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工場の立地可能地域の設定による工業団地の立地決定

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現代企業制度研究会

工場の立地可能地域の設定による工業団地の立地決定

石 川 利 治

本稿は工業団地の立地決定を考察する,第に立地因子の分類から工場および工業団地 の立地分析の特性を検討する。次いで生産費最小化原理から工場の立地可能地域という概 念を提案し,複数の個別工場の立地可能地域から工業団地の立地決定を分析する方法を示 す。そして,工業団地の最大の特徴のつである集積経済を検討し上記の工業団地の立地 決定との係わりを考察する。最後に工業団地を,その目的にそって分類し,国および地域 経済の発展と活性化へ向けて工業団地の果たす期待を示す。このような考察により工業団 地の立地はその生産構成とともに経済発展に大きな影響をもつことを明らかにする。

.は じ め に

工業団地の開設は先進工業国において20世紀半ばごろから活発になり,その後,多くの発 展途上国においても建設されてきている。時代とともに工業団地の活動内容および目的も変 化し,その呼称も様々に変化してきている。単純な生産活動を指向する Industrial Park か ら高度な科学技術の応用から製品化を図る団地,あるいは各種の統括管理機能の業務を主体 とするもの,さらには技術科学を基盤にして新製品を生み出し,さらに各種の高度な業務処 理を担当する Technology Park と呼ばれるものまである1)

工業団地は種々の目的をもって開設されるが,これまでにおいても多様な目的が与えられ てきている。開設地周辺地域における雇用を確保する目的,都市の大規模化により生じる 種々の過密,過大問題を軽減するために大都市近郊における新都市開発の基盤形成,あるい は縁辺地域における新たな都市づくりのための生産基盤形成の目的がある。さらに国や地域 の経済発展を輸出指向で図りその生産基地の役割を目指すもの,そして先進工業国から自国

1) 本稿ではこれらを一括し工業団地と呼び,明確に区別する場合にはそれぞれの名称を用いる。工 業団地の役割の分類として Pose-Hardy(2014)の考察が有用である。

(2)

への技術移転を目指し生産構成の高度化を図るものなどがある。このように種々様々な目的 のために工業団地が開設されてきている。

上記のような明確な目的をそれぞれ有する工業団地の生産活動構成とその開設地点の考察 は大変興味深いものであり,また他方,かなり複雑で厄介な性格を有すると言える。最も単 純な生産活動を行う場合を想定してみよう。工業団地は複数の生産工場で構成される。これ ら個別工場が,工業団地に立地し参加する理由は,各工場の立地決定において工業団地が適 切あるいは許容できる地理的範囲内に存在し,工業団地がいくつかの種類の外部経済を提供 するからである。他方,工場団地の開発者は,複数の工場を率いて,それらを特定の地点に 誘導し工業団地の開発者の利潤最大化を指向する,あるいは当該地域の経済に最大限寄与す ることを目的とする。工業団地は,複数の個別工場の生産内容と立地そして工業団地の立地 とその目的が相互依存関係にあるため考察が複雑になる。このような性格を有する工業団地 の生産構成と立地に関する分析は大いに意義のあるものであり,複雑なものと推測される。

それゆえ工業団地の考察はいくつかの段階を経ながら着実になされるべきものと考えられ る。そこで本稿は,第に個別工場の立地分析において基本的な分析概念である立地因子の 視座から個別工場の立地を検討し,生産費面から立地可能地域という概念を提案する。第 に複数の工場の立地可能地域の重複から工業団地の立地問題を考察する。このようにして本 稿では単純な想定の立地下で基礎的な分析から工業団地の考察を開始することにしたい。

本稿の構成は以下のようである。次の章においては,立地因子の分類から工場および工 業団地の立地分析の特性を分析する。次いで,生産費最小化原理から工場の立地可能地域と いう概念を提案し,複数の個別工場の立地可能地域から工業団地の立地決定を分析する。そ して工業団地の最大の特徴のつである集積経済に関して検討し,上記の工業団地の立地決 定との係わりを検討する。章において工業団地を,その目的にそって分類する。これによ り,今後の工業団地の生産構成と立地分析を行う糸口とする。章は本稿での考察結果を整 理し要約する。

.工業団地の立地理論分析

工業団地の生産活動とその立地点は,工業団地の提供する生産基盤の内容と予定される生 産組織の在り方,そして当該団地へ参加するであろう複数工場の生産内容と立地指向性に依 存する。したがって本章においては工業団地の開設地,工業団地の立地点を考察する目的の ために,初めに工場立地に影響を与える要因,すなわち立地因子を取り上げて分類し,各種 の立地因子と工場立地そして工業団地立地の関連を理論的に順次考察してゆく。

(3)

2-1 立地因子の分類とその働き

伝統的立地因子の分類とその働き

工業団地の立地を分析するために,A. Weber(1909)の工場立地分析に依拠しながら,

伝統的な立地因子がいかに工場立地に影響するかを最初に考察する2)。第に工場立地に作 用する基本的要因を分類しよう。A. Weber は工場立地に影響する要因を立地因子とする。

そして立地因子をもっぱら費用の側からのみ分析する。そして,かれは最初に立地因子を つの視座から分類する。つは立地因子が作用する対象からの分類である。ほとんどすべて の工場の立地に影響する立地因子を一般立地因子とする。次いで,特定の業種の工場にのみ それぞれ作用する要因を特殊立地因子とする。前者の一般立地因子として輸送費,労働費,

そして集積経済の因子がある。これらのつの費用については次のように考えられよう。

輸送費は工場の生産活動に不可欠な原材料,最終製品,燃料の輸送,そして労働者の通勤に 関わるものである。この費用は輸送機関が未発達な経済発展の初期においては,財の移動は 厄介であり,工場には大きな費用の負担となり,最も重要な立地因子であると考えられる。

したがって,この時代においては輸送費が最小化される地点が工場立地となる可能性が高 い。次いで輸送機関が発展した経済発展の段階においては,優れた原材料を遠方から大量か つ安価に入手でき,製品も広い地理的範囲において大規模で有利な市場で販売が可能とな る。この発展段階では,工場の生産活動において製品の生産加工や組立に関わる費用,とり わけ労働費が生産費用において大きな比率を占め,その節約が重要となる。この労働費を最 小化する地点が工場の立地点となる可能性が高くなる。それゆえ,この発展段階においては 輸送費最小化地点と労働費最小化地点における優位性が比較されることになる。そして工場 を運営する企業の意思決定能力が問題となるが,通常,労働費最小化地点がより有利なら ば,工場は労働費最小化地点へ偏倚する。通常は,輸送機関における技術革新が運賃率を低 下させ,工場を輸送費最小地から解放し,工場の労働費最小化地点への偏倚が進むと見られ る。最後に,経済発展がさらに進展し,いわゆる大量生産の時代に移行するにつれて,原材 料および製品の大量移動が不可欠になり,大型港湾施設および長距離鉄道が必要になる。そ して生産工程が大いに機械化され生産組織も大規模になる。この時代では工場における生産 加工,組立の費用も大きな比重を持つことになる。すなわち工場における輸送費,労働費そ して生産費用の総体が巨額になる。この時代においては,大きなインフラストラクチャーが 生み出す外部経済の享受,そして生産工程の分業が進むことにより生じる外部経済の利用が 極めて重要になる。したがって,工場立地はこのような種類の外部経済が享受できる場所

2) 経済活動が世界規模で広域化する前の時代での立地因子の分類として Weber(1909),Hoover

(1937)そして Isard(1956)の考察が基本になっている。

(4)

に大いに引き付けられることになる。以上のように輸送費,労働費,集積経済は一般立地因 子の分類にすべて入るが,経済発展の段階に対応してその相対的重要性は変化していると考 えられる。

他方,上記の一般立地因子に対して特殊立地因子には多数の費用要因が想定される。初め に多くの自然環境の相違があげられる。例えば,湿度は典型的な特殊立地因子である。機械 組立工業にとっては湿度の高低は工場の立地に作用することはないであろう。一方,天然繊 維産業である羊毛繊維産業の工場立地においては,湿度は低いことが望まれ,高温多湿の地 域での立地は回避される。この場合,湿度は機械組立工業にとっては立地因子ではないが,

天然繊維工業においては立地に影響する。したがって湿度は特殊立地因子に分類される。

最後に工場立地に影響を与えない要因は立地因子とはならない。例えば,利子率は工場に おける機械類の投資費用に影響し,生産費用に含まれる重要な考慮すべき重要な要因であ る。しかし,かつて工場立地の問題が国内に限定され,利子率は国内において一定である 時代があった。この時代において利子率は工場立地に作用しない。そのため利子率は立地因 子に分類されていなかった。もちろん現代のように経済活動が広域化し国際的に生産組織が 編成される時代において,利子率は,国の選択に影響し国際的に生産活動を展開する企業に は重要な立地因子となる。

次に,A. Weber による第の分類の視座は,立地因子が作用する仕方に基づく分類であ る。この分類の中には局地立地因子と集積因子がある。前者の局地立地因子として次のよう な要因がある。すなわち都市行政府が工場へ与える補助金や固定資産税の減免である。これ らは工場立地をそれらの減免を与える都市,すなわち特定の地点へ牽引するように作用す る。このような様式で作用する要因は局地立地因子の分類に入る。この他に,特定の地点の みがもつ有利性を生み出す要因,例えば,いくつかの輸送機関が結節する地点などは局地立 地因子である。後者の集積因子は工場を特定の地点に牽引するのではなく,場所を問わず工 場を集積させるという仕方で作用する因子である。文字どおり集積経済はこの働きをするも のである。通常,経済発展が進んでいる段階においては多くの工場が集積する工場地域があ る。このような場合には,集積経済は新規の工場をその地域に牽引するため,集積因子の本 質的作用を隠すことになる。しかし集積因子の本来の作用の仕方は場所を問わずに生産を纏 めるという点にある。

伝統的立地因子の働きと工場誘致策

上記のような立地因子の働きの考察から,都市行政者による次のような工場誘致政策が立 案されるかもしれない。ある都市行政者が局地立地因子である固定資産税の減免を公表す る。その情報を受けて複数の工場経営者はその都市に固定資産税の減免を享受するために工 場を立地させる。その都市には結果として,工場集積が形成され,集積経済が意図すること

(5)

なく生み出されることになる。その都市は集積経済という一般立地因子を獲得するため,ど のような業種の工場も立地点を探査する場合にはその都市を無視することはできないことに なる。この都市は固定資産税の減免という局地立地因子を働かせ,集積因子の作用を生み出 し,一般立地因子を獲得して多くの工場を誘致するという計画を立案することになる。

伝統的立地因子の働きと工場団地の立地

上記のような都市行政者の工場誘致の政策は集積経済を偶然に生み出す様式を利用するも のである。集積経済の働きを意図的に想定して工場誘致を計画的に進める手法が工業団地の 開設である。工業団地は工場の生産活動に必要な生産基盤を工場団地の開発者が整備し,そ の生産基盤が生み出す外部経済を工業団地に参加する各工場に享受させ,工場の生産費用を 低下させるという有利性に基づいて工場を誘致するものである。さらに工業団地に立地する 工場間において連携が生じ,生産工程において分業や細分化などの生産費用を低下させる要 因が作用すれば,工業団地の有利性はさらに強化されて工場の牽引力が高まり,当該地区が 産業集積へと伸展する可能性もありうる。

工業団地の立地的作用は上記の立地因子の分類に基づいて次のように再整理される。集積 因子は工場を集積させる力を有するが,集積する場所を本来的には限定しない。工業団地は 集積経済を意図的に生み出し集積因子の働きをする。その集積経済は一般立地因子であり普 遍的に工場立地に作用する。さらに工業団地は開発者の意図する場所に開設できる。工場団 地の開発者は集積経済を生み出す場所を意図的に決定でき,局地立地因子の働きを利用でき ることになる。したがって,多くの国々において工業団地の建設は国や地域での経済開発政 策において大いに利用されてきている3)

企業の収入面からの立地分析

A. Weber は工場の立地を意図的に費用面からのみに絞って分析,考察している。したが って,その考察の中には原材料や製品の価格の立地への作用,そして価格に連動する収入面 が工場立地へ作用する影響に関する分析はなされていない。しかしミクロ経済学的視座から 工場立地を考察すれば,収入面は工場立地に影響し,その立地分析は大いに必要で有意義と なる。例えば,工場の用いる原材料の価格と運賃率は比較的短い期間内においても一定では なく変動すると予想される。原材料の価格と運賃率が変化すれば,用いる原材料の量は変化 する。これにともない必然的に輸送費最小地の位置も変化することになる。また工場の作り 出す生産物への需要が増せば,あるいは生産物の価格が市場で上昇すれば,工場はその製品 の生産量を増すことになる。これによっても市場地への輸送量は増加して輸送費最小地の位 置も変化する。したがって,輸送費最小化地点の正確な位置は比較的短時間で変化すること

3) Pose-Hardy(2014)を参照。

(6)

になる。これにともなって,輸送費最小化地点の導出分析の持つ現実的な意義についても留 意する必要がある。

集積に関しても上記と同様な事柄が指摘できる。すなわち工場集積により各工場の生産費 用が大いに節約され,その地点での生産物の生産費用が低下するとすれば,価格の低下が生 じ,その生産物の需要者はその地点からより多くの製品を購入できることになる。これによ り集積地は製品の需要者をより多く引き付け,生産量は増加し,集積地の生産活動はより拡 大し集積経済も大きくなると考えられる。逆に,集積地での生産物への需要が低下すれば,

集積規模も縮小に向かうこともありうる。このように,集積地の集積規模も一定ではなく,

ある一定の期間において規模が変化すると考えられる。

以上のように,工場立地問題において価格および収入面から生じる影響の分析も不可欠で あり,少なくとも費用と収入の両面からの考察は必要で有意義なものになる4)

グローバル化経済における立地因子

輸送機関および情報通信分野における断続的な技術革新は,人,物,そして情報および金 融の移動を地球規模で容易化してきている。これにともない経済活動一般も広域化してき た。企業の生産活動が広域化する論理は,いわゆるフラグメンテーション理論に沿えば,次 のように整理されよう。経済活動が地球規模で広域化されると,企業間の競争は国内に限定 されず国際的になり,企業活動は言語や商習慣も異なる国々で構成される国際市場において なされることになる。その市場において最大の競争のつは価格競争とそれに続く費用削減 競争になる。さらに時間経過とともに市場が成熟化し,他方既存企業の生産効率が上昇する ことにより,価格競争に加えて品質および製品開発競争も本格的に始まることになる。また 小売産業の成長により交渉能力を有した小売企業からの価格引き下げ圧力なども上昇する。

経済活動が国際的に広域化することにより,企業はいくつかの経路を通して厳しい費用削減 競争の下に置かれる。この状況下で,企業は生産費用削減に向けて専門化および規模の経済 の利用を求めて生産工程を細分化する。細分化された各工程の生産内容は単純化,明瞭化,

そして簡潔化されるため,短期の学修によりだれでも生産に参加できることになる。そのた め企業は,大量の未熟練労働の利用の目的として,細分された生産工程の多くを発展途上国 へ分散させて生産活動網を国際的に構築することになる。

上記の細分された生産工程は,孤立して生産活動をするわけではなく,物流・金融・情報 に関するインフラストラクチャーの下で統括管理機能を働かせて,企業全体および他の生産 工程と密接に連結されて運営される。当然,各工場間における中間財の移動が国際的に生じ

4) Greenhut(1956)は,工場立地に影響する立地因子をより現実的な視点から体系的に取り上げ,

それぞれの作用に関して考察している。

(7)

ることになる 。その移動には物流関係の機能から関税価格や移転価格に関しての事務的処 理機能などが付随する。企業が生産工程を国際的に組織し運営するには,企業が統括管理機 能を十分に働かせられることが前提であり,そのインフラストラクチャーの整備水準は工場 立地に作用する重要な立地因子である5)

各生産工程は細分化により小型化され単純化されてはいるが,上記のような背景から生産 工程の立地点の決定は複雑化し重要になる。各生産工程を担当する工場の立地は,その工程 の性質と役割に基づいて,最初に国の選択から始められることになる。国の選択においては 前述のインフラストラクチャーの整備水準に加えて,多くの考慮されるべき要因が予想され る。国の立地政策は基本的に大きな役割を発揮する6)。とりわけ,法人税率,移転価格税制 そして各種の補助や助成制度などの制度は重要であり,国の選択において重要な立地因子と なる。財の生産や輸送に係る技術的な面に加えて,国や都市行政府による人工的制度が立地 因子として出現することになる。

2-2 工業団地の立地可能地域の導出

これまでの各節において工場立地に影響する立地因子の分類と整理を通して見てきたよう に,工場の立地点は工場の費用と収入面から決定される。その費用と収入は原材料および製 造される生産物の価格と運賃率にかなり依存し,価格と運賃率は変化し易い要因である。し たがって,工場の立地点は常に一定の地点に留まるものではなく,変化するものと考えられ る。当然ながら複数の工場から構成される工業団地の立地も同じ状態に置かれることにな 7)

このような背景を考慮して本節においては,次のように工場立地と工業団地の立地に関し て分析を伸展させる。すなわち A. Weber(1909)が想定するような簡潔な分析仮定を設定 して,初めに輸送費最小地の解析幾何学的導出方法を示す。そして,この分析枠組に財の価 格という要素を取り込む。これにより原材料の価格を考慮すれば輸送費最小化地点の導出と いう分析課題は必然的に生産費用最小化地点の導出問題に移行することを明確に示し,次い で生産費用最小化地点を導出する。そしてこのような考察枠組において,厳密な費用最小地

5) この視点から工業団地に若干言及すれば,前述の工場団地の開発は工場の生産活動一般そして全 般的な運営に必要なインフラストラクチャーを整備できるので,適切な工場誘致政策となりうる。

6) 国の経済成長戦略と工場立地の関係で興味深い事例が中国を例にして Sun(近刊)に示されてい る。

7) さらに上記の考察においては言及しなかったが,複数の工場から構成される工業団地の生産構成 および立地を分析する場合には,どのような業種に属する工場がいくつ工業団地に併存するかとい う問題もある。

(8)

の導出ではなく,生産費用上ある一定の範囲内においての許容範囲を設ける。これにより,

工場の立地が費用最小化の視点から許容される範囲,すなわち立地可能地域を導出する。最 後に,この立地可能地域を複数の工場立地に対して導出する。そしてこれらの立地可能地域 が重複する地域は,当該の複数の工場によって工業団地が構成され易く,工業団地が開設さ れる有望な地域となることを明示する。

輸送費最小地の導出

つの原料 m1と m2を用いてつの製品 m を生産する工場を想定しよう。それらの原料 産地は図 2-1 で示される均一な平面空間上の点 M1(c, 0),M2(x0, y0)にあり,製品の市場 は M(0, 0)にあるとする。この場合において,原料地から原料を工場まで輸送し製品を 市場まで出荷する輸送費を最小化する地点(x, y)を導出しよう。この地点は上記点で形成 される角形の図形の中に限定される。次につの原料と製品の価格は与えられており,各 原料と製品の輸送量も m1,m2,m と与えられている。運賃率 t をとすれば工場の輸送費 T は次の(1)式で表される。

T = m(x2+ y2)0.5+ m1((x − c)2+ y2)0.5+ m2((x − x0)2+(y − y0)2)0.5 (1) 輸送費最小地は(1)式を x と y により偏微分し,次の(2),(3)式の連立方程式をxとyにつ いて解くことにより求められる。

∂ T/∂ x =0, (2)

∂ T/∂ y =0. (3)

そして次の(4)式が満たされねばならないことになる。

2T/∂ x2 2T/∂ x ∂ y

Z = > 0. (4)

2T/∂ x ∂ y 2T/∂ y2

上記のつの式(2),(3),(4)式はそれぞれ次のように示される。

∂ T/∂ x = mx/(x2+ y2)0.5+ m1(x − c)/((x − c)2+ y2)0.5

+ m2(x − X0)/((x − X0)2+(y − Y0)2)0.5=0. (2a)

∂ T/∂ y = my/(x2+ y2)0.5+ m1y/((x − c)2+ y2)0.5

+ m2(x − Y0)/((x − X0)2+(y − Y0)2)0.5=0. (3a) Z = m2m12(xy −(x − c)y)2/((x2+ y2)1.5((x − c)2+ y2)1.5)

+ m2m22(x(y − y0)−(x − x0)y)2/((x2+ y2)1.5((x − x0)2+(y − y0)2)1.5)

(9)

+ m12m22((x − c)(y − y0)−(x − y0)y)2/(((x − c)2+ y2)1.5((x − x0)2

+(y − y0)2)1.5)>0. (4a) (4a)式の符号は正であることは容易に判明するので,(2a)と(3a)を x,y について解けば,

輸送費最小地が導出される。ここでは以下のようにして輸送費最小地を導出する8)。初めに (2a)と(3a)式を次のようにそれぞれ変形する。

mx/(x2+ y2)0.5+ m1(x − c)/((x − c)2+ y2)0.5=− m2(x − x0)/((x − x0)2

+(y − y0)2)0.5. (5) my/(x2+ y2)0.5+ m1y/((x − c)2+ y2)0.5=− m2(x − Y0)/((x − x0)2

+(y − y0)2)0.5. (6) (5),(6)式の両辺をそれぞれ乗して加え,整理すると変形すれば(7)式を得る。

2m m1(x(x − c)+ y2)/((x2+ y2)0.5((x − c)2+ y2)0.5)= m22− m2− m12. (7) さらに(7)式を変形すれば(8)式を得る。

4(m m1)2(x(x − c)2+ y2)2=(x2+ y2)((x − c)2+ y2)(m22− m2−m12)2. (8)

8) ここでの導出手法は石川・金田(1984)に基づいている。

図2-1 平面空間における輸送費最小地の導出

M M1

P

C2

C1

M2

5

4

3

2

0 1

0 1 2 3 4 5

(10)

(8)式は次式に整理できる。

4(m m1)2/((m22− m2−m12)2)(x(x − c)2+ y2)2=(x2+ y2)((x − c)2+ y2). (8a) 次の(9)式を考慮すれば,(8a)式は(10)式のように加工される。

((x2+ y2)(x − c)2+ y2)−(x(x − c)2+ y2)2=(x −(x − c)2)2y2= c2y2, (9) (4(m m1)2/(m22− m2−m12)2−1)(x(x − c)2+ y2)2= c2y2. (10) (10)式を簡単化すれば,(11)式のように示される。

x(x − c)2+ y2=∓c/(K2−1)0.5y, (11) ただし,K =2m m1/(m22− m2−m12).

上記式の(x(x − c)+ y2)の符号は(m22− m2−m12)に依存するので,符号は“∓”と示され る。(11)式は次の(12)式のように変形される。

(x − c/2)2+(yc/(2(K2−1)0.5))2=(cK/((2(K2−1)0.5))2. (12) (12)式は,点(0, 0)と(c, 0)を通り,これら点を結ぶ線を垂直に等分する線上に中心を 有する円を示している。したがって,輸送費最小地はこの円の上にある。図 2-1 の C1で示 される曲線は(12)式から導出される円の一部を示している。さらに同じ仕方で点(0, 0)と (x0, y0)を通り,これら点を結ぶ線を垂直に等分する線上に中心を有する円を導出でき る。図 2-1 の C2はこの場合の円の一部を示している。このことから,これらつの円を描 き,つの円の交点は当該工場の輸送費を最小化する地点であることが判明する。図 2-1 の 点Pは輸送費最小地を示している。上記の方法は輸送費最小地の解析幾何学的導出方法であ る。

輸送費最小地から生産費最小地の導出への移行

前述したように原材料の価格が変化すれば,輸送される原材料の量が変化し,輸送費最小 地は移動する。本節においては原材料の価格が考慮されれば,輸送費最小地の導出は必然的 に生産費最小値の導出問題に移行することを明らかにする9)。この目的のために,これまで の分析枠組に新たに生産関数を取り入れ,以下のように分析仮定を拡張する。

原料 m1と m2の価格は p1,p2で与えられる。⑵工場と点 M,M1,M2間の距離は d0

9) 工場の立地点を生産費の視点から分析した伝統的な考察として Moses(1958)の分析がある。

本稿の考察と分析前提が異なるが,その後の分析を大いに刺激して興味深い考察である。

(11)

d1,そして d2でそれぞれ示される。⑶原料 m1と m2そして製品 m の運賃率は tm1,tm2,tm

とする。⑷工場の生産関数は次式で与えられる。

Q = Am1αm2β. (13)

ただし Q は工場の製品の生産量である。A は工場の生産性を示す。αとβはパラメーター であり,簡単化のためにそれぞれ0.4と仮定される。ミクロ経済学に基づいて,各原料の使 用量は各原料の限界生産力が同じになるように決められるという原理に従うと,各原料の使 用量は次の(14)式と(15)式で求められる。

m1= Q1.25A−1.25(p2+ tm2d2)0.5/(p1+ tm1d1)0.5, (14) m2= Q1.25A−1.25(p1+ tm1d1)0.5/(p2+ tm2d2)0.5. (15) したがって,上記の式から工場の生産費用 Cpは(16)式で表される。

Cp=2Q1.25A−1.25(p1+ tm1d1)0.5(p2+ tm2d2)0.5+ Qtmd0. (16) (16)式により工場の費用関数が与えられると,工場の輸送費を含む生産費用は工場の立地点 の関数となる。図 2-2 に示されるように工場の生産費用は,その立地点の座標x,yの関数 として示される。

図 2-2 では点 M,M1,M2の座標はそれぞれ M =(0.0),M1=(5.0),M2=(2.5.5)と想 定されている。そして製品の生産量は Q =50,生産効率のパラメーターは A =1,原料 m1

と m2の価格と運賃率は p1=0.25,p2=0.75であり,tm1=0.11,tm2=0.15,そして製品の 運賃率は tm=0.57と仮定される。

図2-2 工場立地と工場生産費の関係

x y

Cp 3.4

3.5 3.6 3.7 309.70

309.65 309.60

2.60

2.65

2.75

(12)

(16)式を用いて,次の式の方程式導出し,それらの連立方程式を x と y について解けば,

生産費を最小化する工場の地点が導出される。

∂ Cp/∂ x = Qtm(x −2.5)/(((x −2.5)2+(y −5)2)0.5)

+ Q1.25tm1x(p2+ tm2((x −5)2+ y2)0.5)0.5/(A1.25((x2+ y2)0.5)(p1 tm1(x2+ y2)0.5)0.5)

+ Q1.25tm2(x −5)(p1+ tm1(x2+ y2)0.5)0.5/(A1.25((x −5)2+ y2)0.5 (p2+ tm2((x −5)2+ y2)0.5)0.5)=0, (17)

∂ Cp/∂ y = Qtm(y −5)/(((x −2.5)2+(y −5)2)0.5)

+ Q1.25tm1y(p2+ tm2((x −5)2+ y2)0.5)0.5/(A1.25((x2+ y2)0.5)(p1 tm1(x2+ y2)0.5)0.5)

+ Q1.25tm2y(p1+ tm1(x2+ y2)0.5)0.5/(A1.25((x −5)2+ y2)0.5(p2 tm2((x −5)2+ y2)0.5)0.5)=0. (18) 上記の式の連立方程式から,工場の生産費用を最小化する地点は(2.65, 3.49)と導出され る。そして図 2-2 に示されるように工場が地点(2.65, 3.49)から乖離するにつれて,その生 産費用は増加してゆくことになる。これらの分析から次のことが判明する。原材料の価格が 考慮される場合においては,生産関数からその価格に応じて原材料の使用量は変化し,生産 費用は工場の立地点に依存する。したがって,生産費最小化地点の導出は輸送費最小化地点 の導出問題と同じになる。

工場立地可能地域の導出

上記の図 2-2 に示される曲面は工場の生産費と工場の立地点の関係を示している。この局 面を異なった生産費水準において底面に平行にして切り,その切り口を色付けして図の真上 から図 2-2 を見てみよう。この場合,各切り口は疑似円の形状になり,x − y 平面にそれぞ れ投射される。図 2-3 はそのような疑似円をいくつか示しており,等生産費曲線また等生産 費曲線群と呼んでよい内容を有する曲線群になる。図 2-3 において“”印で指示される生産 費最小地は点(2.65, 3.49)である。この地点から乖離するにつれて生産費は上昇するが,同 じ曲線上にある地点は工場の生産費は同じであり,また生産費最小地に対して同じ額だけ高 い地点である。

さて図 2-3 の等生産費曲線群において最も内側にある等生産費曲線は,生産費最小地での 生産費309.6より0.1だけ高くなる地点を示している。したがって,この曲線内の地域におい ては工場の生産費用が309.7を超えることはない。

本小節における考察から次のような推論が可能である。20世紀以降の時代においては,工

(13)

場の用いる原材料の価格や運賃率は比較的短い期間においても変化する。そのため輸送費あ るいは生産費最小地を確定できたとしても,その地点は短期間に移動する可能性が高い。他 方,一旦建設した工場を移動させることは,小型工場であったとしても,その移動は厄介で ある。したがって,工場立地の計画段階から,ある程度の価格や運賃率の変動を見越し,生 産費の観点から許容できる生産費上での誤差を決め,そして工場の立地についても地理的に 許容できる範囲もあらかじめ定めておくことが合理的である。すなわち,工場立地において も現在時点での生産費最小地点から乖離が許容される地域を設定し,その地域内であるなら ば,工場立地として許容できると定めておくのである。多少の価格や運賃率の変動が生じて も工場の移動をすぐに計画する必要はないということになる。本稿ではそのような地域を立 地可能地域と呼ぶことにする。

立地可能地域の有用性

本稿において立地可能地域と名付ける概念の有効性を次のような事例から説明しよう。

原料 M2の価格が0.25から12パーセント変化し0.28へ上昇すると仮定する。この変化によ り生産費最小地点は地点(2.65, 3.49)から地点(2.63, 3.56)へ移動し,その点は図 2-4 の◇

印で示される地点に移動する。この場合における新たに描かれる工場の立地可能地域は図 2-4 において最も内側にある擬円曲線の内側地域で示されるとしよう。

図2-3 工場立地可能地域の導出

x

*

3.70

3.65

3.60

3.55

3.50

3.45

3.40

3.35

2.60 2.62 2.64 2.66 2.68 2.70

(14)

この場合には価格変化が生じる前の生産費最小地点(2.65, 3.49)と後の地点(2.63, 3.56) はともにこの立地可能地域に含まれている。このような場合において,工場は原料の価格が 変化し,生産費最小の地点が変化しても,その立地点を変化させなくても生産費の観点から 許容されることになる。このことは工場運営者にとって厄介な工場立地の課題を回避する つの根拠を与えるものになる。

さらに,この立地可能地域を拡大して解釈すれば,この地域内であれば,工場は生産費関 係のみならず,他の要因,住宅,福利厚生施設,小売経営の位置など種々の立地要因を考慮 して工場の立地を計画することが,生産費用の面から許容されることになり,工場立地を広 い視野で探査することができ,より良い立地点を見出す可能性を得ることになる。

立地可能地域の設定と工業団地の生産構成

さて,工業団地は単独の工場で形成されることは例外である。通常は複数の工場が並存し て工業団地が形成される。工場が工業団地において並存する根拠は種々想定される。例え ば,同一の工業団地に並存する複数の工場が,都市行政府による助成策,例えば,工場に対 する固定資産税や地方法人税の減免,あるいは各種の補助金,助成金により誘致され,当該 工業団地に牽引されている場合がある。ただし,この場合には,それらの恩恵が得られなく なると,工場はそこから離れ,当該工業団地は崩壊の危機にさらされる危険性がある。他 方,複数の工場が基本的にその生産内容から当該の地域に立地する傾向があり,工業団地が 有する各種インフラストラクチャーの恩恵も享受できるという理由で,当該の工場団地に立

図2-4 新しい立地可能地域の出現

x

*

3.70

3.65

3.60

3.55

3.50

3.45

3.40

2.58 2.60 2.62 2.64 2.66 2.68 2.70

(15)

地し並存する場合がある。この場合には,工場は短期間内に工場団地から離れることはなく 長期間定着することが期待される。そしてその工業団地は長期にわたり機能すると考えられ る。

いま,つの工場 A,B が存在し,各工場の立地可能地域を描くとする。図 2-5A と図 2-5B は予想される各工場の立地可能地域の形成場所をそれぞれつ示している。

図 2-5A で示されるように工場の立地可能地域が交差し,それらが重複する地域が網掛 けした K で示されるように形成されると,これらのつの工場は K 地域で立地が可能であ る。その地域に集積経済を備えた工業団地が開設されるならば,つの工場は積極的にその 工業団地に立地する傾向を有するであろう。この場合にはこれら工場の誘致は大いに期待 され工業団地の開設は有力になる。また工場団地の開設地点は一地点に限定されず,重複す る K 地域内であれば,開設地は多くの代替可能性をもち,地域経済により多く貢献できる 可能性をもつことになる。

他方,つの工場の立地可能地域が交差せず,図 2-5B のように分離され,重複地域が形 成されない場合には,工業団地が近隣に形成されてもつの工場は積極的にその工業団地に 立地する傾向は有しないであろう。工業団地をあえて開設するとすれば,工業団地はかなり 大規模な集積経済を提供するか,あるいは地方政府による誘致支援策をつの工場に提案す る必要がある。また視点を変えれば,都市行政府が工業団地の開発を予定し,その参加企業 を募る場合に,立地可能地域が交差せず,かなり乖離しているような複数企業を対象にして 工業団地への参加を促しても困難な誘致活動が予想される。すなわち大きな集積経済を生み 出す大規模な工業団地開発と長期間に及ぶ法人税率や固定資産税の減免などのかなりの優遇 政策が必要になる可能性が高い。このような場合には工業団地の用地整備や基礎的な生産基 盤を形成しても更地化する危険性さえ出てくることになる。行政府に限らず工業団地の開発 者は,開設予定の工業団地の目的と立地する工場の生産内容の整合性に関して十分に調査す べきということになる。行政府による優遇政策は立地予定工場に立地の契機を与える程度の ものとして捉えられるべきと考えられる。

図2-5A 立地可能地域と工場団地の形成

A K

B

図2-5B 立地可能地域と工場団地の不成立 A

B

(16)

集積経済による工業団地の工場牽引力

前述したように,工業団地の開発者が工場を牽引する仕組みは集積因子と局地立地因子の 働きを利用することである。工業団地が集積経済を意図的に生み出す機構は理論的にはつ に分けられる10)。つは以下のようである。業種は異なるにしても,工業であれば,用地の 提供を基盤として輸送機関の整備,上下水道および電力・瓦斯の供給などの生産基盤は不可 欠である。これらは単独の工場立地で維持することは通常困難である。いくつかの工場の立 地により利用されることにより維持されるものである。個別工場にとっては,その生産基盤 施設が生み出す外部経済を享受することができ,大きな費用節約が可能になる。このために 工業団地に参加することになる。工業団地はこのような生産基盤を整備し,それが生み出さ れる外部経済により複数の工場を牽引するのである。このような集積経済が強く機能すれ ば,上記において各工場の立地可能地域が重複地域を形成しなくても,工業団地の開設そし て維持が可能となる。

他のつは大規模化経済と地域化の経済,そしてこれらの相互依存から生み出される集積 経済である。工場が工業団地に立地する場合,工場は生産基盤の整備に要する費用を節約で きるため,工場はその生産規模を大きくすることができ,大量生産と大規模化の経済という つの内部経済をより多く享受し費用削減が可能になる。さらに工業団地が同種の工場によ り構成され,工業団地の内外において補助工業の企業群が形成されることになれば,いわゆ る地域化の経済が生み出され,各工場はより中核的生産工程に集中でき,生産性を上げるこ とにより生産費削減を実現できる。このような内部経済と外部経済の相互依存性が進展すれ ば工場間での製造される品目や部品の製造分担が生じ,工業団地から産業集積と呼ばれるよ うな生産活動地域が形成される可能性も出てくることになる。

さて,集積経済の中には都市化の経済と呼ばれる種類の外部経済がある。この経済は工業 の種類,業種を問わず集積することで生じてくる外部経済である。各種の労働力を柔軟かつ 大量に利用できることが特徴的であり,デザイナー,弁護士,システムエンジニアなど各種 の専門労働者の利用,小売,飲食,保険,金融,通信など各種の専門的機能の利用も可能に なる。これらの都市化の経済は中・小型の工業団地においては供給されることは少ない。し たがって中・小型の工業団地は都市化の経済の利用が可能である大都市近郊地域において開 設され,都市化の経済を享受する場合が多いことになる。

工業団地がその生産基盤,すなわちインフラストラクチャーから発生する外部経済にのみ に依存して工場を牽引する場合には,工場間に相互依存関係が生じ難い。したがって,工業 団地内に工場は単純に並存するということになり,工場団地は雇用提供の場あるいは地方法

10) 集積経済についての基本的内容として Marshall(1890)の見解も大いに参考になる。

(17)

人税収を確保する場となり,それ以上の役割を地域において果たせないことになる。他方,

生産基盤を中核とし工場間に技術分野や経営組織分野において相互依存性あるいは連携性が 生じるならば,専門化の経済と規模の経済が働きやすくなり,生産組織が工業団地周辺の地 域にも広がり組成される。工業団地は,複数工場の単純な並存地ではなく,地域経済の生産 組織において重要な役割を担う経済単位となる。これにより工業団地は地域経済の根幹とし て外国の企業をも誘致でき,国際的生産網の結節点としての役割も果たせることになる。

.工業団地の分類

これまでの考察において,工業団地の生産構成は最も単純な性格で複数の原料を用いて つの生産物を生産するという工場を前提にし,それらの工場が並存するという想定で考察さ れた。このような単純な想定においても,工場団地の立地とその生産構成の内容は,関連し 合い,上記の輸送費を決定する運賃率,労働費に直接関係する賃金率,さらに集積経済から 影響され,大きく変化することが知られている(Ishikawa 2018)。しかしながら,グローバ ル化経済の下では,このような単純な工業団地は,地域経済において最も基本的な役割のみ が期待されているに過ぎない。雇用の場の創出,法人税などからの税収源の確保などが期待 され,経済成長の基礎を形成する政策手段のつと位置付けられている。このような役割は 工業団地の開設においては最低限果たすべきものとされてきている。工業団地の開設地が更 地状態の場合には,役割を果たさないということになる。

現代において工業団地は単純に生産を行う場所という役割ではなく,さらに高度な目的を もって開設されてきている。以下では多様な様態の工業団地についての整理をして次の段階 の考察につなげて行くことにしたい11)

3-1 工業団地の分類と役割

Pose-Hardy(2014)の考察を援用して,工業団地の目的を分類しながら工業団地の在り 方の考察を進めよう。

Pose-Hardy(2014)は既存の多くの研究分析を参照しながらテクノロジーレベルと管理 サポートの程度によって,工業団地モデルを分類している。テクノロジーレベルと管理サポ ートレベルの両方が低いのはインダストリアルパーク,テクノロジーレベルと管理サポート レベルの両方が高い水準をもつのはテクノロジーパーク,それらの中間にビジネスパーク,

エンタープライズゾーン,サイエンスパーク,イノベーションセンターなどがあると分類す る。これらの分類についてかれらは以下のように紹介する。

11) 本節での分析枠組において鈴木(2017)の考察は大いに参考になる。

(18)

インダストリアルパークはテクノロジーパークの先駆けで,単純な生産活動を指向するた め,テクノロジーレベルも低く管理サポートレベルも低い。19世紀にイギリスのマンチェス ターで最初に設立された工業団地は織物生産者にとって最適な環境であった。工業団地は通 常,専用のインフラストラクチャー,その地域の交通ネットワーク,現地生産システムの構 造的ボトルネックを緩和するための免除やインセンティブのパッケージなど,基本的な施設 のパッケージを工業用テナントに提供する。地域内の工業化を促進する政策手段となる。

グローバル化と国際競争の圧力の高まりに応えるため,古典的な工業団地モデルが改良さ れ,高度に特殊化されたバージョンが現れる。工業団地の現代的な例としては,ビジネスパ ークとエンタープライズゾーンがある。テクノロジーレベルと管理サポートレベルは中間レ ベルにある。ビジネスパークは,軽工業やビジネスサービス,ソフトウェア開発と ICT な どの分野に重点を置き,サービスやエンドユーザー消費財の生産に積極的な企業をターゲッ トにしている。様々な工業用,オフィス用,および小売用スペースを提供する。エンタープ ライズゾーンは,減税,輸出入関税や補助金の減額,柔軟な規制,技術的または財政的支援 の形での管理支援などのインセンティブを構成することがよくある。それらは,先進国や新 興国の至る所で,都市や農村で主に実施されてきた。

3-2 ビジネスインキュベーターとテクノロジーパークについて

ほとんどの国々は実現可能性の水準は異なるが,技術革新から新製品の製造を期待する。

このような流れから重要な役割を果たすと考えられるのがビジネスインキュベーターとテク ノロジーパークである。

ビジネスインキュベーターは,新技術系企業の開発と育成のために設計された。インキュ ベーターは,起業家科学者,研究者,および学者によって行われることが多く,知識集約型 の新生企業の開発において重要な機能を果たす。他方,これらの起業家はかれらの技術的専 門知識に匹敵する管理とビジネススキルを欠いていることが多く,そのため,基本的なビジ ネスと財政支援は企業の存続に欠かせないものとなる。

研究と地域のビジネス環境との間の重要なつながりとしてインキュベーターを利用して,

大学からの知識の波及を促進する必要がある。これは長い間多くのテクノロジーパークを設 立するための重要な原則として考えられてきたものである。テクノロジーパークの基本的な 目的は,イノベーションに資する知識集約的な環境を開発することである。テクノロジーパ ークでは,研究機関や大学,ハイテク製品やサービスを生み出す能力を備えた知識集約型企 業が技術的要素を形成している。これらは持続可能な技術革新を促進し,地域の技術力と技 術の累積のための基本的な基盤を提供する。多くの場合,テクノロジーパークに加わる企業 は知識リンケージの促進,インタラクティブな相乗効果など,開発のより技術的な側面に加

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