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集団フラストレーション事態における成員の反応

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(1)

集団フラストレーション事態における成員の反応

―達成、親和、および支配への動機づけを独立変数として―

佐 々 木 薫

**

問 題

ひとの行動が状況と当人のパーソナリティの関 数であると言われるように、集団の行動もまた原 理的には、集団の置かれた状況と成員たちのパー ソナリティの関数である。しかし、これまでの集 団研究には状況との関係を扱ったものが多く、成 員のパーソナリティとの関係を調べたものが少な い。それにはそれなりの理由がないわけではな い。パーソナリティをどの次元で取り上げるか、

集団を構成する複数の個人がそれぞれ異なるパー ソナリティをもっているようなケースについて検 討しようとする時に予想される手続きの複雑さ、

など方法的困難は容易に想像される。とはいえ、

集団行動における成員のパーソナリティの影響を 研究することの重要性は看過できるものではな い。

佐々木(1957)は、向性検査で振り分けた外向 人から成る集団と内向人から成る集団を、Wol- man(1956)のいうinstrumental situationとvec- torial situationという異なる集団状況に置き、成 員たちの相互作用をBales(1950)の相互作用過 程分析法によって観察・記録して比較検討した。

その結果、前者の状況では外向人に特徴的な社会 情緒的領域の相互作用の多さ、内向人に特徴的な 課題領域への集中が明瞭に認められたが、後者の 状況ではこのような差違が著しく縮小されること を見出している。

成員のパーソナリティと集団行動との関係を診 る研究は、成員構成の同質性−異質性が集団の生 産性に及ぼす効果の研究という形でいくつか行わ れ て い る。白 樫(1978)はRotter(1966)のlo-

cus of controlの日本語版を作成したうえで、得

点が広範に分散する異質集団のほうが、低得点に せよ高得点にせよ近似した得点の者のみを集めた 等質集団より、集団作業として達成した創造性が 高かったと報告している。この研究主題に関連し て佐々木(1999)は、同様にlocus of controlに よる等質集団と異質集団を構成し、性格の異なる 集団課題を与え、かつ時間を長くとって集団の成 績の変動を比較した結果、異質集団は課題にふさ わしい体制を作り上げるのに時間を要するが、

いったん体制ができれば生産性は急速に高まるこ とを実証している。

他方、フラストレーション事態に置かれた集団 の研究には、次のようなものがある。

French,Jr(1941)は、組織化された集団とそう でない非組織集団とを別々に実験的フラストレー ション状況に置き、集団の凝集と崩解を観察した 結果、非組織集団では真性の分裂・崩解が生じた のに対し、組織的集団ではさほど深刻でない活動 の無秩序状態が生じたに止まったことを報告し、

特に後者の集団では成員間に行動の類似性が見ら れるようになったことに注目している。彼はこの 行動の類似性を集団の一部に生じた緊張の拡散に よって説明している。すなわち、組織集団では成 員間の障壁が弱いので緊張の拡散がそれだけ容易 であり、すべての成員の緊張が近似したものとな りやすく、そのことが行動の類似性をもたらす、

というのである。

佐藤・永原(1961)は、集団成員を実験的にフ ラストレーション状態に置くと、集団維持機能が 目標達成機能より相対的に大きくなること、リー ダーシップ機能の集中した集団では、それが分散 した集団よりも、集団凝集性が高くなり、目標達

キーワード:フラストレーション事態、動機づけのタイプ、成員の反応

**関西学院大学社会学部教授

October

(2)

成に圧力をかけるような発言が少なくなること、

そして単純作業の生産量は急激に増大し、その水 準が実験期間中ずっと維持されたことを報告して いる。

さて、本研究の目的は、動機づけの異なる3種 の集団がフラストレーション事態に遭遇して示す 反応を比較検討することにある。ここでは個人の 性格検査(日本語版EPPS)によって達成動機、

親和動機、支配動機のいずれかが高くて他の2つ の動機の低い被験者を選んで3種の等質集団を作 るという手続きからすれば、当然成員のパーソナ リティが重要な独立変数となっているが、実はそ れだけに止まらず、作業開始に当たって、この集 団間差違をいっそう強調するため、実験者がそれ ぞれの動機に沿った方向で作業を意味づける教示 を与えている。したがって、ここでの真の独立変 数は、達成に動機づけられた集団、親和に動機づ けられた集団、および支配に動機づけられた集団 ということになる。このような集団としての動機 づけの相違が、実験的に導入されたフラストレー ション事態のもとで、どのように異なった反応を 引き出すかがわれわれの主要関心事である。この 目的に関連して、被験者が単独で同じ課題を解く 個人事態との比較、および男女の性差をも検討す るであろう。

上述の既存研究は、それぞれに方法上の示唆に

は富んでいるが、結果の予測ないし仮説の構築に 寄与するものではない。本研究では、とくに仮説 を設けず、むしろ探索的な実験研究としたい。

方 法

被験者と集団構成:被験者は大学生、事前に EPPSの日本語版(肥田野ほか,1970)の中の達 成、親和、支配の3動機について調べ、そのいず れかが偏差値60以上で、他の2動機が平均(偏差 値50)以下という基準で選ばれた、達成動機群、

親和動機群、支配動機群それぞれ男性16名女性16 名、総数96名で、表1に示されているように集団 事態と個人事態とに配置された。集団事態は同じ 動機群に属する同性の3人から成る等質集団とし た。因みに、表1では高達成動機者からなる集団

をAcG、高親和動機者からなる集団をAfG、高

支配動機者から な る 集 団 をDoGと 表 記 し て あ り、これらの表記の下側に括弧書きされているn

=3×4は3人集団が4集団ずつ構成されたこと を表している。個人事態は一種の統制条件で、集 団事態のもつ効果を考察する時の基準線を提供す るものとして設定された。表1には各セルに含ま れる被験者たちの3種の動機偏差値の平均(M)

と標準偏差(σ)が示されている。AcI条件の男 性で親和動機の偏差値がわずかに50を上回ってい 表1 各条件に割り当てられた被験者の動機偏差値

集団事態 AcG

(n=3×4)

M (σ)

AfG

(n=3×4)

M (σ)

DoG

(n=3×4)

M (σ)

男性 達成 親和 支配

62.9(3.72)

41.7(6.47)

48.1(6.88)

41.6(6.11)

64.6(4.06)

41.5(5.72)

41.3(7.42)

48.1(5.12)

69.0(3.34)

女性 達成 親和 支配

62.7(3.78)

43.3(5.76)

45.5(7.41)

44.4(5.84)

61.3(2.82)

45.1(5.62)

46.6(4.29)

45.9(14.75)

68.6(5.10)

個人事態 AcI

(n=1×4)

M (σ)

AfI

(n=1×4)

M (σ)

DoI

(n=1×4)

M (σ)

男性 達成 親和 支配

64.0(8.41)

51.9(10.83)

43.0(2.28)

37.2(3.26)

65.6(2.07)

47.1(5.58)

41.0(2.81)

45.0(5.11)

68.5(3.91)

女性 達成 親和 支配

62.2(3.21)

43.5(2.06)

49.0(2.09)

44.4(4.67)

60.3(0.00)

41.3(1.78)

48.3(2.27)

44.2(4.77)

66.9(2.09)

第 92 号

(3)

るが、全体として被験者選別と各実験条件への配 属は満足すべきものといえよう。

フラストレーションの導入:簡単に解けそうに 見えるが、実際には所定の時間内に解ける可能性 の殆どない課題(スライド・パズル)を与え、実 験セション中途の放棄を許さないことで、フラス トレーションを導入した。スライド・パズルは、

四角形の枠の中に9個ないし10個の小さな長方形 または正方形の板(駒と呼ぶ)が入っており(図 1参照)、これらの駒を持ち上げることなく順次 スライドさせていって、特定の駒を指示通りの位 置に移動させる課題である。類似のパズルを同時 に2個(図1中の課題Aと課題B)与え、「どち らか一つを解けばよく、途中で別のパズルに移っ ても構いません」と教示して、40分間解かせた。

因みに、これらのパズルは池野ほか(1976)によ れば、最も効率よく駒を動かしても,完成までに 課題Aで81手、課題Bで51手必要なことがコン ピュータによって証明されているという。

集団事態ではさらに、次の3点を指示した。① 集団はつねに全体として同一のパズルに取り組ま なければならない、②1人ずつ順番に1回ずつ駒 を動かす、③駒の動かし方は3人で話し合って決 める。

なお、実験セッションの開始時に実験者が被験 者に与えた具体的教示は次の通りであった。

「これから行うのは集団問題解決に関する実 験です。この問題解決の実験の目的は、集団が どれほど迅速に問題を解き得るかをみることに あります。2つの問題がありますが、皆さんは どちらか1問解けばよいのです。どちらの問題 にするかは、集団で決めればいいし、またもし 集団がそうしようと決めれば、いつでも別の問 題に移って構いません。しかし、集団はいつも 一緒に同じ問題をやるようにしなければなりま せん。

問題とは、これからお見せするパズルです。

四角の枠の中にいくつかのコマ(駒)が入って いますが、空いている所を利用して、順次コマ をスライドさせていき、こちらの指示通りに並 べ替えていただきます。こちらの問題(課題 A)はこの状態から出発して、この一番大きな コマをこの出口から出してしまうように、とい うものです。また、こちらの問題(課題B)は この状態から出発して、この一番大きなコマを

(今ある左上のコーナーから)左下のコーナー へ移すように、というものです。ただし、コマ を動かすと言っても、持ち上げて空いている所 へ移してはいけません。平面上を滑らせて移動 させて下さい。

コマの動かし方は集団で相談して決めていた だきますが、誰かがコマを一回動かしたら、次 図1 実験に用いられた課題:スライド・パネル

October

(4)

は別の人が一回動かすというふうに、一人一人 順番に一回ずつ動かすようにして下さい。自分 の順番が来た人は、他の人の意見を求めてもよ いですし、他の人たちも遠慮しないで意見やア ドバイスを与えてあげて下さい。

独立変数の操作:集団事態の3条件について は、表1に見るような被験者のEPPS動機づけ得 点(偏差値)に基づく集団構成を行ったうえで、

さらに上記の一般的教示に続けて条件別に次の教 示を与え、動機づけの条件間差異をいっそう鮮明 に意識させた。

AcGに向けて:

[達成−集団]

「問題は普通の成人程度の難しさ で、平均所要時間は20分くらい です。皆で協力して、集団として 出来るだけ早く、効率よく解決 できるように頑張って下さい。」

AfGに向けて:

[親和−集団]

「これは競争ではありませんの で、お互いに仲良く、気楽に取 り組んで下さい。」

DoGに向けて:

[支配−集団]

「問題を解くに当たって、誰の 意見が最もよく受け容れられた か、こちらでチェックします。

それによって皆さんは各々順位 づけられることになりま す の で、頑張って下さい。」

個人事態の3条件についても、表1に見るよう な被験者配分を行った上で、上記の一般的教示の 冒頭部分を「これから行いますのは、集団による 問題解決と個人による問題解決とがどのように異 なるかを知ろうとする実験です。2つの問題があ りますが、どちらか1問解いて下されば結構で す。また自分でそうしようと思えば、いつでも別 表2 フラストレーション反応の観察カテゴリー

カテゴリー 反 応 例

①成功に対する 懐疑

「このパズルは本当に答えがあるのですか」

「このパズルは不可能なのではないですか」

②不平・不満 「まだやるんですか」

「イライラする」 唸る

「こんなもの出来ない」

「わからない」「難しい」(不服そうに言う)

③焦 燥 「一度に5回くらい動かしてはダメですか」

「これをこう動かせばできるのに」(指で持ち上げる)

1人で何回も動かそうとする 複数の者が手を出す

④逃 避 「もう止めたい」 課題から目をそらす

「もう降参」 課題に取り組もうとしない

「一回パス」「これ以上やっても無駄」

「この角まで動いたのだから、もう出来たことにして下さい」

まったく関係のない話をする

⑤落ち着かない 動作

貧乏ゆすりをする 机にうつ伏す のけぞる 指先で机をトントン叩く 嘆息をつく 頭を掻く 爪を噛む 指を鳴らす 椅子をガタガタさせる

⑥言語的攻撃 (「〜すればいい」→)「それはわかっている、それができないか ら困っているのだ」

「あなたがこう動かしたからおかしくなった」

(実験者に向かって)「横で観察していて楽しいでしょうね」

⑦身体的攻撃 パズルを指ではじいて動かす 机を握り拳でドンと叩く 机を平手で叩く

第 92 号

(5)

の問題に移って構いません。」と個人向けに改め ておき、スライド・パズルの扱い方に関する説明 その他同様の教示を与えた後、さらに条件別に以 下の教示を追加した。

AcIに向けて :「問題は普通の成人程度の難し

[達成−個人] さで、平均所要時間は20分くら いです。出来るだけ早く、効率 よく解決できるように頑張って 下さい。」

AfIに向けて :「これは競争ではありませんの

[親和−個人] で、気楽に楽しく取り組んで下 さい。」

DoIに向けて :「やり方をおぼえて、次に誰か

[支配−個人] に教えられるようになって下さ い。」

従属変数の測定:予備実験によって、フラスト レーション反応を測定するための観察カテゴリー

(表2参 照)を 作 成 し、3人 の 観 察 者 を 訓 練 し た。同一集団について独立に行った観察結果の3 者 間 相 関 は、rAB=.725、rBC=.783、rAC=.825で あった。

フラストレーション反応は、個人事態について

は当該被験者個人について、集団事態では(成員 個人別にではなく)集団全体について、40分の問 題解決作業セションを2分間刻みで継続して観察 記録された。観察はなるべく被験者に目立たない 場所から静かにおこなわれた。

40分経過後作業を打ち切り、質問紙に回答を求 めた。質問項目は集団事態では、①他者と張り合 う気持ち、②自己の指導性、③集団活動の楽し さ、④他者の態度への苛立ち、⑤課題指向的態 度、⑥感情的外罰、⑦感情的攻撃、⑧フラスト レーションの認知、⑨集団維持的機能、⑩内罰的 傾向、⑪課題の面白さ、および⑫課題の困難さの 12項目、個人事態では①⑤⑧⑪⑫の5項目で、い

ずれも7段階尺度上に回答させた。

結 果

1)フラストレーション反応総数の分析

フラストレーション反応の観察結果は、集団事 態と個人事態とを比較し易くするため被験者1人 当たりの個数に変換して、実験条件別・反応カテ ゴリー別に表3にまとめられている。

まず、表3の最右欄に示されている反応総数

(7カテゴリーの合計)を条件別に図示したのが 表3 実験条件別にみたフラストレーション反応数(1人当たり)

実験条件 性 別 懐 疑 不 満 焦 燥 逃 避 動 作 言語攻撃 身体攻撃 反応総数

AcG 男性

女性 平均

.25

.67

.46 4.58 6.92 5.75

.67 1.00

.83

.00

.17

.08 8.25 6.92 7.59

.17

.08

.13

.00

.00

.00

14.17 16.67 15.42

AfG 男性

女性 平均

1.33 1.33 1.33

6.17 6.92 6.54

9.83 1.83 5.83

.67 3.92 2.29

16.75 6.42 11.58

1.58

.25

.92

.42

.00

.21

36.83 19.00 27.92

DoG 男性

女性 平均

.92 2.54 1.57

3.75 10.33 6.57

2.75 1.78 2.33

.08

.44

.24 15.33 11.11 13.52

.25

.22

.24

.08

.56

.29

23.92 25.54 24.72

AcI 男性

女性 平均

.00

.00

.00

.50 4.25 2.38

.50

.00

.25

.25 1.50

.90 26.75 31.25 29.50

.00

.00

.00

.00

.00

.00

28.00 37.00 29.33

AfI 男性

女性 平均

1.25

.25

.75 7.75 7.00 7.37

.50

.00

.25

.50

.00

.25 59.00 22.75 40.88

.00

.00

.00

1.00

.00

.50

70.00 30.00 50.00

DoI 男性

女性 平均

1.00 1.75 1.38

8.75 10.00 9.38

.25 1.75 1.00

3.25 1.50 2.38

49.25 31.00 40.13

.00

.00

.00

.50

.25

.38

61.75 48.75 55.25

October

(6)

図2であり、これについて3要因の分散分析を 行った結果が表4である。3要因(性別、個人対 集団、動機のタイプ)すべての主効果とすべての 交互作用が有意であった。

Tukey法による多重比較により、男性は個人事

態でAcI<DoI≒AfIであるが、集団事態ではAcG

<DoG<AfGとな り、女 性 は 個 人、集 団 い ず れ の事態でもAc≒Af<Doであった。

事態間の差については、男性、女性とも個人事 態より集団事態で有意に減少している。しかし、

これは1人当たりの反応数であるから、集団事態 ではこの3倍の反応が観察されていたことにな る。一定の限られた時間の中では、成員数が増え るに従って1成員が使える時間は短くなる、とい う事情をも考慮に入れなければならないであろ う。

2)フラストレーション反応のカテゴリー別検討 すでに方法の節で述べた通り、本研究において フラストレーション反応は7種の行動カテゴリー

(成功に対する懐疑、不平・不満、焦燥、逃避、

落ち着きのない動作、言語的攻撃、身体的攻撃)

に分けて観察・記録されている。カテゴリー別検 討に先だって、実際に観察・記録された反応数の 全体構成を診ておきたい。図3は、個人事態と集 団事態とにおける男女別の構成を図示している。

帯グラフの幅は図の右端に記されたそれぞれの反 図2 フラストレーション反応総数の条件別比較(1人当り平均反応数)

表4 フラストレーション反応総数(分散分析表)

SV df MS F

性(A)

個人−集団事態(B)

動機タイプ(C)

A×B B×C A×C A×B×C Error

1 1 2 1 2 2 2 36

1068.61 6533.33 1332.35 371.41 194.76 1229.80 241.96 45.97

23.25**

142.12**

28.98**

8.07**

4.24 26.75**

5.26**

p<.05 ** p<.01

第 92 号

(7)

応総数に比例するように描かれている。個人事態 と集団事態とを比較を考慮して、いずれも被験者 1人当たりの反応数に変換されている(集団事態 は3人集団であったから、実際に記録された反応 数はこの図に示されたものの3倍あったことに注 意)。

この図の示すところによれば、1人当たり反応 数 が 最 も 多 か っ た の は、個 人 事 態 の 男 性 で

(159.75)、次いで個人事態の女性(115.75)、集 団事態の男性(74.92)、集団事態の女性(61.21)

と少なくなっており、個人事態のほうが集団事態 よりも、また男性の方が女性よりも多い。

さらに反応カテゴリー別の構成をみると、⑤落 ち着きのない動作の占める割合が非常に多いこ と、とくに個人事態において男性で85%、女性で 73%にも達している(因みに、集団事態の男性で は54%、女性では40%)。②不平・不満が次いで 多く、特に集団事態では③焦燥が増えている。反 対に少ない反応についてみると、⑥言語的攻撃は 個人事態の女性ではゼロで、集団事態の男性でわ ずかに増える程度であり、⑦身体的攻撃は4通り

の条件を通して極くわずかしか観察されていな い。①成功に対する懐疑もこれらに次いで少ない が、集団事態でいくぶん増えている(個人事態の 男性で1.4%、女性で1.7%、集団 事 態 の 男 性 で 3.3%、女性で7.4%)のが注目される。

これらの検討を通して、カテゴリーに内在的な 特徴がみとめられる。言語的な攻撃や成功に対す る懐疑、そしておそらくは焦燥も、言語的に表出 されてはじめて観察・記録されるような反応は、

聞き手の居ない個人事態では発現しにくく、語り かける相手(少なくとも聞き手)の居る集団事態 で現れやすいという特徴をもっているように思わ れる。他方、落ち着きのない動作や逃避は必ずし も近くに他者の存在を必要としない反応とみてよ いであろう。

以上のような事情を踏まえた上で、本研究の主 眼である動機タイプ間に見られる差違をフラスト レーション反応のカテゴリー別に検討していこ う。発現量の特に多いものと少ないものについて は、グラフのスケールが変えてあるので注意して 読まなければならない。

図3 フラストレーション反応の構成(1人当り平均数)

October

(8)

①成功に対する懐疑:表3のデータに基づく分 散分析の結果(表5−①)によれば、動機のタイ プの主効果のみが認められた(p<.01)。図4−

①はこの効果を図示するため、主効果も交互作用 効果もみられなかった性別と個人対集団事態を合 わせて動機のタイプ別にまとめたものである。多 重比較の結果、親和動機条件と支配動機条件間に は有意差が認められなかったが、両者はいずれも 達成動機条件より有意に多くの懐疑を表明してい た(それぞれ、p<.05,p<.01)。

②不平・不満:表3のデータに基づく分散分析 の結果(表5−②)によれば、性別と動機のタイ プとに主効果が、そして個人対集団事態×動機の タイプと、性別×動機のタイプとに交互作用効果 が認められた(いずれもp<.01)。図4−②Aお よびBはこれらの効果を図示したものである。

まず、図4−②Aは、個人事態と集団事態の相 違が動機のタイプ別にどう現れるかをみたもので ある。多重比較によれば、達成動機群では集団事

態のほうが個人事態よりも有意に多く、支配動機 群では反対に個人事態のほうが集団事態よりも有 意に多かった(いずれもp<.01)。また、この図 は個人事態では動機のタイプ間にAcI<AfI<DoI の 差 が あ る の に(タ イ プ 間 の 差 は い ず れ もp

<.01)、集団事態ではこのタイプ間の差が消える ことを示している。つぎに性差に焦点を当てた図 4−②Bによれば、達成動機条件と支配動機条 件において女性が男性より有意に多い不平・不満 をも ら し て お り(い ず れ もp<.01)、ま た 男 性 は、親和動機条件と支配動機条件との間には有意 差を示さず、達成動機条件でこれら2条件より有

表5−① 成功に対する懐疑(分散分析表)

SV df MS F

性別(A)

個人−集団事態(B)

動機タイプ(C)

A×B B×C A×C A×B×C Error

1 1 2 1 2 2 2 36

0.95 2.41 6.90 1.60 0.08 2.70 0.09 1.27

0.75 1.90 5.44**

1.26 0.06 2.13 0.07

p<.05 ** p<.01

表5−② 不平・不満(分散分析表)

SV df MS F

性別(A)

個人−集団事態(B)

動機タイプ(C)

A×B B×C A×C A×B×C Error

1 1 2 1 2 2 2 36

97.07 0.69 83.67 5.51 56.47 27.67 2.98 2.94

33.01**

0.23 28.46**

1.87 19.21**

9.41**

1.01

p<.05 ** p<.01 図4−① 成功に対する懐疑(男女の平均)

図4−② A 不平・不満

個人(I)と集団(G)の比較

図4−② B 不平・不満

男性(M)と女性(F)の比較

第 92 号

(9)

意に少ない不平・不満を表明していた(p<.01)

のに対し、女性は達成動機条件と親和動機条件と の間に差がなく、支配動機条件がこれらのいずれ よりも有意に多くの不平・不満をあらわしていた

(p<.01)。

③焦燥:焦燥に関するデータの分散分析(表5

−③)によれば、3要因すべての主効果とこれら の二次、三次の交互作用効果すべてが有意であっ た(個人対集団事態の主効果および性別×動機タ イ プ の 交 互 作 用 効 果 はp<.01、他 は す べ てp

<.05)。図4−③Aは男性について、図4−③B は女性について、それぞれ個人対集団事態と動機 タイプとの関係を図示したものであるが、AB両

図の比較から性差は一目瞭然である。男性の親和 動機群における焦燥が特に顕著で、他の2種の動 機群ともまた女性の3種の動機群のいずれとも有 意差を示していた(いずれもp<.01)。因みに、

男性の達成動機群と支配動機群との間は有意差が なく、女性の3種の動機群間にも有意差がなかっ た。個人事態においては全般に焦燥の表出が少な く男女いずれについても動機のタイプ間に有意差 はみられなかった。個人事態と集団事態との間で 有意差が見られたのは、男性の親和動機条件と支 配動機条件とで、いずれも個人事態より集団事態 で多かった(いずれもp<.01)。女性ではどの動 機条件でも事態間有意差は認められなかった。

図4−③ A 焦燥(男性)

表5−③ 焦 燥(分散分析表)

SV df MS F

性別(A)

個人−集団事態(B)

動機タイプ(C)

A×B B×C A×C A×B×C Error

1 1 2 1 2 2 2 36

27.33 66.27 21.42 33.70 24.94 30.84 21.98 5.48

4.99 12.10**

3.91 6.16 4.55 5.63**

4.01

p<.05 ** p<.01

表5−④ 逃 避(分散分析表)

SV df MS F

性別(A)

個人−集団事態(B)

動機タイプ(C)

A×B B×C A×C A×B×C Error

1 1 2 1 2 2 2 36

1.26 2.19 2.60 5.19 14.34 3.18 4.48 0.79

1.59 2.77 3.29 6.57 18.15**

4.03 5.67**

p<.05 ** p<.01

図4−③ B 焦燥(女性)

図4−④ A 逃避(男性) 図4−④ B 逃避(女性)

October

(10)

④逃避:逃避のデータに関する分散分析(表5

−④)は、動 機 タ イ プ の 主 効 果(p<.05)と 性 別×個人対集団事態、性別×動機タイプ(いずれ もp<.05)、個人対集団事態×動機タイプ、性別

×個 人 対 集 団 事 態×動 機 タ イ プ(い ず れ もp

<.01)に有意な交互作用効果があることを明ら か に し た。図4−④Aと 図4−④Bは、そ れ ぞ れ男性と女性における個人対集団事態と動機タイ プの関係を図示したものである。両図を通して、

目立って多いのは男性の支配動機個人と女性の親

和動機集団である。前者は女性の支配動機個人と の間に、また後者は男性の親和動機集団との間に 有意差を示している。際立って顕著な性差と言え よう。

さて図4−④Aについてみると、個人事態で 高支配動機者に逃避が多かったことはすでに指摘 した通りであるが、これに比べて高達成動機者と 高親和動機者ではともに逃避が有意に少なく(い ずれもp<.01)、かつ後二者間には有意な差がな かった。他方、男性の集団事態における動機タイ 図4−⑤ A 落ち着きのない動作(男性)

図4−⑤ B 落ち着きのない動作(女性)

表5−⑤ 落ち着きのない動作(分散分析表)

SV df MS F

性別(A)

個人−集団事態(B)

動機タイプ(C)

A×B B×C A×C A×B×C Error

1 1 2 1 2 2 2 36

1424.85 7944.39 343.68 365.64 63.33 596.41 256.29 24.26

58.73**

327.47**

14.17**

161.79**

2.61 24.58**

10.56**

p<.05 ** p<.01

表5−⑥ 言語的攻撃(分散分析表)

SV df MS F

性別(A)

個人−集団事態(B)

動機タイプ(C)

A×B B×C A×C A×B×C Error

1 1 2 1 2 2 2 36

0.70 2.16 0.74 0.74 0.74 0.55 0.55 0.13

5.38 16.62**

5.69**

5.38 5.69**

4.23 4.23

p<.05 ** p<.01

第 92 号

(11)

プ間にはどの組み合わせにも有意差がみられな かった。男性の高支配動機者が個人事態で多くの 逃避を示したのに、集団事態では殆どこれを示さ なかったのは興味深い。

次いで図4−④Bの女性では個人事態で動機 タイプ間に有意差はみられず、集団事態で親和動 機群が他の2群に比べて有意に多くの逃避を示し た(p<.01)。他の2群間には有意差なし。ここ でも、女性の高親和動機者が個人ではほとんど逃 避を示さないのに、集団事態でこれほど多くの逃 避を示すのは注目に値する。

⑤落ち着きのない動作:落ち着きのない行動に 関するデータの分散分析(表5−⑤)によれば、

3要因のすべてに主効果が認められたうえ、個人 対集団事態×動機のタイプを除く全ての二次、三 次の交互作用に有意な効果が認められた(主効 果、交互作用効果ともすべてp<.01)。図4−⑤ Aと図4−⑤Bはそれぞれ男性と女性について個 人対集団事態と3種の動機タイプの関係を示して いる。両図の比較(性差)では、親和動機個人、

親和動機集団および支配動機個人において男性>

女性の有意差が認められた。男性についてみると

(図4−⑤A)、個人事態で達成<支配<親和の関 係がみられ(隣接する条件間の差はいずれもp

<.01水準で有意)、集団事態では達成<支配≒親 和の関係が認められた(前2者間の差はp<.05 水準で有意)。女性では(図4−⑤B)個人事態 で親和<達成≒支配の関係がみられたが(前2者 間の差はp<.05水準で有意)、集団事態では動機 タイプ間には差が見られなかった。男女に共通し て見られるのは個人事態で多く集団事態で少な かったということである。

⑥言語的攻撃:表5−⑥に見られる言語的攻撃 データの分散分析結果によれば、全ての主効果、

すべての交互作用効果が有意であった(個人対集 団事態および動機タイプの主効果とこれら2要因 の交互作用効果はp<.01水準で、他はp<.05水 準で有意)。これらの関係を男性と女性に分けて 図示したのが図4−⑥Aと図4−⑥Bであ る。

両図を一瞥して気付くのは、男女とも個人事態で は言語的攻撃が1例も観察されていないことであ る。観察カテゴリーの定義では実験者や観察者も 攻撃の対象に含められていたが、実際にはそれは 1件しか生起しなかった。仲間のいない個人事態 にあっては攻撃の対象が得られなかったとみてよ いであろう。そしてこのことが集団事態との差を 顕著なものとし、個人対集団事態という要因の主 効果とこの要因が関わる交互作用効果を有意なら しめているものと解される。さて、男性(図4−

⑥A)の集団事態では達成≒支配<親和の関係が

み ら れ た(親 和 と 前2者 と の 差 は い ず れ もp 表5−⑦ 身体的攻撃(分散分析表)

SV df MS F

性別(A)

個人−集団事態(B)

動機(C)

A×B B×C A×C A×B×C Error

1 1 2 1 2 2 2 36

0.69 0.30 0.79 0.81 0.09 0.66 0.24 0.22

3.14 1.36 3.59**

3.68 0.41 3.00 1.09

p<.05 ** p<.01

図4−⑥ A 言語的攻撃(男性) 図4−⑥ B 言語的攻撃(女性) 図4−⑦ 身体的攻撃(男女の平均)

October

(12)

<.01水 準 で 有 意)が、女 性(図4−⑥B)の 集 団事態では動機のタイプ間に有意差は見られな かった。

⑦身体的攻撃:身体的攻撃は表3で見られる通 り発生件数がきわめて少ないことを承知の上で、

これらのデータを分散分析にかけてみると、表5

−⑦にみられる通り動機タイプの主効果のみが有 意であった。図4−⑦に示されているように、達 成動機群が他の2群より有意に少ない(事実上ゼ ロの)身体的攻撃を示した。他の2群との差はい ずれもp<.01水準で有意で、この2群間には有 意差がなかった。

3)フラストレーション反応の時間的推移 次にフラストレーション反応量の時間的推移を みることにする。

まず①〜⑦までの7種の反応全体(上で反応総 数と呼んだもの)について、3種の動機タイプ別 および個人・集団事態別に、2分ごとの観測量を 時系列的に折れ線グラフで表示すると図5の通り であった。ここでも、集団事態での測定量は成員 1人当たりの量に変換してある。ただし、男女の データは込みにした。時間軸によるデータの分割 は1セル当たりの度数をあまりにも小さくしてし まうからである。

図5から大まかな傾向として読みとれること は、達成動機集団(AcG)が最も少ない反応数で

ほとんど横這いの推移を示し、これに対応して達 成動機個人(AcI)が個人事態の3本のグラフの 中では最も少ない水準で横這いの推移を示してい る。親和動機集団(AfG)は時間の経過とともに 反応量を増大させており、親和 動 機 個 人(AfI)

も一段と高い水準で同様の右肩上がりの推移をみ せているが、30分以後いくぶん下降している。支 配動機集団(DoG)は3種の集団事態の中間的 水準にあって漸増をみせているのに対し、支配動 機個人(DoI)は最も高い水準にあって親和動機 個人に似た推移を見せ、30分以降大きな下降を示 している。

このような動機タイプ別の動向は、10分ごとの 4期にまとめて図示した図6によっていっそう明 瞭に読み取ることができる。と同時に、時系列変 動について統計的有意性を検討するだけのデータ が得られることになった。3種の動機タイプの個 人事態と集団事態(計6通りの処理条件)の各々 について期を変動因とする分散分析を行い、有意 な効果が確認されたものについて期相互間の多重 比較をおこなった。また、処理条件間の差違につ 図5 条件別にみたフラストレーション反応総数の発

現推移

図6 4期に区分した場合のフラストレーション反応 総数の発現推移

第 92 号

(13)

いてもいったん個人事態と集団事態に分け、各期 ごとに動機タイプを変動因とする分散分析と多重 比較を行った。

図6について得られた知見は、達成動機個人

(AcI)を除く5条件で時系列変動の有意性が認め られ、親和動機個人(AfI)では第1期から第2 期への増 加(p<.05)と 第3期 か ら 第4期 へ の 減少(p<.01)が有意、支配動機個人(DoI)で は第1期から第2期への増加と第2期から第3期 への増加(ともにp<.05)が有意であった。集 団事態では達成動機集団(AcG)が第1期から第 2期へ有意な増大(p<.05)を見せ た 後 第4期 ま で 横 這 い で あ っ た の に 対 し、親 和 動 機 集 団

(AfG)と支配動機集団(DoG)はともに第1期 から第2期へといっそう明瞭な増大(ともにp

<.01)を見せ、第2期から第4期へとさらなる 増大(親和ではp<.05、支配ではp<.01)を示 した。

処理条件間の差違についてみると、まず個人事 態では第1期、第2期とも動機タイプ間の差はす べて有意(第2期の達成−親和間がp<.01、他 はすべてp<.05;ただし両端に位置する達成−

支配間の検定は省略)、第3期と第4期では親和

−支配間の差がなくなり、これら2者と達成との 間 の 有 意 差 は 存 続 し て い た(第3期 で はp

<.01、第4期ではp<.05)。次に集団事態では 3種の動機タイプに差のない第1期からスタート し、第2期には親和が急激な上昇を示して他の2 群から有意に離れ、第3期には支配が親和と差の ないところまで上昇接近し、両者は第4期もほぼ 同じ勾配で上昇を続け、実質的に横這いで進む達 成との差を広げていった(両期とも達成−支配間 の差はp<.01で有意)。

4)反応カテゴリー別にみた時間的推移

フラストレーション反応を構成する7種の反応 カテゴリーの1つ1つについて、その発現量の時 間的推移を4期区分によって診ていこう。この場 合にも、発現量の特に多いものと少ないものにつ いてはグラフのスケールが変えてあるので注意し なければならない。

①成功に対する懐疑:図7−①は成功に対する 懐疑表出量の時間的推移をみたものである。親和

動機個人と支配動機個人では第1期にいくらか表 出されるが第2期以降急速に減少する(この時間 的変動は前者でp<.01水準、後者でp<.05水準 で有意)。達成動機個人では全期間を通じて1件 も観測されていない。集団事態では、どの動機タ イプでも個人事態より多くの量が観測されている が、その中では達成動機集団が最も少なく前半で 特に少なく後半でいくぶん増えているのに対し、

親和動機集団では前半に多く後半に減少して達成 動機集団の水準に接近している。支配動機集団は 第1期で親和動機集団とほぼ同じ高い水準からス タートし、期ごとに減・増・減と大きな変動を見 せている。

②不平・不満:図7−②は不平・不満について 発現の時間的推移をみたものである。個人事態で は支配動機、親和動機、達成動機の順に発現量の 水準は低くなるが、それぞれの水準で時間的経過 とともに減少傾向を示している(ただし、この変 動は統計的有意水準に達していない)。集団事態 では3種の動機タイプ間に殆ど差が見られず、と もに中程度の発現量を終始維持している。

③焦燥:図7−③は焦燥の発現の時間的推移を 示している。どの曲線についても時間的変動は統 計的有意水準に達していないが、親和動機集団の 右肩上がりが特徴的である。

④逃避:図7−④は逃避の発現量の推移をみた ものである。時間的変動が統計的有意水準に達し た も の は、親 和 動 機 集 団 の 曲 線 の み(p<.05)

で、顕著な右肩上がりであった。これと対照的な のは、達成動機集団と親和動機個人の曲線で、こ れらは極めて低い水準で横這い状態を示してい た。

⑤落ち着きのない動作:図7−⑤は落ち着きの ない動作についてその発現量の時間的推移をみた ものである。統計的に有意な時間変動を示したの は、親和動機個人、支配動機個人(以上いずれも p<.05水準)、達成動機集団、親和動機集団、支 配 動 機 集 団(以 上 い ず れ もp<.01水 準)と で あった。

個人事態の親和動機と支配動機はともに第3期 まで上昇し第4期で下降に転じている。集団事態 の3曲線はいずれも右肩上がりの推移を示してい るが、達成動機集団の勾配が最も緩やかである。

October

(14)

図7−① 成功に対する懐疑の発現推移

図7−② 不平・不満の発現推移

図7−③ 焦燥の発現推移

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#

※縦軸のスケールが2倍に拡張$

%&

されていることに注意

図7−④ 逃避の発現推移

図7−⑥ 言語的攻撃の発現推移

(cf.個人事態での発現は皆無)

図7−⑤ 落ち着きのない動作の発現推移

第 92 号

(15)

因みに、達成動機個人に関して有意な時間的変動 が認められなかったということは、この曲線が実 質的に横這いであることを意味する。

⑥言語的攻撃:図7−⑥は言語的攻撃について その発現の推移をみたものである。先に表3で見 たように、言語的攻撃は個人事態では1件も観察 されなかった。図中の3本の曲線はいずれも集団

事態のものであるが、どれにも統計的に有意な時 間的変動は認められなかった。統計的有意性を無 視して強いて特徴を読むとすれば、ここでも達成 動機集団で終始一貫して少ないのと対照的に、親 和動機集団では時間の経過につれて漸増する傾向 を暗示している。

⑦身体的攻撃:図7−⑦は身体的攻撃の発現の 推移を示している。達成動機条件では個人事態で も集団事態でも、身体的攻撃は1件も観察されな かった(表3参照)。残りの4本の曲線のいずれ についても有意な時間的変動は認められていな い。統計的に有意でない傾向を敢えて読み取ろう とすれば、またしても親和動機集団における第3 期以降の増大傾向が注目されよう。

5)事後の質問紙への回答

結局パズル解きに成功しないまま40分間の作業 時間終了を迎えた被験者たちは、実験の終了を告 げられ、事後の質問紙に回答を求められた。表6 図7−⑦ 身体的攻撃の発現推移

表6 事後質問紙への回答(7段階評定の平均値

質問項目 達成 親和 支配

Q1.私はグループの他の人に負けまいと、張り合う気持

を持った。 集団 5.0 6.0 4.5

個人 4.8 4.8 3.3 Q2.もし仕事の出来ばえが良かったとすれば、私が正し

い答えを出してグループをリードしたからである。 集団 5.5 6.3 3.4 個人 − − − Q3.私はグループの人達と一緒に仕事をして楽しく感じ

た。 集団 3.5 3.0 3.4

個人 − − − Q4.私は仕事をしている時、他の人の態度にいらいらさ

せられた。 集団 5.0 5.6 4.7

個人 − − − Q5.グループの人達は**、仕事を早く仕上げることに

熱心だった。 集団 2.7 3.0 3.8

個人 3.9 3.4 2.4 Q6.グループの出来ばえが良くなかったとしたら、それ

はグループの中の他の誰かのせいである。 集団 6.0 6.0 5.8 個人 − − − Q7.私は仕事をするうちに、悪口を言われたりけなされ

たりして、いやな感じを受けた。 集団 6.6 6.7 6.5 個人 − − − Q8.私は仕事が仲々はかどらなくて、いらいらした。 集団 3.5 3.9 2.8

個人 2.6 1.9 1.8 Q9.私は他の人に気楽な感じを与えるように努めた。 集団 3.8 4.2 4.0 個人 − − − Q10.グループの出来ばえが良くなかったとすれば、それ

は私のせいである。 集団 4.4 4.5 5.1 個人 − − − Q11.いまおこなった仕事は面白かった。 集団 3.4 2.9 3.9

個人 3.8 4.8 5.0 Q12.いまおこなった仕事は難しかった。 集団 2.1 1.7 1.4 個人 1.8 1.5 1.4

7段階評定値:非常にそう思う1.....7全くそう思わない 注意:得点が小さいほど肯定的

**個人事態では「グループの人達は」を「私は」と読み替えるように口頭で指示した。

October

(16)

に示されているように、集団事態ではQ1からQ 12まで12問全部が、個人事態ではQ1,5,8,

11,12の5問が尋ねられた。この表の項目欄に記 されたステイトメントに対し、「非常にそう思う」

を1,「全くそう思わない」を7とする(肯定的 であるほど得点が低くなることに注意せよ)、7 段階評定による回答結果が表の右側に処理条件別 の平均値で記されている。

各質問項目ごとに性別、個人対集団事態(ただ し、Q1,5,8,11,12の み)、動 機 づ け タ イ プの3要因(個人事態のデータを取らなかった項 目では2要因)による分散分析を施した。実際に 性別の主効果が認められたのはQ1においてのみ であったので、表6には性別に分割した資料は敢 えて記載しなかった。

Q1.他者と張り合う気持ちは、性別の主効果 のみ有意で、当然予想されるように、全般的に男 性の方が女性より強かった(表7−①)。表6の 数値からは、すべての動機タイプについて集団事 態でのほうが個人事態でよりも弱いかにみえる が、これらの差は有意でなかった。

Q2.自己のリーダーシップについての認知 は、親和動機集団で他の動機タイプの集団より有 意に低かった(表7−②)。他の動機タイプの集 団(すなわち、達成動機集団と支配動機集団)の

間には有意差がみられなかった。

Q8.仕事が捗らないことによるイライラ感 は、個人事態でよりも集団事態でのほうが有意に 低かった(表7−③)。イライラ感は集団の中で 相互に刺激し合ってかえって高まるのではないか とも考えられたが、このデータで見る限り集団は 逆に沈静化の効果をあげている。動機のタイプ間 には有意差がみられない。

Q11.仕事のおもしろさについては、課題その ものは同じパズルであったにもかかわらず、集団 事態でのほうが個人事態でよりもおもしろかった と被験者たちは感じていた(表7−④)。これは上

のQ8でみた結果とも関係するものと思われる。

なお、上記以外の質問項目、すなわちQ3.

グループで活動することの楽しさ、Q4.他の人 の態度にイライラさせられた、Q5.早く仕上げ ようとする熱意、Q6.フラストレーション事態 における外罰的傾向、Q7.他者からの攻撃、Q 9.自己の集団維持機能的努力、Q10.フラスト レーション事態における内罰的傾向、およびQ 12.仕事の困難さについては、いかなる有意な条 件間差もみとめられなかった。

表7−② 自己のリーダーシップについての認知(Q2)

SV df MS F

性別(A)

動機タイプ(B)

A×B Error

1 2 2 18

0.06 2.22 0.64 0.55

0.11 4.04 1.16

p<.05 ** p<.01

表7−③ 仕事が捗らないことによるイライラ感(Q8)

SV df MS F

性別(A)

個人−集団事態(B)

動機タイプ(C)

A×B B×C A×C A×B×C Error

1 1 2 1 2 2 2 36

1.73 22.87 1.92 0.99 1.50 2.13 0.27 1.27

1.36 18.01**

1.51 0.78 1.18 1.68 0.21

p<.05 ** p<.01

表7−④ 仕事のおもしろさ(Q11)

SV df MS F

性別(A)

個人−集団事態(B)

動機タイプ(C)

A×B B×C A×C A×B×C Error

1 1 2 1 2 2 2 36

0.20 12.43 4.18 1.65 2.94 4.31 4.52 2.36

0.08 5.27 1.77 0.70 1.25 1.83 1.92

p<.05 ** p<.01 表7−① 他者と張り合う気持ち(Q1)

SV df MS F

性別(A)

個人−集団事態(B)

動機タイプ(C)

A×B B×C A×C A×B×C Error

1 1 2 1 2 2 2 36

12.00 5.32 5.40 1.33 1.40 7.09 0.34 2.35

5.11 2.26 2.30 0.57 0.67 3.02 0.14

p<.05 ** p<.01

第 92 号

(17)

考察と結論

はじめに主要な結果を整理しておこう。1人当 たり平均発現量に換算されたフラストレーション 反応総数については、3要因(性別、個人対集 団、動機のタイプ)すべての主効果とすべての交 互作用効果が有意であった。

まず、男性の反応発現量は個人事態で達成<支 配≒親和であったが、集団事態では達成<支配<

親和となったのに対し、女性の反応は個人事態、

集団事態ともに達成≒親和<支配であった。男女 とも集団・個人両事態を通じて達成動機条件で最 も少なかったことが注目される。また、最も多 かったのは、男性では親和動機条件、女性では支 配動機条件であったという性差が認められた。

事態間の差についてみると、男・女とも個人事 態より集団事態で有意に減少している。この抑制 効果には集団場面で1成員の利用可能な平均時間 は成員数分の1(本実験では1/3)となってし まうという物理的制約が含まれている可能性は排 除できないが、一方で質問紙調査からは、集団事 態には(仕事が捗らないことによる)イライラ感 を緩和・沈静化する効果や仕事をおもしろく感じ させる効果のあることが判明している。

フラストレーション反応総数にはまた、個人事 態の達成動機条件を除く5条件で時系列変動の有 意性が認められている。個人事態の親和動機条件 では第1期から第2期・3期へと増加し、第3期 から第4期へと減少しており、同じく個人事態の 支配動機条件では第1期から第2期へさらに第3 期へと増加している。集団事態では達成動機集団 が最も低い水準ながら第1期から第2期へと増大 した後第4期まで横這いであったのに対し、親和 動機集団と支配動機集団はともに第1期から第2 期へといっそう明瞭な増大をみせ、第2期から第 4期へとさらなる増大を示した。

成功に対する懐疑の発現量は動機タイプの主効 果のみが有意であった。親和動機条件と支配動機 条件がともに達成動機条件より多くの懐疑を表明 していた。

発現の時系列推移をみると、個人事態の達成動 機条件では全期間通じて懐疑の表明は1件も観測

されておらず、親和動機条件と支配動機条件で第 1期に数件ずつ表出さたが第2期以降急速に減少 した。集団事態では、達成動機集団が前半に少な く後半いくぶん増やしているのに対し、親和動機 集団は前半に多く後半減少して達成動機集団の水 準に接近しており、支配動機集団は始め親和動機 集団と同水準からスタートし、期ごとに減・増・

減と大きな変動を見せた。

不平・不満:性別と動機タイプとに主効果が、

そして個人対集団事態×動機タイプおよび性別×

動機タイプに交互作用効果が認められた。性差に ついては、達成動機条件と支配動機条件において 女性が男性より有意に多い不平・不満をもらし、

男性は親和動機条件と支配動機条件とがほぼ同程 度、達成動機条件でこれら2条件より少ない不平

・不満を表明していたのに対し、女性は達成動機 条件と親和動機条件とが同程度、支配動機条件が これらより多くの不平・不満をあらわしていた。

個人事態で見られていた達成<親和<支配という 差違が集団事態では消滅していた。また、達成動 機条件では集団事態のほうが個人事態よりも不平

・不満が多かったのに、支配動機条件では逆に個 人事態のほうが集団事態より多かった。

不平・不満の発現には時系列効果は認められて いない。

焦燥:3要因すべての主効果とこれらの二次、

三次の交互作用効果すべてが有意であった。性差 については、男性の親和動機集団における焦燥が 特に顕著で、他の2種の動機集団ともまた女性の 3種の動機集団(これら3種の集団間に有意差 なし)のいずれよりも多かった。女性の3種の動 機群間にも有意差がなかった。個人事態において は全般に焦燥の表出が少なく、男女いずれについ ても動機タイプ間差はみられなかった。個人事 態と集団事態との間で差違が見られたのは、男性 の親和動機条件と支配動機条件とにおいてで、い ずれも個人事態より集団事態で多かった。女性で はどの動機条件でも事態間差は認められなかっ た。

焦燥の時間的推移については、統計的有意水準 に達していないとはいうものの、親和動機集団の 右肩上がりが特徴的である。

逃避の発現量には動機タイプの主効果と、性別

October

(18)

×(個人対集団)事態、性別×動機タイプ、事態

×動機タイプ、性別×事態×動機タイプに有意な 交互作用効果が認められた。個人事態で多くの逃 避を示した男性の支配動機条件が、集団事態では 殆どこれを示さなかったのに対し、女性の親和動 機条件がが個人事態ではではほとんど逃避を示さ なかったのに、集団事態で多くの逃避を示したの が注目される。

時間的変動が統計的有意水準に達したものは、

親和動機集団の曲線のみで、顕著な右肩上がりを 示していた。これと対照的なのは、達成動機・集 団と親和動機・個人の曲線で、いずれも極めて低 い水準での横這い状態を示していた。

落ち着きのない動作の発現量は3要因のすべて に主効果が認められたうえ、事態×動機タイプを 除く全ての二次、三次の交互作用に有意な効果が 認められた。まず、親和動機・個人、親和動機・

集団、支配動機・個人の3条件において男性のほ うが女性より多かったが、男性の内部では、個人 事態で達成<支配<親和の関係が、集団事態では 達成<支配≒親和の関係が認められた。女性で は、個人事態で親和<達成≒支配の関係がみられ たのに、集団事態では動機タイプ間に差が見られ なかった。男女に共通して見られるのは個人事態 で多く集団事態で少なかったということである。

達成動機・個人を除く残りの5条件で有意な時 系列的変動が認められた。個人事態の親和動機条 件と支配動機条件はともに第3期まで上昇し第4 期で下降に転じ、集団事態の3条件はいずれも右 肩上がりの推移を示しているが、達成動機集団の 勾配が最も緩やかであった。因みに、達成動機個 人に関して有意な時間的変動が認められなかった ということは、この曲線が実質的に横這いであっ たことを意味する。

言語的攻撃については全ての主効果、すべての 交互作用効果が有意であった。男女とも個人事態 では言語的攻撃が1件も観察されていないことで ある。観察カテゴリーの定義では実験者や観察者 も攻撃の対象に含められていたが、実際には個人 事態でそれは生起しなかった。これらのことが集 団事態との差を際立たせている。男性の集団事態 では達成≒支配<親和の関係がみられたが、女性 の集団事態では動機のタイプ間に有意差は見られ

なかった。6つの実験条件のどれにも統計的に有 意な時間的変動は認められなかった。統計的有意 水準に達してはいないものの、親和動機・集団で 時間の経過とともに漸増する傾向が注目される。

同様な傾向が身体的攻撃にも見て取れるからであ る。

身体的攻撃の発現量には動機タイプの主効果の みが認められた。達成動機条件が他の2条件より 有意に少ない(事実上ゼロの)身体的攻撃を示し た。他の2群間には有意差がなかった。

発現量ゼロであった達成動機(個人と集団)以 外の、4条件についても有意な時間的変動は認め られていない。有意ではないものの、ここでも親 和動機・集団における第3期以降の増大傾向が注 目される。

事後の質問紙への回答で実験条件間に何らかの 有意差が認められたのは、他者と張り合う気持ち が、全般的に男性の方が女性より強かったこと、

自己のリーダーシップについての認知が、親和動 機・集団で他の動機タイプの集団より低かったこ と、仕事が捗らないことによるイライラ感が個人 事態でよりも集団事態のほうで低かった(動機の タイプ間には有意差がみられない)こと、仕事の おもしろさが、(課題そのもの は 同 じ パ ズ ル で あったのに)集団事態で個人事態でよりも高く評 価されていたことであった。最後の2点に関して は、集団事態のほうがフラストレーションを高め やすいのではないかとの予想もあったが、結果は むしろ集団がイライラ感を沈静化させ、作業をお もしろくさせるなど予想とは逆の効果をもたらし ていたようである。

さて以上の知見を踏まえて、本研究の主眼であ るフラストレーション反応に見られる集団の動機 づけタイプの効果をまとめておこう。

達成に動機づけられた集団では、親和や支配に 動機づけられた集団に比べて、観察されたフラス トレーション反応量が少なく、時間の経過に伴う 増加傾向も認められなかった。彼らはフラスト レーションを感じることが少なかったのであろう か。事後の質問紙調査の結果に見る限り、仕事が 捗らないことによるイライラ感も、周りの人々の 態度にいらいらさせられた度合いも、さらには仕 事の難しさ、面白さなどについても、他の動機づ

第 92 号

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