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認知症高齢者の空間性注意に関する一考察

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Academic year: 2021

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認知症高齢者の空間性注意に関する一考察

-ランプ反応課題を用いた試行より-

浅野 朝秋1) 石川 隆志2)

1)東北文化学園大学医療福祉学部リハビリテーション学科作業療法学専攻 2) 秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻作業療法学講座

要旨

認知症高齢者の空間性注意の特徴を調べる目的で,ボード上に配列されたランダムに点灯する

12

のランプ毎の反応時間を計測し,非認知症高齢者と比較検討した.結果,すべてのランプで 認知症者は 非認知症者に比べて有意な反応時間の低下を示し,全ての位置方向において注意が低下することが示唆 された.また,認知症群においてはランプ間での反応時間の有意差は認められなかったが,良好に反応 可能な範囲は中央部や手前に偏る傾向が存在し,空間性注意の狭小化や上部方向への視線移動の不正確 さとの関連が示唆された.また同一のランプに対する反応時間のばらつきも大きく,視標に対するスム ーズな視線移動が非認知症者に比べて困難なことが示唆された.

【キーワード】 認知症,反応時間課題,空間性注意 はじめに

注意機能はあらゆる認知機能の基盤である1,

2)とされ,その分類は諸研究者により若干異な り未だ統一した見解は無いものの,全般的注意 と方向性注意に大別され,全般的注意はさらに 覚醒度,持続性注意,選択性注意および配分性 注意などの要素から構成されることで集約され てきている.また方向性注意とは,加藤によれ ば「空間における方向性を重視した注意」であ るが,「臨床的には,しばしば全般性注意と方向 性注意は関連しあう」とされている3)

認知症者の全般的注意特性としては,反応時 間の延長4~7),注意転換の拙劣さ8),二重課題 成績の不良9,10)などが報告されており,これ らを総合すると,原因疾患や個別性により初期 に障害される注意の要素にはバリエーションが あるが,進行につれて複数の注意要素が重複し

て障害されることが考えられる.

また,認知症者の方向性注意の特性に関して は,畠山らや内海らがビジョンアナライザーを 用いて眼球運動分析をおこない「アルツハイマ ー型認知症者においては,注視の正確性の低下 および視線移動に占める頭部運動の比率低下が 認められた」と報告11,12)している.また中 山らはアイマークレコーダーを用いて探索眼球 運動の分析をおこない「認知症高齢者は健常高 齢者に比べて視野が狭く,視線の停留が長く,

運動が少ない」ことを報告13)している.さら に石合によれば「

25%

のアルツハイマー型認知 症者においては線分二等分試験において右方偏 倚が認められた」と報告14)している.しかし 実際の視覚認知運動課題におけるパフォーマン スの低下程度と視覚刺激の位置,および重症度 との関連については報告が無い.

認知症者の視覚認知運動課題におけるパフォ

(2)

ーマンスに関しては,中重度者でも目標を探索 して叩く課題は可能である知見を筆者らは得て いた15).また

Sohlberg

16)によれば注意の各 要素には階層性が存在し,注意の維持・集中は その下層に位置づけられるとされる.これらの ことから,中重度者においてもある程度注意の 維持・集中に関する機能は残存していることを 予想し,それに関連した課題であるランプを用 いた反応時間課題を改変して,平面上にランプ を複数個配列したものを評価手段として採用し て空間性注意の評価を試みた.

本研究の目的は,認知症者の空間性注意の狭 小化の程度と方向性,および重症度との関連に ついて反応時間課題を用いて明らかにすること である.

対象および方法

1.対象

秋田県内の

A

通所リハビリテーション事業所,

B

通所介護サービス事業所の利用者で,認知症 の診断がある者のうち,日常生活上で上肢機能 の使用に問題が認められない者

18

名中,施設 入所や入院および拒否により脱落した

3

名を除

15

名を認知症群とした(表

1

).認知症群の 平均年齢は

82.4

歳(標準偏差

7.3

歳)だった.

臨床的認知症尺度

Clinical Dementia Rating

(以下,

CDR

)による重症度分類では

CDR0.5

1

名,

CDR1.0

6

名,

CDR2.0

5

名,

CDR3.0

3

名だった.同様に

B

通所介護サービス事業 所の利用者で認知症の診断が無く,日常生活上 で上肢機能の使用に問題が認められない者

15

名を非認知症群とした(表

1

).非認知症群の平 均年齢は

82.1

歳(標準偏差

4.4

歳)だった.ま た両群共に被験者は全員が右利きだった.

尚,本研究計画は東北文化学園大学倫理審査 委員会にて承認後(承認番号:文大倫第

10-05

号),対象者もしくは家族に対して目的,方法お よび協力と撤回の自由について説明し書面で同

意を得た.

表1 対象者の属性

性別 年齢

CDR MMSE

女性

88 0.5 26

女性

87 1 24

女性

82 1 20

男性

90 1 20

女性

84 1 19

男性

62 1 18

女性

79 1 17

男性

85 2 17

女性

81 2 14

女性

87 2 14

男性

75 2 13

女性

79 2 11

女性

95 3 11

女性

80 3 9

認知症群

(n=15)

女性

83 3 2

女性

74

男性

84

女性

84

男性

84

女性

84

女性

90

女性

85

女性

77

女性

82

男性

84

女性

88

女性

76

女性

85

女性

81

非認知症

(n=15)

男性

81

2.方法

認知症群および非認知症群の両群に対して,

12

個のランプを用いた反応時間課題を実施し,

各ランプ毎の反応時間を測定した.ランプは幅

70cm

,奥行

30cm

,前面高

5cm

,背面高

10cm

のボード上に縦

3

個×横

4

個を等間隔に配列し た(図

1

2

).スイッチボードは机上に設置し,

縦の

2

列目と

3

列目の間に身体の正中線が位置 するようにし,机から拳一個分のスペースをと って座位および利き手で課題を実施した.

(3)

図1 ランプ反応課題

図2 システム概略図

実験装置は市販機器にも類似機能を持つもの も存在するが筐体サイズが大きく,反応時間に 占める運動系にかかる時間(

motor time

:以下

MT

)が増大し,対象刺激の知覚から脳内での処 理時間(

pre-motor time

:以下

PMT

)との判別 が困難になる点と,測定データを自動採取する 目的から今回は機器を作成した.押しボタンス イッチには,三和電子製照光式ランプ一体型

OBSUM45UM

)を使用した.制御コンピュ ータ上で動作するプログラムは

Visual C

++で作 成した.課題は

3

秒間のカウントダウン表示後,

60

秒間ランダムに点灯するランプを探索して 対応するスイッチを押すものである.点灯後,

1秒後にはランプが点滅し

3

秒後には別のラン

プが点灯する.測定項目として,点灯刺激毎の 反応時間および

60

秒間の正反応数,誤反応数,

見逃し数を制御コンピュータに記録した.尚,

課題実行中はディスプレイ上に残り時間と正反 応数が逐時表示される.一回のセッションにつ き本課題を数分程度の休憩を挟んで全

2

回実施 し,およそ週

1

2

回程度の割合で

3

ヶ月間 課 題を継続し,その全データを解析対象とした.

また,反応時間と空間性注意の関係をみるた めに,重度者に対する適用性を考慮して,

BIT

行動性無視検査日本版のサブテストの線分抹消 課題(以下,線分抹消課題),および日本版

Mini Mental State Examination

(以下,

MMSE

を認知症群に実施した.

MMSE

の「重なり合う

5

角形」に関しては

MMSE

の基準に準拠しな がらも,相関を明確にするため部分点を設けた

(表

2

).これらの得点と反応時間の関連につい ては

spearman

の順位相関係数で関係を調べた.

認知症群と非認知症群の反応時間の比較には 対応のない

t

検定(両側検定)を用いた.さら

CDR

1以下を軽度群

(n=7)

CDR2

以上を中 重度群

(n=8)

と操作的に定義し,非認知症群との

3

群間で一元配置分散分析を用いて反応時間を 比較した.同様に,

1

番から

12

番(図

2

)まで の各ボタン間の反応時間の比較も一元配置分散 分析を用いて実施した.尚,

3

群間および,

12

個 の ボ タ ン 間 の 分 散 分 析 後 の 多 重 比 較 に は

Bonferroni

法を用いた.

また,認知症群と非認知症群の反応時間の分 散度を比較する目的で,各被験者のボタン毎の 平均反応時間のうち,最も大きいものと最も小 さいものの比を反応時間分散度と操作的に定義 し,両群間での反応時間分散度の比較を対応の ない

t

検定(両側検定)を用いて実施した.

さらに,今回の実験課題は机上課題であり操 作範囲が

0.21

㎡と比較的狭いこと,直径

45mm

のボタンを押すという比較的単純な動作である こと,および点灯しているランプを

12

個の中 から探索する処理が含まれることといった施行 スイッチボード(ボタン番号)

① ② ③ ④

⑤ ⑥ ⑦ ⑧

⑨ ⑩ ⑪ ⑫

Switch Board Drive Unit

制御用コンピュータ

USB

通信

(4)

条件から,

MT

よりも

PMT

の方が大きいこと を予想した.そのうえで移動距離の大きさや方 向が反応時間に有意な影響を与えていないこと を確認する目的で,各被験者が

11

番を押した 直後に右隣の

12

番を押すのにかかった時間と,

移動距離が

2

倍でありかつ正中線を越えた反対 側に位置することで

MT

が増大すると考えられ

9

番を押すのにかかった時間を対応のない

t

検定(両側検定)を用いて比較した(図

3

).

これら統計処理に関しては危険率を有意水準

5%

未満とし,

10%

未満を傾向ありとした.

表3 認知症群と非認知症群の平均反応時間比較(non-paierd t)

ボタン番号 非認知症群 平均±SD (秒)

認知症群

平均±SD (秒) t値 df p 値

ボタン

1 0.78±0.20 1.30±0.58 3.2964 27 0.0027

ボタン

2 0.72±0.13 1.23±0.43 4.3829 27 0.0002

ボタン

3 0.67±0.10 1.30±0.56 4.2722 28 0.0002

ボタン

4 0.70±0.10 1.31±0.53 4.3436 27 0.0002

ボタン

5 0.72±0.12 1.18±0.48 3.6367 28 0.0011

ボタン

6 0.64±0.09 1.07±0.49 3.3351 28 0.0024

ボタン

7 0.62±0.09 1.13±0.47 4.0980 28 0.0003

ボタン

8 0.66±0.10 1.23±0.48 4.5092 28 0.0001

ボタン

9 0.70±0.12 1.19±0.44 4.1988 28 0.0002

ボタン

10 0.68±0.08 1.12±0.48 4.0341 28 0.0004

ボタン

11 0.65±0.09 1.15±0.48 3.9846 28 0.0004

ボタン

12 0.73±0.17 1.26±0.51 3.8093 28 0.0007

平均

0.69±0.10 1.21±0.44

表4 平均反応時間比較(非認知症群

vs.

軽度者群

vs.

中重度者群 一元配置分散分析,Bonferroni 法)

p

ボタン番号 非認知症群

平均±SD(秒)

軽度群 平均±SD(秒)

中重度群

平均±SD (秒) F 値 df 非認知症群 vs.中重度群

軽度群 vs.中重度群 ボタン

1 0.78±0.20 0.93±0.24 1.67±0.59 16.71 2 0.000 0.001

ボタン

2 0.72±0.13 0.93±0.20 1.53±0.39 29.86 2 0 0.001

ボタン

3 0.67±0.10 0.86±0.24 1.68±0.46 37.17 2 0 0

ボタン

4 0.70±0.10 0.91±0.24 1.70±0.44 38.72 2 0 0

ボタン

5 0.72±0.12 0.81±0.13 1.51±0.43 29.17 2 0 0

ボタン

6 0.64±0.09 0.83±0.19 1.29±0.59 10.72 2 0.0003 0.03

ボタン

7 0.62±0.09 0.78±0.22 1.43±0.42 29.05 2 0 0.001

ボタン

8 0.66±0.10 0.85±0.21 1.57±0.38 41.99 2 0 0

ボタン

9 0.70±0.12 0.84±0.18 1.51±0.34 39.43 2 0 0

ボタン

10 0.68±0.08 0.88±0.34 1.44±0.43 19.97 2 0 0.0017

ボタン

11 0.65±0.09 0.79±0.22 1.46±0.42 28.91 2 0 0.0001

ボタン

12 0.73±0.17 0.92±0.29 1.55±0.48 18.78 2 0 0.0016

平均

0.69±0.10 0.86±0.05 1.53±0.11

※非認知症群と軽度群は有意差無し

表2 模写課題採点基準

重 な り あ う 五角形

3

点 五角形が

1

カ所で交わる

2

点 五角形が描かれている

1

点 何かが描かれている

MMSE

の基準

五角形が

2

カ所で交わる(

1

点)

⑨ ⑩ ⑪ ⑫

※⑪⑨の順で点灯する際の⑨の反応時間と,

⑪⑫の順で点灯する際の⑫の反応時間を比較 図3

9-12

番ボタンの反応時間比較手順

(5)

結果

1.認知症群と非認知症群の反応時間

課題遂行期間中に得られた被験者毎の各ボタ ン別の正反応データ数は,認知症群において

162.4±92.9

回(平均±標準偏差),非認知症群 において

270.5±97.2

回(平均±標準偏差)だっ た.この正反応における反応時間を,群間比較 したところ全てのボタンにおいて危険率

1%

満で認知症群の反応時間遅延がみられた(表

3

).

また,認知症群を軽度群と中重度群に分類し,

非認知症群と

3

群間で比較検討したところ,中 重度群は全てのボタンにおいて非認知症群およ び軽度群に対して有意な反応時間の遅延が見ら れた.一方で非認知症群と軽度群に関しては,

全てのボタンで平均反応時間は軽度群の方が遅 延していたが有意差はみられなかった(表

4

).

2.ボタン毎の反応時間

ボタン間の反応時間差に関しては,非認知症 群においては

1

番が

7

番に対して有意に遅かっ た(

F=2.18,df=11,p=0.02

)が,認知症群におい てはボタン間の有意な反応時間差はみられなか った.また,軽度群および中重度群においても

ボタン間の有意な反応時間差はみられなかった

(図

4

、表

3,4

).しかし各被験者内においては,

認知症群・非認知症群共に全員が,いずれかの ボタン間で有意な反応時間差が複数存在した.

非認知症群は中段→下段→上段の順および,

中央部→右側→左側の順で反応時間は遅くなる 傾向がみられた.ただし下段に関しては左端の

9

番よりも右端の

12

番の方が遅い傾向がみら れた(表

3,

4,5

).ボタン間の平均反応時間差 は最大で

0.16

秒だった.各被験者内においても 非認知症群全体と同様の傾向を示し,個人差は 小さい傾向がみられた.

認知症群に関しては,非認知症群同様に中央 部は比較的反応時間が速かったものの,

1

番だ けではなく,上段にある

2

4

番および右側の

8

12

番も遅くなる傾向がみられ,左側よりも むしろ右側のほうが遅くなる傾向がみられた

(表

3,

4,5

).ボタン間の平均反応時間差は最 大で

0.24

秒だったが,反応が速いボタン番号と 遅いボタン番号に関しては,非認知症群に比べ ると個人差が大きい傾向がみられた(図

5

).ま た,各被験者内におけるボタン毎の反応時間の ばらつきに関しても,認知症群は非認知症群に 比べると大きい傾向がみられた(表

5

).

図4 ボタン毎の反応時間 0

0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

ボタン番号 *:p<0.05 Bonferroni

非認知症群 認知症群 軽度群 中重度群

*

(6)

5

ボタン位置による反応時間の分散イメージ

5

反応時間分散度の比較

6

点灯順番と反応時間 分散度※ 非認知症 認知症

平均

1.29 1.52

標準偏差

0.16 0.45

最小

1.16 1.13

最大

1.82 2.96

t値

1.89

df 28

p

0.069

※反応時間分散度=

平均反応時間(最も遅いボタン)÷

平均反応時間(最も速いボタン) 3.移動距離の大きさ・方向と反応時間

11

番ボタンを押した直後に

9

番ボタンを押す までの反応時間と,

11

番ボタンを押した直後に

12

番ボタンを押すまでの反応時間との間には,

認知症群および非認知症群共に有意差は認めら 認知症群

点灯

順番 平均 標準偏差

t

df p

11→9 1.00 0.33

11→12 0.98 0.32 0.16 24 n.s.

非認知症群 点灯

順番 平均 標準偏差

t

値 df

p

11→9 0.66 0.13

11→12 0.64 0.08 0.55 28 n.s.

認知症

●●●●

▲▲▲▲

非認知症

●●●●

●●●●

●▲▲▲

認知症

●●●●

非認知症

●●▲▲▲

認知症

●▲▲

非認知症

認知症

●●●●

●●

非認知症

▲▲▲

認知症

○○△▲

非認知症

●●▲▲

▲▲▲

認知症

非認知症

△▲

認知症

○△●

非認知症

○○△△△

認知症

○○○○○

○△△△△

非認知症

○○○○○

○○○○○△

認知症 非認知症

△△△

認知症

△△●

非認知症

△▲

認知症

○○○○

△△

非認知症

○△△△△

認知症

○●●●

●▲▲

非認知症

○●●▲▲

○各被験者内で一番反応時間が速かったボタン ●各被験者内で一番反応時間が遅かったボタン

△各被験者内における平均反応時間よりも1

SD

▲各被験者内における平均反応時間よりも1

SD

以上速かったボタン 以上遅かったボタン

(7)

れなかった(表

6

).

被験者内では,認知症群・非認知症群共にそ れぞれ

9

番ボタンを押す反応時間が有意に遅い ケース,および

11

番ボタン反応時間が有意に 遅いケースがそれぞれ

2

名ずつ存在した.

4.反応時間と線分抹消課題、五角形模写、

MMSE

各得点との相関(認知症群)

反応時間と

MMSE

得点および「重なり合う 五角形」の模写得点の間には有意な強い負の相 関がみられた(それぞれ

rs= -0.8787,p<0.01

および

rs= -0.7672,p<0.01

).同様に反応時間 と線分抹消課題得点の間にも有意な中程度の負 相関がみとめられた(

rs= -0.5809,p<0.05

).線 分抹消課題で抹消できなかった線分の位置には 特段の傾向はみられなかった.線分抹消課題の 得点と

MMSE

得点および「重なり合う五角形」

の模写得点の間にも有意な中程度の正相関がみ られた(それぞれ

rs= 0.6799,p<0.01

および

rs=0.6287,p<0.05

).

考察

今回の実験結果を要約すると,全てのボタン において認知症群の反応時間は非認知症群に比 べて有意に遅かったが,軽度群との比較では有 意な反応時間差はみられなかった.ボタン毎の 平均反応時間の有意差は、非認知症群で1番と 7番の間に存在したが,認知症群ではみられな かった.また,非認知症群では速く反応できる ボタンと速く反応できないボタンに関しての個 人差が少なかったのに対し,認知症群において は比較的個人差が大きく,中重度群ほど拡大す る傾向がみられた.同様に被験者内においても 認知症群においては,非認知症群よりも同一ボ タンに対しても反応時間のばらつきが大きくな る傾向がみられた.これらを踏まえて考察を加 えていきたい.

1.全般的注意と重症度

筆者の先行研究において,全てのボタンを総 合した全体的な反応時間に関しては,軽度者に 比べて中重度者が有意に遅いこと,および反応 時間は

MMSE

,改訂長谷川式簡易知能スケール およびウエクスラー記憶検査法の逆唱と強い逆 相関を持つ知見を得ていた17).今回,全ての ボタンにおいて認知症群の反応時間が有意に遅 延していた結果は,覚度や持続性注意,選択性 注意などの全般的注意が非認知症群に比較する と低下していることを意味しており,いずれの 位置方向においても非認知症群並に注意が保た れている箇所は無いことを示唆する.

また重症度別の比較結果では,中重度群は全 てのボタンにおいて非認知症群および軽度群に 対して反応時間が遅延していた.一方で,軽度 群の反応時間は全ボタンで非認知症群に比べて 平均で

25%

程度遅延しているものの有意差は みられなかった.このことは全般的注意の低下

CDR2

以降に顕著になること,および本課題 のような光刺激に対する反応課題は

Sohlberg

のいう「焦点性注意」に相当する基本的な注意 資源を要求する課題であり,注意容量が相当低 下した中重度群でも遂行自体は可能であること を意味すると考える.

2.反応時間に占める運動系処理時間の推測 反応時間は

PMT

MT

の総和である.刺激 の知覚認知には注意が重要な役割を果たすと考 えられ,今回の実験結果でも注意の各指標が示 す成績と反応時間との間には有意な相関がみら れた.一方,千田は代表的な認知症基礎疾患で あ る ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症 に お い て は

CDR0.5

段階より

PMT

の延長を示し,

CDR1.0

以降では

PMT

に加えて

MT

も延長し,

CDR2.0

以降になると巧緻動作における利き手優位性が 消失することを述べている18).今回の実験条 件においては

MT

よりも

PMT

の方が大きいこ とを予想した.そのうえで,運動の方向や距離

(8)

が反応時間に与える影響を比較検討した(表

6

).

その結果,

11

番から

9

番への反応時間と,

11

番から

12

番への反応時間は,認知症群および 非認知症群ともに差が小さく有意差が認められ なかった.この結果は

MT

自体に有意差は存在 する可能性はあるが,反応時間に占める比率は 小さく大きな影響を与えていないことを示唆す ると考える.各被験者内の比較でも

9

番への反 応時間が有意に速かった者と

12

番への反応時 間が有意に速かった者は両群とも

2

名ずつ存在 したことから個人差が大きいことも示唆された.

畠山らは視標に向かって視線移動が開始され るまでの時間を潜時とし,その値は非認知症者 で約

0.2

0.3

秒,認知症者で

0.3

0.5

秒程度 だったとし,最終的に視標に視線が停留するま で非認知症者で約

0.4

0.5

秒,認知症者で約

1

秒程度かかったことを報告5)している.この結 果をそのまま適用するのは不正確な可能性はあ るが,今回の平均反応時間からこれらの数値を 差分すると認知症群・非認知症群共に約

0.3

0.4

秒程度が今回の

MT

と推測され,認知症群 では特に反応時間に占める

MT

の比率が小さい ことが推測される.

結論として,少なくとも本実験課題の

11

から

9

番への反応時間と,

11

番から

12

番への 反応時間の比較においては,処理時間に占める

MT

の割合は認知症群・非認知症群共に

PMT

に比べて小さいことが示唆されたと考える.

3.ボタン配置による反応時間の差

今回の実験結果では非認知症群においては

1

番が

7

番に対して有意に反応時間が遅延してい たが,認知症群においてはボタン間の有意な反 応時間差はみられなかった(表

3

.しかし認知 症群および非認知症群共に

7

番の反応時間が最 も速く,

1

番が最も遅い傾向は一致していた.

また

1

番の対角線上に位置する

12

番も両群 ともに反応時間が遅い者が比較的多かった(図

4,5

).これは注意を払う範囲が,認知症群およ

び非認知症群ともに中央部に集まりやすいこと を意味すると考える.畠山らはアルツハイマー 型認知症者の視標に対する注視の正確度は正中 点を

0

°として左側に

30

°シフトした位置では 非認知症高齢者と有意差が無かったが,右

30

°,

60

°,右

60

°の順に視標に向かう正確性が 有意に低下し,視標に届かない傾向があること を報告11)している.このことから右

60

°位置 に近い

12

番のボタンへの反応時間の遅延は注 視の不正確性の影響が強いことが示唆される.

畠山らの実験結果では,非認知症者においても

60

°は注視がやや不正確であることを示し ており,今回の結果とも一致すると考える.さ らにランダムに間断なくランプが点灯すること で,右利きである被験者の手掌位置が確率的に

7

番のボタンの近傍に配置されている可能性が 高いことが推測され,そのことが

7

番への反応 時間の速さ,および自分の手が

12

番に対して 死角を作りやすくなり

12

番への反応時間の遅 さに影響していることも考えられる.

一方,

1

番に関しては認知症群・非認知症群 とも反応時間の標準偏差も各ボタンで一番大き かった.これは反応時間が速い時と遅い時の差 が大きいことを意味するが,各被験者において 同一のボタンに対しての運動にかかる時間は変 動が少ないことが予想されることから,この時 間差は主として点灯しているランプを発見する のにかかる時間差に帰因すると考える.つまり 偶然早く発見できたときは早く押せるが,その 確率は注意が向きやすい中心部から離れている ので低いことが考えられる.ただし非認知症群 においてはその下の

5

番への反応時間も平均か

0.03

秒と僅かながら下回るケースが比較的 多い結果となった.非認知症群においては反応 時間の絶対値が小さいことから,

MT

の占める 比率が認知症群に比べると相対的に大きくなり,

その分

MT

の影響がボタン位置によっては増大 する可能性があることを示唆するものと考える.

また,認知症群においては上段に位置する

1

(9)

番から

4

番までは比較的反応時間が遅い者が多 かった.詳細に分析すると被験者内で反応時間 が一律に遅いわけではなく時折速いときもある が,その割合が小さいことで平均反応時間が遅 延していた.このことから認知症群においては

MT

延長の影響よりも,眼球運動の不正確さや,

手前から中心までしか注意を払わない注意範囲 の狭小化の影響の方が大きいことが示唆される.

反応時間の延長は中重度群で顕著だったことか ら,この眼球運動の不正確さも

CDR2

以降に急 速に悪化することを示唆すると考える.

また畠山らの報告では水平方向への視線移動 についてのみ認知症者の特性が検証されている.

認知症群においては良好に反応可能なボタンに ついては個人差が大きかったことから,一般的 な特性を論ずるのは難しい面もあるが,本実験 結果は視線の上下方面への移動では,特に上部 への移動に注視の不正確さ若しくは潜時の延長 が出現する可能性を示唆するものと考える.

4.各被験者内における反応時間分散度 非認知症群に比べて認知症群の反応時間は被 験者内においても分散が大きい傾向が存在した

(表

6

).これは同じボタンに対しても反応時間 のばらつきが大きいことを意味する.

11

番から

9

番および

11

番から

12

番への反応においては,

全体と比較すると分散が小さいことが確認され たことから,目標ボタンが先に押したボタンの 近傍にある場合,あるいは視線の移動が水平方 向で済む場合には,比較的次の目標ボタンを発 見しやすく反応時間および分散が小さいことが 考えられる.反対に,目標ボタンが先に押した ボタンから離れている場合や,視線の移動が縦 方向とりわけ上方に移動する際には目標の発見 が遅れる可能性が高く,結果として反応時間お よび分散が増大すると考える.中山らは,認知 症高齢者は非認知症高齢者に比べ,刺激図を提 示した際の注視点の移動距離が有意に短く,注 視点の平均停留時間は有意に長いことを報告

3)している.これは次の視標すなわち点灯して いるボタンへの注視が遅延することを意味し,

反応時間の遅延やばらつきに影響を与えている と考える.

結語

1.認知症群の反応時間は全てのボタンにおい て非認知症群に比べて有意に低下していたが,

軽度群に関しては反応時間の遅延傾向はみら れるものの有意差はなかった.これは

CDR2

以降に急激に全般的注意および眼球運動の正 確性が低下することを示唆する.

2.認知症群が良好に反応可能な領域は個人毎 のばらつきが大きいが,その範囲は非認知症 群に比べて狭く,空間性注意の狭小化が示唆 された.これは畠山らの報告にあるように,

視標に対する注視が周辺にシフトするにつれ て不正確になることに関連すると考えられる.

また上部に位置するボタンに対する反応が特 に不良なことは探索眼球運動の方向が水平に 比べて垂直方向がより障害されやすいことを 示している可能性がある.

3.認知症群の同一ボタンに対する反応時間は 分散が大きかった.これは直前の視標からの 視線移動がスムーズにおこなわれないこと,

中山らの報告にあるように,視標に対する平 均停留時間が有意に延長していることが関連 すると考えられる.

今後の課題

本課題においては非認知症群の場合,ボタン 間の反応時間差に関して,認知症者に比べると 運動方向や距離が無視し得ないほど影響してい る可能性もあり精査が必要と考える.また,認 知症群の空間性注意の狭小化が存在するとして,

それが本課題の継続により改善されるかどうか については今後の検証課題としていきたい.

(10)

謝辞

本研究にあたり,多大なご協力を頂いた秋田 県内の通所リハビリテーション施設

A

および通 所介護施設

B

のご利用者ならびに職員の方々に 深謝いたします.

文献

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(11)

A study about spatial attention of elderly people with dementia

:A trial of a lamp task for reaction time

Tomoaki ASANO

1)

Takashi ISHIKAWA

2)

1) Occupational Therapy Course , Department of Rehabilitation ,

Faculty of Medical Science and Welfare Tohoku Bunka Gakuen University 2) Department of Occupational Therapy , Akita University Graduate School

of Health Sciences

Abstract

For the purpose of examining characteristics of spatial attention of elderly people with dementia, we measured reaction time of each 12 lamps which turned on at random arranged on a board, and compared the reaction time of elderly people with dementia with non dementia. As a result, in all lamps the reaction time of dementia group was significantly slower than non -dementia group, and it was suggested that the attention of all direction was inferior. In the dementia group the significant difference of the reaction time was not recognized between neither lamps, but there was a tendency that the range that dementia subjects could react well was central part or just in front of the subjects, and it was suggested that it was related that the narrowing of spatial attention or incorrect eyes movement to the upper part. Further more the deviation of the reaction time for the same lamp was larger, and it was suggested that the smooth eyes movement for the visual target was more difficult than non-dementia.

【 Key Words 】 reaction time , dementia , spatial attention

(12)

図 5   ボタン位置による反応時間の分散イメージ  表 5   反応時間分散度の比較  表 6   点灯順番と反応時間  分散度※  非認知症  認知症  平均  1.29 1.52 標準偏差  0.16 0.45 最小  1.16 1.13 最大  1.82 2.96 t値  1.89  df 28  p 値  0.069  ※反応時間分散度=  平均反応時間(最も遅いボタン)÷ 平均反応時間(最も速いボタン)  3.移動距離の大きさ・方向と反応時間  11 番ボタンを押した直後に 9 番ボタンを押す

参照

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