博 士 ( 薬 学 ) 幸 野 貴 之
学 位 論 文 題 名
スフインゴシン 1 −リン酸受容体の 機能における糖鎖の役割
学位論文内容の要旨
Endothelial differentiation gene product(Edg) は, 生 理活 性脂 質で ある ス フ ィ ン ゴ シ ン1− リ ン 酸 を り ガン ドと する ,7回膜 貫通 型 のG夕 ン バク 質共 役型 受容 体
(GPC恥 であ る。 最近 の研 究 から ,ス フイ ンゴシン1−ルン酸は, 細胞表面に発現してい るEdgファ ミリ ー受 容 体を 介し てMAPキ ナー ゼ活 性 化や 細胞 内カ ル シウ ムイ オン 濃度 の 増加など,さまざまな細胞 応答を引き起こすことが明ら かになった。スフインゴシン1一リ ン酸 はま た, 細胞 内 でセ カン ドメ ッ セン ジャーとして機能するこ とも示唆されている。
ス フ イ ン ゴ シ ン1― リ ン 酸 受 容 体 を 含 む 多 く のG夕 ン パ ク 質 共 役 型 の7回 膜 貫 通型受容体は,翻訳後,細 胞表面ヘ移行する過程で,糖鎖付加,バルミチン化,リン酸化,
ユピキチン化,硫酸化など ,さまざまな修飾を受けるこ とが知られているが,これらの翻 訳後修飾の役割は完全には 明らかではないものが多い。
そ こ で , 本 研 究 で は , (1) ス フ ィ ン ゴ シ ン1― リ ン 酸受 容 体Edg→1に付 加さ れ たアスパラギン結合型糖鎖 の受容体機能における役割を 検討した。また,(2)Edg−1のN 末端領域が,細胞表面への 発現の過程で切断されることを見い出し, その役割について検 討した。さらに,(3)免疫 系細胞に特異的に発現して いるにもかかわらず,ほとんど機能 が 明 ら か で は な い ス フ イ ン ゴ シ ン1― リ ン 酸 受 容 体Edg−6の 機 能 解 析 を 行 っ た 。 こ れ ら の 研 究 を 通 し て , 細 胞 表 面 に 発 現 す る タ ン パ ク質 に 結合 した 糖鎖 の新 た な役割が明らかになった。 これらの知見は,スフインゴ シン卜リン酸とその受容体の生理 的な役割を明らかにするた めに重要であると思われる。
1.リ ガンド依存的なEdg―1の細胞 内移行における糖鎮の役割
7回 膜 貫 通 型 受 容 体(GPCR)を 含 む 多 く の 細 胞 表 面 に 発 現 す る タ ン パ ク 質 は 糖 鎖修飾 されていることが知られて いる。しかし,これらのタン パク質に付加した糖鎖の役 割は完 全には明らかではない。そ こで,本研究では,スフインゴシン1‑ルン酸受容体Edgー1 が糖鎖 修飾されているかを検討し ,Edgー1に結合した糖鎖の役割を検討した。まず,Edg−1 の アス パ ラギ ン残 基を 他の ア ミノ 酸に 置換 し た変異体を用いてEdg−1の塘 鎖結合部位を 検 討し ,Edg―1が ,30番目 の アス パラ ギン 残 基において糖鎖修飾されてい ることを明ら かにし た。次に,Edgー1に付加し た糖鎖の役割を検討するため ,糖鎖修飾を受けない変異 型(N30D) Edg−1を 安 定 に 発 現 す るCHO細 胞 を 作 成 し た 。 こ の 細胞 を用 いてEdg−1に おける 糖鎖の役割を検討した。そ の結果,N30DーE〔塘ー1では,野生型Edg−1と比較して,
ルガン ド親和性には有意な差がな いにもかかわらず,低濃度の りガンド刺激に応答して細 胞内へ 移行する受容体数が減少す ることを見い出した。細胞表 面に発現する受容体の多く は,細 胞表面に均一に分布してい るのではなく,さまざまな情 報伝達分子が集積している 細胞膜 マイクロドメイン上に不均 一に局在することが知られて いる。また,細胞表面に局 在する タンパク質に結合した糖鎖 や糖脂質の糖鎖は,糖鎖一糖鎖の相互作用によって情報を 制 御す る こと が示 唆さ れて い る。 そこ で,Edg―1に結合した糖鎖の有無が ,Edg−1の細 一85―
胞膜マ イクロドメインヘの集積に関 与するかを検討した。その 結果,N30D―Edg―1では,
野 生型Edg―1と比 較し て, マ イク ロド メインに集積 する割合が減少することを見 い出し た 。こ の こと は, リガ ンド 刺 激依 存的 なN30DーEdg−1の細胞内移行が減少したこ とと強 い相関 がある。以上のことから,Edgー1の細胞膜マイクロドメインヘの局在制御に,Edg一1 の 糖 鎖 が 重 要 な 役 割 を 持 つ こと を明 ら かに した 。こ の研 究 では ,7回膜 貫通 型受 容体 (GPCR)の マ イク ロド メイ ンへ の 集積 が糖 鎖の 有 無に 依存 して いる こ とを 初め て明 らか に し , 受 容 体 の 細 胞 内 移 行 に 糖 鎖 の 有 無 が 影 奮 す る こ と を 初 め て 示 唆 し た 。 2.Edg−1のN末靖細胞外領 域は,その籍鎮儘飾過程に影fする
本 研 究 で は , 培 養 細 胞 に 発 現 さ せ た ス フ イ ン ゴ シ ン1− リ ン 酸 受 容 体Edg‑lと Edg−3のN末 端領 域が 切断 さ れる こと を見 い出 し た。 そこ で,Edgー1のN末 端 領域 の役 割を 検討 する ため ,Edg−1のN末 端切 断領 域を 欠 失し た変 異体を作製し,切断 部位を同 定し た。 培養 細胞 へ 一過 性に 発現 させたEdgー1は ,小胞体で糖鎖修飾を受けた 後,ゴル ジ体でさらに複合型糖鎖に よる修飾を受けてから細胞表 面へと移行する。しかし,Edg−1 のN末 端 切断領域を欠失 した変異体では,小胞体で は糖鎖付加されるが,ゴルジ 体での糖 鎖修 飾が 行わ れず , 大部 分は 細胞 表 面へ は発 現し なか っ た。また,Edg―1のN末端切断 部位に塩墓性アミノ酸を導 入した変異体では,ゴルジ体 で修飾される糖鎖の分子量が増加 した 。こ れら の結 果 は,Edg−1のN末 端領 域の ア ミノ 酸配 列が,Edg−1の細胞 表面への 発現 と適 切な 糖鎖 修 飾過 程に 影fする こと を示 し てい る。 血管内皮細胞に発現 している Edg―1とEdg―3は,ス フインゴシン1―ルン酸依存 的な血管の環状構造形成に重 要な役割 を担っている。糖夕ンパク 質に結合した糖鎖の種類の変 化は,癌の悪性度と密接な関係が あることが示唆されており ,また,膜夕ンパク質におけ る細胞外領域の切断異常は多くの 疾患 に関 与しているこ とから,これらの受容体のN末端切断に生理的意義の存在 が示唆さ れた。
3. 細 胞 表 面 に 発 現 し たEdg−6は ル ガ ン ド 刺 激 依 存 的 に 細 胞 運 動 を 亢 進 さ せ る ス フ イ ン ゴ シ ン1― リ ン 酸 受 容 体Edg−1,Edg−3,Edg−5のmRNAの 発 現 は , 多 くの 組織 で普 遍的 に 観察 され るの に 対し ,Edg−6のmRNAの発 現は 免疫 系・ 血 球系 の 細胞に局在している。.しか し,培養細胞に過剰に発現 させたEdg−6は細胞表面へは発現 しにくいため,Edgー6の機能 解析はほとんど進んでいな い。このように,培養細胞への発 現が 困難 な7回膜 貫通 型受 容 体は 比較 的多く存 在する。本研究では,N末端 にェピトープ タグ を付 加し たEdg―6や ,Edg―6とGFPと の融 合 夕ン パク 質は ,小胞体に 留まり,細胞 表面 へは 発現 しな いことを明らかにした。一方 ,C末端にタグを付加したEdg−6は細胞表 面へ 局在 しす るこ と を見 い出 した 。そ こ で,Edg−6を 安 定に 細胞表面に 発現するCHO細 胞を作製し,スフインゴシン1ーリン酸受容体としてのE(塘一6の機能を検討した。まず,
細胞 表面 に発 現し たEdg―6は ,ア スパ ラギン 結合型糖鎖による修飾を受け ていることを 明ら かに した 。次 に ,E血r6安定 発現 細胞は, スフインゴシン1―リン酸に 対する細胞遊 走能を,百日咳毒素感受性に 亢進させることを見い出し た。さらに,この細胞運動能の亢 進は,ドミナントネガテイプC(lc42の共発現によって抑 制されることを明らかにした。こ れら の結 果か ら, スフインゴシン1−ルン酸依 存的なEdg―6を介する情報伝 達経路の一部 が,細胞運動能の調節に関与 している可能性が示唆され た。スフィンゴシン1―ルン酸は,
いくっかの免疫疾患に関与す ることが示唆されているが,その分子機構は明らかではない。
本研究で得られた知見は,免 疫系細胞におけるスフィン ゴシン卜リン酸の役割を明らかに するうえで重要である。
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学位論 文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 助教授
五十嵐 横沢 川原 井/口
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