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2 4 U U x, y U 1 x, y x y x x, y U 5, 6 7 S S x x x P P 2 x P x x x U S P

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0. 本稿の目的 哲学史において,何らかの対象について,それが唯一なものであることを主張する議論が いくつかある。たとえば,神について,それが唯一の存在者であることを証明しようとする 試みがある1)。現代哲学の議論でも,固有名の意味に関する議論2)や,特殊者(particular) と言語表現の主語との関係に関する議論などがある3)。 哲学的議論から離れても,日常的な場面で「あなたは唯一無二の親友だ」という発言に見 られるように,われわれは「唯一である」という言葉をよく用いている。 では,うえで挙げたような,さまざまな種類の対象について言われる「唯一である」とい う述語は,どのような意味なのだろうか。それらは,すべて同じことを意味しているのだろ うか,それとも,異なることを意味しているのだろうか。 本稿の目的は,ある特徴をもつ個体を表す表現に述語づけられる「唯一である」という述 語がどのような意味なのかを明らかにすることである。第1 節では,言語使用の場面で用い られる,2 つの主要な唯一性の意味を明確にし,個別化についての議論において重要な概念 である質的唯一性がどのようなものなのかを明らかにする。第2 節では,3 節での議論の準 備として,個体のもつ特徴という概念を導入する。第3 節で,個体が唯一の対象となる特徴 には,どのようなものがあるのかを考察し,少なくとも,相違性,個体性,最上級性,そし て非同型性という4 つの特性があるということを示す。 1. 「唯一である」という述語で言われることの二つの解釈 「唯一である」という述語には,ただ一つだけの使用の仕方があるのでなく,複数の使用 の仕方がある。ここでは,「唯一である」という述語の意味と考えられるものについて,異 なる二つの意味を挙げ,そのうえで,個体が個別化される条件となる「唯一性」の意味を明 らかにする。 議論に先立って,説明の中で用いるいくつかの用語を導入しよう。文について,それで言 われる内容の真偽が確定する文を「言明」と呼ぼう。次に,「唯一である」という言葉が述

佐 藤 邦 政

唯一性という概念についての分析

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語づけるものは,何らかの対象の名前であると見なし,それを対象の「名前」と呼ぼう。こ こでは,名前の中に「神」という名前も含めることができるようにしたい。ところで,神と いう対象が個別者であるのか,それとも普遍者であるのか,あるいは,それは形をもつのか, それとも流体であるのか,といった神についての特徴づけは,哲学者によって異なる4)。そ こで本稿では,「唯一である」という述語が述語づけられうるかどうかを,その名前の表す 存在者の種類による区別に基づくとする,のではなく,その対象が一つの名前で名付けられ うるかどうかという言語表現による区別に基づくものとする。そうすることで,たとえば, 神の存在論的身分の問題を考えることなく,その唯一性について考察することができる。ま た以下の議論では,名前で表されうるものを「個体」と呼ぼう。今後は,厳密な論証のため に必要な限りで,いくつかの記号を必要に応じて,適宜,導入する。 唯一性の意味を考えるために,いま,猫のコマチについて,「コマチは唯一である」とい う言明を例としよう。「コマチは唯一である」という言明の一つ目の解釈は,猫全体の中で 「ある猫がコマチと同一であるならば,コマチ以外のどのような猫もその猫と同一ではない」 というものである。 いま,個体全体を表す記号を「U」とし,U を変域とする任意の個体を代入できる変数を「x」, 「y」とする。猫全体を「U 」という記号で表すとすると,うえの意味で「コマチが唯一である」 とは, (1 ) 任意のx, yについて,xがコマチと同一であるならば,コマチ以外のyはxと同一で ない (x, yの変域は猫全体U ; コマチ )5) , ということである6) 「コマチは唯一である」という言明についての二つ目の解釈は,「ある性質に関して,コマ チはその性質をもつただ一匹の猫である」というものである。たとえば,すべての猫の中で もっとも逃げ足が速いという性質に関して,「そのような性質をもつのはコマチただ一匹で ある」という場合がある。 うえで言及した「性質」は個体に関係するものであり,関係付けられる個体の特徴を表し ている7)。いま,このような個体に関係付けられる性質すべてを集めた性質全体を「S」と表し, S の中の任意の一つの性質を代入できる変数を「Φ」という記号で表す。そして,任意の個 体x と性質Φについて,「x がΦをもつ」ということを「Φ(x)」という記号で表すことに する。 いま,「逃げ足がもっとも速い」という性質を表す述語を「P」と表すと,「コマチは逃げ 足がもっとも早い」ことは「P(コマチ)」と表される。そして,逃げ足のもっとも速いと いう性質に関して,「そのような猫はコマチただ一匹である」ということは, (2 ) 任意のxについて,P(x)ならば,xとコマチは同一である (xの変域は猫全体U ,諸性質全体S; コマチ , P )

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ということになる。 コマチという具体的事例から離れ,この意味での唯一性を一般的に表現する。 いま,特定の個体の名前を「a」とすると,諸性質全体の中にある特定の性質に関して,「a がそのような性質をもつ唯一のものである」とは, (3 ) 性質Φがあり,かつ,x がΦをもつならば,x は a と同一である (xの変域はU,Φの変域はS; a ), ということである。これを「質的唯一性(qualitative uniqueness)」と呼ぼう。 うえで挙げた「唯一である」という述語の二つの解釈はどちらも,「唯一である」という 述語が日常的に使用されるときに意味されるものだろう。このことから,「唯一である」と いう述語には,少なくても,二つの解釈が可能であると言える8) うえの二つの解釈のうち,以下で扱うのは質的唯一性とする。その理由は,本稿で「唯一 性」の意味を明確にする目的は,個別化の原理の議論の基礎づけを与えることにあり,個別 化の議論において用いられるのは質的唯一性であるからである。 2. 個体のもつ特徴について  本節では,うえで述べた性質を,さらに詳しく扱う。個体が質的に唯一となる場合は, その個体が性質をただ一つもつという場合に限られない。たとえば,コマチと仲良しの猫の ミータが,ただ一匹のオスの三毛猫であるとしよう。「オスである」という性質を「Q」,「三 毛である」という性質を「R」と表すとすると,オスの三毛であるという性質に関してミー タが唯一であるとは「オスである三毛はミータただ一匹である」,すなわち, (4 ) 任意のxについて,Q(x)かつR(x)ならば,xとミータは同一である (xの変域はU ; ミータ , Q , R ), ということである。この例でミータを唯一とするのは,一つの性質ではなく,複数の性質の 組み合わせ,ないし複数の性質の集合である。このように,個体を唯一とするものは,一つ の場合も含めた,複数の性質の集合であると言える。 そこで,特定の個体が複数の性質をもつことで唯一であるという場合でも,その複数の性 質をまとめて,一つの特徴と見なすことができるようにする。 いま,諸性質全体S の中から,いくつかの性質を集めた性質の部分集合をつくり,その ような性質の部分集合全体のことを「P(S)」で表す。たとえば,「オスである」という性 質を「Q」と表し,「三毛である」という性質を「R」と表すと,Q と R が属している集合 A はP(S)の一つの部分集合である。 P(S)の各部分集合のことを「特徴」と呼び9), P(S)を「特徴全体」と呼ぶことにする。 特徴と,特徴に属している性質について,「特徴F に性質 X が属している」ことを「X ∈ F」 という記号で表すとすると,具体的な特徴A について,「Q, R ∈ A」と表記することができ る。同様に,逃げ足がもっとも早いという特徴は,「逃げ足がもっとも早い」という性質P

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をもつ特徴B であり,「P ∈ B」という表記で表せる。 このような特徴という概念を導入することで,個体が性質をただ一つもつような場合だけ でなく,複数の性質をもつことで唯一である場合も扱うことができるようになる。 次に,個体が「特徴をもつ」とは,どのようなことなのかを規定する。ここでは,任意の 個体について,個体が「特徴をもつ」とは「特徴の要素となる性質すべてをもつ」こととする。 うえで挙げたミータを例としよう。ミータがオスの三毛であるという特徴は,「オスである」 かつ「三毛である」という二つの性質の集合であるから,ミータが「特徴A をもつ」とは,ミー タが「(特徴A の要素である)Q および R をもつ」ことである。 このことを一般的に表現しよう。任意の特徴F に関して,任意の個体 x について「x が F をもつ」ことは「x が,F に含まれる性質すべてをもつ」ことである。以下では,「x が特徴 F をもつ」ことを「F(x)」と表記する。 特徴という概念を用いて,具体的に,オスの三毛であるミータが唯一であることを表現し よう。オスの三毛であるという特徴A に関して,ミータが唯一であるとは,「オスの三毛で ある特徴をもつ猫はミータただ一匹である」,すなわち, (5 ) 任意のxについて,A(x)ならば,xとミータは同一である, ということであり,同様に,逃げ足がもっとも早いという特徴Bに関して,コマチが唯一で あるとは,「逃げ足がもっとも早い特徴をもつ猫はコマチ一匹である」,すなわち, (6 ) 任意の x について,B(x)ならば,x とコマチは同一である, ということになる。 ミータのような特定の事例から離れ,特徴による唯一性を一般的に表現する。特徴による 唯一性とは,「ある特徴があり,その特徴をもつ個体はただ一つである」,すなわち, (7 ) F があり,任意の x, y について,F(x)かつ F(y)ならば,x と y は同一である (x, yの変域はU,Fの変域はP(S)), ということである。 では,特徴がどのようなものであるとき,その特徴をもつ個体は唯一の対象であることに なるのだろうか。特徴に属している性質によっては,特定の特徴をもつ個体がただ一つで あるということは,現実と照らし合わせると不自然である場合がある。たとえば,言明(6) において,特徴B に属す性質が「もっとも逃げ足が速い」という性質ではなく,「逃げ足が そこそこ早い」という性質であった場合,その言明は,すべての猫の中で「逃げ足がそこそ こ早いという猫がただ一匹しかいない,そして,その猫はコマチである」ことを意味するこ とになる。しかし,それは現実的には不自然だろう。では,それをもつことで,その個体を 唯一とする特徴とはどのようなものだろうか。この問題を次節の主題としよう。 3.  個体を唯一とする特徴 特徴全体の中から,その特徴をもつことで個体が唯一の対象となるような特徴とはどの

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ようなものかを明らかにしよう。まず,「特性(character)」という用語を導入する。特徴 F の特性とは,特徴全体の中で,いくつかの特徴が有する性質のことであるとする。 では,個体x が特徴 F をもつことで唯一の対象として個別化されるとき,その個体 x が 唯一であるのは,その個体のもつ特徴F がどのような特性を有することによるのだろうか。 私見では,そのような特性として,少なくとも次の4 つを挙げることができる10) (3 −1) その個体に特有の,諸性質の組み合わせからなる (x以外の任意の個体yがもたないような,諸性質Φ1,Φ2,…,Φnの集合である)。 (3 −2) その個体に特有の性質がある (x以外の任意の個体yがもたない性質Φがあり,その性質Φが属す集合である)。 (3 −3) 性質Φがあり,その性質の度合いの最も高いものが含まれる (ある性質Φがあり,Φ〈1.0〉となる性質が属す集合である)。 (3 −4) その個体に,特有の範疇に含まれる性質がある (x以外の任意の個体yがもたない特有の範疇Mがあり,Mに属す性質Φがある)。 (xの変域は個体全体U,Φの変域はS,Mの変域はW) 特徴がうえの4 つの特定の特性のいずれかをもつことにより,その特徴をもつ個体は唯一の 対象であることになる11)。ここでは,「度合い」,「範疇」といった説明を要する用語が用い られているが,以下で各特性を詳しく説明する中で,その意味を明らかにする。また,以下 の議論では個体領域を人物と解釈する。そのほうが身近な事例によって,説明の理解の助け になると思われるからである。 3.1. 相違性 (3 −1)の説明のために,具体的事例で考えてみよう。たとえば,ソクラテスがいて,彼 は唯一の対象として個別化されているとする。どのような特徴の在り方をすることによって, ソクラテスは唯一の対象として個別化されるだろうか。その一つは,彼のもつ特徴に属して いる性質の組み合わせによるものである。たとえば,著作を残していない哲学者をピックアッ プすると,そのような人物はソクラテスただ一人であるという場合が考えられよう。いま, 人物全体を「U」,「哲学者である」という性質を「L」,「著作を残していない」を「M」と いう記号で表記する。性質L と性質 M が要素である集合を特徴 C とすると,著作を残して いない哲学者という特徴に関して,ソクラテスが唯一であるとは,「著作を残していない哲 学者はソクラテスだけである」,すなわち, (8 ) 任意の x について,C(x)ならば,x とソクラテスは同一である, ということである。 うえのソクラテスのような仕方で,個体を唯一なものとする特徴の特性とは,次のように

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なる。唯一の対象として個別化される個体x があるとする。このとき,その個体 x の特徴が, その個体以外の任意の個体がもたない諸性質の組み合わせからなる,すなわち,その特徴が (9 ) x以外の任意の個体yがもたないような,諸性質の組み合わせである (x, yの変域はU,Φ1,Φ2,…,Φn の変域はS) という特性をもつ12) うえのような特徴に対する特性を相違性(diversity)13)と呼ぼう。「相違的(diverse)であ る特徴をもつ個体が唯一である」とは,  (10) Fが相違的である, かつ,任意のx, yについて,F(x)かつF(y)ならば,xとyは同一である (x, yの変域はU, Fの変域はP(S)), ということである。著作を残していない哲学者ソクラテスのもつ特徴が相違的であるとき, ソクラテスはそのような特徴をもつ唯一の人物であることになる。 3.2. 個体性 (3 −2)の説明も具体的事例から始めよう。ソクラテスがいて,やはり,唯一の対象と して個別化されているとする。しかし,今度は,彼の特徴に特有の性質があることによっ て個別化されている。ソクラテスに特有な性質の一例として,ソクラテスである(being Socrates)という性質,すなわち,ソクラテス性(Socrateity)があると仮定しよう14)。ソ クラテス性を要素として含む特徴をもつとき,その個体はただ一人,ソクラテスとなる。 このような特徴についての一般的な特性は次のようになる。個体のもつ特徴が,「特有の 性質をもつ」,すなわち, (11) x以外の任意の個体yがもたない性質Φがあり,その性質Φが属す集合である (x, yの変域はU,Φの変域はS), という特性である。 うえのような特徴に対する特性を個体性(individuality)15)と呼ぼう。「個体的であるよう な特徴をもつ個体a が唯一である」とは, (12) F が個体的であり, かつ,任意のx, yについて,F(x)かつF(y)ならば,xとyは同一である, ということである。さきほどのソクラテスが,ソクラテス性のような特徴をもつなら,その 特徴は個体的である。個体的である特徴をもつソクラテスは唯一であることになる16) 3.3. 最上級性 次に,(3 −3),すなわち,特徴が「ある性質に関して,その性質の度合いが最も高いもの が属している」とはどのようなことなのかを見ていこう。 まず,「性質の度合い」について説明する。いま,イデアを追求したプラトンは優れた善

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性をもつ哲学者であったのに対し,アリストテレスは生物にばかり関心があって,善に興味 がなく,ほどほどの善性であったとしよう。「善である」という性質は,個体がそれをもつ かどうかだけでなく,個体がどの程度,その性質をもつのかも変わる。このような違いを扱 えるように,いま,一つの性質に関する,個体のもつ程度を「性質の度合い」と呼ぼう。性 質Φに関して,「Φをx という程度にもつ」ということを「Φ〈x〉」と表し,変数 x には 0 ∼ 1.0 の数値が入るとする。この数値は,その性質をもつ度合いに応じて,もっとも多く もつ場合に1.0 という数値,全くない場合には 0 という数値を取ることとする。たとえば, 「善である」という性質N について,「優れた善である」という性質は N〈0.8〉,「ほどほどの 善である」という性質はN〈0.5〉というようになる。性質に度合いという観点を導入すると, 度合いの観点を考慮して扱うことのできる性質X については,{X〈0.5〉,X〈0.8〉,X〈1.0〉} の ように,より細かく性質が区分される。度合いは,その性質の最も高いものを1.0 とするこ とから,性質X についての度合いの程度がただ一つである場合,性質 X は X〈1.0〉と変換さ れる。性質に関して,度合いを考慮する必要がある場合,このように度合いの情報を入れた 表記を用いることにする。 いま,イデアを追求してきたプラトンが,あるとき最善であることになり,性質N〈1.0〉 を得たとしよう。このような性質を要素として含む特徴をもっている人物は,ただ一人で あり,その人物がプラトンである。この場合,「最善である人物がプラトンただ一人である」 とは, (13) 任意のxについて,N〈1.0〉(x)ならば,xとプラトンは同一である (x の変域は U; プラトン , N〈1.0〉), ということである。 このような特徴をもつことによる個体の唯一性に関する別の事例として,ライプニッツ による,現実世界の選択が挙げられる。ライプニッツによれば,現実世界について,それが 他の可能世界ではなく,唯一の世界として個別化される根拠は最善性にある17)。このこと は,うえの定式化における「人物の集合」を「世界の集合」とし,「プラトン」を「現実世 界」とすることで,「最善という性質をもつ世界はただ一つであるが,それが現実世界である」 と表現することができる。 「最善である」という性質のように,性質Φがあり,その性質に関する最も度合いの高い 性質をもつ特徴についての一般的な特性は以下になる。すなわち,個体x の特徴について, (14) 性質Φがあり,その最も度合いの高い性質Φ〈1.0〉がある (x の変域は U, Φの変域は S), という特性である。この特徴に対する特性を最上級性(superlativity)18)と呼ぼう。「最上級 的であるような特徴をもつ個体が唯一である」とは, (15) F が最上級的であり, かつ,任意の x, y について,F(x)かつ F(y)ならば,x と y は同一である,

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ということである。 3.4. 非同型性 (3 −4)について明らかにする。これまでと同様に,唯一の対象として個別化されている 個体があるとする。ここでは,その個体が個別化される根拠は,その個体がもつ特徴が,「そ の個体以外の任意の個体がもたない,特有の範疇に含まれる性質がある」という特性を有す ることである。本節では,この特性がどのようなものなのかを明らかにする。 そのために行う議論は,以下の3 つの段階を踏みながら行う。すなわち,(1)「グラフ」 という概念を導入し,「一般項」を説明する,(2)図中における一般項に対応する「範疇」 という概念を導入する,(3)個体のもつ特徴が「非同型的である」とは,どのようなことか を明らかにする。 まず,(1)を見てみよう。下図 1 を見てみよう。図における,「○」という項が個体(人物) を表し,アルファベット小文字で個体名を表し,色付きの「●」や「■」という項は性質を 表し,アルファベット大文字で性質名を表すとする。個体と性質を結ぶ直線は,「個体が性 質をもつ」という,個体と性質との関係を表すとする。特定の個体に関して,その個体と諸 性質とが直線で結ばれたものを「グラフ」と呼ぼう。下図1,2 において,「p」はプラトン,「a」 はアリストテレス,「w」はウィトゲンシュタインを表し,グラフ 1 は,「プラトンが優れた 善であるという性質N〈0.8〉をもつ」ことを表し,同様に,グラフ 2 は,「アリストテレスが 性質N〈0.5〉をもつ」,グラフ 3 は,「ウィトゲンシュタインが性質 Z をもつ」ことを表す。 グラフ1, 2 とグラフ 3 との違いに着目しよう。その違いは,N〈0.8〉,N〈0.5〉という性質が 添えられる項は「●」であり,性質Z に添えられる項は「■」であることにある。 いま,同じ項が添えられる性質を集めたものを「一般項」と呼び,「P」,「Q」ように表す としよう。たとえば,N〈0.8〉,N〈0.5〉は P,Z は Q に含まれるとする。 この二つの一般項による区分で,図1 のプラトンを含む三名は,以下の図 2 のように表さ れる。 一般項という概念によって,諸性質を「P」,「Q」のように,分類できるようになる。「P」, 「Q」のような一般項全体を「W」と表記することにする。 p a w Z N〈0.8〉 N〈0.5〉 図1 グラフ1, 2, 3  図2 P p a w Z N〈0.8〉 N〈0.5〉 Q

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いま,唯一の対象として個別化されている個体x があるとする。個体 x の特徴が「特有 な一般項M をもつ」とは,その特徴が次のような特性,すなわち, (16) x以外の任意の個体yがもたない特有の一般項Mがあり,Mに属す性質Φが属す (x, yの変域はU,Φの変域はS,Mの変域はW), という特性をもつことである。うえの図2では,三人の人物(全体)の中で,ウィトゲンシュ タインは残りの二人にはないQ という一般項をもち,そこに含まれる性質 Z をもつ。そのよ うな特徴に関して個別化されるのはただ一人であり,うえの事例では,その人物がウィトゲ ンシュタインである。 次に(2)に移ろう。図で表されていることを表現できるよう「範疇」という概念を導入する。 範疇とは,個体のもつすべての諸性質全体S をある分類の仕方にしたがって区分したうえ で集められる諸性質の集合とする。 うえの定義から,図中において「一般項」に対応するものを「範疇」と呼ぶことができる。 たとえば,図2 で,プラトンのもつ N〈0.8〉とアリストテレスのもつ N〈0.5〉が「P」という 一般項で括られている。範疇という概念を用いると,このことは,「N〈0.8〉と N〈0.5〉が範疇 P に属している」と表現することができる。同様に,図中で「Z という性質が Q という一般 項で括られている」ことは,「性質Z が範疇 Q に属している」ということである。 このように,図中で一般項とされたものを範疇に対応させ,「一般項に括られている」こ とを「範疇に属している」ことであるとする。範疇全体は一般項全体と対応するから,範疇 全体は,一般項全体を表す記号と同じ「W」と表記する。こうして,図中で表現される一般 項を,範疇という概念で表現することができる。 最後に,(3)に移ろう。いま,唯一の対象として個別化される個体 x があるとする。その 個体x の特徴が「特有な範疇 M をもつ」とは,その特徴が次の特性, (17) x以外の任意の個体yがもたない特有の範疇Mがあり,Mに属す性質Φがある (x, yの変域はU,Mの変域はW), という特性をもつことである。 ある個体x が唯一の個体として個別化されるのが,うえのような特性を有する特徴による とは,諸性質全体S の中で,どのような分類の仕方によっても,他の任意の個体 y がもた ないような,特有の範疇M(および,その要素となる性質 Φ)があり,個体 x がそのよう な範疇M をもつということである。他の個体がもたないような範疇をもつという特性の特 徴のことを「非同型性(non −isomorphic)」と呼ぼう。 うえのことから,「非同型的である特徴をもつ個体が唯一である」とは, (18) Fが非同型的であり, かつ,任意のx, yについて,F(x)かつF(y)であるならば,xとyは同一である ということである。たとえば,図2 で表現された人物全員の中で,ウィトゲンシュタインの 特徴は特有な範疇Qをもつから,非同型的である。そのような非同型的な特徴に関して,ウィ

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トゲンシュタインは唯一の人物である。 範疇という概念に関して次の留保を付けておく。ここで用いられる範疇がどのようなもの であるのかは,個別化される個体の解釈に応じて,変化する。たとえば,個別化される個体 が世界である場合,特殊な因果律をもつという意味で非同型的な世界であるかもしれない。 非同型性という特性の説明において必要なことは,範疇に対する具体的解釈が何かではなく, 範疇という概念がどのような機能を果たすのかについての説明である。 非同型的な特徴を有する個体がもつ特有な範疇とは具体的に何かという問題は哲学的な問 題として残される。たとえば,ゲーデルについて言われそうな「数学的直観がある」ことな どが候補に挙がるだろう。また,神学的議論に応用される場合,神は,非同型的対象として, カントが述べるような知的直観をもつ唯一の存在者であると見なされるかもしれない。さら に,うえのような「特殊な範疇がある」ということで言われていることを,われわれは理解 可能であるかどうかという問題も生じるだろう。このような問題は次のステップの問題,す なわち,個別化の形而上学の問題に属すことになる19)。 注 1) 代表的なものに,スピノザによる神の唯一性の証明がある[Spinoza, 1914]。 2) [Kripke, 1980]。 3) [Strawson, 1959]。特に,第二部「論理的主語」を参照。 4) 「神の存在論的証明」と呼ばれる証明の中で想定される「神」という名前で呼ばれる対象の特 徴づけはさまざまである。たとえば,アンセルムスによれば,普遍者であると想定される。 詳細については[清水哲郎,1985]や[植村恒一郎, 2000]を参照。 5) この表記法は [ 本橋信義, 2002] の中で導入される方法に基づく。括弧中において,セミコロ ン「;」の左側に,論理式に現れる自由変数の対象領域,右側に,その論理式に現れる特定の 個体,あるいは,性質が入る.「   」という記号は,特定の対象を指示するために用いられる。 この括弧に関しては,すでに一度,本文中に現れており,対象領域に関する誤解が生じるこ とはないと思われる場合には,省略する。 6) ここで「唯一である」とされるコマチが,猫全体の中にいることは前提されている。今後の議 論でも,唯一であるとされる個体が領域中にあることは前提される。 7) 述語表現の表すものが性質であるという前提は,存在論としては素朴であるが,本稿の目的 は「唯一性」の意味の規定にあるため,存在論にコミットしないこととする。 8) 英語の言語表現に関する,定冠詞をもつ単数形の名詞句の分析を,量化の分析を通じて行っ たのは[Russell, 1956]である。ラッセルによる分析の目的は唯一性の分析にあるのではない が,その内容は,唯一性に関する分析にも非常に参考になる。 9) この「特徴」に関して次の留保を付ける。それは,「特徴」に含まれるものは,個体のもつ性 質のみとする,ということである。たとえば,ミータとコマチについて,「ミータとコマチと は仲が良い」という関係のような,個体間の関係は含めない。個別化の問題の中で,個体間 の関係をどのように扱うかは難しい問題である(たとえば,個体間の関係に関するライプニッ

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ツの議論については[O’Leary - Hawthorne, J. and Cover, J. A., 1999]参照)。本稿における諸 個体は,それぞれが,いわばモナドのように互いに無関係であるとする。 10) 留意することとして,個体を唯一なものとする特徴はちょうど 4 つであるとは限らないこと に言及しておく。それは,これまでの個別化の議論や唯一性に関連する議論についての先行 文献を調査した中で,著者にとって重要と思われる特徴についての特性が4 つであったとい うことに過ぎない。それでも,個体を唯一とする特徴として挙げた4 つの性質を区別するこ とは,個別化や唯一性の議論において考慮されるべき重要な特性であると考えられる。 11)  特徴に関して,「唯一なものとして個別化される対象があるとき,その個体のもつ特徴は, うえに挙げた4つの特定の性質のいずれかである」ことが成り立つかどうかは別に考察を必要 とする。 12) 特徴のこのような特性によって,個体を唯一の対象と個別化する方法は,言語哲学における 固有名の意味する対象をいかに特定するのかという議論における,[Searle, 1958]の提示した 方法と類似点がある。 13) 本稿での「相違性」という用語は,[Castañede, 1975],[Gracia, 1988]によって用いられてい る同じ用語の意味を考慮しながら,独自に定義されている。 14) 通常,任意の個体xについての「xである(being x)」は「このもの性(haecceity)」と呼ばれる。 「このもの性」に関する哲学的問題については[Rosenkrantz, 1993]を参照。 15) 「個体性」という用語は[Gracia, 1988]を参照している。[ibid, p.19]によれば,「個体性」とは, 個体をそれであるところの個体(the individual it is)とする特徴である。

16) 個体が「個体的であるという特徴をもつ」ことは,言語表現においては,「固有名」の意味論 的機能を「個体を固定的に指示する機能を果たす」と見なすこととパラレルの議論になる。た だし,本稿での個体的という特性は,可能世界までは考慮されておらず,現実世界における 個体の固定性である。 17) [Leibniz, 1989]90節など参照。 18) 最上級性という用語は,「最上級の(superlative)」という言葉からの造語である。 19) 本議論の前提としていることについて。本論文では,唯一性という概念を,特徴 F の特定の 特性に基づいて定義し,4つに区別している。このような議論においては,性質の全体から成 るある構造が前提とされている。この構造がどのようなものであり,その中の性質がどのよ うなものなのか(たとえば,原始的性質と,原始的性質の論理的組み合わせによって得られ るような複合的性質との区別はあるのか,など)といった諸々の問題について,さらに別の 論文で検討する予定である。 参考文献

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参照

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