南アジア研究 第28号 031学会近況・広瀬, 福味, 横尾, 溜, 山崎, 北川「日本語テーマ別セッションVI インド電力改革をめぐる政治と経済」
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(2) 学会近況 日本語テーマ別セッション VI インド電力改革をめぐる政治と経済. インド電力改革の現状と課題. 福味 敦・横尾 健. 本報告の目的は、本セッションがテーマとするインド電力改革の全体 像を概観した上で、1990 年代以降に進められてきた電力部門改革の進 展状況を州別に評価することにあった。 インド電力部門は、電力不足による停電や農村部の未電化問題の他、 電力事業体とりわけ配電部門の経営赤字を、克服すべき長年の課題とし てきた。すなわち送配電ロス、燃料価格の高騰、選挙対策としての農業 用電力の無料化などにより莫大な損失が生じ、それが転じて電力インフ ラへの投資を阻害し、結果的に電力の質・量の問題に帰結するという、 悪循環に陥っている。こうした状況を乗り越えるべく90 年代以降進めら れてきた電力部門改革は、 開始直後は外資を含む民間資本の発電部門へ の参加促進を主な目的とするものであったが、 次第にそのウェイトを、 配 電部門の経営立て直しに移すこととなった。改革の要となったのは、そ れまでのインドの電力事業のあり方を大きく変える要素が包括的に盛り 込まれた2003 年電力法であった。この法は、長年電力事業を支配して. きた州電力庁(SEBs)をアンバンドリング(発電・送電・配電の各部門 への分割)し、電力規制委員会の設置を義務した。これらによって、料. 金決定をはじめとする経営に直結する判断を政治的な圧力から遮断し、 事業として持続可能な環境を電力部門に創り出すことが可能となった。 以上の経緯を踏まえた上で本報告では、 (1)一人あたり電力消費、 (2) 電力不足、 (3)電力供給コスト、 (4)送配電損失率、 (5)電力料金の歪 み、 (6)配電会社の営業損失、の6 指標を用いて、各州における電力改 革の評価を試みた。その結果、 配電会社の財務状況は依然として苦境に ある一方、全体として電力インフラの整備が進み、質と量の問題は改善 される傾向にあることが確認された。加えて、グジャラートやデリーな ど状況が大きく改善されて電力事業の経営が健全化されつつある「上 位」州のグループと、ビハールやウッタル・プラデーシュなど旧来の問 題点がほぼそのまま残る「下位」州との格差は拡大傾向にあることなど、 州の経済構造や地域的な条件によって、改革の成果が異なる傾向がある ことも示された。 質疑応答においては、 「改革」は本当に意味あるものなのかといった. 根本的な問題提起をはじめ、設備稼働率(PLF)など供給側要因に対す. る視点、エンロン事件が改革プロセスに及ぼした影響、農村工業化の進. 261.
(3) 南アジア研究第28号( 2016年). 展と料金改革の関係など、示唆に富む質問とコメントを数多く得ること ができた。 デリー首都圏の電力改革と政治―合理化路線の成功と挫折―溜 和敏. 2000 ~ 02 年に行われたデリー首都圏(NCT of Delhi)の電力改革は、. グジャラート州などと並ぶ成功事例と考えられてきた。確かに、盗電な. どによる技術的・商業的(AT & C)損失は改革以前の55%超から約15. %まで低下した。2002 -03 年度には 9 .2%足りなかったピーク時電力不足. は 2008 -09 年度に解消され、停電時間も急減した。電力料金などの決定. を行う電力規制委員会は独立性が確保されていると考えられ、インドで はほぼ例外的にコストを回収できるはずの電力料金が設定されていた。 しかし 2011年ごろから、改革によって民営化された配電各社の財務 状況が急速に悪化している。とりわけリライアンス系の 2 社は電力を調 達するための支払いも困難になっており、裁判所に電気料金値上げなど の救済措置を求めている。2013 年以降は、電力問題が新たな形態で政 治イシュー化している。2013 年12 月の首都圏議会選挙で躍進し、2015. 年 2 月の選挙で圧勝した首都圏政府与党・庶民党(AAP)は、配電会社. が不当に高い料金を徴収しているとの主張を繰り広げている。. デリー首都圏の事例から示唆されるのは、インドの電力改革において 理想視されてきた合理化路線の末に行き着いた、部門間の相互不信であ る。配電部門は分割・民営化され、政治から切り離された。電力料金は コストに基づいて算出される仕組みとなった。その結果、改革の実施か ら数年間の電力料金は着実に値上げされ、電力供給システムの効率化が 実現した。しかし 2006 年度から5 年間、電力料金はほぼ据え置かれた。 規制委員会による説明ではコストがほとんど上昇しなかったためとされ るが、年々値上がりする電力料金に対する市民の不満が考慮されたと見 られる。その後、コストが急上昇したことにより、配電会社の経営が悪 化した。さらに市民の不満を背景として、庶民党は配電会社批判を政治 イシュー化した。つまり、政治、規制、配電の各部門が切り離された結 果、効率化においては成功を収めたが、2010 年前後から急増したコスト の負担をめぐって折り合いがつかず、相互の不信と対立に陥っている。 以上の報告に対して、2006 年以降に料金が据え置かれた理由などに 関する質疑と応答が行われた。. 262.
(4) 学会近況 日本語テーマ別セッション VI インド電力改革をめぐる政治と経済. パンジャーブ州における電力改革. 山﨑裕美子. パンジャーブ州は、電力供給において高い成果をみせている。農村へ の電力供給率は100%を達成しており、また送配電ロスは15%に抑えら れており、技術的な問題で停電の時間が生じているものの、州全体の総 電力供給は余剰が出ている。また、電力公社の財政も安定している。し かし、それは電力改革が順調に進展した結果といえるか、という点につ いては疑問がある。本報告では、パンジャーブ州の電力改革の現状を述 べるとともに、同州の電力部門に大きな影響を与えている電力補助金に ついて考察した。 2003 年の電力法によって、州電力庁の送電配電部門の分離が義務づ けられた。しかしパンジャーブ州がそれを実施したのは 2010 年であり、 他州と比べ遅れていることが指摘できる。また、発電・送電・配電部門 でそれぞれ分離した州が多い中、発電+配電公社、送電公社という形で 再編を行った。 現時点でも発電配電公社が両公社について人員採用を行 っているなど、その独立性は疑わしいところがある。また、両公社、州 電力規制委員会ともに元州電力庁の職員が多く所属しており、両公社へ 十全な規制や審査が行われているのかも疑問が残った。これらに基づい て、パンジャーブ州では、電力法による改革は不徹底であると結論付け た。 パンジャーブ州の電力事業において特徴的なのは、州政府からの多額 の電力補助金である。パンジャーブ州では農業が最重要産業であり、イ ンドの食糧の公的分配システムにも大きく貢献している。農業従事者割 合も高く、州全体の電力消費の約 30%を農業部門が占める。そのような 中、1997 年以降農業部門へは無料で電力が供給されており、本来使用 者から回収するはずの全額については、州政府が配電公社に補助金とし て支出している。州電力規制委員会及び配電公社は一様に、 この電力補 助金は食糧安全保障と社会保障の一環であり、問題はないとしている。 この無料供給は既定路線であり、要求額がほぼ全額で認められている。 現状では、それが電力公社の歳入の3 分の1に上っており、電力公社の 財務体質は改善されず、補助金ありきの運営が行われている。 このように、パンジャーブ州では電力改革は徹底されておらず、電力 公社は州政府からの補助金に依存する運営が続いていることが指摘で きた。現在この補助金について、地下水の過剰くみ上げによる水資源の. 263.
(5) 南アジア研究第28号( 2016年). 枯渇や、産業部門の料金格差不満などにつながっているとの批判が高ま っている。 質疑応答では、前述の部門間の料金格差について、また今後の産業構 造の変化と電力の関係についてなど、コメントを得ることができた。 アーンドラ・プラデーシュ州の電力改革と政治経済. 北川将之. 本報告では、同州の電力事情、州政治の特徴、州内地域ごとの社会経 済的特徴の流れで分析・考察結果を述べた。第一に、州電力事情(需 要面と供給面)に関しては、農業用電力の需要比率が高く、それに応じ る形で 2004 年以降、州政権の判断で農業電力の無料化が実施されてき たこと、および、電力セクター改革の検討が 1990 年代後半から世界銀 行の支援を得ながら実施されるなど、他の州よりも早い時期に改革が進 められてきたことを主に指摘した。第二に、農業電力の無料化に対する 州政治の影響に関して、州政治を3 つの地域(テランガナ、沿岸部、ラ. ヤラセーマ)に分け、選挙結果データと地図データを GIS ソフトで組み. 合わせて、 各地域の主要政党の動向を分析考察した結果を述べた。アー. ンドラ・プラデーシュ州では、長らく会議派とテルグ・デーサム党が拮 抗する2 政党システムが続いてきた。だが 2000 年前後になると、テラン ガナ地域で「テランガナ民族会議」が政治的影響力を強めていった。他 方、沿岸部とラヤラセーマでは、先に挙げた2 大政党が議席を奪い合う 展開が続いていた。第三に、同じく GIS ソフトを使って農業用水の利用. や一人あたり農業労働者の生産額等の統計データと地図データを重ね 合わせ、農業電力の無料化が社会経済的要因の影響を受けていると指. 摘した。テランガナ地域は、主にレッディー(地主・富農層)が多く、 1990 年代以降に情報産業が成長した。この地域は農業用水に井戸水を 利用する割合が高いため、 農業電力の無料化を求める声が根強いと推測 される。電力無料化政策が実施された2004 年以降、テランガナ地域で は政権与党の会議派が多くの議席を獲得するようになったことは、井戸 水利用と関連があると報告した。他方で、ラヤラセーマ地域は農業生産 性が低く、地域経済が長らく停滞気味であった。この地域の農業も井戸 水に依存する度合いが強く、また、2004 年以降は農業電力無料化を推 進した会議派が選挙で優位に立ってきたことから、両要因間に一定の連 関がみられると指摘した。. 264.
(6) 学会近況 日本語テーマ別セッション VI インド電力改革をめぐる政治と経済. ひろせ たかこ ●専修大学 ふくみ あつし ●兵庫県立大学 よこお たけし ●電力中央研究所 たまり かずとし ●高知県立大学 やまさき ゆみこ ●専修大学 きたがわ まさゆき ●神戸女学院大学. 265.
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