微生物定量法による必須アミノ酸の定量 : 第二報 牛肉各部位の必須アミノ酸の定量

一8一 _{食 物 学 会 誌 ・第17号}

微 生 物 定 量 法 に よ る必 須 ア ミノ酸 の 定 量

一 第 二報一 牛 肉 各 部 位 の 必 須 ア ミノ酸 の 定 量

高

橋

沢

大 野 富 士 子

井

口

和

代

The Microbiological Determination of essential Amino acid. Part2 The Determination of essential Amino acids in each part of Beef.

By Sawa,Takahashi, 牛 肉 は 肉 類 中 世 界 を通 じて 最 も 消 費 量 が 多 く,広 く 一 般 に 賞 味 され て い るが ,肉 質は赤褐 色を呈 し,組 織 が 硬 く弾 力 が あ り,栄 養 が 良 好 な もの は組 織 間 に 白 色 脂 肪 を來 雑 して いわ ゆ る 霜 降 肉 と云 わ れ 最 上 と され て い る。 化 学 的組 成 につ い てみ る と,水 分70∼77°o,蛋 白 質20%,脂 肪3∼10°oで 極 め て栄 養 価 の 高 い 蛋 白 質 給 源 で あ る 。 肉 牛 の 肉 質 は,種 類,産 地,年 令,飼 育 時 の栄 養 状 態,又 同 一 肉 牛 で あ って もそ の 体 の 部 位 で 異 な り,概 して 鞍 下 と轡 部 の 肉 が 最 上 とい わ れ,脚 及 び腹 の 肉 が 劣 る。 そ こ で 私 達 は 牛 肉 各 部 位,tongue(舌),11eck(首) chuck(肩),ribs(背),liver(肝 臓),aitchbone

(尻),Plate(ア バ ラ),round(腿 肉),tail(尾) 以 上 九 種 類 に つ い て 必 須 ア ミノ酸 の含 有 量 を 比 較 検 討 1)

した 。 実 験 方 法 は,本 誌 第16号 第 一 報 に 準 じ た 。

実 験 方 法

Kazuyo Inokuchi, Fuziko Ono.

牛 肉 の 各 部 位 の 肉 を 均 一 に す るた め ミンチ に し,一 昼 夜 工 一 テ ル で 脱 脂 後,60。Cの 送 風 乾 燥器 で約7時 間 乾 燥 を 行 な い,そ の 後 乳 鉢 で 粉 砕 し粉 末 試 料 と し た 。 次 に 試 料 を 遊 離 の ア ミノ酸 液 に す るた め 加水 分 解 を 行 な っ た 。 加 水 分 解 に は,酸 分解 とTryptophanの み ア ル カ リ分解 を行 な い40%のCystein塩 酸 塩 を 加 え た,方 法 は 各 試 料200mgを 秤 り硝 子 ボ ンベ に 入れ4N -HCI _{,ア ル カ リ分 解 は4N-NaOH各10m1を 加 え} 封 管 後,120。C,8時 間 加 水 分 解 を 行 な っ た 。分 解 後 液 を 蒸 留 水 に て 洗 出 し,活 性 炭 を 少量 加 え脱 色 炉 過 後 熱 水 で 游 紙 附 着 物 を 洗 い 炉 液 と合 わ せ,稀 アル カ リ でFH-4に 調 製 し試 料 液 と した 。 皿.定 量 方 法 1)菌 株 と定 量 範 囲 と培 養 時 間 日水 製 薬 株 式 会 社 よ り分 与 を受 け た 乳 酸 菌 を使 用 し た 。 以 下 表1の 三 種 を 用 い た 。 定 量 範 囲 は0∼40γ と し,培 養 時 間 は48時 間 か ら72時 間 培 養 した 。 1.試 料 調 製 表1 定量 用菌 株名 と定量範 囲,培 養時間 ア ミ ノ 酸 L-Arginine L-Histidine L-Th reonine L-lsoleucine L-Methionine L-Lysine L-Valine DL-Tryptophan レPhenylalanine' L-Leucine 菌 株 名 Storeptococcus faecalis R 〃 〃 Leuconostoc mesenteroidesP-60 〃 〃 Lactobacillus arabinoses 17-5 〃 〃 //

糧 糊

嘩 翻

0∼40γ 0∼ear O∼20γ 0∼20γ 0∼10γ 0∼30γ o-v20r O^-241 0^-5;` 0∼20γ 72 48 48 72 67 48 72 72 48 48 菅本学 講師 懸 本学 教務員

昭 和40年3月(1965) 2)保 存 培 地 と菌 株 の保 存 乳 酸 菌 の 保 存 を 行 な うた め に 日水 製 薬 の酵 母 エ キ ス を 主 成 分 と した 一 般 乳 酸 菌 保 存 用培地 に 炭酸 カ ル シ ウ ム を1°o加 え た も の を使 用 した 。 菌 株 の保 存 方 法 は 第 2) 1報 に 準 じ たQ 3)前 培 養 培 地 及 び 接 種 菌 液 の調 製 前 培 養 培 地 と して 同 じ く 日水 製 薬 の一 般 乳 酸 菌 接 種 用 培 地 を 使 用 した 。 そ の組 成 は 保存 培 地 か ら寒 天 のみ を 除 い た も の,又 接 種 菌 体量(inoculum size)は す べ て(1:10)の 菌 体 懸 濁 液 を 用 いた 。 4)基 礎 培 地 基 礎 培 地 はHenderson-Snel1の 培 地 を 要 時 調 製 し 常 に 新 鮮 な も の を 使 用 した 。組 成 は 表2の 通 りで あ る 。 表2Henderson-Snellの 培 地 組 成 試

薬

_{1腸 障}

薬

分量 ブ ドウ糖 クエ ン酸 ナ ト リウ ム 無 水酢 酸 ナ トリウ ム NH4 Cl K2 HPO4 Thiamine Riboflavin Pantotenicacid-Ca ピ リ ド キ ザ ー ル パ ラ ア ミ ノ 安 息 香 酸 Nicotinic acid Biotin Falic acid L-Tyrosine L-Cystine HCI-Histidine DL-lsoleucine DL-leucine 4.・9 4,09 0.29 0.69 1.ag 200]' 200r Zaor 40r nor Zoor 2r 2r 20mg 2Qmg 20mg 塩 類 溶 液 ア デ ニ ン 硫 酸 塩 グ ア ニ ン 塩 酸 塩 Uracil L-Proxine DL-Threonine L-Lysine L-Tryptophan L-Serine Glycocoll DL-Alanine acid L-Gulutamic acid L-Arginine L-Valine L-Meth,ionine

DL-Asprtic ,200m

40mg I、-Phenylala ni血e20mg 4cc 2mg 2mg 2mg 20mg 20mg 40mg 20mg 20mg 20mg 200mg b 200mg 40mg 20mg 20mg 20mg 5)接 種 と培 養 分 注 の 操 作 は 第 一・報 と同mac,培養 液量 は 内経14士1.3 mmの 定 量 用 試 験 管 を使 用,全 量2mlと し37°C士10C 48∼72時 間培 養 した 。 6)標 準 曲線 の 作 成 ・ 標 準 ア ミノ酸 溶 液 を横 軸 に0.05NNaOHの 滴 定 値 を 縦 軸 に 検 量 曲 線 を 求 め た 。 7)増 殖 度 測 定 及 び 試 料 の 分析 増 殖 度 の 測 定 に は 滴 定 法 と比 濁 法が あ るが,本 実 験 で は 滴 定 法 を 用 い た 。 培 養 終 了 後 コ ッホ 蒸 気 殺 菌 釜 に て10分 間 滅 菌 し菌 の 発 育 を 止 め,BTBとNRの 混 合 液 を 揖 示 薬 と して ・0・05N・NaOHで 酸 滴 定 を行 な った? 一 一9一 図1 Standard Curve

図2 L-Methionine Standard Curve

図3 L-ArgininHCi Sta血dard Curve・

一10一 _{食 物 学 会 誌 ・第17号} 次 い で 検 液 に つ い て 得 た 滴 定 値 を 標 準 曲線 に 挿 入 し て 試 料 中 の定 量 し よ うとす る ア ミノ酸 の 含 有 量 を 求 め,表3の 結 果 を 得 た 。 又 測 定 誤 差 を 少 な くす るた め 検 液 を3本 つ つ 用 意 し 更 に 試 料 の 測 定 値 が 他 の 要 素 に 影 響 され て い な い か, 又 実 験 の 精 度 を 確 め るた め に 各 試 料 の ア ミノ酸 の 回収 率 を 求 め た 。 表4の ご と くで あ る 。

図5 L-Lysine Stadard Curve

表3 生 試 料100mg中 の ア ミノ酸 含 有 量(mg%) ア ミ ノ 酸 1ネ ・ ク リブ ス 鋳 ン1チ ヤ ッ ク1 テ ル N-Arginine4) 1..ISOIeUCine5) L-Lysine L-HiStidine6> L-Metionine L-Valine L-Threonine DL・Tryptophan7) L-Phenyl alanine L-Leucine 0.971 0.95 1.571 1.19

o,s9

0.4s

O,54 0.48i

O.41.0.391

0.61!0.71. 2.051.93 0.0051 0.017 1.72i 1.77 0.991 0.90 11 .19 t 1.72 1.19 … o.50 0.43 0.88 2.111 10 .024' 1 1.42 1.14 ] 1.00 1.59 0.83 0.55 0.40 1:1 .. 0.002 0.68 1 o.7z 1.04 0.65 0.32 0.23 0.62 1.57 111: 1.36; 0.951 イ チ ボ フ。レ ー ト 0.94! 0.88

1.6811.71

1.081 0.87 0.59; 0.40

0.431 0.34

10 .631 0.67 1.971 1.84 0.021 0.007 0.711 0.44 1.221 0.99 ラ ウ ン ド1レ ・・一 1.25 2.44 1 1.21 0.75! 0.491 1.08 2.17 0.005 1.83' 1.13 !・: 1.27 0.97 0.43 0.38 !・ ・ 1.sa 111・ 1.95 0.95 表4 各 試 料 の 回収 率(00) 1ネ ・ ク リブス 惨 ン チ ヤ ッ ク テ ・レ1イ チ ボ L-Arginine L-lsoleucine L-Lysine L-Histidine L-Metionine L-Vaiine L-Threonine DL-Tryptophan L-Phenyl alanine L-Leucine 98.4 95.3' ユ1α ユ。2, ユ02i 94.8 1ao 97 iao 100'i I 100 99.3' 94 104, 102 100 102 100 100 100 99 103 96 100.5 90 98.7 98 1 97.7 100 98.7

1

101 96.2 100 98.6 102 100 100 95 96 100 Boa 94.1 97 102 97 99.5 99.5 ユ01「 97.7 10a! 1 100 ・ ・ 94 99 10g lOQ lao 100 100 103 プ レ ー ト 104 92.6 96 101 100 99 99 104 100 96 ラ ウ ン ドv・ ・一 100 94.5i 96 91 921 98.3 98.3 110 99 104 99.2 107.5 104 Zoo 95 104 10a 94 104 104 総 括 及 び 考 察 1)牛 肉 各 部 位tongue(舌),neck(首),chuck (肩),ribs(背),liver(肝 臓).aitchbone(尻) Plate(ア バ ラ),round(腿),tai1(尾),以 上 九 種 類 の 必 須 ア ミ ノ 酸 の 含 有 量 と 分 布 状 態 を,微 生 物 定 量 法 で 明 ら か に し た 。 2)次 に ア ミ ノ酸 量 の 多 い も の か ら,round, to-ugue, neck, liver, aitchl)one, ribs, chuck,

Plate, tai1でtongue,1iverが 以 外 に 多 く,一 ・般 に 美 味 と さ れ て い るround(mス)は ア ミ ノ 酸 量 も 多 量

で あ る事 が 解 っ た 。

3)ア ミ ノ 酸 量 の 多 い も の か ら列 記 す る とL-Thr-eonine, L-lsoleucine, L-phenylalanine, L-ie-ucine, L-Argi=nine, L-lysineで 約 半 量 しか 含 有 さ れ て い な か っ たL・Histidine, L-Methionine,又 極

昭 和40年8月(1965) ii_ 4)更 に 本 法 の 精 度 を 確 め るた め に 回収 率 を 求 め た 結 果93∼110%の 値 を 求 め た 。 5)米 国 農 務 省 編,食 品 ア ミノ酸含 有 量 表 とほ ぽ 同 程 度 の 値 を得 られ た 。 終 わ りに こ の研 究 の た め に種 々御 助 言,御 指 導 を賜 わ り ま した 平 先 生 並 び に,池 田 ひ ろ,大 橋 紀 子,大 崎 敬 子,熊 谷 偉 子 嬢iの御 協 力 に 感 謝 致 しま す 。 参 考 文 献 1)高 橋,松 本;本 誌13,(1993) 2)高 橋,井 口;本 誌16,(1994) 3)鈴 木 友 二,村 岡 三 郎;ビ タ ミン,ア ミノ酸 の 微 生 物 定 量 法 4)池 田 ひ ろ;本 誌,卒 業 論 文 要 旨集(1965) 5)大 橋 紀 子;本 誌 〃 6)大 崎 敬 子;本 誌 〃 7)熊 谷 偉 子;本 誌 〃 8)米 国 農 務 省 編,食 品 ア ミノ 酸 含 有量 表