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(1)

乗法誤差モデルを用いた最尤非対称

MDS

による

文字色と背景色の組み合わせに対する視認性データの分析

佐部利

Analysis of the Visibility Data for the Combinations of Foreground and Background Colors by Maximum Likelihood Asymmetric MDS Using the Multiplicative Error Model

ShingoSaburi

A maximum likelihood method for asymmetric multidimensional scaling, which was proposed by Saburi and Chino (Comput. Stat. Data Anal., 52:4673-4684, 2008), uses the additive error model in which the normally distributed error terms are added to the dissimilarities. In this study, we introduce in this method the multiplicative error model, where the log-normally distributed error terms are multiplied by the dissimilar-ities, and the corresponding representation of the dissimilarities. It was applied to the visibility data for the combinations of foreground and background colors, assuming the multiplicative as well as the additive error model. The optimal model was found with the multiplicative error model according to AIC.

Key words: Asymmetric multidimensional scaling, Color scheme, Log-normal distri-bution, Maximum likelihood method, Visibility

キーワード:非対称多次元尺度構成法,配色,対数正規分布,最尤法,視認性

1. 問 題

文字と背景の配色は,その視認性を確保する上で重 要な要素である.視認性を確保する基準の一つとして,

World Wide Web Consortium (2000)は,文字色と

背景色の明度差が125以上あることを提案している. ここで,明度は次のように定義される: Yi= 299Ri+ 587Gi+ 114Bi 1000 . (1) ここでRiGiBiはそれぞれ,色iのRGB表色系 における赤,緑,青の値である.この式は,RGB表色 系からYUV表色系の輝度信号(Y)を求める変換式で 愛知学院大学心身科学研究所

(Institute for Psychological and Physical Science, Aichi-Gakuin University) 連絡先:〒 470–0195 愛知県日進市岩崎町阿良池 12 Tel:0561–73–1111 Fax:0561–73–1142 E-mail:saburi@dpc.agu.ac.jp ある.ここでYUV表色系は,色をこの輝度信号と二 つの色差信号(UとV)で表現するもので,映像デー タの保存や伝送に広く用いられている. 文字色と背景色の組み合わせに対する視認性を測定 し分析した先行研究では,様々なアプローチが行われ てきた(例えば,鎧沢・井上,1983;吉田・長谷川・ 安田・福田・長田,1986;槙・田中・留目,2005;佐 部利,2008).特に佐部利(2008)は,基本的な八つの 色から文字と背景が配色された文字列の視認性の測定 を複数のディスプレイを用いて集団で実施し,収集し たデータに対してSaburi & Chino (2008)による非対

称多次元尺度構成法(非対称MDS)の最尤的方法であ

るASYMMAXSCALを適用した.そこでは,四次元

のOkada & Imaizumi (1987)によるモデルが最適と なり,その布置のうち三つの次元は次元毎に重みづけ

られたYUV色空間に近いことが示された.

ここで,佐部利 (2008)が適用した ASYMMAXS-CALは,Takane (1981) による(対称)MDSの最 尤的方法を非対称に拡張したものである.この方法は

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Takane (1981)の方法と同様に,最適な次元数や尺度 水準をAIC (Akaike, 1974)により決定できる.さら に,この方法はいくつかの対称性検定も可能にする. また,ASYMMAXSCALでは,非類似度の表現を 特定する表現モデル,誤差付き非類似度の分布を特定 する誤差モデル,反応の過程を特定する反応モデルの 三つの下位モデルを仮定している.Takane (1981)の 方法では,誤差モデルについて,加算誤差モデル(

addi-tive error model)と乗法誤差モデル(multiplicative

error model)の二つのモデルを導入している.加算誤

差モデルは,正規分布にしたがう誤差が非類似度に加 算されると仮定する.一方,乗法誤差モデルは,対数正 規分布にしたがう誤差が非類似度に乗ぜられると仮定

する.ASYMMAXSCALでは,導入する表現モデル

(Okada & Imaizumi (1987)によるモデル)の特性に より加算誤差モデルのみを取り入れている.だが,例 えばRamsay (1977)は,データ収集法は異なるもの の,マグニチュード推定法を用いた精神物理学的研究 と対数正規分布の仮定との相性の良さについて指摘し ており,また乗法誤差モデルと加算誤差モデルの両方 を導入すれば,Takane (1981)と同様にAICによりど ちらの誤差モデルがデータと適合するか判断できる. そこで本研究では,まずASYMMAXSCALを概観 し,次にこの方法に乗法誤差モデルとそれに対応した 表現モデルを導入する.そして,佐部利(2008) より も多くの色数を使ったより厳密な状況下で文字色と背 景色の組み合わせに対する視認性を測定したデータに, この方法を適用する.後述するように,ここで導入す るモデルは精神物理学的知見と親和性があり,本研究 で扱う配色に対する視認性という知覚現象によく適合 する可能性が考えられる.適用の際には,加算誤差モ デルと乗法誤差モデルの両方を導入して比較する.な お,本研究では佐部利(2008)と同様にAICを用いて モデル比較を行い,また,佐部利(2008)で最適だった 条件が本研究の結果においてどのように位置づけられ るかも確認する. 2. ASYMMAXSCALの概要

Saburi & Chino (2008)は表現モデルの一つとして,

Okada & Imaizumi (1987)による次のモデル(これ

以降OIモデルと略す)を用いている: gij= dij− ri+ rj. (2) ここで,dijは対象iと対象j間のユークリッド距離 dij=  A  a=1 (xia− xja)2 1/2 (3) であり,riは対象iに付属する円,球,または超球の半 径を示す.また,xiaは次元aにおける対象iの座標で, Aは空間の次元数である.このモデルは,gijの対称 部(gij+ gji)/2と歪対称部(gij− gji)/2をそれぞれ, ij間の距離と半径の差で表現する.このモデルでは, 大きな半径をもつ対象から小さな半径をもつ対象へは, その逆よりも修正された距離が小さくなる.Saburi & Chino (2008)ではさらに,gijに構造を仮定しない飽 和表現モデル(saturated representation model: SR

モデル)も導入している.また,OIモデルの対称版と

してのユークリッド距離(Euclidean distance)モデル (これ以降EDモデルと略す)gij= dijと,gij= gji

を課した対称SRモデルも導入している.

gijには誤差が付加されるとし,誤差モデルは誤差付

非類似度の分布を特定する.Saburi & Chino (2008)

は上述したように加算誤差モデル:  τij = gij+ eij eij ∼ N(0, σ2) (4) のみを用いている. 反応の過程を特定する反応モデルは,カテゴリー判 断の法則(the law of categorical judgment)

(Torg-erson, 1958)に準じている.データは評定尺度法によ り収集されるとし,評定カテゴリーは心理学的連続体 上の次のカテゴリー境界値の間隔で表現されるとする: −∞ = b0≤ b1≤ · · · ≤ bM−1≤ bM =∞. ここで,Mは評定カテゴリーの総数である.したがっ て,対象iから対象jへの非類似度がカテゴリーmに 落ちる確率は pijm=  bm bm−1 f (τij) dτij (5) と書ける.ここで,fは平均gij,分散σ2の正規分布 の密度関数を示す.(τij− gij)/σzと置くと,次式 が得られる: pijm=  aijm aij(m−1) φ(z) dz. (6)

(3)

ここで,φは標準正規分布の密度関数を示し, ⎧ ⎪ ⎨ ⎪ ⎩ aijm = bm− gij σ aij(m−1)= bm−1− gij σ (7) である.

なお,bmについてSaburi & Chino (2008)は二つ の制約を取り入れている.一つは潜在的な順序制約 b1≤ b2≤ · · · ≤ bM−1 (8) 以外は無制約とするもので,もう一つは次の線形制約 である: bm= αm + β (α > 0). (9) 前者と後者はそれぞれ,順序尺度と間隔尺度を構成する. 判断者による判断が相互に独立であるとすると,こ の方法における尤度は L = i,j M m=1 pYijmijm (10) と書ける.ここで,Yijmは対象iから対象jへの非 類似度がカテゴリーmに落ちる度数で,ij間の積 は対応する判断が実際に観測された場合にとられると する.この方法ではln Lを最大にするパラメーターを フィッシャーのスコアリング法を用いて推定する. この方法は,モデル間でデータとの適合をAICによ り比較できる.候補モデルは上述のモデルだけでなく, 三つの下位モデルのいずれも仮定しない飽和モデルと, pijm= pjimを課した対称飽和モデルも含む.さらに, この方法は尤度比検定あるいはワルド検定により次の 対称性仮説の検定を可能にする:

H0(cs) : pijm= pjim (1≤i<j≤n; 1≤m≤M−1),

H0(s/sr) : gij= gji (1≤i<j≤n), H0(s/oi) : r1= r2=· · · = rn. ここで,nは対象の総数である.これらの仮説はそれ ぞれ,飽和モデル,SRモデル,OIモデルに基づく. 3. 乗法誤差モデルの導入 乗法誤差モデルは,ASYMMAXSCALにおいては 次のように書ける:  τij = gijeij ln eij∼ N(0, σ2). (11) 乗法誤差モデルにおいてpijmpijm=  ln bm ln bm−1 g(˜τij) d˜τij (12) と書ける.ここで,τ˜ij= ln τijであり,gは平均ln gij, 分散σ2の正規分布の密度関数を示す.なお,ここで はbmはすべて正とし,ln b0ln bMはそれぞれ−∞とする.(˜τij− ln gij)/σz と置けば,乗法誤 差モデルにおいても(6)式が得られる.このとき,(7) 式は次のように置き換えられる: ⎧ ⎪ ⎨ ⎪ ⎩ aijm = ln bm− ln gij σ aij(m−1)= ln bm−1− ln gij σ . (13) ここで,乗法誤差モデルに対応する表現モデルについ て考える.(2)式のOIモデルではgijが負になり得る ため,乗法誤差モデルに合わない.一方,岡本(2010) は,(2)式の乗法型として次のモデルを提案した: gij= dij×rj ri. (14) これは,ウェーバーの法則のように心理的効果が比の形 で表されることがあるという精神物理学的知見を踏ま えたものである(岡本, 2010, 2012).また岡本(2011) は,観測値が,精神物理学的べき法則に基づいて(14) 式のgijを変換したものの対数値を中心とする対数正 規分布にしたがうとする確率モデルを提案している. さらに岡本(2012)は,(14)式を用いた(12)式と同様 の確率モデル及びそのためのベイズ的解法を提案して いる.そこで本研究では,(14)式のモデルを乗法誤差 モデルに対するOIモデルとしてASYMMAXSCAL に導入する.なお,ln riを˜riと再パラメーター化す れば,この乗法型OIモデルではln gijは次のように 表現される: ln gij= ln dij− ˜ri+ ˜rj. (15) したがって,OIモデルを用いる場合の加算誤差モデル と乗法誤差モデルの違いは,非類似度の対称部をdij にするかその対数にするかの違いに帰着される.もち ろん,乗法誤差モデルでも,OIモデルの対称版として ln gij= ln dijなるEDモデルを考えることができる. 乗法誤差モデルにおけるbmに対する制約の一つは,

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(8)式の順序制約を除いて無制約とするものである.一 方,Takane (1981)は次の対数線形制約 bm= βmα (α > 0; β > 0) (16) を提案している.さらに本研究では,対数変換された 心理学的連続体上でln bmが等間隔に並ぶという制約 bm= β exp(m)α (α > 0; β > 0) (17) も検討してみる.この制約は,τ˜ijが対数変換された心 理学的連続体上に構成された間隔尺度で評価されると 仮定する.この仮定は,心理量が物理量の対数に比例 するというフェヒナーの法則に準じているといえる. これ以降,単純化のために,乗法誤差モデルにおける ln bmを次のように再パラメーター化するとする: ln bm= ⎧ ⎪ ⎨ ⎪ ⎩ ˜bm (制約なし) α ln m + ˜β ((16) 式の制約) αm + ˜β ((17) 式の制約). (18) 4. モ デ ル の 特 性 SRモデルと対称SRモデルにおいて,bmが無制約 の場合,乗法誤差モデルでln gijg˜ijと再パラメー ター化すれば(gij> 0と制約),加算誤差モデルと乗 法誤差モデルは一致する.加えて,これらの表現モデ ルでは,(9)式の制約を課した加算誤差モデルと(17) 式の制約を課した乗法誤差モデルも一致する.さらに, これらの表現モデルでは,(16)式の制約を課した乗法 誤差モデルとbm= α ln m + βを課した加算誤差モデ ルも一致する. 加算誤差モデルにおいて,xia(OIモデルかEDモ デルの場合)またはgij(SRモデルか対称SRモデル の場合)に任意の定数s(> 0)を乗じる変換は,(7)式 においてbm(または,αβ),σri(OIモデルの 場合)にsを乗じることにより補償される.この変換 は,乗法誤差モデルでは,(13)式において˜bm(または ˜ β)にln sを加えることで補償される.したがって,乗 法誤差モデルにおけるOIモデルでは,この布置のス ケールの不定性は˜riと独立である.加算誤差モデルに おけるOIモデルでは,gijの対称部と歪対称部を布置 と円によって空間内に同時に表現できる.しかし,乗 法誤差モデルにおけるOIモデルでは,˜riと布置のス ケールは独立しているため,˜riは空間とは別に解釈す る必要がある. 5. デ ー タ 収 集 実験参加者は,暗室を模した箱の中に設置されたノー トパソコン(モデル:ASUS EeePC 1015PEM-BK; モニター:10.1 inch TFT,1024× 600 dpi)の画面を のぞき穴から観察した(観察距離:約52 cm).各参加 者は,共通の背景色で文字色が四通りに配色された「本 日は晴天なり」という文字列(フォント:MS Gothic; サイズ:72ポイント;ボールド体)の見やすさを六段 階(とても見にくい,見にくい,やや見にくい,やや見 やすい,見やすい,とても見やすい)で評価した.文字 色と背景色は,World Wide Web Consortium (2011)

によりキーワードで定義されている17色から選ばれ た.文字と背景が同じ色の組み合わせは含めなかった. 本実験にはまず,色覚異常がないと自己申告した1360 名が参加した.ASYMMAXSCALでは判断の独立性 を仮定しているため,各参加者の最初の刺激に対する 評価のみを分析に用いた.文字色と背景色の組み合わ せの総数は17× 16 = 272であり,各組み合わせに5 名が割り当てられた.その中の五つの組み合わせ(例 えば,背景がwhiteで文字がredの組み合わせ)にお いて,それぞれ割り当てられた5名がすべて評定カテ ゴリーの端にある「とても見やすい」に判断を下した. そのような組み合わせを含むデータではSRモデルの 解において不定性が生じるため,それを解消するため に,これら五つの組み合わせに対してそれぞれ新たに 5名が追加で判断を行った.その結果,1385名(男性 687名,女性698名;平均年齢20.03歳,SD = 4.13, 範囲18–69)が本実験に参加した.なお,本実験の参加 者のうち30歳以上は27名いたが,それらの観測値は 各々割り当てられた組み合わせの中で最頻値に一致す るか,最頻値±2評定カテゴリー以内であったため,極 端な値ではないと判断してデータから除外しなかった. この実験は24カ月かけて断続的に実施された.表1 に,この期間内のある時点で測定された使用色の特性 (XYZ三刺激値)を示す.各色の特性は,色彩輝度計 (コニカミノルタ製CS-200)を用いて,暗室内でその 色のみを画面に表示した際の中央の位置で測定された. 6. 結 果 まず,収集したデータに対し,加算誤差モデル及び 乗法誤差モデルを組み込んだASYMMAXSCALを適 用した.その際にgijを,佐部利(2008)と同様に,背

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表 1. 実験で用いた色の特性 XYZ三刺激値 名前 図中の略号 X Y Z aqua A 56.76 75.46 95.68 black Bk 0.07 0.08 0.13 blue Be 20.78 17.28 89.89 fuchsia F 48.66 34.25 91.35 gray Gy 17.45 18.20 28.84 green Gn 6.48 10.85 1.54 lime L 36.01 58.17 5.90 maroon M 4.66 2.90 0.54 navy N 5.56 3.66 25.64 olive Ol 11.47 14.32 2.02 orange Or 41.67 39.96 4.36 purple P 10.42 6.65 26.16 red R 27.99 17.07 1.53 silver S 49.39 52.52 73.28 teal T 12.30 14.72 28.35 white W 84.86 92.69 97.14 yellow Y 64.16 75.48 7.32 景が色iで文字が色jの文字列の見やすさの程度と定 義した.したがって,(10)式中のYijmを,背景が色i で文字が色jの文字列の見やすさがm番目の評定カテ ゴリー(mが大きいほど見やすいカテゴリー)に入っ た度数と定義した.データをこのようにYijmの形式

にして,Saburi & Chino (2008)の手続きに基づいて パラメーター推定を行った.また,ここでは非対称性 を確認する目的で,比較対象のためにEDモデルなど の対称モデルも候補モデルに含めた.表2に各候補モ デル(後述する本実験独自のモデルを含む)の概要を, 表3にそれらのAICを示す.この分析では,OI,ED, SR,対称SR,飽和,対称飽和の各モデルの中で,bm が無制約の乗法誤差モデルにおける三次元OIモデル のAICが最小となった.なお,表3に示した以外に, OIとEDの各一次元モデルも試したが,多くの条件 で解がうまく収束しなかった.それは加算誤差モデル と乗法誤差モデルのいずれでも同様であったため,一 次元で表現するモデル自体がデータと適合しない可能 性が考えられる.表4に対称性検定の結果を示す.こ れより,H0(s/oi)H0(s/sr) がそこで示した全条件で 棄却された(有意水準5%). 次に,佐部利(2008)で視認性との関係が指摘されて いるYUV色空間をモデルに組み込んで検討した.実 験に用いた色のYUVの各値を得るために,まず表1の

XYZ値をstandard RGB(sRGB)に変換した(Ebner (2007, pp.87–89)参照).次に,(1)式によりY値を, Ui= Bi− YiによりU値を,Vi= Ri− YiによりV 値を得た.通常の変換ではUiViは何らかの定数に より別々に重みづけられるものの,ここでは収集した データに合う重みの推定を試みた.したがって,dijを 次のように定義した,YUVの三次元を組み込んだOI モデルとEDモデルを検討した: dij={wy2(Yi−Yj)2+w2u(Ui−Uj)2+w2v(Vi−Vj)2}1/2. (19) ここで,wywuwvは対応する次元の重みである. この分析で得られた最小のAICは上述の分析で得られ たものよりも大きかった(表3).そこで,Y次元にの み焦点を当て,dijが次のように定義されるY次元の みを組み込んだOIモデルとEDモデルを検討した: dij=  {(Yi−Yj)2}1/2 (A = 1) {(Yi−Yj)2+ a=1A−1(xia−xja)2}1/2 (A > 1).

(20) これは,ヒトの目はYUV色空間の他の二次元よりも 輝度を表すY次元の違いに敏感であり,World Wide Web Consortium (2000)の提案の元にもなっている この次元については視認性の現象に関与している可能 性が考えられるためである.加えて,これまで検討し た中で最も適合が良かったモデル(bmが無制約の乗法 誤差モデルにおける三次元OIモデル)の布置に対し て,その射影がY次元に近づくように布置の伸縮を伴

うプロクラステス変換を施し(Gower & Dijksterhuis

(2004, p.57)参照),さらにその射影に対してY次元 からの差の平均を加えたところ,Y次元にかなり近い ものが得られた.図1にその射影とY次元の散布図を 示す.なお,両者のピアソンの積率相関係数は.964と なった.このことも,布置にY次元を組み込んだモデ ルを検討する根拠の一つである.なお,このモデルに は,第4節で述べた布置のスケールの不定性はない. 表3の候補モデルの中で,bmが無制約の乗法誤差モ デルにおけるY次元を組み込んだ三次元OIモデルが 最適(AICが最小)となった.図2に,この最適モデ ルで得られた布置とr˜iの推定値を示す.Y次元以外の 第一次元と第二次元については,それらの主軸を基準 に回転された(Borg & Groenen(2005, pp.162–163) 参照).r˜iの推定値はそれらの最小値がゼロになるよ うに調整された.加えて,この最適モデルで得られた

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表 2. 各候補モデルの概要 候補モデル 仮定 OIモデル gij= dij− ri+ rj τij∼ N(gij, σ2) (加算誤差モデル) ln gij= ln dij− ˜ri+ ˜rj τ˜ij∼ N(ln gij, σ2) (乗法誤差モデル) EDモデル gij= dij τij∼ N(gij, σ2) (加算誤差モデル) ˜ τij∼ N(ln gij, σ2) (乗法誤差モデル) YUV色空間を組み込んだ OI モデル (19)式 gij= dij− ri+ rj τij∼ N(gij, σ2) (加算誤差モデル) ln gij= ln dij− ˜ri+ ˜rj τ˜ij∼ N(ln gij, σ2) (乗法誤差モデル) YUV色空間を組み込んだ ED モデル (19)式 gij= dij τij∼ N(gij, σ2) (加算誤差モデル) ˜ τij∼ N(ln gij, σ2) (乗法誤差モデル) YUV色空間の Y 次元を組み込んだ OI モデル (20)式 gij= dij− ri+ rj τij∼ N(gij, σ2) (加算誤差モデル) ln gij= ln dij− ˜ri+ ˜rj τ˜ij∼ N(ln gij, σ2) (乗法誤差モデル) YUV色空間の Y 次元を組み込んだ ED モデル (20)式 gij= dij τij∼ N(gij, σ2) (加算誤差モデル) ˜ τij∼ N(ln gij, σ2) (乗法誤差モデル) SRモデル gijに構造を仮定しない 対称 SR モデル gij= gjiの下で gijに構造を仮定しない 飽和モデル pijmに構造を仮定しない

対称飽和モデル pijm= pjimの下で pijmに構造を仮定しない

に,この最適モデルの条件のうち誤差モデルを加算誤 差モデルにした場合(bmが無制約の加算誤差モデル におけるY次元を組み込んだ三次元OIモデル)で得 られた布置とriの推定値を図4に示す.なお,この モデルの第一次元と第二次元の座標値には,図2に示 した最適モデルの第一次元と第二次元の座標値に近く なるようにSch¨onemann & Carroll (1970)によるプ ロクラステス変換を施してある.ただし,これら両モ デルでは三次元のうち一次元が固定されており布置の スケールの不定性はないため,座標値全体に対するス ケール値の乗算は行わなかった.また,riの推定値は それらの最小値がゼロになるように調整された.なお, 図2,図3,図4における点の明暗はY次元の値に対 応しており,点が明るいほどY次元の値が高いことを 示している.また,図5に,この最適モデルで得られ た˜bmの推定値と95%漸近信頼区間を示す. 7. 考 察 表3より,加算誤差モデルと乗法誤差モデルの両方 で,いかなる表現モデルでも,bmに制約を課すよりは 課さない場合の方がデータとの適合が良かった.また, 加算誤差モデルに限定すると,YUV色空間の次元を 組み込んだ本実験独自のモデル以外では,(bmが無制 約の)四次元OIモデルでAICが最小となった.この モデルの条件は,加算誤差モデルのみを用いた佐部利 (2008)で得られた最適モデルの条件と同一であった. 本実験独自のモデルを含めた場合,加算誤差モデルで は,Y次元を組み込んだ四次元OIモデルのAICが最 小となった.一方,乗法誤差モデルでは,本実験独自 のモデルを含めない場合は三次元OIモデルで,含め た場合はY次元を組み込んだ三次元OIモデルでAIC が最小となった.このように,加算誤差モデルの中で は四次元,乗法誤差モデルの中では三次元のOIモデ ルが適合しており,誤差モデルによって最適な次元数 が異なる結果となった.本実験ではすべての候補モデ ルの中で,bmが無制約の乗法誤差モデルにおけるY 次元を組み込んだ三次元OIモデルが最適となった. YUV色空間のY次元を組み込んだモデルが最適と なったことは,佐部利(2008)の知見と,World Wide Web Consortium (2000)の提案に部分的に合致する. 空間全体では,図2と図3より,Y次元が低いと点が

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表 3. 各候補モデルの AIC 加算誤差モデル 乗法誤差モデル 候補モデル 次元数 bmに制約なし bm= αm+β bmに制約なし ln bm= αm+ ˜β ln bm= α ln m+ ˜β OIモデル 2 29.17 ( 52) 142.80 ( 49) 13.49 ( 52) 136.89 ( 49) 104.24 ( 49) 3 17.98 ( 66) 132.00 ( 63) 10.62 ( 66) 126.74 ( 63) 103.26 ( 63) 4 17.20 ( 79) 130.03 ( 76) 15.39 ( 79) 128.63 ( 76) 107.66 ( 76) 5 30.65 ( 91) 143.12 ( 88) 28.52 ( 91) 141.44 ( 88) 121.57 ( 88) 6 42.03 (102) 154.02 ( 99) 41.95 (102) 153.33 ( 99) 136.40 ( 99) 7 51.51 (112) 162.72 (109) 52.88 (112) 163.18 (109) 145.11 (109) 8 60.15 (121) 170.63 (118) 62.23 (121) 172.69 (118) 154.73 (118) EDモデル 2 30.93 ( 36) 145.89 ( 33) 15.07 ( 36) 136.62 ( 33) 110.86 ( 33) 3 20.87 ( 50) 136.06 ( 47) 13.26 ( 50) 129.90 ( 47) 104.23 ( 47) 4 18.85 ( 63) 132.82 ( 60) 17.27 ( 63) 131.60 ( 60) 108.63 ( 60) 5 32.75 ( 75) 146.66 ( 72) 30.69 ( 75) 144.62 ( 72) 122.70 ( 72) 6 44.28 ( 86) 157.27 ( 83) 44.66 ( 86) 157.34 ( 83) 136.82 ( 83) 7 53.83 ( 96) 166.60 ( 93) 55.81 ( 96) 167.53 ( 93) 149.40 ( 93) 8 64.10 (105) 176.18 (102) 65.95 (105) 177.86 (102) 157.66 (102) YUV色空間を組み込んだ OI モデル 3 120.70 ( 24) 246.79 ( 21) 110.14 ( 24) 235.35 ( 21) 212.04 ( 21) YUV色空間を組み込んだ ED モデル 3 119.21 ( 8) 246.78 ( 5) 109.14 ( 8) 235.70 ( 5) 210.64 ( 5) YUV色空間の Y 次元を 1 132.76 ( 22) 258.95 ( 19) 197.08 ( 22) 333.16 ( 19) 296.54 ( 19) 組み込んだ OI モデル 2 51.54 ( 38) 168.70 ( 35) 55.72 ( 38) 152.35 ( 35) 128.67 ( 35) 3 16.53 ( 53) 127.49 ( 50) 3.45 ( 53) 118.66 ( 50) 95.02 ( 50) 4 9.68 ( 67) 122.85 ( 64) 6.11 ( 67) 120.90 ( 64) 98.75 ( 64) 5 19.60 ( 80) 132.12 ( 77) 19.30 ( 80) 136.33 ( 77) 110.53 ( 77) 6 31.04 ( 92) 142.99 ( 89) 29.81 ( 92) 152.04 ( 89) 121.71 ( 89) 7 41.87 (103) 153.40 (100) 42.04 (103) 168.85 (100) 134.59 (100) 8 52.59 (113) 163.70 (110) 54.52 (113) 179.41 (110) 147.84 (110) YUV色空間の Y 次元を 1 132.78 ( 6) 260.42 ( 3) 196.52 ( 6) 333.73 ( 3) 295.36 ( 3) 組み込んだ ED モデル 2 50.64 ( 22) 169.23 ( 19) 55.65 ( 22) 157.48 ( 19) 126.68 ( 19) 3 16.33 ( 37) 130.53 ( 34) 5.37 ( 37) 122.49 ( 34) 96.21 ( 34) 4 11.96 ( 51) 126.27 ( 48) 8.10 ( 51) 124.96 ( 48) 99.95 ( 48) 5 20.18 ( 64) 133.82 ( 61) 22.03 ( 64) 139.04 ( 61) 109.29 ( 61) 6 33.37 ( 76) 146.33 ( 73) 32.32 ( 76) 153.43 ( 73) 123.71 ( 73) 7 44.07 ( 87) 156.84 ( 84) 44.60 ( 87) 169.14 ( 84) 136.98 ( 84) 8 55.07 ( 97) 168.03 ( 94) 57.45 ( 97) 178.95 ( 94) 149.06 ( 94) 加算誤差モデル 候補モデル 候補モデル bmに制約なし bm= αm + β bm= α ln m + β 飽和モデル 1580.40 (1360) SRモデル 210.37 (276) 314.12 (273) 303.97 (273) 対称飽和モデル 749.92 ( 680) 対称 SR モデル 113.41 (140) 224.34 (137) 206.53 (137) カッコ内の数字は有効パラメーター数,下線は最小値を示す. AICの値からは 3630 が引かれている. 密集し,Y次元が高くなるにつれて点が広がっており, black(Bk)を頂点とした円錐状に点が分布している ようにみえる.したがって,輝度の低い色同士よりも 輝度の高い色同士の方が,空間内での距離が長い傾向 がわかる.円錐形の色空間としては,色を色相(H), 彩度(S),明度(V)で表すHSV色空間があるが,そ こでは無彩色の白や灰色は中心軸上にあるのに対し, 図2の第1–第2次元平面上ではwhite(W)とsilver (S)は分布の周辺に位置している. 本研究ではgijを,背景が色iで文字が色jの文字列 の見やすさの程度と定義して分析したので,色間距離 が長いほど見やすい組み合わせだと解釈できる.した

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表 4. 対称性検定の結果 bmに制約なし bm= αm + β 対称性検定 次元数 χ2 自由度 pχ2 自由度 pH0(s/oi)に対する尤度比検定 2 33.76 16 .006 35.09 16 .004 (加算誤差モデル) 3 34.90 16 .004 36.06 16 .003 4 33.65 16 .006 34.78 16 .004 5 34.10 16 .005 35.53 16 .003 6 34.25 16 .005 35.25 16 .004 7 34.32 16 .005 35.88 16 .003 8 35.95 16 .003 37.55 16 .002 bmに制約なし ln bm= αm+ ˜β ln bm= α ln m+ ˜β 次元数 χ2 自由度 pχ2 自由度 pχ2 自由度 pH0(s/oi)に対する尤度比検定 2 33.58 16 .006 31.73 16 .011 38.62 16 .001 (乗法誤差モデル) 3 34.64 16 .004 35.17 16 .004 32.97 16 .007 4 33.88 16 .006 34.97 16 .004 32.96 16 .007 5 34.17 16 .005 35.19 16 .004 33.13 16 .007 6 34.71 16 .004 36.01 16 .003 32.41 16 .009 7 34.93 16 .004 36.35 16 .003 36.29 16 .003 8 35.73 16 .003 37.17 16 .002 34.94 16 .004 bmに制約なし bm= αm + β bm= α ln m + β χ2 自由度 pχ2 自由度 pχ2 自由度 pH0(s/sr)に対するワルド検定 166.76 136 .038 173.99 136 .015 166.51 136 .039 (加算誤差モデル) χ2 自由度 pH0(cs)に対する尤度比検定 529.52 680 .9999948 A Bk Be F Gy Gn L M N Ol Or P R S T W Y 0 0 50 50 100 100 150 150 200 200 250 250 Y of YUV Y 図 1. bmが無制約の乗法誤差モデルにおける三次元 OI モ デルの布置の射影と YUV 色空間の Y 次元の散布 図.この射影(Y’)が Y 次元に近づくように布置が 変換されている.本図中で略号で示した色の内容は 表 1 に示す. がって最適モデルの布置より,輝度の低い色同士の組 み合わせは全体的に見にくく,輝度の高い色同士の組 み合わせは相対的に見やすいものが多いといえる.さ らに,輝度の低い色と高い色の組み合わせは総じて見 やすいことがわかる.ただし,この最適モデルは乗法 誤差モデルを適用しているため,(15)式に基づいて解 釈するには色間距離を対数変換する必要があるので,色 間距離が長くなるほど,さらなる距離の増加分が見や すさに与える影響は小さくなる.歪対称部については, (15)式より,r˜iが小さな色が背景で大きな色が文字の 組み合わせはその逆の組み合わせよりも見やすいと解 釈される.したがって,図2より,r˜iが大きなpurple (P)やred(R)のような色は背景よりも文字に合い やすく,˜riが小さなsilver(S)やlime(L)のような 色は文字よりも背景に合いやすいことがわかる.カテ ゴリー境界値については,図5より,対数変換された 心理学的連続体上で,C2(見にくい)とC3(やや見に くい)という否定的なラベルのカテゴリーは,C4(や

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A Bk Be F Gy Gn L M N Ol Or P R S T W Y A Bk Be F Gy Gn L M N Ol Or P R S T W Y A Bk Be F Gy Gn L M N Ol Or P R S T W Y 0 50 100 150 200 250 0 50 100 150 200 250 0 50 100 150 200 250 Y of YUV Dim. 1 Y of YUV Dim. 2 Dim. 2 Dim. 1 0 50 100 150 200 250 0 50 100 150 200 250 0 50 100 150 200 250 estimate of r~i A Bk Be F Gy Gn L M N Ol Or P R S T W Y 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 図 2. 最適モデルで得られた布置と ˜riの推定値.第一次元と第二次元は主軸を基準に回転されている.˜riの推定値は最小 値がゼロになるように調整されている.本図中で略号で示した色の内容は表 1 に示す.点の明暗は YUV 色空間の Y次元に対応し,明るいほど Y 次元が高いことを示す. や見やすい)とC5(見やすい)という肯定的なラベル のカテゴリーよりも広いことがわかる. 本研究で得られた最適モデル(乗法誤差モデルを適 用)と,最適モデルの条件で誤差モデルを加算誤差モ デルにした場合を比較すると,図2の˜riと図4のri のグラフの形状には大きな違いはみられない.空間布 置については,YUV色空間のY次元の組み込みは共 通しているので,これらの図の左下に示した第1–第2 次元平面に注目すると,全体的によく似た布置を描い ているものの,輝度の低いblack(Bk),maroon(M) と輝度の高いwhite(W),aqua(A)の位置に若干の 違いがみられる.特にblackは,図2ではこの平面上 の布置の中心付近に位置しているのに対して,図4で はやや中心からずれており,特にwhiteとaquaとは 布置の周辺の他の明るい色と比べて近い位置にある. whiteとaquaについてはさらに,図4ではこの平面 上で互いに近い位置にあるのに対し,図2では比較的 0 50 100 150 200 250 0 50 100 1 50 200 250 0 50 100 150 200 250 Dim. 1 Dim. 2 Y of YUV A Bk Be F Gy Gn L M N Ol Or P R S T W Y 図 3. 最適モデルで得られた布置の三次元散布図.第一次 元と第二次元は主軸を基準に回転されている.本図 中で略号で示した色の内容は表 1 に示す.点の明暗 は YUV 色空間の Y 次元に対応し,明るいほど Y 次元が高いことを示す.

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A Bk Be F Gy Gn L M N Ol Or P R S T W Y A Bk Be F Gy Gn L M N Ol Or P R S T W Y A Bk Be F Gy Gn L M N Ol Or P R S T W Y 0 50 100 150 200 250 0 50 100 150 200 250 0 50 100 150 200 250 Y of YUV Dim. 1 Y of YUV Dim. 2 Dim. 2 Dim. 1 0 50 100 150 200 250 0 50 100 150 200 250 0 50 100 150 200 250 estimate of r i A Bk Be F Gy Gn L M N Ol Or P R S T W Y 0 10 20 30 40 50 図 4. 最適モデルの条件のうち誤差モデルを加算誤差モデルにした場合で得られた布置と riの推定値.第一次元と第二次 元は図 2 の第一次元と第二次元に近づけるように変換されている.riの推定値は最小値がゼロになるように調整さ れている.本図中で略号で示した色の内容は表 1 に示す.点の明暗は YUV 色空間の Y 次元に対応し,明るいほど Y次元が高いことを示す. 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 5.5

C

1

C

2

C

3

C

4

C

5

C

6 図 5. 最適モデルで得られた ˜bmの推定値と 95%漸近信頼区間.C1, . . . , C6はそれぞれ,「とても見にくい」「見にくい」 「やや見にくい」「やや見やすい」「見やすい」「とても見やすい」の各評定カテゴリーを示す. 離れている.なお表3より,加算誤差モデルでは,こ の三次元モデルよりもこれに一次元追加した四次元モ デルの方がデータとの適合が良かった.視認性の表現 の対称部に色間距離をあてる加算誤差モデルでは,三 次元ではデータをうまく表現しきれずこれら両極端の 輝度の色の布置に歪みが生じて追加の次元を必要とす るのに対し,乗法誤差モデルではその対称部に色間距 離の対数をあてることで三次元でもそれらの色にうま く対処でき,それがデータとの適合の良さにつながっ た可能性が考えられる.なお,ヒトの色覚は三種類の 錐体細胞に基づいており,各種色空間は表現の形式は 違っても基本的に三次元で色を表現している.本実験 で得られた最適モデルが三次元であったことはこのこ とと整合性があるといえ,Y次元以外で得られた二つ の次元が色の輝度以外の何らかの属性と関係している 可能性を考えることができる.

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色空間と色知覚に関しては,マンセル表色系を用い た非類似度データを分析した多くの研究において,色 をユークリッド空間に埋め込んでおり(Indow, 1988), 本研究もデータの種類は異なるものの,それに準じて いる.そして,本研究では布置の一つの次元がYUV 色空間の輝度を表すY次元で特定できた.Y次元以外 の二つの次元には,おそらく使用色の輝度以外の属性 の情報が何らかの形で含まれていると考えられる.ま た,データと適合したのは色間距離の対数であり,そ れらの次元は既存の色空間を単純にそのまま当てはめ て特定できるものではない可能性がある.Y次元以外 でln gijを構成する要素,つまり残り二つの次元とr˜i の特定が今後の検討課題であろう.これらが使用色の 何らかの属性を使って特定できれば,任意の配色の良 さを診断するツールの開発につながると期待される. なお,一方で,非類似度データの分析においてはリー マン空間の利用に関する議論も行われており(Indow, 1988),本研究で扱った視認性の現象についても,その 他の空間への適用も検討の余地があるだろう. 謝 辞 本論文の審査過程で査読者の先生方から有益なご指 摘をいただきました.ここに謝意を表します. 参 考 文 献

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表 1. 実験で用いた色の特性 XYZ 三刺激値 名前 図中の略号 X Y Z aqua A 56.76 75.46 95.68 black Bk 0.07 0.08 0.13 blue Be 20.78 17.28 89.89 fuchsia F 48.66 34.25 91.35 gray Gy 17.45 18.20 28.84 green Gn 6.48 10.85 1.54 lime L 36.01 58.17 5.90 maroon M 4.66 2.90 0.54 navy N 5.56 3.
表 2. 各候補モデルの概要 候補モデル 仮定 OI モデル g ij = d ij − r i + r j τ ij ∼ N(g ij , σ 2 ) (加算誤差モデル) ln g ij = ln d ij − ˜r i + ˜r j τ ˜ ij ∼ N(ln g ij , σ 2 ) (乗法誤差モデル) ED モデル g ij = d ij τ ij ∼ N(g ij , σ 2 ) (加算誤差モデル) ˜τ ij ∼ N(ln g ij , σ 2 ) (乗法誤差モデル) YUV 色空間を組み込んだ
表 3. 各候補モデルの AIC 加算誤差モデル 乗法誤差モデル 候補モデル 次元数 b m に制約なし b m = αm+β b m に制約なし ln b m = αm+ ˜ β ln b m = α ln m+ ˜β OI モデル 2 29.17 ( 52) 142.80 ( 49) 13.49 ( 52) 136.89 ( 49) 104.24 ( 49) 3 17.98 ( 66) 132.00 ( 63) 10.62 ( 66) 126.74 ( 63) 103.26 ( 63) 4 17.20
表 4. 対称性検定の結果 b m に制約なし b m = αm + β 対称性検定 次元数 χ 2 自由度 p 値 χ 2 自由度 p 値 H 0 (s/oi) に対する尤度比検定 2 33.76 16 .006 35.09 16 .004 (加算誤差モデル) 3 34.90 16 .004 36.06 16 .003 4 33.65 16 .006 34.78 16 .004 5 34.10 16 .005 35.53 16 .003 6 34.25 16 .005 35.25 16 .004 7 34

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