A)型相互作用
様々な崩壊
ミューオン
π中間子
WとZ粒子の導入
2
(3)レプトン数の保存
Le = +1 for νe, e
-Lμ = +1 for νμ, μ
-Lτ = +1 for ντ, τ
-レプトン数はそれぞれの香りで独立に保存
反粒子のレプトン数は-1
例:
3
崩壊モード 寿命(sec) 崩壊比
890 100%
2.6 x 10-10
64%
2.6 x 10-8
100%
同上 1.2 x 10-4
n
→ pe−ν
Λ → pπ−
π+
→ µ+ν
µ
π+
→ e+ν
e
n(0)
→ p(0) e−(+1) ν(−1)
(4)β崩壊
β崩壊では反応の前後でエネルギーが保存していない(よう
に見えた)
同時期に発見されたα崩壊、γ崩壊では保存
1931年、パウリによるニュートリノ仮説
1935年、フェルミによる最初の弱い相互作用理論
電磁相互作用との類推からベクトル型相互作用と予想
Gは実験で決めるべき結合定数
4
n
→ pe
−
ν
M = G(upγµun)(ueγµuνe)
J
µN
J
µe
p
n
ν
e e−
(5)パリティ非保存
で ならパリティ保存
τ-θパズル
τ,θともにスピン0、質量、寿命も同じ
終状態のパリティ正
終状態のパリティ負
同一粒子に見えるτとθでパリティが破れている?
T.D.LeeとC.N.Yangが弱い相互作用ではパリティ保存を示
す実験事実がないことを指摘
電磁相互作用と強い相互作用ではパリティは保存
5
ψ(−→r )
→ ψ(−−→r )
L → L�
L = L�
τ
→ ππ
θ
→ πππ
P = (P1 · P2 · ...)(−1)J
Pπ · Pπ · (−1)0 = (−1)2
P
π · Pπ · Pπ · (−1)l+L = (−1)3
· (−1)even
ベクトル和がゼロ l=L
(6)Wuの実験(1957年)
スピン はパリティ変換に対して正、運動量 は負
という観測量があればパリティは破れている
0.01Kまで60
Coを冷却
外部磁場をかけて60
Coの各スピンを整列
実験から α= -1 0.1 パリティは最大限破れている
6
σ p
σ
· p
60
Co(J = 5)
→ 60N i∗(J = 4) + e− + νe
I(θ) = 1 + α(σ · p
E )
∝ 1 + αP v cos θ P: 60Coの偏極度
θ −→J
60
Co
e −→
p
(7)角運動量保存を考えると…
パリティ非保存が意味しているのは、弱い相互作用に寄与
するのは常に
実際に様々なβ崩壊でヘリシティを測定すると
7
粒子
ヘリシティ -v/c v/c -1 +1
z軸
+
60
Co 60
Ni*
Jz=5 Jz=4
ν
e
e−
J
z = +1/2
J
z = −1/2
e−
L, ν
R
e+
e− νe ν
e
(8)V-A型相互作用
以上の観測事実を説明するためには
であればよい
8
弱い相互作用はVではなくV-A型
u = uL + uR = 1 − γ
5
2 u +
1 + γ5
2 u
ueγµ(1 − γ5)uν
e = ue
1 + γ5
2 γµ(1 − γ5)uνe + ue
1 − γ5
2 γµ(1 − γ5)uνe
= u
e 1 + γ5
2 γµ(1 − γ5)uνe
= u
eLγµ(1 − γ5)u
νe
=0
←左巻きしか反応に寄与しない
M ∼ √G
2(upγµ(1 − γ
5
)u
n)(ueγµ(1 − γ5)uν
e)
(9)ミューオン崩壊
崩壊幅を考える
を思い出すと
9
µ−
→ e−ν
µν
e µ(p)
e(q)
ν
e(q�)
νµ(p�)
dΓ = 1
2E
C |M|2
d3pA
(2π)32E
A
d3pB
(2π)32E
B
(2π)4
δ4
(p
C − pA − pB)
dΓ = 1
2p0 |M|
2 d3p�
(2π)32p
�0
d3q
(2π)32q0
d3q�
(2π)32q
�0 (2π)
4
δ4
(p − p�
− q − q�)
M = iG√F
2 (uνµγµ(1 − γ
5
)u
µ)(ueγµ(1 − γ5)uν
e)
(10)計算すると…
質量mの粒子が崩壊したとき、崩壊で生成された粒子の最大
エネルギーはm/2なので とする
なので、寿命と質量の測定からGFを決定できる
ミューオン崩壊もβ崩壊も同一起源の相互作用らしい
10
dΓ = G
2
F m
π3 Eνe(
m
2 − Eνe)dEνe dEe
dΓ = G
2
F m
16π3 xνe(1 − xνe)dxνedxe
E
i = m
2 xi, 0 < xi < 1
E
νe + E
e + E
νµ = m x
νe + x
e + x
νµ = 2
∴ xνe + xe ≥ 1
Γ = 1
2
�
dΓ = G
2
F m5
192π3
Γ = �/τµ
x
νe
x
e
1
1
GF = 1.15 × 10−5(GeV −2)
G
β = (1.14730 ± 0.00064) × 10−5(GeV −2)
(11)π中間子の崩壊
なので
のはず
もし不変振幅Mが同じなら、違いはここ(↓)だけ
ところが測定値は…
11
R
≡ Γ(π
−
→ e−
ν
e)
Γ(π−
→ µ−
νµ) = (1.218 ± 0.014) × 10−4
m
µ− ∼ 106 MeV
m
π− ∼ 140 MeV
dΓ = 1
2E
C |M|2
d3pA
(2π)32E
A
d3pB
(2π)32E
B
(2π)4
δ4
(p
C − pA − pB)
m
e− ∼ 0.5 MeV
Γ(π−
→ e−
ν
e) >> Γ(π− → µ−νµ)
(12)π中間子の崩壊
なので
のはず
もし不変振幅Mが同じなら、違いはここ(↓)だけ
ところが測定値は…
11
R
≡ Γ(π
−
→ e−
ν
e)
Γ(π−
→ µ−
νµ) = (1.218 ± 0.014) × 10−4
m
µ− ∼ 106 MeV
m
π− ∼ 140 MeV
dΓ = 1
2E
C |M|2
d3pA
(2π)32E
A
d3pB
(2π)32E
B
(2π)4
δ4
(p
C − pA − pB)
m
e− ∼ 0.5 MeV
Γ(π−
→ e−
ν
e) >> Γ(π− → µ−νµ)
π−
e− or µ−
ν
e or ν
µ
角運動量保存のためにe-
あるいはμ-
はヘリシティ正が必要
しかし、V-A型の弱い相互作用では右巻きはwrong helicity状態
(13)Wrong Helicity State
Wrong helicity の割合は 1-v/c
kinematics を計算してみる(π静止系)
12
Γ ∝ |M|2
dρ
f ∝ |M|2
d3p
dE ∝ |M|
2
p2 dp
dE ∝ (1 −
v
c )p
2 dp
dE
m2
π = (E
l + E
ν)2
− (−→p
l + −→p
ν)2
|−→pl | = |−→pν| ≡ p
−
→
pl = −−→
pν
m
π = E
l + E
ν =
�
p2 + m2
l + p
1 − v
c = 1 −
p
El
= 2m2l
m2
π + m2
l
p = m
2
π − m2l
2mπ El =
m2
π + m2
l
2m
π
dE
dp =
dEl
dp +
dEν
dp =
p
El
+ 1 dp
dE =
El
E
l + p =
m2
π + m2
l
2m2
π
Γ = m2l
4
(m2
π − m2l )2
m4
π
(14)π→e /π→μ Ratio
質量を入れて崩壊幅の比を計算すると
となり、観測値と一致する
K中間子でも同様の考察が可能
13
Rcalc =
Γ(π−
→ e−
ν
e)
Γ(π−
→ µ−
νµ) = (
me
m
µ )
2
( m2π − m2e
m2
π − m2µ
)2
= 1.23 × 10−4
Rcalc =
Γ(K−
→ e−
ν
e)
Γ(K−
→ µ−
νµ) = (
me
m
µ )
2
( m2K − m2e
m2
K − m2
µ
)2
= 2.5 × 10−5
Robs = (2.43 ± 0.14) × 10−5
弱い相互作用がV-A型結合であることを支持
左(右)巻き粒子(反粒子)が選択的に反応に寄与
(15)W粒子の導入
フェルミ理論の破綻
断面積を実際に計算すると
(sは重心系エネルギーの2乗) 発散してしまう
そこで…
β崩壊、あるいはμの崩壊では なので
フェルミ理論は真の理論の低エネルギー極限だった
(標準モデルも真の理論の低エネルギー極限)
14
σ = G
2
F
π s
µ(p) e(q)
ν
e(q�)
νµ(p�)
W (k)
k2
∼ m2
µ << m2
W
M =
8mig
2
W
(u
νµγ
µ(1 − γ5)u
µ)(u
eγµ(1 − γ5)u
νe)
M = ( √ig
2)
2
(u
νµγµ
(1 − γ5)
2 uµ)i
−gαβ + k
mα2kβ
W
k2
− m2
W + i�
(u
eγµ (1 − γ
5)
2 uνe)
(16)結合の強さ
β崩壊の式と比べると
真の結合定数はg
そもそもGFの単位は (GeV)-2
β崩壊、μ、π崩壊などで 弱く 見えるのはmWが有限
かつ、重いため
弱い力の到達距離は 1/mW
電磁気力の到達距離は無限大
k(=運動量遷移みたいな量)が大きくなると
電磁気力の強さ 弱い相互作用の強さ
15
g2
8m2
W
= G
√F
2
(∆t ∼ �/∆E)
(17)余談 ニュートリノの断面積
から1MeVのνの断面積は
参考:核子・核子散乱断面積
1回の散乱までに進む平均の距離(平均自由行程)
典型的な物質として水を考えると 6x1023
/18 個/cm3
平均自由行程 1017
cm = 1012
km
ニュートリノが物質と散乱するまでに地球を
∼1億個通過する
16
σ = G
2
F
π s
σN N ∼ πr
nucleon2 ∼ π(10−13cm)2 ∼ 10−26 cm2
rnucleon ∼
1
mπ ∼ 1.4 × 10
−13
cm
1
N/cm3 σcm2
σ
∼ 10−41 cm2
(18)弱中性カレントの発見
νμ-e 散乱は弱中性カレント
の証拠(Zの間接的証拠)
1973年 CERNでの
Gargamelle実験
W,Zを予言するGWS模型
は1967年に発表
17
e−
e− e− e− e− e−
ν
e
ν
e
ν
e ν
e ν
µ ν
µ
W Z Z
(19)W , Z
0
の発見
歴史的背景
電弱統一理論であるGWS模型による功績でGWSが
ノーベル賞受賞(1979)
要のWとZはその時点で未発見
当時の最高エネルギーは米国フェルミ研究所の陽子
加速器 E=300GeV
ルビアが陽子・反陽子衝突実験を提案
CERNが承認 固定標的実験用陽子加速器SPSを改造
1本のビームパイプを使い陽子•反陽子衝突
反陽子を加速器に使うのは難しい ⇐ 反陽子は陽子を
標的に入射して作られる2次粒子なので、運動量、
位相がバラバラ
18
√
s = �2m
pE
∼ 25 GeV
√
s = 2E
(20)W , Z
0
の発見(続き)
1983年 陽子•反陽子衝突 270+270GeV
19
u + d
→ W−
→ e− + ν
e
→ µ− + νµ
u + d
→ W +
→ e+ + ν
e
→ µ+ + νµ
uu or dd
→ Z0
→ e+e− or µ+µ−
MW = (81 ± 5) GeV
M
Z = (95.2 ± 2.5) GeV
GWS模型の予言と一致
ルビアとヴァン・デ・メーアがノーベル賞受賞
(21)今回のまとめ
弱い相互作用の特徴
左(右)巻き粒子(反粒子)が反応に寄与する
相互作用はV-A型
フェルミ理論は真の理論(GWS模型)の低エネルギー
近似だった
弱い相互作用が 弱い のは力の媒介粒子が重いから
20