1.はじめに 弊社は,東京竹芝桟橋から伊豆諸島を結ぶ海運会社 として明治22 年 11 月に設立され,現在 128 年目を迎 える. 今回は平成26 年 6 月 27 日に就航した鉄道建設・運 輸施設整備支援機構との共有船,総トン数5681 トン の貨客船「橘丸」を紹介する. 本船は主に,東京~三宅島~御蔵島~八丈島の定期 船として就航しており,東海汽船に就航する船舶では 初めてディーゼル機関と電動アジマス推進器を組み合 わせた複合推進システムを採用したスーパーエコシッ プである. ネーミングについては,当社で戦前から昭和48 年 まで活躍し「東京湾の女王」と呼ばれた往年の名船 「橘丸」を継承,その姿を懐かしむご年配をはじめ, 多くの人に気軽に伊豆諸島への船旅を楽しんで頂こう との思いから名付けられた. 船体のカラーリングは当社の名誉船長であり,アン クルトリスのキャラクターで一世を風靡した「柳原良 平」氏がデザインを担当し,先代の「橘丸」に使用され たイエローオーカー色を基調とし,オリーブ色を加え たツートンカラーリングを採用した. 2.本船の概要 本船は,「かめりあ丸」の代船として建造され,高効 率推進システムの採用により大幅な省エネ・環境負荷 低減を実現し,国内最大級の貨客船で,優雅で快適な 船旅を演出するため多種多様な公室,客室を装備した スーパーエコシップ旅客船(SES)であり,内燃機関 と電動機関の異なる動力源を搭載するタンデムハイブ リッド方式推進システムを装備した旅客船第1 号であ る. 基本性能については下記の通りである.
ス ー パ ー エ コ シ ッ プ
“ 橘 丸 ” と
ジ ェ ッ ト フ ォ イ ル “ セ ブ ン ア イ ラ ン ド ”
高 塚 一 也 図 1 橘 丸 全 景スーパーエコシップ“橘丸”と
ジェットフォイル“セブンアイランド”
高 塚 一 也表1 橘丸 主要目 資格 JG2 種船 限定近海(非国際) 全長 118.0 m 幅 17.0 m 喫水 5.4 m 総トン数 5681 トン 載貨重量 1427 トン 航海速力 19.0 ノット 推進器 2サイクルディーゼル (4350kw) 1基 推進電動機 (1500kw) 1基 その他 フィンスタビライザー 1 対 バウスラスター (480kw×7.5 トン/基) 2 基 3.船内設備 客室は,乗客のニーズに対応し快適性を向上させた. 個室需要の増大に対応,特等室(2 名定員)を 10 部屋, 特1 等室の 4 名部屋をグループやファミリー向けの和 室タイプとベッドタイプの2 種類とし,従来の特 2 等 椅子席を廃止して特2 等寝台,2 等和室を増席した. バリアフリー対応として2 等優先席の新設,乗降口 から乗れるエレベーターや車椅子対応の化粧室を設置 した. 旅客サービスの一環として船内フリーWi-Fi もある. その他,伊豆諸島の特産品を使った料理が食べられ るレストランや,シャワールーム,小さい子の遊ぶ場 所としてのキッズルームやペットルームも完備してい る. レストラン横のラウンジには,橘丸物語という柳原 良平氏が描いた初代橘丸のギャラリーもあるので乗船 したら是非訪れて欲しい. 図2 ラウンジ 橘丸ギャラリー 図3 特等室 図4 特 1 等室(和室タイプ) 4.推進システム タンデムハイブリッド型CRP 推進方式とは, タンデム:2 つのプロペラ(CPP とアジマス推進器) が一直線に配置 ハイブリッド:ディーゼル推進(CPP)と電気推進 CRP:二重反転プロペラ [前部]1 機 1 軸 [後部]電動アジマス推進器 特徴 ① 省エネ技術(環境負荷低減) a)省エネ船型の実現(従来の 2 軸船を 1 軸船へ) ・付加物抵抗減による大幅な省エネを実現 ・CFD 計算、模型試験で最適船型を決定 b)最適プロペラの設計 ・前後のプロペラバランスを最適とするプロペラ を設計 ・省エネ型プロペラキャップHVFC を採用 c)低速電子制御主機関の採用 ・低燃費の低速主機関(電子制御)を採用 この結果,弊社「さるびあ丸」2 機 2 軸方式と比較し
て環境負荷低減量は,CO2:約 19%・NOx:約 57% 削減 ② 快適性(低騒音・低振動)の向上 ・1 軸により主機関が 1 台となり,必要馬力が低減 するため. ・必要馬力を主機関と静粛な電気推進にて分担す るため. ③ 安全性・就航率の向上 ・従来のCPP とバウスラスターに加え,アジマ ス推進器をスタンスラスターとして使用するこ とで容易な離着岸作業ができる. ・主機関にトラブルが起きても、アジマス推進器 で航行が可能となる. 図 5 アジマス推進器 5.機関関係 本船の特徴である「タンデム・ハイブリッド型CRP 式」について特徴を説明する. 主機関:三菱6UEC35LSE-Eco-B2 (4350kw×167min-1) (電子制御エンジンの採用によりNOx2 次規制適用) 直結で4 翼 CPP を駆動 主発電機関:ダイハツディーゼル6DE-23 (1500kw800min-1/基)3 基 この発電機で発生した電力を用いてインバーターを介 し1500kw の電動機を運転し 5 翼 CRP を駆動 (通常航行時2 基運転) その他 ① 在来船では蒸気ボイラを採用してきましたが、本 船より熱媒ヒーターと排ガスエコノマイザ-を採 用したことによる燃費削減を実証した。 ② 排熱を利用したビルジ濃縮装置を設置し ECO な 仕様とした. ③ 停泊中は主発電機関とは別の停泊用発電機関(主 発の約1/4 の出力)を運転し、停泊中の燃料消費 削減とCO2 排出抑制に取り組んでいる. ④ セントラルクーリングシステムを採用し,熱効率 を上昇させた. ⑤ 船内全ての空調システムはビルマルチ式とし、省 電力による燃料削減と個々の温度調整による快適 性を向上させた. 次に,旅客船(ジェットフォイル)「セブンアイラン ド」を紹介する. 図 6 セブンアイランド愛 6.ジェットフォイルとは ボーイング929 これが正式名称です.航空機メーカ ーであるボーイング社が当時の最先端エレクトロニク ス技術を駆使して完成させた超高速船です. 特徴として,波高 3.5mの荒海でも航空機同様の自 動姿勢制御装置により揺れが少なく,時速80km 以上 で航海することが可能です. 7.どういう仕組みで海上を「飛ぶ」のか? ジェットフォイルは,ガスタービンエンジンで駆動 される「ウォータージェット推進器」の推力で前進し, 船体の前後の水中翼に発生する揚力で海面上に飛び上 がります.海面上に飛び上がって走行する状態を「翼走」 といいますが,翼走中のジェットフォイルの動きは航 空機と極めて似ています.船体のバランス制御を行う 際には,水中翼に装備されているフラップを自動姿勢 制御装置でコントロールして常に水面から一定の高さ を保ち,旋回時にはヘルム操作一つで船体を内側方向
に傾斜させて滑らかに回頭させることができる. いわばジェットフォイルは,大気の代わりに海水か ら揚力を得て飛ぶ、「海の飛行機」である. 8.乗り心地について ジェットフォイルは,通常の船舶とは異なり,翼走 中は水の浮力を受けておらず,海中を進む水中翼に発 生する「揚力」で海上に飛び上がっており,その揚力 は,水中翼に装備のフラップを作動させることによっ て思うままにコントロールでき,船体を容易に旋回さ せるた,、海面からの高さを一定に保つことができ,不 快な動揺を抑えるように制御された状態で,海面上を 飛んでいるため,翼走時にはほとんど動揺せず,素晴 らしい乗り心地で航走する. 翼走している間は,船体の各部に備えた各センサー と自動姿勢制御装置が船の姿勢と動揺を検知及び制御 している. 9.荒天航海について 翼走限界波高には,波の周期(波長),波の方向,船 長の技量など,様々な要素が絡みあっていて一概には 言えないが,一般的には波高3.5m 程度まで航走する ことが可能です.さらに具体的に説明すると, ① 波長が 80m以上の「うねり」であれば航行は極め て容易であり,有義波高5~6m以上でも走ること が可能です. ② 波長が 70~80m位の条件であれば、有義波高 4~ 5mまでは可能です. ③ 波長が 50mと短く、時に 30m位の極端に波長の 短い、いわゆる三角波が混じる悪条件でも,3.5m までは航海できる. 10.旋回について 翼走時の旋回は,主としてフラップを使って行う.後 部水中翼のフラップを左右逆方向に動かすことによっ て,船体は内側に傾斜して旋回を始める. これに伴って前部ストラットが旋回方向に向かって 回転するため,水流の抵抗のないスムーズな旋回が可 能となる. 艇走中のコントロールは,デフレクターとリバーサ ーを駆使して行われます.デフレクターによって噴流 の方向を左右に偏向させ,また,リバーサーによって 逆噴射も行う. ウォータージェット推進器は2 基ありますので, 2 つの噴流を前後左右にいろいろ組み合わせることで, 船体をあらゆる方向へ移動することができる. 図 7 リバーサーとデフレクター 11.燃料消費量は ジェットフォイルが,43 ノットの航海速力で航走し ている際の主機ガスタービンの燃料消費量は,およそ 54L/mile(軽油)である. これは,ディーゼルルエンジン駆動の弊社さるびあ 丸の燃料消費量42L/mile(C 重油)と比べて少ない消 費量ではありませんが,軽量・高速化,振動の軽減など, 数多くのメリットが得られることを考えると効率がよ いとも考えられる. また,燃費を考えるときには,燃料消費量だけでな く,時間あたりの航走距離を考慮する必要がある. つまり,ジェットフォイルは目的地まで到達する時間 が短いので一定の距離を航走するのに必要とする燃料 の量で比較すると,ディーゼルエンジンとあまり変わ りがありません. 12. メンテナンス作業について ジェットフォイルは主機関にガスタービンを使用し, また,本船の頭脳ともいえる自動姿勢制御装置を搭載 しています.その他にも,フラップ駆動用のアクチュエ ーターなど,航空機の技術が多く導入されているので, 通常の高速船とはメンテナンスの要領が異なる. 運航会社はジェットフォイル専門の整備チームを持 っており,毎日運航後次のようなメンテナンスを実施 している.
① ガスタービン回りや油圧系統の点検 ② 日常的に実施する項目については、「タスクカード」 と呼ばれる整備項目リスト及び「メンテナンスマ ニュアル」に則った作業. 13. おわりに 今回紹介した,「橘丸」「セブンアイランド」は東京 と伊豆諸島を結ぶ航路に就航しています.. 橘丸のシステムは,さるびあ丸の代替船にも搭載が 検討され,ジェットフォイルについては,現時点にお いて生産再開が難しい推進システムについては既存就 航船の整備品を準用して,25 年振りに新造船が建造さ れます.(2020 年 7 月就航予定) 快適な船旅を満喫すると同時に,自然豊かな伊豆諸 島に訪れてみて下さい.「お待ちしております」 著者紹介 高塚 一也 1970 年生. 東海汽船株式会社 一等航海士 富山商船高等専門学校 航海学科卒業