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中国の大学生におけるマクロ経済学理解力の特徴とパス解析 : 認知レベルの軸を中心に

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Ⅰ.はじめに

 中国の北京城市学院の経済学教育研究チームは中国 の大学生における経済学理解力についてすでに総合分 析を行った。2)また,中国と日本の間のミクロ経済学 理解力とマクロ経済学理解力についてもそれぞれ比較 研究を行った。3)それらの研究に基づき,今回は早稲 田大学アジア太平洋研究センターの山岡道男教授を中 心とした経済教育研究部会の研究方法4)を取り入れ, 中国の大学生におけるマクロ経済学理解力について定 量分析を行いたい。  本稿ではマクロ経済学のテスト問題を認知レベルで 分類し,中国における大学生のマクロ経済学理解力の 特徴分析とパス解析を行った。マクロ経済学理解力の 特徴に関しては,どの要因が理解力に影響しているか を探ることに,またパス解析部分では,どの認知レベ ルの問題の回答が,ほかのどの認知レベルの問題の回 答に影響しているかを究明することに重点を置いた。 そして,そこから経済学教育上注意すべきことを導く のが本稿の目的である。

Ⅱ.マクロ経済学のテスト問題の構成

 本稿の研究はアセスメント・テストによる大学生の 調査5)を基にしており,テストから収集したデータに 対して分散分析とパス解析を行った。テスト問題は 30 問からなっており,それらは経済学の分野と認知 レベルの軸から構成されている(表 1 を参照)。  マクロ経済学のテスト問題は 6 つの分野と 3 つの認 知レベルに分類される。分野別に見ると,30 問のう ち,4 問が総体的な経済活動,7.5 問が総需要と総供給, 4 問が通貨と金融市場,8.5 問が金融・財政政策,3 問 が政策論争と応用,3 問が国際経済の分野にそれぞれ 属している。認知レベルから見ると,このテスト問題 は「認識・理解」「明示的応用」「暗示的応用」の 3 つ のレベルに分類される。30 問のうち認識・理解レベ ルが6問,明示的応用レベルが16問,暗示的応用レベ ルが 8 問である。  認識・理解レベルの問題は,経済的概念を理解もし くは把握しているかを問うもので,その概念を知って いて理解していれば問題は簡単に解けるが,そうでな

中国の大学生における

マクロ経済学理解力の特徴と

パス解析

1) ─

認知レベルの軸を中心に

The Journal of Economic Education No.32, September, 2013

Characteristics of Understanding on Macroeconomics and Relevant Path Analysis for Chinese University Students : On the Aspect of Cognitive Extent

Lin, Jiemei Yin, Xiuyan Chen, Yi 林 潔梅(北京城市学院) 尹 秀艶(北京城市学院) 陳 怡(北京城市学院) 表 1 マクロ経済学のテスト問題の構成 分野 認知レベル 計 認識・理解 明示的応用 暗示的応用 総体的な経済活動 1 2/11/19 4 問(13.3%) 総需要と総供給 4/17* 3/13/14/21/23* 15/20* 7.5 問(25%) 通貨と金融市場 5 12/16/22 13/20/22 4 問(13.3%) 金融 • 財政政策 8/17* 6/7/18/23* 20*/24/25/27 8.5 問(28.3%) 政策論争と応用 9 10 26 3 問(10%) 国際経済 30 28/29 3 問(10%) 合計 6 問(20%) 16 問(53.3%) 8 問(26.7%) 30 問(100%) 出所:Walstad,WilliamB.,MichaelWattsandKenRebeck,2007,Test of Understanding in College Economics, Fourth Edition,

Exam-iner’s Manual,NewYork:NationalCouncilonEconomicEducation.

(2)

ければ,簡単な問題でも正答に至ることは難しい。明 示的応用レベルの問題は,設問や選択肢に正答のヒン トが明確に示されており,経済学的な思考方法から答 えを類推することができるものである。暗示的応用レ ベルの問題は,設問や選択肢に正答のヒントが明確に 示されずに,隠されているもので,経済学的な思考方 法からその答えを類推する高い応用力を必要とするも のである。

Ⅲ.中国の大学生におけるマクロ経済学理

解力の特徴分析

認知レベルを軸に

1.総体的なマクロ経済学理解力の特徴  前述した筆者らの総合経済学理解力と中日比較の研 究報告から,中国の大学生におけるマクロ経済学理解 力の特徴を抽出してみると,以下のような点が見られ る(表 2 を参照)。6)  (1)大学のレベル(入学試験の得点の差)による学 生のマクロ経済学理解力の差は顕著で,入学が難しい 大学ほど理解力が高く,「1 類本科」の大学は「2 類本 科」の大学より,「2 類本科」の大学は「3 類本科」の 大学より理解力が高いことを示している。7)また,そ れと同様に,本科生は専科生8)より理解力が高い。  (2)経済学の学習経験はマクロ経済学理解力に重要 な影響を及ぼしており,既習の学生の理解力は学習中 の学生の理解力を超えているし,学習中の学生の理解 力は未履修の学生より著しく高い。  (3)学年の進行につれて,大学生のマクロ経済学の 理解力は顕著に高くなり,1 年生から 4 年生まで理解 力は上がる一方である。  (4)学科から見ると,経済学学科の学生の方がほか の学科の学生より高いマクロ経済学の理解力を持って いる。  (5)性別から見ると,男性と女性の間にはマクロ経 済学における理解力の差は見られなかった。  (6)認知レベルでは,中国の学生は明示的応用の成 績が一番よく,暗示的応用の成績が一番低い。  総体的なマクロ経済学理解力は以上のような特徴を 示したが,具体的にマクロ経済学テストの 30 問を認 知レベルで分類したときに,中国の大学生の理解力は どのような特徴を見せてくれるだろうか。その答えは 後述のパス解析とも関連があるので,次には認知レベ ルを軸に考えたマクロ経済学理解力の特徴を探ってみ たい。 表 2 マクロ経済学の正答率平均値の一元配置分散分析    正答率平均値 N 標準偏差 多重比較 性   別 ns. 男 56.0100 401 21.03531 女 53.6241 642 19.04967         学   科 *** 非経済学 47.5600 228 16.85602 経済学 56.4949 815 20.20433 学   年   ***     1 学年 2 学年 3 学年 4 学年 1 学年 36.0145 46 11.81377 * * * 2 学年 50.7974 464 19.02750 * * * 3 学年 58.0874 427 19.48102 * * * 4 学年 64.6855 106 18.73671 * * * 大   学   ***     1 類本科 2 類本科 3 類本科   1 類本科 64.2761 396 17.86677 * * 2 類本科 53.2853 416 19.30237 * * 3 類本科 40.1154 231 13.83778 * * 学  習  経  験   ***     未履修 学習中 既習   未履修 42.2751 126 13.86699 * * 学習中 52.1197 195 18.32810 * * 既習 57.3361 722 20.26405 * *  総計 54.5414 1043 19.86063       注 1:サンプル数は合計 1049 であるが,本研究ではその中から,履修状況がはっきりしない 6 人を削除することにした。専科の 1, 2,3 学年を大学の 1,2,3 学年に換算した。以下同様。 注 2:*P < 0.05,**P < 0.01,***P < 0.001,ns. 有意でない。以下同様。

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2.認知レベルを軸に考えたマクロ経済学理解 力の特徴  各認知レベルのマクロ経済学理解力の特徴を分析す るために,表 3 のように各認知レベルを軸に,変数別 の正答率平均値に対して一元配置分散分析を行い,そ の結果をまとめた。また,総体的マクロ経済学理解力 の特徴と同じ順にその結果を並べてみた。  (1)大学の分類から見ると,3 つの認知レベルとも に,「1 類本科」,「2 類本科」,「3 類本科」の順に大学 生の理解力は低くなっていく。  (2)学習経験から見ると,認識・理解レベルと暗示 的応用レベルでは,「既習」は「学習中」より,「学習 中」は「未履修」より高い理解力を持っている。しか し,明示的応用レベルでは「既習」の学生と「学習 中」の学生の理解力は顕著な差を見せていない。ただ, この 2 つのグループは「未履修」の学生よりは高い理 解力を持っている。これは学習経験が理解力に対しプ ラスの効果を持っていることを説明している。  (3)学年の進行につれて,各認知レベルの理解力は 高くなるが,その具体的な中身は若干の差を見せてい る。認識・理解レベルでは,2 年生と 3 年生の間に理 解力の差がなく,明示的応用レベルでは,3 年生と 4 年生の間に理解力の差がなく,暗示的応用レベルでは 各学年ごとに理解力は顕著な差を見せている。  (4)学科から見ると,各認知レベルごとに経済学学 科の学生の方が,ほかの学科の学生より高い理解力を 見せている。  (5)性別から見ると,認識・理解レベルと明示的応 用レベルの理解力には男女の差が見られないが,暗示 的応用レベルでは男子学生が女子学生より高い理解力 を示している。 3.マクロ経済学に対する「応用力」の影響要 因分析  3 つの認知レベル中,明示的応用と暗示的応用レベ ルの問題の正答率の高さは,どれだけ応用力に長けて いるかを意味している。この 2 つの認知レベルの理解 力をここでは「応用力」と名づけたい。それでは,ど のような要因がマクロ経済学の応用力を決めているだ ろうか。それを究明するために,応用力を従属変数と し,学年,履修状況,大学を説明変数とする因果モデ ルを想定した上で,パス解析を行った。性別,学科な どは典型的な分類変数なので,連続変数として扱うこ とができず,モデルでは省略することにしたい。  このモデルの全体的評価を行う各種の統計指標から, 本モデルとデータの適合度は十分高く,構成されたモ 表3 各認知レベルの正答率平均値の一元配置分散分析 人数 認識 • 理解 明示的応用 暗示的応用 大学 1 類本科 396 61.03*** 67.98*** 59.31*** 2 類本科 416 47.96 1 類> 2 類> 3 類 56.87 1 類> 2 類> 3 類 50.12  1 類> 2 類> 3 類 3 類本科 231 45.17 42.59 31.39 性別 男 401 52.49 59.23 52.21* 女 642 52.18 57.11 47.74 学科 経済学 815 55.19*** 59.67*** 51.12*** 非経済学 228 41.96 51.67 43.53 学習経験 既習 126 54.85*** 60.41*** 53.05*** 学習中 195 49.49 既習>学習中>未履修 56.73 既習,学習中>未履修 44.87 既習>学習中>未履修 未履修 722 42.06 45.49 36.01 学年 1 学年 157 37.05*** 40.84*** 32.17*** 2 学年 354 53.864 > 3,2 > 1 58.324,3 > 2 > 1 47.954 > 3 > 2 > 1 3 学年 426 53.36 61.96 53.93 4 学年 106 65.41 65.68 62.15 総計 1043 52.3 57.92 49.46

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デルは標本構造をよく説明していると判断できる。適 合度指標(GFI)= 0.998 > 0.900,自由度調整済み適 合度指標(AGFI)= 0.989 > 0.900,TLI = 0.993 であ り,これらの指標はどれも 0.95 〜 1 以内に入っている。 また,RMSEA = 0.030 < 0.08 であり,学年のパス係 数は非有意性を示しているが,ほかのパス係数は有意 性を示している。  モデルの結果から見ると,マクロ経済学の応用力の 最大の決定要因は大学のレベルであり,よい大学ほど 応用力が高い。その次の決定要因は学習経験であり, 経済学を学習した大学生ほど応用力が高い。そして, 応用力を形成する明示的応用と暗示的応用の 2 つの要 素中,明示的応用のパス係数は 0.98,暗示的応用のパ ス係数は 0.93 で,応用力の持つ影響の強さはどちらも 同じ程度である。

Ⅳ.マクロ経済学における各問題群のパス

解析

 マクロ経済学のテスト問題の間にはなんらかの相関 関係があるかもしれない。同じ分野もしくは近隣分野 の設問や選択肢の間には同じ知識を基礎にしているも のがあると思われる。そこで,テスト問題を共通の知 識ごとに異なる問題群に分け,それに対して因果モデ ルを立て,問題間の理解力のパス解析を行う方法を 取った。そのパス解析を通して,認知レベル間の相関 関係を究明することにしたい。相関関係のある問題群 はいくつもあると考えられるが,主に 2 つにしぼって その中身を探ってみたい。1 つは GDP 問題群で,もう 1 つは金融政策の問題群である。GDP 問題群は分野 1 と分野 2 に属しており,金融政策の問題群は分野 3 と 分野 4 に属している。 1.GDP 問題群における理解力のパス解析  GDP 問題群の選択には以下のような方法を取った。 まず,設問や選択肢に GDP が関連している問題を選 び,次に,それらの問題が分野 1 か分野 2 に収まって いるものを選んだ。結果的に GDP 問題群では GDP 概 念やその成長に関する問 1,問 3,問 4 と問 13 が選ば れた。この 4 問の理解力のパス解析を行ったところ, これらの問題間に理解力の影響があることがわかった。  本モデルとデータの適合度は十分高く,構成された モデルは標本構造をよく説明していると判断できる。 適合度指標(GFI)= 0.998 > 0.900,自由度調整済み 適合度指標(AGFI)= 0.978 > 0.900,TLI = 0.839, RMSEA = 0.059 < 0.08。TLI が若干低いが,GFI と AGFI は十分高く,RMSEA は適切な範囲内にある。 パス係数はいずれも有意性を見せている。  GDP 問題群を内容から見ると,主に GDP の概念と GDP の成長に関連する問題である。その中で,問 1 は 分野 1「総体的な経済活動」に属しており,問 3,4, 13 は分野 2「総需要と総供給」に属している問題であ る。認知レベルから見ると,問 1 と 4 は認識・理解に, 問 3 と 13 は明示的応用レベルに属している。問 1 では 図 1 マクロ経済学に対する「応用力」のパス解析 カイ二乗 =5.903(P=0.116) 自由度=1 AGFI=0.989 ;GFI=0.998 RMSEA=0.030 ;TLI=0.993 応用力 明示的応用 暗示的応用 e1 e2 e3 -3.26 0.98 0.93 大学 学年 学習経験 0.40*** 0.08 0.14** 0.23 0.51 0.37 0.51 0.16 0.37 図 2 GDP 問題群における理解力のパス解析図 0.28*** 0.11*** 0.09*** 0.12*** 0.14*** 問題 4 問題 3 問題 13 問題 1 カイ二乗=4.684(P=0.30) 自由度=1 AGFI=0.978;GFI=0.998 RMSEA=0.59;TLI=0.839

(5)

GDP の構成が問われており,問 3 では総需要の変化が 物価と GDP にどのような影響を与えるかが問われて いる。問 4 は総供給の影響要因を問う問題で,問 13 は,総供給の影響要因が GDP と物価にどのような変 動をもたらすかを判断する問題である。  図 2 のモデルから,問 1 の理解力は問 3,4,13 の理 解力に対して影響があることがわかった。その中で最 も影響を受けるのは問 4 である。それと同時に,問 4 の理解力は問3と問13の理解力に影響を及ぼしている。 このモデルからわかることは,認識・理解レベルの理 解力が高い大学生ほど,明示的応用レベルの理解力が 高い。そして,認識・理解レベルの内部でも,相関関 係を持っている問題の間では似たような影響が見られ る。  このモデルにある具体的な問題の内容は,以下のと おりである。 1.GDP(国内総生産)の計算上,投資として分類さ れるのは (1)新工場の建設(*正答) (2)築 10 年の住宅購入 (3)銀行への預金 (4)株式と社債の購入 3.総需要の増加は,短期間では経済全体の物価水準 と実質 GDP にどのように影響するか。  物価水準 実質 GDP (1) 下落 減少 (2) 下落 増加 (3) 上昇 増加(*) (4) 上昇 減少 4.1 国の経済活動において,総生産能力を制約する のは, (1)通貨の流通量 (2)財・サービスに対する企業の需要 (3)政府の支出と税収額 (4)生産資源の量と質(*) 13.エネルギーコストがかなり上昇して,長期的に均 衡状態にあった経済の供給サイドが影響を受けたとし よう。その時,実質 GDP と物価水準の変化は,次の どのような組み合わせで起きるか。 実質 GDP 物価水準 (1) 減少 下落 (2) 減少 上昇(*) (3) 増加 下落 (4) 増加 上昇  GDP 問題群には暗示的応用レベルの問題がないた め,このモデルは認識・理解レベルの理解力が明示的 応用レベルに影響を与えるかどうかは証明できても, 明示的応用レベルから暗示的応用レベルへの影響につ いては触れることができなかった。その課題は,次の モデルに任せることにしよう。 2.金融政策問題群における理解力のパス解析  30 問のテスト問題中,金融政策と関連する問題は 少なくない。それらについては設問と選択肢,特に正 答を知識別に細かく分類した。結果的には公開市場操 作,金利と関連する金融政策手段の問題が比較的集中 していたので,それらを 1 つの問題群に集めた。これ らの問題は問6,7,16,18,24,25の6問である。金 融政策問題群は GDP 問題群と違い,認識・理解レベ ルの問題がないことが特徴である。しかし,明示的応 用レベルから暗示的応用レベルへの影響を,この問題 群から確認することができた。  図 3 のモデルについて,適合度指標(GFI)= 0.996 > 0.900, 自 由 度 調 整 済 み 適 合 度 指 標(AGFI) = 0.981 > 0.900,TLI = 0.907,RMSEA = 0.043 < 0.08。 パス係数はいずれも有意性を見せている。本モデルと データの適合度は十分高く,構成されたモデルは標本 構造をよく説明していると判断できる。  金融政策問題群の 6 問中,問 16 が分野 3「通貨と金 融市場」に属している以外,ほかの 5 問は分野 4「金 融と財政政策」に属している。これらの問題は 2 つの 認知レベルに属しているが,明示的応用レベルに属し ているのが問 6,7,16,18 で,問 24 と 25 は暗示的応 用レベルに属している。  具体的に問題の内容を見ると,問 6 は,金融政策手 段の機能の区別に関する問題であり,問 7 は金利を下 げる金融政策手段の役割と関連する問題である。問 16 では,金融政策は市場利子と債券価格にどのよう な影響を与えているかが問われている。問 18 では, インフレーション対策として,どのような金融政策を 採らなければいけないかが問われている。問 24 はイ ンフレーション対策として,金融と財政政策の組み合 わせを問う問題で,問 25 は,経済改善策としてどの ような金融政策が必要かを問う問題である。  図 3 からもわかるように,金融政策問題群の中では 複雑な理解力の影響関係がある。問6から問16,問18, 問 24,問 25 へと理解力は影響を及ぼしている。問 7 は問 24 と問 25 に影響がある。問 18 は問 7,問 24,問 25 へと影響しており,問 16 からは問 7 と問 24 にも理

(6)

解力が影響している。このモデルは,明示的応用レベ ルをよく理解している学生は暗示的応用レベルの問題 もよく理解していることを示していると同時に,明示 的応用レベルの問題の間にも理解力の影響があること を説明している。  このモデルの具体的な問題の内容は,以下のとおり である 6.中央銀行の政策で,通貨供給量の大きさに対して 同じ効果を持つ組み合わせは, (1)預金準備率の引き下げと国債の売却 (2)預金準備率の引き上げと国債の売却(*) (3)公定歩合の引き下げと国債の売却 (4)公定歩合の引き上げと国債の購入 7.短期において,GDP を増加させる金融政策は, (1)市場金利を引き上げて貯蓄を促すこと (2)市場金利を引き下げて投資を促すこと(*) (3)現在の消費へ充てるために個人の貯蓄を増やす こと (4)将来の消費へ充てるために個人の貯蓄を減らす こと 16.もし中央銀行が通貨供給量を一度だけ少量増加さ せると決定した場合,市場金利と債券価格はどのよう に変化するか。 市場金利 債券価格 (1) 上昇 上昇 (2) 上昇 下落 (3) 低下 上昇(*) (4) 低下 下落 18.インフレーションを抑えるために,中央銀行の政 策で最も効果があるのは, (1)政府発行の債券を公開市場で売却する。(*) (2)有価証券の売買に必要な委託証拠金を減額する。 (3)市中銀行の貸出金利を引き下げる。 (4)市中銀行の預金準備率を引き下げる。 24.経済が完全雇用の状況下で急激なインフレーショ ンが進行中の時に,それを最もよく抑える金融政策と 財政政策の組み合わせは,次のどれか。ただし,どち らの政策も同額ずつ実施されるものとする。   金融政策   財政政策 (1)国債の購入 財政赤字の拡大 (2)国債の購入 財政赤字の削減 (3)国債の売却 財政赤字の拡大 (4)国債の売却 財政赤字の削減(*) 25.ある国では,実際の GDP が潜在的 GDP よりも 10%小さいと推定されている。物価は事実上 1 年前か ら変化しておらず,民間労働者の失業率は 12%で今 までよりもずっと高い。この経済状態を改善するため に,最も適切な政策は次のどれか。 (1)政府債務の削減 (2)中央銀行による金利の引き下げ(*) (3)法人税と所得税の増税 (4)預金者保護のために準備預金の増額

Ⅴ.結論と提言

1.結論  (1)大学のレベルによって,マクロ経済学の理解力 図 3 金融政策問題群における理解力のパス解析図 問題 25 問題 6 問題 18 問題 16 問題 24 問題 7 カイ二乗=11.10 P=0.025;自由度=4 AGFI=0.981 GFI=0.996 RMSEA=0.410 TLI=0.914 0.18*** 0.22*** 0.11*** 0.09** 0.20*** 0.23***0.07* 0.16*** 0.11*** 0.09** 0.09**

(7)

は顕著な差を見せている。入学成績の一番高い「1 類 本科」の学生はその次の「2 類本科」より,また「2 類本科」の学生は「3 類本科」より高い理解力を示し ている。レベルの高い大学ほど,マクロ経済学の理解 力も高い結果になっている。また,どの認知レベルで も例外なしに,同じ傾向を示している。  (2)学習経験はマクロ経済学の理解力に重要な影響 を与えている。学習済み(既習)の学生は学習中の学 生より,また学習中の学生は未履修の学生より高い理 解力を見せている。ただし,明示的応用レベルの時だ け,学習済みと学習中の学生の間に顕著な差はない。 しかし,それにしても学習経験のある学生は,やはり 未履修の学生より高い理解力を持っている。  (3)学年の進行に伴って,大学生のマクロ経済学の 理解力は顕著に上がっていく。若干の例外としてあげ られるのは,認識・理解レベルでは 2 年生と 3 年生の 間に顕著な理解力の差がなく,明示的応用レベルでは 3 年生と 4 年生の間に顕著な差がないことである。  (4)学科ごとに経済学理解力の差が見られる。特に 経済学学科の学生はほかの学科の学生より高い理解力 を持っている。3 つの認知レベルともに同じ傾向を見 せている。  (5)男女別のマクロ経済学の理解力には顕著な差が 見られない。ただ,一番難しいと思われる,正答率の 低い暗示的応用レベルでは,男性が女性より理解力が 高いことがわかった。  (6)3 つの認知レベルのうち,大学生の理解力が最 も高いのは明示的応用レベルであり,理解力が一番低 いのは暗示的応用レベルである。  (7)明示的応用と暗示的応用レベルの理解力の差を 決める要因の中で,大学のレベルが一番強く,その次 が学習経験であることが判明した。そして,この差は 学年とはあまり関係のないこともわかった。  (8)3 つの認知レベルのうち,同分野の問題を解答 する時に,認識・理解の問題がよくできる学生は明示 的応用の問題もよくできるし,明示的応用の問題がよ くできる学生は暗示的応用の問題もよくできる結果が 見られた。そこで,3 つの認知レベルの間に理解力の パスが存在していることがわかった。 2.提言  (1)マクロ経済学を教える際に,経済学の概念から 応用レベルまで,徐々に積み重ねていくことが大事で ある。  今回の調査結果からわかるように,認識・理解レベ ルの理解力は応用力に影響を持っている。従って,ま ず基礎概念と基礎知識をしっかり把握した上でないと, 応用力を高めることは困難である。  (2)中国の大学生の暗示的応用力が低いという弱点 に応じて,応用力を高める授業を展開する必要がある。  マクロ経済学の大多数は政策と関連する問題である。 国家レベルの政策を普段の授業の中で討論する雰囲気 を作り,学生たちが参画できるような授業を展開する 必要がある。国際的視野の養成もマクロ経済学の授業 では欠かせないものと思われる。国際組織とグローバ ル化の現象などを具体的な例として取り上げたり,そ のやり方を討論,評価する必要もあろう。それが少し はマクロ経済学の応用力の向上に繋がるだろう。  (3)大学のレベルは入学成績と関連しており,社会 的に評価の高い大学ほど学生の学習能力が高いことを 意味している。このような学習能力は理解力を決める 最も重要な要因になっている。従って,マクロ経済学 を教える際には,学生の学習能力に合わせたレベルの 授業を展開すべきであろう。  (4)マクロ経済学の理解力の向上のためには,授業 だけに頼らず,実践,読書のような形式も取り入れる べきであろう。経済に関する視野を広めることで,最 終的には理解力を高めることになろう。 註

1) The research is funded by Beijing financial aid (PXM2012_014202_000196, Comprehensive reform on specialty group of economics and management in Beijing City University).

2) 陳怡,林潔梅,尹秀艶(2011)「中国における大学生の経 済リテラシー状況の調査報告」[J]『北京城市学院学報』 3) 尹秀艶,林潔梅,陳怡 (2011)「大学生の経済リテラシー

の中日比較─ミクロ経済学の概念と理論に関して」[J]

『経済教育』No.30.Yin, Xiuyan,Yan Cui and Jiemei Lin (2013), “The Difference in Education of Macroeconomics between China and Japan,” a paper submitted to 2013 KEEA Conference:Economic Education in East Asia, January 24-25,2013.

4) Yamaoka, Michio, Keiko Takahashi, Tadayoshi Asano and Shintaro Abe (2010), “The Effect of Teaching Mac-roeconomics on Japanese University Students,” Journal of Asia-Pacific Studies, No.15, Institute of Asia-Pacific Stud-ies, Waseda University.

5) 具体的な調査時間,調査結果,サンプルの状況などにつ いては,陳怡,林潔梅,尹秀艶 (2011) 「中国における大 学生の経済リテラシー状況の調査報告」[J]『北京城市学 院学報』を参照。 6) 具体的には,陳怡,林潔梅,尹秀艶 (2011)「中国におけ る大学生の経済リテラシー状況の調査報告」[J]『北京城 市学院学報』を参照。 7) 中国の教育部の決めた大学生募集順位によって,中国の 大学は入学成績の異なる「1 類本科」「2 類本科」「3 類本

(8)

科」などに分けられている。「1 類本科」は一番目の本科 募集順位を言う。それには一流の国家教育部所属の重点 大学,たとえば北京大学,清華大学のような有名校が 入っている。「2 類本科」はその次の本科募集順位を言う が,主に地方所属の普通本科大学を指す。「3 類本科」は 本科の中では一番最後の募集順位になるが,主に私立大 学,独立学院のようなところが多い。 8) 本科生が 4 年間の大学生を指し,専科生は 3 年間の大学 生を指す。入学時には本科の大学に入れなかった学生が 専科に入るので,その入学成績は「3 類本科」よりも低い。 参考文献

[1] Yamaoka, Michio, Tadayoshi Asano and Shintaro Abe (2010), “Economic Education for Undergraduate Students in Japan: The Status Quo and Its Problem,” Journal of Asia-Pacific Studies, No.14, Institute of Asia-Pacific Stud-ies, Waseda University, 5-22.

[2] Yamaoka, Michio, William B. Walstad, Michael W. Watts, Tadayoshi Asano and Shintaro Abe, eds. (2010), Compar︲ ative Studies on Economic Education in Asia-Pacific Re︲ gion, Japan (Kanagawa): Shumpusha Publishing. [3] Walstad, William B., Michael Watts and Ken Rebeck

(2007), Test of Understanding in College Economics,

Fourth Edition, Examiner’s Manual, New York: National Council on Economic Education.

[4] 山岡道男・淺野忠克他編 (2007)『経済リテラシーを高め るためのやさしい経済学入門』早稲田大學アジア太平洋 研究センター経済教育研究部会。 [5] 淺野忠克・山岡道男他 (2007)「経済リテラシーに関する 日米大学生の国際比較─第 7 回生活経済テストの結果 を中心として─」経済教育学会『経済教育』第 26 号, 98-108 ページ。 [6] 山岡道男・高橋桂子・淺野忠克・阿部信太郎 (2010)「大 学生に対するマクロ経済学の教育効果─標準テストに よる効果の検証─」早稲田大學アジア太平洋研究セン ター『アジア太平洋討究』第 15 号,111-132 ページ。 [7] Yin, Xiuyan,Yan Cui and Jiemei Lin (2013), “The

Dif-ference in Education of Macroeconomics between China and Japan,” a paper submitted to 2013 KEEA Confer-ence:Economic Education in East Asia,January 24-25, 2013. [8] 尹秀艶,林潔梅,陳怡 (2011)「大学生の経済リテラシー の中日比較─ミクロ経済学の概念と理論に関して」[J] 『経済教育』No.30。 [9] 陈怡,林洁梅,尹秀艳 (2011)「中国大学生经济学理解力 的调查报告」[J]『北京城市学院学报』

参照

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