著者 比留間 洋一
雑誌名 静岡大学国際連携推進機構紀要
巻 3
ページ 15‑28
発行年 2021‑03‑12
出版者 静岡大学国際連携推進機構
URL http://doi.org/10.14945/00028191
静岡大学アジアブリッジプログラム副専攻の 振り返りと今後の展望
―PCM手法による一考察―
比留間 洋 一(1)
【要 旨】
本稿の目的は静岡大学アジアブリッジプログラム(ABP)副専攻の過去5年を振り返り、
今後の見直しに向けて一定の材料を提供することである。第2節では、これまでに何人の 学生がABP副専攻に参加してきたのか、基礎データを整理した。続く第3節では、ABP副 専攻の問題点について、PCM手法を援用して分析し、改善方法として計7つのアプローチ を析出した。しかしその7つのアプローチはあくまで教員サイドの意見に基づくものであ る。そこで第4節では、本プログラムに履修登録していない学生グループと、履修登録し ている学生グループを対象として実施したアンケート調査の結果をまとめた。そして第5 節では、7つのアプローチ一つずつについて、教員サイドの意見と学生サイドの意見を照 らし合わせ、若干の考察を加えた。
【キーワード】 静岡大学ABP副専攻(グローバル・アジア特別教育プログラム)、PCM手 法、グローバル人材育成
1. はじめに
静岡大学は2015年度にABP副専攻プログラムをスタートさせた。2018年に「ABPは留 学生と学ぶことで日本人学生の国際化を進めるところに力点があり、副専攻を充実させる ことは今後の課題である」(鈴木2018:27)(2)との指摘がなされているが、これまで本格的な 総括と見直しは行われていない。本稿の目的は、これまでのABP副専攻(2020年度以降、
グローバル・アジア特別教育プログラムへと改称。以下、本プログラムと記す)を振り返 ることにより、今後の見直しに向けて一定の材料を提供することである。
2. ABP副専攻の沿革 2.1 背景と目的
ABP副専攻は、インド・インドネシア・タイ・ベトナムから留学生を受入れるアジアブ リッジプログラム(ABP)とともに2015年度(平成27年度)に開始した。ABP副専攻の 目的と概要については、(比留間・原・藤巻2020)に詳しい。ここでは、公式ホームペー ジ等において学生に対して提示されているプログラムの特徴について付け加えておきたい。
すなわち、1.グローバル・アジア特別教育プログラムの授業は英語で行われます。2.修 了認定に必要な単位数は15単位。3.「特別教育プログラム修了証書」が授与されます。4.
TOEIC®L&R 550点で履修可能。5.日本企業の海外拠点での企業研修、という5点である。
2.2 5年間の実施状況
上掲の(比留間・原・藤巻2020)では、平成27年度の開始時から令和元年の5年間に関 する学部別の履修登録者数の他、修了者数、年間スケジュールに加え、平成30年度後期及 び令和元年前期のABP関連科目受講生数、令和元年度の海外研修、ABP修了研究について 詳しい報告がなされている。そこで、本稿では令和2年度の情報を追加した上で、これまで を振り返るため、幾つかの項目について、過去6年間(平成27年度〜令和2年度)の総人数 をまとめておきたい。ただし、2020年度のデータは、2020年11月24日現在のものである。
表1:ABP副専攻の学部別登録者数の推移
表1は、ABP副専攻の学部別登録者数の推移である。過去6年間で、計135人が履修登録 を行った(1年度あたり平均22.5人)。年度別にみると、プログラムが開始した2015年度 が57人で、次いで2020年度31人である。2020年度に増加した理由については、本紀要に 収録されている年次報告「グローバル・アジア特別教育プログラム」に詳しい。
表2:ABP関連科目(個別、学際)の受講生数
表2は、2015年度後期から2020年度後期までの学期ごとのABP関連科目の受講生数で ある。注意すべき点は、ABP関連科目の受講生の中には、ABP副専攻に履修登録している 学生(上掲の表1)だけでなく、ABP副専攻に履修登録していない学生も含まれているこ
(人)
学部/入学年度 2015年度 2016年度 2017年度 2018年度 2019年度 2020年度 計
人文 22 6 3 3 3 8 45
教育 4 0 0 0 2 4 10
理学 8 1 1 2 2 1 15
農学 1 0 0 0 2 5 8
学環 0 0 0 0 1 0 1
静岡計 35 7 4 5 10 18 79
情報 6 1 8 5 2 7 29
工学 16 1 2 1 1 6 27
浜松計 22 2 10 6 3 13 56
全学計 57 9 14 11 13 31 135
(人)
小科目/
学期 2015 後期 2016
前期 2016 後期 2017
前期 2017 後期 2018
前期 2018 後期 2019
前期 2019 後期 2020
前期 2020 後期 計 個別分野
(科目数) 54
(2) 118
(8) 100
(8) 122
(9) 63
(9)* 70
(6) 80
(6) 49
(4) 83
(7) 57
(5) 60
(7) 856
(71)
学際
(科目数) - - 40
(2) - 41
(3) - 48
(2) 8
(1) 60
(2) 22
(1) 59
(2) 278
(13)
計 54
(2) 118
(8) 140
(10) 122
(9) 104
(12) 70
(6) 128
(8) 57
(5) 143
(9) 79
(6) 119
(9) 1134
(84)
*集中講義1科目を含む
とである(ABP関連科目は、TOEIC®L&R 550点以上があれば、本プログラムに履修登録 していなくても受講可能となっている)。全体では、過去11学期において84科目が開講さ れ、延べ1134人が受講した。年度ごとでは、平均で約15科目が開講され、平均で述べ約 206人が受講した。
表3:ABP海外研修の学部別参加者数の推移
表3は、ABP海外研修の学部別参加者数の推移である。2016年度と2017年度は2回実施 している。泰はタイ、越はベトナム、尼はインドネシアという行先国を指す。全体では、
過去4年間で計6回実施され、計44人(1回あたり平均7.3人)が参加した。2020年度は新 型コロナ感染症の影響により実施を見送った。
表4:ABP修了研究の学部別修了者数の推移
表4は、ABP修了研究の学部別修了者数の推移である。過去3年間に計13人が修了研究
(英語でのポスター発表とレポート提出)を含めた所定の修了要件を満たして修了した。
2.3 副専攻WG
国際連携推進機構では2020年度に、ABPの総括と見直しに取り組むことになった。まず
(人)
学部/入学年度 2016年度Ⅰ(泰) 2016年度
Ⅱ(泰) 2017年度
Ⅰ(越) 2017年度
Ⅱ(越) 2018年度
(尼) 2019年度
(越) 計
人文 2 1 2 1 5 2 13
教育 0 2 0 1 0 0 3
理学 2 0 1 1 1 1 6
農学 0 0 0 0 0 0 0
学環 0 0 0 0 0 0 0
情報 2 2 2 0 3 2 11
工学 4 0 4 2 0 1 11
全学計 10 5 9 5 9 6 44
(人)
学部/入学年度 2017年度 2018年度 2019年度 計
人文 5 0 2 7
教育 0 0 1 1
理学 0 0 0 0
農学 0 0 0 0
学環 0 0 0 0
静岡計 5 0 3 8
情報 0 0 2 2
工学 1 2 0 3
浜松計 1 2 2 5
全学計 6 2 5 13
はABP意見交換会と称して、2020年3月11日に第1回目(意見交換会の目的、現状と課題 の共有等)、5月19日に第2回目(育てる人材像の検討等)の会合が開催され、機構の全教 員と国際交流課職員の担当者が参加した。その結果、ABP留学生とABP副専攻という2つ のワーキンググループ( WG )に分かれることになり、ABP 副専攻 WG(以下、副専攻 WG)の取りまとめ役を、筆者(比留間)が担当することになった(ABP留学生WGにつ いては、本紀要143ページを参照)。副専攻WGでは、まず前節で示したような過去の基礎 データを共有した。その上で次に述べるPCM手法を援用した分析作業に取り組んだ。
3. PCM手法を援用したABP副専攻の総括
本研究では分析にあたりPCM(プロジェクト・サイクル・マネージメント)手法(3)を援 用した。PCM手法を援用した理由は、1)先述した2回のABP意見交換会を経て、今後の ABP副専攻の運営には、(これまで不十分であった)プロジェクト・マネジメントの観点を 導入する必要性が感じられたこと、2)WGメンバーの原芳久特任准教授が以前、PCM手 法の研修(4)を受講し、JICAプロジェクト遂行時に実際に利用するなどPCM手法に通暁し ていることによる。
本研究では、PC手法のうち、問題分析、目的分析、アプローチの抽出の3ステップを用 いた。本研究の手順は次の通り。(1)比留間と原がそれぞれ問題分析の系図案を作成した
(系図案1)。(2)系図案1を、副専攻WGの他のメンバー(国際連携推進機構に所属する 次の教員:ライアン優子准教授、Deo Vipin Kumar助教、久部和彦特任教授、藤巻義博特 任教授、渡部真理子特任准教授)にメールで提示し、ABP副専攻の問題点(特に履修登録 者数が1学年60人に満たない問題)について意見を求めた。2名からメールにて回答があ り、残り3名に対して比留間と原が個別ヒアリング(対面1名、オンライン2名)を実施し た。(3)WGメンバー6名全員の意見をもとに、比留間と原が系図案2を作成し、残りのメ ンバーに提示した結果、修正点はなかった。(4)系図案2を基に、比留間と原で、目的分 析の系図案を作成し、残りのメンバーに提示した結果、修正点はなかった。(5)目的分析 の系図を基に、比留間と原でアプローチの抽出をおこなった。
3.1 問題分析(5)
本研究では、ABP副専攻への履修登録者数が「当初目標(60人/学年)を達成できてい ない」という課題を中心問題として、その原因を上位から下位のレベルに「原因-結果」
の関係で展開した問題系図を作成した。図1にその結果を示す。中心問題の直接原因とし ては、「ABP科目を履修する学生が少ない」「プログラムへの履修登録が必要であることを 知らない」「そもそもプログラムを知らない」が挙げられた。そして、これらの直接課題の 原因となっている課題を下位に整理した。
3.2 目的分析(6)
中心問題は、「当初目標(60人/学年)を達成できていない」から「当初目標(60人/
学年)を達成できている」という中心目的に変換される。問題系図における下位レベルの 諸問題についても同様に変換を行い、目的系図(図2)を作成した。なお紙幅の関係上、図 2の中に、目的分析とともに、次に述べるアプローチの抽出の結果も示すことにした。
図1 問題分析
図2 目的分析及びアプローチの抽出
3.3 アプローチの抽出(7)
本研究では、①アジアに関する教育内容や機会増加に向けた「アジア教育改善アプロー チ」、②海外留学に関する情報提供や機会増加に向けた「留学教育改善アプローチ」、③何 が身につくかがわかるようにする「学修成果可視化アプローチ」、④就職活動で役立つこと がわかるようにする「就活効果可視化アプローチ」、⑤英語で授業を受ける抵抗感の軽減に 向けた「英語授業訓練アプローチ」、⑥主専攻や他の副専攻との両立がしやすくなる「カリ キュラム改革アプローチ」、⑦プログラムに関する情報へのアクセスビリティ向上に向けた
「広報改善アプローチ」という7つのアプローチが抽出された(図2)。
4. 学生を対象としたアンケート調査の結果(8)
4.1 履修登録しない理由
◦アンケート調査の概要
1)目的:本プログラムに履修登録する可能性が高いという意味でターゲット層の学生グ ループが、(にもかかわらず)履修登録しない理由を明らかにすることである。
2 )対象者:ターゲット層の学生グループとは次の 2 つである。1 つは、2020 年度後期の ABP関連科目のうち1年生を対象としている「ABP-EN ことばと表現」、「ABP-EN 生活の 科学」(静岡キャンパス)の受講生(それぞれ25名、9名)である。そのうち、それぞれ21 名、6名が本プログラムに履修登録していないため今回の対象者とした。もう1つは、2020 年前期に開講した「ESPⅠ(留学)」(9)の受講生(静岡49名、浜松32名)で、本科目では 授業の一環としてグローバル・アジア特別教育プログラムについての紹介を行った。その うち、両キャンパスでそれぞれ40名、31名が本プログラムに履修登録していないため今回 の対象者とした。
3)実施年月日:2020(令和2)年11月(日付は科目によって異なる)
4)実施方法:アンケート(Google Form)を個別メールで送り、回答を得た。21名から 回答があり、回収率は21.4%。そのうち有効回答は19名であった(回答率は19.3%)(10)。 5)質問項目:質問1では、「プログラムが改善されたら、グローバル・アジア特別教育プ ログラム(※)に履修登録しますか?」という問いに対して「する」か「しない」を選択。
また本プログラムについて、次のように簡単な説明とURLを添えた。「※アジアを中心と する留学生とともに英語で学ぶ全学部横断的なプログラム。修了に必要な単位は15単位。
https://www.suoic.shizuoka.ac.jp/student/abp-minor/」。続く質問2は、「1つ目の質問で「し ない」と答えた方にお聞きします。プログラムが改善されたとしても、あなたが履修登録 しない主な理由について、できるだけ具体的に教えてください。」として、自由記述欄を設 けた。最後に質問3は、「1つ目の質問で「する」と答えた方にお聞きします。以下の7つ の選択肢(改善アプローチ)のうち、特にどの点が改善されることを望みますか?3つ選 択してください。」とした。
◦アンケート結果
質問1「プログラムが改善されたら、グローバル・アジア特別教育プログラム(※)に 履修登録しますか?」という問いに対する結果は、「する」が10名、「しない」が9名であっ た。次に質問2「しない」と回答した者が履修登録しない理由(自由記述)は次の通り(7
名から回答があり紙幅の関係上、一部省略した)であった。「現在受けている日本語での授 業でも相当負担が大きいため」「あまりアジア進出に興味がないから」「他の履修予定のプロ グラムがあるから」(2名)「グローバル人材という肩書を得ることに必要性を感じない」「英 語が苦手なので、あまり自信がありません」「興味がない」。
質問3「する」と回答した者に、特に改善を望むことを3つ(全体で31の回答数があっ た)選んでもらった結果は図3の通りであった。すなわち、「留学機会・教育の改善(留学 に興味をもつ機会が増える、魅力的な留学先が増える等)」(7回答数があり、全体の22.5%)
と「就活での効果の可視化(就活の役に立つことが測定・可視化される等)」(7回答数で 22.5%)で同数、その次に「カリキュラムの改善(授業を取りやすいコマに配置する、修 了単位数を15単位よりも少なくする等)」(5回答数で16.1%)、「アジア交流機会・教育の改 善(アジアの言語が学べる、留学生と関わる機会が増える、アジアに興味を持つ機会が増 える等)」(4回答数で12.9%)と「英語による授業の提供方法の改善(英語で授業を受ける ためのトレーニングの機会がある等)」(4回答数で12.9%)で同数、最後に「学修成果の可 視化(履修登録するとどのような能力が身につくかが測定・可視化される等)」(2回答数で 6.4%)と「広報や情報の利用しやすさの改善(説明会の機会が増える、プログラム内容や 履修登録に関する情報利用がしやすくなる等)」(2回答数で6.4%)で同数、といった順と なっている。
4.2 履修登録した理由
◦アンケート調査の概要
1)目的:今後の改善が「改悪」(現状よりも履修登録者数が減ってしまう)にならぬよう、
履修登録している学生が履修登録した理由を把握することである。
2)対象者:アジア・グローバル特別教育プログラムに履修登録している学生69名(1年 生31名、2年生13名、3年生11名、4年生14名)。
6.4
16.1 12.9
22.5 6.4
22.5 12.9
0 5 10 15 20 25
⑦広報や情報の利用しやすさの改善
⑥カリキュラムの改善
⑤英語による授業の提供方法の改善
④就活での効果の可視化
③学修成果の可視化
②留学機会・教育の改善
①アジア交流機会・教育の改善 (%)
図3 現在履修登録していない者が特に改善を望むこと(3つ選択)
3)実施年月日:2020(令和2)年10月29日〜2020(令和2)年11月9日
4)実施方法:アンケート(Google Form)を個別メールで送り、回答を得た。24名から 回答(すべて有効回答)があり、回収率は34.7%であった。
5)質問項目:質問項目の選定は、問題分析のために副専攻WGメンバーの教員が指摘し たABP副専攻の問題点から33項目を抽出した。回答方法は5件法(5.とてもそう思う、
4.ややそう思う、3.どちらとも言えない、2.あまり思わない、1.全く思わない)を 採用した。さらに履修登録したその他の理由や本プログラムから得たいこと、その他コメ ントなどを書けるよう自由記述欄を設けた。
◦アンケート結果
表5が履修登録した理由(33項目)について、「5.とてもそう思う」を5点、「4.やや そう思う」を4点、「3.どちらとも言えない」を3点、「2.あまり思わない」を2点、「1.
全く思わない」を1点として点数化し、各項目の平均値を算出した結果である。平均値の 平均値は3.309である。
表5:履修登録した理由(5件法を点数化した平均値) (点)
1 英語力を高めたいから 4.875
2 英語で授業を受けたいから 4.541
2 自分の武器(強み、稀少価値)になるスキルを身に着けたいから 4.541
2 大学でしか得られない経験をしたいから 4.541
3 異文化に興味があるから 4.416
4 英語で授業を受けることが海外留学するための準備になると思うから 4.375
5 留学生と一緒に授業を受けたいから 4.25
6 他の人とは違う経験がしたいから 4.125
7 英語を使うことが好きだから 4.083
8 目指す人材像に魅力を感じたから 4.041
8 東南アジアの留学生と交流したいから 4.041
9 海外志向のある学友と出会いたいから 4
9 自分を変えたいから 4
9 自分の将来の進路のヒントを得たいから 4
10 自分の専門分野(学部学科)以外にも学びたいから 3.875
10 就活で企業から評価されると思うから 3.833
10 外国人の先生の英語の授業を受けたいから 3.833
12 東南アジアに行ってみたいから 3.708
13 将来海外で働きたいから 3.625
14 説明会に参加して興味をもったから 3.583
14 アジアに関心があったから 3.583
14 他学部・他学科の学生と一緒に学びたいから 3.583
15 修了証書がほしいから 3.541
16 取りたい授業があったから 3.5
17 入りたい会社に海外支店が多いから 2.875
18 時間割をなるべくぎっしり詰めたいから(沢山の授業を受けたいから) 2.714
19 他の特別教育プログラムに興味がないから 2.041
20 大学入学以前から興味をもっていたから 1.916
21 先生に勧められたから 1.666
22 友人に勧められたから 1.5
5. 考察
以上の結果に基づき、教員による分析結果から抽出された7つの改善アプローチそれぞ れについて、もしそれぞれのアプローチを選択した場合、2つの学生グループ(A群:履 修登録していない学生グループ、B群:履修登録している学生グループ)に対してそれぞ れどのような効果が期待できるかについて若干の考察を加えた。またその概要を表6に示 した。
表6:アプローチの選択と期待される効果
① アジア交流機会・教育の改善(アジアの言語が学べる、留学生と関わる機会が増え る、アジアに興味を持つ機会が増える等)アプローチを選択した場合、図3では「特に改 善を望むこと」(7項目の中から3つを選択。以下同様)としては中位に位置しているため、
履修登録をしていない学生グループ(A群)からの新規履修登録者増加への効果は限定的 であることが示唆される。一方、表5では履修登録した理由(以下、同様)として、「異文 化に興味があるから」が3番目、「留学生と一緒に授業を受けたいから」が5番目、「東南ア ジアの留学生と交流したいから」が8番目というように比較的上位に位置しているため、履 修登録している学生グループ(B群)の満足度を向上させる効果は見込めることが示唆さ れる(11)。
② 留学機会・教育の改善(留学に興味をもつ機会が増える、魅力的な留学先が増える 等)アプローチを選択した場合、図3では最も上位に位置している。同様に、表5では「英 語で授業を受けることが海外留学するための準備になると思うから」が4番目と上位に位 置し、「東南アジアに行ってみたいから」が12番目と「平均値の平均値」を上回っている ため、履修登録をしていない学生グループ(A群)からの新規履修登録者増加への効果も、
履修登録している学生グループ(B群)の満足度向上も見込めることが示唆される。そこ で、例えば、現行の「海外研修」に加えて(現行の「海外企業研修」を残すことが必要な 理由については以下の④で後述する)、東南アジアにおける1か月程度の「短期留学」や将
アプローチの選択 ニーズ 期待される効果
①アジア交流機会・教育
の改善 A群<B群 A群からの新規履修者数増加への効果は限定的。一方、B群の満 足度向上への効果は見込める。
②留学機会・教育の改善 A 群 も B 群
も高い A群からの新規履修登録者数増加への効果も、B群の満足度向上 も見込める。
③学修成果の可視化 A群<B群 新たなB群(B群と似た志向性をもつ学生)の掘り起こしとその 獲得への効果が見込める。
④就活での効果の可視化 A群>B群 A群からの新規履修登録者数増加への効果が見込める。
⑤英語による授業の提供
方法の改善 A群<B群 A群からの新規履修者数増加への効果は限定的。一方、B群の満 足度向上への効果は見込める。
⑥カリキュラム改善 A群>B群 A群からの新規履修登録者数増加への効果が見込める。
⑦広報や情報の利用しや
すさの改善 A 群 も B 群
も低い A群、B群とは違う、本プログラムについてあまり知らない学生 グループを対象として実施すると効果が期待できる。
凡例:履修登録していない学生グループをA群、履修登録している学生グループをB群とした。
来の「長期留学」先への「体験留学」の機会を設けるといったように、これまでよりも「留 学」色を強化することを検討してもよいのかもしれない。
③ 学修成果の可視化(履修登録するとどのような能力が身につくかが測定・可視化さ れる等)アプローチを選択した場合、図3では最も低位に位置しているため、履修登録を していない学生グループ(A群)からの新規履修登録者増加への効果はあまり見込めない ことが示唆される。一方、表5では「自分の武器(強み、稀少価値)になるスキルを身に 着けたいから」が2番目、「目指す人材像に魅力を感じたから」が8番目、「自分を変えたい から」が9番目というように比較的上位に位置しているため、今後、本プログラム開始前 と比べてどのように変化していくかという学修成果がデータで可視化されれば(例えば「自 分の武器(強み、稀少価値)になるスキルを身に着」けられることがデータで示されれば)、
新たなB群(B群と似た志向性をもつ学生)の掘り起しと獲得への効果が見込めるかもし れない(12)。
④ 就活での効果の可視化アプローチ(就活の役に立つことが測定・可視化される等)
を選択した場合、図3では最も上位に位置しているため、履修登録をしていない学生グルー プ(A群)からの新規履修登録者増加への効果は見込めることが示唆される。一方、表5 では「自分の将来の進路のヒントを得たいから」が9番目、「就活で企業から評価されると 思うから」が10番目とさほど上位には位置していない。ただしこれは、本プログラムに履 修登録する時期が、基本的に1年生であり、まだ就活をそれほど意識していないためと思 われる。そのため、ここからは、本プログラムの「海外企業研修」に、これまで以上に多 くの学生に参加してもらい、アジア進出企業やグローバル企業で活躍できる能力について より意識化させることの必要性が改めて示唆されよう。
⑤ 英語による授業の提供方法の改善(英語で授業を受けるためのトレーニングの機会 がある等)アプローチを選択した場合、図3では中位に位置しているため、履修登録をし ていない学生グループ(A群)からの新規履修登録者増加への効果は限定的であることが 示唆される。一方、表5では「英語力を高めたいから」が1番目、「英語で授業を受けたい から」が2番目というように最も上位に位置しているため、履修登録している学生グルー プ(B群)の満足度を向上させる上では最も効果が見込めることが示唆される。
⑥ カリキュラムの改善アプローチ(授業を取りやすいコマに配置する、修了単位数を 15単位よりも少なくする等)を選択した場合、図3では「特に改善を望むこと」として2 番目(1番目として2つが選択されている)と上位に位置しているため、履修登録をして いない学生グループ(A群)からの新規履修登録者増加への効果を見込めることが示唆さ れる。
⑦ 広報や情報の利用しやすさの改善(説明会の機会が増える、プログラム内容や履修 登録に関する情報利用がしやすくなる等)アプローチを選択した場合、図3では「特に改 善を望むこと」としては最も低位に位置している。これは、本アンケート調査対象者の殆 どがすでに本プログラムについて理解している(と思っている)ためと考えられる。した がって、今回の2つの学生グループとは違う、本プログラムについてあまり知らない学生 グループを対象として広報活動を実施したほうがその効果が期待できることが示唆される。
さらにいえば、表5では「説明会に参加して興味をもったから」が14番目、「大学入学以前
から興味をもっていたから」が20番目、「先生に勧められたから」が21番目というように 低位に位置しているため、より魅力的な広報の強化が課題となっていることが示唆される。
6. 今後の課題
本稿では、ABP副専攻(現グローバル・アジア特別教育プログラム)の今後の見直しに 向けて、次の4つの材料を提供した。第1に、過去6年間の基礎データを提示した。第2に、
本プログラムがこれまで「当初目標( 60 人/学年)を達成できていない」理由について PCM手法を援用して分析し、7つの改善アプローチを抽出した。第3に、本プログラムに 履修登録していない学生グループと、履修登録している学生グループを対象としたアンケー ト調査の結果を提示した。第4に、学生を対象としたアンケート結果を基に、7つの改善ア プローチを選択した場合の期待される効果についての見通しを示した。
今後の課題は特に次の3点である。第1に、静岡県におけるアジアを中心とした海外展 開企業からの意見聴取である。プレ調査実施後、新型コロナ感染状況が悪化し、企業のグ ローバル戦略や求めるグローバル人材像が不透明となったため、本調査の実施を見送った。
第 2 に、修了生からの意見聴取である。13 名の修了生に対して個別メールでアンケート
(Google Form)を送ったが、殆ど回答が得られなかった。メールアドレスの再確認および 調査の方法(個別インタビュー等)を再検討する必要がある。第3に、本プログラムと類 似の副専攻を実施している他大学(特にSGUに採択されていない、地方国公立大学)との 比較考察である。まだ網羅的な調査を実施できていないが、管見の限り該当する先行研 究(13)はあまり多くないため、担当者へのヒアリング調査等を実施する必要がある。
注
(1) 令和元年度前期より、グローバル・アジア特別教育プログラム(旧称ABP副専攻)
の教務を担当。
(2) 鈴木滋彦氏は、当時の国際連携推進機構長
(3) 詳細については、(財団法人 国際開発高等教育機構2004)。PCM手法を用いた先行 研究に、(曽篠恭裕・黒田彰紀・宮田昭2018)等がある。
(4) 一般財団法人 国際開発機構(FASID)のPCM手法コース(https://www.fasid.or.jp/
pcm/)。なお左記研修には、計画・立案コースおよびモニタリング・評価コースが あり、本稿ではこのうち計画・立案手法を適用したことになる。
(5) PCM手法における問題分析のステップでは、現状の課題が「原因-結果」の関係で 整理され、問題系図としてまとめられる(曽篠恭裕・黒田彰紀・宮田昭2018:24)。
(6) 目的分析のステップでは、作成した問題系図における「原因-結果」の否定的な表 現を、問題が解決された望ましい状態に書き換えて目的系図を作成する(曽篠恭裕・
黒田彰紀・宮田昭2018:24)。
(7) (略)目的系図では、「手段-目的」の関係で構成された各項目は、一つの目的を持っ た手段のグループを構成し、既にプロジェクトの原型として整理されている。PCM 手法において、これらのグループはプロジェクトの候補として「アプローチ」と呼 ばれている。(曽篠恭裕・黒田彰紀・宮田昭2018:24-26)。
(8) 本アンケート調査は静岡大学人を対象とする研究倫理委員会の審査による承認を得 て実施した。
(9) 大学教育センターが国際連携推進機構と連携して2020年度に新設。シラバスより、
授業の目標は「これまで身につけてきた英語力を基礎とし、留学に必要な知識を身 につける」(静岡。浜松側もほぼ同様)、受講要件は「英語コミュニケーションで中・
上級クラス履修者」である。
(10) 3名は質問3の回答に不備(3つ以上を選択)があったため無効回答とした。
(11) 履修登録者増加と直接関係がないため注に記すが、満足度向上は修了者数増加の促 進要因となりうる。
(12) 学修成果の可視化に関して、国際連携推進機構では、2020年度に、BEVI(http://
jp.thebevi.com/about/)のトライアルを利用して、いくつかのプログラムの効果測 定を試行している。そのうちの1つとして、グローバル・アジア特別教育プログラ ムの新規履修登録者(2020年度入学生)にもBEVIに受検してもらった。
(13) 例えば、(渡邊2015)など。
謝辞 本研究のPCM手法による分析にあたっては、ライアン優子准教授、Deo Vipin Kumar 助教、久部和彦特任教授、藤巻義博特任教授、渡部真理子特任准教授、とりわけ原芳久特 任准教授の助言を得た。
引用文献
財団法人 国際開発高等教育機構(2004)『開発援助のためのプロジェクト・サイクル・マ ネジメント 参加型計画編』
曽篠恭裕・黒田彰紀・宮田昭(2018)「国際赤十字医療救援チームの受入計画策定手法に 関する研究」『自然災害科学 J.JSNDS』37特別号:17-32
鈴木滋彦(2018)「アジアブリッジプログラム-産学連携によるグローバル人材育成の取 組と成果-」『文部科学教育通信』No.428:26-28
比留間洋一・原芳久・藤巻義博(2020)「アジアブリッジプログラム副専攻」『静岡大学国 際連携推進機構紀要』第2号:140-144
渡邊席子(2015)「GCC(グローバル・コミュニケーションコース)からGC(グローバ ル・コミュニケーション)副専攻へ〜2013年度から2014年度にかけての2年間のGCC 試行を振り返る〜」大阪市立大学『大学教育』12(2):7-17