修士論文要旨(2011 年度)
屋上貯留の流出抑制効果と熱環境緩和効果
A STUDY ON RUNOFF SUPPRESSANT AND HEAT ENVIRONMENT MITIGATION EFFECTS BY RAINFALL HERVESTING SYSTEM INSTALLED AT THE TOP OF BUILDINGS
土木工学専攻 5 号 礒貝 二郎 ISOGAI Jiro 1.はじめに
近年,都市域の水災害は局所的な集中豪雨に伴う内水 氾濫による被害が非常に多くを占めている
1.既往の研 究
2では雨水排水対策として管渠布設替え,ポンプ場の 新設および地下貯留施設の新設を提案し,氾濫シミュレ ーションを行い,費用対効果を算出した.その結果,対 象流域においては地下貯留施設の新設が効果的であるこ とを示した.しかし,都市域において地下貯留施設の新 設は空間的・費用的に困難である.そこで本研究では既 存の建物の屋上に雨水を一時的に貯留する屋上貯留を提 案する.また,屋上貯留には雨水を貯留することによる 流出抑制効果の他に,晴天時に貯めこんだ雨水が蒸発す る際の気化熱による熱環境緩和効果も期待できる.屋上 貯留のこれらの効果を検証するために実証実験・熱収支 解析並びに氾濫シミュレーションを行う.
2.実証実験 2-1.実験概要
観測場所は東京都港区にある 9 階 建ての建物の屋上で,2010 年 7 月 下旬から熱観測と水収支観測を行 っている.本稿では 2011 年 8 月 24 日から 9 月 27 日を対象期間とする.
熱観測では軽石状のセラミックス と芝生を 5.0m×10m に敷設し, セラ ミックスと芝生と敷設なしで比較 を行った.水収支観測は軽石状のセ ラミックス,平板状のセラミックス,
円柱状のセラミックス,ブロック状 のセラミックス,芝生を 40cm 四方 に敷設し,深さ 60mm の 40cm 四方 の水タンクと比較を行った.表面温 度と各種気温についてはT型熱電対
を用いて, 表面温度と鉛直上空 1cm, 5cm, 10cm, 30cm,
50cm の気温を測定した.水収支は質量計を用いて重量 を測定することにより,貯留量及び蒸発量を算出した.
また芝生は毎日午前 6 時に 5mm 程度自動灌水を行って いる.
2-2.実験結果 2-2-1.表面温度
図-1 に対象期間中の降雨量,日射量,セラミックスと 芝生と敷設なしの表面温度を示す.芝生は敷設なしの場 合と比較して常に表面温度が低くなっている.これは芝 生には自動灌水が行われているため常に水を含んでいる 状態にあるためである.それに対しセラミックスは,降 雨後 5 日程度は敷設なしの場合と比較して表面温度が低 くなっており,温度低減効果を示している.しかし,降 雨後 5 日以上経過すると敷設なしの場合と比較して同程
図-1 対象期間中の降雨量・日射量・表面温度の時系列
修士論文要旨(2011 年度)
度の表面温度またはそれ以上に高い表 面温度になっている.これは,降雨後 5 日程度はセラミックスに貯めこまれ た雨水が蒸発する際の気化熱による影 響があるためと思われる.降雨直後に 着目してみると,セラミックスと芝生 共に敷設なしの場合と比較して,表面 温度が約 15℃低くなっており,熱環境 緩和効果があることがわかる.
また, 図-2 に水収支観測の容器に設 置した各種素材の表面温度を示す.芝 生と水タンクの表面温度が各種セラミ ックスの表面温度と比較して低いこと がわかる.また,降雨中と降雨直後に 関しては各種セラミックスと芝生と水 タンクの表面温度に差はないが,降雨 から時間が経過するにつれて各種セラ ミックスと芝生,水タンクの表面温度 の差が大きくなっていくことがわかる.
このことから貯めこんでいる水が表面 温度に影響を及ぼしていることが考え られる.芝生は自動灌水により常時水 を含んでおり,水タンクに関しても常 に表面上に水がさらされているので,
雨水が蒸発していき表面が次第に乾燥 する各種セラミックスと比較して,表 面温度が低くなっていると思われる.
2-2-2.降雨に対する貯留量 図-3 に対象期間中の各種セラミック スと芝生とタンクの雨水の貯留量を示 す.降雨に対して貯留量が上昇している ことから各種セラミックス,芝生,タン
ク全てが降雨に対して雨水を貯留していることがわかる.
9 月 8 日にあった総降雨量 99.8mm の降雨に対する各種 素材の貯留量は,軽石状のセラミックスは約 18mm,平 板状のセラミックスは約 10mm,円柱状のセラミックス は約 12mm,ブロック状のセラミックスは約 10mm,芝 生は約 6mm,水タンクは約 30mm であった.芝生は自 動灌水を行っている影響で常時水分を含んでおり,その ため各種セラミックスと比較して雨量に対する貯留量は
少ない結果となっている.また,9 月上旬に貯め込んだ 雨水や 9 月 17 日の降雨の際に貯め込んだ雨水が,完全 に蒸発していないため,各種素材においても乾燥した状 態に比べ貯留量が少なくなっている.
2-2-3.蒸発量
図-4 に 9 月 7 日の降雨後からの各種セラミックス,芝 生,水タンクの 1 日当たりの蒸発量を示す.各種セラミ ックスにおいては 1 日当たり 1mm から 5mm 程度の雨 図-2 対象期間中の降雨量・日射量・水収支容器の表面温度の時系列
図-3 対象期間中の降雨量・日射量・貯留高の時系列
修士論文要旨(2011 年度)
水を蒸発させており,芝生においては 7mm から 8mm 程度の雨水を蒸発させており,水タンクにお いては 3mm から 5mm 程度の雨水を蒸発させてい る. 図-4 から蒸発速度に着目してみると芝生が最も 速く,次に水タンクが速くなっている.各種セラミ ックスが降雨から日にちが経過するにつれ蒸発量が 減少していくのに対し,芝生と水タンクは降雨から 日にちが経過しても蒸発量は一定している.これは 芝生が自動灌水により常時水を含んでおり,水タン クに関しても常に表面上に水がさらされているため,
雨水が各種セラミックスと比較して蒸発し易いため と考えられる.各種セラミックスで比較すると軽石 状セラミックスが最も蒸発速度が速く,ブロック状 セラミックスが最も蒸発速度が遅くなっている.
3.熱収支解析 3-1.解析手法
ヒートアイランド抑制効果を検証するため,熱収 支解析を行った.素材表面における熱収支式は(1)と なる.
表面熱収支: Rn = H + lE + G ・・・(1)
伝導熱フラックスは熱流計の測定値と蓄熱量により(2)
~(3)式を用いて算出する.
蓄熱量: ∆ S = Cb ⋅ ρ ⋅ V × ( Tb
t+1− Tb
t) ・・・ (2) 伝導熱フラックス: G = G
g+ ∆ S ・・・(3)
潜熱フラックスは水の潜熱と蒸発量から(4)式を用いて 算出する. 敷設なしの場合は潜熱フラックスを 0 とする.
蒸発量は重量変化より算出する.
潜熱フラックス: lE = l × E ・・・(4)
放射収支計を用いて正味放射量を測定しているため,顕 熱フラックスは熱収支式の残差により算出することがで きる.
3-2.解析結果
対象期間中におけるセラミックスと芝生と敷設なしの 顕熱フラックスを 図-5 に示す.セラミックスと芝生共に 敷設なしと比較して顕熱が小さくなっていることがわか る.このことから,セラミックスと芝生は大気を直接加 熱する熱量である顕熱が小さいのでヒートアイランド緩 和効果が大きいことがわかる.これはセラミックスと芝 生が水を溜め込んでいるためと思われる.
4.流出・氾濫シミュレーション 4-1.計算条件
対象流域は江戸川区に隣接する千葉県浦安市の当代 島第 2 排水区とする.この流域は流域面積 10.27ha,人 口 867 人の都市流域であり,地盤沈下の影響で,正常な 排水処理をできない現状にある.計算に想定した降雨は 東京都の降雨強度 60mm/hr 対応の降雨強度式を用いた.
さらに降雨外力を 1.1 倍,1.2 倍,1.3 倍,1.4 倍,1.5 倍と増加した場合においても氾濫シミュレーションを行 った.
4-2.各種整備対策案の比較検討
対象流域において管渠布設替え,ポンプ場の新設およ び地下貯留施設の新設整備とそれらの組み合わせの整備,
屋上貯留の氾濫シミュレーションを行い,比較検討を行 った.屋上貯留は対象流域にある屋上に対して 100%,
75%,50%, 25%, 10%に敷設し,敷設の厚さは 30mm
~180mm,実質 10mm~60mm の降雨を貯留できると いう条件で,それぞれ各種対策前後の氾濫浸水面積を算 出した.
4-3.費用対効果(B/C から見た屋上貯留の効果) 図-4 降雨後からの各種素材の 1 日当たりの蒸発量
図-5 降雨後の顕熱 FLUX の時系列
修士論文要旨(2011 年度)
どの対策が最も有効であるかを評価するため,各種整 備対策の費用対効果を算出した. B/C の算出方法は以下 の通りである.
各整備対策に対して基準降雨を i=1,1 割増加降雨を i=2, 2 割増加降雨を i=3, 3 割増加降雨を i=4, 4 割増加 降雨を i=5,5 割増加降雨を i=6 とする.強度別に被害 軽減額 D
iを(整備前の被害額-整備後の被害額)で算出 する.被害額は単位面積当たりの資産価値×浸水深ラン ク別被害率×湛水面積により算出する.なお,単位面積 当たりの資産価値及び浸水深ランク別被害率は国土交通 省河川局出典の「治水経済調査マニュアル」
3を参考に した.各降雨強度の年平均超過確率を N
iとすると降雨強 度 i 以 上 (i+1) 未 満 の 年 平 均 被 害 軽 減 額 は
( D
i+ D
i+1) 2 × (
i−
i+1) で計算できる.これを累計し年平 均被害軽減期待額を算定する.これに評価対象年数(ここ では整備施設の耐用年数として 50 年を設定した)をかけ て評価期間における被害軽減期待額 B を算出する.すな わち, ∑ { ( ) ( ) }
=
+
+
× −
+
×
=
5
1
1
1
2
50
i
i i i
i
D
D
B である.総費用
C は整備費用と評価期間中の維持管理費用の合計値で算 出する.整備費用は表-1 に示す. 1 年当たりの維持管理 費用は整備費用の 0.5%で設定した. これにより算出され た各種整備対策の費用対効果を 図-6 に示す.この結果よ り,効果的に排水対策をするためには雨水の貯留が有効 であり,屋上貯留に関していえば敷設方法によっては地 下貯留ほどの効果を上げることを明らかにした.雨水貯 留は排水対策として非常に効果的である上,地下貯留施 設の新設は用地代を含んでおらず,セラミックスは非常 に安価であるため,費用対効果が大きくなっている.
5.まとめ
本研究では,屋上貯留を提案し,実証実験及び流出氾 濫解析により効果を検証した.以下に得られた知見を述 べる.
1)実証実験より屋上貯留に用いたセラミックスと芝生共 に雨水流出抑制,熱環境緩和両方に効果があることを示 した.
2)各種セラミックスにおいては 1 日当たり 1mm から 5mm 程度の雨水を蒸発させており,芝生においては
7mm から 8mm 程度の雨水を蒸発させており,水タン クにおいては 3mm から 5mm 程度の雨水を蒸発させて いることを示した.
3)熱収支解析より,セラミックスと芝生共に敷設なしの 場合と比較し,顕熱が小さくなっているため熱環境緩和 効果があることを示した.
4)屋上貯留を行った際の氾濫シミュレーションにより費 用対効果を算出し,他の整備項目と比較することによっ て,屋上貯留が非常に効果的であることを示した.
謝辞:本実験は,
「雨水流出抑制・ヒートアイランド緩和に 係る研究の有識者委員会」の活動として実施し, (財)河川 環境管理財団の補助金を受けて行った.また,森ビル㈱よ り試験場所を提供いただいた.ここに記して感謝の意を表 す.現在,この研究結果を基に東京都と墨田区が実用化に 向けて動いています.
参考文献
1)国土交通省ホームページ: 水害対策を考える
2)荒川貴志, 石塚丈晴, 此島健男子, 呉修一, 山田正: 都 市流域における効果的な雨水排水計画の提案,土木学会 第64回年次講演会講演概要集, CS11-017, pp.423-424, 2009
3)国土交通省河川局:治水経済調査マニュアル,2005 表-1 各種対策の整備費用
5[千円/㎡]×敷設面積[㎡]
屋上貯留 (雨水30mm貯留)
3.3[億円]
地下貯留施設の新設
12[億円]
ポンプ場の新設
3.12[千万円]
管渠布設替え
整備費用 整備費用 整備費用 整備費用 整備メニュー
整備メニュー整備メニュー 整備メニュー
5[千円/㎡]×敷設面積[㎡]
屋上貯留 (雨水30mm貯留)
3.3[億円]
地下貯留施設の新設
12[億円]
ポンプ場の新設
3.12[千万円]
管渠布設替え
整備費用 整備費用 整備費用 整備費用 整備メニュー
整備メニュー整備メニュー 整備メニュー
0 2 4 6 8 10
費用対効果
B /C (
評価対象期間5 0
年)
ポンプ 管渠
+ ポンプ
管渠 地下
貯留
+ ポンプ
地下 貯留
+ 管渠
+ ポンプ
地下 貯留
+ 管渠 地下
貯留 100%75%50%25%10%
屋上貯留
整備項目
:60mm :30mm
:50mm
:40mm
:20mm
:10mm