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アフリカ・中東の食料需給

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(1)

アフリカ・中東の食料需給

●変貌するアフリカ・中東の食料需給

●モザンビークのキャッサバ転換

●アフリカ穀物自給への道とアジアからの示唆

JUL 2011

ISSN  1342−5749

7

(2)

今 月 の 窓

ソーシャルキャピタル

東日本大震災と福島原発事故の直後から,世界の注目は日本に集まり,その動向には 様々な論評がなされてきた。全ての報道に目を通したわけではないが,まず間違いなく指 摘できることは,わが国の対応において最も高い評価を受けたのは,原発の安全性に関す る高い技術力でも,危機管理,復興に向けての強い政治的リーダーシップでもない。多く の国々が驚き,称賛を惜しまなかったのは,あれほどの未曽有の災害の中にあってもお互 いに助け合い,秩序だった行動を守る東北地方の人々そのものであった。

こうした,ある社会における人々の繋がり,関係性の強さといったものを表す「ソーシ ャルキャピタル」という概念は,近年世界的に注目を集めるようになっている。その重要 性は,以前から多くの人々によって指摘されていたものであったが,特に近年広く注目さ れるようになったきっかけは,米国の政治学者パットナムによって著された『孤独なボー リング』という著作であり,それは,様々な指標の分析に基づき,米国社会における人々 の絆,すなわち「ソーシャルキャピタル」の急速な低下に警鐘を鳴らすものであった。「ネ ットカフェ難民」,「孤独死」,「無縁社会」等,わが国の最近の社会を象徴する多くの言葉 もまた,人々の絆が急速に失われつつあることを強く懸念させるものである。

わが国の農・漁村においては,古くからそうした人と人との繋がりが養われ,そのこと が農・漁村を維持していく上で大きな役割を果たしてきた。個々の農業・漁業の経営は私 的に,個別に営まれているものであるが,農・漁村を全体として見た場合,それは皆が共 有する財産といった性質を強く有している。例えば農業における水利施設は多くの農業者 が共同で利用し,維持していくことが不可欠なものである。農地は個々人に属するもので あっても,一人がそれを荒らし,害虫を発生させれば多くの周辺農家に迷惑がかかる。地 域ブランドといったものを形成していくためには,多くの農家の共同した努力が必要とな る。漁業の場合,その資源の共有財産としての性格はより直接的な形で表れ,特定の漁業 者による乱獲,海洋の汚染といった行為は,直ちに多くの漁業者に影響を及ぼす。

従来,経済学においては,共有の牧草地などが,多数の利用者による収奪によって荒れ 果ててしまうことを「コモンズ (共有地) の悲劇」として,ある程度宿命的な位置づけが なされてきた。しかし,多くの農・漁村において,そうした事態を回避し,持続的に多く の人々が暮らしていくことを可能としていたものこそが,互いに助け合い,協力し合う「ソ ーシャルキャピタル」の力であったものといえよう。それは,将来にわたってその地域に 住み,働き,生活し続けようとする人々の,いわば「集合的な知恵」とでもいうべきもの である。

今,東北地方の農・漁村の復興に向けて,様々な議論が行われている。企業参入の自由 化,民間企業の活力導入といった方向性を唱える声も強い。市場による競争の効果を全く 否定するものではないが,競争の促進が全てを解決するといった考え方もまた大きな間違 いである。そのことが,わが国農・漁村が有していた素晴らしい資産である「ソーシャル キャピタル」を壊してしまうようなことは決してあってはならないことであろう。

((株)農林中金総合研究所 取締役基礎研究部長 原 弘平・ はら こうへい )

(3)

54

東北大学大学院教授  両角和夫 ──

低価格輸入穀物と食糧援助が崩したアフリカ諸国の増産意欲 高まる食料の輸入依存度

今月のテーマ

アフリカ・中東の食料需給

今月の窓

(株)農林中金総合研究所 取締役基礎研究部長  原 弘平 ソーシャルキャピタル

清水徹朗 ── 

2

変貌するアフリカ・中東の食料需給

統計資料 ──

72

情  勢

談 話 室 東日本大震災からの復興と

「循環型流域経済圏」 の構想

  尾高恵美 ── 

58

JA厚生連病院と農協が連携した地域活動

 ――病院栄養部門と農協組合員組織との連携を中心に――

農 林 金 融 第 64 巻 第 

7

 号〈通巻785号〉 目  次

本  棚

大沢真理 編著

『社会的経済が拓く未来  ―危機の時代に 「包摂する社会」を求めて― 』

56

農林中央金庫 JAバンク統括部主監  明田 作 ──

阮 蔚 ── 

39

アフリカ穀物自給への道とアジアからの示唆

東アフリカにおける商品化の動き

平澤明彦 ── 

17

モザンビークのキャッサバ転換

外国事情

64

  藤野信之  ──

韓国農協中央会の金融・経済分離について

(4)

〔要   旨〕

1

 アフリカの人口は10.3億人であるが,面積が広大であるため人口密度は低い。気候は多様 であり53の国がある。アフリカ経済は90年代まで長期にわたり遅滞していたが,2000年頃 より回復に転じている。中東は世界史の重要な舞台となった地域であるが,今日では石油 資源が重要である。

2

 アフリカの人口は急速に増加しており,内戦や干ばつにより食料難がたびたび発生して きた。アフリカの穀物の生産量は増加したが,人口増加に追い付かず,穀物輸入量も増大 した。ただし,アフリカの食料においてイモ類が重要である。中東の人口も大きく増加し,

穀物生産量,穀物輸入量とも増加した。

3

 アフリカでは,耕地面積が増加し穀物の生産量も増加したが,単収は低い。生産量は,

トウモロコシが最大である。中東でも穀物生産量が増加したが,主に単収の増加によるも のである。トルコ,イランのみで中東の穀物生産量の76%を占めている。

4

 人口増加,飼料需要の増大,都市化の進展により,アフリカ,中東では穀物の輸入量が 大きく増加しており,世界の穀物貿易に占めるアフリカの割合は17.3%,中東の割合は

16.1%になっている。イモ類の貿易量は少ない。

5

 ナイジェリアはアフリカ最大の人口を有し,穀物,イモ類の生産量はアフリカ最大であ るが,国内で不足している小麦,米を輸入している。エジプトはナイル川の水を利用した 農業が盛んであり,穀物生産量は北アフリカで最大であるが,小麦,トウモロコシを多く 輸入している。サウジアラビアは,80年代より地下水を汲み上げて砂漠を小麦畑にしてき たが,水資源の枯渇が問題になったため,

2016年までに小麦生産を中止することを決定し,

穀物輸入量が増加している。

6

 アフリカ・中東の穀物輸入量が世界の穀物貿易量全体に占める割合は

3

分の

1

になって おり,この地域は世界の穀物需給に大きな影響力を持っている。また,これらの地域の経 済発展,政治・社会の安定にとって農業・食料は重要であり,日本の対アフリカ・中東援 助において食料・農業分野を強化していく必要がある。

変貌するアフリカ・中東の食料需給

─ 高まる食料の輸入依存度 ─

基礎研究部副部長 清水徹朗

(5)

が指摘されている。北アフリカ・中東諸国 は食料の多くを輸入に依存しており,国際 的な食料品価格の高騰によってこれらの地 域の庶民の生活が悪化したことが政府に対 する不満として爆発した。

農林中金総合研究所は,一昨年 (2009年) ,

『変貌する世界の穀物市場』 (家の光協会)

を発刊し,世界の主要地域の食料需給動向 について穀物を中心に分析したが,残念な がら同書ではアフリカ・中東地域の分析が 欠けていた。日本においてアフリカ・中東 地域の食料需給に関する文献は乏しく (注1) ,本 稿は,その欠落を埋めるためアフリカ・中 東地域の食料需給の全体像を示そうとする ものである。

(注

1

)   アフリカ・中東地域の食料需給構造の全体 像を分析したものとして『飢餓と飽食の構造』 (農 文協,

1990

)があるが(アフリカ・中東につい ては篠浦光が執筆),その後,アフリカの特定の 国・地域に関する詳細な調査・研究はあるもの の(例えば池野旬他『アフリカの食糧問題』(ア

はじめに

多くの日本人にとって,アフリカ・中東 は遠い存在である。アフリカについては,

野生動物,サハラ砂漠,エジプト古代文明 などが多く紹介され,中東は紛争が続いて いる地域として認識されている。近年で は,サッカー (ワールドカップ) を通じて なじみが深くなったとはいえ,アフリカ・

中東地域を訪れる日本人は決して多くない。

しかし,日本は石油の9割を中東 (サウ ジアラビア,アラブ首長国連邦,クウェート 等) に依存しており,中東地域の情勢に無 関心でいることはできない。昨年末から続 いている北アフリカ・中東における政変 は,石油価格を通じて日本経済に直結する 問題となっているが,今回の政変の背景の 一つとして食料品価格の高騰があったこと

目 次 はじめに

1

 アフリカ・中東の概況

(1) アフリカ

2

) 中東

2

 人口と食料

1

) アフリカの人口と食料

(2) アフリカの食料におけるイモ類の重要性

3

) 中東の人口と食料

3

 食料生産

(1) 農地面積

(2) 穀物生産

(3) イモ類生産

4

 食料貿易

(1) 穀物輸入量

(2) イモ類の貿易

5

 国別の事例

1

) ナイジェリア

(2) エジプト

3

) サウジアラビア

6

 課題と展望

(1)  世界の食料需給におけるアフリカ・中東 の重要性

(2)  アフリカ・中東諸国における農業・食料 の重要性

(3)  アフリカ・中東の農業・食料に対する

日本の貢献

(6)

c 異なる北アフリカとサブサハラ アフリカ

広大な面積,文化・言語の多様性,植民 地時代の宗主国のちがい等によりアフリカ には多くの国があり,アフリカの国数 (53 カ国) は世界全体の4分の1を占めている。

このうち人口が5千万人以上の大国は,ナ イジェリア (15.8千万人) ,エチオピア (8.5 千万人) ,エジプト (8.4千万人) ,コンゴ民 主共和国 (6.8千万人) ,南アフリカ (5.0千万 人) の5カ国であるが (この5カ国でアフリ カ全体の43%を占める) ,人口が1千万人未 満の国も28カ国ある。

アフリカは,サハラ砂漠を境に,大きく 北アフリカとサブサハラアフリカの2つの 地域に分けることができ,両者は文化や食 料需給構造が大きく異なっている。サハラ 以北の北アフリカ (エジプト,アルジェリア 等) は,イスラム教徒やアラビア語を話す人 が多くおり,中東と同じグループとして論 じられることが多い。一方,サハラ以南の サブサハラアフリカには黒人が多くおり,

ブラックアフリカとも呼ばれている。

d 長期の停滞から回復に転じたアフリカ 経済

第二次大戦後 (特に1960年前後) ,アフリ カの国々は欧州の植民地支配から独立し,

独立直後のアフリカ諸国では,国家建設の 熱気もあって経済は着実に発展した。しか し,70年代における石油価格高騰と,その 後の一次産品価格の下落によって,アフリ カ経済は危機的状況に陥り,80年代には累

ジア経済研究所,

1996

),中東の食料事情に関す る文献・研究は少ない。

1

 アフリカ・中東の概況

アフリカ・中東の食料需給を分析する前 に,アフリカ・中東がどういう地域である かを概観しておきたい。

1

) アフリカ

a 広大な大陸と低い人口密度

アフリカの面積は3,031万km

2

(南米の1.7 倍) であり,世界の陸地面積全体の22.2%

を占め広大である。そこに住むアフリカの 人口は10.3億人であり,南米 (3.9億人) の 2.6倍であるが,インド(面積ではアフリカ の9分の1 )の人口 (12.1億人) より少なく,

アフリカの人口密度は低い (34人/km

2

) 。

b 多様な気候と地形

アフリカは南北に長く,赤道直下に熱帯 雨林が広がるが,そこから同心円状にサバ ンナ,砂漠,地中海気候が広がっており,

多様な自然を有している。北緯20〜30度付 近にサハラ砂漠があり,南緯20〜30度付近 にカラハリ砂漠,ナミブ砂漠がある。

アフリカは全体としては平坦な土地であ るが,東部に高原 (エチオピア高原等) が ある。また,中央部から周辺部に向けて,

ナイル川,ニジェール川,コンゴ川,ザイ

ール川などの大河川があり,これらの河川

の流域を中心に経済圏が形成されてきた。

(7)

東」,遠い東は「極東」) ,「中近東」と呼ば れることもある。しかし,「中東」がどの 国を含むかについては様々な論議があり,

イスラム教,アラブ世界という共通項で北 アフリカを中東に含めることもある。

本稿では,北アフリカはアフリカの中で 説明することとし,アフガニスタン以西ト ルコまでの16カ国を中東の対象国とする。

中東16カ国を合わせた面積は696万km

2

, 人口は3.2億人であり,面積ではサウジアラ ビア,イラン,トルコの3カ国で3分の2 を占め,人口ではトルコ,イランの2カ国 で5割を占めている (第1表) 。

b 文明と交易

中東は人類最古の文明と言われるメソポ タミア文明が生まれた地であり,古代遺跡 が豊富である。ヨーロッパに広く普及した キリスト教もこの地で誕生し,ペルシャ (ア ケメネス朝,ササン朝) やイスラム帝国 (ウ マイヤ朝,アッバース朝) ,オスマントルコ など,周辺を含めた広大な地域を支配した 帝国も生まれ,中東地域は世界史の重要な 舞台であった。

また,7世紀以降,この地で生まれたイ スラム教が広い地域に伝わり,それととも にイスラム商人による交易が盛んになった。

c 石油資源と紛争の多発

今日において中東地域が重要であるの は,豊富な石油資源のためである。中東地 域には世界の石油埋蔵量全体の6割がある といわれており,石油の輸出によってこの 積債務問題が大きな問題になった。その結

果,アフリカの多くの国は80年代後半に IMF,世界銀行の構造調整政策を受け入れ たが,90年代を通じてアフリカ経済は停滞 し,サブサハラアフリカの1人当たりGDP は減少が続いた。

しかし,2000年頃より,資源価格の上昇 等を背景にアフリカ経済は回復に転じ,今 後,アフリカはさらなる発展が見込まれて いる (注2) (第1図) 。

(注

2

)  

1980

年代のアフリカの窮状については篠田 豊『苦悶するアフリカ』(岩波新書,

1985

),最 近のアフリカを巡る状況については「NHKスペ シャル」取材班『アフリカ−資本主義最後のフ ロンティア』(新潮新書,2011)が,現地の状況 をよく伝えている。白戸圭一『日本人のための アフリカ入門』(ちくま新書,2011)では,日本 人がアフリカに対して「飢餓と貧困の大陸」と いう先入観・思い込みを持っていることを指摘 し,アフリカ観の転換を主張している。

(2) 中東 a 中東の範囲

「中東」 (Middle  East) とはヨーロッパか ら見て東にある地域であり (近い東は「近

8 6 4 2 0

2

△4

6

(%)

第1図 サブサハラアフリカの経済成長率

85

1980

90 95 00 05

経済成長率

1人当たりGDP成長率

資料 World Bank WDI より筆者作成

(8)

かつてに比べれば人口増加率は低下した ものの,アフリカの人口は現在でも年率 2.3%で増加しており,アフリカの人口は 2050年には20.0億人となり,今後40年間の 世界の人口増加数の4割はアフリカが占め ると推計されている。

アフリカでは,人口が増加するなかで内 戦や干ばつなどにより食料難がたびたび発 生し,国際的な問題になってきた (注3) 。現在で も,サブサハラアフリカには栄養不足人口 が2.4億人いるとされており,この栄養不足 人口の解消は大きな課題になっている。

この20年間にアフリカの穀物生産量は 1.5倍に増加したが,穀物生産量の増加率は 人口増加率よりも低く,また畜産が発達し て飼料需要が増大したこともあり,アフリ 地域の産油国は巨額の富を手に入れている。

しかし,中東地域は石油資源を有してい るがゆえに,イラン・イラク戦争,湾岸戦 争などの紛争が多発しており,またアフガ ニスタンやパレスチナなどの紛争地帯を抱 えている。

2

 人口と食料

1

) アフリカの人口と食料

アフリカの人口は,1970年当時は3.7億 人であったが,現在は10.3億人であり,過 去40年間で2.8倍,20年間で1.6倍に増加し ている。この増加率は,アジア (40年で2.0 倍,20年で1.3倍) や南米 (40年で2.1倍,20年 で1.3倍) より高い。

トルコ イラン イラク アフガニスタン サウジアラビア イエメン シリア イスラエル ヨルダン

アラブ首長国連邦 パレスチナ レバノン クウェート オマーン カタール バーレーン      計

第1表 中東諸国の概況

資料 FAOSTAT,共同通信社「世界年鑑」等から筆者作成

(注) 穀物データは2008年。

784 1,648 438 652 2,150 528 185 22 89 84 27 15 18 310 11 0.8 6,962

75,705 75

,

078 31

,

467 29,117 26,246 24

,

256 22

,

505 7,285 6,472 4

,

707 4

,

409 4,255 3,051 2

,

905 1

,

508 807 319,773

8,730 4

,

530 2

,

210 310 17,700 1

,

060 2

,

410 25,740 3,740 45

,

615 0 7,970 43,290 17

,

890 69,754 25,420

-

29,280 13

,

474 2

,

201 3,668 2,431 714 2

,

685 199 38 0 50 177 4 16 8 0 54,945

5,360 10,725 4

,

367 2

,

028 10,966 2

,

854 3

,

135 2,894 2,231 2

,

610 570 856 889 646 472 134 50,738

1

,

752 106 0 0 13 98 106 40 21 872 13 65 2 122 5 0 3,216

89.0 55

.

9 33

.

5 64.4 18.2 20

.

6 47

.

0 6.5 1.7 0

.

0 8

.

2 18.3 0.4 3

.

0 1.6 0.0 53

.

6

面 積 人 口

1人当たり

GDP

穀物 生産量

穀物 輸入量

穀物 輸出量

穀物 自給率

(単位 千km

2

,千人,ドル/人,千トン,%)

(9)

2

) アフリカの食料におけるイモ類の 重要性

日本にとって最も重要な食料は米である ため,日本人が食料問題を論じるときは穀 物が中心になりがちであるが (注4) ,アフリカ,

特にサブサハラアフリカではイモ類が穀物 以上に重要な食料になっている国・地域が 多くある。

アフリカのイモ類生産量は2億1,644万 トンであり,イモ類の生産量は穀物生産量

(1億5,246万トン) より多く,また輸入 (5,478 万トン) を含めた穀物供給量全体 (2億724 万トン) よりも多い (08年) 。アフリカのイ モ類生産量は世界全体の3割を占めてお り,アフリカでは増大する人口をイモが支 えてきたということもできる。

ただし,イモ類と穀物では栄養分が異な り,またイモ類は穀物より水分を多く (約 7割) 含むため,生産量の単純比較は問題 がある。そこでイモ類に0.3をかけて穀物と 比較すると (注5) ,アフリカ全体ではイモ類の比 重は0.24 (穀物が0.76) であるが,コンゴ民 主共和国 (0.71) ,ガーナ(0.63),ナイジェ リア (0.44) ,モザンビーク (0.43) など,イ モ類の比重が高い国が多くある (第2表) 。 イモは,地中にあるため干ばつに強く,

特にキャッサバは必要な時にいつでも掘り 出すことができる。また,肥沃でない土地 でも一定の収量が得ることができ,簡単な 農具で栽培・収獲が可能であるため,イモ 類はアフリカの食料安全保障にとって非常 に重要な作物になっている (注6)

カの穀物輸入量は20年間で2.0倍に増加し た (第2図,第3図) 。

(注

3

)   深刻な飢饉の例として,ナイジェリア(ビ アフラ)(1968),エチオピア(1984-85),ソマリ ア(1992),スーダン(1993)などがある。当時 のアフリカの飢饉の実態と要因については,スー ザン・ジョージ『なぜ世界の半分が飢えるのか』

1977

),NHK取材班『飢えるアフリカ』(

1982

),

毎日新聞外信部『アフリカ 飢えの構造』 (

1985

),

F.M.ラッペ他『世界飢餓の構造』(1986)などが ある。

25,000

20

,

000 15,000

10

,

000 5,000

0

1

,

200 1,000 800 600 400 200 0

(万トン) (百万人)

第2図 アフリカの人口と穀物供給量

1961

71 81 91 01

資料 FAOSTATのデータから筆者作成 人口 (右目盛)

穀物生産量 穀物純輸入量

1

,

600

1,200

800

400

0

4,000

3,000

2

,

000

1

,

000

0

(万トン) (万トン)

第3図 アフリカにおける肉類・牛乳生産量

1961

71 81 91 01

資料 第2図に同じ

肉類

牛乳 (右目盛)

(10)

者が多く流入したためである。

中東地域の穀物生産量は5,495万トンで 増加傾向にあるが,穀物生産の増加が人口 増加に追いつかないため,中東では穀物を 5,074万トン輸入している (08年)(第4図) 。

(注

4

)   例えば,森島賢編『世界は飢えるか』(農 文協,

1995

)では,アフリカの食料問題を穀物 のみで論じており,平野克己「アフリカ農業の 国際比較」(『アフリカ比較研究』2001),北川勝 彦・高橋基樹編著『アフリカ経済論』(ミネルヴ ァ書房,2004),平野克己『アフリカ問題』(日 本評論社,

2009

)でも,サブサハラアフリカの 農業問題を穀物を中心に論じている。

(注

5

)   篠浦光「停滞する食糧生産・アフリカ(『飢 餓と飽食の構造』第

4

章,

1990

)での換算方法。

(注

6

)   国際農林業協力・交流協会編『アフリカの イモ類−キャッサバ・ヤムイモ−』(2006),F.I.

Nweke et al.『The Cassava Transformation』

(2002)。

3

) 中東の人口と食料

中東地域の人口は3.2億人であり,40年 間で2.8倍,20年間で1.6倍に増加した。過 去20年間の人口増加を国別にみると,クウ ェート (3.2倍) ,アラブ首長国連邦 (2.5倍)

などの産油国の人口増加が著しく,これは 建設ブーム等によりインドなどから出稼ぎ

エジプト アルジェリア チュニジア スーダン エチオピア タンザニア モザンビーク ケニア ウガンダ ナイジェリア コートジボワール ガーナ

コンゴ民主共和国 アンゴラ 南アフリカ アフリカ計

第2表 アフリカ主要国の穀物供給量とイモ類生産量 (2008)

資料 第2図に同じ

(注) イモ類の比重=イモ類×

0.3/(穀物+イモ類×0.3)

(単位 百万人,万トン,%)

84.5 35.4 10

.

3 43.2 85.0 45

.

0 22

.

4 40.9 33.8 158

.

3 21

.

6 24.3 67.8 19

.

0 50

.

5 1,033.0

人口

2,281 358 123 527 1,301 623 160 286 271 3

,

021 147 185 153 73 1

,

447 15,246

穀物 生産量

穀物 純輸入量

穀物 供給量計

イモ類 生産量

イモ類 の比重

926

727 301 136 69 55 79 97 40 356 118 84 42 62 338 5,218

3,207 1,085 424 663 1,370 678 239 383 311 3

,

377 265 269 195 135 1

,

785 20,464

398 180 37 43 611 858 603 252 845 8

,

941 1

,

006 1,495 1,558 1

,

017 215 21,644

0.04 0

.

05 0

.

03 0.02 0.12 0

.

28 0

.

43 0.16 0.45 0

.

44 0

.

53 0.63 0.71 0

.

69 0.03 0.24

120 100 80 60 40 20 0

350

(百万トン)

(百万人)

第4図 中東地域の人口と穀物供給量

1970

75 80 85 90 95 00 05

資料 第2図に同じ

人口 (右目盛)

穀物生産量

穀物純輸入量

300 250 200 150 100 50 0

(11)

り,この2国で中東の耕地面積の6割を占 めている。中東の耕地面積は,近年ほとん ど増加していない。

アラビア半島には砂漠が多くあり,耕地 はオアシスや灌漑可能な地域に限られるた め,中東の耕地面積比率は低い。

2

) 穀物生産 a アフリカ

アフリカの穀物生産量 (152百万トン) は,

人口が同程度のインド (267百万トン) や中 国 (480百万トン) より少なく,米国 (人口 はアフリカの3分の1以下) の穀物生産量

(480百万トン) の3割に過ぎない。

アフリカの穀物生産量は,40年間で2.6 倍,20年間で1.5倍に増加しているが,生産 量の増大は収穫面積 (作付面積) の増大に よる要因のほうが大きく,20年間の単収の 増加は1.2倍であり,収穫面積の増加は1.4倍 である。アフリカでは,多くの地域で間作・

混作が行われており,また肥料や農薬の投 入量が少ないため,単収が非常に低い。

アフリカで生産している穀物は,トウモ ロコシ (5,320万トン) ,ソルガム (2,519万ト ン) ,米 (2,318万トン) ,小麦 (2,113万トン) , ミレット (2,013万トン) であり,トウモロ コシの割合が最も高い。

主な生産国は,トウモロコシは南アフリ カ,ナイジェリア,エジプト,ソルガムは ナイジェリア,スーダン,米はエジプト,

ナイジェリア,マダガスカル,小麦はエジ プト,モロッコ,エチオピアである。

中東全体での穀物自給率は53.6%であるが,

サウジアラビア (18.2%) ,アラブ首長国連 邦 (0.0%) ,クウェート (0.4%) など産油 国の自給率は非常に低い (前掲第1表) 。

3

 食料生産

1

) 農地面積 a アフリカ

アフリカの耕地面積は22,280万haであり,

総面積に占める割合は7.5%と低い。アフリ カにおいて耕地面積比率が低い理由は,人 口密度が低いこと,砂漠や熱帯雨林など耕 地に適しない土地が多くあること,灌漑が 発達しておらずサバンナ地域に農地が少な いこと等である (そのために野生動物が生息 してきたともいえる) 。

アフリカの耕地面積は人口増加に対応し て増加傾向にあり,過去20年間で4,700万ha

(26%) 増加したが,その一方で,アフリカ ではこの間に森林面積が6,800万ha (△9%)

減少している。

アフリカでは移動耕作 (焼畑農業) が広 く行われており,粗放的な農業が営まれて きた。また,アフリカではほとんどが小農 であり,農地の所有権は共同所有となって いるものが多く,明確な所有権が確立して いない地域もかなりある。

b 中東

中東地域の耕地面積は6,185万haであり,

総面積の17.6%を占めている。このうちト

ルコが2,156万ha,イランが1,704万haであ

(12)

ことが注目される。

過去20年間におけるイモ類の単収の増加 は1.2倍, 収 穫 面 積 の 増 加 は1.9倍 で あ り,

アフリカにおけるイモ類の生産量の増加 は,単収より収穫面積の増加要因のほうが 大きい (第5図) 。

最 大 の イ モ 類 生 産 国 は ナ イ ジ ェ リ ア

(8,941万トン) であり,ナイジェリアのみで アフリカ全体の41%を占めている (08年) 。 そのほか,コンゴ民主共和国,ガーナ,ア ンゴラ,タンザニアなどの生産量が大き い。アフリカでは,イモ類は主に食用 (自 家消費) であり,飼料用,加工用は少ない。

4

 食料貿易

1

) 穀物輸入量 a アフリカ

穀物の生産量増加が人口増加に追いつい ていないこと,飼料需要の増大,都市化の 進展等により,アフリカの穀物輸入量は大 b 中東

中東の穀物生産量 (08年,5,495万トン) は,

40年間で1.7倍に増大したが,穀物の収穫面 積はほとんど増加しておらず,生産量の増 大は単収の増加によるものである。ただ し,中東の穀物生産量は年による変動が激 しい (注7)

穀物の生産量が最も大きいのはトルコ

(2,928万トン) であり,次いでイランの1,348 万トンで,この2国で中東全体の76%を占 めている。

生産品目は,小麦が最大 (3,419万トン)

で6割を占め,次いで大麦858万トン,トウ モロコシ725万トン,米380万トンである。

(注

7

)   例えば,07年の穀物生産量は7,236万トンで あったが,08年はイラン,シリア,アフガニス タン,イラクの不作で5,495万トンに落ち込み,

09

年は

7

,

177

万トンに回復している。

3

) イモ類生産

既に説明した通り,アフリカでは大量の イモ類が生産されている。世界的にはイモ 類のうちジャガイモの割合が43.1%と最も 大きいが,アフリカではキャッサバが最大 で54.5 % を 占 め て お り, 次 い で ヤ ム イ モ 23.0%,ジャガイモ9.0%,サツマイモ6.5%,

タロイモ4.3%である。

アフリカのイモ類生産量は,40年間で 3.6倍,20年間で2.2倍になっており,穀物 生産量の増加率や人口増加率よりも高い。

種類別に20年間の変化をみると,キャッサ バ1.9倍, ヤ ム イ モ3.2倍, タ ロ イ モ3.1倍,

サツマイモ2.3倍,ジャガイモ2.7倍であり,

キャッサバよりも他のイモの増加率が高い

30,000 25

,

000 20,000 15,000 10

,

000 5,000 0

16 14 12 10 8 6 4 2 0

(万トン) (トン/ha)

第5図 アフリカのイモ類生産量推移

1961

71 81 91 01

資料 第2図に同じ

収穫面積 (右目盛)

単収 (右目盛)

生産量

(13)

1,970千トン,大麦1,265千トン,トウモロ コシ966千トン,米569千トンであり,主な 輸入国はサウジアラビア1,097千トン,イラ ン1,073千トン,トルコ536千トン,イラク 437千トンである。

中東の穀物輸入量が世界の穀物貿易量全 体に占める割合は16.1%になっており,小 麦については15.4%,米については28.5%

を中東が占めている。

2

) イモ類の貿易

イモ類は生のままでは保存期間が短いた め,生のイモはほとんど貿易の対象にはな っておらず,貿易されるのは主に加工品

(でんぷん,チップ等) である。しかし,ア フリカではイモ類は主として自給用であ り,貿易される割合はごくわずかである。

キャッサバの貿易についてみると,アフ リカのキャッサバ輸出量 (生イモ換算) は,

ピーク時の68年には466千トンあったが,

08年には51千トンまで減少している。

きく増大し,08年の穀物輸入量は5,478万ト ン で,40年 間 で8.1倍,20年 間 で2.0倍 に な っている (第6図) 。

輸入している穀物は小麦3,169万トン,ト ウモロコシ1,157万トン,米683万トンであ り,主な穀物輸入国はエジプト,アルジェ リア,モロッコ,チュニジア,リビア,南 アフリカで,北アフリカが輸入量の6割を 占めている。

アフリカの穀物輸入量が世界の穀物貿易 量全体に占める割合は17.3%になっており,

小麦については24.7%,米については22.1%

をアフリカが占めている。

b 中東

中東地域では穀物に適した耕地が不足し ているため,穀物の多くを輸入に依存して いる。08年における穀物輸入量は5,074万ト ンであり,40年前に比べて16.1倍,20年間 で2.7倍に増加している (第7図) 。

中東地域が輸入している穀物は,小麦

6,000 5

,

000 4,000 3,000 2

,

000 1,000 0

100

80 60

40 20

0

(万トン) (%)

第6図 アフリカの穀物純輸入量推移

1961

71 81 91 01

資料 第2図に同じ

穀物純輸入量 穀物自給率 (右目盛)

5

,

000 4,000

3,000

2

,

000 1,000

0

100 80

60

40 20

0

(万トン) (%)

第7図 中東の穀物純輸入量推移

1961

71 81 91 01

資料 第2図に同じ 穀物自給率 (右目盛)

穀物純輸入量

(14)

07年は9.1百万トンであり,穀物輸入量は増 加してきた (第8図) 。

ナイジェリアはアフリカ最大のイモ類生 産国であり,イモ類の生産量 (09年) は74 百万トンで (うちキャッサバ37百万トン,ヤ ムイモ27百万トン,タロイモ4百万トン) ,イ モ類の生産量は収穫面積の増大により大き く増大してきた。

ナイジェリアはかつてビアフラ戦争によ り混乱状態にあり,現在でも政治を巡る紛 争がたびたび発生しているが,食料を巡る 状況は改善してきている。ナイジェリアに は,アフリカにおけるイモ類研究の拠点で ある国際熱帯農業研究所があり,ナイジェ リア政府はキャッサバ産業の発展に取り組 んでいる。

(2) エジプト

「エジプトはナイルの賜物」という言葉 があるが,エジプトはナイル川の水を利用 した農業が盛んである。国土 (99万km

2

) の 一方,アフリカのキャッサバ輸入量は

173千トン (生イモ換算,08年) であり,輸 出量より多いが,輸入の大部分はキャッサ バでんぷんである。アフリカで最大のでん ぷん輸入国は南アフリカであり,南アフリ カのみでアフリカ全体の8割を占めている (注8)

(注

8

)   なお,アフリカは伝統的にカカオ,コーヒ ー,綿花,砂糖,ごま,パームオイル,落花生 などの農産物を輸出しており,一部の国ではこ れらの品目の輸出が経済にとって非常に重要に なっているが,本稿では説明を省略する。

5

 国別の事例

以上,アフリカ,中東の食料需給の全体 像を概観したが,次に,サブサハラアフリ カ,北アフリカ,中東を代表する3つの国

(ナイジェリア,エジプト,サウジアラビア)

について,食料需給をみてみたい。

1

) ナイジェリア

ナイジェリアはアフリカ最大の人口を有 する国であり,面積は91万km

2

(日本の2.4 倍) で,人口は1億6千万人 (日本の1.3倍)

である。アフリカ最大の産油国であるが,

貧困率が高い (1日1.25ドル以下で暮らす人 口割合は64.4%である) 。

09年の穀物生産量は21百万トン (トウモ ロコシ7百万トン,ソルガム5百万トン,ミ レット5百万トン) であり,アフリカでは 穀物の生産量が最も多い国であるが,国内 で生産量が不足している小麦,米などの穀 物を輸入している。穀物輸入量は,豊作で あった08年は1.3百万トンのみであったが,

40

30

20

10

0

20,000

16

,

000 12,000

8

,

000 4,000

0

(百万トン) (万人)

第8図 ナイジェリアの人口と穀物供給量

1961

71 81 91 01

資料 第2図に同じ 人口 (右目盛)

穀物純輸入量

穀物生産量

(15)

設けている。しかし,エジプトは国内で必 要とする小麦の半分を輸入に依存している ため,国際穀物価格の高騰による食料品価 格の上昇が国民の生活を直撃し,そのこと が昨年来の政変の背後にあったことが指摘 されている。

3

) サウジアラビア 

サウジアラビアは,面積は215万km

2

(日 本の5.7倍) で中東で最大であるが,砂漠が 多いため人口は26百万人 (日本の2割) で ある。産油国であるため所得水準が高く,

出稼ぎ者の流入もあってサウジアラビアの 人口は大きく増大し,首都リヤドは人口 5百万人の大都市になっている。

サウジアラビアでは,オアシスでデーツ

(なつめやし) の栽培が盛んであり,遊牧民 による牧畜も行われてきたが,耕地に乏し かったためかつては穀物生産はごくわずか にとどまっていた。しかし,サウジアラビ アは,80年頃から地下水を利用した灌漑に の大半は砂漠であるが,ナイル川流域と河

口デルタに豊かな農地が広がり,北アフリ カ最大の人口 (8.4千万人) を有している。

穀物の生産量は24百万トンであり,その 内訳は,小麦8.5百万トン,米7.7百万トン,

トウモロコシ6.6百万トンである。小麦,米 ともアフリカ最大の生産量であり,特に米

(籾) の単収 (9.8トン/ha) は日本 (6.8トン/

ha) より高い。

穀物の生産量は2000年頃まで増加を続け てきたが,最近10年間は収穫面積,単収と も頭打ちの状態であり,生産量はわずかな 増加にとどまっている。

しかし,人口増加と飼料需要の増大のた め,エジプトは穀物を多く輸入しており,08 年の穀物輸入量は12百万トン (小麦8百万ト ン,とうもろこし4百万トン) になっている

(第9図) 。

エジプトは,かつて社会主義的政策を採 用していた時代もあり,市場経済を導入し た今日でも貧困者に対する食料支援制度を

40

30

20

10

0

8,000

0

(百万トン)

(万人)

第9図 エジプトの人口と穀物供給量

1961

71 81 91 01

資料 第2図に同じ

人口 (右目盛)

6

,

000

4

,

000

2,000

穀物生産量

穀物純輸入量

6

,

000 5,000 4

,

000 3,000 2

,

000 1,000 0

3

,

000 2,500 2

,

000 1,500 1

,

000 500 0

(千トン) (万人)

第10図 サウジアラビアの穀物生産量

1970

80 90 00

資料 第2図に同じ 人口 (右目盛)

小麦 大麦

ソルガム

(16)

トン) であるが,5年後にはこれがほとん どなくなる見込みである。そのため,サウ ジアラビア政府は,必要な食料を確保する ため投資会社を設立して海外の農地を買収 することを計画し,これが世界的なランド ラッシュの引き金になった。

一方,サウジアラビアは畜産の振興にも力 を入れており,飼料用の大麦を中心に穀物を11 百万トン輸入している (大麦785万トン,トウモ ロコシ168万トン,米93万トン) (第11図,第12図) 。

6

 課題と展望

1

) 世界の食料需給におけるアフリカ・

中東の重要性

以上見てきたように,アフリカ・中東の 穀物輸入量は大きく増大し,この両地域の 穀物輸入量が世界の穀物貿易量に占める割 合は33.4%になっており (特に米は50.6%,

小麦は40.1%を占める) ,アフリカ・中東を 抜きに世界の穀物需給を論ずることはでき

よって砂漠を小麦畑とすることを始め,ピ ーク時の93年には穀物生産量は504万トン

(113万ha) に達し,一時は周辺諸国に穀物 を輸出 (88年に207万トン) するまでになっ た (第10図) 。

しかし,地下水のくみ上げによって水資 源の枯渇が懸念されるようになり,サウジ アラビア政府は2008年に,2016年までに段 階的に小麦生産をやめることを決定した。

現在の穀物生産量は140万トン (小麦100万 トン,ソルガム21万トン,トウモロコシ16万

12,000 10

,

000 8,000 6,000 4

,

000 2,000 0

3,000 2

,

500 2,000 1,500 1

,

000 500 0

(千トン) (万人)

第11図 サウジアラビアの穀物輸入量

1970

年 資料 第2図に同じ

人口 (右目盛)

大麦

80 90 00

トウモロコシ

2

,

000 2

,

500

1

,

500 1,000 500 0

(千トン)

第12図 サウジアラビアの牛乳・肉類生産量

1961

71 81 91 01

資料 第2図に同じ

牛乳

肉類

60 50 40 30 20 10 0

(%)

第13図 世界の穀物輸入量に占める   アフリカ・中東のシェア

1961

71 81 91 01

資料 第2図に同じ 米

小麦

穀物計

(17)

農業は経済発展の基礎であり,農業の生 産性向上が工業化に必要な余剰労働力を生 み出すし,また農業の発展は物価安定,内 需拡大,政治・社会の安定などの効果をも たらすため,アフリカの経済発展のために 農業を重視していく必要がある (注9)

(注

9

)   平野克己「アフリカの農業とリカードの罠」

(『アフリカ問題』第

3

章),峯陽一『現代アフリ カと開発経済学』参照。

3

) アフリカ・中東の農業・食料に 対する日本の貢献

日 本 は,1993年 か ら 開 始 し たTICAD

(Tokyo  International  Conference  on  African  Development:アフリカ開発会議) 等を通じ てアフリカ重視の方針を打ち出しており,

そのなかでアフリカに対する農業援助も強 化している。

しかし,これまでの対アフリカ農業援助

(ODA) は,日本の得意分野であるコメ,

灌漑が中心であり,サブサハラアフリカの 農業・食料全体に対する認識がやや弱かっ たと思われる。サブサハラアフリカの食料 においてイモ類が重要であり,今後の対ア フリカ援助においてイモ類を正当に位置付 けていく必要があろう。特に,日本はモザ ンビークにおいてブラジルと共同でアフリ カ熱帯サバンナ農業開発事業 (プロサバン ナ) を開始したが,この事業の対象地域 (ナ ンプラ州) はキャッサバの主産地であり,

同事業にキャッサバのプログラムを含める 必要がある。

なお,途上国の農業開発に際し,農産物 の商品化,輸出品目化を目的に大規模な農 なくなっている (第13図) 。

アフリカの人口は今後さらに増大する見 込みであり,アフリカの国々にとって増大 する食料需要をどうまかなっていくかは非 常に大きな課題である。また,中東地域は 必要とする食料の多くを輸入に依存してお り,サウジアラビアの小麦生産中止決定が ランドラッシュの引き金になったように,

この地域の食料需給が世界に与える影響は 大きく,アフリカ・中東地域の食料事情を 把握しておくことは世界の食料需給を考え る上で重要である。

なお,トルコはEU加盟をめざして加盟 交渉を行っているが,トルコは人口,穀物 生産量が大きいこともあり,EU加盟交渉 は難航している。また,EUは北アフリカ諸 国とFTAを締結しており,さらにACP諸 国 (その多くはアフリカ) ともFTA交渉を 続けており,EUの食料政策を考える上で も中東・アフリカ地域の動向は重要である。

2

) アフリカ・中東諸国における農業・

食料の重要性

周辺地域や世界の食料需給に対する影響 とともに,アフリカ・中東地域の農業・食 料は,これらの地域自体の政治的安定や経 済発展という観点からも重要である。

昨年末以降の北アフリカ・中東諸国での

政変の要因として食料品価格の高騰が指摘

されており,今後も,アフリカ・中東地域

の国々にとって国民が必要とする食料をど

う安定的に確保していくかは,政治・社会

の安定のため不可欠の課題である。

(18)

であり,今後,アフリカや中東諸国との関 係を深めていく必要があろう。

 <参考文献>

・ 峯陽一(

1999

)『現代アフリカと開発経済学』日本 評論社

・ 平野克己編(2003)『アフリカ経済学宣言』アジア 経済研究所

・ 北川勝彦・高橋基樹編著(2004)『アフリカ経済論』

ミネルヴァ書房

・ 平野克己(

2009

)『アフリカ問題』日本評論社

・ 櫻井武司・Irene.K.Ndiva(

2008

)「カントリレポ ート:サブサハラ・アフリカ−経済自由化政策下 の食料安全保障−」農林水産政策研究所『平成19 年度カントリーレポート インド,サブサハラ・

アフリカ』

・ 島敏夫(

2009

)「GCC諸国の農業・貿易政策」農林 水産省「主要国の農業情報調査分析報告書(平成

20

年度)」

(しみず てつろう)

業投資や企業的農業を進めがちであるが,

アフリカの農村では小農が主であり,多く の農民が自給的食料の生産に従事している ことを理解する必要がある。過去のアフリ カ社会主義の失敗やIMF・世界銀行の構造 調整政策によって,アフリカでは協同組合 の組織化に関して否定的な見解を持ってい る国もあるが,協同組合の組織化による農 業の発展は地域全体を引き上げる方法とし て有効であり,その点で日本の戦後の経験 は生かせるであろう。

日本の農業・協同組合関係者はこれまで IDACA (アジア農業協同組合振興機関) 等 を通じて東南アジアやインドとの交流を多 く続けてきたが,アフリカ・中東の国際社 会における影響力はますます強まる見込み

〈頒布取扱方法〉

編  集…株式会社農林中金総合研究所

     〒101 - 0047 東京都千代田区内神田1 - 1 - 12  TEL 03(3233)7744

  FAX 03(3233)7794

発  行…農林中央金庫

     〒100 - 8420 東京都千代田区有楽町1 - 13 - 2 頒布取扱…株式会社えいらく営業第一部

     〒101 - 0021 東京都千代田区外神田1 - 16 - 8  TEL 03(5295)7580

  FAX 03(5295)1916

〈発行〉 2011年 2 月

農林漁業金融統計 2010

農林漁業系統金融に直接かかわる統計のほか,農林漁業に 関する基礎統計も収録。全項目英訳付き。

発刊のお知らせ

A4判,

160頁

頒価 2,000円(税込)

(19)

〔要   旨〕

1

 キャッサバはサブサハラアフリカの重要な食料である。干ばつに強く,高収量で,無肥 料や痩せた土地でも栽培できる一方で,シアン化合物を含むため苦味品種は解毒加工が必 要である。キャッサバの生イモは重くてかさばり,腐りやすい。流通適性を高めるには乾 燥などの加工が必要である。

2

 アフリカのキャッサバは,都市への人口移動や輸送事情の改善から商品作物化しつつあ り,工場での加工が増えている。さらに関係機関は南米や東南アジアのような飼料・工業 原料化や輸出も促進しようとしている (「キャッサバ転換」) 。

3

 モザンビークにおける食料供給のうちで,キャッサバは最大の熱量源である。主産地で は主食であるが,都市部ではキャッサバ食の習慣がなく,「貧者の食物」として蔑視する 風潮がある。政府は健康食品としての利点などイメージ向上の宣伝に努めている。

4

 モザンビークは国内輸送事情の悪さや内戦のため,輸入食料に依存して増大する都市人 口 (特に南部地域) を賄ってきた。2000年以降は輸入による食生活の向上・多様化が進ん でいる。しかし08年以降は輸入食料価格の上昇に悩まされているうえ,国内の穀物生産に は気候変化によって干ばつのリスクが高まっている。それに対してキャッサバは農村人口 の成長を上回って生産が増え,都市や飼料・原料用途に対する供給能力が拡大している。

5

 首都マプトに近いイニャンバネ州では,改良品種の普及と外部からの需要によってキャ ッサバの生産と販売が拡大している。とくに最近

2

3

年の加工・原料化の動きは急速で ある。産地では需要側の情報が不足しており,販路の不足が問題となっている。

6

 イニャリメ地区では,政府支援により小規模工場を設立してマプトへの供給を開始し た。農民組合の共同加工場で製造される発酵フレーク「ラリ」は,都市の需要に合った簡 便な食品であり,清潔で異物・異臭のない高品質とビニール袋のパッケージで高い付加価 値を実現した。キャッサバ粉や葉の加工品を作る動きもある。

7

 飼料・工業原料向けの需要についても隣国からの現地買い付けにより澱粉用の輸出が開 始されたほか,飼料メーカーや外国のビール醸造会社,製パン業界の計画や構想もある。

8

 今後の課題としては,輸送インフラの改善,流通関連制度の整備 (価格情報,品質規格・

基準,農家の組織化など) ,農村の加工部門に対する支援,生産性の向上 (ウィルス病耐性品 種など) が挙げられる。

モザンビークのキャッサバ転換

─ 東アフリカにおける商品化の動き ─

主任研究員 平澤明彦

(20)

そこで本稿ではこれまであまり日本に紹 介されていない東アフリカ地域の現地調査 結果 (注3) を踏まえて,アフリカにおけるキャッ サバの近年の動向を紹介する。

以下,キャッサバの特徴と世界の主要産 地,アフリカにおけるキャッサバと「キャ ッサバ転換」について概観したうえで,モ ザンビークにおける食料需給とキャッサバ の地位,およびイニャンバネ州におけるキ ャッサバの商品化の動きについて説明する。

(注

1

)   JAICAF(

2006

)を参照。

(注

2

)   三菱総合研究所(

2011

)がナイジェリアと ガーナの例を取り上げている。モザンビークに ついてはFAO(

2007

)があるものの,最近数年 間の動向については英語の文献もほとんど見い だせなかった。

(注

3

)   平成22年度 農林水産省補助事業「途上国支 援のための基礎的情報整備事業」の一環として,

2010

11

月下旬から

12

月上旬

22

26

日にモザン ビークとタンザニアで各

1

週間ずつの現地調査 を行い,行政,研究機関,流通,加工,農家組合,

農家などの聞き取りを実施した。詳細はプロマ ーコンサルティング(2011)を参照。本稿では 筆者がおもに担当したモザンビークの事例を紹 介する。モザンビークにおいては日本・ブラジ ル共同の熱帯サバンナ農業開発協力事業が開始 されており,主要作物であるキャッサバに関す る情報は有益と考えられる。

はじめに

世界の食料需給を考える際,主要品目と して穀物や大豆が取り上げられることが多 い。しかし,10.3億人の人口を有するアフ リカにおいてはイモ類も重要な地位を占め ている。イモ類の中でも特に生産・消費が 多いのはキャッサバである。貿易が少ない ため国際市場に与える影響は小さいもの の,世界の食料需給にとってキャッサバの 重要性は決して小さなものではない。

それに対してわが国におけるアフリカの キャッサバに関する文献はあまり多くな く,これまでは最大の産地であるナイジェ リアなど西アフリカ地域を中心に研究がな されてきた (注1) 。また近年,キャッサバはアフ リカにおいて次第に商品作物化しつつあ り,加工による付加価値化へ向けた研究と 支援も進められている。こうした動向につ いても日本語の文献はあまり見当たらない ようである (注2)

目 次 はじめに

1

 世界とアフリカのキャッサバ

(1) 世界のキャッサバ:生産と用途,貿易

2

) 作物としてのキャッサバの特徴

(3) 食料としてのキャッサバの特徴

4

) キャッサバに関する研究とキャッサバ転換

(5) アフリカのキャッサバ

2

 モザンビークの農業・食料とキャッサバ

(1) 経済概況

(2) モザンビークの農業と食料

(3)  モザンビークにおけるキャッサバの生産 と消費

3

  イニャンバネ州と首都マプトにみる キャッサバ転換

1

) 生産と都市需要の拡大

(2) キャッサバの利用状況と販路

(3) ナンプラ州の状況

4

 まとめと今後の課題

参照

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