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ある専業農家の家計動態

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ある専業農家の家計動態 

−昭和 52 年から平成 4 年までの家計簿年計収支データの分析− 

 

重川純子  埼玉大学教育学部家政教育講座 

                 

キーワード:専業農家、家計簿、家計動態、年計データ

 

 

1.研究目的   

  家計分析の資料に個別家計簿を取り上げる意 義として、社会経済状況の変化などの家計への 影響を直接的に把握できること、統計調査では 平均値にならされてしまう家族生活の様子を家 計面で観察できること、統計調査では横断的分 析で擬似的に捉える動態を直接動態として捉え ることができることなどがある

1)

。 

    後藤(1983、1985)は、農業政策が大きく転 換する中で崩壊寸前の農業経営から自立経営へ の転換を図った農家世帯で昭和 44 年から昭和 54 年まで記帳された家計簿を資料として所得 と消費の分析を行っている。 

本研究では、日米農産物交渉(オレンジ、牛 肉の枠拡大)決着前年の昭和52年から16年間記 帳された家計簿を資料に、専業農家の家計運営 状況を明らかにすることを目的にする。本家計 の主たる生産物である鶏肉、鶏卵は、昭和37年 に玉ねぎなどとともに輸入数量の制限が撤廃さ れていたが、昭和50年にも鶏肉の自給率は97%

と高い。昭和37年に10%であった鶏肉の関税率 は昭和39年には20%に引き上げられ、昭和55年 以降段階的に引き下げられている(農林水産 省,2007)。自給率の変化は牛肉に比べると緩や かであるが、平成2年には84%、平成7年には 69%に低下しており、農業生産を取り巻く環境 が大きく変化していたと考えられる。また、本 家計にとってこの時期は子育て期にも重なって いる。雇用者の年功的賃金とは異なり、自然環 境により収入の変動が大きい農家家計が、どの

ように家計を運営していたのか、本稿では年間 集計を中心に分析を行う。 

 

2.研究方法   

2‑1 分析資料 

本研究では、昭和52年から平成4年までの16 年間(平成3年のデータはなし)に記帳された 専業農家A家の家計簿を資料として用いる。全 期間通じて 「家の光家計簿」を使用して記帳 が行われており、現金の収支の他、自家生産物 に関する記帳が行われている。「家の光家計簿」

はJA(農協)グループの出版・文化団体であ る(社)家の光協会が発行している農家世帯の 主婦を主たる読者層とする月刊総合家庭雑誌

「家の光」の12月号付録である。日々の収支の 内容を費目別に多桁式で記入し、月間集計、年 間集計できる形式である。食料費(飲食費、嗜 好品費)や衣服身の回り品費、保健衛生費など の一般家計費の他、農業支出(農外支出、租税 と同一費目)の記入欄が設けられており、農業 所得税の簡易簿記として使用可能な書式である。

また、自家生産物については、飲食費、嗜好費、

住居家財・水道光熱費、交際費の4つの用途別 に、生産者価格での時価評価額を記録し、月間 集計、年間集計可能な頁が設けられている。 

 

2‑2 分析方法 

  本稿では、記帳者による年間集計データを用

いて、収入、支出の変動を捉えた

2)

。実質化に

は平成17年の消費者物価指数(生鮮食料品を除

(2)

『農家経済調査』(『農家の形態別にみた農家 経済』を含む)との比較を行った。専業農家で ある本家計の比較対象として、『農家経済調査』

中の「基幹男子農業専従者のいる専業農家」と

「自立経営農家」(農林水産省が『農業の動向 に関する年次報告』(『農業白書』)各年版の 中で町村在住の勤労者世帯を比較対象とし、世 帯員一人当たりでみて、その勤め先収入と同等 水準以上の農業所得を実現している農家の農業 所得の水準を設定している)を取り上げた。 

 

3.分析対象世帯の家族   

分析対象の家計は三世代同居の拡大家族世 帯である。構成員は昭和15年生まれの夫、昭和 16年生まれの妻、昭和40年生まれの第一子、昭 和46年生まれの第二子、昭和51年生まれの第三 子、大正11年生まれの夫の母の6人家族である。

分析対象期間の初年の昭和52年には、夫36歳、

妻35歳、第一子12歳、第二子5歳、第三子1歳、

夫の母55歳であり、分析対象期間は子どもの教 育期のライフステージであった。 

  家族は、宮崎県内で養鶏、畑作(昭和52年の 耕作地面積は約200アール)を中心とした農業 を専業で営んでいる。 

家計簿の記帳は妻が担当している。夫妻の結 婚以降、妻が家計運営を任されており、本稿の 分析対象期間以前にも家計簿記帳が行われてい た。A家で購読していた雑誌「家の光」には衣 食住や子育て、健康に関する記事の他、昭和38 年以降年末号に家計簿を付録

3)

としているよう に家計に関する記事も掲載されていた。また、

A家の妻は家計管理をテーマに含む地域の女性 の活動にも参加しており、積極的に家計管理を 担っていた。 

 

設定されている

4)

。生産現物家計消費額(自家 生産物の評価額)は『農家経済調査』では農外 収入に含まれているが、本家計の収入には含ま れていない。農作物の売上収入の他、補助金や 受贈金なども含む農業収入・農外収入の実質値

(平成17年値)は、図1に示すように、昭和52 年から58年までは600万円から1000万円の間

(平均848万円)で推移していたが、昭和59年 に420万円に急減している。図1に示す宮崎県 の農家

5)

の可処分所得データは安定的に推移し ており、地域全体的な天候不順等ではなく、本 家計が扱う農畜産物の不作あるいは本家計個別 の要因による落ち込みと考えられる。昭和60年 には59年に比べ55%増加したが、58年の74%に 留まっている。その後、昭和62年には昭和50年 代後半と同程度の収入を得ているが、昭和60年 から平成元年までの年収の平均額は713万円と 昭和58年までの水準に比べると低位である。平 成3年はデータがないため不明であるが、平成

0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1,000

昭和5253 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 H元 2 4

万円

農業収入・農外収入

農業収入・農外収入+自家生産物 引出・借入

可処分所得(農業収入・農外収入-農業経費等)

宮崎県農家の可処分所得 自立経営農家・農業所得

基幹専従者のいる専業農家の可処分所得 注:平成3年はデータ欠損

  宮崎県農家、自立経営農家、基幹専従者のいる専業農家世帯の値は   農林水産省『農家経済調査報告』、『農家の形態別にみた農家経済』

  各年版より

 

図1  実質年間収入額(平成 17 年値)

(3)

                         

 

 

4年には分析対象期間の中でもっとも高い997 万円を稼得している。農業の営業経費等である

「農業支出・農外支出・租税」の「農業収入・

農外収入」に対する割合は、昭和60年までは30

〜40%程度であったが、63年以降は50%前後で 推移し、平成4年には57%を占めている(図2)。    

農業収入・農外収入から農業支出・農外支 出・租税を差し引いた収入(可処分所得に相当)

では、昭和58年までの平均額は552万円、昭和 59年以降は407万円(昭和62年を除く平均額は 373万円)となる。雇用者の場合、年齢上昇、

経時に伴い収入上昇することが一般的であるが、

農業収入・農外収入、可処分所得ともにそれと は変化の様相が異なる。平成4年は高水準の農 業収入・農外収入を得ていたが、経費割合が高 く、可処分所得は前年並みであった。農業収入・

農外収入の変動を引出・借金等の実収入以外の 収入で補足するのではないかと予測した。昭和 53年から54年、昭和56年から57年、昭和62年か ら63年にかけては農業収入・農外収入が減少す る中、引出・借金等が増加しており補填的な動 きであるが、ともに減少あるいはともに増加し ている年もあり、常には予測のような傾向はみ られない。 

  農家の中での本家計の位置を検討するため、

図1には自立経営農家の農業所得

6)

と基幹専従 者のいる専業農家の可処分所得を示している。

この2つのデータの値は分析対象期間の最初

0 10 20 30 40 50 60 70

昭和 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63H元 2 4

注:平成3年はデータ欠損

   

 

(昭和53、54年)と最後(昭和63年から平成  2年)には若干乖離するが、昭和55年から62年 までは概ね重なっており、いずれも変化の幅は 小さい。本家計の可処分所得は、これらを上回 る年も下回る年も観察される。昭和58年までの 自立経営農家の農業所得の平均値は532万円、

専業農家世帯の可処分所得平均値は567万と本 家計の水準と同程度であるが、昭和58年以降の 平均値は自立経営農家540万円、専業農家世帯 568万円であり、本家計の水準はそれぞれの 75%、72%である。本家計の長期変動の中で可 処分所得が相対的に低い昭和59年以降は、本家 計と同様の形態である基幹専従者のいる専業農 家の平均値に比べても、 総じて低い水準である。  

 

5.支出   

  支出の項目には、家計費用の他、農業支出・

農外支出・租税、貯蓄・投資・借金返済が設定 されている。家計費用には、飲食費、嗜好費、

衣服身の回り品、住居・家財光熱水道費、自動 車交通費(昭和59年以降)、保健衛生費、学校 教育費、教養文化費、こづかい・雑費、交際費 の「経常支出」とこれら以外に「臨時費」が設 定されている。臨時費に含まれる内容について は、昭和60年の場合、第一子の車関係や第三子 の高額な歯科治療費など一時的な支出が計上さ

0 100 200 300 400 500 600 700 800

昭和5253 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 H元 2 4

万円

経常支出 臨時費

家計支出(経常支出+臨時費) 貯蓄・投資・借金返済

基幹専従者のいる専業農家の家計費現金支出

注:平成3年はデータ欠損

  基幹専従者のいる専業農家世帯の値は農林水産省『農家の形態別   にみた農家経済』各年版より

   

図2 農業収入・農外収入に対する農業支出・農外支出・租税

の割合 図3 実質年間支出額(平成17年値)の推移

(4)

0 10 20 30

昭 和 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 H元 2 4

注:平成3年はデータ欠損

   

 

れている。図3には支出額(平成17年値)の推 移を示している。収入の変化に比べ、経常支出 の変化は小さいが、先述の可処分所得の落ち込 む昭和59年には経常支出の支出額が抑えられ 前年の45%に低下している。昭和60年には再び 増加するが、収入額が従前の水準ほどには回復 しなかったためか58年の75%の金額である。臨 時費は、一時的な支出ではあるが、図4に示す ように観察対象の15年のうち7年分は臨時費が 家計支出(経常支出+臨時費)の25%を超えて おり、家計は多くの臨時的支出に対応しながら 運営されていることがわかる。臨時費の変動係 数は0.90であり、経常支出の0.21に比べると、

支出の変動が大きい。経常支出と臨時費を合計 した家計支出は昭和57年、昭和62年、平成4年 を除き概ね可処分所得の変化に沿った変化をし ている。図3に示す基幹専従者のいる専業農家 の家計費現金支出の値

7)

のような多数の世帯の 平均家計費はほぼ一定の値で推移しているが、

本家計の結果が示すように、各世帯では収入に 応じて支出額を調整しながら家計運営が行われ ている。 

  図5には平均消費性向の動きを示している。

昭和50年代から60年代初めにかけて『農家経済 調査』の基幹専従者のいる専業農家世帯の平均 消費性向(家計費現金支出/可処分所得)は75 から80前後で推移している。 

 

50 75 100

昭和5253 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 H元 2 4

本家計

基幹専従者のいる専業農家 家計調査・勤労者世帯

注:平成3年はデータ欠損

基幹専従者のいる専業農家の値は「家計現金支出」÷「可処分所得」

 資料:農林水産省『農家の形態別にみた農家経済』各年版より 家計調査・勤労者世帯の値は2人以上の勤労者世帯の全国平均値  資料:総務庁『家計調査年報』各年版

   

 

同時期の総務庁『家計調査』の世帯人員2人 以上の勤労者世帯の平均消費性向も同程度で推 移しており、主たる稼得者が雇用者の場合も農 業従事の場合も平均消費性向で捉える家計のゆ とりは同程度である。本家計の場合、昭和57年 から61年には平均消費性向が100前後で推移し、

100を超える年もみられる。可処分所得が比較 的高かった昭和62年には64にまで低下するが、

その後も昭和63年、平成4年には100を超えてお り、長期的な視点で家計の安定化を図る家計運 営が必要であることがわかる。 

実支出以外の支出である貯蓄・投資・借金返 済等の金額は、経常支出と臨時費の合計値と同 程度あるいはそれを上回っている(図3)。収 入の図に示した引出・借入の金額と同程度の金 銭の動きがあり、預貯金の出し入れ、借入・借 金返済を利用しつつ、家計および農業の経営が 行われており、その詳細な内容について今後検 討することが必要である。 

  図6には費目別の実質支出額(平成17年値)

の推移を示している。比較的金額の大きい飲食 費は、子どもの成長期であるが、前半期に比べ 後半期の方が支出額は低下している。教育費に 

図5  平均消費性向の推移 

図4  家計支出に占める臨時費の割合 

(5)

                         

 

 

0 1 2 3 4 5 6 7 8

昭和5253 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 H元 2 4

万円

飲食費 嗜好費

衣服身の回り品費 住居・家財・水光熱費

自動車交通費 保健衛生費

学校教育費 教養文化費

こづかい・雑費 交際費

注:平成3年はデータ欠損

   

 

ついては、第一子が高等学校在学中の昭和55年 から57年にかけ支出額が大きくなり、その後一 旦低下するが、第二子が高等学校在学の昭和62 年から3年間再び金額が増加している。 

昭和59年には収入が大幅に落ち込んでいた が、支出額についても、ほとんどの費目でそれ 以前の金額に比べ支出額が圧縮されている。保 健衛生費はほぼ前年並みの金額を支出している。

病気治療の受診等生命・健康維持のために必要 な医療費の他は生活全体的に支出を抑える努力 が図られていたと考えられる。 

図7にはエンゲル係数の推移を示している。

勤労者世帯、基幹専従者のいる専業農家ともに エンゲル係数が低下し、平成4年には約25%で ある。本家計の場合も、変動は大きいが長期趨 勢は低下傾向にある。水準を比較すると、本家 計の方が低い。一般にエンゲル係数は生活水準 が高い場合に低い。先の平均消費性向でみたゆ とりや可処分所得金額からは、本家計の方がエ ンゲル係数が高くなると推測されるが、逆の傾 向を示している。これには、自家生産物の利用 が影響している。次節で自家生産物の利用状況 を取り上げる。 

 

0 5 10 15 20 25 30 35

昭和5253 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 H元 2 4

本家計 基幹専従者のいる専業農家

家計調査・勤労者世帯 注:平成3年はデータ欠損

基幹専従者のいる専業農家の値は「飲食費+嗜好費」÷「家計費現金支出」

専業農家、勤労者世帯の値の資料は図5と同様

   

 

6.自家生産物の利用   

  図8には、自家生産物消費額が(家計支出+

自家生産物消費)の合計額に占める割合を示し ている。経常支出全体で捉えると、当初10%程 度であったが、徐々に増加し、後半期には20%

程度を占めるようになっている。特に、収入額 が減少した昭和59年には28.0%を占め、家計を 大きく支える存在であった。 

費目別では、飲食と交際に用いられることが 多い。飲食費の中で自家生産物の占める割合は 徐々に上昇しており、昭和59年と昭和62年以降 は半分以上を占めるようになっている。現金で の飲食費支出は子どもの成長にもかかわらず、

昭和57年以降は低下傾向にある中、エンゲル係

0 10 20 30 40 50 60

昭和5253 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 H元 2 4

飲食費 嗜好費

住居・家財、水光熱費 交際費

経常支出計

注:平成3年はデータ欠損

 

  図6 費目別実質支出年平均月額(平成 17 年値)の 推移 

図7  エンゲル係数の推移の推移 

図8 自家生産物消費額が(家計支出+自家生産物消費)

に占める割合

(6)

産物等を受贈品として受け取ることも少なくな いことが推察される。詳細な内容を検討した昭 和60年の場合、A家の自家生産物の交際費とし ての利用額は94,930円、他家からの現物収入は 47,350円である。自家生産物に加え、他の現物 収入も家計を補助している。 

 

7.農業収入・農外収入、農業支出・農外支出、

貯蓄・投資・借金返済の詳細−昭和60年   

  ここでは、農業収入・農外収入、農業支出・

農外支出、貯蓄・投資・借金返済について、昭 和60年を取り上げ、詳細な内容を調査した。 

農業収入・農外収入のうち農業の売上げ収入 が89.8%と大部分を占める。このほか、転作奨 励、卵価安定、ゴボウ価格補助などの補助金が 5.4%を占めている。卵は物価の優等生といわ れているが、卵価低落時には、生産者に対し、

卵価安定基金による価格差補填金が交付される ことになっている(交付金の原資は生産者等の 積立金と国の補助金)

8)

。図9には分析対象期 間の卵価安定基金による価格差補填金交付総額 の推移を示している。分析対象家計の詳細を取 り上げた昭和60年度の基金の交付金総額は

0 20 40 60 80

昭 和 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 (4~

6)

62 (7~ 3) 63H元 2 3 4

年度 億円

資料:JA全農たまご(株)のウェブサイト掲載データより作成

   

れる。 

農業支出・農外支出の中では、肥料代割合が 23.7%と約4分の1を占めている。この他、農 機関係が9.0%、電気・ガス代が7.5%、ガソリ ン代が6.1%を占めている。養鶏農家であるた め、おそらく養鶏用と思われるワクチン・栄養 剤は3.6%を占めている。 

貯蓄・投資、借金返済の年間合計額は約508 万円である。このうち借金返済は8.5%である。

簡易保険料、定期預金、生命保険の他、頼母子 やコイン積立が毎月行われている。毎月約13万 円の積立・支払いが行われており、その金額合 計は年間合計額の30.6%を占める。このほかに 定期、普通預金として約170万円の預け入れが 行われている。後述のように収入に変動はある が、その中で毎月一定額以上の積立を行い、家 計の安定を図っていることがわかる。 

 

8.月別の家計の変動−昭和60年   

前項までは、年計データにより家計収支の動 向を取り上げていたが、本項では、昭和60年の みであるが、月別の家計の収支を取り上げる。 

昭和60年の収入、支出の項目ごとの変動係数 は、農業収入・農外収入1.03、引出・借入1.36、

経常支出0.37、臨時費0.61、農業支出・昭和農 外支出1.20、貯蓄・投資・借金返済1.09である。

収入や農業関係の支出、貯蓄等に比べると、経 常支出、臨時費の家計支出の変動は小さい。先 述の通り、年計データの経常支出の変動は小さ く安定的であったが、月別でも同様に変動が小 さい。収入の変動によらず、家計支出は安定的 であり、日々の生活が安定的に営まれていた様 子がうかがえる。 

図10には、昭和60年の月別の収入、支出、収

支差額の変動を示している。農業収入・農外収 

図9  卵価安定基金による価格補填金交付総額 

(7)

                         

 

 

-150 -100 -50 0 50 100 150

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

万円

農業収入・農外収入 引き出し 借入 預金 預金-引出

農業事業収入-農業・農外支出

農業・農外収入-経常、臨時、農業・農外支出 255.6万

   

 

入は6月と12月の金額が大きく、この2ヶ月で年 間収入の50.4%を占めている。農業収入・農外 収入から農業支出・農外支出を差し引き算出し た可処分所得からさらに経常支出、臨時費を差 し引いた金額が黒字(赤字)となるが、昭和60 年は年間合計値では約85,000円の赤字となっ ている。月別にも3、6、8、12月を除く8ヶ 月分で赤字となっており赤字の月が多い。預貯 金引き出しと預け入れについては、預け入れが 引き出しを上回る月が多いが、10月の引出の上 回り幅が大きく、年間では引き出しが預け入れ を上回っている。10月は定期が満期になったた め引き出し、再び預け入れを行っている。 

 

9.まとめ   

  養鶏と畑作を中心の専業農家の昭和52年から 16年間の家計の分析を行った。この時期は、農 業の自由化が徐々に拡大した時期である。 

  農業収入・農外収入は分析対象期間の後半期 の方が低下した。一方、農業関係支出(経費)

割合は後半期の方が高くなり、可処分所得金額 では昭和59年以降は平均407万円であり、58年 までの74%に減少した。今回の分析では詳細な 内容を捕捉したのは昭和60年1時点のみであ るが、農業生産収入が落ち込む場合には政策的

に補填され、収入減少が緩和されている可能性 が示唆された。家計としては、収入の落ち込み には保健医療費を除く各費目の支出を圧縮させ 対応が行われていた。経常的支出の中で大きな 割合を占めていた飲食費に対し、自家生産物の 利用を高めることで支出額の圧縮が図られてい た。飲食費以外に交際費でも自家生産物が用い られ、分析対象期間の後半期には家計の2割に 相当する貢献を果たしている。 

収入の変動は年別、月別にみても大きいが、

定期的継続的に積立が行われており、長期的な 家計の安定が図られている。 

今後は、農業経営環境の変化や家族のライフ イベントを調査し、家計簿資料の日々記録デー タと重ねあわせることで、支出増大時や収入減 少時の詳細な家計運営の実態を明らかにするこ とが課題である。 

 

注 

1)ただし、統計調査の場合にもパネル調査であれば 動態的に捕捉することは可能である。 

2)経常支出の費目別支出として記載された値の合計 値と家計簿記載の経常収入合計値が不一致の場合には、

本分析では前者の値を採用した。 

3)これ以前にも、昭和28年に「家の光」の臨時増刊 として「久美愛家計簿」が発行されている((社)家の 光協会ウェブサイト「事業案内」中「年史」より) 。  4)昭和58年には第一子、平成2年には第二子が雇用者 として就職しているが、その収入は本家計には計上さ れていない。就職後、個人的な支出については本家計 からではなく、それぞれの給与から支払われていると 思われるが、本家計からも自動車関係など子どもの支 出が行われている。 

5)『農家経済調査』では農業センサス結果を踏まえ、

一定条件をみたす農家を調査対象としているが、専業 農家だけでなく兼業農家も対象としている。宮崎県の 農家の所得も、兼業農家世帯を含めた平均値である。 

6) 『農家経済調査』の農業所得とは、農業経営による 総収入である農業粗収益からその収益を得るためにか かった一切の経費である農業経営費を差し引いた金額。 

図 10  月別収支の推移−昭和 60 年 

(8)

る。 

8)野菜についても、指定野菜に対し同様の「指定野 菜価格安定対策事業」が存在する。本家計でも、昭和 60年の受取金額は少額であるが、ゴボウの価格補助金 が収入に計上されている。 

 

謝辞 

家計簿を研究資料として貸し出し下さったA家の皆様 に深く感謝申し上げます。また借り受けに際しご尽力 下さった(社)家の光協会 吉岡さとみ様に感謝申し上げ ます。 

 

参考文献・資料 

後藤和子(1983) 家計記録による農家家計に関 する研究(第1報),家政学雑誌,Vol.34,

734‑743頁 

後藤和子(1985) 家計記録による農家家計に関 する研究(第2報),家政学雑誌,Vol.36,

261‑268頁 

中村隆英編(1993)家計簿からみた近代日本生 活史,東京大学出版会 

農林水産省経済局統計情報部,農家経済調査報 告,各年版 

農林水産省経済局統計情報部,農家の形態別に みた農家経済,各年版 

農林水産省生産局畜産部(2007)養鶏をめぐる 情勢

(http://www.maff.go.jp/j/study/yoton_yokei/yok

ei_h19_1/pdf/data4.pdf (2011年4月20日閲覧)) 

社団法人家の光協会,事業案内−年史

(http://www.ienohikari.net/kyoukai/jigyou/nens

hi.html (2011年4月20日閲覧)) 

JA全農たまご(株),(社)全国鶏卵価格安定基 金  価格差補てん事業 補てん事業の推移

(http://www.jz-tamago.co.jp/04-b.htm (2011年

3月20日閲覧)) 

(9)

                         

 

 

 

Dynamics of a Full-time Farmer's Household Economy:  

An Analysis on Annual Data of Household Account Books from 1977 to 1992

SHIGEKAWA, Junko

Faculty of Education, Saitama University

Abstract

Farmers' incomes are likely to be affected by the weather and vary greatly in comparison with employees' income. The objective of this research is to clarify how a full-time farmer's household managed its household economy by its household account books from 1977 to 1992. During this time the market for agricultural products was liberalized and economic circumstances around farmers' households changed. Despite economic growth, a farmer's income declined. On the other hand, agricultural expenses increased. So disposable income of the latter period decreased to 74% of that in the former period. The decrease was supplemented by a governmental subsidy. In addition, to cope with decrease of the income, the household reduced expenses besides medical care expenditure and utilized more agricultural in-house products. In the latter period, the contribution of in-house products in total household expenditure was about 20%. Given that both yearly and monthly incomes were largely fluctuated, the household saved deposit regularly to keep stability of its budget.

Key Words:Full-time farmer, Household account book, Household economy, Annual data

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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