66 近畿大学農学部紀要 第51号 66~68 (2018)
近畿大学奈良キャンパスにおけるカスミサンショウウオの 新たな目撃地点
澤畠拓夫・河村勇輝 ・ 荻野星・石原竜
近畿大学農学部環境管理学科
The new record of the Japanese clouded salamander, Hynobius nebulosus, in the Nara Campus of Kindai University
Takuo S
AWAHATA, Yuki K
AWAMURA, Akari O
GINOand Ryu I
SHIHARADepartment of Environmental Management, Faculty of Agriculture, Kindai University, 3327-204 Nakamachi, Nara 631-8505, Japan
Synopsis
We reported two newly record of the Japanese clouded salamander, Hynobius nebulosus in the Nara Campus Kindai University. These findings suggest that there could be unknown breeding sites of the salamander. More field surveys are needed to clearly ascertain their habitat in our university.
Key words: Amhibia, Cryptobranchoidea, Hynobiidae, Red data animals
1. 背 景
カスミサンショウウオ(Hynobius nebulosus Temminck et Schlegelは愛知県以西 に分布する止水性の小型サンショウウオで、
西日本の代表的な種の一つである(内山りゅ うら, 2002)。本種は幼生期まで水田や池、川 などで水生生物を捕食し(内山りゅうら,
2002; 日高敏隆ら, 2006)、亜成体になると上
陸して、森林内で林床のリターや倒木などの 下で土壌動物を捕食し生活している(Ihara &
Fujitani, 2005; 日高敏隆ら, 2006)。そのた め、本種が生活史を完結する上で、森林と水 辺の両環境の存在が必須となる(内山りゅう ら, 2002; 日高敏隆ら, 2006)。しかし、近年 では森林開発や水辺の改変のため個体数が減 少し、環境省において絶滅危惧Ⅱ類、奈良県 下においても、2010年に特定希少野生動植
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物に指定されている(奈良県レットデータブ ック策定委員会,2006; 奈良県レットデー タブック改訂委員会,2017)。
奈良県では、2013年に定められたカスミサ ンショウウオの保護管理事業計画の中で、
近畿大学奈良キャンパスは奈良県下でも有数 のカスミサンショウウオの生息地に指定され (奈良県, 2013)、その維持管理が求められてい る。カスミサンショウウオの保全を進めてい く上で、生息場所での生息状況の把握に加え、
メタポピュレーションの探索とその保全が急 務である(廣瀬, 2008)。本報では、近年キャン パス内で新たに見出されたカスミサンショウ ウオの確認地点について記述し、これまで未 知の繁殖場の存在を示唆することを目的とす る。
2.報告と考察
確認地点1
2015年4月23日、本キャンパス調整池の 周辺の側溝内で魚の餌として用いるミミズを 採集中にカスミサンショウウオを目撃した
((図1と2)。この個体は、体長8cm程度で あることから、亜成体と考えられ、翌日もそ の場に留まり、その後、移動したようであっ た。2008年、調整池周辺の側溝において本確 認地点のほぼ対岸に当たる場所でカスミサン ショウウオの卵塊が見出されたことがあった (今井・桜谷, 2012)。この卵塊は一対の卵塊の 片方を欠損しており、しかも孵化しなかった ことから、この卵塊は未受精卵が雨などに流 されて来た可能性があるとされている(今井・
桜谷, 2012)。その後、2011年の調査ではカス ミサンショウウオの卵塊その他生息を示唆す る痕跡は確認できなかった(廣瀬, 2008)。これ まで調整池でのカスミサンショウウオの産卵 は見出されておらず、さらに本学の学生が調 整池周辺の側溝でミミズなどを掘った際にカ スミサンショウウオを目撃したという事例は これまでなかったことから、調整池周辺の側 溝はカスミサンショウウオの恒常的な生息場 所となってはおらず、放浪個体による一時的 な利用と考えるのが妥当であろう。ただし、
本確認地点はこれまでに記録されているカス ミサンショウウオの産卵場所(廣瀬, 2008)か らは、かなり離れていることから、これまで 未知のカスミサンショウウオの繁殖場所の存 在が期待される。
確認地点2
2017年4月8日、本キャンパス第二駐輪場
図1.近畿⼤学奈良キャンパスにおけるカスミサンショウウオの 確認地点
△:今井・桜⾕(2012)までの確認地点,◯:今回新たに
⾒出された確認地点.
カスミサンショウウオの新たな目撃情報 68
付近でカスミサンショウウオの事故死体が拾 得された(図1と3)。この個体は成体であり 繁殖場所から生息場所への移動途中に事故に あったものと考えられた。これまで付近にカ スミサンショウウオの繁殖場は知られていな い(廣瀬, 2008)ことから、本確認はこの地区で のカスミサンショウウオの新たな繁殖場所の 存在を示すものである。
3.まとめ
本報で示したカスミサンショウウオの2つ の目撃地点は、これまで行われたカスミサン ショウウオの分布調査で記録のない未知のも のであり、新たな生息地の発見につながるも のである。本発見をもとに、今後さらなる探 査を行なっていく必要がある。
4.引用文献
Ihara,S.,Fujitani,T.(2005) Prey items of the Hynobius nebulosus in Nagoya and its inferred position in the soil food web.Edaphologia,76: 7-1.
今井忍・桜谷保之 (2012) 近畿大学奈良キャ ンパスにおける絶滅寸前種カスミサンショ ウウオの生息状況.近畿大学農学部紀要.
45: 157-162.
日高敏隆・千石正一・疋田努・松井正文・中 谷一宏 (2006) 日本動物大百科5両生類・
爬虫類・軟骨魚類.192 pp.平凡社.東京.
廣瀬允彦 (2008) 近畿大学奈良キャンパスに おける絶滅寸前種カスミサンショウウオの 生態.2008年度卒業論文26 pp.
奈良県 (2013) 平成24年度特定希少野生動植 物カスミサンショウウオ保護管理事業計画 策定調査業務報告書. 57 pp. 奈良県,奈良.
奈良県レットデータブック策定委員会
(2006) 大切にしたい奈良県の野生動物~
奈良県版レットデータブック脊椎動物編.
143 pp.奈良県森林保全課,奈良.
奈良県レットデータブック改訂委員会
(2017) 大切にしたい奈良県の野生植物~
奈良県版レットデータブック改訂版.
791 pp. 奈良県くらし創造部景観・自然環
境課,奈良.
内山りゅう・前田憲男・沼田健二・関慎太 郎,2002.決定版日本の両生爬虫類.平凡 社.東京.p10-11.