インフラ整備プロジェクトにおける B to B 企業と NGO の協働は、経済的価値と社会的価値を実現するのか?
B to B Company Collaboration with NGOs for Creating Economic and Social Values in Infrastructure Projects
小林 雅宏
KOBAYASHI Masahiro
1.はじめに
本稿の目的は、インフラ事業を手掛けるグローバル企業が主に途上国でインフラ整 備プロジェクトを推進する際に、株主や投資家、顧客だけでなく、現地政府や地域社 会、住民にとっても経済的価値と社会的価値という共通価値を実現していくための仕 組みと、とりわけ主に企業間で取引を行っている
B to B
企業がNGO
と協働すること がこの共通価値実現の過程に有効に機能することを明らかにした上で、企業自身の経 営のあり方を考察、提言することにある。2.グローバル企業の社会的責任
(1)先進国と途上国が抱える社会課題
地球温暖化や海水面の上昇、異常気象の発生等の地球規模での環境問題は、先進国 あるいは途上国だけといった特定の地域の課題ではなく、世界中の国・地域の人々が 将来にわたって甚大な影響を受ける共通の課題である。例えば、先進国が長年にわたっ て化石燃料を消費してきた結果が地球温暖化につながり、アジア・太平洋地域の小さ な島々の国土を海に沈めようとしている(1)。また、先進国より遅れて近代化を進めて いる新興国が経済成長の過程で生み出す環境汚染の影響も、自国だけに限定されるも のではない。中国国内での大気汚染の原因となっている
PM2.5
は、中国大陸だけに留 まらず、隣の朝鮮半島や日本列島にも影響し、日本人の生活環境にも大きな影響を及 ぼす可能性が高いと言われている。一方で、経済のグローバル化や情報技術の高度化が急速に進んだ結果、途上国の発 展スピードは先進国がたどってきたスピードを遥かに上回っており、先進国が歩んだ 道筋を飛び越して発展する場合もあるため、現時点では先進国に限られている社会課 題も数年後には途上国にとっても深刻な問題となる可能性がある。
少子高齢化に伴う医療費用の増大、労働人口の減少、都市と地方の経済格差等、日 本をはじめとする先進国にとっても社会課題は山積みであるが、日本には
1960
年代からの公害問題やオイルショックに対して技術力と知恵で社会全体の仕組みを変えて課 題を克服してきた歴史と経験がある。特に、省エネルギーや環境技術については、こ れから産業化を進めようとしている途上国に対しても適用することが有効である。小 宮山は、その著書の中で「課題を先進的に抱えている国が、解決の答えを出さなけれ ばならない。実際、環境問題・エネルギー問題について、日本の取組みはこれまでも 非常に先進的であった。そして成果を収めた。それは各地で手ひどい被害を被った公 害という課題があったからこそ、それに対する答えを出してきたのだ」と述べている
(小宮山、2007:
18)。
そして、先進国である日本が「課題先進国」として課題を克服してきた経緯の中に は、技術的な解決策だけでなく、地域住民との対話や
NGO
等の市民社会の参画を通 じた合意形成のプロセス等の経験も含まれている。日本には、これらの技術と経験を 活かすことによって、グローバル社会に対して果たすことができる役割があるのでは ないだろうか。また、国連開発計画(UNDP:United Nations Development Program)によれば、国 連が
2000
年9
月に採択した「ミレニアム開発目標(MDGs)」の8
つの課題に対し各 国政府や国際機関、NGO等が様々な取組みを行った結果、貧困・スラム・水に関す る一部の目標については達成したものの依然として多くの課題が未達成のままである。国連では、MDGsに続く「持続可能な開発目標(SDGs)」として、貧困、飢餓、健康、
教育、ジェンダーの平等、水と衛生、エネルギー、成長と雇用、インフラ整備、国家 間格差、都市と居住地、環境、包摂的社会の実現といった、先進国・途上国にまたが る
17
の共通目標を、まさに2015
年9
月に採択しようとしている(2)。この中で議論されてきたのは、先進国でも途上国でも社会課題を解決する為には、
緊急支援的な物資の供給や医療支援といった一時的な支援を行うことだけでは十分で はないという点である。安全で衛生的な水を継続的、安定的に供給することや電力・
エネルギーの安定確保といった、いわゆるハード面でのインフラ整備に加えて、部品 供給や周辺サービスを支える新しい産業と雇用を生み出したり、技能訓練や専門知識 の教育を通じて現地人材を育成したりというソフト面でのインフラを整備することも 社会の安定には欠かせない。つまり、革新的な技術によってグローバルな社会課題解 決に貢献するという企業が果たす役割への期待が益々高まっているのである。
(2)企業の社会的責任(CSR)の定義
企業と社会との関係を表す概念に「企業の社会的責任(CSR:Corporate Social
Responsibility)」という考え方がある。フィリップ・コトラーは、2005
年に発表した『社会的責任のマーケティング』の中で
CSR
を「企業が自主的に、自らの事業活動を 通して、または自らの資源を提供することで、地域社会をより良いものにするために 深く関与すること」と定義している(コトラー、2007:4)。つまり、「企業は自らの意 思で、地域をよりよいものにし、社会に貢献できるビジネスを選択し実行する」とい う意味である。一方、グローバル社会の中で
CSR
の議論を先導してきた欧州委員会も2001
年に初め てCSR
を定義した際に、CSRとは「責任ある行動が持続可能なビジネスの成功につながるという認識を企業が持ち、社会や環境に関する問題意識を、その事業活動やステー クホルダーとの関係の中に、自主的に取り入れている為の概念」とし、コトラーと同 様、CSRは企業の自主的な取組みと位置づけていた(欧州委員会、2001:6)。ところが、
2008
年に始まった世界的金融危機の影響から、若年層の失業問題等という欧州が抱える 最大の社会課題の解決に企業の貢献を期待する声が高まったこと等を踏まえて、欧州委 員会は2011
年からはCSR
を「企業が社会に及ぼす影響に対する責任」と定義し、「自 主的な取組み」という記述を削除している(欧州委員会、2011:6)。また、国連は
2000
年に「グローバル・コンパクト」(3)を発足し、「人権」「労働」「環 境」「腐敗防止」に関する10
原則を守るよう企業に呼びかけた他、2010年には社会的 責任規格である「ISO26000」(4)が発行、さらに2011
年の国連「ビジネスと人権に関す る指導原則」(5)採択に至ったように、企業が事業活動の中で果たすべき社会的責任が 国際基準化され、投資家を含むグローバル社会がこれらのフレームワークに基づいた 行動を企業に対し強く求めてきているのが最近の動きである。(3)マイケル・ポーター「共通価値創造(CSV)」
こうした中で
2011
年にポーターが発表したのが『共通価値の戦略』である。「共通 価値」とは「企業が事業を営む地域社会の経済条件や社会状況を改善しながら、自ら の競争力を高める方針とその実行」とポーターは定義し、これこそが「グローバル経 済に新たなイノベーションと生産性の向上をもたらす」と主張する。つまり、「経済 効率と社会の進歩との間にはトレード・オフが存在する」という従来の考え方や「企 業と社会の間の敵対関係」ではなく、「社会のニーズや問題に取組むことで社会的価 値を創造し、その結果、経済的価値が創造される」という「共通価値の創造(CSV:Creating Shared Value)」を目ざすことが企業には必要と述べている(ポーター、
2011:11
–13)。
ここで言う「社会的価値」とは何だろうか。ポーターの「共通価値の戦略」から、
その定義を要約すると、「貧困や格差、雇用、安全、健康、高齢化、環境、住宅といっ た社会が抱える課題に対して解決策を提示し、一定の社会的便益を与えること」であ る。新古典派経済学によれば、こうした課題解決の役割を企業に期待した場合、それ は必然的に「コストの上昇と利益の減少」を招くため、従来、こうした課題を解決す る役割はもっぱら政府や
NGO
に任されてきた。さらに、しばしばNGO
から批判され ることになる環境汚染や公害等に関する社会的費用を負担することは、利益に反する と企業は考えた。つまり、主に社会やNGO
からの要請に反応して行われるCSR
活動 は、企業にとっては外圧に対する必要経費であって、本質的には株主価値に反するも のと考えられてきた。そこで、ポーターは社会問題を以下の
3
つに分類し、企業がおかれた環境に応じて 解決を図ることで「社会的価値」と「経済的価値」の両方を実現できると主張した(ポーター、2008:47)。
① 「一般的な社会問題」(社会的には重要でも、事業活動から大きな影響を受けない社 会問題)
② 「バリューチェーンの社会的影響」(通常の事業活動によって少なからず影響を被る
社会問題)
③ 「競争環境の社会的側面」(外部環境要因のうち、事業展開する国での競争力に大き な影響を及ぼす社会問題)
つまり、「バリューチェーンの社会的影響」と「競争環境の社会的側面」に着目し、
その解決に向けて企業が行動することが、「経済的価値」と「社会的価値」という共通 価値の創造につながるという考え方である。
これに対して野中は、ポーターの主張は「主に多国籍企業をモデルとして、経済合 理性の文脈で考えられたもので、社会性よりも事業性を重視する企業側の価値観や戦 略的優先順位を出発点」としており、CSVは「あくまで企業戦略の範疇を脱していな い」と述べている(野中、2014:44–
45)。
一方、ハートが提唱し、その後センゲが発展させた「持続可能性」論は、企業が「コ スト削減とリスク低減」と「事業機会の創出」という「リスクと機会」の両面から事 業を捉えることが重要であり、企業が技術開発に加えて社会との関係性を見直すこと は、事業の成長と株主価値につながると主張する。つまり、企業が
CSV
を通じて「経 済的価値」に加えて「社会的価値」を創造することは、単なる経営戦略の枠を超えて 環境・社会に対しても価値を創出していくことを示している。3.インフラ整備プロジェクトにおける「リスクと機会」
(1)インフラ整備プロジェクトの成功とは?
本稿において、インフラ整備とは「主に政府や地方自治体が計画、建設、運営する 施設であり、道路・交通・鉄道・空港・河川・港湾・都市計画・発電・ガス・上下水 道・通信・学校・病院等、幅広い分野で生活の安定と産業発展のための基盤形成を行 うもの」と定義する。インフラ整備は、社会が抱えている基礎的なニーズを満たし、
人々の安心な生活と安定した社会を維持するという公共性をもっているが故に、純粋 に営利を目的とする民間の事業としては成立しづらいものである。また、投資の規模 が大きく、整備後も長期間にわたってサービスを提供し続けなければならない。特に、
途上国では政府の統治能力の向上や政治的安定に加え、社会の不安定化を予防すると いう大きな役割を果たして来た反面、公共性という目的のために周辺環境や地域住民 に対して一定の負の影響を与えてきたという歴史的な経緯もある。つまり、インフラ 整備とは、「維持管理のためのコスト」「環境・社会への影響」「公共性と住民の権利」
といった課題を抱えているものである。
では、インフラ整備プロジェクトが成功するとはどのような状態を指すのだろうか。
開発援助に関する佐藤の先行研究を踏まえて、以下の
4
つの視点で定義した。① 合理的なコストで建設した結果、地域社会と事業主体の双方に経済的な便益をも たらす。
② 地域の環境や社会に対する負の影響をできるだけ小さく抑える。
③ インフラが目ざす公共性を確保するとともに、プロジェクトの過程に参画すると いう住民の権利を守る。
④ 対象となる地域社会固有の社会状況や技術状況に見合った技術を使用し、地域の
内発的発展を促す。
(2)プロジェクトに住民が参加することの意義
また、インフラ整備プロジェクトには、事業推進者である政府・自治体、建設・運 営に関わる企業、地権者を含む地域住民、有識者・専門家、NGO/
NPO、国際機関
等、実に多様なステークホルダーが関与している。佐藤が指摘しているように「コミュ ニティを取り巻く状況」や「コミュニティの内部状況」等の社会的要因に対する配慮 が必要で、そのためにもプロジェクトへの住民参加が重要である。何故なら、プロジェ クトの経済的な便益と環境・社会的な影響を最も受ける人々が地域住民であり、彼ら の置かれた状況を正しく把握すること無しに、先に述べたプロジェクトの成功は実現 が難しいからである。従って、プロジェクトに住民が参加することは、事業推進者と地域住民にとって以 下に挙げる意義があると考える。
① プロジェクトの経済的便益と環境・社会的影響を直接受ける地域住民の置かれた 状況を、できるだけ正確に事前に把握・理解することができる。
② 住民の社会状況や技術状況に見合った適正な水準の規模、技術、コストに、プロ ジェクトの計画を修正・適合させていくことができる。
③ プロジェクトの計画から実施に至るプロセスで、住民が発言し意見を反映できる 機会と権利が確保される。
④ 将来発生しうる環境・社会面での問題に対し事前に対処することによって、地域 社会に対して与える負の影響を最小限に抑えることができる。
⑤ 想定外のリスクの発生を抑え、日程、コスト面でも計画通りにプロジェクトが進 行することによって、プロジェクト推進側にも住民にとっても経済的効果を最大 限に確保することができる。
(3)住民参加に関する事例
ところで、住民参加という視点でインフラ整備プロジェクトの成功事例と失敗事例 を分析した先行研究には、世界資源研究所(World Resources Institute:
WRI)が 2007
年と2008
年に発行した報告書に詳しい。「2000年代前半に石油メジャーのシェル社が参画したフィリピンのマランパヤ海底天 然ガスプロジェクトでは、プロジェクトに関する住民への説明、住民意識調査と結 果の説明、住民参加の環境配慮プログラム、地域の貧困問題への支援活動といった 適切なコミュニティ参画を行ったことが奏効し、建設は
3
ヶ月前倒しで完成、工事 遅延を回避したことで50
億円以上のコスト発生を防ぐことができた(WRI、2009:7、WRI、2007:19
–26)。」
「地域住民との対話を効果的にすることは、環境・社会への影響を事前に特定し、防 止あるいは低減することで、プロジェクトの脅威となるリスクを低減できるが、ペ ルーのカミセア
LNG(液化天然ガス)プロジェクトでは、2005
年、環境・社会アセスメントの結果に反対する住民の抗議活動によって
4
ヶ月も工事を中断せざるを得 なくなった(WRI、2009:8)」つまり、インフラ整備プロジェクトにおいて住民の参加を促すことは、環境・社会 に対する負の影響を小さくすると共に、プロジェクトの進行をスムーズにすることに つながり、事業推進者側にとっても経済的な利益をもたらすことが分かる。
4.B to B 企業と NGO の協働
(1)「協働」の定義と目的
さて、本稿のテーマは、企業と
NGO
の協働である。「協働」の定義には諸説あるが、本稿では「別々の利害関係を持つ個人や組織同士が、共通する目的を達成するために、
お互いの価値観を尊重し、対等で一定の緊張感を持った関係を持ちながら共に協力し 行動すること」と定義する。
では、企業が
NGO
と協働する目的とは何だろうか。長坂は先行研究の中で企業とNGO
の協働を次のように分類している(長坂、2011:23–24)。
① NGOが設定する先進的なプログラムに対して社内の複数部門で参画することで、
社内改革を進めることができる。
② NGOからの支持を得ることで、先駆的企業としての評価とイメージ作りに貢献す る。
③ 自社だけで取組むより、社会に対する透明性や社会からの信頼性が高まる。
④ 国内外の先進企業との情報交換が可能になる。
⑤ 自社の企業活動に対するモニタリング機能が担保される。
⑥ NGOのネットワークを利用できる。
⑦ この結果、(社会的責任という観点で)しっかりした対応をしている会社として世 界の市民や
NGO
から認知される。大橋によれば、NGOとは「非政府・非営利の立場に立って市民が主導する自発的 な組織で、かつ国際的な課題に対して他益あるいは公益的な活動を行う組織」であり、
「①非政府性、②非営利性、③自発性、④組織性、⑤他益・公益性、⑥国際性」の
6
つ の特徴を持つものであり、営利を目的とする企業とは異なる性格を持っている(大橋、2011:31
–32)。
第
2
章で述べたように企業がグローバル社会に対して責任を果たしていくためには、経営層や社内の関係部門の理解を深め協力を引き出していくころが必要であるが、企 業の論理とは異なる背景を持つ
NGO
と協働することが、企業に対して社会課題に対 する見方や社会的責任のあり方を問い直すきっかけになることは大きな意義があると 考える。(2)B to B 企業を取り巻く環境の変化
次に、インフラ整備プロジェクトに関わる
B to B
企業、中でも電機メーカーの役割 はどのように変わってきているかを考えたい。インフラ整備プロジェクトには実に多様な企業が関わっている。プロジェクト全体 の設計、建設、プロジェクト・マネジメントを請け負うのが元請けと呼ばれる会社で あり、その下に設計・建設・機器供給・保守・メンテナンスを担当する企業が存在す る。更に、こうした企業に対して材料や部品、労働力を供給するのがサプライヤーと いう構図であり、巨大なプロジェクトであればあるほどこの構造が何層にも構成され ている。日本の電機メーカーは、これまでこうした構造の中で主として水処理システ ムや発電システム、車両運行システムといった製品・サービスを供給する側の機能を 果たすことが多かった。
つまり、地域住民との利害関係の調整をする役割や責任を持っていたのは事業主体 である政府・地方自治体や電力会社であって、電機メーカーは主にサプライヤーとし ての限定された社会的責任を負ってきたと言える。
ところが、最近のインフラ整備プロジェクトでは、EPC契約(エンジニアリング、
調達、建設)で一括契約をするケースが増加してきており、電機メーカー各社も企画・
設計段階から資金調達まで含んだ、より包括的な方式でプロジェクトを受注すること を目ざしている。何故なら、機器供給会社としてだけでは、競合する中国・韓国メー カーとの価格・品質の競争に巻き込まれ、受注を失うか、投資に対するリターンの少 ないプロジェクトを受注することになってしまうからである。
このように電機メーカーは、自らがインフラ整備プロジェクトの事業主体になった経 験は多くない。ハワイ・マウイ島における日立製作所の「スマートグリッド・プロジェ クト」(6)に関する事例研究では、機器供給という役割ではなくプロジェクト全体の企画 段階から参入するためには、より広い視野でのプロジェクト・マネジメントと、外部環 境や内部要因に対する適切なリスクマネジメントが求められてきていることを示した。
しかし、一般に企業ではリスクマネジメントは事業を順調に実行するためのコストとし て認識されることが依然として多く、問題が起こりさえしなければ、そのための費用は できるだけ抑制したいという意思が経営判断に働いているのが実態である。
ポーターの
CSV
は、インフラ整備プロジェクトにおける顧客満足や事業の成長と いった経済的価値と、社会課題の解決という社会的価値を同時に成立させるものであっ た。さらにハートとセンゲは、「持続可能性」の観点から、企業が「リスクと機会」の 両面から事業を行うことの有効性を唱えており、これはインフラ整備プロジェクトの 中にも適用できる考え方である。国際石油開発帝石(INPEX)の「イクシスLNG
プロ ジェクト」(7)では、単にリスクの低減とプロジェクトを順調に遂行するためだけに環 境・社会面での配慮をしているのではなく、雇用や人材育成、先住民族との協調といっ た地域社会が抱える様々な課題の解決に向けて、地域住民と共にプロジェクトを遂行 することによって新しい企業価値を創出している。つまり、インフラ整備プロジェクトにおける「リスクと機会」を両側面から認識し、
技術開発による課題解決と、地域社会との関係構築の両面から施策を行うことが有用 であり、こうしたマネジメントがプロジェクトでの経済的価値と社会的価値の実現に つながっている。従来、機器供給会社としてインフラ整備プロジェクトに関わってき た電機メーカーは、直接の顧客である事業者の向こう側にいる地域社会や住民とどの ように関係を構築していけばよいのかが問われている。
(3)インフラ整備プロジェクトにおける企業と NGO の協働の可能性
では、インフラ整備プロジェクトに対して、NGOはどのように関与してきたのだろ うか。
環境にも地域住民にも大きな影響を与えるダム建設プロジェクトや大気汚染を伴う 火力発電所の建設プロジェクトでは、NGOは環境保全や住民の権利保護のためのアド ボカシー活動を盛んに行い、プロジェクトへの反対運動を行ってきた。
一方で、環境・社会配慮ガイドラインの策定に参画したり、「イクシス
LNG
プロジェ クト」のように環境・社会アセスメントや住民参加プログラムにNGO
と協働して参 画したりすることで、企業が想定していない部分で住民の意見を代弁する等、プロジェ クトが一定の範囲内で実行されるようにモニタリングする機能も果たしてきている。また、日本の
NGO
であるAPEX
による「コミュニティ排水処理プロジェクト」(8)で は、NGOが事業者と住民の間に立って住民の理解と協力を促進する機能を発揮するだ けでなく、プロジェクトへの住民の参加を促すことで、地域の内発的発展に貢献して いる。これらの事例は、企業と
NGO
が互いに得意な部分をもって補完しながら協働する 可能性を示している。従来、一般消費者を顧客としないB to B
企業がNGO
と協働す るケースは少なかったが、インフラ整備プロジェクトにおいて、環境・社会アセスメ ントや住民参加プログラム等でNGO
と協働することは十分に可能である。とりわけ、これまで機器供給会社としてインフラ整備プロジェクトに関わってきた 電機メーカーにとっては、プロジェクトの成功に欠かせない「住民の参加」という分 野で
NGO
と協働することにより得るメリットは大きいと考えられる。但し、その際 に企業にとって留意すべき主な点が2
つある。第
1
に、NGOには営利を求める企業の性質とは相容れない部分が必ずあるというこ とである。企業と協働することを通じて、社会課題の解決という自らの目的達成をさ らに進めようと考えるNGO
が増えてきていることは事実であるが、地域社会や住民 にとっての公益性に反しているとNGO
が判断した場合には、企業の思惑とは異なる 行動を取る点である。第
2
に挙げられるのは、NGO自身の能力・マネジメントの課題である。大規模なイ ンフラ整備プロジェクトにおいて、単独で環境・社会アセスメントを担うことができ るNGO
は日本国内ではまだ限られている。アセスメントに関する知識と経験、公的 資格を有し、様々なプロジェクトでの実績のあるNGO
でなければ、専門性の高い技 術的な調査や評価を単独で実施することは難しい。過去のプロジェクトの例では、政府や企業の意向を汲んだ有識者が都合の良い情報 に偏ったアセスメントを実施して、後に住民による大きな反対運動につながった例も ある。逆に、現地政府や地元の有力者の影響下にある
NGO
が不公平なアセスメント を実施して、プロジェクトの妥当性を正当化してしまうこともある。だからこそ、本 質的に非営利・他益性・公益性・自発性をもったNGO
と企業が、お互いの価値観を 尊重し、一定の緊張感を持って協力する「協働」の意義と有効性がある。以上の考察から、インフラ整備プロジェクトにおいて、その計画段階での環境・社
会アセスメントや、住民への説明・対話におけるファシリテーション、雇用の創出や 現地人材の育成、先住民族の文化・権利を保護するための地域貢献活動への協力等、
住民の参加に関わる分野において企業と
NGO
が協働することは、「経済的価値」と「社会的価値」の実現に有効に機能すると言える。B to B企業、とりわけ電機メーカー は、他益性・公益性に加え、住民との関係構築における専門知識やノウハウ、ネット ワーク力を持つ
NGO
と協働することを通じて、「共通価値の創造」を推進すべき時期 にある。5.まとめと提言
本稿では、グローバル社会の様々な社会課題を解決するために
B to B
企業が推進す るインフラ整備プロジェクトが、株主、企業、政府、地域住民にとって「経済的価値」と「社会的価値」の両方を生み出すことになる仕組みを明らかにした。
最後に、B to B企業がインフラ整備プロジェクトを通じて共通価値を実現するため に必要な経営のあり方について
3
点提言する。① 経営戦略は、事業の成長と
ESG(環境・社会・ガバナンス)の両面の視点から検
討する。② 国連「持続可能な開発目標(SDGs)」を意識し、地域・国レベルでの社会課題を 広く捉える。
③ インフラ整備プロジェクトでは、NGOとの協働も含めて地域社会との関係構築を マネジメントする。
インフラ事業のビジネスモデルが変わり、企業に対して求められる社会的責任の範 囲も広がる中にあって、B to B企業が
NGO
と協働を模索することは企業にとっても 社会にとっても大きな意義がある。本研究での考察を経て、今後はその実効性を検証 することに合わせて、政府とNGO
の関係やNGO
の能力強化策等についても研究を発 展させていきたい。■註
(1)気候変動に関する政府間パネル(IPCC)「第
4
次評価報告書」(2007年11
月)は、人間の 活動による温室効果ガスの増加が、気候システムの温暖化と平均海面水位の上昇をもたら している可能性が高いと報告している。環境省
Web
:http://www.env.go.jp/earth/ipcc/4th_rep.html (2015
年9
月19
日アクセス)(2)国連開発計画(UNDP)「持続可能な開発目標(SDGs)」Web:http://www.jp.undp.org/
content/tokyo/ja/home/presscenter/articles/2015/08/21/sdg.html (2015
年9
月19
日 アクセス)(3)
1999
年に当時のアナン国連事務総長が提唱し、2000年に発足したイニシアティブのこと。各企業・団体が責任ある創造的なリーダーシップを発揮することによって、持続可能な成 長を実現するための世界的な枠組み。約
160
か国で1
万3,000
の団体(うち企業は約8,300
社)が署名。日本では、205の企業・団体が加入している。(2015年8
月現在)国連グローバル・コンパクト
Web:http://www.ungcjn.org/gc/(2015
年9
月19
日アクセス)(4)企業の社会的責任に関する国際規格(2010年発行)であり、「組織統治」「人権」「労働慣
行」「環境」「公正な事業慣行」「消費者課題」「コミュニティ参画及び発展」を「7つの中 核主題」として位置づけている。
ISO
国内委員会Web:http://iso26000.jsa.or.jp/contents/ (2015
年9
月19
日アクセス)(5)国連事務総長特別代表であるジョン・ラギー教授(ハーバード大学ケネディスクール)を 中心に策定され
2011
年に国連が採択した「指導原則」。グローバルな企業活動のすべての プロセスの中で人権を尊重すること、また人権侵害が発生した場合には救済することが定 められている。(6)
(株)日立製作所が独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)等と共
に、米国ハワイ州マウイ島で取組んでいる実証実験プロジェクト。石油や石炭、天然ガス といった化石燃料を島外からの海上輸送に頼らざるを得ない島嶼部の発電コストを、風力 発電や太陽光発電といった再生可能エネルギーとスマートグリッド・システムの導入によ り引き下げ、安定的に供給するシステムの構築を目ざしている。
日 立 製 作 所「 ハ ワ イ・ ス マ ー ト グ リ ッ ド 実 証 事 業 」Web:http://www.hitachi.co.jp/
products/smartcity/case/hawaii/ (2015
年9
月19
日アクセス)(7)国際石油開発帝石(株)(INPEX)が、2016年の生産開始を目ざしてオーストラリア西部
約
200km
沖合に開発している大規模なLNG
採掘プロジェクト。生産されるLNG
の実に70%は日本向けに供給される計画であり、2011
年の東日本大震災以降の日本のエネルギーを支える大きな社会的使命を負っているだけでなく、「社会環境マネジメントプラン」「先 住民社会との協調活動計画」等、地域に対する環境・社会的影響に配慮したプロジェクト・
マネジメントに特徴がある。
INPEX Web:http://www.inpex.co.jp/index.html (2015
年9
月19
日アクセス)(8)日本の
NGO
であるAPEX
がインドネシアの現地NGO
であるディアン・デサ財団と共に1995
年から取組んでいる「コミュニティ排水処理プロジェクト」。インドネシアでは、人 口増加と都市部への人口集中に伴って、河川の水質汚濁や衛生環境の悪化と、これらが原 因となる疾病、乳幼児の死亡が重大な社会問題になっており、導入・運営・維持・メンテ ナンスにも高額な費用が必要な設備ではなく、現地国で部品やメンテナンス要員等を調達 できる「適正技術」に基づいた排水処理システムの構築を進めている。APEX Web:http://www.apex-ngo.org (2015
年9
月19
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