Showa Women's University
NII-Electronic Library Service ShOW 三1 WOmenTS UniVerSity
学 苑
・
環 境 文 化 紀 要 No.
766 135〜
144 (2004・
7)社 会 的資 料
と し て
の
生
活
マ
ソ
ガ
一
60
年代
か ら
90
年代
まで一
西
脇 和 彦
Comics
ofDaily
Life
asSocial
Data
− from
1960s
to1990s 一
Kazuhiko
NISHIWAKI
There are diverse materials
for
cultural sociology,
modernology,
and Iife history;photos,
songs,
interviews
,
news items,
diarys and so on.
In this paper, I choose 7 comics each representingaparticular period
.
For exalnple ,“
3−
chome noYuuhi
”
(by
Ryouhei
SAIGAN )from‘
Pre−
High’
growth period
,
“
Apron−
obasan”
&“
Sazae−
san”
(by Machiko HASEGAWA )from‘
High’
growthperiod
,
“
Chibimaruko
−
chan ” (by Momoko SAKURA )from‘
Low ’
growth period,
“
Tampopo−
san IloUta”
(by Ryouhei SAIGAN )from
‘
Bubble’
(financia
玉euphoria )period,
and “Tonarino
Yamada −kun
”
(by
Hisaichi
ISHII
)&“
ATASHI ゴCHI”
(by EikoKERA
)from
‘Heisei
Depression
’
period.
They mainly
depict
thedaily
life
of each period and often reflect events,
episodes,
wel1−
knownpersons and consumer
’
s durables of those days.
So,
we can see popular styles of living in eachperiod through them
.
That
is
why comics of daily life are excellent social data.
This is also an essay on cu 正tural study using conlics of
daily
life.
Kay words:comic (コ ミック丿
,
4α吻 ltfe佃宮生括λ ρ0卿伽 5雛 (ゾ 姻 蟹 (庶 民の暮 ら し),
Sazae−
san (サ ザエ さん丿
,
Chibimarako−
chan (ちび まる子 ちゃん丿,
ATASHIn’
Cfll 〔あた しンち丿1
は じ め に家族 を 社 会 学 的
,
生活 文 化 的に考 察する時に, 家 族の写 真 集 や 新聞 読 者の投 稿 欄などが思いが け ない ほ どの資料 価 値を もつ こ とがある。
例えば,
そ れ ら か ら時 代の気分やライフサ イクル,
衣食住 を は じ め 人 間 関 係の機 微まで読み とれ るこ とが あ る。
筆者 は 社 会 学 的,
生 活 文 化 的 視 座か らそ れ ら が包 括 的に時 代 性を反 映して いる点に関心 を もっ てい る が,
試み に 手 元 に あ る 『よ りす ぐり川 柳 「平 成 家 族」一
これ が我が家の ルー
ル です一
』 (リ ビング新 聞ネッ ト ワー
ク編,
祥 伝 社 黄金文 庫,
2002年)を見ると,
父親は も は や経 済 的あるい は精
神的 な 大黒 柱と はい えず,
大 黒板ぐ らいの存 在に変容し てい る の である。 ち な み に,
朝日新聞 世 論 調査 部の 「第25
回定 期国民 意識 調 査」 (2000
年12
月 実施)による と, 家 族の き ず な が 弱 まっ てい る とす る 者46
%,
変わ らない とする者33
%, 父親は 中 心 的 な存在 と思うか否か につ いて,
そ う 思 う者40
%,
思 わ ない 者56
% と ある (朝日総 研リポー
ト,
2003.2 ,
No.
160,
p,
154)。
大 黒柱とい う語は 死 語化しつ つ ある のか も し れ ない。一
人の大 黒 柱 よ り も,
家 族 メソバー
による シェ アー
の時 代の到 来を予 感さ せる。 タテか らヨコ の家 族 関係へ,
現に母娘の 関係では,
若 年女 性の6
割が友達 親 子を肯定 して い る (内 閣 府編 『平成15年 版 国民生活 白書』 ぎょう せい,
p.
127)。
早 晩父 と息 子の関係 も友 達 親 子に近づ く に 違いない。 と も か く筆 者は具体 的で有 用な資料を模 索す る な一
135一
N工 工一
Eleotronio Libraryか で
,
生 活マ ンガに注 目するようになっ た。
全世 代 にわ たる社 会 的メディア となっ たマ ンガ (コ ミッ ク ス)に は,
ス ポー
ッ・SF ・
変身・
文 学な ど多様
な ジャ ソル が存 在す る が, その なか で も特に日常生活 に題 材 をとっ た生 活マ ンガ に有 用性 を認めて い る。
そ れ は,
次のような理 由に よる。
これ ま で生 活 資料 と して学 校 教 材に も利 用さ れた 代 表 例は, 長 谷 川 町子 の 『サザエ さ ん』で あっ た。 朝日新 聞に連載 さ れ たこの作 品 (現在 は朝日新 聞社, 文 庫 版
,
全45巻に 再 録)は, 戦 後の復興 期か ら高 度成 長期の終焉まで実に30
年 近い長 期にわ たっ たシ リー
ズで あ り,
生活 資 料の宝庫とい える。
そのな か か ら 衣食 住に関 連し た数例 を あ げてみ よう。 例えば,
一
家は し ば し ば海 水 浴に行っ たが,
その時々 で サ ザエ さ んの水着
が 異 なっ て いた こと (ワン ピー
ス→ セパ レー
ト→ ビ キニ と進 化 ?)。
戦後
し ば ら く は 七輪で煮 炊き を し,
ご飯も お 釜で炊い てからお ひつ に 移 し換 え ていた が, 電 気 炊 飯器 を購入 し て か ら後おひつ は 使わ れ な く な り,
炊飯器 か ら直接ご飯をよそうよ う になっ たこ と。 銭 湯シー
ン が シ リー
ズ当初こそ登 場 するが,
や が て自家の内 風呂の みと なるこ と。
この よ う に, マ ソ ガ 『サザエ さ ん』 で は高度成 長によっ て変 容し た 社会や 日常生活が視 覚 的に具 体 的に描写 さ れてい る。 この庶民 の等 身大の生 活 風 景 ゆえ にわ れ わ れ に 共感を も た ら し, 国民 的 人 気 作 品と なっ て い る。 そこで同 様の視 点か ら,
資 料 と し て有用な 生活マ ソ ガ を年 代順に提示 し,
そこ に描 か れてい る生活世 界から そ の時代性 を 指摘してい く。 その年 代とは,
助走 期一60
年代一70
年 代一80
年 代一90
年 代で あ り,
そ れ ぞ れに適 合する生 活マ ンガ を と りあ げてい くが, 各 生 活マ ンガ を 歴 史・
社会的資料 と して扱 う社 会 学 的 文 化論の試み で もある。2
助走期資
料
と し て の さ い が んr
三丁 目
の夕
日 』(
西岸良
平)
昭 和三十年 代
一
。 あの頃は,
今の ように贅
沢はでき なかっ たけ れ ど,
人々 の問に温か な触 れ合いが あっ た。…
この作 品の シ リー
ズ は すべ て このフ レー
ズか ら始 まる。My
First
BIG
『三 丁 目の夕日』 (小 学 館,
初 出 は ビッグコ ミ ックオ リ ジ ナル)は, わ が 国 の高 度成 長 が 本格 化す る前の風景を描い て 秀 逸 な作 品とい え る。
そこに は ま だ ゆっ た り とした時が流れ て い る。 こ の時 代を共 通 体 験した人々 に とっ て懐か しい光 景 が連続 す る。筆
者が所 有する作 品か ら各テー
マ と そ のキャ ッチコ ピー
を引用 し表1
に ま と め た。 この シ リー
ズ を見る と, 高 度 成 長 期以降の社会 生 活のなか で, 消 滅し た りあ るい は 忘 却 さ れ た ものが 多 数描 写 さ れてい る。 数 例をあ げる と, 銭 湯で 入 れ 墨 をした人を見て驚く話・
軒先で縁 台 将 棋に興じる 話・
電灯の二 股ソ ケ ッ トか ら電 気を と る話・
電報を 郵 便 局で申し込む話・
写真 館で記念写 真を撮る話・
夜 道 が暗く怖かっ た話・
引っ 越し そばを 配っ た話・
弁 当 箱の ふ た で 湯 茶 を 飲 ん だ話な ど な ど。
さ らに,
包 丁研ぎ・
呼 び出し電話・
プー
ルの ない 学 校・
中古 自転 車・
陰膳・
蚊 帳・
夏座敷・
昔の客 車・
ブリキ の お も ちゃ・
お と し トイレ・
氷 柱・
粉 末ジュー
ス・
井 戸 水・
案山 子・
ボソネッ トバ ス・
ダル マ ス トー
ブに 関連したエ ピ ソー
ドもある。
筆 者も 同様の体 験を し たこ とを 多々思い 出し た。 内風 呂がな く曜日毎に 別 々 の銭湯に行っ た こ と・
呼び 出 し 電話の取り次 ぎで 気を遣っ たこ と・
は じ めの うち小 学 校にプー
ル がな く遠方の市 民 プー
ル まで1
日が か りで行っ たこ と・
ダルマ ス トー
ブの焚き方にはコツ があるこ と・
弁 当 箱か ら 煮 汁 が しみ出し て教科 書を汚し た こ と・
夏 期,
ホー
ル や デパー
トには氷柱が置かれ ていた が,
見 た 目ほ どには涼し く な か っ た こ と・
電車が 通過する毎 に踏み切り番の お じ さ ん が 遮 断機の開 閉 をし て い た こ となど。
これ ら は,
高 度 成 長 が始ま りだした とは い え ま だ そ れ ほ ど豊 かでは な かっ た時 代の 風景とい え る。 まさに繁栄 の60
年代へ と結 節す る助 走 期のそ れ とい え る だ ろう。 『三丁 目 の 夕 日 』 に は そ ん な時 代の生 活 資 料が リア ル に 満 載 さ れて い る。3
60
年代 資 料
と し てのr
エプ
ロ ンお ば さん
』
と『
サザ
エ さ ん 』(
長谷
川 町 子)
高度 成長 期を前半 と後半に 分 け る と
,60
年 代 前 半 が同期の前半に,
同年代後半 が 同期の後 半に ほぼ対一
136一
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表
1
『三丁目 の夕日 』 の テー
マ とそのキャ ッチコ ピー
お 祭 り お祭り,
海水 浴,
肝 試 し,
小旅 行,
野球 大 会…。
町 ぐ る み の催しもの が た くさん あ りました。
精 霊 流 し 静かな 夏があ りま し た。
二 学 期 始 業 式の 日,
日焼け し た友 達に会えま し た。 三 丁 目 動 物 記 命の大 切 さを教えて くれ た小さ な友 達が た く さ んい ま し た。 夕 焼 け 赤く染まっ て い く町が好きで し た。
マ イ ホー
ム お茶の間がみ ん なの集ま る場 所で し た。.
木 枯 ら し エアコ ンがある今のマ ン シ ョン よ りす き ま 風 だ ら け だっ た昔の家の方が暖か かっ た気 がします。
歳 末 大 売 り出 し 豪 華な景 品は な かっ た け れ ど, 福 引きの時は ワ ク ワ ク し ま し た。 年 末 年 始 も うい くつ 寝る と,
楽しい お 正 月 が やっ て き ま す。
空 想 科 学 物 語 未 来はい つ もバ ラ色 で し た。 三 丁 目探偵団 毎 日 が 冒険の連 続で し た。
入 学 式 あ の 桜 の 花 の 中 に は 思い出 がいっ ぱい詰まっ て い ます。
行 楽 日 和 小さ な時の旅の思い出 は決し てな くな らない“
心の宝 物”
です。
背 く ら べ 柱のキズと一
緒 に,
思い出 も心 に刻ま れ ま した。
五 月 晴 五 月病な ん て知り ま せ ん で した。
犬 の 思 い 出 犬 が 最 初の友 達で した。
夏 の 思 い 出 暑かっ たの に,
いつ も外で遊んで いた。
夏 休 み 夏 休み の宿 題 は,
いつ も後 回しで し た。 家 族 旅 行 初めて海を見た と きの驚き は,
今も忘 れ られ ま せ ん。 鰯 雲 あの頃 は,
よく雲 を 眺 めて いま し た。 お 月 見 十五夜の月は今よ.
り大き く見えま し た。
運 動 会 徒 競 走の前はい つ も ドキ ドキで し た。 紅 葉 の 頃 昔は 町 内のあ ち らこち らで,
紅 葉が 見 ら れ た もので し た。
紙 芝 居の来る 町 あの紙 芝 居や さ ん は,
今どこ にい る のだろう? 冬 支 度 昔.
の冬は今よ りずっ と寒かっ た け れ ど, 家の中は, 今よ りずっ と温 か で し た。 ジングル・
ベ ル ゆ く年 く る 年 ク リ スマ ス,
大晦日,
お 正 月。
い つ も 家 族 が一
緒 で した。
福 は 内 幸 福は家に あ りま し た。
春一
番 春一
番は,
いつ も知 ら ぬ 間 に 吹いていま し た。 卒 業 式 「我が師の恩」の有 り難 さ が 分 かっ たのは,
つ い最近 のこと で し た。
サ ク ラ 桜の儚い色 が好き で し た。 ク ラ ス 替 え 同じク ラ ス にな る だ けで,
す ぐ友 達 に な れ ま し た。
切 手 集 め 他 人には価 値の ない もので も, 自分に は とても 大 切 な も の が あ り ま す。 2004年4
月末日現在 1 137一
N工 工一
Eleotronio Library応する
。
そこで,
前 者の資料 として 『エ プロンお ば さ ん 』 を,後
者の そ れ と して 『サ ザエ さ ん 』 を援 用 す る。 いず れ も長 谷 川 町 子の代 表 作であ る。
A
『エ プロ ンお ば さん 』当初この シ リ
ー
ズは,
週 刊誌 「サソデー
毎日」に57年
か ら65
年まで連載さ れ た も の で (現 在 は 朝 日新 聞社,
文庫版,
全 7巻に再 録 ),
夫婦 と一
人 娘の主 人 公一
家 とそこに 下 宿 す る 勤 め 人 や学生 との人 情 話が テー
マ となっ て い る。
夫はサ ラ リー
マン,
娘は高 校 生ら しい。 2
階の部屋 を 間貸し して,
い わ ゆ る 下宿 屋 も営んでい る。 下 宿 人の賄いや 世 話を焼くの がこ の家の妻,
エ プロ ソお ば さ ん で あ る 。 た だ し, 実 際 はエ プロ ン でな く, かっ ぽう着 を愛用 し ている が。
ところで,
この下宿自体が当時の住 生活のキー
ワー
ド と なっ てい る。 都市 化による人口集 中は住 宅不足 を も た ら し,
そこ に発 生した現 象が下宿とい うわ け で あ る。
この シ リー
ズのう ち60
年代前半の作 品には, 次の ようなエ ピ ソー
ド が登 場 する。 (%は当 時の普 及 率)電 気 洗 濯機 (50〜
70% ) や 電 気冷 蔵 庫 (工7〜51
% ) そ れに電 気 炊 飯 器の購入 と使い方・
遠 隔地 の 土 地 分 譲・
ゴル フ熱・
男性の女 性化・
東 京の水不足と断 水・
プロ野 球 長 嶋選 手の結婚・
東 京五輪 後の不 況・
詰め込み教 育反 対・
怪 電 話事 件・
下宿人の態 度に閉 口な ど。
面白い こ とに60
年代前 半の様 相には すで に 今目 の生活 文 化の先 駆け が見 られる。
この作 品は当 時の生活 世 界を リ ア ル に再 現 して,
『サ ザエ さ ん』 同様 優れた生 活 資 料の1
つ と み な すこ と ができ る。B
『サ ザエ さん』60
年 代 後 半は高 度 成 長 期の後 半とも重 複す る が,
高 度成 長の全国へ の波及 と負の遺 産も顕 在 化 し だ し た 時 代 とい え る。 利 便性 だ けでな く問 題 点や矛 盾 点 にも 目 を向けざるをえな くなっ た。
こ うし た 様 相 は この時代の 『サ ザエ さ ん 』にも色 濃く反 映してい る。 そ こ で,
こ の シリー
ズ のうち66年
から70
年に か けて 発表さ れ た 作 品のな か か ら, そ こ に登場し た事柄や 出来 事をキー
ワー
ド と して 表 2に ま とめ た。
昭 和元禄
と いわ れた泰平 的 ムー
ドのな か に一
抹の不 安 が よ ぎっ ていたこ とが わ か る。 ところで,66
年の作 品にマ ス オ とサザエが知人の 別 荘の留 守 番を する シー
ンが あ る が,
そこ には 当 時 ま だ 珍 し かっ たクー
ラー
や カ ラー
テ レビ が置か れ,
それ らに大 喜び して別 荘 気分 を満 喫す る2
人 が 描 か れ てい る。同年の世帯 普 及 率がクー
ラー 2
%,カ ラー
テ レビ0 .3
%で あっ た こ と を 考 え る と 納得で き る シー
ン とい え る。 ま た 翌年の67
年には長 寿化を テー
マ とした話が 登場し て平均 寿 命が男性68
歳,
女 性73
歳と説 明さ れてい る が,
この数値も妥 当 な もの とい え る。
さ らに,
世帯人員が近い将 来3
人になる と予 測する話 も66
年 と69
年に 登 場 す る が,
当 時のそ れ は3
.
7
〜
3
,
6
人 も あっ た。 その他, 知 人が近 郊に土地 を 購入 した話, マ スオ の 同僚が新 築し た 家 が 高 台 に あ る 話,
遠 距離通 勤 が増加 し た話な ど, 当 時か ら郊 外 化に関連した テー
マ も見ら れ た。
公害・
汚 染・
ス モ ッ グ・
騒 音 な ど,
環 境 問題も多く登場してい るが, この一
例 と して70
年の1
コ マ に新 宿区牛込柳町の大 気 汚染が とりあ げら れ てい る。
筆 者は 偶 然にも 同時 期 そこに 住 ん でい たの で,
す り鉢 状の交 差 点の大 気 がいつ もす すけ て よ どん でい たこ とや 住 民 が 「公害 公害
」 と大 騒 ぎ を し たこと を思い出し た。この ほか にも
,
ミニ スカー
ト・
自動車
や 飛行 機の 事故・
男性の弱体 化・
結 婚ラッ シュ・
第2
次ベ ビー
ブー
ムな ど の話 題が しばしば 登 場し て,
当 時の社会 状 況を 巧 みに描 写して い る。
さ す が敬語 もテー
マ と す る だ け に,
作 品 全体に 丁寧な 言葉遣いが な さ れて い る。
ま た,
同居生活の むずか し さ や子 どもの夏 休 みが やっ と終わっ てホッ とす る親の話な ど,
時 代 を 超え て共感で き る もの も 多い。
総 じて60 年代は現 代生活の基盤が構 築さ れ た時 代 である。
そ して この時 代の具体 的 資料と し て援用で き る 生活マ ン ガの好 例を長 谷 川町 子の作 品 群に 見い だすこ とが で き る。
4
70
年代資 料
と し ての『ち び まる
子
ちゃ ん』(
さくらもも
こ)
73
年のオ イル シ ョ ック以 降のい わゆる低成 長 期に 適 合 的な資料が この 「ち び ま る子 ちゃん 』 (現 在は集 英 社,
りぼ んマ ス コ ッ トコ ミ ック ス,
全15巻に収 録 )で ある。
そ れ は,
作品 内 容 か ら推 測 して72
年か ら78
年一
138一
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表
2
『サ ザエ さ ん』 (60
年 代 後 半)のキー
ワー
ド 食 生 活 ダイエ ッ ト 自然 食 品 冷 凍 食 品 有 害 食 品 2ドアー
冷 蔵 庫 衣 生 活 かつ ら・
ヘ アー
ピー
ス ミニス カー
ト(ひざ 上10・
20cm) 長 髪 住 生 活 団地建 設 宅地造成・
分 譲 セ ソ トラルヒー
テ ィング 高層アパー
ト 交 通・
運 輸 自動車・
飛行機事故 渋 滞 ムチ ウ チ症 ワソマ ソカー
東 名 高 速 遠 距 離 通 勤 帰 省列 車 教 育・
学 校 教 育 マ マ 過保 護 正 しい敬 語 越境入学 鍵っ 子 子殺 し 性 教 育 学 園 紛 争・
全 学 連 昆 虫 を デパー
トで買 う 医 療・
福 祉 牛込 柳 町 老後の生活 献 血 長 寿化 肥満児 ム チ ウ チ症 美 容 整 形 ス モ ッ グ 騒 音 心臓 移植 老人病 公害・
汚 染 大 病 院の順番 待ち 社 会・
ジェソダー
女 性 上 位 男性 の 女 性 化 男性 の家 事 参加 多 趣 味な奥様 体育の 日 3人 家 族 時 代 敬 老の 日 盗作問 題主婦の家出
蒸 発
親子 の断 絶
密 輸
赤 ちゃんのと り違え
結 婚ラッシ ュ
・
第2次 ベ ビー
ブー
ム 転 職 増加 集 団就 職 お やじの地 位 低 下 フー
テン族 三億 円事 件 銭 湯の廃 業 エ リー
トの汚 職 サ イドビ ジネス 訪 問 販 売 三島 事 件 文 化・
その 他 イミ テー
シ ョン (ダ イ ヤ) 大鵬の 結婚 同 居 の むずか し さ グルー
プサ ウンズ モー
ニ ン グシ ョー
メキシコ五輪 明 治百年恩赦 宇宙 中継 マジッ ク ミ ラー
テレビ電 話 誇 大 広 告 簡 便 な紙 製 品 マンガ ブー
ム アポロ 11号 ブルー
ラ イ トヨコ ハ マ 大 阪万博 海 外 旅 行 八百長 試 合 黒人モ デル 不幸の 手紙 当 時の家庭や 学校の生活が 描 か れ ているか らである。 主人 公は, 作 者の分 身と お ぼ し き清水 市 (現,
静 岡市 )に住む小 学生の 女の子で,
祖父母・
両親・
姉 か ら なる3
世代6
人家族の次 女であ る。
ち な み に,
75
年 当 時の3
世 代 家 族 は約16
%である。
一
家は平 屋 の一
戸 建て に住む が,
周 囲の家屋 も 平 屋 が 多 く, 2
階 建て や低 層ア パー
トは散 見されるだ けである。
日 常の買い物は商店 街です ま せ,
スー
パー
は 登 場 し な い。
た だ1
度だけ主 人 公が祖 父 (友蔵)とシ ョ ッピ ング セン ター
に行くシー
ンが あ る。 自 宅 に は,
ダイ ヤル式の電 話 機や2
ドアー
式 冷 蔵 庫, それに室 内ア ソ テナで見る テ レビがある。 し か し,ルー
ム クー
ラー
は ま だ ない。
裕 福な 同級 生 (花 輪くん と 穂 波 さ ん)の 自宅には あ る が,75
年の普 及 率 が17
% で あっ た当 時, 主人公の要望に対 して母 親 が 「クー
ラー
は 家 に は ぜ い た く品」 と述べ てい る のは当然のこ とで,一
般 的 に は まだまだ高級品の域を で るも ので は な かっ た。 こ の普及率が50
%を 超え る のは10
年後
の85
年であ る。
同様に,
水洗トイレへ の改 修 を 主 人 公が両 親に要 求 する シー
ン も登場するが,75
年の ト イ レ水 洗 化率
は、
ま だ4
割 前 後で し か な かっ た (経 済企画 庁 編r
平成7
年版 国民 生 活 白書 』ぎ ょう せい,
p.
41,
p.
388
)。 ま た,
シリー
ズの最 後でマ イカー
も登 場 す る が,
当時の普 及率は50%で な ん と クー
ラー
の そ れ をはる か に凌い でい たの であっ た。 その他,
宅 配便を め ぐ る話 や祖 父が 主 人公のためにと支 給 され た ば か りの 自分の年 金 を 全額 (8
万円)つ ぎ 込 む 話,
母 親 が 主 人 公 に青 春とは 「中学 生から25
歳 ぐ らいまで」 と説 明する話 な ど,70
年 代に適 合し た庶民の生活風 景 が ふ ん だ ん に盛り込ま れ ている。 青 春につ い て も, 高等 教 育へ の進 学 率が低成長 期と はい え38
%に も上昇し,
青 年 期は延 長さ れモラ ト リ アム性が強化 されつ つ あっ た。 モラ トリ ア ム (役 割 猶 予 ) も 大 人 に な る た めの準備 的 段 階 か ら そ れ 自体を享 受す る 目的 化した段階へ と 転 化しつ つ あっ た。 こう し た 社 会 状 況 を踏ま え る と,
青 春の終 焉を 「25
歳ぐ らい」 と した 母親の説 明には 妥 当 性が認め られる。 『ちびまる子 ちゃん』シ リー
ズに登 場し た 出来 事・
事柄・
人物をキー
ワー
ド と して表3
にま とめ た。
子 ど もの世 界を反 映し てか当 時の娯 楽や芸 能 関 連の も のが多い。 ま た, シ リー
ズ全 巻 を 通 じて 父親の仕 事 に関連す る シー
ンがない ことも特 色とい え る。70
年 代はわが国の社 会 構 造が第3
次産 業中 心 にシ フト し,
郊 外 化 も さ ら に進 行す る に お よ ん で職 場で働く大 人一
139一
N工 工一
Eleotronio Libraryや両親の姿が見え に くくなっ た時 代で あ る
。
家 庭は 消費 生 活の 場 とな り,
子 ど もの生 活圏か ら生産や労 働の場 は 遠 ざ かっ て しまっ た。 最 後に家 族全員が食 卓に つ く時の父親 (ひろ し)の座 席には4
通 りある こ とを指 摘してお き たい。 消 費 家 族の ソフ トで,
流 動 的 な位 置 関係が見られ る食 卓風景とい え る だ ろ う。5
80
年代資料
とし て の うた『た ん ぽ ぽ さ んの詩 』 (西 岸 良 平
ン
当 初 女 性 週 刊誌r
微 笑』に77
年か ら87
年に わ たっ て連 載さ れ た本 作 品 (現 在は 双葉 社,
ACTION
COMICS ,
全5巻に収 録)は,
その内容から81
年以降 の部分 を もっ て80
年
代資料 とす るの にふ さ わ しい。
た ん ぽ ぽ・
慎 平とい う夫 婦と一
人娘のスミレ (そ 湘 に猫1匹 )の3
.
5
人 家 族の主 人 公一
家は横 浜 市の海 沿い の高 台に住んで い る。 見 晴 らしはよ い が, 安い 家 賃と引き替えにバ ス停か ら は 遠 く,
坂 道 を 歩 か な け れ ば家に た ど り着か ない。 都心 までか なり時 間 も かか る。 そ の代わ り逆 方 向の湘 南や三浦半島,
箱根 へ のアク セ スは とても よ く,
日帰 りでも十分に楽
し める。 こ の時代に顕著となっ た郊 外の遠 隔地 化 を 反 映 し た 地 域 設 定 と なっ てい る。 郊 外レ ス トラン,
過 剰な演 出による豪 華 結 婚 式, ブラン ドや グ ル メ,
海 外ロ ケ やFF
ブー
ムも 登場し , ま さに バブル期の雰 囲 気が充 満し た80
年 代 風 景が作 品に ち りばめ られ て い る。年
賀状 にわ が子の写 真をプリ ソ ト し た り, 小 学校の給 食会に保護 者が参加し美 味しい 食事に驚
い た り と,
ほ ほ え ま しい 光 景も 見 られる。 し かし,
サ ラ金 地獄やロー
ン 地獄 個 人化 する ゲー
ム の危 険 性 などネガ ティブな光 景も 指摘さ れ てい る。 さ らに,一
人 っ 子 同士 の結婚や子どもっ ぽい親の増 加も取 り あ げら れ ている。
全体的 に 表 出 的,
個 人的な ト レソ ドが作 品に反 映してい るが, 先 行 時代にも増し てこ の時 代に モラ ト リ アム性が強まっ た た め とい える だ ろう。 この作 品に登場する出来 事や事柄をキー
ワー
ドと して表4
に ま と め た。
先 述 し た4
作 品の食 卓は すべ て茶の間にあっ たが,
こ の作 品で は冬 場を除い てテー
ブル と イス の洋風ス タ イ ル で,
各 人の位 置 もほぼ一
定して い る。
夫の座 席は 水 回 りか ら最 も遠 く, 子 ども の そ れ は テレ ビ の 正 面 に あ る。
夫 も家 事 を 手 伝 うニ ュー
ファ ミ リー
で はある が, 妻の座 席は水回 りや食器棚に 近 く,
や は りこの家の役 割分担 を食 卓に見るこ と ができる。 表3
『ち び ま る子 ちゃ ん』 (70
年 代 )のキー
ワー
ド 出 来 事 オイルシ ョ ッ ク 紙不足 不幸の 手紙 ツチ ノコ 騒動 浅 間 山 荘 事件 娯 楽 ディス コ ロー
ラー
ス ルー
ゴー
ゴー
スー
パー
カー
ブー
ム 芸 能 森田健 作 ピン クレディー
フ ィンガー
5 山口百恵 桂三枝 ドリ フ ター
ズ に し き の あ き ら 悪 役 商 会 月 亭可朝 山 本リンダ 殿さ ま キングス 天 地真理 ず う とるび 円広 志 仮面 ラ イ ダー
流 行 語 港のヨー
コ・
ヨ コスカ・
ヨコ ハ マ な〜
ん ちゃ っ て ノ ス トラダム スの大予 言 表4
『たん ぽぽ さ んの詩』(80
年 代 )の キー
ワー
ド 社会・
ジエ ソダー
遠 距 離通 勤飛 行 機 事 故
サラ金
カ
ー
ドロー
ソフ ァ ミ レ ス
海 外旅行
女 性 の自立
夫の家 事 協 力 ダイエ ッ ト
・
シェ イプアップ メ デ ィ ア プロ 野球ニ ュー
ス 金妻 FF ブー
ム グル メブー
ム テ レ ビショ ッ ピ ン グ レ ンタルビ デ オ 流 行 語 な め ん な よ フ ィー
バー
ムニ ュ ム ニ ュ ル ソルン ビョー
キ 田園 調 布一
140一
Showa Women's University
NII-Electronic Library Service ShOW 三1 WOmenTS UniVerSity
6
90
年代資料
とし て の『と な りの山田く ん 』(い し い ひ さいち )と
『
あ
た しンち
』(
け
らえ い こ)
90
年 代の生活マ ンガ と して こ の2
作 品を あ げ るこ と が で き る。
同年 代を前 半 と後 半に2
区分す る と, 前 半には 『とな りの山田 くん 』 が, 後 半にはr
あ た しンち 』 が そ れ ぞ れ適 合す る。 時 代 背 景として はい ず れ も平成 不況下にあ る が,
この 2 作品 に見られ る 資 料 的価 値を指 摘し よう。A
『と なりの山田くん』 祖母 と両親, 2
人兄 妹の5
入からなる3
世 代 同居 の 山田家を描くこ の シ リー
ズ は,
朝 日新聞の朝 刊 に91
年 秋か ら97
年 春まで連 載された風刺 とユー
モ ア に あふ れ た作 品であ る (現 在は東 京 創 元 社,
文 庫版,
全 11巻 に 収 録)。 例えば,
口答えする ナマ イキな 粗 大ゴ ミ (オ ヤジ)を ナマ ゴ ミと呼んでみ た り,
帰 宅し た 父親に 「子ど もの寝顔
を見る と疲 れ が とぶ が,
妻の 寝 顔を見る と眠 気が とぶ 」 と言 わせて い る。
ち なみ に, 同居す る祖母 仙 野しげ ) は妻 (まつ 子 )の母親 で あ る。
ところで, こ の作 品で特
筆
すべ きこ とは,
家 族 と い え ど も好みが各 人 各様であっ たり, 父 親 (た か し) の食 卓の座 席に は猫が居 座っ ていた りと,
父親の居 場所が空 間 的に も精 神 的にも家 庭のなか にな くな り つ つ あ る 個 化 的 家 族 風景が 盛 り込 ま れ てい て,
これ までの生 活マ ン ガには登 場し な かっ たシー
ソが散 見 さ れ る よ う に なっ たこ とで あ る。
同様のこ とは次に 取 りあげる 『あた しンち』でも指 摘で き る が, 家 族一
人 ひ と り が 自 由 度 を増し た結果 家 族 の絆は弱 体 化 し, 父親・
夫の存 在 感も稀 薄化し たの であ る。 な お,
本稿で は90
年 代 前 半の資料 と し て援用 するため91
年 か ら95年
まで の作品に限 定し た が,
バ ブル経 済 破 綻 以後の 不況を反 映したテー
マ が多く見ら れ,
例 え ば,
空店 舗・
節約励 行・
在 庫 調 整・
不良債 権・
退 職 奨 励 金・
就 職 難 (ど しゃぶ り・
氷 河 期・
無 間 地 獄 ) とい っ た話 題が 登 場 す る。 また, 社 会 的 事 件 を 連 想 させる話
題も多く, や ら せ番 組・
院内 感染・
フ リー
ズ・
ヤ ミ取 引・
ロン グマ フ ラー ・
兵 庫 県 南 部地震・
オ ウ ム 真理教・
証 拠イン メツな ど が その例としてあ げ られ る。 そ して も ち ろ ん,
この時 代 を 賑 わ せ た角界 や 球 界,
政 界の著 名 人も登 場する。
表5
に 『とな りの山 田 くん 』に見られ るテー
マ,
出来 事,
事柄,
人物を キー
ワー
ド と し て ま とめた。 最 後に山田家の食 卓につ い て,
祖 母 と 兄 (中 学 生,
のぼる) の2
人 に位 置の交換が時々見ら れるが, 両 親 と妹 (小 学 生,
の の 子)の3
人に移動は ない 。 専 表5
『とな りの山田くん 』(90
年 代 前 半 )のキー
ワー
ド 家 庭 生 活 食器 乾 燥 機 タ イ米 オー
トロ ック 偉大 な 親 ぬ れ落葉・
粗 大ゴ ミ 政借 経済 ビジネス PKO ヤ ミ献金 証人喚問 日本 新党 短 命 内 閣 不 良 債 権 在庫調整 ヤ ミ取 引 宅 地 分譲 価 格破 壊 就 職 難 医 療・
福 祉 万歩 計 花 粉 症 院 内感 染 喫 煙コー
ナー
義 援 金 環 境 エ コ ロ ジー
高 台の住 宅地 エルニー
ニ ョ 現 象 教 育・
学 校 セ ン ター
試 験 い じ め 第 2土 曜 休日 社 会 親 切ス リ オ ウム・
サ ティアン や らせ番 組 文 化・
科 学 ヘ ク トパ スカル 恐 竜 ブー
ム 断 筆 宣 言 使い 捨てカ メ ラ 娯 楽 郊 外パチン コ ジャ ン ボ 宝 く じ テレ ビ ゲー
ム ス ポー
ツ サッ カー
ブー
ム・
イエ ロー
カー
ド 流 行 語 フ リー
ズ や ればア うま いん だ なこれ が 同情するな ら 金 を くれ か わ ら な きゃ 各 界の 有名人 角 界…
曙 舞の海 貴 花田 若 花田 球 界…
野 茂 英 雄 松 井 秀 喜 政 界…
ク リン トン 細 川護煕 羽 田孜 そ の他…
毛 利 衛 三浦 和 良 大 林 素 子广
ハー
ディ ン グ マラ ドー
ナ一
141一
N工工一
Eleotronio Library業主婦の母親を中心 と した食 卓 風 景が見られる
。
家 庭で の 父親はゴ ロ寝スタ イ ル が 目立 ち,
大黒 柱の雰 囲 気 は ない。 家の手 伝いを してもかえっ て失 敗に終 わ る ケー
ス が ほ と ん ど で,
濡 れ落ち葉的 な 足 手 ま と い となっ てい る。 とにか く祖母 と母親の 元気の良さ,
パ ワー
が目立つ 山田家な の だ。
B
『あた しンち 』 典 型 的核 家 族,4
人家族 の橘一
家 を 主 人 公 とす るr
あ た しソち 』 は,94
年か ら読 売 新 聞日曜 版に連 載 さ れて い る シ リー
ズ (現 在は メ ディアフ ァクトリー
コ ミック,
9巻 まで言 及 )で,
目下アニ メ と して テ レビ でも放 映さ れてい る。 な お本 稿で は,
96
年以降の作 品を援用 してい る。
電
車
とバ スを 利 用し て コ ミュー
ト す る郊 外らしき 団地に居 住する一
家の平 几な日常 生 活を描写 し た 作 品で あ る が,
思 わ ず考え さ せ ら れ る内容もい くつ か ある。 例えば, ささいなこ とを配 偶 者に報 告相談す る 割 に は,
重 大事項 を 相談せ ずに独 断専 行する夫 婦, フォー
ク並び を知らずに割 り込ん だ 人 を 注意す るべ きか否 か で 悩 む息 子 (ユ ズヒ コ), 靴を履い た ま ま の 幼児を 電車の シー
ト に立た せ た親を見て む かつ く娘 (み か ん)など の シー
ン があ る。
そのな かで も,
母 親 と娘の進 学 に 関 す る 会 話で,
母親の 「生活を切り つ めて大 学に行か そうと考え て い るのに」 との発 言 に対し て娘が 「フ ツー
たのむ か ら大 学 行っ て くれ と 言 うの に」 とや り返 すシー
ン がある。 い か に も同時 代 的な世 代 間ギャ ッ プが表 現さ れて い て関心 を引く。
不況下 と はい え,
大 学進学率が46
% 時 代の こ とで は ある。
主人 公の母親は専 業主婦で 日中 は 自 転車を 乗 り 回 し (自転 車マ マ ),
家 事 に 忙 殺 さ れてい る (忙 中 閑の時 もある が)。 これに対してサ ラリー
マ ン の父親 が仕 事に励む シー
ン は皆 無とい っ て よ く,
彼は 夕食
後に 定位置の ソ フ ァー
に座っ てぼ ん や り と テレビを 見て くつ ろぐ かあるい は入浴 す るパター
ン で描か れ てい る。 子ど もには個室 があるが父親に は居場 所が ない こ と もある だ ろう。
こ こで も 父 親 は家 庭では 手 のか か る ダ メオ ヤジ と して扱 わ れてい る。
発言 もあ ま りない。
職 住 分 離 時代の究 極の姿か も し れ ない。
また 同時 代を 反 映 し て,
イ タ ズラ (H) 電話・
抗菌 グッズ・
ジベ タ リ ア ソ・
エ アロ ビ・
体 脂肪 計・
回転 寿 司.
・
カ ミン グアウ ト・
ニ ュー
銭 湯など のエ ピソー
ドが 登 場 す る。
さ ら に一
家の耐 久 消費
財に注目 して み る と, キ ッチン に置かれた冷 蔵 庫 も大 型の3
ド アー
式となっ てい る。
シ ス テ ムキッ チソも導入 さ れ てい るのだ ろうか, 興 味がもた れる。 パソコ ンも1
台は所有し,
しばしば その話 題が登 場 す る。このように
r
あ た しンち 』 は90
年 代 後 半の様 相を 日常レベ ル で見 事に活 写し た作 品と評 価す るこ と が でき る。
な お,一
家の食 卓での座席は一
定 (父 と娘,
母 と息 子 が 向かい合 うパ ター
ン)で,
テー
ブル とイス の洋 風スタ イル が年間 を 通 じ て 見 ら れ る。7
お
わ
り に本稿では高度 成 長の黎 明期か ら
2000
年までの各 時 期に相 当 した 生活マ ン ガ を援用 し て,
これらがその 時 代の空 気を反 映し,
わ れ わ れ 受 け 手 も共 感 を もっ て 受 容 し てい る ところ か ら, 生活マン ガ が現 代 社 会 や 家 庭 生 活の優れ た資 料に な り う るこ と を 指摘し た。 リア リティの再 現に寄 与するところが大き く, こ こ に生 活 資 料と し て評 価で き る 理 由 が あ る。 表 6は60年代 以降の5
作 品につ いて, 主人 公一
家 が 所有する耐 久消 費 財と当 時の サー
ビス 状況の有無 を ま と め た もの である。
通時的に整理 して み る と,
平 凡 な 家 庭 生 活 も その変容過程 が浮き彫りにさ れる。
卑 近な資料も積み重ねる こ と に よっ て時 代 的に貴 重 な資料に転化 す る とい え る。
さ らに表7
は,
耐 久 消 費財の普 及 率の推 移 を 示 してい る が,
表6
と表7
を 対 照 さ せ る と,
普及率の高い もの ほ どそ の作 品の当 初 か ら所 有 さ れてい る こ と が わ か る。 ま た当 然の こ と な が ら普 及 率の低い もの は登場し ない か,
あ るい は途 中での購入 に よっ て 登 場 す るこ と に な る。
ところ で,
3
世代 家 族の視 点か ら 『サ ザエ さん』 『ちびま る 子 ちゃ ん 』 『と な りの山田 くん 』の3
作 品を 比較して み よう。 「サ ザエ さ ん』 の 父親 (波 平 ) は定 年間 近 と はい え ま だ現 役世代で, 母 親 (フネ) も家 事を担 当する。
『ちび ま る子 ちゃ ん』の祖 父 母 は年金 生活 者で あり,
祖 父がまる子へ のプレゼソ ト に支 給さ れ た ば か りの年金 を 全額 (8万円)つ ぎ 込 む シー
ソがあっ た。 とこ ろが 「とな りの 山 田 くん 』 で一
142一
Showa Women's University
NII-Electronic Library Service ShOW 三1 WOmenTS UniVerSity
表
6
主 人 公宅の耐 久 消 費 財と サー
ビス利 用 状 況 年 代 消費材 他 作 品 カ ラー
テ レ ビ 電気 冷蔵庫 マ イカー
クー
ラー
エアコン VTR パ ソ コ ソ 電 話 機 (家 庭 ) コ ソビニ 宅 配 便65
サザエ さ ん △ △ X × X × ○ X X703
世 代7
人 ダイヤル式 ち び ま る 子 ちゃ ん ○ ○ △ × X X ○ × ○3
世 代6
人 2 ドアー
ダイ ヤ ル式80
た んぽ ぽ さ んの詩 ○ ○「
△ △ △ × ○ ○ ○ 核 家 族3
人2
ド アー
ダイ ヤル式90
とな りの 由田 くん ○ ○ ○ ○ ○ △ ○ ○ ○ 3世代 5人 2ド アー
プッ シュ 式 95 あた しソち ○ ○、
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 核 家 族4人 3ド アー
プッ シュ 式 00 ○・
・
作品 の当初か ら所 有 (登場 ) △…
途 中購入 or一
時所 有 ×…
な し (登 場せ ず) 表7
耐久 消費財の普 及 率 (世帯,
% ) 費 材 他 年 代 カラー
TV 電気冷 蔵庫 マ イ カー
エ ア コ ソ V T R パ ソ コ ン シ ス テ ムキヅチン 1965 51.
4 92 2.
0 70 26,
3 89.
/ 22.
1 5.
9啓
75 90.
3 96.
7 窪1,
2 17.
2 80 98,
2 99,
1 57.
2 39.
2 2.
4 85 99.
1 98,
4 67.
4 52.
3 27,
8 go 99.
4 98.
2 77.
3 63,
7 66.
8 10,
6 95 98,
9 97,
8 80,
D 77,
2 73,
8 15.
6 28.
2 2000 99,
0 98.
0 83,
6 86,
2 78.
6 38,
6 39,
9 は祖母 が大 活 躍する もの の, 祖父 はすで に いない。3
作品の古い順 に 平 均 寿命は男性69
歳,72
歳,76
歳, 女 性75
歳,
77歳,
83歳 とな り,
高 齢 化 率 も 同様に,
7
%,
8
%,
15% と な る。
し た がっ て,
高 齢 化 社 会 に対応 す る作 品がr
ち び ま る子ちゃ ん 』,
高 齢社会 に対 応す る作 品が 『と なりの 山 田 くん』 ということ になるが, 平 均寿 命か ら も納 得できる人物 設 定と な っ てい る。 ち な み に,
高齢 者の子 ど も との 同居 率は 前 者の時 代が7
割強, 後 者の時 代が5
割強である。 な お,
い ず れの作 品に も 人 間の生 死 を直接 扱っ た シー
ソ は登場せず, 家族の機 能か らそれ らが完全に 外部 化した こ と を う か が わ せ る。
最 後に指 摘し て お き たい が,
世帯人員もこれ らの 生活マ ンガ の時 代に,1.
7〜1.
8
人の減少をみたこ と に な るが (表 8参 照),
これ は家 族 内にお ける関 係性 が,
時代と と も に5
つ消 滅した こ と にほかな らない。 個 人化・
私 事 化の時 代を反 映し, 近 隣との紐 帯も 弱 体化 す る な か,
生活マ ソガの世 界で も近 隣 関 係は稀 薄 化しつ つ ある。 家 族や近 隣とい っ た人 間 形成に不
可 欠なプライマ リ な 関 係 性が不 足 し,
しかも崩壊 し か か っ てい る現 在,
近 隣 家 族 あっ て の人 間か ら人間 あっ て の家 族・
個 人の突出へ と時代はシ フ トしてい一
143一
N工 工tEleotronio Library表
8
世 帯人員数 (普通世 帯 )の推 移 年 次 人 員 数 人間 関係 数 1955 4,
97 9.
9 60 4.
548,
0
65 4.
05 6,
2 7D 3.
69 5.
0 75 3.
45 4.
280
3,
33
3,
9
853,
233.
6
903.
06 3,
095
2.
88
2,
7
2000 2.
71 2,
3
人 間 関 係 数=
人 員数 (人 員数一
1)÷ 2で計算 (西脇 ) る。
近 年と み に 多発す る 脱 社会 化の病理現 象もこ こ に起 因 するのではない だ ろうか。
こ う して,
生活マ ソガ は そ れ自体とし て も, ほかの作 品群やデ
ー
タと の比較か ら も,
社 会 論 や 家 族 論 の有 効な資 料とな り うる。
援用 し た作 晶はい ず れも その時 代の平 均 的 家族 像を もっ てい る が ゆ えに,
生 活 資料 とす るに十分な根 拠を もっ て いた とい え る。
本稿では, 生 活マ ンガ の社会学 的・
生活文 化 的考察
を 企図し た が, 再 度生活マ ン ガ の社会 的有 用 性を強 調し て おきたい 。 た か が生 活マ ンガ,
さ れ ど生 活マ ンガ。 *本 文 中で使用 し たデー
タの う ち,
出 所未記 入の デー
タ はr
平 成13
年度 国民 生活 白書国 民の暮 ら し と構 造 改 革』(内閣 府編
,
ぎ ょう せい ) と 『平 成15
年版 国民 生活 白 書デフレ と生活
一
若 年ブ リー
ター
の現 在』 (内 閣府 編, ぎ ょうせい) 記 載の もので あ る。 村上龍 r最 後の家 族』幻 冬 舎 文 庫 版 信田さよ子 『脱 常 識の家 族づ くり』中公新 書ラ ク レ 「家 族の絆」 『文 芸春 秋』2002年 4月 臨 時 増 刊 号 上野 動 物 園開 園120周年 記 念 行 事 実 行 委 員会 『動物園で 撮っ た 家 族の写真』平凡社 袖 井 孝 子 『日本の住まい・
変わ る家 族 』ミ ネ ル ヴァ書 房 町田忍 『懐か し の 昭和30
年 代 』 扶桑社 加藤嶺夫 『東 京の消えた風 景」小 学 館 岩 村 暢子 『変わ る家族 変わ る食卓」 勁 草 書 房 賀 茂 美 則 『家 族 革 命 前 夜』集 英 社 イン ター
ナ シ ョナ ル 小 泉和 子 『和 食の力』平 凡 社 新 書 伊田広 行 『シソ グル化 する 日本』洋 泉 社 新 書 重 松清r
お 父 さ んエ ラい 【単身赴任二 十 人の仲間た ち 』 講 談 社 正 高 信 男 『ケー
タ イ を 持っ た サル』 中 公新 書 上野 千 鶴 子 『上野 千 鶴 子が文 学 を 社 会 学 する 』朝目文 庫 小 倉千 加 子 『結 婚の条 件』朝日新 聞 社 『ザ★ 昭和テ レ ビ ジ ョン』タカ ラ『ATASHIn