[]本 管理会 計 学 会 誌
管 理会 引 学 1998 年 第6巻 築 1弓
論 文
半 導 体 ビ ジ ネ ス の 収 益構造 と採算管理 シ ス テ ム
ー DRAM な どの 半 導体汎 用製品 を中心 と して 一
三田 洋幸 *
〈研 究 要 旨〉
半 導 体 産 業は, 典 型 的 な 装 置 産 業で あ り, 営 業 リス ク の大 き な 収 益 構 造 を持つ .し た が っ て,採算管理 シス テム は,製 品の販売価格と価格弾力性,生 産数量 と 生 産 工程
の キ ャ パ シ テ ィ制 約,長 期 的には 生産 数 量に応 じて変 化 する活 動 能 力 費と設 備 投 資コ
ス トなどの拘 束 能 力 費とい っ た製 品 戦 略 要 素 を 考 慮 しつ つ ,プ ロ ダク ト・ミッ クス の 決定 ,生産ラ インへ の 生 産数量の割 り当て,新ラ イ ン の投入 とい っ た製 品 戦 略の 意思 決 定を的 確に支 援で きな くて は な らない .そ れに は, 半導体事業の 成 功 要 因に立 脚し た 製品戦略 要素を考慮しつ つ ,事業全体の 収益構造の変化 を 的確に評価で きることが 必 要 条 件となる.
半導体 産業の 経営者 ・管理 者は ,製 品の 採算性を判 断 する た めの 会計情 報と して 製 品 原価を用い る こ との有用 性に疑問 を抱い て い る場 合が少な くない .半導体の製 品 原 価は,著しく大 きな潜在需 要と微細 化 技 術の もた らすス ケール メ リ ッ トとの 相乗効果
に よっ て ダ イ ナミ ッ クに 低減 する特徴を秘 めて い る.し た が っ て, どん な に緻密な方 法 を 用い て製 品の実 際 全 部 原 価 を計 算 した と して も, 将 来の 収 益 性 を 判 断 する う えで 有用 な情報に はな り得ない の で ある.製 品 戦 略の 観点か ら は, 将 来に わ た る収 益構造
の ダ イ ナ ミズム を把握する こと が 重 要であ り,その よ うな目 的に資す る会計情報 を整 備 する こ と が望 まれる の で ある.
本研 究は, こ の ような問題 意識 の も とに, ま ず半 導体事 業の収益構造の 分析を通 じ て,半 導体製 品 原 価が どのよ うな メカニ ズム で急激に低減する か を明 ら か にする.そ
の上で,半導体 事 業の 成 功 要 因 を 設 定 し,それ らに立 脚 した 製 品 戦 略の意 思 決 定 を 支 援 する採 算 管 理シス テム の 考え方を提 示 する.本 稿の 採 算 管理 シス テ ム は,短 期お よ び長 期 的 な 収 益 構 造のダ イナ ミズム を理 解 するこ とに よっ て , 戦 略 代 替 案ご との 製 品 原 価の予測 と最 適 価 格設定,長 期 的 な 利 益 を 最 大 化 する プロ ダ ク ト ・ミッ クス の選定
と不採算製 品の峻 別, 新製 品ライ ン投資の経済性, とい っ た半導体事業に とっ て戦 略
的に重 要 性の高い 経営 惰報を 提 供 する もの で ある.
〈 キ ー ワ ー ド〉
半導体 ,採算 管理,収益構造, 製品 原 価, 原 価 低 減,製 品 戦 略, 価 格 弾 力 性, プロ ダ ク ト・ミッ ク ス
, 非 線 形 計 画 法, DRAM , SRAM
1997年 3月受付 1997 年 10 月 受 理
1 中 央クーバ ース ・ア ン ド・ラ イ ブラ ン ド
助 教 授.
コ ンサル テ ィ ング 〔椥 ,マネジング ・ア ソ シエ イッ,ニ ュ ーボート大 学
管理会計 学 第6巻 第1号
は じ め に
半導体は, エ レ ク トロ ニ クス 産業 を支える重要な電 子 部品で あるこ と か ら,「産業の コ
メ」 と呼ばれ る.パ ソ コ ン な どの コ ン ピュ ータ関連 装置に用い られる マ イクロ プロ セ ッ サ
やメ モ リーが市場全体の約 半分 を 占め て お り, 近年で は特 定の顧 客ニ ー ズに応 じて素 子 を 単一 IC化し たASIC (特 定用 途 向 けIC)と呼ば れ る製 品 もエ レ ク トロ ニ ク ス製 品の小 型 化に と もない 市 場が拡 大 して い る.
こ の よう な市 場 拡 大の 一方で , 設 備 投資も肥 大 化 して い る.半導体産業の特徴の 一つ は, 微細 加工技術を革新し続けるため に多額の 設備投資が必要なこ とで ある. 例 えば, 月 産3 万枚の 16M ビッ トDRAM 工 場の 総設備投資額は約 1,000 億 円 とい わ れ る. 微 細 加工 を進 め る ほ ど, 設 備 投資は膨 ら む こ とに な る.次 世 代の 256M ビ ッ トDRAM で は, 投資 額は 1,500 億円以 上 に な るとい わ れ てい る.半導体 産業は,設備投 資リス ク を低 減 し, 投資 効 率を高め るこ と が競争力を持続 する うえで 重 要 な経 営 課 題 になっ てい る .
半 導 体 企 業の経 営 者 ・管理 者の 多 くは, 半導体 製 品の事業管理を適切 に行 うに は, どの ような経営情 報を整備 し た ら よい かとい う問題意識を抱い て い る .その こ と と関連 して , 全部原価 計算に よ る現行の 製 品原 価 は, 半導体 製品の 事業管理 に は役 立たない の ではない
か とい っ た疑 問 も投 げかけ られて い る. 例 えば, 原 価 計 算 をして み た ら, 製 品 原 価が販 売 価 格 を上 回る赤字製 品に なる こ とが あるが , その よ うな製 品を どの ように扱 うべ きか判 断 し か ね る わけで あ る.こ の と き, よく引 き合い に 出 さ れ るの は , 赤字製品な らば廃 止 すべ きであるとか, 赤字製 品になるの は 固定費の 配賦方法が適 切で ない ため で ある とか, 仮 に
赤 字製 晶で も変動 費を上回っ て 売れるの で あれ ば固定費の 回 収に貢 献 する と か, 操 業 度を
維 持する た めに必要で ある, とい っ た表面 的な議 論で あるこ と が少 な くない .その赤字製 晶を どの ように扱えば投資効 率を高め る こ と がで きるの か具 体 的に検討 し ない 限 り本質的 な議論を行っ て い る とは言い 難い の で ある.
製 品の取 り扱い 方, 言い 換えると製 品戦 略の 本 質を議論する に は, 半導体 事 業 特 性 を十 分 に踏 まえる必 要がある. 例 えば, 半導 体製 品の 販 売価 格の トレ ン ド を み る と,DRAM
の場 合は 10 年 間で お よそ 100 分の 1 にまで 急激に低 減 して きた特徴が知 られて い るが , それは どの よう なメ カ ニ ズム に よっ て顕在 化さ れ るの で あろ うか . また, 半導体事業は装 置 産 業で あるこ と か ら, 需 給バ ラ ン ス に常 に関 心を持っ て い る必 要が ある し, 生 産 構 造や 生産キャパ シ テ ィの 制 約を考 慮 する必 要 もある. 高 価な設 備 を有 効 に活 用 して 投資効 率 を
高め る とい っ た観 点か ら は, 半導体 製 品の収 益 構 造 を 理解 し た うえで 製 品 ミ ッ クス を どの ように取 り扱うべ きか明ら か にする 必 要 もあ る.
半 導 体ビ ジ ネス の収 益 構 遣と採 算 管 理シス テ ム ー−DRAM などの半導 体汎用製 品を中心とし て
本 稿で は,こ の ような半 導 体事業 特 性 を形 成する諸 要 因と関 連づ け な が ら, 半 導 体 事 業
の 収 益構造の 分析 を通 じ て,製 品 戦略の 意思決 定を支援す る採算 管理 シス テ ム 注 1の あ り 方につ い て明 らかにする.
1. 半 導 体産 業の 事 業特 性
半 導 体 市 場 は, 1970 年以降 10年 ご とに ほ ぼ 10倍の ス ピー ドで 拡 大 を続 けて きた. 半 導 体 製 品の用 途は, カラ ーテ レビ
, 電 卓, オーデ ィ オ 機器, VTR , ビ デ オカ メ ラ, CD フ゜
レーヤ ー,パ ソ コ ン ,携帯電 話な どの エ レ ク トロ ニ クス 製 品で あ り, これ らの 普 及が 時 代 時代 に おい て半導体需 要 を牽引 して きた わけで ある.エ レ ク トロニ クス 製 品の 普 及 を促 し た最大の 要 因の 一つ は
, 販売価格の 急速 な低下で ある.そ れに は,半導体の 価 格底減の 果
た した役割 も非常に大きい .半 導体の 価格もこの 10 年 間で 実 質的に約100 分の 1 に低下
して い る.この ような急 速 な価 格 低 下は, 他 産 業で ほ とん ど例 の ない こ とであ り, 半導体 産 業固有の 特質によ っ て実現 さ れ た もの で ある.
1.1 機能飢餓とス ケー リ ング
半導体市 場が急 速 に拡 大 し た背景 に は, 半導 体に対 する 「機 能飢 餓 」と半導体の 「ス ケ ーリン グ」とい う当事業 固有の 特徴がある.機 能飢餓 と は, 半導体な どの 電子部 品の提 供 する機 能が シ ス テム側 (エ レク トロ ニ クス製 品)の必 要 とする レベ ル と比較 して 著し く不 足 して い る状 態 をい う (直 野 [3D例 えば, パ ソ コ ン に使用 さ れる DRAM は ,パ ソ コ ン機能
の肥 大 化 に よっ て , 最 近で は最低で も
’12M 〜16M バ イ トは必 要に なっ て きて い る.ユ ー ザーは
, DRAM の容量不 足 を常 に意識 して お り,ビ ッ ト単 価が低 下 すれ ば需 要 は拡 大 す る状 況 にある. 図 1 に示 すよ うに, DRAM の ビ ッ ト需 要は, 年率 平 均 64% とい う驚 異 的 な成 長を遂 げて い る.
半導体の ス ケーリン グ と は, 半導体素子の相 似 縮 小 技 術の こ とをい う.半導体素子は相 似 縮 小 し て も, その 電気的特性は 同 じで ある. し た が っ て,素子の微細 化が進む ほ ど同 じ 面 積 に より多 くの 機 能を 埋 め込むこ と がで きる .例 えば, 4M ビ ッ トDRAM と 16M ビッ
トDRAM とを比較する と, ほ ぼ同 じ大 きさの メ モ リーチ ッ プ に400 万 ビ ッ ト分の 記 憶 素 子 が埋め込 まれ たの が 4M ビッ トDRAM で あ り, 1,600 万個の記憶 素子が埋め込 ま れ たも
注1 採 算 性 とい う 用 語は経 済 性 分 析の分 野では 経 済 性 評 価の 同義 語 とし て用い ら れ ること もある が,学 術用語と し て一般に定
着して い る と は必 ずしもいい きれない .そこ で本 稿で は,採算管理 シ ステム を以下の ように定 義し て使用 するこ と にする.「採 算 管 理と は,投 資 効 率 を高め る経 営 を推 進 する とい っ た 観 点 か ら,製 品 戦 略に伴 う 意思決定を適切 に支 援 する こと を 目的とする 経 営システム を指 す,し たがっ て,意 思 決 定 を 行 う際の経 営 上の関 心 と しては,キャ ッ シュ フロ ーに基づい た 投資の経 済性 を高
め ることに主 眼 を 置 くが,会 計上の期 間損 益につ い ても経 営 者の関 心は低 くない た め ,その変 化 を把 握できる ように 配慮 する,
採 算 管 理シ ス テム の着 目する経 営 指 標 としては,限 界 利 益,活 動 能 力費,営業キャッ シュ フ ロー,投資収益率,投資 現在 価 値と
いっ た経済 的 な指標および期 間利益の変 化につ い て の情 報が含まれる.」
管琿会計 学 第6巻 第 1号
の が 16M ビ ッ トDRAM
で ある .半導体の 製 造は,
ウエ ハ ー と呼ばれ る4 イ
ン チ〜 8 イ ン チ ロ径の シ リコ ン基 盤 の 上 に, 化 学 反 応 に よっ て 集 積 回 路 を 形成さ せ る方法を用い る. 単純 にい うと, ス ケー リ
ン グ に よっ て 集積回路 を 縮 小 する と, 同 じ ウ ェ ハ
ーか ら よ り多 くの メ モ リ ーを製造 す るこ とがで き
る わ けで ある.ス ケー リ
ン グの 意 義は, 同 じよ う な 生産の 手 間で , 生 産数 量 を 飛 躍 的 に増や す こ と がで きる とい う点に ある .
7,000
6,000
ビ
ζ5・000
需
要 4,000 言
兆 3000
ビ ’
ツ
i 2,000
1,000 0
62
匚 : コ 256
囲 1M
csssss 4M
− 16M
+ 合 計
1991 1992 19931994
(日本 半 導 体 年 鑑より作 成)
図 1. DRAM 需 要の 推移
半導体の ビ ッ ト単 価の 急 速な低 減は, 半導体 に対 する機能 飢餓 とス ケーリン グの 技術 革新
によ っ て もた ら さ れた もの で ある. 生 産工 数を増やす こ とな く生 産 量 を飛躍 的に増やす こ
とがで きた結果 , メ モ リーチ ッ プの製 造コ ス トが大 幅に低下 し た の で ある.4M ビッ ト
DRAM と 16M ビッ トDRAM が ほ ぼ 同 じ手間で 生産で き, 生産 設 備 の 投資金額もほ とん
ど変 わ ら ない とする と, 16M ビ ッ トDRAM は 4M ビ ッ トDRAM の 4分の 1の コ ス トで 生 産で きるこ と に な る. さ ら に,半導体産業はマ クロ的 に は機 能飢 餓の 状態に置か れて い た た め に, メ モ リー価 格が低 ド し た こ と に よっ て ,新た な需要が 生 まれ,生産数の 増 加が吸 収 される とい う好 循 環 が創 りだされた わけで ある.
1.2 世 代交代 と ビッ ト単価低減
DRAM の 世 代 交代に と も ない ビ ッ ト単 価が低 減す る様 子を図2 に見る こ とがで きる . DRAM 市 場 は, 継続 的なス ケー リン グ技 術革新 に よっ て , 製 品の 世代交代 と ともに記憶 容 量の 高集 積化が進んで い る.DRAM 製 品の 場 合は, 世代交代 ご とに チ ッ プ 1個 当 りの
記憶容量が 4倍に なっ て い る. ビ ッ ト単価の推移 を見 る と,1980 年代 初 頭か らの わずか
10年で 約 100分の 1に低下 し てい る こ と が わか る. さ ら に, 新 製 品の価格 低下 に並行し