上越数学教育研免 第 1 2 号,上越教育大学数学教室 ,1 997 年 ,pp. 21 ‑30.
成功的でない解決過程のいくつかの観点か らの分析
布川 和彦
1 .はじめに
「 問題場面の構造」( Nunoka wa , 1994b) を 視点 とした解決過程の記述 ・分析を目指 し、
筆者は同一被験者に対 し 9 回の問題解決を行っ てもらった。そ してその第 2 回 ( Nunoka wa , 1 9 9 4 a ,C , i mp r e s s ) 、第 3 回 ( 布川,1 996b) 、第
5 回 ( 布川,1 995) 、第 7 回 ( Nunoka wa ,1 9 93 , 1 996) 、第 9 回 ( 布川,1 996a) についての分析 を行い、解決過程 に関 してい くつかの知見を 得てきた。本稿ではこの 9 回のセ ッシ ョンの うちの第 8 回目をとりあげ、 リソース、発見 法、モニタリング といった問題解決に関す る 基本的な観点 ( DeCor t ee ta l ,1 996;
sc hoe n f e l d,1 985) か らの考察、お よび これま での分析か ら得 られてきた知見を利用 した考 察を行ってい く。
2. データの収集および解決の概要 2. 1 データの収集
本稿で分析 され る第 8 回の解決では次のよ うな問題が扱われた。
問題 :次数 n の多項式 p( I ) が条件 k = 0, I ,2/・ ・ ,n に対 しP( x) =
を満たすとき 、p( n '1 ) を求めよ。( クラムキン, 1 9 9 0, p. 8 )
解決者にはこれを発話思考 法で解いてもらい、
また解決後にはどのよ うに して考えたかのイ ンタビューを行った。それ らをATR とVTR
で記録 し、その記録 をもとにプ ロ トコルを作 成 した ( Nunoka wa,1 99 4 Cも参照) 。
2 . 2 解決の概要
第 8 回のセ ッシ ョンでの解決は、おおよそ 以下のような流れであった。
( i )次数 1 の ときに P( x ) ヨal X+a Oとおき、条件 より係数を求め、さらに P( n+1 ) の値を 1 と 求める。 「 漸化式が とれるんか 」 「 帰納的に 決まるか」 と言いなが ら次数 Zの ときを同じ ように始めるが途 中で中断す る。次に条件式 か ら p( k ‑1 ) =1 +( 1 / k ) とし、 さらに k を P( k ll ) を用いて表そ うとす るが、 「 P ( k ) は求まっ てんだか ら意味ねえ 」 として止める。 次数
2 の ときの計算を再開 し、 P( x ) ‑( ‑ 1 / 6 ) x 2
+ ( 2 / 3 ) x と求め、さらに P( 3) ‑ 1 / 2 を求める。
( i i ) 「 パタンない とわかんないん じゃないの」
と発話 し、また ao が必ず 0になることを確 認 した後、 「 一般的に書いてみ よ うか」 とし て、 P( k ) =k / ( k +1 ) の条件式 を k ‑0,1 , 2 および k ‑nの場合に具体的に書き下 した。そ して、
p( x ) =an x n +an ̲ l X n l l + ・ . I + al l +a Oとおき、先の k =0, I ,2 ,n のときの条件式 よ り係数について の等式を作る。次にこれ らの等式を中括弧で 括って P( k ) =k / ( k +1 ) =かan +k n ‑ l an ‑ 1 + ・ ‑+h al
+do と書 く。 さらに先の等式を行列の形に書 き直す ( 図 1) 。 しか し 「こんなん求まるわきや ねえ」 として、特に変形は しない。
( i i i ) 「 皆 目見当もつかねえ」 と発話 した後、
「 や っぱ り帰納的にや ってみ るよ り他ないの かなあ 」 として、次数 1 と 2 の ときの結果を
‑
21‑̲ I :
̲ ‑̲: ̲ ∴ 二
‑「 ノ
1 さ 丁 ・
I孟′
ノL一一
図 1
書き直す。次に次数 3 の ときの条件の式 を、
図 1 と同 じ様 に 3×3 行列を用いて表す。多 少蹄措 した後に 「 規則的だか らなあ、まや っ てみ ようか」 として、行列の形で連立方程式 を解 き始める。 しか し途 中で 「 めん どくさそ うだ、や めた」 として中断 し、 「 こ うバラす んかなあ」 と発話 して P( n+1 ) = が ( n+1 ) a +と 書 くがす ぐに線 を引いて消す。その後、再び 先の行列の計算に戻る。そ して図 2 のよ うな 形に して 「これ出来たけど 」 としなが らも、
「 違 うよ うな気がす る」 と言い、結局 「こ う い うや り方 じゃダ メ」 と結論す る1 。
2 ・ Y o o / , o テ 0 レナ
dI‑ r卜
d O
V
/ / 図 2 ( i v) 「 なんかあんだ ろ うな規則が」 と発話 し
1 の ときを反省す るとして、次数 1 の ときの 条件 を行列で書き直す ( α Oは書かないので、
1× 1 行列で書 く) 。次数 2 と 3 の ときの結 果 も行列を使 って書き表す。
( V) 「 係数を求めるよ うな ことは止めよ う 」 として しば らく考 えた後、 p( x) の一般式 を 書き、次にそれに x=n+1 を代入 した p( n+1 ) = an( a+1 ) a+an‑i ( n+l ) all + ・ ・ ・ +a2( n+1 ) 2+al ( n+1 ) +α Oを書 く。 この各項を展開 して、以下のよ
うな式を書 く( 以下式 ( * )とす る);
an( nr z +nCl nn‑1 +nC2nn‑ 2 +‑+n C n‑l n+i ) +an‑i ( nnll +a‑1 Cl nn‑2 + ・ ・ ・ +a‑1 Cn‑ 2n+I ) +
n2 +2Cl n+I ) n+I )
‑22‑
この対角線部分にある各段の最高次の部分を なぞ り 「 ここはまず出来 る 」 「 n には帰着で きる」 とす る。それ以外の部分 を 「こんだけ 余 ってんだ」 として囲んだ後、各段最後の 1
を縦 に囲んで 「ここも an 足す 1 を持 ってき た」か らいい としている。 「 組み合わせてや
らな くちやだめ」 として組み合わせの部分の
, l C l , nC2 な どを n の式 として書き換 えて変形 しようとす る。
( vi ) 「 わか りそ うでわかんね え」 として中断 した後、 「 具体的にや ってみ るよ りはかない のかな」 として、次数 1 とZの ときの( * )に あたるものを書 く。次数 2 の ときには図 3 の よ うにそれぞれの部分 を囲み、右の縦の囲み と中央の三角の囲みをするときには 「 余 っちゃ う」 と発話する。その後 P l 、 P2 と何度か
1
p ( 1 11 ) , al ( l十l) I A、( l tt i)
8
)
ノ 図 3
繰 り返 し言っている。次数 3 の とき も同様の 式 を書き、各段の最高次の項 を斜 めに囲み、
最後の 1 を縦に囲んで 「 これ とここか、ここ はいいよね え⊥ とす る。 「 見方 を変 えない と ダ メなのかなあ」 と発話 しなが らも、次数 4 の場合の同様の式 を書いてい く。やは り各段 の最高次を斜めに囲み、また最後の 1 を縦に 囲んで 「ここは出る」 とす る。 さらにそれ以 外の部分 を三角に囲んで 「 残 りが出ないんだ よなあ」と発話する。 しば らく考えているが、
「 ダ メかなや っぱ りこれでも、 えーどうして、
システマティ ックにな っているよ うな気がす るんだけどなってね え 」 と発話す る。
( v ii ) 条件の式 p( k) =k/ ( k+1) を書いた後 、 「 こ れ 1違 うってい うとこ使 ってない」 とする。
さらに 「これで割 った として もダ メだな 」 と 言い、 「 この条件は使えないのかな 」 とする。
以前に書いた次数 4 の ときの ( * )に当たる式
に戻 り、 「 真ん 中の三角はわかんない 」 とす る。次に具体的 に係数 を求 めない とダ メとし ながら、一方で一つ一つが求ま らないとする。
「 どうしてこの条件が使えないんだ ろ 」 とし、
また P( k) =k / ( k+1) に下線 をつけて 「ここに現 れるんだか ら」 とも発話す る。
( vh i ) しば らく考 えた後 、n= 1の ときは al =? ∴ n=2 のときは a2 =? , a2+al = ? 、n=3 の ときは a3 =? , a3+a2 =? , a3+a2+ al = ?と考 えてい く。
n=4 のときもや りか けるが 、a4=? , a4+a3=?
とした暗点で 「 係数違 っちゃ う 」 「 それが分 かったとした ってダ メか」 として止める。続 けて α4 +α3+α 2 =?,α4+ α3+α2 +α1 = ?とす るが、
「 や っぱダ メだな うま くいかね えな」 として それ以上は計算等は しない。
( i x ) 「 少しち ょっとじゃチェックしてみっか 」 として問題文を読み直 した後、次数 4 の とき に関 して、 P ( 1 ) ,P( 2) ,P( 3) ,P( 4) を具体的に 式で書いてい く( 図 4)が、 P( 4) については
上 江 」 . I
も㍗り ‑
恥,ヾ 日 , ・ , ' .・ ‑ " ・ . ,̀ ,q・ ・
,‑ T
i F(L' ‑ ‑
q、・l Y 十 d ,・1'一 ・ 一 ・ 0
.・11 ,q 2 ‑T
F ( i ,こ O T' 十十Q ・ ・3 ' , I‑, qL!
L‑ 0 . ・ S ミ‡
頼 キ' ‑ 0 十・
㌔‑
all 4
'. 一・ a l 心 血 L ・ q毛も
図 4
「 あそこで使 える」 とす る。 さらに P( 1 ) と P( 4) の前に印をつけて 「これ とこれ とは分か っ た」 とす る。 「 そ こが うま く出てきそ うもね え」 と発話 した時点で、実験者の方か ら介入 して解決を終了させた。所要時間は約 9 5 分で あった。なお事後 のイ ンタ ビューの中で被験 者は、第 8 回の問題がそれ までの 8 回の中で 最 も難 しか った と感想 を述べ ている。
2. 3 解決過程 における問題場面の構造の変化 解決において見 られ る問題場面の構造の変 化は次のよ うにな る。 この第 8 回のセ ッシ ョ ンの問題における問題場面 は、与え られた条 件を満たす多項式 p( x) である と考え られる。
( a) ( i ) では字義通 りの構造、すなわち与えら
れた条件 を満たす次数 n の多項式 として、最 初の構造が作 られている。ただ し、解決中の
「 帰納的 に決まるか 」 とい う発話や、事後イ ンタビューでの 「 a lのパ ターン a2 のパター ンa3のパターンが、あ、ある例 えば n の式、
で書ければ」 とい う発話か らわかるように、
次数 n の多項式は次数 1 , 2 ,・ ・ ・の多項式の族 の中に位置づけ られ、その族 における係数は 次数 に関わ った何 らかのパタンによ り変化 し ている、 と考え られている。 さ らにこの多項 式の族 について、次数 1 の ときが p( x) =
( 1 / 2) x 、次数 2 . の ときが P( x) =( ‑ 1 / 6) x2+( 2/ 3) x である、 とい う情報が付加 されている。
( b) ( i i )では α Oが常に 0になる とい う情報が 付加 されている。 また 「 一般的 に書いてみ よ
うか」 とい う発話以降は、次数 を固定 した上 で k =0 , i ,2 , n の ときの条件式か ら連立方程式 のよ うな ものを作 った り、その行列表現を し た りしてお り、( i )の ときのよ うな多項式の 族の一つ としての P( x) の意味づけは弱め ら れている と考え られ る。
( C) ( i i i )では 「 帰納的に」や る として、次数 が 1 とZの場合の結果 を書いた後、次数 3 の
ときの係数 を行列か ら求めよ うとしてお り、
多項式の族 としての意味づけが表 に出てきて いる。
( d) ( i v) の最後 には 3×3 行列の中の 2×2 の部分 を四角で囲むな どして異なる次数の場 合の関係 を考えてお り 、 ( C) と同様の構造が 与えられていた と考 え られる。
( e)( V) では再び次数 を固定 して一般の P( I) を考 え、そ こに x=n+l を代入 した式を考え ている。 したがって ( b) の とき と同様 に多項 式の族 としての意味づけは弱め られていると 考え られ る。また この P( x) のx =n+ 1のとき の億が、 P( n) +P (1 ) と残 りの部分の和 として 書けること、また この残 りの部分の各項の係 数が aiXjCk といった形 を していることにつ いての情報が付加 されている。
( f )( vi ) では次数が 1 , 2, 3, 4の ときの ( 〜 )に当
‑23‑
たる式を書いているが、事後のインタビュー では例えば次数 4 の場合に関連 して 「 三角ん とき 【 p( n) +p(1) 以外の残 りの部分】も他の例 えば p( 3) , P( 2) 、のときで表せるのかなと思っ た 」 と説明 している。 これ よ り ( v i )の時点で は多項式の族を考え、係数の変化のパタンな どをさがす とい うよりも、次数 4の ときの内 部の構造を調べていた、つま り多項式の族 と しての意味づけは弱 く、む しろ ( e) での構造 と類似のものが与えられ、それを具体的な次 数に して調べていた と考え られる。また先の インタビューでの発言 より、 P( n+ 1 ) = cnP( n) +cn‑1 P( n‑1 ) +‑+C2P( 2) + ビI P (1 )( 以下式 ( ** ) とす る)といった構造を解決者が期待 してい たことがわかる。一方で 「システマティック になっているような気がす るんだけどなって ねえ 」 とい う発話か ら分かるよ うに、先のよ うな構造を実際には兄いだせてお らず、問題 場面の構造 としてはそ うした情報は付加 され ていない と考えられる。
( g) 条件の P( k) =k/ ( k+1 ) について、分子 と分 母が 1 違 うとい う意味づけが ここで表明され ている。次数 4 のときの ( * )を先 と同じよう に調べていることか ら 、( f )と同様の構造が 与えられていた と考えられ る。条件の式に下 線 をつけて 「ここに現れるんだか ら」 と発話 していることより、( ** )のよ うな構造を期待 していると考えられる。
( h) 事後インタビューの中で係数の和あるい は差 を P ( 1 ) ,‑, P( n) で表す とい う試みに言及
していることより 、( vi i i )での活動は ( vi i )を 受けて、係数の和をこのように表す ことを目 指 した もの と考 えられる。 したがって、係数 に関 して何 らかの帰納的なパ タンを求めると い うよりも、各次数での係数の和に関す る情 報を求めた と考えられ、その点では多項式の 族 とい う意味づけは弱い と考え られる。ただ し具体的には係数についての新たな情報は得 られてお らず、 したが って ( b) と同様 の構造 が与えられていた と考えられる。
‑ 2